1 Mater. Trans.53(2012) 565570 に掲載
2 大阪大学大学院生 (Graduate Student, Osaka University) 3 Corresponding author, Email: nakano@mat.eng.osakau.ac.jp
人工股関節置換後にチタン基インプラントより生じた
応力遮蔽にともなうヒト大腿骨の骨損失および骨質劣化
1
野 山 義 裕
1,2,
2三 浦 拓 也
1,
2石 本 卓 也
1池 尾 直 子
1,
2新 家 光 雄
3中 野 貴 由
1,
3 1大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻 2ナカシマメディカル株式会社開発部 3東北大学金属材料研究所物質創製研究部生体材料学研究部門 J. Japan Inst. Metals, Vol. 76, No. 7(2012), pp. 468473 2012 The Japan Institute of Metals
Bone Loss and Degradation of Bone Quality in the Human Femur after Total Hip Arthroplasty under StressShielding by TitaniumBased Implant
Yoshihiro Noyama1,2,2, Takuya Miura1,2, Takuya Ishimoto1,
Naoko Ikeo1,2, Mitsuo Niinomi3and Takayoshi Nakano1,3
1Division of Materials and Manufacturing Science, Graduate School of Engineering, Osaka University, Suita 5650871 2Department of Research and Development Division, Nakashima Medical Co., Ltd., Okayama 7090625
3Department of BioMaterials Science, Materials Development Division, Institute for Materials Research, Tohoku University, Sendai 9808577
The present work was aimed at understanding the stressshielding caused by hipjoint implantation into a femur by using a human cadaver with a cementless hip implant. In particular, bone quality was assessed from the standpoint of preferential caxis orientation of biological apatite (BAp). Comparing the implanted side to the nonimplanted side, a finite element analysis (FEA) indicated that artificial hipjoint implantation had a significant stressshielding on the femur. The results also showed a remarka-ble decrease in the degree of preferential BAp orientation as well as bone loss in Haversial canal in the medialproximal femur. This is the first report showing a reduction in the degree of preferential BAp orientation due to a stressshielding after artificial hipjoint implantation. Since preferential BAp orientation is an important parameter for determining bone mechanical function, these findings should be taken into account in future artificial hipjoint designs, especially those involving the stem component.
(Received February 15, 2012; Accepted April 10, 2012; Published July 1, 2012)
Keywords: titanium, total hip arthroplasty, stressshielding, biological apatite (BAp), Haversial canal, preferential orientation, bone quality, finite element analysis (FEA)
1. 緒 言
人工股関節置換術(Total Hip Replacement: THR)は,変 形性関節症や関節リウマチなどの重度の骨・関節疾患によっ て失われた股関節機能の再建のために不可欠な整形外科技術 の一つである.THR の施術件数は世界的に年々増加してお り,US では 2006 年の THR 施術数は 231,000 件に達して いる1).一方で,人工股関節の埋入によって,周囲大腿骨の 骨吸収により骨強度が低下し,その結果として,骨折が高い 確率で生じている2).この根拠の一つとして,US における 人工股関節の大腿骨ステム再置換術の 18.7が人工関節周 囲骨折を要因としている3).すなわち,股関節機能の再建の ために導入したインプラントが,逆に周囲骨機能自体の劣 化・喪失を招くことが重大な問題となっている.こうした人 工関節周囲骨折は,応力遮蔽による骨損失が主たる原因であ ると考えられている4).ここで応力遮蔽とは,応力がヤング 率の高いインプラントに優先的に負荷され,周囲骨への正常 な応力伝達が阻害される現象を指す.この応力遮蔽を低減す るような人工股関節の開発が,材質特性,構造特性,表面処 理といった観点から多数行われている2)が,こうした研究の
ほとんどが,骨量もしくは骨密度(Bone Mineral Density:
BMD)の損失抑制を指標としている. 一方,骨折リスクと直接関連する骨の力学的機能は,骨量, BMD に加えて骨質によって支配される5).骨質とは,骨量, BMD 以外の,骨の力学的機能の寄与因子を指すが,インプ ラントの埋入による応力遮蔽を議論した論文では,骨質はほ とんど注目されてはいない.そこで我々は,骨質の一つとし て,生体アパタイト(Biological Apatite: BAp)結晶の c 軸優
先配向性に着目している.BAp の異方的な力学特性6)に基づ
Fig. 1 (a) Schematic diagram of sample preparation from the proximal region of a human femur. (b) Analyzed region in a crosssection excised from the femur (zones 2 and 6) as shown in Fig. 1 (a). The Gruen zones are also drawn in this figure.
Fig. 2 Anteroposterior projection Xray radiographs of a human femur (a) without and (b) with an artificial hip joint.
されており7),さらには,BAp の c 軸優先配向は骨に負荷す る主応力に沿って構築される8).例えば,サルやビーグル犬 の下顎骨の皮質骨部では,BAp の c 軸は基本的には近遠心 に一軸配向しているが,咀嚼荷重を受ける歯牙・歯根近傍で は配向方向が咀嚼方向へと変化する8,9).すなわち,BAp の 優先配向性は,インプラントの埋入による応力遮蔽の評価指 標として有効であるだけでなく,骨の力学的機能や人工股関 節周囲の大腿骨の骨折リスクを予測する上で極めて重要な骨 質指標となり得る.こうした中,家兎脛骨の骨髄への髄内釘 挿入が脛骨の皮質骨の BAp 優先配向性を低下する可能性が 報告されている10)が,実際の臨床例における,人工股関節 埋入による応力遮蔽が周囲大腿骨での BAp 配向性に与える 影響についての知見は,著者らの知る限りない. 応力遮蔽による骨損失には,部位依存性があることが報告 されている.Gruen 分類11)を基準とすると,zone 1, 2, 6, 7 といった近位部において,他の部位よりも大きな骨損失が生 じる傾向が報告されている(Fig. 1(a)参照)12,13).中でも, 近位内側部に位置する zone 6, 7(zone 7 の方がより近位部) は,セメントレス型人工股関節骨間の固定のための重要部 位であり14),この部位での適切な応力伝達が,応力遮蔽の 防止に対して有効である.すなわち,人工股関節を適用した 大腿骨の内側近位部は,応力遮蔽が BAp 配向性に与える影 響の解明に最も適した部位であるといえる. 以上から本研究では,Ti 合金製人工股関節を適用された ヒト献体の大腿骨の内側近位部に注目し,人工股関節埋入に よる応力遮蔽を予測するとともに,骨量および骨質としての BAp配向性に対する応力遮蔽の影響について解明すること を目的とした. 2. 実 験 方 法 2.1 骨試料 80 歳男性の献体(大阪市立大学医学部附属病院提供)の両 足大腿骨を用いた.試料は,感染を防ぐとともに有機質の変 性を防止するため,10中性緩衝ホルマリン溶液にて固定 した.左大腿骨には金属製セメントレス型の人工股関節 (VerSysHA/TCP Fiber Metal Taper, Zimmer, USA)が埋 入されており,右大腿骨へのインプラントの適用はなかっ た.したがって,左大腿骨を implant 側,右大腿骨を
con-trol側とした(Fig. 2).なお,献体からの骨試料であるこ
と,および個人情報保護の理由より診療記録の入手が困難で あることから,インプラント埋入期間は不明である.しかし
ながら,本研究における VerSys HA/TCP Fiber Metal
Taperステムの臨床応用は 2001 年に始まり,応力遮蔽を回 避する近位支持型の人工股関節として全国的に普及し,数多 くの臨床成績が報告されており1518),さらには骨試料の X 線写真における(近位内側部の骨吸収や大腿骨ステム近位外 側の X 線透瞭像などの)著明な骨変化の様子から,本人工股 関節の埋入期間は比較的長期であると考えられる. 人工股関節の大腿骨ステム部と骨頭部はそれぞれ,Ti 6Al4V 合金と CoCrMo 合金(Zimaloy)であった.表面処 理については,近位部に骨誘導を促すチタンメッシュ,中央 部にハイドロキシアパタイト(Hydroxyapatite: HAp)および リン酸三カルシウム(TCP)コーティング,遠位部は鏡面仕 上げであった.臼蓋カップ側は Ti6Al4V 合金製のメタル シ ェ ル と 耐 摩 耗 性 に 優 れ た ク ロ ス リ ン ク ポ リ エ チ レ ン (Polyethylene: Pe)製のライナーが使用されており,大腿骨 の摘出において,Pe ライナーに著明な摩耗は認められなか った.摘出した大腿骨の X 線画像を観察すると,implant 側 では,近位内側部の皮質骨において陰影濃度の低下は明らか であり,応力遮蔽による骨吸収が顕著であった.これは近位 支持型の人工股関節であっても,近位内側部に応力遮蔽によ る骨吸収が認められる症例があるとする諸家の臨床報告と一 致している1921).さらにステム近位外側の周辺に X 線透瞭
Fig. 3 Schematic diagram of the finite element analysis (FEA) model, loading conditions, and constraining conditions.
Table 1 Physical properties of each element used in the FEA.
Part Material Young's modulus/GPa Poisson'sratio
Head CoCrMo alloy 210 0.3 Femoral stem Ti6Al4V alloy 114 0.3 Cortical bone Cortical bone 16 0.3 Trabecular bone Trabecular bone 1 0.3 Bone marrow Bone marrow 0.3 0.45 像が確認され,大転子には骨の脆弱化に由来した骨折が観察 されている.一方,control 側には著明な骨変化は認められ ておらず,このことから人工股関節は,片側の変形性股関節 症,もしくは大腿骨頸部骨折の治療として施行されたものと 考える. 骨試料の採取は Fig. 1 に示すように,骨試料は小転子直 下部より 10 mm 遠位部までのブロックをマイクロカッター (BS300CP; Exakt Apparatebeau, Germany)にて切り出 し,その内側部を,以降に示す骨量および BAp 配向性の解 析領域とした.配向性解析のため,内側の小転子直下部の断 面 を エ メ リ ー 紙 で 2,000 番 ま で 研 磨 し , 光 学 顕 微 鏡 (BX60MF, Olympus, Japan)による組織観察の際には,さら にバフ研磨にてアルミナ粒子サイズ 50 nm まで研磨した. この小転子直下部は Gruen zone の 6, 7 の境界に位置する. 2.2 骨量・骨質解析 Gruen分類11)を参考に,仰臥位に相当する向きに大腿骨 を 設 置 し , 軟 X 線 画 像 を X 線 透 視 撮 影 装 置 ( X'sy, Shimadzu, Japan)にて管電圧 400 kV,管電流 100 mA の条 件にて撮影した.さらに,仰臥位にて,二重エネルギー X 線吸収測定装置(Dualenergy Xray Absorptiometry: DXA) (DCS600EX, Hitachi Aloka Medical, Japan)を用いて BMD
を 計 測 し た . マ イ ク ロ CT 装 置 ( micro focus X ray
Computed Tomography: mCT ) ( SMX 100CT SV3,
Shimadzu, Japan)を用いて,管電圧 70 kV,管電流 50mA
の条件で,解析部位の 3D 画像を取得した.空間分解能は
30.5mm×30.5 mm×30.5 mm とした.この 3D 画像に基づ
き,骨形態計測ソフトウェア(3DBON, RATOC, Japan)に て CT 画像を二値化した後,骨体積率(Bone Volume/Tissue Volume: BV/TV)を算出した.
BAp 配向性を定量的に評価するため,微小領域 X 線回折
装 置 ( microbeam Xray Diffractometer: mXRD ) ( D8
Discover with GADDS, Bruker AXS, Germany)にて CuKa 線を用いて,管電圧 45 kV,管電流 110 mA の条件で,反射 型光学系にて大腿骨の骨長手軸に沿った BAp の(002)と (310)の回折ピークを取得し,(002)/(310)の積分強度比を BApの c 軸配向性の指標として導出した.入射 X 線ビーム は全反射コリメータにより,直径 100 mmq に絞り,入射角 を 13°~20°まで揺動した.計測時間は 1,800 秒とした.な お,ランダムに配向した HAp 粉末の場合,積分強度比は 0.6 を示すことから,この無配向値より大きな積分強度比 は,大腿骨長軸に沿った優先 c 軸配向性を表す.BAp 配向 性については,control 側での皮質骨厚さを基準とし,内側 皮質骨を厚さ方向に 3 等分(骨外膜側より,Peri,Mid, Endo)し,その各領域の中心部にて 3 回測定を繰り返して デ ー タ を 平 均 化 し た . BV/ TV は 上 記 3 部 位 に 海 綿 骨 部 (Trab)を加えた 4 部位にて解析を行った(Fig. 1(b)). 2.3 応力シミュレーション 人工股関節埋入後の応力遮蔽の予測のため,有限要素解析 (Finite Element Analysis: FEA)による応力シミュレーショ ンを実施した.応力シミュレーションを行う上で必要となる
骨の 3 次元モデルは,以下の手順で作成した.医療用 CT 装 置(ECLOS 4S, Hitachi Medico, Japan)を用いて,管電圧 120 kV,管電流 150 mA,スライス幅 1.25 mm の条件で大 腿骨断層画像を得た後,CT 画像解析ソフトウェア(Mimics 11, Materialise, Belgium)を用いて各 CT 画像を二値化し, 皮質骨を抽出した.3D サーフェスモデラーソフトウェア (Imageware 10, SIEMENS, USA)を用いて,積層した輪郭
線から大腿骨の 3 次元モデルを構築した22).インプラント
埋入モデルは,人工股関節形状を 3 次元 CAD ソフトウェア (SolidWorks 2006, SolidWorks, USA)を用いて復元し,そ れを,いくつかの方位にて撮影した軟 X 線イメージと照合 しながら前述の大腿骨モデルに複合化した.この複合モデル に対して,インプラント部,皮質骨部,海綿骨部,骨髄部の 4 要 素 を 定 義 し ( Fig. 3 ) , 非 線 形 解 析 ソ フ ト ウ ェ ア (MSC.Marc 2008, MSC Software, USA)により FEA を実施 した.用いた有限要素の種類は 1 次四面体要素とし,要素 数は 928,915,節点数は 173,098 であった. 荷重条件は,Akay ら23)の手法に基づき,ヒトが 1 km/h で歩行時に股関節にかかる力を 3 成分に分解して,骨頭に は F1(大腿骨骨軸に沿って遠位方向へ 1,850N,内側方向か ら 785N,前方方向から 17.5N)を負荷し,大転子には F2 ( 大 腿 骨 骨 軸 に 沿 っ て 近 位 方 向 へ 967N , 外 側 方 向 か ら 471N,前方方向から 144N)を負荷した.境界条件は,チタ ンメッシュ部で完全に骨と固着し,他の骨インプラント界
Fig. 4 (a) Maximum principal stress distributions in the cross section of the proximal region of the femur shown in Fig. 1(b) in the presence and the absence of an artificial hip joint. (b) Maximum principal stress values at 3 regions (Peri, Mid and Endo) along the femur longitudinal direction in the medial region. Broken lines mean the boundary between cortical and trabecular regions. Asterisks ()indicate Pvalue of P<0.01.
Fig. 5 (a) Microphotographs at Endo region and (b) bone volume fraction (BV/TV) at the 4 regions (Peri, Mid, Endo and Trab) shown in Fig. 1(b). The asterisks () indicate a Pvalue of P<0.01.
面はインプラント表面を鏡面研磨面として骨結合がないもの とした.大腿骨モデルの下端面は完全拘束した.各要素のヤ ング率とポアソン比を Table 1 に示す.Implant 側で Ti 6Al 4V 合 金 ( 114GPa, 0.3 ) , Co Cr Mo 合 金 ( 210GPa, 0.3)24), な ら び に 骨 側 で 皮 質 骨 ( 16GPa, 0.3 ) , 海 綿 骨 (1GPa, 0.3),骨髄(0.3GPa, 0.45)とした25,26).こうして, 前述の BV/TV および BAp 配向性解析を行った部位と同一 領域にて最大主応力を定量化した.いずれの定量データにつ いても,平均値の比較には 2 標本による Student の t 検定を 用い,P<0.05 にて統計学的有意であると判定した. 3. 結 果 Fig. 4(a)に,FEA により算出した小転子直下部の大腿骨 断面における最大主応力分布を示す.いずれの部位において も,大腿骨軸に平行な圧縮応力が支配的であった.この内側 部における Peri, Mid, Endo 部位での最大主応力を Fig. 4 (b)に示すと,すべての部位において,人工股関節の埋入に より負荷応力値は有意に低下しており,Peri 部にて特に応 力差が大きく,応力遮蔽が生じていることが示された. 前後方向に投影した軟 X 線画像(Fig. 2)から,implant 側 では近位内側の小転子付近の皮質骨の X 線不透過性が低下 しており,骨吸収を示唆した.この時の BMD 値は,con-trol側 で 2.21g/cm2, implant 側 で 1.87g/ cm2で あ り , 約 15の BMD 低下を示した.この内側部における Endo 部を 顕微鏡観察したところ,implant 側の骨内膜側皮質骨にてオ ステオンでのハバース管を中心としたポーラス化が顕著に認 められた(Fig. 5(a)).さらに皮質骨,海綿骨部にて,BV/ TVによる骨体積率を定量化すると Fig. 5(b)となり,Peri 部を除くすべての部位で BV/TV が有意に低下していた.特 に,骨内膜付近において,極めて大きな骨損失が生じていた. 一方で,Fig. 6 に示すように,大腿骨長手に沿った BAp の c 軸配向性は左右いずれの大腿骨,部位においても 0.6 以 上の数値を示し,大腿骨長手方向に沿った BAp の優先配向 性を有していた.特に,implant 側の Peri 部にて control 側 に対し有意な低下を示したが,Mid,Endo 部では有意な差 異は認められなかった.
Fig. 6 Distribution of the degree of BAp orientation at the 3 cortical bone regions (Peri, Mid and Endo) shown in Fig. 1(b). The asterisk () indicates a Pvalue of P<0.05.
4. 考 察 本研究では,ヒトへの人工股関節の埋入による応力遮蔽 が,周囲大腿骨の骨量および骨質(BAp 優先配向性)に及ぼ す影響について検討した.人工股関節の埋入は顕著な応力遮 蔽をもたらし,その結果,大腿骨皮質部にて有意な骨損失お よび骨質劣化が生じることが明らかとなった.とりわけ, BAp 優先配向性に対する応力遮蔽の影響については本研究 で初めて得られた知見である. 応力遮蔽によって骨損失は大腿骨の骨内膜側にて顕著に進 行し,皮質骨が海綿骨の様に変化した.一方で,骨外膜側で は有意な骨損失は認められなかった(Fig. 5(b)).これは, セメントレス型人工股関節の埋入期間に対して依存的に大腿 骨の骨内膜径は拡大し,骨外膜径は変化しないといった従来 の報告と一致する27).この変化は,骨内膜側での応力遮蔽 環境下におけるオステオンのリモデリング活動を通じた骨機 能の適応に起因する28)と考えられており,オステオンの中 心に位置するハバース管の拡大と,その形状の崩れが確認さ れたことから(Fig. 5(a)),ハバース管内に分化誘導された 破骨細胞の活性化によるものと推測される.結果として,最 終的には骨外膜側が優先的に残存した.ところが,骨長手方 向の BAp 配向性はその骨外膜側にて有意に低下していた (Fig. 6).BAp 優先配向性は骨の力学機能と相関しており, 配 向 性 の 低 下 は 骨 の 力 学 的 機 能 低 下 の 重 要 な 要 因 で あ る7,29).実際,Ni ら30)は,人工股関節埋入側の近位部におい て,材料特性であるマイクロビッカース硬さが,非埋入側よ りも 20低下することを報告したが,これにも BAp 配向性 が関与している可能性がある.つまり,骨外膜側での BAp 配向性の低下から,人工股関節挿入後の大腿骨の力学的機 能,すなわち骨折リスクは,骨損失から予測されるもの以上 に低下していることが示唆される. BAp の優先配向性は,骨に負荷する主応力の方向や大き さ,さらにはそれらの変化に応答して変化する8).つまり, 骨量,BMD と同様に,外的負荷に対して骨機能の適応を介 して最適化されることが示されている.家兎尺骨の長管骨へ の完全欠損導入による応力除荷環境下では,尺骨の残存した 部位での BAp 配向性が有意に低下した31).すなわち,人工 股関節による骨への応力遮蔽は,骨機能の適応を介しての骨 損失のみならず,骨質劣化を引き起こす重大な要因となる. 骨への応力遮蔽を抑制し,骨損失および骨質劣化を防止す るため,種々の人工股関節の設計が行われている.本研究で 用いた骨試料に埋入されていた人工股関節には,骨の進入成 長(ingrowth)による固定の促進,結果としての大腿骨ステ ム骨間での応力伝達の実現のため,近位部でのチタンメッ シュコーティング32)が施されていた.しかしながら,初期 固定の不良などにより骨の ingrowth による近位支持が得ら れず,皮質骨への応力伝達に極めて重要な役割を果たす,近 位内側部の海綿骨が損失していたと考えられる(Fig. 5).そ のため術後経過においても,近位内側での応力伝達が十分に 行われず,応力遮蔽状態が継続していたと推測される. 一方,低ヤング率化により,周囲大腿骨への応力遮蔽が低 減さ れること が,屍体 骨を用い たひずみ の直接測 定33)や FEA14)よって示されている.しかしながら,ヤング率が極 端に低いポリメタクリル酸メチル(1.9GPa)製ステムを使用 した場合でも,完全に応力遮蔽を取り除くことはできな い33).したがって,こうした従来の方策に加えて,新たな コンセプトにて,応力遮蔽を抑制可能な人工股関節の設計を 今後行う必要がある.例えば,骨機能の適応を効果的に利用 し,人工股関節からの骨への積極的な応力伝達の促進を可能 とするような,インプラント材質・形状を含めた最適化34) が達成できれば,応力遮蔽のない,結果としての骨機能の低 下・再喪失(人工関節周囲の骨折)のない人工股関節が実現す ると期待できる. 加えて,骨質を基準とした骨評価の導入が,インプラント 設計においても重要となることが考えられる.人工股関節の 設計や応力遮蔽の評価において,骨量,BMD 以外の骨質は ほとんど考慮されていないのが現状である.一方,骨粗鬆症 などの代謝性骨疾患の治療法や骨の力学的機能の評価をはじ めとして,種々の骨質指標が提案され,その有効性が検討・ 報告されている35).中でも,BAp の優先配向性は,骨疾患 の病態を示す指標として有効であり36),さらには,動物実 験段階ではあるが,皮質骨の材料特性の指標として,骨粗鬆 症薬剤の薬効評価のために用いることを可能とする37),有 望な骨質指標である.BAp の優先配向性を指標とした人工 関節設計に関する研究は現在進行しており,別稿にて報告予 定である. 5. 結 言 本稿では,セメントレス型人工股関節が埋入されたヒト大 腿骨の近位内側部に生じる応力遮蔽について,骨量のみなら ず,骨の力学的機能と密接な関係を有する骨質としての BAp の c 軸配向性に注目して解析した.本研究にて得られ た知見は以下のとおりである. 人工股関節埋入後のヒト大腿骨近位内側部において, 顕著な応力遮蔽が生じていた. 応力遮蔽は,骨吸収による骨損失を生じた.骨損失 は,大腿骨ステム皮質骨間の海綿骨や,皮質骨の骨内膜近 傍でより顕著であり,皮質骨の骨外膜側では有意な骨損失は
確認されなかった. 応力遮蔽は骨質にも顕著に影響し,BAp 優先配向性 は,骨外膜側にて有意に低下した.こうした変化は,低負荷 応力下での骨機能の適応に基づいて生じることから,積極的 に周囲骨への応力負荷を促すような人工股関節の設計によっ て,骨機能の適応を効果的に利用することで,応力遮蔽の抑 制,その結果としての骨損失および骨質劣化の生じない人工 股関節の開発が可能となる. 本研究は,独日本学術振興会(JSPS)による最先端・次世 代研究開発支援プログラム,ならびに内閣府,厚生労働省, 文部科学省,経済産業省による先端医療特区「スーパー特 区」による援助を受けました.さらに,有益なご助言とご指 導を賜りました,大阪市立大学大学院医学研究科の岩城啓好 准教授,白庭病院の小林章郎副病院長に深く御礼申し上げま す.最後に,骨試料を提供頂きました大阪市立大学大学院医 学研究科の中島裕司教授,木山博資教授に感謝申し上げます. 文 献
1) National Hospital Discharge Survey: 2006 Annual Summary, (U. S. Department of Health and Human Services, 2010). 2) J. W. Harkess: Arthroplasty of the hip. In: Campbell's Operative
Orthopaedics, 11th ed., chap. 7, ed. by S. T. Canale and J. H. Beatty, (Mosby Elsevier, Philadelphia, PA, 2007).
3) K. J. Bozic, S. M. Kurtz, E. Lau, K. Ong, T. P. Vail and D. J. Berry: J. Bone Joint Surg. Am.91(2009) 128133.
4) H. Lindahl: Injury 38(2007) 651654.
5) NIH Consensus Development Panel on Osteoporosis Prevention, Diagnosis, and Therapy: Osteoporosis Prevention, Diagnosis, and Therapy, JAMA285(2001) 785795.
6) B. Viswanath, R. Raghavan, U. Ramamurty and N. Ravishankar: Scr. Mater.57(2007) 361364.
7) W. Bonfield and M. D. Grynpas: Nature270(1977) 453454. 8) T. Nakano, K. Kaibara, Y. Tabata, N. Nagata, S. Enomoto, E.
Marukawa and Y. Umakoshi: Bone31(2002) 479487. 9) W. Fujitani and T. Nakano: Mater. Sci. Forum654656(2010)
22162219.
10) T. Nakano, T. Kan, T. Ishimoto, Y. Ohashi, W. Fujitani, Y. Umakoshi, T. Hattori, Y. Higuchi, M. Tane and H. Nakajima: Mater. Trans.47(2006) 22332239.
11) T. A. Gruen, G. M. McNeice and H. C. Amstutz: Clin. Orthop. Rel. Res.141(1979) 1727.
12) G. Sk äoldenberg, H. S. G. Bod áen, M. O. F. Salemyr, T. E. Ahl and P. Y. Adolphson: Acta Orthop.77(2006) 386392. 13) J. K äarrholm, C. Anderberg, F. Snorrason, J. Thanner, N.
Langeland, H. Malchau and P. Herberts: J. Bone Joint Surg.
Am. 84 A (2002) 16511658.
14) R. Huiskes, H. Weinans and B. V. Rietbergen: Clin. Orthop. Rel. Res.274(1992) 124134.
15) S. Tsuji, E. Kuroda, Y. Hoshikawa, M. Ito, Y. Mikami, A. Tasaki, K. Amaha, Y. Sato and W. Morita: Japanese Journal of Replacement Arthroplasty39(2009) 168169.
16) N. Sawada, K. Hagio, A. Sumitomo, Y. Matsui, S. Nakagawa, N. Umeda, M. Saito and S. Saito: Japanese Journal of Replacement Arthroplasty40(2010) 358359.
17) Y. Nakamura, H. Mitsui, H. Ohishi, N. Sasaki, S. Toh, T. Nitobe and Y. Mikami: Japanese Journal of Replacement Arthroplasty40(2010) 360361.
18) S. Terai, H. Iwaki, Y. Minoda, M. Ikebuchi, T. Yoshida, T. Iida, T. Ikawa and H. Nakamura: Hip Joint37(2011) 523525. 19) T. Jinno, D. Koga, Y. Aso, Y. Yamauchi, S. Yukitake, S. Morita,
T. Muneta and K. Shinomiya: Japanese Journal of Replacement Arthroplasty37(2007) 7273.
20) S. Kawano, T. Masuda, T. Kanno, M. Shundo, K. Yasumura, T. Hashimoto and T. Kaneko: Japanese Journal of Replacement Arthroplasty37(2007) 7677.
21) M. Tsubouchi, S. Arimori, H. Kato, S. Fukuda, N. Tago and Y. Takagi: Japanese Journal of Replacement Arthroplasty 38 (2008) 5455.
22) B. Mahaisavariya, K. Sitthiseripratip, T. Tongdee, E. L. J. Bohez, J. V. Sloten and P. Oris: Med. Eng. Phys.24(2002) 617 622.
23) M. Akay and N. Aslan: J. Biomed. Mater. Res.31(1996) 167 182.
24) A. W. L. Turner, R. M. Gillies, R. Sekel, P. Morris, W. Bruce and W. R. Walsh: J. Orthop. Res.23(2005) 705712. 25) T. P. Harrigan, J. A. Kareh, D. O. O'Connor, D. W. Burke and
W. H. Harris: J. Orthop. Res.10(1992) 134144.
26) A. Schonning, B. Oommen, I. Ionescu and T. Conway: Comput. Aided Des.41(2009) 566572.
27) P. Adolphson: J. Arthroplasty11(1996) 572581.
28) B. Busse, M. Hahn, T. Schinke, K. P äuschel, G. N. Duda and M. Amling: J. Biomed. Mater. Res. A92(2010) 14401451. 29) T. Ishimoto, T. Nakano, M. Yamamoto and Y. Tabata: J. Mater.
Sci. Mater. Med.22(2011) 969976.
30) G. X. Ni, W. W. Lu, P. K. Y. Chiu, Y. Wang, Z. Y. Li, Y. G. Zhang, B. Xu, L. F. Deng and K. D. K. Luk: J. Orthop. Res.25 (2007) 14081414.
31) T. Ishimoto, T. Nakano, Y. Umakoshi, M. Yamamoto and Y. Tabata: Phosph. Res. Bull.17(2004) 7782.
32) T. H. Mallory and W. C. Head: Contemp. Orthop.17(1988) 21 28.
33) T. P. Vail, R. R. Glisson, T. D. Koukoubis and F. Guilak: J. Biomech.31(1998) 619628.
34) Y. Noyama, N. Nagayama, T. Ishimoto, K. Kuramoto, T. Sakai, H. Yoshikawa and T. Nakano: Mater. Sci. Forum 638642 (2010) 664669.
35) C. J. Hernandez and T. M. Keaveny: Bone 39(2006) 1173 1181.
36) J. W. Lee, T. Nakano, S. Toyosawa, Y. Tabata and Y. Umakoshi: Mater. Trans.48(2007) 337342.
37) A. Shiraishi, S. Miyabe, T. Nakano, Y. Umakoshi, M. Ito and M. Mihara: BMC Musculoskelet. Disord.10(2009) paper # 66.