Vol. 68, 5, 研究論文 電気 Ni-P 合金めっき皮膜の電着応力 森河 務 a, 石田幸平 b,c, 中出卓男 a,* a ( 地独 ) 大阪府立産業技術総合研究所 ( 大阪府和泉市あゆみ野 2 7 1) b 野村鍍金 ( 広島県福山市

全文

(1)

電気 Ni - P 合金めっき皮膜の電着応力

森河  務a,石田 幸平b,c,中出 卓男a,*

(地独)大阪府立産業技術総合研究所(〒 594︲1157 大阪府和泉市あゆみ野 2︲7︲1)a b ㈱野村鍍金(〒 729︲0114 広島県福山市柳津町 3︲3︲19)

c 京都大学 大学院エネルギー科学研究科(〒 606︲8501 京都府京都市左京区吉田本町)

Internal Stress of Ni - P Alloy Electroplating Films

Tsutomu MORIKAWA

a

, Kohei ISHIDA

b,c

and Takuo NAKADE

a,*

a Technology Research Institute of Osaka Prefecture(2-7-1, Ayumino, Izumi-shi, Osaka 594-1157)

b Nomura Plating CO., LTD(3-3-19, Yanaizu-cho, Fukuyama-shi, Hiroshima 729-0114)

c Graduate School of Energy Science, Kyoto University(Yoshida-honmachi, Sakyo-ku, Kyoto 606-8501)

Internal stresses of electroplated Ni-P alloys and electrolytic hydrogen charging to the deposits were investigated using a spiral stress contract-meter technique. The current density increased the internal stress of the deposit, but the bath temperature decreased it. Internal stress depends on the P content of the Ni-P alloy deposits. Deposits containing more than about 20 at% P are stressed compressively, whereas those with lower P content undergo tensile stress. Effects of hydrogen penetration into and escape from deposits on the stress of Ni-P alloy deposited spirals were examined in terms of the electrolytic hydrogen charge, which led to classification into two groups. The first group showed great change of stress by the hydrogen charge and showed tensile stress under electrodeposition. The second group showed no change of stress by the hydrogen charge. They show compressive stress that depends on the hydrogen diffusion constant of the deposits. Hydrogen incorpora- tion, its trapping in the deposits, and its subsequent escape under electrodeposition play important roles in the internal stress of Ni-P alloy electrodeposits.

Keywords : Ni-P Alloy Electroplating, Internal Stress, P Content, Electrolytic Hydrogen Charge, Hydrogen Incorporation

1 .緒  言

 近年,超微小レンズや光学シートなどの精密金型や精密部 品などのナノメートル精度の超精密切削加工が進められてお り,加工精度の向上において切削材料の均一性や結晶粒界が 問題視されるようになってきた。Ni-P合金めっきは,P含有 量が高いと非晶質構造をとり,均一で結晶粒界がなくなるこ とから,精密微細加工用の材料として用いられることが増え

ている1)〜3)。この用途でめっき皮膜を活用するには,数百

μm~数mmオーダの厚付けを施すことが要求される。

 非晶質Ni-P合金は,無電解めっきおよび電気めっきのい ずれの方法からも得ることができる。無電解Ni-P合金めっ きは,素材に対して均一な厚さの膜が形成でき,皮膜物性も 安定することから,精密切削加工材料として早くから適用さ れてきた。しかし,その成膜速度は遅く,数mmオーダの 膜を形成するには相当の時間を要するという欠点がある。一 方,電気めっき法でも無電解Ni-Pめっきと同様のP含有量 と類似した物性のものを得ることは可能であり,電流密度を 上げることで成膜速度を著しく高めることができる。しかし,

電気めっきで得られる皮膜は,浴組成,めっき条件,被めっ き物上での電流密度分布,浴変動の影響を受けやすく,安定

した皮膜物性の厚めっきを得にくいという欠点がある。この ため,浴組成やめっき条件4),5),添加剤6),パルス電解7),8),めっ き装置9)の工夫が進められてきている。

 厚めっき皮膜の形成においては,めっき時のマクロな内部 応力をできるだけ小さくする条件下でめっきすることが望ま れる。皮膜の内部応力が大きいと,クラック,ふくれ,剥離 などのめっき欠陥の原因となるほか,靱性や強度の低下,皮 膜の切削性能の低下,素地変形などにも至る。また,合金組 成も重要な因子である2)。無電解Ni-P合金めっきの研究に よれば,皮膜中のP含有量が少ない場合には大きな引張応 力を示すが,P含有量が増加するにつれて応力は減少し,約 9%(16 at%)でゼロとなり,それ以上になると逆に圧縮応力 を示すことが報告されている10)。この傾向は,電気Ni-P合 金めっきでも見られるが,浴組成やめっき条件によって異な る場合も多い8),10),11)〜13)。なお,電気めっきの内部応力は,

皮膜の厚み,浴組成,添加剤,温度,電流密度,かく拌,素 地の種類などの影響を受けるほか,皮膜の合金組成や不純物 の共析にも依存している14),15)。このため工業的に厚いめっ き皮膜を形成するには,マクロな内部応力に及ぼす条件を しっかりと把握しておくことが不可欠である。

 一方,学術面からNi-P合金めっきのマクロな内部応力を 捉えると,P含有量による引張応力から圧縮応力への大きな 変動は,その発生機構を探る点で興味深い。Ni-P合金めっ 研 究 論 文

E-mail : nakade@tri-osaka.jp

(2)

研 究 論 文 きは P含有量が増加するにつれて結晶が微細化し,ナノ結晶,

そして皮膜全体が非晶質構造へ変わる10),16)。内部応力の挙 動も,この構造変化が関係すると考えられる。しかし,マク ロな応力の発生原因を電析時の原子の緩和によって生じる歪 みの蓄積と捉えると,単なる構造変化のみで,引張りから圧 縮へ変わるような大きな変化を説明することは難しい。めっ き皮膜の内部応力の発生機構については,様々なものが提案 されている15)。その中でも引張応力の要因としては,めっ き時に発生する水素の影響が大きい17),18)。電気Ni-P合金めっ きは,析出電流効率が低く,相当量の水素発生を伴って成膜 が進むことから,電析時の水素の共析が内部応力に影響する ことは十分に考えられる。したがって,応力制御したNi-P 合金めっき膜を製作するには,水素の応力への影響を捉えて おく必要がある。

 本稿では,電気Ni-P合金めっきのマクロな電着応力に及 ぼすめっき条件の影響を明らかにするとともに,内部応力に 及ぼす水素の影響について検討した。

2 .実験方法  2.1 めっき液およびめっき方法

 電気Ni-P合金めっきの標準浴組成は,硫酸ニッケル 6 水 和 物 0.2 mol/L, 塩 化 ニ ッ ケ ル 6 水 和 物 0.1 mol/L, ホ ウ 酸 0.5 mol/L,亜リン酸 0.2 mol/Lを基本浴とした。めっき液の pHは,水酸化ナトリウム 1 mol/L溶液ならびに約 9 mol/L硫 酸溶液を用いて 1.9 に調整した。薬品には,いずれも特級試 薬を用いた。

 めっき応力測定では,電解槽にビーカーを用い,液量は 3 Lとした。ビーカーを恒温槽中に保持し,設定温度± 1 ℃ に維持するとともに,マグネチックスターラにより緩やかに めっき液を撹拌した。めっき時の電解パラメータとしては,

電流密度 2,6,10 A/dm2および浴温 40,55,70 ℃とした。

 2.2 電着応力および析出電流効率の測定

 電着応力の測定には,スパイラル鍍金応力計(㈱山本鍍金 試験器製)を用いた。各試験片の計器定数は,取扱説明書の 手順19)に従って求めた。めっき時の応力値は,めっき前後 の重量変化ならびに計器定数,メーター角度から計算した。

 応力測定用試験片としては,裏面をテフロンコーティング したステンレス製スパイラル(㈱山本鍍金試験器製,厚さ 0.2 mm,面積 0.5 dm2)を用いた。また,陽極には電解ニッケ ル板(有効面 50 mm× 160 mm×厚さ 2 mm)をアノードバッ クに収容し,試験片に対して均一となるよう壁側の 4 箇所に 配置した。めっきの前処理としては,電解脱脂(3 A/dm2, 60 ℃,約 30 秒間),水洗,酸活性(塩酸 200 mL/L,室温,約 30 秒間)後,ウッドニッケル浴中でストライクニッケルめっ き(電流密度 5 A/dm2,約 30 秒間)を行った。ストライクめっ き後,試験片を水洗し,めっき浴へ投入し,液中で 5 分間放 置した後にコントラクトメータのゼロ点調整を行い,めっき を開始し,コントラクトメータ値の変化を記録した。なお,

めっき終了後の応力変化を調べるため,通電終了後の 15 分 間についても記録した。

 めっき皮膜のP含有量については,エネルギー分散型X 線分析装置(フィリップス製EDAX9900 型)によるZAF分析

で求めた。Ni-P合金めっき析出の電流効率は,めっき前後 の重量変化およびP含有量に基づいて計算で求めた。

 2.3 電解チャージによる水素の侵入脱離が応力に 及ぼす影響

 Ni-P合金めっき皮膜における水素の侵入および脱離時の 応力挙動については,Ni-P合金めっきしたスパイラル試料 に対して水素を電解チャージすることで,水素の侵入および 水素の引き抜き過程での応力変化により評価した。電解 チャージには,1 mol/L水酸化ナトリウム溶液を用い,液温 40 ℃,白金陽極チタン板,カソード電流密度 1 A/dm2,電解 時間 10 分間の条件とした。また,電解チャージ後の水素の 引き抜きは,電流を切断した後,ポテンシオスタットにて試 験片を電極電位 0 V vs. Ag/AgCl(+ 0.199 vs. SHE)に保持し,

水素を酸化することで行った。酸化電位は,アルカリ溶液中 で金属から放出される水素を十分に酸化できる電位であるこ と,Ni-P合金が溶けない電位であること(過不動態化も起こ らない)を踏まえ,0 Vに設定した。この際,水素の酸化アノー ド電流も計測した。水素の侵入脱離における応力変化は,めっ きした試料について測定液中でコントラクトメータをゼロ点 に調整した後に一連の操作を行い,そのコントラクトメータ の角度変化に基づいて応力値を算出した。

3 .結果と考察

 3.1 めっき条件がP含有量,電流効率に及ぼす影響  電着応力測定実験で作製したNi-P合金めっき皮膜の膜厚,

析出の電流効率ならびにP含有量を表 1に示す。本実験条 件 で 得 ら れ たNi-P合 金 め っ き 皮 膜 のP含 有 量 は 9.9 ~ 25.4 at%の範囲で変化した。同一温度においては,Ni-P合金 めっき皮膜の析出電流効率は,電流密度が増加するにつれて 高くなった。一方,皮膜中のP含有量は逆に低下する傾向 にあった。同一電流密度においては,浴温を高くするとP含 有量は高くなる傾向が見られた。一般に電気Ni-P合金めっ きでは,皮膜中のP含有量が高くなると電流効率は低減す る5),9),20),27)。温度条件の検討から浴温を高く設定することに より,P含有量の増加に対して電流効率が改善できることが わかった。70 ℃では,全ての電流密度でP含有量は 20 at%

以上の皮膜が得られた。めっき条件が及ぼすP含有量およ び電流効率に及ぼす傾向は,過去の報告5),9),20)に概ね一致し ていた。

 3.2 Ni-P合金めっき時の応力変化

 めっき成膜時における応力変化を図 1に示す。浴温 40 ℃ では,めっきの電流密度が高いものほど,引張応力が高くなっ た。また,引張応力を示したものは,膜厚が増加するにつれ て,さらに引張り側に応力が増加していく傾向もみられた。

一方,低電流密度の 2 A/dm2で作製した圧縮応力を有する皮 膜は,膜厚が増えるにつれてわずかに圧縮応力側へ増加した。

浴温 55 ℃で作製したものは,40 ℃に比べると引張応力は小 さくなり,6 A/dm2以下で圧縮応力を示した。圧縮応力を示 したものは,膜厚の増加につれて,圧縮応力側へわずかに増 加した。10 A/dm2で作製したものは,めっき初期の応力はゼ ロに近いが,厚みが増加するにつれて引張応力となり,膜厚 の増加につれて増大した。浴温 70 ℃では,全ての皮膜が圧

(3)

電気Ni-P合金めっき皮膜の電着応力

縮応力を示した。これらの皮膜は,膜厚の増加につれて圧縮 応力側へわずかに増加した。

 めっきにおいては,成膜の電流を遮断した後も電着応力が 変化することが多い15)。そこで,めっき終了後における電 気Ni-P合金めっきの応力変化を調べた。図 2に電流遮断後 の応力の経時変化を示す。電流遮断直後の応力変化は大きい が,15 分間程度で概ね一定となった。電流遮断後の応力は,

引張り側へ増加する傾向がみられた。この傾向は,大きな引 張応力を示した皮膜ほど増加量は大きくなった。一方,圧縮 応力を示した皮膜では,電流遮断後の応力変化はわずかで あった。

 3.3 めっき条件が及ぼす電着応力への影響

 電流密度がめっき皮膜の応力に及ぼす影響を図 3に,浴温 が応力に及ぼす影響を図 4に示す。各図の上部側には,皮膜 中のP含有量に対する影響も示した。浴温が 40 ℃と低い場 合には,電流密度による応力への影響が大きく,電流密度が

高くなるにつれて引張応力となった。しかし,浴温 55 ℃では,

応力に及ぼす電流密度の影響は小さくなり,70 ℃では影響 がなくなり(図 4),全ての皮膜が圧縮応力を示した。

 電着速度ならびにめっきの電流効率が,めっき皮膜の内部 応力に及ぼす影響を検討したが,それらには明瞭な相関性は 認められなかった。一方,皮膜中のP含有量が応力に及ぼ す影響については,図 5に示すとおり,P含有量の増加とと もに引張応力が低下する傾向が認められた。本実験条件では,

P含有量が約 20 at%を境界として引張り側から圧縮側へ変 化した。この傾向は,電気Ni-P合金めっき8),10),11)〜13),無電解

Temperature(℃) 40 55 70

Current Density(A/dm2 2 4 6 10 2 4 6 10 2 4 6 10

Time(min) 90 40 30 10 90 40 30 10 80 40 30 10

Thikness(μm) 6.1 20.2 21.9 13.4 6.3 15.2 19.3 14.2 11.8 12.1 16.2 12.8

Current Efficiency(%) 22.8 78.9 69.1 74.2 24.0 61.5 69.2 85.3 45.0 51.4 56.5 83.8

P content(at%) 23.9 18.3 11.5 9.9 25.4 20.9 20.4 15.5 25.3 24.7 23.0 21.8

Table 1  Operation conditions and the thickness, cathode efficiency and P content of Ni-P alloy deposits.

0.1 1 10

70℃

0.1 1 10

Thickness (μm) 55℃

-10 0 10 20 30

0.1 1 10

Stress (kgf/mm2)

40℃

△10 A/dm2

6 A/dm2

4 A/dm2

2 A/dm2

Fig. 1 Change of internal stress by Ni-P deposit thickness.

0 5 10 15

70℃

Time (min)

0 5 10 15

55℃

-10 0 10 20 30

0 5 10 15

Stress (kgf/mm2)

40℃

40℃

△10 A/dm2

6 A/dm2

4 A/dm2

2 A/dm2

Fig. 2 Change with time of internal stress after electroplating.

0 10 20 30

0 5 10

P content (at%)

-10 0 10 20 30

0 5 10

Stress (kgf/cm2)

Current Density (A/dm2)

□70℃

○55℃

●40℃

Fig. 3  Effect of the current density on internal stress and P content of Ni-P deposits.

0 10 20 30

30 40 50 60 70 80

P content (at%)

-10 0 10 20 30

30 40 50 60 70 80

Stress (kgf/cm2)

Temperature (℃)

△10 A/dm2

6 A/dm2

4 A/dm2

2 A/dm2

Fig. 4  Effect of the bath temperature on internal stress and P content of Ni-P deposits.

(4)

研 究 論 文 Ni-P合金めっき10)での内部応力の傾向に概ね一致している。

 Ni-P合金めっきの応力要因としては水素の共析が考えら れる。このため,めっき時に発生する水素発生率に相当する 部分電流密度(印加した電流密度×水素発生の電流効率)が及 ぼす応力への影響について検討した。その結果を図 6に示す。

40 ℃で作製した引張応力が高い皮膜では,水素発生が増加 するにつれて引張応力が大きくなった。一方,圧縮応力を示 した皮膜は水素発生が増加すると圧縮応力側にわずかに増加 する傾向が見られた。

 3.4 めっき試料への水素侵入脱離による応力挙動  ニッケルめっき皮膜における応力発生の原因として,皮膜 への水素の共析と脱離が関係することが報告されている14),15)。 ここでは,種々のめっき条件で成膜した電気 Ni-P合金めっ き皮膜に対して電解に水素チャージ(以下,電解チャージと 記す)を行い,水素のめっき皮膜への侵入脱離における応力 挙動について検討した。

 図 7に,めっきを施したスパイラル試料に対して電解 チャージでの水素侵入および電流遮断後の水素引き抜きでの 応力変化を示す。電解チャージを行うと応力は負側(圧縮側)

に変化した。これは,水素原子がめっき皮膜中へ侵入し,原 子間隔を広げ,それがマクロな圧縮応力となって現れたこと

による。

 10 分間のチャージ電流の遮断後,電極電位を 0 V vs. Ag/

AgClに設定し,水素を酸化することで皮膜中から水素を引 き抜いた。この場合には,水素が脱離することで原子間隔が 収縮し,圧縮応力が緩和される。引き抜き時の応力は,水素 原子の侵入と対象的な挙動を示したが,一部のものは水素の 脱離が遅れ,応力が元に戻りにくいものもみられた。

 めっき析出時に大きな引張応力を示した試料では,電解 チャージによって大きな変化が現れており,これらの皮膜中 では水素拡散が容易であることがわかる。一方,めっき時に 圧縮応力を示した試料では,電解チャージしても圧縮応力側 には増加せず,逆に引張り側にわずかに増えた。

 電解チャージにおける水素侵入時の応力変化とめっき皮膜 中のP含有量の関係を図 8に示す。P含有量が 20 at%を境 として,水素の侵入による応力変化の挙動が大きく異なる。

松岡ら21)は,無電解Ni-P合金めっき皮膜の水素透過性を調べ,

皮膜中のP含有量が約 11 wt%(19 at%)を超えると水素の拡 散係数が急激に低下することを報告している。これを踏まえ ると,電気Ni-P合金めっき皮膜もP含有量が 20 at%を超え た皮膜では,水素の拡散係数が著しく小さくなり,拡散が起 こりにくい状態にあると考えられる。

-10 0 10 20 30

0 10 20 30

Stress (kgf/cm2)

P content (at%)

pH 1.9 □70℃

○55℃

●40℃

Fig. 5 Relationship between internal stress and P content of Ni-P deposits.

-10 0 10 20 30

0 1 2 3

Stress (kgf/cm2)

□70℃

○55℃

●40℃

Partial Current Density of Hydrogen (A/dm2) Fig. 6  Relationship between internal stress of Ni-P deposits and hydrogen

gas amount during electroplating.

-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2

0 5 10 15 20 -5

-4 -3 -2 -1 0 1 2

0 5 10 15 20 Time (min) -5

-4 -3 -2 -1 0 1 2

0 5 10 15 20 Stress (kgf/cm2)

40℃ 55℃ 70℃

△10 A/dm2

6 A/dm2

4 A/dm2

2 A/dm2

Fig. 7  Stress change of Ni-P alloy deposits during cathodic charging and anodic oxidation of hydrogen.

-3 -2 -1 0 1

0 10 20 30

∆ Stress (kgf/cm

2

)

P content (at%)

□70℃

○55℃

●40℃

Fig. 8  Relationship of stress change at cathode charging and P content of Ni-P deposits.

(5)

電気Ni-P合金めっき皮膜の電着応力  電解チャージ終了後の水素の脱離に伴う酸化電流の経時変

化を図 9に示す。酸化電流は急激に低下し,約 1 分後からは 穏やかに低下した。切断後 1 分以降の酸化電流の停滞電流値 は,約 100 μA/cm2のグループAと 50 μA/cm2以下のグルー プBに区別できる。前者は,電解チャージ時の応力変化が 大きかったグループであり,後者は電解チャージ時において 応力変化をほとんど示さなかったグループである。

 水素の引抜きの 5 分間に流れた積算電気量と応力変化の関 係を図 10に示す。グループAは 1 C以上の電気量を示し,

電解チャージで相当量の水素がめっき皮膜へ拡散したことを 示しており,水素侵入が応力要因となったことは明らかであ る。一方,グループBでは,酸化の電気量は著しく小さく,

応力との間には明確な相関は認められなかった。なお,これ らの皮膜は,電流遮断後に酸化電流が急激に低下したことか ら,極表面にしか水素が侵入できなかったことを示している。

 3.5 電気Ni-P合金めっきにおける応力形成

 めっき皮膜における内部応力の形成については,素地金属 とめっき膜との結晶の不整合,結晶成長における原子の組み 込みに由来することなどが考えられてきた15)。Weil22)は,後 者の応力について注目し,その機構を結晶接合,水素,共析 不純物,過剰エネルギー,格子欠陥に分類している。Ni-P 合金めっきにおける応力挙動は,めっき浴組成,めっき条件,

電流操作で変化することから,多くの研究者の興味を引いて

きた4),9),10)〜14)。これらの研究をまとめると,皮膜中のP含

有量が低い場合には高い引張応力を示すが,P含有量が増え るにつれて応力が低下し,約 8 ~ 9 wt%(14 ~ 16 at%)でゼ ロとなり,それ以上になると逆に圧縮応力となる。我々の結 果も概ね同様の傾向にある。

 電気Ni-P合金めっきでの引張応力の発生については,成 膜時の水素に起因すると考えることができる。しかし,圧縮 応力については不明な点が未だに多い。Ni-P合金めっきでは,

P含有量が増加すると結晶性が失われ非晶質構造に変化する ので,この構造変化が電着応力の変化を起こしたと考えられ てきた10),13)。電析時における金属原子が積層される瞬間を 考えると,内部応力は,金属イオンが還元され原子となり,

格子に組み込まれ膜になっていく際の緩和で生じた歪みと考 えることができる。この点を踏まえると結晶構造の変化だけ で,応力の連続的な変化を説明することは難しい。

 ここでは,電気Ni-P合金めっきにおける応力実験結果を 整理し,応力発生に及ぼす水素の影響について考察してみる。

めっき時における応力挙動の結果は以下の通りであった。

①めっき時に引張応力を示したものは,膜厚が増すにつれ て引張り側に大きくなった。一方,めっき時に圧縮応力 を示したものは,膜厚が増すにつれてわずかに圧縮側に 大きくなった。

②めっき終了後の応力は,引張り側に増える傾向がある。

電流遮断後の応力変化は,引張応力を示した皮膜では大 きく,圧縮応力を示したものはわずかであった。

③めっき皮膜の応力は,P含有量が少ないと引張応力であ るが,P含有量が増加するにつれて低下し,約 20 at%

を超えると圧縮応力を示した。

 一方,電解チャージによる水素原子の侵入脱離による応力 挙動の結果は以下のとおりであった。

④Ni-P合金めっき皮膜への電解チャージによる水素原子 のめっき皮膜の侵入脱離の実験では,Ni-P合金めっき 皮膜に水素が侵入すると原子間隔が広げられ圧縮応力を 示す。また,水素が皮膜から脱離すると応力緩和となる。

水素の侵入脱離を起こす皮膜では,それによる応力の可 逆性も認められた。

⑤電解チャージでの水素侵入による応力変化は,めっき時 に引張応力を示した皮膜で大きかった。一方,めっき時 に圧縮応力を示した皮膜では,電解チャージによる圧縮 応力への変化は示さず,逆に引張り側に変化した。

⑥電解チャージにおける応力変化は,P含有量が約 20 at%

を境として 2 つのグループに分けられた。それらは,めっ き時に引張応力を示したグループAと圧縮応力を示し たグループBであった。

⑦水素脱離の酸化電気量は,めっき時に引張応力を示した グループAでは,脱離時の応力変化と相関が見られた。

一方,めっき時に圧縮応力を示したグループBでは応 力変化との相関は認められなかった。

 電気Ni-P合金めっきにおける水素共析による応力発生メ カニズムを図 11にモデル的に示す。モデルは結晶状態(a)と 非晶質状態(b)に区別している。Niめっき皮膜における応力 は,積層時に一時的に共析した水素が脱離し,これが引張応

0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 5

Time (min) 10

100 1000

0 1 2 3 4 5 I (μA/cm2)

△10 A/dm2

6 A/dm2

4 A/dm2

2 A/dm2

40℃ 55℃ 70℃

Fig. 9 Change with time of the current by anode oxidation of hydrogen.

0 1 2

0 1 2

∆Stress(kgf/cm)

I (C)

□70℃

○55℃

●40℃

Group B

Group A

Fig. 10  Relationship between internal stress of Ni-P deposits and partial current density of hydrogen during electroplating.

(6)

研 究 論 文 力をもたらすと考えられている17),18)。電気Ni-P合金めっき

過程では,めっき時に相当の水素発生があり,積層の瞬間で は水素が一時的に共析するであろう(図 11の①)。P含有量 が低い場合には,めっき皮膜は結晶状態を主体としており

図 11(a)),ニッケル結晶内の水素の拡散速度が速いため,

積層の瞬間に共析した水素原子は水素原子濃度が低い電極表 面へと容易に拡散することができ(図 11の②),最終的に水 素分子を形成して表面から脱離する(図 11の③)。この水素 の脱離は,ニッケル格子間隔を縮め,これが歪みとなって蓄 積され,マクロな引張応力となる。一方,P含有量が増加す ると結晶性が失われ,皮膜全体が非晶質化する。この状態

図 11(b))での水素の拡散速度は著しく遅く21),内面に取 り込まれた水素の拡散は困難となる。また,P含有量が高く なると析出電流効率は低下し,電極表面の水素原子濃度も増 加する。このため積層の瞬間では共析した水素は,電極表面 へ拡散することができず,大部分が格子内にトラップされた ままとなる(図 11の④)。これが原子間の歪みを生み出し,

圧縮応力となって現れる。なお,図 2に示したように,めっ き後の応力変化では,圧縮応力を示した皮膜でもわずかなが ら引張り側へシフトが見られ,また電解チャージにおいても 圧縮応力を示したグループBも引張り側へのわずかなシフ トが見られたことから,非晶質状態にトラップされた水素は 過飽和な状況にあり,水素はめっき後にゆっくりと拡散し,

わずかながら離脱していくと考えられる。

 近年,めっき皮膜中の水素が注目されており,その分析法 として昇温脱離分析(TDS)が行われている。電気Ni-P合金 めっきのTDS分析では,低温側で脱離しやすい水素と高温 側で脱離する水素が認められている23)〜25)。また,P含有量 が約 15 at%を超えると皮膜中の水素共析量が著しく増加す ることも報告されている25)。TDSなどによる水素の分析結 果を踏まえると,めっき膜中の水素は移動度が違う幾つかの 状態が存在すると考えられる。Zellerらは,高いP含有量の 電気Ni-P合金めっきを 102 ℃でアニーリング処理すると水 素が脱離し,めっき皮膜の延性が改善することも報告してい る23)。また,無電解Ni-P合金めっきを 190 ℃で熱処理した

場合,圧縮応力を示した皮膜が引張応力側へシフトすること がまとめられており26),水素の脱離が応力変化に影響する ことは明らかである。

 以上のことから,電気Ni-P合金めっき膜における電着応 力の発生は,NiおよびP原子の積層時における水素の一時 的な共析とその拡散,脱離,トラップが要因となっていると 推定できた。

4 .結  言

 電気Ni-P合金めっきにおける応力変化ならびに応力挙動 への水素の影響について検討した。

 浴温 40 ℃では,電流密度が高いほど,めっき皮膜の引張 応力は高くなった。浴温 55 ℃では,40 ℃に比べ引張応力は 小さくなり,6 A/dm2以下では圧縮応力となった。10 A/dm2 のものは,めっき初期では応力は 0 を示したが,めっき膜厚 が増加するにつれて引張応力となり,膜厚の増加とともに増 大した。浴温 70 ℃では,全ての電流密度の皮膜が圧縮応力 を示し,膜厚の増加につれて圧縮側へわずかに増加する傾向 を示した。

 P含有量が低い場合には,大きな引張応力であるが,P含 有量が高くなるにつれて低下し,20 at%を超えると圧縮応 力となった。応力のめっき厚さ依存性は,引張応力を示した ものは厚みが増えると引張り側に増大したが,圧縮応力を示 したものは,逆に圧縮側へ増加した。なお,電着終了後の応 力はいずれも引張り側にシフトする傾向があった。

 内部応力に及ぼす水素の影響を把握するため,電気Ni-P 合金めっき皮膜に電解チャージし,水素の侵入脱離について 検討した。その結果,めっき時に引張応力を示したものでは,

水素の侵入脱離における応力変化が大きく,その可逆性が認 められた。また,水素引き抜き時の酸化電流は応力変化に対 応していた。一方,圧縮応力を示したものは,水素チャージ による応力変化は,ほとんど認められず,めっき膜へ水素は,

ほとんど拡散しなかった。

 電気Ni-P合金めっきにおける応力発生は,水素の一時的 な共析と脱離が関係していると考えられた。引張応力は,積 層時に共析した水素が電極表面へ容易に拡散し,その歪みか ら生じる。一方,圧縮応力はP含有量が増加し皮膜全体が アモルファス構造となることで,共析した水素が電極表面へ 拡散されず,格子にトラップされることで生じると推定された。

(Received November 7, 2016 ; Accepted February 3, 2017)

非SI単位のSI単位に対する換算表

単位記号 SI単位に対する換算表

応力 kgf/cm2 1 kgf/cm2= 0.098 MPa

文  献

₁ )H. Suzuki ; J. Jpn. Soc. Precis. Eng., 52, 2008(1986).

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(2008).

₅ )T. Morikawa, T. Nakade, M. Yokoi, Y. Fukumoto, C. Iwakura ; Codeposit

H2 Gas Adsorb

(b) Amorphous (P cont. >20 at%) (a) Crystal

(P cont. <20 at%)

: Diffusible hydrogen : Trapped hydrogen

: Crystal Ni-P : Amorphous Ni-P Eliminate

Desorb

Trapped Diffusible

Hydrogen

Fig. 11  Schematic image of the internal stress of Ni-P electroplating by the diffusion of co-deposited hydrogen to the surface.(a)the crystal state, and(b)amorphous state.

(7)

電気Ni-P合金めっき皮膜の電着応力 Electrochim. Acta, 42, No. 1, 115(1997).

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参照

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