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【同志社大学刑事判例研究会】少年につき禁錮以上 の刑に当たる罪として家庭裁判所から少年法二〇条 一項の送致を受けた事件をそれと事実の同一性が認 められる罰金以下の刑に当たる罪の事件として公訴 を提起することの許否

著者 佐藤 由梨

雑誌名 同志社法學

巻 69

号 1

ページ 247‑278

発行年 2017‑05‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000411

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    同志社法学 六九巻一号二四七二四七 ◆同志社大学刑事判例研究会◆

最高裁平成二五年(さ)第四号平成二六年一月二〇日判決、刑集六八巻一号七九頁、判時二二一五号一三六頁、判タ一三九九号九一頁

            ( )

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   同志社法学 六九巻一号二四八 二四八

Ⅰ   事 実 の 概 要 と 訴 訟 の 経 過

  平成二五年二月一四日、当時少年であった被告人は、平成二四年六月一一日午前一一時四二分頃、①公安委員会の運転免許を受けないで、群馬県伊勢崎市連取町一六一三番地付近道路において、普通乗用自動車を運転したという普通乗用自動車の無免許運転(法定刑は一年以下の懲役または三〇万円以下の罰金)の事実と、②法定の除外事由がないのに、道路標識により右折方向への車両の通行を禁止されている前記場所先交差点において、故意に普通乗用自動車を運転して右折通行したという故意による通行禁止場所通行(法定刑は三月以下の懲役または五万円以下の罰金)という二つの事実について、前橋家庭裁判所による検察官送致決定を受けた。

  送致を受けた伊勢崎区検察庁検察官は、②故意による通行禁止場所通行の罪については公訴を提起せず、①普通乗用自動車の無免許運転の事実のほか、③法定の除外事由がないのに、前記日時頃、道路標識により右折方向への車両の通行を禁止されている前記場所先交差点において、道路標識を認識しこれに従うべき注意義務があるのに、同標識を確認しなかった過失により通行禁止場所であることに気付かないで普通乗用自動車を運転して右折通行したという過失による通行禁止場所通行(法定刑は一〇万円以下の罰金)の事実について、平成二五年三月二六日に公訴を提起し、略式命令を請求した。

  平成二五年四月九日、公訴提起を受けた伊勢崎簡易裁判所は、被告人が、①普通乗用自動車の無免許運転と③過失による通行禁止場所通行の各罪を犯したとの事実を認定し、﹁適用した法令﹂として、刑法第四五条前段の併合罪、第四八条第二項の併科を示したうえ、被告人を罰金二〇万七千円に処する旨の略式命令を発付し、同命令は同月二六日に確定した。

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    同志社法学 六九巻一号二四九二四九   これに対して、検事総長は、③の過失による通行禁止場所通行の事実は、罰金以下の刑に当たる罪であり、少年法第二〇条第一項により刑事処分相当として検察官送致をすることができないものであって、少年法第四五条第五号ただし書により公訴を提起することは許されず、平成二五年四月九日に伊勢崎簡易裁判所が発付した略式命令は、審判が法令に違反し、かつ被告人のために不利益であることが明らかであるとして、略式命令を破棄したうえ、③の事実について公訴を棄却し、①の事実について被告人を罰金二〇万円に処する旨の判決を求めて、最高裁判所に対して以下のとおり非常上告を申し立てた。

。合易簡崎勢伊てしと罪を判と実事反違止禁折右裁併所請にるあでのもし)求た命式略(起提を訴令公 送庁区検察移検察官に勢崎免伊にもとと実事転運許無、しの同事検るよに失過の⑵前と実記転記察運は、前官⑴無免許 意くなはでつ故き事に実失過のによるものと認定し、前記⑴違反止禁告察官は、少年ある被で人結の右、果折のべ調取 事相分処事刑てせ併と実運定転許免無の⑴記前、しと当察認送検同たけ受を致送、し致にめ官と検庁察検方地橋前て認   ﹁犯七っあで年少のれま生日二と月八年三九九一は人告たこ意折故きつに実事反違止禁右ろ、は所判裁庭家橋前、被   しかしながら、前記⑵の過失による右折禁止違反事実については、法定刑が一〇万円以下の罰金のみの罪(道路交通法第一一九条第二項、第一項第一号の二)であり、少年法第二〇条第一項により、少年である被告人に対し刑事処分相当として検察官送致することができないのであるから、家庭裁判所から検察官に送致された故意犯としての右折禁止違反事実と事実の同一性が認められるとしても、検察官は、同法第四五条第五号ただし書により公訴を提起(略式命令請求)することが許されなかったものである。なお、前記⑴の事実については、被告人が犯時一八歳九か月の年長少年であった上、普通乗用自動車の無免許運転という事案の悪質性に鑑み、それだけでも刑事処分相当と認められるので、同事実についての公訴提起(略式命令請求)は適法・有効であると思料する。

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   同志社法学 六九巻一号二五〇 二五〇

  そうすると、公訴提起(略式命令請求)を受けた伊勢崎簡易裁判所としては、刑事訴訟法第四六三条第一項により事件を通常の審判手続に移した上、判決をもって、前記⑵の過失による右折禁止違反事実については、同法第三三八条第四号により公訴を棄却し、前記⑴の無免許運転事実についてのみ有罪を言い渡すべきであった。にもかかわらず、同裁判所は、前記⑵事実についても有罪を認定して、前記⑴事実との併合罪(刑法第四五条前段)として被告人に罰金を科する略式命令を発付したものであるから、本件略式命令は、法令に違反し、かつ、被告人のため不利益であることが明らかである。

  よって、刑事訴訟法第四五四条、第四五八条第一号ただし書により、本件略式命令を破棄した上、前記⑵の過失による右折禁止違反事実につき公訴を棄却し、前記⑴の無免許運転事実につき被告人を罰金二〇万円に処する(ただし、少年法第五四条により、刑法第一八条の労役場留置の言渡しは求めない。)旨の判決を求めるため、非常上告を申し立てる次第である。﹂

Ⅱ   判 決 要 旨

  この申立てに対して、最高裁は次のように判示した。 条あ事の⑵記前、つか、りでは年少時当起提訴公記上は実、、件〇二法年少、らるあでか事刑金の以下の罰に当たる罪 で式略、し起提を訴公命察実事の⑵、⑴記前、は官を令認請れ庁人告被、しかし。るら求めがとこるあでのもたし検察 転所に実事のとたし行通を場り止禁行通りよに意故てしよ前運定区崎勢伊、がたけ受を決橋致送官察検の所判裁庭家検   ﹁を一の実事の⑴記前、日四月か二年五二成平、は人告ほ、車め動自用乗通普、るれら認前が性一同と実事の⑵記被

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    同志社法学 六九巻一号二五一二五一 一項の趣旨に照らし、検察官が家庭裁判所から送致を受けた故意による通行禁止違反の事実と同一性が認められるからといって、公訴を提起することは許されなかったものと解するほかはない。そうすると、略式命令の請求を受けた伊勢崎簡易裁判所は、前記⑵の事実につき刑訴法四六三条一項、三三八条四号により公訴棄却の判決をすべきであった。これをしなかった原略式命令は、法令に違反し、かつ、被告人のために不利益であることが明らかである。 

  よって、本件非常上告は理由があるから、刑訴法四五八条一号により原略式命令を破棄し、原略式命令の罪となるべき事実中、被告人が普通乗用自動車を運転して過失により通行禁止場所を通行したとの事実につき、同法三三八条四号により公訴を棄却し、その余の原略式命令によって確定された事実につき、被告人の所為は、平成二五年法律第四三号による改正前の道路交通法一一七条の四第二号、六四条に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、その所定金額の範囲内で被告人を罰金二〇万円に処し、被告人は原略式命令当時少年であったから、少年法五四条により労役場留置の言渡しをしないこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。﹂

Ⅲ   研   究

  一  問題の所在

  本件は、家庭裁判所が、少年である被告人を、①普通乗用自動車の無免許運転の罪と、②普通乗用自動車を運転して故意により通行禁止場所を通行した罪という、いずれも禁錮以上の刑に当たる罪の事件について検察官へ送致したところ、送致を受けた検察官が、②故意による通行禁止違反の事実をこれと事実の同一性が認められる罰金以下の刑に当たる罪である③過失による通行禁止違反の事実へ認定を替えて、①無免許運転の罪と③過失による通行禁止場所通行の罪

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   同志社法学 六九巻一号二五二 二五二

として公訴提起・略式命令請求をし、当該請求が認められて略式命令が確定したことに対して非常上告が申し立てられた事案であり、以下の四点が問題になると考えられる 1

  第一に、検察官が、家庭裁判所より送致を受けた事件について公訴を提起する場合、送致決定書に記載された送致罪名や罰条に拘束されるかという点が問題となる。少年法四五条五号は、﹁検察官は、家庭裁判所から送致を受けた事件について、公訴を提起するに足りる犯罪の嫌疑があると思料する時は、公訴を提起しなければならない﹂旨を規定している。この規定のため、検察官は家庭裁判所から送致された事件でなければ公訴を提起することができず、また、家庭裁判所から送致された事件について嫌疑があると思料するときは公訴の提起が強制されることになる。さらに、少年事件では、事件が家庭裁判所から検察官へ送致されたことが訴訟条件となることから、送致された事件の内容と送致事件の範囲が明確にされる必要がある。そのため、少年審判規則二四条は、家庭裁判所が検察官に事件を送致する際、罪となるべき事実および罰条を明示することを求めている。このことから、本件では、検察官は、家庭裁判所が検察官へ送致した故意による通行禁止場所通行罪でしか公訴提起することができないのか、すなわち、検察官は、過失による通行禁止場所通行罪の事実に認定を替えて公訴提起することが可能かという点が問題になる。

  第二に、検察官が禁錮以上の刑に当たる罪として送致を受けた事件を、事実の同一性が認められる罰金以下の刑に当たる罪の事件として公訴提起することは許されるかということが問題になる。少年法二〇条一項は、﹁家庭裁判所は、死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件について、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは、決定をもつて、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない﹂旨を規定し、家庭裁判所が検察官に送致することができる事件を﹁禁錮以上の刑に当たる罪の事件﹂に限定し、罰金または科料だけの罪の事件は送致できないことを定めている 2

。本件では、禁錮以上の刑に当たる罪として家庭裁判所から送致された故意に

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    同志社法学 六九巻一号二五三二五三 よる通行禁止場所の通行の事実については犯罪の嫌疑が認められなかった。そこで、検察官は、事実の同一性が認められる罰金以下の刑に当たる罪の事件である過失による通行禁止場所の通行の事実へ認定を替えて公訴を提起した。しかし、少年法二〇条一項が検察官送致できる事件を禁錮以上の刑に限定している以上、検察官が公訴を提起できるのも禁錮以上の刑に限られるのではないかという点が問題になる。

  第三に、検察官送致決定を受けた複数の事実の一部について、検察官が公訴を提起するに足る嫌疑を認めなかった場合に、残余の事実のみで公訴を提起することが可能かという点も問題になる。少年法四五条五号ただし書は、送致された事件の一部について犯罪の嫌疑が認められない場合には、残余の事件に嫌疑が認められても検察官は起訴を強制されないことを定めている。また、少年法四二条一項本文は、少年法四五条五号ただし書の起訴強制の例外に当たると思料する場合、検察官は家庭裁判所に事件を再送致しなければならないとしている。本件は、検察官送致された二つの事実のうち、②故意による通行禁止違反の事実については、犯罪の嫌疑が認められなかった。そこで、検察官は③過失による通行禁止違反の事件として公訴を提起したが、罰金以下の刑に当たる罪であることから公訴を提起することが許されなかったことが明らかになり、③過失による通行禁止違反の事件についての公訴は棄却された。そのため、残余の事実である①無免許運転の事実について家庭裁判所への再送致を経ずに公訴が提起された点まで違法と判断されるかが問題になる。

  第四に、本件において最高裁は、非常上告に対してなされる判決として、刑訴法四五八条一号ただし書を適用し、﹁原判決が被告人のために不利益である﹂として原略式命令を破棄し、公訴棄却の判決を言い渡した。しかし、被告人は判決言い渡しの時点で満二〇歳に達していたことから、公訴棄却の後、検察官は事件を家庭裁判所に送致することなく再起訴することができ、再起訴によって原判決より重い刑が言い渡される可能性もあった。そのため、﹁原判決が被告人

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   同志社法学 六九巻一号二五四 二五四

のために不利益である﹂といえるのかという点が問題となる。

  二  家庭裁判所の検察官送致決定の拘束力

  ⑴   判 例 の 動 向

   検察官が、家庭裁判所から送致を受けた事件について公訴を提起する場合、家庭裁判所の送致罪名や罰条に拘束されるかという問題について判断を示した最高裁判例は存在しない。しかし、下級審においては、札幌高裁昭和二八年三月三日判決 3

が存在する。本件は、旭川家庭裁判所から検察官へ強姦罪として送致された事件について、検察官が、第一回公判期日において、﹁強いて同女を姦淫したものであり﹂との訴因を、﹁強いて同女を姦淫し、その際同女に処女膜裂傷の傷害を与えたものである﹂という強姦致傷罪の訴因に変更したという、強姦罪から強姦致傷罪への訴因変更の可否が争われた事案であった。札幌高裁は、﹁少年法第二〇条により家庭裁判所が事件を検察官に送致するのは罪質及び情状に照し少年に対し保護処分を相当とせず刑事処分を相当と認めるからであって、送致を受けた検察官は送致決定内容に拘束されるものではないと解するので、強姦罪罰条刑法第一七七条として起訴し被告人が少年時である原審第一回公判期日において、これを前記のとおり訴因を強姦致傷に罰条を刑法第一八一条に変更するも公訴事実の同一性を害するものでもなく又不法に公訴を受理した違法はないものである﹂と判示して、送致を受けた検察官は送致決定内容に拘束されないことを明らかにした 4

。また、東京高裁平成一五年五月二七日判決 5

は、﹁家庭裁判所の逆送決定における刑事処分相当との判断は、検察官を拘束し、原則として起訴を強制するが、そのことから、検察官が送致を受けた事件について公訴を提起する場合に送致罪名、罰条に拘束されることを帰結するものではない。なぜならば、少年審判手続においては、そもそも刑事訴訟の訴因に相当する概念がなく、家庭裁判所が検察官に事件を送致する場合にも、罪となるべき事実と罰条を示すことを義務づけられているが、訴因を明示して記載すべきことまでは求められていない

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    同志社法学 六九巻一号二五五二五五 (少年審判規則二四条参照)のであるから、検察官に対し、送致罪名・罰条に拘束力を認めるべき法的な根拠が存するわけではないのである。実質的に考えてみても、逆送され、原則として起訴が強制される事件であっても、公訴の提起の権限及び維持の責任は、ひとえに検察官にあるのであるから、収集した証拠に基づき、立証の難易や処罰の必要性、その他の事情を勘案し、公訴事実の同一性の範囲内でどのような訴因に構成して起訴するかについて、検察官は主体的に決定する必要があるといえる﹂と判示し、検察官は検察官送致決定書記載の罪となるべき事実と基本的な事実関係において同一である範囲内において、その裁量に基づいて構成した訴因・罰条により公訴提起できるとの判断を示した 6

  ⑵   学 説 の 動 向

   学説においては、検察官は検察官送致決定書に﹁罪となるべき事実﹂および﹁罰条﹂として特定されている事件について起訴を強制されるが、家庭裁判所が認定送致した罪となるべき事実、罪名、罰条に拘束されるわけではなく、事実の同一性の範囲内においては検察官の認定に基づく別個の訴因、罰条で起訴することができるとの見解が通説となっており、これに対する異論は見られない 7

。検察官が送致罪名や罰条に拘束されない理由として、刑事裁判における訴因・罰条の設定は、当事者主義の原則に基づき、訴追官である検察官の専権事項であり、これは少年刑事事件においても維持されるものであるためと考えられている 8

  また、﹁事実の同一性﹂については、一般的に、刑訴法上の公訴事実の単一性、同一性の観念に従って判断してよいと考えられている 9

。その理由として、①少年法四二条による検察官から家庭裁判所への送致、二〇条による家庭裁判所から検察官への逆送、五五条による検察官から家庭裁判所への移送を媒介として、少年事件は刑事事件から保護事件へ、保護事件から刑事事件へ、さらに刑事事件から保護事件へと段階的に変化発展すること、②保護処分の決定があれば少年法四六条により刑事訴追が禁止されること、③確定した刑事実体判決の存在は審判条件の欠如をもたらすと解されることなど、両手続の関連性があげられる ₁₀

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   同志社法学 六九巻一号二五六 二五六

  ⑶   小   括

   以上の点をふまえれば、検察官が家庭裁判所より送致を受けた事件について公訴を提起する場合、家庭裁判所の送致罪名、罰条に拘束されるかという問題に関して、裁判例、学説ともに、検察官は送致された事件について家庭裁判所の送致罪名・罰条に拘束されず、送致された事件と公訴を提起する事件に事実の同一性があれば、検察官の認定した訴因・罰条で公訴を提起してもよいと理解しているといえる。

  本件では、禁錮以上の刑に当たる罪として検察官送致を受けた故意の通行禁止違反の事実と、検察官が認定した過失による通行禁止違反の事実は、故意であったか過失であったかという主観的要件に違いがあるのみであり、基本的な事実関係は同一であるといえ、事実の同一性は認められる。そこで、次に、事実の同一性が認められる限り、送致決定書に記載された罪名と異なる罪名で起訴することは可能であることを前提に、検察官は送致事実と同一性が認められる罰金以下の刑に当たる罪について公訴提起できるのかが問題となる。

  三  罰金以下の刑に当たる罪の公訴提起の許否

  ⑴   判 例 の 動 向

   少年である被告人について、罰金以下の刑に当たる罪で公訴が提起され、略式命令の請求がなされて命令が確定したことに対して非常上告が申し立てられた事件として、最高裁昭和四二年六月二〇日判決 ₁₁

がある。この事案は、少年である被告人が罰金以下の刑に当たる罪である駐車違反の罪を犯したことについて、少年事件として家庭裁判所へ送致すべきであったにもかかわらず誤って検察官送致され、検察官も家庭裁判所の送致決定がないままにこれを起訴し、略式命令が確定したというものであった。最高裁は、﹁被告人に対して本件公訴の提起された昭和四一年一〇月二一日当時には、被告人は少年であって、公訴を提起するためには、家庭裁判所の送致決定を経ることを要したところ、右送致決定のなされた事実は認められない。⋮⋮しかも、本件は罰金のみにあたる罪であるから、被告人が少

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    同志社法学 六九巻一号二五七二五七 年である限り、たとえ家庭裁判所が事件の送致を受けても、刑事処分を相当と認めてこれを検察官に送致することは法律上許されない場合であった﹂旨判示し、略式命令を破棄し、公訴棄却を言い渡した。

  また、最高裁平成四年九月八日判決 ₁₂

は、罰金以下の刑に当たる罪である夜間の長時間駐車の罪を犯した少年の事件を、家庭裁判所が少年法二〇条に違反して検察官に送致し、検察官が公訴を提起して略式命令を請求したところ命令が発付され、これが確定したことについて非常上告が申し立てられた事案に関するものであったが、最高裁は、﹁本件違反行為は、罰金以下の刑に当たる罪であるから、少年法二〇条により検察官への送致をすることができない事案であった。⋮⋮そうすると、本件公訴事実については刑事処分として公訴を提起することが許されないものである﹂旨判示し、略式命令を破棄して、公訴を棄却した。

  ただし、これらの最高裁判決は、家庭裁判所の送致決定を受けることなく検察官が公訴を提起した事案と、家庭裁判所からの検察官送致はあるものの当該送致決定自体が違法であった事案であり、いずれも、公訴提起以前の検察官送致の段階に違法が認められる事案である。ゆえに、禁錮以上の刑に当たる罪として検察官送致がなされた後に、罰金以下の刑に当たる罪に認定を替えて公訴が提起された本件とは若干異なるものと思われる。したがって、本件と同様の事案に関する最高裁判決はこれまで存在せず、下級審の裁判例である奈良簡裁昭和三八年一一月一一日判決 ₁₃

が存在しているだけであった。本判決は、少年であった被告人が、禁錮以上の刑に当たる罪である故意による通行禁止違反の罪を犯したとして検察官送致され、検察官において、事実の同一性が認められる罰金以下の刑に当たる罪である過失による通行禁止違反の罪について公訴の提起がなされた事案に関するものであった。奈良簡裁は、﹁本件公訴事実と家庭裁判所から検察官へ送致のあった事実、即ち故意犯の事実との間に公訴事実の同一性は認められるとしても、少年法第二〇条の規定に照らすとき、本件公訴事実については家庭裁判所から検察官への送致決定はなかったものとみるべきであり、且

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   同志社法学 六九巻一号二五八 二五八

つ少年法第二〇条および第四五条第五号によると公訴提起の余地自体を許さないものであると解さなければならない﹂旨判示して、公訴を棄却した。

  ⑵   学 説 の 動 向

   学説においては、﹁公訴提起を義務付けられるのは検察官送致決定書に記載された事件であるが、訴因の拘束はないので、その犯罪事実と事実の同一性があればよく、罰条には拘束されない。捜査の結果、事実の同一性がないことが判明したときは、検察官は改めて事件を家庭裁判所に送致しなければならない。罰金以下の刑に当たると判明した場合も同様である ₁₄

﹂として、検察官が罰金以下の刑に当たる罪と認定した場合には公訴提起自体が許されないとまでは明示していないものの、家庭裁判所に送致しなければならないとしていることから、公訴提起が許されないとの趣旨であると推測できる見解がある。また、検察官が公訴を提起するにあたり、送致決定書どおりの犯罪事実、罰条に拘束されることにはならないことを前提に、﹁検察官は、事実に同一性がある限り、自己の認定にしたがい、たとえば、恐喝として家庭裁判所から送致された事件について、詐欺罪によって起訴してさしつかえない。但し、罰金以下の刑にあたる罪であると認めるに至れば、公訴提起できず、家庭裁判所に再送致すべきであろう ₁₅

﹂として、検察官は罰金以下の刑に当たる罪について公訴を提起できないことを明言する見解も存在する。したがって、学説においては、検察官が罰金以下の刑に当たる罪であることを認めた場合には、公訴を提起することはできず、家庭裁判所へ再送致しなければならないと考えられてきた。

  もっとも、罰金以下の刑に当たる罪の事件であっても、禁錮以上の刑に当たる罪の事件と併せてであれば検察官送致できるのではないかという、いわゆる一括検送の可否については従来から議論がなされてきた。この点について学説では、罰金以下の刑に当たる罪の事件と禁錮以上の刑に当たる罪の事件が科刑上一罪の関係にある場合には、全体として禁錮以上の刑に当たるかどうかを判断することになる ₁₆

ことから、罰金以下の刑に当たる罪が含まれていても検察官送致

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    同志社法学 六九巻一号二五九二五九 ができると解されている ₁₇

。他方で、両事件が併合罪の関係にある場合は、検察官送致の要件を具備しているか否かは事件ごとに判断すべきであるから、一括検送することができないとする消極説 ₁₈

と、刑事処分相当性の判断は要保護性と同様、非行事実単位のみでは割り切れない面もあり、一括処理の必要性・合理性が認められること、また、実務上は、交通関係事件等について、罰金刑を相当と判断して行われる﹁罰金見込検送﹂が多数行われている ₁₉

実情も考慮して、両事件が併合罪の関係にある場合であっても併せて検察官送致を認める積極説 ₂₀

とが対立しており、このうち消極説が通説となっている。

  ⑶   本 判 決 の 理 解 ・ 評 価

   本件と類似の事案について判断を下した奈良簡裁昭和三八年一一月一一日判決は、﹁少年法第二〇条の規定に照らすとき、本件公訴事実については家庭裁判所から検察官への送致決定はなかったものとみるべきであり、且つ少年法第二〇条および第四五条第五号によると公訴提起の余地自体を許さないものであると解さなければならない﹂と判示し、公訴提起の違法の理由を、家庭裁判所からの適法な送致がなかった点に求め、適法な送致がなかった以上、検察官は公訴を提起することが許されなかったと理由づけているように思われる ₂₁

。そのため、本判決を奈良簡裁昭和三八年一一月一一日判決と同様に、仮に家庭裁判所が過失による通行禁止違反の事実を認定していれば、検察官送致はできなかったはずであるから、形式的には適法な検察官送致がなされていても、実質的にみて訴訟条件を欠くものとして公訴棄却すべきであったと判断したものであると理解する見解もある ₂₂

。これに対して、奈良簡裁昭和三八年一一月一一日判決の事案は、家庭裁判所からの検察官送致自体は適法になされており、かつ、送致事実である故意による通行禁止違反の事実と公訴が提起された事実である過失による通行禁止違反の事実との間に事実の同一性が認められることからすると、奈良簡裁が家庭裁判所から適切な送致がなかったことを理由に公訴提起を違法と判断したことには疑問があるとする見解も示されている ₂₃

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   同志社法学 六九巻一号二六〇 二六〇

  本件では、奈良簡裁判決と異なり、最高裁は、﹁本件公訴事実については家庭裁判所から検察官への送致決定はなかったものとみるべき﹂との判示をしなかった。これは、本件では、家庭裁判所は、検察官送致決定の時点では、被告人が禁錮以上の刑に当たる罪である故意による通行禁止違反を犯したと認定している以上、検察官送致を違法として、﹁検察官への送致決定はなかった﹂とみるには無理があるとの考慮が働いたためと思われる ₂₄

。本判決についての評釈においても、本件は、家庭裁判所から検察官への送致決定自体は適法になされており、検察官送致後の捜査によって、過失による通行禁止違反の罪であることが判明した事案であったとの理解が多数を占めている ₂₅

  本件が、検察官が家庭裁判所から適法に送致を受けた事案であり、送致された事実と公訴提起された事実との間に事実の同一性が認められることに鑑みると、検察官の公訴提起は許されると言うことも可能であるように思われる。しかし、最高裁は、罰金以下の刑に当たる罪の事件については、﹁少年法二〇条一項の趣旨﹂を理由に公訴提起は許されないと判断した。

  少年法二〇条一項は、逆送の対象となる事件を﹁死刑、懲役又は禁錮に当たる罪﹂に限定し、対象事件に一律に法定刑に基づく制約を課している。その理由として、法定刑として罰金以下の刑しか規定されていないような軽微な事件についてまで刑事処分を行い、少年を前科者とすることは適当でないと考えられたこと、また、罰金刑の教育的効果についても刑事学の立場から少なからぬ疑問がもたれていたことが挙げられている ₂₆

。つまり、少年法二〇条一項は、禁錮以上の刑に当たる比較的法定刑が重い罪の事件のうち、その罪質および情状からみて刑事処分が相当であると認められた事件についてのみ、家庭裁判所から検察官に送致されて刑罰の対象となるべきであり、罰金以下の刑に当たる罪の事件については、類型的に刑事処分は相当ではないと考えているものと思われる ₂₇

  問題は、少年法二〇条一項が送致の対象となる事件に対して一律に課している法定刑に基づく制約は、検察官の公訴

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    同志社法学 六九巻一号二六一二六一 提起に対しても及ぶのかという点にある。現行少年法は、豊かな教育可能性を有している二〇歳未満の少年については、専門機関である家庭裁判所に要保護性の判断を全面的に委ねるべきであることから、全ての少年被疑事件を家庭裁判所に送致しなければならないとする全件送致主義を採用するとともに、家庭裁判所の専門的・科学的調査の結果、刑事処分相当と認められた場合にのみ、検察官は公訴提起をすることができるとする家庭裁判所先議の原則を採用している。このように、現行少年法は、専門機関である家庭裁判所の判断に対する尊重を基に制度が設計されており、それゆえに、家庭裁判所から送致を受けた事件について公訴を提起するに足る犯罪の嫌疑があると思料する限り、検察官は原則として公訴提起を義務づけられるという起訴強制の構造が採られ、刑事訴訟法上の起訴便宜主義に対する例外が認められているのである。このような少年法の構造に鑑みれば、少年法二〇条一項が家庭裁判所に対して検察官送致の対象となる事件に関して一律に課している法定刑に基づく制約は、検察官の公訴提起に対しても及ぶと考えるのが自然であろう。また、少年法四一条は、﹁司法警察員は、少年の被疑事件について捜査を遂げた結果、罰金以下の刑にあたる犯罪の嫌疑があるものと思料するときは、これを家庭裁判所に送致しなければならない﹂と規定し、罰金以下の刑に当たる罪については家庭裁判所への送致を義務づけ、検察官への送致を不可としている。検察官への送致を不可とするのは、罰金以下の刑に当たる罪の事件は少年法二〇条一項により検察官送致の対象とならないことから、検察官が刑事事件として扱う可能性がない以上、検察官が捜査に関与することを省略しても差し支えないと考えられるためである ₂₈

。したがって、罰金以下の刑に当たる罪の事件については、類型的に検察官の公訴提起が想定されていないという少年法二〇条一項の趣旨を理由に公訴提起が許されないとした本判決の帰結は、罰金以下の刑に当たる罪の事件と禁錮以上の刑に当たる罪の事件との取扱いに差を設けている少年法四一条とも整合的であり、正当と評価することができると思われる。

  本判決に関する評釈においても、禁錮以上の刑に当たる罪の事件として検察官送致を受け、捜査の結果、これが罰金

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   同志社法学 六九巻一号二六二 二六二

以下の刑に当たる罪の事件であることが判明したにもかかわらず公訴の提起が許されるとすれば、被告人である少年は本来受ける必要がなかった刑罰を受けることとなり不合理であること ₂₉

、また、検察官送致の対象から除外している罪の事件を起訴できるとすれば法の趣旨を潜脱することになることなどを理由に、最高裁の下した結論が支持されている ₃₀

  すでに述べたとおり、罰金以下の刑に当たる罪の事件であっても、禁錮以上の刑に当たる罪の事件と併せてであれば検察官送致できるのではないかという、一括検送の可否については学説上争いがあった。本件は、略式命令が適用した法令として刑法四五条前段を明示していることから、禁錮以上の刑に当たる罪の事件と罰金以下の刑に当たる罪の事件とが併合罪の関係にあった事案である。本判決では、禁錮以上の刑に当たる罪である無免許運転の罪と、罰金以下の刑に当たる罪である過失による通行禁止場所通行の罪を併せて公訴提起することが認められなかったことから、実務上は、両事件が併合罪の関係にある場合の一括検送は許されないことが明確になったと言うことができる ₃₁

。ただし、本判決は、両事件が科刑上一罪の関係に立つ場合まで射程に含むものではないと思われる ₃₂

  四  残余事実での公訴提起の可否

  本件では、家庭裁判所から検察官へ送致された無免許運転の罪と故意による通行禁止違反の罪という二つの事件のうち、故意による通行禁止違反の罪については、検察官が過失による通行禁止違反の罪に認定を替えてこれを起訴したが、少年法二〇条一項の趣旨に反するとして公訴を棄却するとの判断がなされた。そこで、検察官送致決定を受けた複数の事実の一部について検察官が公訴を提起するに足る嫌疑を認めなかった場合に、残余事実である無免許運転罪だけを家庭裁判所への再送致を経ることなく公訴提起することが可能であるかという問題が生じることになる。

  ⑴   判 例 の 動 向

   この点に関する裁判例としては、東京高裁昭和六〇年一二月九日判決 ₃₃

が、﹁家庭裁判所から送致

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    同志社法学 六九巻一号二六三二六三 を受けた事件の一部について右(四五条五号)但書の事由があり、その余の事実のみではいわゆる起訴価値のないことが明白であるような特段の事情がある場合には格別、起訴された事件自体が起訴価値を有するものである場合には、受訴裁判所としては、当該起訴を公訴提起の手続がその規定に違反し無効であるとするいわれはないというべきである﹂旨判示し、残余の事実について公訴の提起を認めるとの判断をした。

  他方で、検察官送致決定のなされた数個の事実中、一部について公訴を提起するに足りる犯罪の嫌疑が認められない場合に、全ての事件を家庭裁判所へ再送致したものを適法とした神戸家裁昭和四六年二月一二日決定 ₃₄

や、残余の事実のみで公訴を提起した検察官の措置には疑問があるとして、事件を少年法五五条により家庭裁判所に移送した枚方簡裁昭和五七年五月七日決定 ₃₅

などは、検察官による残余事実の公訴提起を認めず、家庭裁判所に再送致することが必要と解したと考えられる判例であり、裁判例の方向性は固まっていなかった。

  ⑵   学 説 の 動 向

   この問題について、学説においては三つの見解が対立している。   積極説は、検察官は自身の裁量で残余事実だけで公訴を提起することができ、家庭裁判所への再送致の必要はないとする ₃₆

。その根拠は、起訴強制の例外を規定する少年法四五条五号ただし書を、﹁事件の一部について犯罪の嫌疑がない場合であっても、検察官が残余事実だけで訴追が相当であると思料するときは、公訴を提起できる﹂と解釈することに求められる ₃₇

。また、実質的な根拠として、送致事件の一部について嫌疑が認められない場合に家庭裁判所へ再送致することを求めることによって、少年に手続の重複や身柄事件の場合の身柄拘束の長期化などの負担を負わせることになってしまうという点を挙げており、実際的な妥当性が認められると考えられている。他方で、家庭裁判所への再送致を経ることなく検察官の裁量によって残余事実について公訴提起することは、家庭裁判所先議の建前を揺るがすことになるのではないかとの懸念が残る ₃₈

参照

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