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九州大学学術情報リポジトリ

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Academic year: 2021

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

肝臓移植術後の免疫抑制療法に関連する腎障害の要 因分析ならびに腎障害対策の構築に関する研究

福田, 未音

https://doi.org/10.15017/4060100

出版情報:九州大学, 2019, 博士(臨床薬学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

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(様式9-3) 論文審査の結果の要旨の記入要領

論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨

タクロリムスは、肝臓移植領域において現在最も汎用される代表的な免疫抑制薬であり、血中濃度モ ニタリング (therapeutic drug monitoring, TDM) に基づく精密な用量調節が行われているが、腎障害を引 き起こすことが問題となっている。そのため九州大学病院(当院)では、腎障害を軽減させる目的で、

腎毒性の少ないミコフェノール酸モフェチル (MMF) を術後1日目より用いて、術後2-3日目よりタク ロリムスを開始するプロトコルで診療を行っている。通常、腎機能の指標としては、血清クレアチニン

(Scr) 値が用いられるが、薬剤性腎障害に対して特異性が高くないことが指摘されており、近年、タクロリ

ムス誘発性腎障害を反映する指標としてNeutrophil gelatinase-associated lipocalin (NGAL) の有用性が報 告されている。しかし、当院のプロトコルにおいてNGALが腎障害の指標となるかどうかは不明である。

さらに、当院ではカプセルと懸濁散の2つの剤形のMMF製剤が使用されているが、術後1日目のMMF 製剤の体内動態に関する十分な情報がないのが現状である。一方、タクロリムスの体内動態においては、

その代謝酵素であるチトクロムP450 (CYP) 3A5や補酵素であるPORの遺伝的多型性が個人差を考える 上で有用な情報とされている。しかしながら、肝臓移植領域において患者・ドナー双方のCYP3A5及び

POR28遺伝子多型のタクロリムスの代謝に及ぼす影響については報告されていない。

以上の背景をふまえ、本研究では、肝臓移植後免疫抑制療法におけるタクロリムス誘発性腎障害に着 目し、適切な診断のための分子生物学的指標の探索、腎臓に対する毒性の少ない免疫抑制療法における 薬物動態の検討、さらに周術期免疫抑制療法の個別化実現を目的として、遺伝子多型情報の影響につい て解析を行い、以下の新知見を得た。

26名の生体肝移植患者を対象に、タクロリムス誘発性AKI(acute kidney injury)群と非AKI群に分 け、AKI のバイオマーカーとして報告されている Neutrophil gelatinase-associated lipocalin (NGAL)、

Liver-type fatty acid binding protein (L-FABP)、Monocyte chemotactic protein-1 (MCP-1) に加え、CKDを 反映する尿中バイオマーカーとして報告されているhuman epididymis secretory protein 4 (HE4) の4分 子の挙動についてタクロリムスの投与前後で比較検討を行った。その結果、タクロリムス誘発性AKI 群でHE4の有意な上昇を認めたが、NGAL、L-FABP、MCP-1は両群間で有意な差は認められなかっ た。このことから、当院の免疫抑制療法においてはタクロリムスによる急性腎障害を検出するバイオ マーカーとして尿中NGALが有用ではないことが示された。また、タクロリムス誘発性AKI診断バ イオマーカーは免疫抑制療法に依存することが示唆された。

次にMMF製剤であるセルセプト®カプセル使用患者 8名 とセルセプト®懸濁用散31.8% 使用患者 6名)を対象に移植術後1 日目のミコフェノール酸の血中濃度を測定し、AUC0-12hを算出した。その

氏 名 福田 未音

論 文 名 肝臓移植術後の免疫抑制療法に関連する腎障害の要因 分析ならびに腎障害対策の構築に関する研究

論文調査委員 主 査 九州大学 准教授 江頭 伸昭 副 査 九州大学 教 授 家入 一郎 副 査 九州大学 准教授 廣田 豪 副 査 九州大学 講 師 小林 大介

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結果、カプセル群において血中濃度のピークが認められたのに対し、懸濁用散群では血中濃度のピー クが認められなかった。一方で AUC0-12h に有意な差は認められなかった。いずれの患者においても タクロリムス誘発性腎障害が認められなかったことから、剤型間においてミコフェノール酸の体内動 態は異なる可能性があるが、臨床効果には影響がない可能性が考えられた。

患者・ドナー65組(患者:65名、ドナー:65名)を対象とし、CYP3A5、POR28の遺伝子型判定を 行い、これらの情報がタクロリムスの体内動態に与える影響についてタクロリムスの血中濃度/投与量 (C/D, concentration/dose) 比 (以下、C/D) 比を用いて検討した。CYP3A5 機能型の患者において少なく とも1つのPOR*28対立遺伝子を有する患者は、POR*28を伴わない患者に比して術後2, 3週目にお いてタクロリムスのC/D比が有意に低かった。その一方でCYP3A5 機能型のドナーにおいては少なく とも1つのPOR*28対立遺伝子を有する患者は、POR*28を伴わない患者に比してタクロリムスのC/D 比が有意に高かった。しかし、重回帰分析の結果、術後1ヶ月間においてタクロリムスのC/D比に影 響を与える因子として、患者のCYP3A5遺伝子多型は認められたが、ドナーのCYP3A5遺伝子多型な らびに患者・ドナーのPOR28遺伝子多型は認められなかった。以上のことから、術後 1 ヶ月間のタ クロリムスの薬物動態において、POR28遺伝子多型についても少なからず関連している可能性が示さ

れたが、POR28遺伝子多型よりもむしろ患者のCYP3A5遺伝子多型の寄与度が高いことが示唆された。

以上の研究より、当院の肝臓移植後免疫抑制療法においてタクロリムス誘発性腎障害を診断するバイ オマーカーとしてNGALが有効でないことを示すとともに、診断バイオマーカーは免疫抑制療法に依存 することが示唆された。また、腎臓に対する毒性の少ない免疫抑制療法における薬物動態の検討として MMF製剤の術後1日目のAUC0-12hを測定し、国内の肝臓移植領域においてMMF製剤の投与1日目の 血中濃度の推移を初めて示した。さらに、肝臓移植における周術期のタクロリムス投与法の個別化実現 の発展においては、患者のCYP3A5遺伝子型を組み込むことが重要であること、POR28の遺伝子多型に ついても少なからず影響を考慮する必要性があることを示した。本研究成果は、肝臓移植術後の免疫抑 制療法に関連する腎障害の要因分析ならびに腎障害対策の構築、さらに周術期免疫抑制療法の個別化確 立に貢献するところが大きく、今後の臨床薬物治療学の発展に寄与すると考えられる。

よって、本論文は博士(臨床薬学)の学位に値すると認める。

参照

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