光・視環境のゆらぎがリラクゼーションに与える影響に関する研究
A Research on Effect of Fluctuating Lights for Relaxation
−バイオフィードバックを活用した照明の提案−
−A Proposal of Lightning Equipment Using Biofeedback−
1w120379-7 中島 優人 指導教員 長 幾朗 教授 NAKAJIMA Yuto Prof. CHOH Ikuro
概要:知識社会への移行に伴い、ワーカーに求められる能力、そしてオフィス空間が変容しつつある。と りわけ創造性が求められる中で、快適性や集中力を高めるだけでなく、リフレッシュやリラクゼーション といった要素を取り入れることや、個人に合わせた環境を構築することが課題となっている。本研究では、
バイオフィードバックにより個々の心拍テンポと連動してゆらぐ照明環境を提案し、光・視環境のゆらぎ がリラクゼーションに及ぼす効果の検証を行った。
キーワード:知的生産性、光環境、リラクゼーション、心拍変動、バイオフィードバック Keywords :productivity, light control, autonomic nervous system, HRV, biofeedback
1.背景
労働形態の多様化や情報化に伴い、オフィス環 境はワーカーやタスクを管理する機械的空間から、
創造的に働くための人間的空間へと変化しつつあ る。そのためには、ワーカーの創造性の刺激と、
個々人に合わせた柔軟さを兼ね備えたオフィス環 境が重要視されている。とりわけ光・視環境には 配慮が必要である。温熱環境、音環境といった環 境性能はワーカー個人である程度の調整が可能で あるが、光・視環境においては困難であるためだ。
さらに、知的生産性にはその段階に応じて複数 の階層が存在し、今後は第三階層である「知識創 造」に関する研究が求められている。各階層には 行動・意識、生理・心理、そして環境性能が影響 しており、行動・意識の一つである「リラックス」
は知識創造にのみ影響を及ぼす概念である(Fig.1)。
リラックスした状態は特に発散的思考、すなわち アイデアの出しやすさを促進することが示されて いる[1]。
Fig.1 Casual model of intellectual activity and environmental performances.
2.提案手法
2.1 提案の概要と目的
本研究では、使用者に最適化されたリラクゼー ションを促す光環境を提案し、知識創造、特に発 散的思考を促進する環境作成への一助とすること を目的とした。そのために、心拍のバイオフィー ドバックによりゆらぐ照明を作成し、使用者に与 える影響を検証した。光・視環境の長周期の変化 に関しては、一日の生活リズムに合わせた光・視 環境を生成するサーカディアン照明の提案がなさ れている[2]。短周期的な照度のゆらぎについて も印象評価でその効果が示されているが[3]、光 環境は作業効率を直接測定することによる評価が 難しいとされているため[4]、本研究では生理反 応による検証を行った。さらに、人間の意識にの ぼらない情報を感覚情報として還元するバイオフ ィードバック技術を応用することで、個人の状態 に応じた光環境を生成することを試みた。
また、情報刺激の効果が、分野を横断してどの ように対応し得るのかに関する考察も行った。堀 田ら[5]の研究では、心拍テンポと聴覚の関係に ついて、心拍テンポに連動した情報刺激がリラク ゼーションを促すという結果を示している。視覚 における情報刺激でもこのような関係性が期待可 能であるか、またどのような差異が見られるのか、
実験を通して比較を試みた。
2.2 測定装置の製作
被験者の心拍データを測定し、照明環境へのフ
ィードバックに利用すると同時に、被験者のリラ
ックス度合いを評価する指標として記録した。心
拍センサから Arduioを介して読み取った心拍デー
タを 115200bps のシリアル通信で Processing に送
信し、csv ファイルとして保存した。
2.3 照明装置の製作
光源には3W の RGB パワーLED を使用し、以下の 4条件を再現した。
Ⅰ:照度、色温度ともに変化なし
Ⅱ:照度を心拍テンポに合わせて変化
Ⅲ:色温度を心拍テンポに合わせて変化
Ⅳ:条件ⅡとⅢの間をランダムに変化
各条件を Kruithof Curve(照度、色温度の組み 合わせと人の快・不快の感じ方の境界図)に重ね たものが Fig.2 である。
Fig.2 Parameters of Each Condition
3.評価
3.1 実験手法
実験は大学内の教室で行い、10 名の若年健常者
(男性6名、女性4名、20 歳〜25 歳)を対象とし た。照明装置以外の光、また外部の音が入らない よう留意し、実験装置を設置した。リラックスし た状態を保ってもらい、各条件で5分ずつの心拍 変動データを記録した。得られたデータを線形補 完した後、8Hz で再サンプリングした。この心拍 変動データをフーリエ解析することで、自律神経 バランスの評価指標を求めた。心拍変動の低周波 成分(0.05Hz~0.15Hz)を LF(Low Frequency)
と呼び、高周波成分(0.15Hz〜0.4Hz)を HF (High
Frequency)と呼ぶ。LF は交感神経、HF は交感
神経と副交感神経の影響を受けるため、これらの 比率(LF/HF や HF/Total)を求めることで被験者 のリラックス度合いを評価することが可能である [1][3]。
3.2 実験結果
全被験者について、LF/HF の平均値の一元分散 分析を行った結果、条件の主効果が認められた
(F(3,27) =8.17,p<.001)。多重検定を行ったとこ ろ、条件ⅠとⅢの間に有意差(<.01)が、条件Ⅱ とⅢおよび条件ⅢとⅣの間にも有意差(<.05)が 認められた(Fig.3)。
Fig.3 Values of LF/HF
4.考察
LF/HF、HF/Total 双方の指標において、条件Ⅰと
Ⅲ、および条件ⅣとⅢの間で有意差が認められた ことから、仮説が証明されたといえる。また、堀 田ら[5]との結果と比較して、光・視環境におい ては心拍テンポによる色温度のゆらぎ(条件Ⅲ)
が、変化のない状態(条件Ⅰ)およびランダムに 変化する状態(条件Ⅳ)に比して高いリラクゼー ション効果を持つことが示された。条件Ⅱで条件
Ⅲと同様の効果が得られなかった要因としては、
一つは照度の変化幅が不適切であったことが挙げ られるが、色温度の変化が演色性に影響する一方 で、照度の変化は視認性に直接影響することも要 因だと考えた。聴覚におけるテンポとは個人の印 象であり、ゲシュタルトである。このことを踏ま えても、視覚における色温度のゆらぎは、照度の ゆらぎに比べて、聴覚における音楽テンポと対応 性が見られたのではないかと考えた。
5.結論
本実験の結果、心拍テンポと連動した色温度のゆ らぎによる情報刺激が、使用者に合わせたリラク ゼーションを促すものとして評価し得ることが示 された。また、聴覚におけるバイオフィードバッ クとリラクゼーションの事例と比較し、光・視環 境と音環境の対応に関する一考察を行った。
課題は、照度の変化に関する十分な考察ができ なかったことである。今後は各条件の最適な変化 域を探る必要があるだろう。また、本実験では周 囲の光を遮断して行ったため、実際のオフィス環 境での適用についても検討する必要がある。本実 験は知的創造の要因である「リラックス」という 人間反応について、自律神経系の観点から評価を 行ったものであり、実用化に向けた更なる検討が 必要である。
参考文献
[1]髙橋洵子、“色温度と照度が与える生理・心理機能への影響
―集中課題と創造性課題を用いた検討―”、千葉大学、2009 [2]久米功人、“昼光利用サーカディアン照明の照度条件による知 的生産性への影響”、日本建築学会、2006
[3]熊澤貴之、“室内空間における照明のゆらぎと癒しに関する研 究”人間・環境学会誌、2008
[4]国土交通省ホームページ
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/(2016/1/28現在)
[5]堀田晴子、澤村貫太、井上健、“被験者の心拍数に応じたテ ンポによる音楽聴取時の心拍変動について”、臨床教育心理学研 究、2007
図版出典
Fig.1 国土交通省 知的生産性研究委員会報告書(H21)
Fig.2 EDUCATE https://www.educate-sustainability.eu/
kb/content/lamps (2016 年1月 28 日閲覧、加筆)