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潰瘍性大腸炎の治療指標としての局所薬物粘膜中濃 度の評価に関する研究
山本, 由貴
http://hdl.handle.net/2324/1931863
出版情報:Kyushu University, 2017, 博士(臨床薬学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Public access to the fulltext file is restricted for unavoidable reason (3)
潰瘍性大腸炎の治療指標としての局所薬物粘膜中濃度の評価に関する研究
臨床薬物治療学分野 3PS14022Y 山本由貴
【序論】
潰瘍性大腸炎は、大腸粘膜に潰瘍やびらんが生じることで下痢や粘血便を引き起こす慢性疾患で、寛解と再発を 繰り返す。薬物治療は、潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針(図 1)などに準じて行われるが、無効例や 劇症例などは手術となるため、病勢の進展は患
者のQOLに影響を及ぼす。
5-ASA(5-アミノサリチル酸)は基本治療薬で、
粘膜において高い濃度の維持が重要である
[1]。時間依存型製剤は、小腸から 5-ASA が放
出されるため、効果不十分とされてきた反面、
pH依存型製剤は、回腸から大腸で5-ASAが放 出されるため、効果改善が期待されている。そこ で、時間依存型及び pH 依存型製剤で大腸粘
膜中の 5-ASA 濃度が異なるかを明らかにした
上で、効果指標である clinical activity index
(CAI)との関連について調査を行った。
一方タクロリムスは、難治例に対する治療薬で、
副作用による中止や用量調節が困難なことが問題である。タクロリムスは、CYP3A4 や CYP3A5 で代謝を受け、
MDR1 multidrug resistance、別名ATP-binding cassette transporter [ABC] B1)遺伝子にコードされるP-糖タンパク質 (Pgp)にて排泄される。代謝にはCYP3A4よりCYP3A5の影響が大きいとされているが[2]、CYP3A5は多型を有し機 能発現型(CYP3A5*1)と機能欠損型(CYP3A5*3)で代謝速度が異なるため、臓器移植領域では多型に応じた用量 調節の必要性が指摘されている[3]。一方、Pgp は生体防御機構として機能しているため、Pgp の低下は病状悪化に 関係しているとされており[4, 5]、炎症の程度とPgp発現量の関係について調査が必要だと考えた。そこで、潰瘍性大 腸炎患者におけるMDR1発現量、タクロリムスによる臨床効果とCYP3A5遺伝子多型の関連について調査を行った。
【方法】
大腸粘膜採取は定期的な S 状結腸鏡検査の際に実施、書面による同意を得た上で行った。採取した粘膜生検試 料をマイクロチューブに入れ、速やかに液体窒素中で凍結した上で、分析まで-80℃で保存した。5-ASA と不活性代 謝物であるAc-5-ASA、タクロリムスの大腸粘膜中濃度測定にはLS-MS/MS法を用い、統計分析はGraphPad Prism®
を用いて行った。各製剤の服用量及びCAI、Mayo内視鏡所見分類は電子カルテより情報収集を行った。
1.5-ASA 及び Ac-5-ASA の C/D 比と臨床効果との関連
時間依存型製剤(1.5〜4.0g /日)または pH 依存型製剤(2.4〜4.8g /日)を服用していた患者のうち、注腸など局所
5-ASA製剤を使用していた患者を除いた77名を対象とした。
図 1 平成 28 年度潰瘍性大腸炎治療指針
2.タクロリムス治療における MDR1発現量及び CYP3A5 遺伝子多型の影響 タクロリムスによる治療を受けた患者33名を対象とした。
【結果】
1.潰瘍性大腸炎患者における体調粘膜中メサラジン濃度に及ぼす製剤の影響 1−1.5-ASA 濃度と CAI、5-ASA 濃度と投与量との関連
製剤に関わらず、5-ASA濃度とCAIの間には負の相関が見られ、5-ASA投与量と5-ASA濃度との間には正の相 関が見られた。また、両剤をほぼ同量で投与された場合、pH依存型で濃度がより高くなる傾向が見られた。
1−2.5-ASA 及び Ac-5-ASA の C/D 比と臨床効果との関連
CAI≦3の患者における粘膜中の5-ASA C/D比(中央値(範囲))は、pH依存型製剤と時間依存型製剤でそれぞれ 0.21(0.04-11.2)ng/mL•g、0.08(0.03-3.05)ng/mL•gであり、統計学的な有意差が見られ(P = 0.048)、CAI≧4の患者 においても、pH依存型製剤でより高い傾向が見られた(図2)。粘膜中の5-ASA/Ac-5-ASA(中央値(範囲))は、CAI に関わらず時間依存型に比べpH依存型製剤で高い傾向が見られた(図3)。
2.タクロリムス治療における MDR1発現量及び CYP3A5 遺伝子多型の影響 2−1.CYP3A4 及び CYP3A5、MDR1 mRNA の発現量
非炎症部の大腸粘膜において、CYP3A4に比べCYP3A5の mRNA 発現量が有意に多かった(P<0.0001)。また、非炎症部 及び炎症部のMDR1 mRNA発現量(中央値(範囲))は、それ ぞれ0.23(0.03-9.62) amol/µg、0.07(0.001-1.08) amol/µgであ り、炎症部が有意に少なかった(P<0.005)(図4)。
2−2.CYP3A5 遺伝子多型と血中濃度/投与量(C/D)
比との関係
CYP3A5 *1/*3とCYP3A5 *3/*3の血中濃度(mean ± SD)
は、9.22 ± 1.61 ng/mLと10.12 ± 2.77 ng/mLで有意差は見 られなかった。しかし投与量(mean ± SD)は、8.31 ± 2.55 mg/dayと4.69 ± 1.42 mg/day (mean ± SD)で、機能欠損型 で有意に少なく(P=0.0036)、C/D 比(median)も、0.93 と 2.46と機能欠損型で約2.5倍高かった(P=0.0076)(図5)。
図 2 CAI≦3 及び CAI≧4 患者での大腸粘膜中 5-ASA C/D 比 図 3 CAI≦3 及び CAI≧4 患者での大腸粘膜中 5-ASA/Ac-5-ASA
図 4 大腸粘膜中の CYP3A4 及び CYP3A5 mRNA の発現量(A)と 非炎症部と炎症部の MDR1 mRNA 発現量(B)
図 5 CYP3A5遺伝子多型とタクロリムス投与量(A)、 血中濃度(B)、C/D 比(C)との関係
図 8 タクロリムス大腸粘膜中濃度と C/D 比
2−3.CYP3A5 遺伝子多型と臨床効果との関係
タクロリムス投与開始日(day0)、投与開始 14 日目(day14)、投与開始 30 日目(day30)における CAI の推移は、
CYP3A5 *1/*1とCYP3A5 *1/*3の患者(図6A, C, E)と、CYP3A5 *3/*3の患者(図6B, D, F)で異なることが分かった。
またCAI変化率は、day0からday14ではCYP3A5 *3/*3で大きかったが(図7A)、day14からday30では
CYP3A5 *1/*1とCYP3A5 *1/*3でより高い変化率を示した(P=0.005)(図7B)。更に、タクロリムス内服後30ヶ月間に 生物学的製剤を使用した患者は、CYP3A5 *3/*3の患者で有意に少なかった(オッズ比=7.5)。
2−4.CYP3A5 遺伝子多型と大腸粘膜中タクロリムス濃度/投与量比との関係
生検時点の血中濃度(中央値(範囲))をCYP3A5*1/*1・CYP3A5*1/*3とCYP3A5*3/*3で比較したところ、それぞれ 9.4 (3.1-17.6) ng/mLと10.1 (7.3-11.6) ng/mLであり、有意差は
見られなかった。しかし、粘膜中濃度(中央値(範囲))は、0.046 (0.000-0.196) ng/mL と 0.080 (0.038-0.155) ng/mL で CYP3A5*3/*3 が約 2 倍高く、粘膜中濃度/投与量比(中央値
( 範 囲 ) ) は 、 0.007(0.000-0.025) ng/mL・mg と 0.012 (0.003-0.028) ng/mL・mgであり、CYP3A5*3/*3で有意に高かっ た(P=0.039)(図8)。
【考察】
1.5-ASA 及び Ac-5-ASA の C/D 比と臨床効果との関連
①大腸粘膜中の5-ASAの C/D比が時間依存型製剤に比べ pH依存型製剤でより高い傾向が見られたこと、②特 にCAI≦3の患者においては有意に高かったこと、③5-ASA/Ac-5-ASAの濃度比が pH依存型製剤で高くなる傾向 が見られたことは、DDS(drug delivery system)の特徴が効果に繋がった結果だと考えられる。過去の臨床研究[6, 7]
では、大腸遠位において、時間依存型製剤に比べpH依存型製剤がより高い効果を示すことが報告されており、本研 究結果と総合するとpH依存型製剤がより高い5-ASA濃度をもたらすことができたものと推察できる。一方で、pH依存 型製剤においてCAI≦3に比べCAI≧4で5-ASAのC/D比が若干低下しており、活動期における腸管内のpH低 下[8]が原因とも考えられるため、pH 依存型製剤の効果が不十分な場合、時間依存型製剤への変更や局所製剤の 併用も考慮される。また、いずれの製剤でも個体間で100倍以上の濃度差があり、NAT2やABCG2遺伝子多型[9, 10]
の影響も受けているものと考えられる。そのため、遺伝子多型と5-ASAの治療効果との関係は今後の研究課題と言え
図 7 タクロリムス開始後の day0〜14(A)と day14〜30(B)の CAI 変化率
図 6 タクロリムス開始後の CAI 推移
0 1 2 3 4
3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
0 1 2 3 4
3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
0 1 2 3 4
3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 0 1 2 3 4
3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
0 1 2 3 4
3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
0 1 2 3 4
3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
Mild Moderate Severe Mild Moderate Severe
Number of patients
CAI A
C CAI
E
B
D
F day0
day14
day30
1*/1*, 1*/3* 3*/3*
図 9 仮説:遺伝子多型によりタクロリムスの効 果に違いが生じる原因
る。
本研究は、5-ASA及びAc-5-ASA の粘膜濃度に関し、2つの異なる5-ASA 製剤で比較したのみならず、CAI≦3
の患者とCAI≧4の患者を比較した初めての研究である。今回、pH依存型製剤は大腸粘膜においてより高い5-ASA
濃度を達成することができ、それが効果に繋がっている可能性を示した。しかし、製剤の種類に関わらず、5-ASA 濃
度はNATの活性やABCG2の発現量に加え炎症の程度に左右される可能性があるため、適宜用量の調節や製剤の
変更が必要であると考えられる。また、様々なCAIおよびMayo内視鏡所見分類を有するより大きな患者集団を用い た更なる研究が必要であると考えられた。
2.タクロリムス治療における MDR1発現量及び CYP3A5 遺伝子多型の影響
まず、非炎症部に比べて炎症部でMDR1のmRNA発現量が低く、大腸粘膜においてCYP3A4より CYP3A5の mRNA発現量が高かった。またCYP3A5*1/*3患者に比べてCYP3A5*3/*3患者でタクロリムスのC/D比が約2.5倍 高かった。これらより、CYP3A5 遺伝子多型情報が、タクロリムスの初期投与量の決定にも有益な情報であると言える だろう。更に本研究では、CYP3A5*3/*3 患者で比較的早くタクロリムスの効果が現れる一方で、CYP3A5*1*1 と*1/*3 患者ではday14からday30にかけてCAIが大きく変化することが分かり、CYP3A5遺伝子多型情報によりタクロリムス による治療効果の評価時期を変える必要性があると考えられた。つまり、これらの違いは、図9に示すように治療効果 には血中濃度だけでなく大腸粘膜中濃度も影響している可能性があると考えられる。実際に本研究結果において、
多型間で血中濃度に差が見られていないにも関わらず粘膜中濃度及び粘 膜中C/D比は約2倍の違いがあったこと(図8)、生物学的製剤を導入した 患者の割合がCYP3A5*1*1と*1/*3で高かったことは、その仮説を証明する 1つではないかと考えられる。すでに肝臓移植では、CYP3A5遺伝子多型が 血中濃度だけでなく肝臓組織中濃度に影響を及ぼし急性拒絶反応のリスク ファクターとなっている可能性が示唆されており[11]、潰瘍性大腸炎に対して タクロリムスの坐薬や注腸の有効性に関する報告があることからも[12]裏 付けられる。
本研究は、CYP3A5遺伝子多型が臨床効果にも影響を及ぼすことを明らかにした初めての研究であり、遺伝子多型 により治療効果の評価時期を調節する必要性も示唆された。また、治療効果には患部組織中濃度も重要な役割を果 たしている可能性があることも発見した。
【引用文献】
1) Naganuma M, et al. Inflammatory bowel diseases.
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11) Uesugi M, et al. Pharmacogenet Genomics. 2014;
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12) van Dieren JM, et al. Inflamm Bowel Dis. 2009;
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Inflammation
CYP3A5( CYP3A5(
Tacrolimus(
(
Metabolites Immune(cells
*1/*3 *3/*3
Epithelial(cells