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Academic year: 2021

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

エピジェネティック制御機構に基づくヒト腎臓 SGLT2 遺伝子の発現調節機構の解明

武居, 宏明

https://doi.org/10.15017/1931848

出版情報:九州大学, 2017, 博士(創薬科学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

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氏 名 武居 宏明

論 文 名 エピジェネティック制御機構に基づくヒト腎臓 SGLT2 遺伝子の 発現調節機構の解明

論文調査委員 主 査 九州大学 教授 家入 一郎 副 査 九州大学 教授 大戸 茂弘 副 査 九州大学 准教授 松永 直哉 副 査 九州大学 准教授 廣田 豪

論文審査の結果の要旨

Sodium-glucose co-transporter 2 (SGLT2) は腎近位尿細管上皮細胞に特異的に発現するグルコースト ランスポーターであり、糸球体でろ過されたグルコースの再吸収に重要な役割を有している。これ までの報告により、SGLT2 の機能阻害によって、尿中のグルコース排泄の促進に伴う血糖降下作 用が認められていることや、2型糖尿病患者において SGLT2 遺伝子の発現量が変動することから、

2型糖尿病の治療ターゲットとして注目を集めている。このように、2型糖尿病における SGLT2 の 機能や重要性に関する報告が多くあがっている一方で、SGLT2 遺伝子の発現調節機構についての報 告は未だに少なく、2 型糖尿病患者の SGLT2 発現増加メカニズムについては情報が不足している 現状にある。そのため、SGLT2遺伝子の発現調節機構を解明することで、SGLT2 を基盤とした新 たな2型糖尿病の治療戦略の確立が期待される。本論文では、プロモーター領域のエピジェネティ ック制御による組織特異的な転写調節機構に着目し、ヒト腎臓における SGLT2 遺伝子の発現調節 機構の解明および2型糖尿病患者での SGLT2 遺伝子の発現変動機構の解明に向けた研究を行った。

第1章では、ヒト腎臓における SGLT2 遺伝子の発現調節に関与するヌクレオソーム占有状態およ び転写調節因子の同定とその機能評価について検討し、第2章では、グルコースがエピジェネティ ック制御を介して腎近位尿細管上皮細胞内の SGLT2 遺伝子発現に与える影響およびその制御機構 について検討を行った。

第1章では、これまでに SGLT2 の発現調節を担う転写因子の特定を試みた研究についてはいくつ か報告がある一方で、転写因子と SGLT2 の発現部位の相違から、転写因子のみでは腎臓特異的に

SGLT2 遺伝子が発現するメカニズムを十分に解明できていない。ヌクレオソームはクロマチンの基

本単位であり、ヌクレオソームを形成する領域では転写調節因子のDNA への結合が阻害され、遺 伝子発現が抑制される。近年の研究により、ヌクレオソーム占有状態に組織特異性が認められてお り、組織特異的な遺伝子発現調節に寄与していると考えられている。そこで本章では、プロモータ ー領域のヌクレオソーム占有状態による転写調節機構に着目し、ヒト腎臓における SGLT2 遺伝子 の発現調節に関与するヌクレオソーム占有状態および転写調節因子の同定とその機能評価について 検討を行った。Luciferase assay により、ヒト腎近位尿細管上皮由来細胞株 HK-2 細胞内の SGLT2 遺伝子の転写活性が非常に弱い状態にあることを認めた。ヒト腎組織との比較により、HK-2 細胞 の SGLT2 mRNA 発現量が極めて低いことを明らかとした。以上の結果より、HK-2 細胞では

SGLT2 遺伝子の発現が抑制状態にあることが示唆される。ヌクレオソーム解析を行ったところ、ヒ

ト腎組織と比較して、HK-2 細胞の SGLT2 プロモーター領域に高度なヌクレオソーム占有状態が 認められた。また、ヒストンアセチル化による SGLT2 mRNA 発現量およびプロモーター領域のヌ

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クレオソーム占有率への影響を評価するため、ヒストンアセチル化促進剤 trichostatin a (TSA) を

HK-2 細胞に処理した結果、HK-2 細胞内の SGLT2 mRNA 発現量の増加、SGLT2 プロモーター領

域へのヒストン H3 のアセチル化の促進およびヌクレオソーム占有率の低下に伴う hepatocyte nuclear factor 1 alpha (HNF1α) の結合頻度の増加が認められた。ヌクレオソーム解析および HNF1α 結合解析の結果より、ヒト腎臓 SGLT2 遺伝子の発現調節に、SGLT2 プロモーター領域のヌクレオ ソーム占有状態および HNF1α 結合頻度の寄与が明らかとなった。また、様々な組織を用いたヌク レオソーム占有状態の解析により、SGLT2 遺伝子の腎臓特異的な発現調節にプロモーター領域のヌ クレオソーム占有状態が寄与する可能性を示唆した。

第2章では、2型糖尿病によって SGLT2 発現量が変動するメカニズムを詳細に解明した報告は存 在しないことから、2型糖尿病患者の SGLT2 発現調節機構を明らかとすることで、新規の血糖降 下薬の開発に向けた重要な知見が得られると考えた。2型糖尿病患者の腎臓では、様々な遺伝子の プロモーター領域におけるヒストンアセチル化の促進が認められており、遺伝子発現の増加に寄与 することが報告されている。また、第1章において、SGLT2 遺伝子の発現調節にプロモーター領 域のヒストンアセチル化が重要であることを解明してきた。そこで本章では、ヒト腎近位尿細管上 皮細胞を用いて、高グルコース状態でのヒストンアセチル化を介した SGLT2 遺伝子の発現調節機 構の解析を行った。各グルコース濃度条件下での SGLT2 mRNA 発現量およびヒストンアセチル化 の解析を行ったところ、TSA 処理条件下では高濃度グルコースによる SGLT2 mRNA発現量の増加 および SGLT2 プロモーター領域のヒストンアセチル化の促進を認めた。加えて、TSA 処理条件下 では、高濃度グルコースによる同領域のヌクレオソーム占有率の低下に伴う HNF1α の結合頻度の 増加を認めた。グルコース濃度の増加に伴い、ヒストンへのアセチル基供与体である acetyl-CoA レ ベルの有意な増加が認められた。以上より、高グルコース状態では、変換される acetyl-CoA が増加 し、SGLT2 プロモーター領域のヒストンアセチル化が促進されることで、SGLT2 遺伝子の発現を 活性化するメカニズムが存在すると示唆された。

以上の結果から、第 1 章では SGLT2 プロモーター領域のヌクレオソーム占有状態が、ヒト腎臓 SGLT2 遺伝子の発現調節に重要であることが明らかとなり、第2章では同領域におけるヒストン アセチル化の促進にグルコースが関与していることが明らかとなった。これらの結果は、2型糖尿 病患者で認められる SGLT2 遺伝子の発現量増加に同領域のヒストンアセチル化が寄与している ことを示唆している。本論文は、ヒト生体内で SGLT2 遺伝子がエピジェネティック制御を受ける ことを解明した初の報告であり、2 型糖尿病におけるヒト腎臓 SGLT2 遺伝子の発現調節にプロモ ーター領域のヒストンアセチル化が寄与する可能性を明らかとした点で、2 型糖尿病における SGLT2 遺伝子の発現調節機構に関する新たな知見を見出したものと言える。以上の検討は、2型糖 尿病における高血糖の病態メカニズムの一端を解明したものであり、新たな2型糖尿病の治療戦略 を確立する上で極めて重要な知見であることから、博士(創薬科学)の学位に値すると認める。

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