2 0 2 1 年 3 月
商品を企画するとは何をすることか
~What makes product planning “planning?”~
坂 田 隆 文
Ⅰ.はじめに
「商品企画とは何を行うことなのか」、これが本稿で取り上げたいテーマである。商品企画に 関する多くの手法が議論されている中で、そもそも商品企画とは何なのか、何を行うことなの かということについて議論した論考は皆無であるといっても過言ではない。たとえば商品企画 に関して網羅的に扱ったテキストである西川・廣田(2012)においては、商品企画におけるプ ロセスやそのプロセス内で行われる一つひとつの活動・作業について事例を用いながら丹念に 説明されているものの、では、そもそもの商品企画とは何なのかという説明自体は行われてい ない。
製造業であれば大半の企業で行われており、実務レベルであれば「商品企画とはこれこれこ ういったものだ」という共通認識やイメージを、少なくとも各社内ではもたれていることであ ろう。また、学術的な専門用語としてよりもむしろビジネス用語・一般用語として商品企画と いう概念が用いられており、商品企画とは何を指すのかを論じることの意義を認められないと いう指摘もあろう1。しかし、商品企画を学術的に「商品企画論」として語ろうとするならば、
まずは概念の整理が必要である。では、商品企画とは何なのか。経験として語ることもそのイ メージをもつこともできようが、学術的共通認識としての概念化までは行われていないのが実 情であり、それが商品企画を論じる際に手法に傾注させる大きな原因の一つだと考えられる2。 そこで本稿では、筆者がこれまでに教鞭をとったゼミにおいて実際に経験した産学連携の商 品企画の実例をいくつか紹介し、そこで共通するもの、共通しないものを抽出したうえで、商 品企画とはいかなる概念としてとらえられるのかについて論じたい。なお、本稿で取り上げる ような産学連携商品企画においては、単なる叙述的な事例として紹介されるだけで終わるもの や、その活動を通して学生がどのような成長を遂げたのかを論じたものが散見される(たとえ
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ば、全国ビジネス系大学教育会議編著 2010、髙橋 2014、後藤・河合 2016)。一方、本稿では 上記の通り、あくまで「商品企画とは何か」に焦点を当てるための議論を行うため、実例につ いては極力簡素化した表現をとるとともに、そこに関与した学生の様子や成長に論じるという ことはしない。
Ⅱ.商品企画の実例
筆者はこれまでに勤務校のゼミにおいて、愛知県名古屋市、井村屋(株)、(株)NTTドコ モ、岐阜県山県市、(株)サークルKサンクス、敷島製パン(株)、シヤチハタ(株)、(株)中 日ドラゴンズ、(株)DHC、中日本高速道路(株)、名古屋鉄道(株)、西日本電信電話 ( 株 )、
ネスレ日本(株)、博物館明治村、富士通(株)、ブラザー販売(株)、(株)マイナビ、山崎製 パン(株)、(株)リクルートなどの協力のもと、産学連携の商品企画提案を行ってきた。その 中には実際に商品化を遂げて十万個以上販売されたものもあれば、提案先に企画が認められず
「発表会」で終わったものも多数存在する。本章では、商品企画とは何かを検討するために典 型的と考えられる3つの事例を紹介し、以後の検討材料にしたい。
Ⅱ - 1 .サークル K サンクス「カツまぶし」の事例
2010年度、筆者が担当するゼミに対してサークルKサンクス(現・ファミリーマート)より
「コンビニで販売される弁当を企画してほしい」という依頼が舞い込んできた。この活動にお いては、①「中部に根差した」を基本に、地産地消を意識する、②学生らしくエッジをきかせ る、③コンビニエンス・ストアの弁当が売れなくなっている背景を分析・検討するという3つ が制約条件として課せられたものの、それ以外の点については原則自由に行いながら、進捗状 況に応じて作業内容を変えていこうという話になっていた。
そこで筆者が最初に行ったのは、いわゆる手法のレクチャーである。商品企画に関する手法 は当時でも既に多くの書籍でも紹介されており(たとえば、加藤 2003、古舘プロジェクト編 2007、富田 2007)、それらの内容をなるべくわかりやすいかたちで学生たちに伝授した。
その後、参加学生10名を3チームに分け、それぞれのチームで自由にアイデアの検討を進め てもらった。企画立案の背景、商品コンセプト、具体的な商品内容、ターゲット、食シーン、
プロモーション方法という6点を自分たちなりの枠組みとして保ちながらそれらについて自分 たちなりの考えをまとめ、それをサークル K サンクスの担当者の方に発表するというスタイ ルをとるチームもあれば、既存商品への不満を中心にそれを改善するために来店頻度の乏しい
ターゲットを抽出したうえでそれに見合った商品企画を進めるというチームもあった。
このように進め方こそ異なるものの、アイデアを出してはそれを具体化し、企業の担当者に 発表しては批判をもらい、もらった課題を修正してはまた発表するというプロセスを半年にわ たって行った。途中、学生たちでは入手できない情報として、原材料費や既存顧客に関する情 報、あるいは店舗における各種制約などを企業側に提供してもらいながら、企画の完成度を高 めていった。その間学生たちは自分たちの手で原材料(正確には、スーパー等で販売されてい る既存商品)を手に入れ試作品を作り、企画商品の完成イメージを高めていった(写真1)。
3チームの提案企画は全て企業側から一定の評価を頂くことができ、企業側の厚意もあって 本格的な試作品づくりをさせて頂けることになった。すなわち、サークルKサンクスが実際に 弁当開発を委託している企業に原材料を準備して頂き、それを用いて学生たちの手作りで企画 商品を実際につくるという作業をさせて頂けることになったのだ。さて、すると何が起こった か。後に実際に商品化を遂げた商品の試作品における想定売価は1,500円であった。これは、学 生たちが「原材料費の総計=販売価格」と誤解していたから生じた結果であり、そこに人件費 や物流費、製造費といった各種コストを想定していなかったという課題が浮き彫りになった。
「1,500円の弁当なんて、コンビニで売れるはずがない」と思った学生たちは原材料を米1グ ラムから見直し、製造ラインに載せるにはどういった工夫をすべきかを考え、自分たちがこだ わりたい部分と妥協できる部分の線引きがどこにあるのかを議論しつくし、最終的に実売価格 が500円を切る企画に辿りつくことができた。それが実際に商品化にまで至った「カツまぶし」
である(次頁写真2)。この商品は名古屋の名物であるひつまぶしの食べ方をかつ丼でできない かというアイデアをベースに、(1)そのままかつ丼として食べる、(2)付属の薬味をかけて食
写真 1 中間報告で学生が実際に用いたスライド
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べる、(3)付属の出汁をかけて食べるという3つの食べ方ができる商品として一定の販売量を 達成することができた。
ここまでの説明を踏まえ、商品企画とは何かを考える際、「カツまぶし」の企画におけるポ イントをいくつか整理しておこう。ここでは差し当たり3つ挙げられる。第一に、学生たちが 行った活動に特段の制約がなかったということである。特に企業側の厚意もあり、現実の試作 品づくりまでリアルな原材料を用いて行うことができ、そこから販売価格の計算までできたと いうのは商品企画を行ううえではビジネスの現場で行われるレベルに相当近いことまでさせ てもらえたということができよう。
第二に、そうはいっても大量生産を行うための製造ラインや各店舗への物流に関する検討は 一切行っておらず、そこはサークルKサンクス(正確には、その製造委託先や物流業者)に依 存しきっているというのが実情であった。
第三に、2番目の点を踏まえていえることであるが、「(学生の)自分たちの頭で考えられる ことは考え尽くした」という点が挙げられる。前述の通り、既存のコンビニ弁当を踏まえた企 画立案の背景、商品コンセプト、具体的な商品内容、ターゲット、食シーン、プロモーション 方法といった、一介の消費者でしかない学生たちでも考えられる項目については企業からの指 摘・批判を受けながらも、半年間かけて考え抜くことができた。
Ⅱ - 2 .山崎製パン「ランチパック」の事例
2013年度及び2014年度、筆者が担当するゼミでは2年連続して山崎製パンに対して「ランチ パック」の企画提案を行った。大筋としては両年とも企業説明や既存商品の紹介、活動の進め
写真 2 カツまぶし
方の説明を行う「キックオフ」から始まり、参加学生が一人100案のアイデアを考えたうえで 自信のある5案ずつを持ち寄り、その中で良いと学生たちが認めたアイデアのいくつかで試作 品を同社に製作頂き、その試作品を試食したうえで改善点を検討し、さらに試作品を作って頂 き、最終的にどの商品が最も良いと思われるかを検討するという流れであった。
最終的に完成した商品は2013年度が「ランチパック 4種のベリー入りクリームと4種のフ ルーツ入りクリーム」、2014年度が「ランチパック 梅じゃが&チーズ」であり、それぞれ中 部・北陸の9県でコンビニエンス・ストアや大手スーパーで1か月限定販売されるに至った。
本稿の問題意識に照らして肝要なのは、参加学学生たちが商品企画という名のもとに何を 行ったのかということである。学生たちが行った活動は大別すると5つある。第一に、山崎製 パンが事前に準備した「コンセプトシート」に自身のアイデアを記入していくということであ る。このコンセプトシートには商品名、想定売価、食シーン、ターゲット、パッケージイメー ジ、具材や中身などの商品説明、企画者のこだわりポイントを記入するようになっていた。上 記の通り、参加学生たちは100個のアイデアを考えたうえでこのコンセプトシート5枚分を完 成させることが求められた。
第二に、持ち寄ったコンセプトシート(合計60枚程度)の中でどの商品が優れていると思わ れるのかを選ぶという作業である。ここで指導担当である筆者は、「優れた企画とはいかなる 企画であるのか」について学生たちに指導を行った。ここで説明したことは、良い企画とは第 一に、想定顧客が欲しがる、あるいは買いたくなるものを企画しなくてはならないということ である。第二に、良い企画とは実際に商品を購入する想定顧客やターゲットだけでなく、クラ イアントからも認められる企画でないといけないというものである。ここでいうクライアント とは、今回の場合、企画を提案する相手である山崎製パン(の担当者、あるいはその先に存在 する承認者)がこれに該当する。何故なら、いくら実際に販売されれば売れる商品を企画して も、それがクライアントに認めてもらわねば実際に商品化を遂げることは困難だからである。
最後に、企画者自身が納得・満足できる企画であるということも重要な条件の一つであること を伝えた。学生がゼミ活動の一環として産学連携活動を行う以上、自分たちの想い入れが全く ないものを提案してしまっては、活動途中で活動に対する意欲がなくなってしまい、結果、中 途半端な完成度のもので終わってしまう可能性もある。その可能性を避けるために、この3つ めの条件を伝えた次第だ(坂田 2013)。
山崎製パンに対する商品企画提案活動において第三に行われたのは、試作品づくりである。
ただし、これは学生たちが行ったものではなく、提案先企業に「やってもらった」ものである。
このことがもつ意味については、後述する。
第四に、試食及び改善点の抽出と改善提案である。山崎製パンに製作してもらった試作品を
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実際に食べてみて自分たちのイメージとどのように異なるのか、より納得感ある商品にするに はどうすれば良いかについて議論・検討した。
最後に行われたのは、プロモーション方法の検討である。特に実際に商品化が遂げられた 後、学生たちは自分たちでPOPを作成し、それをもってコンビニエンス・ストアやスーパーな ど百店舗ほどに什器への設置を依頼してまわった(写真3)。
中部・北陸の9県で1か月限定ながらも数万個販売された商品の企画がどのように行われたの かについて紹介してきた。そこでここでも、商品企画とは何かを考える際のポイントをいくつ か整理しておこう。ここでは差し当たり3つ挙げられる。第一に、カツまぶしの場合とは異な り、学生たちは自分たちが考えるポイントを企業から提示され、その範囲内で商品企画を行っ たということである。前述のコンセプトシートがこれにあたる。学生たちには一旦の作業ゴー ルとして商品名、想定売価、食シーン、ターゲット、パッケージイメージ、具材や中身などの 商品説明、企画者のこだわりポイントを考えれば良いということが提示され、学生たちはそれ に従って作業を進めることができた。
第二に、試作品づくりにおいて学生たちは自分たちの手を一切使っていないということであ る。もちろん、食材が用意されればそれを組み合わせるかたちで試作品(紛いのもの)をつく ることもできたかもしれない。しかし、カツまぶしの事例とは違って今回の作業では、学生た ちは頭の中にあるアイデアや考えを文字や絵にするという段階までしか行っていないのが実
写真 3 ランチパックで用いられた POP
態である。
第三に、そうはいっても学生たちは自分たち ができる範囲内でやれることはやったといえ る。具体的には、たとえば商品のパッケージデ ザインにおいても、巧拙抜きでいうなら自分た ちなりに作業を行っている(写真4)。プロのデ ザイナーがつくった完成版とは程遠いが、それ でも、イメージを伝えるための作業を懸命に行 おうとしたのは事実である。
Ⅱ - 3 .岐阜県山県市「集客リーフレット」の事例
3番目に紹介するのは2016年度に行われた岐阜県山県市に対する「集客リーフレット」の事 例である3。2003年4月1日に岐阜県の山県郡の高富町、伊自良村、美山町が合併し、人口3万 1千人の市として誕生したのが山県市である。岐阜市の北側に位置し、市内に鉄道路線は存在 しない。2016年に筆者が同市より観光促進加速化協議会の会長着任への依頼を受けたのが産学 連携活動の契機である。
この活動の最大の難関は、観光促進加速化協議会会長に就任した筆者だけでなく、ゼミ生も 全員、岐阜県山県市をそれまでに知りもしなかったというところにある。そこで、企画立案に 携わる学生たちやそれを指導する筆者が山県市のことを全く知らない状態では企画立案を行 いようもないことから、1泊2日の視察を行うことになった。視察には同市の観光協会や山県 市地域おこし協力隊、NPO法人ボランティア・サポートセンターの方々が協力して下さり、山 県市で観光名所となりうるエリアの紹介、宿泊・飲食施設の紹介などを行って下さった。
学生に課せられたテーマは「山県市に人が集まる方法や商品の企画」であり、最終報告は山 県市役所、山県市観光協会、山県市商工会議所、それに山県市内に支店をもつ十六銀行や大垣 共立銀行といった団体・企業の方々に対して行われた。視察を行ってから最終報告までの期間 は2ヶ月強であり、最終報告で認められたものに対して、2017年3月11・12日に岐阜駅構内で 行われた「春のやまがた観光物産フェア」で商品化が行われるという予定であった。
「なるべく若者を中心に山県市に来てもらいたい」というクライアントの要望が実現できる かどうかを検討するにあたり、学生たちは東海圏の学生を中心に364人にアンケートを行った。
結果、山県市を知らないと答えた割合は73.9 %、「山県市に行った経験がある」という回答は 5.3%と、絶望的なものであった。特に山県市に隣接する岐阜市民ですら山県市を知らなかった り行ったことがないと答えた学生が多数存在したことに、本活動の参加学生たちは大きな課題 写真4 学生が実際に作成したデザイン
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を感じたようである。そこで参加学生たちは、「自分たちが少しでも行きたくなるのはどうい う場所か」を掘り下げて考え、(1)知りもしないところに行きたくなるはずがない、(2)知っ たうえで何らかの魅力を感じなければ行きたいと思うわけがない、という2つの結論に至った。
そこから導き出されたのが、山県市の認知度を高める方法の検討と、山県市に魅力を感じても らえる商品の企画の2つである。
前者に関しては、あまり予算をかけずに山県市外の人に山県市を知ってもらうためにどうす れば良いかということで、比較的早い段階でリーフレットの作成が挙げられた。視察の際に自 分たちで撮影した写真をもとにレイアウトを作り、それを印刷業者の方に見せて修正点を指摘 され、改善する。そうして、パワーポイントを用いて手作りでリーフレットを作成し、それを 印刷業者の方の手によって実際のリーフレットへと完成してもらった(写真5)。一方で、山県 市の特産品を使った新商品を企画し、同市の食材を用いた餃子と肉巻きおにぎりの2つを企画 提案し、同市内にある農家の方々に手作りで実際の商品を作って頂いた。ここでは、カツまぶ しやランチパックの商品企画とは違った観点から商品企画について検討できる材料を提示す べく、リーフレットについて紹介することにしよう。
写真 5 リーフレット完成版表面
学生たちがリーフレットを検討するにおいて用いたのは、前述の通り、自分たちで撮影した 写真とパワーポイントである。それらをもとにリーフレットの原案を作成し、広告代理店とし ての実績もある印刷業者に当該原案を提示し、修正を重ねたうえで完成品を製作してもらうこ とになった。ここでポイントとなるのは、学生たちが当初考えていたリーフレット原案であ る。写真6を見ればわかる通り、当初リーフレットでは観光マップを載せるだけでなく、景品 付きのスタンプラリーを行うことを想定していた。これに関しては最終発表会に参加した関係 者から「人が集まるかどうかも分からないのに景品を用意するのは困難だ」との否定的な意見 が出たうえに、「本当にこの景品を目当てに人が集まるのか」という懐疑的な声も多数出てしま い、リーフレットの目的を「あわよくば(景品を目当てに)これを見て人が来てくれるもの」
から「とにかく山県市を知ってもらうもの」へと変更するに至った。また、学生が用いるソフ トがパワーポイントだけだったということからも、プロが使うソフトに比べてパンフレットの クオリティの違いは一目瞭然であろう。
最終的には完成版のリーフレットが前述の「春のやまがた観光物産フェア」で数百部配布さ れたものの、残念ながらその後、山県市が観光客を増やしたという数値はどこからも出ていな い。
写真 6 リーフレット原案
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Ⅲ.3 つの実例から検討できること
産学連携というかたちではあるが実際に商品企画を行った事例として、筆者が担当するゼミ での3つの事例を紹介した。紹介した3つの事例の商品企画としての優劣はここでは問題では ない。問題になるのは、学生が行った商品企画とは、何を行ったのかということである。順に 挙げていくことにしよう。
第一に、学生たちは商品名、想定売価、利用シーン、ターゲット、パッケージデザイン、具 材や中身といった企画商品に関するアイデアやイメージに対する自身の意見をもち、それを具 体化させるという作業を行った。このことから商品企画とは、発売する商品やサービスのアイ デアやイメージを具体化させる作業だということができそうである。もちろん、具体化させる アイデアやイメージは多岐にわたる。上記の他にも販売経路や販促方法、キャッチコピー、商 品の形状、場合によっては類似商品や競合商品の差別化ポイントなども具体化させていく項目 に含まれるかもしれない。
また、具体化させるアイデアやイメージは企画対象となる商品によって異なるだろう。たと えば弁当やパンの場合に必要となったパッケージデザインは自動車を企画するとなると必要 なくなるだろうし、逆に、燃費や乗り心地といった要素は食品の企画では当然求められるもの ではない。すなわち、アイデアやイメージのどの部分を具体化させるのかを決定することも商 品企画で求められることになる。
さらにいうならば、独自性の高い商品を企画しようと思ったなら、具体化させる項目の多寡 についても検討する必要がありそうである。たとえばカツまぶしの場合、名古屋名物であるひ つまぶしの食べ方にある「出汁をかける」という行為をかつ丼でも行えないかと考えた。する と、普通の弁当では必要とならない出汁を弁当にどのように添付するかを考えねばならない。
弁当の容器の中に液体である出汁入りの袋を入れてしまっては弁当を温める際にその袋が破 裂する恐れがあるからである。企画商品を具体化していくプロセスの中でアイデアからアイデ アが広がるというのも、商品企画では往々にして起こりうることである。
このように、何を具体化させるのかについては企画商品ごとに異なっているものの、アイデ アやイメージを可能な限り具体化させるというのが商品企画で行われる核となる部分である。
商品企画とは何を行うのかということで第二に、具体化されたアイデアやイメージの一つひ とつに対して根拠づけを行うという作業が挙げられる。ここでいう根拠づけというのは、「そ れ」で良いのだという根拠を調査によるデータや類似商品との比較、過去の経験など様々な 側面から提示することを意味する。何故その形状なのか、何故その価格なのか、何故そのター
ゲットを相手にその売り方をするのか、こういった「何故」に一つずつ答えられるようになる というのが、ここでの作業である。
商品企画は、それが企画段階である以上、実売された際に売れるという保証はどこにも存在 しない。一方、企画を提案された側は、その企画を実際に開発・製造・大量生産して販売する 際の保証を少しでも求めるものだ。そこで必要となるのが、この根拠づけの作業である。もち ろん、革新的な商品を企画しようと思ったならば、その革新性ゆえに根拠づけは困難なものに なるであろう(石井 1993、石井・石原編著 1996、古川 2018、坂田 近刊)。しかし、何ら根拠 のない企画を提案してしまっては、提案された側はその企画の良否を判断しようがない。まさ に「それ」で良いのだということを提案先に納得してもらうためにも、この作業が必要だとい える。
商品企画とは何を行うのかという最後の一つは、上記の「具体化」というものの中に試作品
(プロトタイプ)のような具体的な物体が含まれるということである。ただしこれは、あくま で可能な限りコストをかけずにという条件が付けられる。カツまぶしの場合、用意された食材 を用いて自分たちで試作品を作ったおかげで販売価格を1,500円に設定せずに済んだ。ランチ パックの事例の場合でいえば、山崎製パンが実際に試作品をいくつかつくってくれたおかげで 学生たちは自分たちがイメージしかもてなかった味や食感を具体的に味わうことができた。山 県市のリーフレットでいうなら、学生たち自身がパワーポイントを使って試作品をつくったか らこそ、景品付きのスタンプラリーの実現可能性について具体的に検討することができた。
このように試作品には、アイデアやイメージを一層具体化させ、完成度を高められるという 効果がある。一方、この試作品づくりに時間や資金を大量にかけてしまっては、販売するタイ ミングを失ってしまったり、「ここまで金をかけたのだからもう引き返せない」という桎梏を 課してしまうことになる。そのため、あくまでこの試作品づくりは極力コストをかけずにとい う条件付きのものになる4。
以上の3つを踏まえ、「商品企画とは、根拠を伴ったアイデアやイメージを具体化させる作業 であり、可能な限り試作品づくりまでも含めた作業である」と定義できるだろう。この定義に 従って考えたならば、商品企画の特徴として少なくとも2つのことが考えられる。それは第一 に、商品企画とはいつまで経っても可変的なものであるということである。すなわち、商品企 画はそれをもってして商品として完成するというものではなく、あくまで商品化の「種」でし かないということがいえそうだ。ランチパックの事例と山県市のリーフレットの事例が好例に なるだろう。
「ランチパック 4種のベリー入りクリームと4種のフルーツ入りクリーム」の場合、当初、
ゼミ生たちが属する中京大学がある八事地区にかけて「ランチパック 八種のフルーツクリー
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ム」という商品名が提案されていた。しかし実際に試作品の試食をするうちに、8つのフルー ツと言われても食べた人にその8つが何なのかがハッキリ伝わりづらいという課題が見えたた め、完成直前に「4種と4種」というネーミングに差し替えられた。
また、前述の通り、山県市のリーフレットの企画において学生たちは、パワーポイントを用 いて自分たちのアイデアを徹底的に具体的なものにした。もちろんそれをコピー機を使って大 量印刷すれば、それで完成といえたかもしれない。しかし、そうすることなく試作段階で提案 先からの意見をもらうことによってリーフレットの目的を「あわよくば(景品を目当てに)こ れを見て人が来てくれるもの」から「とにかく山県市を知ってもらうもの」へと変更するよう になった。これら2つの事例で分かる通り、商品企画とは可変性を有した状態までの作業であ ると考えることができるのではないだろうか。
商品企画の特徴として2つめに、商品企画とはシーズ中心ではなくニーズ中心での思考様式 をもつものであるということが挙げられる。今回紹介した3つの事例はいずれも、学生という 企業「外」にいる者による商品企画であるため、シーズ発での作業が行えないということは明 らかである。しかし、企業「内」にいる、たとえば商品開発部の部員が商品企画を行う場合で も、シーズを中心とした思考様式に偏ってしまうことは避けるべきだというのがここでの指摘 である。もちろん、シーズ中心の商品企画を行ってはいけないというわけでも、シーズ発の商 品企画など存在しないなどというつもりもない。実際、企業がもつ技術的資源がもとになって 世に誕生した商品も存在しているのは事実である。
しかし、たとえシーズ発・シーズ中心の商品企画を行ったとしても、そこにニーズがあるの だということが明らかにならねば、商品企画を進めることは難しい。山県市のリーフレットを 配布する際、学生たちは関西や関東、最悪でも愛知県での配布にこだわった。しかし当初、提 案先から提示された配布場所は最も簡単に配布ができるという理由で(=シーズがあるという 理由で)山県市の観光案内所であった。山県市に人がこないから作るリーフレットなのに山 県市内で配布するという矛盾! 最終的には折衷案として岐阜駅での配布になったわけだが、
シーズ中心の商品企画の恐ろしさが分かる好例ともいえよう。
Ⅳ.終わりに
本稿では商品企画とは何を行うことを意味するのかを明確にするために、筆者がゼミ生たち を指導する中で行った3つの産学連携活動を例に、実際の商品企画の事例を紹介した。そこか ら導き出された結論は、商品企画とは、根拠を伴ったアイデアやイメージを具体化させる作業
であり、可能な限り試作品づくりまでも含めた作業というものであった。そのうえで、このア イデアやイメージとは最後まで可変的なものであり、かつ、シーズではなくニーズを中心に据 えて考えるべきものだと説明した。
しかしながら本稿では、商品企画と最も近接している製品開発論の知見に関する検討は全く 行われていない。そのため、製品開発論のレビューを重ねたうえでの「商品企画」概念の精緻 化については、項を改めたいと思う5。
商品企画という概念自体はこれまでにビジネス書をはじめ多くの書物・論文で用いられてき たが、その定義が厳密に行われたことはない。本稿における定義が過不足なく完璧なものであ るかどうかは今後の議論を待つより他ないが、商品企画をビジネス的な観点での手法としてで はなく、学術的な「商品企画論」として発展させていくためにも、今後も概念の定義を精緻化 させていく必要があるだろう。
【注】
1 商品企画に関連した学術領域として製品開発論では膨大な研究が既に進められている。しかしなが ら、製品開発論では伝統的に、商品企画を製品開発プロセスの一つの段階として議論に含めるものの、
「商品企画」と「製品開発」を厳密に区分することはなされてこなかった。このことを理解するために 製品開発論を網羅的に扱ったものとして、たとえば延岡(2002)を参照されたい。延岡(2002)の中 では商品企画を「製品コンセプト」を生み出すものであると位置づけている。また、原価企画等の開 発管理、要素技術開発、設計・開発、意匠デザイン、シミュレーション・テスト、製造技術・準備な どとともに「実際の製品へ具体化していくプロセス」の一部だととらえているが、その中身に関して は十分には議論されていない。
企画を開発プロセスの一段階にとらえるという論調は工学領域でも同様のことがいえそうである。
たとえば吉川・冨山(2000)は企画・設計・試作・研究開発・製造・販売という一連の中で企画から 研究開発までを製品開発と位置づけているものの、企画とはいかなるものかという議論をそれ以上に 深めることは行っていない。
2 商品企画を手法としてではなく学術的な商品企画論として扱うことの必要性を取り扱ったものとし て、坂田(近刊)が挙げられる。
3 集客用のリーフレットが「商品」の企画に該当するかどうかという議論もあるかと思うが、販売こそ されないものの集客という観点から利益を生み出すことからも、ここでの議論に含めている。
4 試作品(プロトタイプ)の必要性については東(2012)の指摘が参考になる。
5 仮説的にではあるが、製品開発と商品企画の違いとして、たとえば、製品開発では大量生産を行うた めの製造ラインに関する検討が行われるのに対して商品企画では製造ラインを十分に念頭に置かない
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ことがあるといった点、製品開発では企業・事業レベルでの分析・検討が行われることが多いが商品 企画に関する議論では個人・チーム単位での分析・検討が行われることが多い点などが挙げられるが、
そういった異同に関しては、今後、検討を深めていきたい。
【引用文献】
後藤こず恵・川合宏之(2016)「高大連携事業における商品開発の取り組み:明石商業高等学校の実践を 通して」『流通科学大学論叢』第29巻第1号、177-191頁。
古川一郎(2018)『マーケティング・リサーチのわな』有斐閣。
古舘プロジェクト編(2007)『企画術の教科書』インデックス・コミュニケーションズ。
東利一(2012)「プロトタイピング」、西川英彦・廣田章光編著『1からの商品企画』碩学舎、17-132頁。
石井淳蔵(1993)『マーケティングの神話』日本経済新聞社。
石井淳蔵・石原武政編著(1996)『マーケティング・ダイナミズム』白桃書房。
加藤昌治(2003)『考具』TBSブリタニカ。
西川英彦・廣田章光編著(2012)『1からの商品企画』碩学舎。
延岡健太郎(2002)『製品開発の知識』日経文庫。
坂田隆文(2013)「良い企画の条件」、中部経済新聞2013年10月30日付。
坂田隆文(近刊)「商品企画論という新研究領域:その必要性」、『総合政策論叢』第12巻。
髙橋広行(2014)「社会に役立つ学生の成長のために:実学(産学連携企画)を通じたゼミ活動」、『流通 科学大学教育支援センター紀要』第1号、13-36頁。
富田眞司(2007)『企画術』秀和システム。
吉川弘之・冨山哲男(2000)『設計学:ものづくりの理論』放送大学。
全国ビジネス系大学教育会議編著(2010)『社会人基礎力の育成とビジネス系大学教育』学文社。