武雄市における子育て支援活動 : 発表原題「たけお の子育て」

全文

(1)

Kyushu University Institutional Repository

武雄市における子育て支援活動 : 発表原題「たけお の子育て」

光武, 夕日里

武雄市教育委員会

東野, 充成

九州工業大学工学部

https://doi.org/10.15017/2231052

出版情報:九州教育社会学会研究紀要. 1, pp.65-69, 2008-03-01. 九州教育社会学会 バージョン:

権利関係:

(2)

[ 第 3 部 子 育 て 支 援 の 実 践 ]

第 6 章武雄市における子育て支援活動

(発表原題「たけおの子育て

J)

発 表 武 雄 市 教 育 委 員 会 光 武

夕日里

文責九州工業大学工学部

東 野 充 成

1  .九州教育社会学会における子育て支援実践研究のあゆみ

山岸会長(大分大学教育福祉科学部教授)の序文にもあるとおり、九州教育社会学会では、

2004年から 2006年の 3年間にわたって、「子育て支援jをテーマに研究集会を続けてきた。

計6件の研究成果が発表されたが、そのうち子育て支援の制度や家族関係の実態について発 表した論文は第5章までで取り上げたとおりであるD 一方、 6件のうち3件は、子育て支援 の実践に関わる問題が取り上げられた。

2005年度研究集会では、「幼児の発達を支える社会体制についてjというテーマの下、会 員外の2人のゲストスピーカーにお話いただいた。ひとりは九州女子大学人間科学部の大迫 秀樹先生、もうひとりは武雄市教育委員会の光武夕日里先生である。大迫先生からは児童虐 待が子どもの発達に及ぼす影響とそれへの心理的ケア体制の構築の必要性についてお話いた だいた。一方、光武先生は、武雄市の教育委員会が開催した乳幼児教室「新井戸端会議

J

を 受講後、自主サークル活動を行いながら子育て支援活動を開始され、発表当時、武雄市の社 会教育指導員として子育て支援者の養成やネットワークづくりに取り組んでおられた。この 間の経緯や今後の子育て支援実践の課題などについてお話いただいた。

2006年度の研究集会では、「子育て支援一政策から実践まで−

J

というテーマの下、東野 および長崎大学教育学部の井口均先生にご発表いただいた。東野の発表内容に関しては、第 3章にまとめたとおりである。一方、井口先生からは、「文教・親子広場『この指とまれ』」

というユニークな実践活動をご紹介しミただいた。「この指とまれ

J

とは、長崎大学内の施設 を利用して、地域の未就園児を抱える親子12組に対して実施されている、学生参加型の子育 て支援活動である。この活動の狙い、取り組み内容、その成果と課題などについて、貴重な 実践報告を頂いた。

このように、九州教育社会学会では、過去3年に渡って、子育て支援の実践研究も積み重 ねてきた。ここに簡単に紹介した部分を見ただけでも、子育て支援の実践に関わるフェーズ が多様に存在し、それぞれに非常に強い重要性や社会的意義が内在していることが読み取れ るだろう。児童虐待の問題及び長崎大学教育学部の実践に関しては、大迫先生及び井口先生 ご自身の執筆による論文が第7章及び第8章に掲載されているので割愛するが、本章では、

光武先生のご発表内容を紹介したいと思う。光武先生は現在も教育委員会にお勤めで、ご多

(3)

忙のため執筆時間がとれないとのご連絡をいただいた。光武先生のお許しを得て、発表当日 司会を担当した東野が代わって論文にまとめることが編集会議で決定された。本論文に関し てはすべて東野の責任に属するものであることをあらかじめお断りしておく。

2 . 武雄市の子育て支援活動

光武先生は現在佐賀県武雄市の教育委員会にお勤めで、主に子育て支援活動の担い手の養 成やネットワークづくりに取り組んでおられる。発表では、武雄市が取り組んでいる子育て 支援活動をご紹介くださるとともに、子育て支援活動の課題や問題点などについても、行政 官及び実践者としての視点から興味ある知見を色々とお話くださった。

武雄市では、「家庭は子どもの居場所の原点であり、全ての教育の出発点である」という 視点の下、子どもの健やかな成長を願い、様々な家庭教育支援事業に取り組んでいるという。

具体的には、「子育てフリースペース あいあいjや「武雄版ブックスタート おひざでよ んで

J

「育児教室

J

「子育て支援フェスタ」などが紹介された。

「子育てフリースペース あいあい」とは、子育てサポーターによる乳幼児とその保護者 を対象にした、地域での自由な遊び場を提供する活動である。各町の公民館を巡回し、プロ グラムをあえてつくらず、いつ来てもいつ帰っても自由という活動で、子育てに関する様々 な情報提供も兼ねている。武雄市内の各地区の公民館を活動場所として、年間で18回開催さ れる。参加費は無料で(孫育て中の人も)、開催時間内の出入室は自由である。なお、「あい あいjの実践主体となる子育てサポーターには、発表当時(2005年11月)で13名の方が登録 されている。

「武雄版ブックスタート おひざでよんで」とは、赤ちゃんと保護者が絵本を聞く楽しさ をわかちあってもらおうと、乳幼児健診を利用して、絵本を手渡す事業である。

「育児教室jとは、乳幼児とその保護者を対象とした、参加者の相互交流、社会教育指導 員による子育てに関する情報提供・助言を行う事業である。年間を通じて、季節行事や遊び が催されている。

「子育て支援フェスタjとは、親子のふれあいや子育ての楽しさを体感してもらうことを 目的として、子育てサボータ一、子育てサークル、お話サークルなどの各種ボランティア団 体、行政の福祉担当部署、健康増進担当部署が連携して行うフェスティバルである。

武雄市は平成18年現在で人口5万人強、これも市町村合併によるもので、それ以前は3万 4千人強の、典型的な地方の小都市である。しかし、具体的な事業を概観して分かるように、

かなり積極的に子育て支援に取り組んでいると言えるだろう。特に絵本の贈与事業などは異 色の取り組みであり、子育て支援活動という点からだけでなく、幼児教育や情操教育という 点から見ても、非常に興味深い試みである。

一方、行政による事業とは別に、民間団体による子育て支援活動、いわゆる子育てサーク ルも運営されている。光武先生が取り上げられたものとして、「子育てサークルの会 ぼつ かぽか」というネットワークがある。「ぼつかぽか」は、 1987年に創設された乳幼児教室

(現育児教室)の「新井戸端会議」がその前身である。 1996年には、武雄市役所福祉課子育

(4)

てふれあいセンターが主催し、子育てサークルの活動状況報告、意見交換を目的とした子育 てネットの会がスタートする。そして、 2004年には、行政主導の子育てネットの会から子育 てサークルが主体となった子育てサークルの会「ぼつかぽかjが発足する。現在「ぽっかぽ か」には、「ひよこクラブj「ピーターパン

J

「アンパンマン

J

「プーさんといっしょ」「ぷく ぷくクラブ」「武雄子ども劇場」という各種子育てサークル、児童文化事業活動団体が参加

している。

このように、行政が主体となる子育て支援事業から民間団体のネットワーク化へと、民間 の活動も活発に行われている。では、こうした子育て支援事業や子育て支援活動には、現在 どういった課題があるのだろうか。発表当日ラウンドテーブル出席者から出された意見も紹 介しながら、次にその点について探っていこう。

3 . 子育て支援活動の課題

子育て支援活動というと、行政の支援のあり方や民間団体の活動のあり方がよく問題にさ れるが、まず考えなければならないのは、親や保護者、特に母親に対する社会的な意識の問 題である。ラウンドテーブル出席者からも、この点に関して活発な意見が提起された。

まず、武雄市の子育て支援事業や活動自体が、「親が親として成長しているか」という点 に力点が置かれているという。たとえば、「あいあい」は、育て方を指導し、押しつけるの ではなく、気づいてもらう、感じてもらうということをモットーとしている。というのも、

他人の姿を見ながら、親・保護者が変化することを期待するからである。この親・保護者に 対する視点、「子育て」と対応させて名づけるならば、「親育ち」という視点を今後の子育て 支援活動がどう確保するか、極めて重要な課題と言えるだろう。

この点と関連して、現在の子育て支援事業や活動が専業主婦の母親を主な対象としている ことも問題として挙げられた。牧野 (1982)の研究にもあるように、確かに育児不安の発生 率は母親が専業主婦の場合のほうが高くなる。児童虐待の事案を見ても、密室化した家族の 中で子育てを行っている家庭に発生しやすいことが言われて久しい。また、有職の母親には 保育所が整備されており、すでに十分な社会支援が整っているという指摘もあるだろう。し かし、有職・無職に留まらず、働く時間や場所、家族構成など母親に関わる様々な要素が多 様化している現在、「母親」というカテゴリーの内にある多様性を認め合うことが必要では ないか。子育て支援活動が専業主婦の母親のものへと独占化され、自開化すればするほど、

こうした視点の重要性が浮かび上がってくる。

それというのも、未だに子育ては母親が専管的に担うもの、母親が働くことに対して否定 的な風潮や視線が幅を利かせているからである。光武先生がおっしゃられるには、子育て支 援活動の支援者の中にも、母親が働くことに対して「子どもがかわいそう

J

「やはりお母さ んがいなくてはjという意見を持つものが多いとのことである。子育て支援活動が母親の多 様性を致損し、親や保護者の責任をよりいっそう強化しようという方向に行くならば、それ は本末転倒といわざるを得ない。

一方、子育て支援サークルが提供するサポートの中身や方法、対象のあり方に関しても、

(5)

活発に意見交換がなされた。先ほどは母親が有職か無職かに関係なく、どうサポートできる かが重要であると述べたが、例えば、夫が自営業等で家にいても、身近に頼れる親が住んで いても、サークルなど母親同士が相互にサポートしあえる体制が重要であると光武先生は述 べられている。結局、子育てに関わっている者みんなが手探りの状態なのだから、刺激しあっ て互いに子育て環境を整えていく体制こそが重要だという。

さらに付け加えれば、職の有無といった属性において多様であるばかりでなく、子育てサー クルに集う母親自身のパーソナリテイも極めて多様である。たとえ子育てサークルに加入し たとしても、そこで悩みを打ち明けられる人がいる一方、なかなか切り出せない人がいても 当然である。では、その人が悩みを打ち明けられないからといって、子育てサークルに参加 することが無意味なのかというと、決してそうではない。仮に悩みを口にできないとしても、

サークルにおいて人と接すること自体が悩みを緩和する効果を持つと光武先生は言う。つま り、そこに参加する人の属性だけでなく、パーソナリティも含めて、人としての多様性をい かに認め合うかが、子育て支援活動の成否を決める重要な要素になってくると言えるだろう。

一方、行政側の対応としては、人々の多様なニーズを知ることが重要であるという。たと えば、乳幼児健診の案内を郵送から直渡しに変更するだけで、人と人のつながりが生まれ、

どこにどんな親子が住んでいるのかも把握できる。その中で、子育て支援活動の存在を周知 し、子育てサークルへの参加を呼びかけることもできる。人が人と出会える仕組み、穏やか な出会いの場をつくることこそ、行政側の最も重要な仕事であり、「閉ざされないための仕 組みづくり

J

が求められている。

ただし、この点に関しては1点、懸念がないわけでもない。東野の責任で、その点につい て述べることをお許しいただけるのなら、若干の懸念を表明したいと思う。それは、行政が どこまで子育てに関与しうるのか、という問題である。児童虐待などに関して、行政権の家 族への介入があまりにも強くなりすぎているのではないかという指摘は前々から提起されて いる。たとえば、上野・野村(2003)なども、児童虐待のリスクマネジメントのあり方に疑 義を呈している。児童虐待のマネジメントでは、ほとんどすべての家庭が引っかかるような チェックリストが作成され、児童虐待の防止に使用されているという。つまり、すべての家 族を児童虐待の潜在危険因子と見倣した上で、行政が家族を監視するような体制が整えられ つつあるということである。子どもや家族への国家の介入の程度は、諸外国でも古くから問 題となってきたが(秋元2004参照)、子育て支援においても、行政はどこまで介入が可能な のか、今一度立ち止まって考察をめぐらすことは必要だろう。

このほかにも、大迫先生が発表された児童虐待の問題などと絡めつつ、様々な論点が提起 されたが、ここですべてを出し尽くすことはできない。しかし、ここで取り上げただけでも、

子育て支援の重要性及び課題のある程度は明らかになったのではないだろうか。最後に、改 めて総括してみよう。

4 . 本章のまとめ

以上のように、光武先生には、行政の現場から、そして実践者の視点から子育て支援活動

(6)

の実際や課題について、非常に示唆に富む、興味深いお話を頂戴した。そのため、ラウンド テーブル出席者からも大変活発に意見が提起された。第3節ではその一部を取り上げたに過 ぎないが、子育て支援がいよいよ成熟化しつつある現在、研究・実践ともに、次のステップ へ進むべきときに来ているということに関しては全員で共有できたと思う。

その際にキーワードとなるのが、本章で取り上げた多様性と活動の方法・内容という概念 だろう。本章では特に母親の多様性について言及したが、これは同時に子どもの多様性でも ある。子どもたちも実に様々なパーソナリテイや好悪の感情、趣味趣向、体格・体力・運動 能力、家庭的背景などを有している。親の多様性を保障するような子育て支援活動と同時に、

子どもの多様性も保障するような「子育ち支援活動jでないと、意味がない。

それは、子育て支援活動の方法や内容についても吟味するべきときに来ているということ でもある。 1989年の「1.57ショックj以来、子育て支援の充実が幼児教育や児童福祉の最重 要課題となってきた。制度の構築を模索する時期は、まだ、活動を行っているだけで意味があっ たのかもしれない。しかし、子育て支援活動が、地域によって多寡はあるにしても、もはや 所与のものとなった現在、その方法や内容を検討する時期に入っているのではないだろうか。

もちろん、ここでいう内容や方法は、教育課程のようにリジッドなものではない。しかし、

その方法や内容が親・保護者や子どもの多様性を損なうものではないか、少なくともこうい う観点からの再検討は必要である。残された課題はまだまだ大きい。

参考文献

秋元美世 2004,『児童青少年保護をめぐる法と政策ーイギリスの史的展開を踏まえて−,]中央法規 牧野カツ子 1982,「乳幼児をもっ母親の生活とく育児不安〉」『家庭教育研究所紀要J3 3456 上野加代子・野村知二 2003 f児童虐待の構築』世界思想、杜

付 記

本章は発表時に配布された光武先生の資料をもとに再構成したものです。ご発表くださったこととあわせ て、光武先生には改めて感謝申し上げます。

Updating...

参照

Updating...

関連した話題 :

Scan and read on 1LIB APP