金沢大学十全医学会雑誌 第72巻 第3号 799−801 (1966) 799
糞痩の統計的観察
金沢大学医学部第二外科学教室(主任 熊埜御堂進教授)
染 村 舜 輔
(昭和40年4月1日受付)1928年より1950年までの13年間に当教室で入院治療 を行なった三二138例につき統計的観察を行なった.
1 年齢及び性別
表1に示すごとく,20〜39歳に:最も多く,男性は女 性の約2倍に認めた.
皿 原 因
糞痩の原因は表2に示すごとく,腸閉塞症等に際 し,入口的に造設せるもの最も多く64例,次いで虫垂 炎の術後に生じたる40例,結核16例,放線菌症,手術 合併症それぞれ6例,その他である.
皿 糞痩の部位
表2に見るごとく,回腸或いは盲腸に最も多く,そ
れそれ50例,35例である.多発性四三3例はロ側のも ののみを記入した.
IV 糞下造設術によるもの
1.分類糞痩造設術によるものは64例で,表3の 如く一二的腸閉塞に対するもの37例,麻痺性腸閉塞に 対するもの23例,その他である.
2.治療及び転機 64例中47例は原病により死亡し た.糞痩造設術により原病の好転したものは17例で,
これらは表4のごとく原病好転後,8例は保存的療法 にて糞痩が閉鎖し,3例は腸縫合,6例は腸切除によ り閉鎖した.手術に際し癒着を認めたものは可及的に 癒着剥離術を併用した.
表1 年齢及び性別
,訳
︽OOT
0〜9歳
4 4
10〜19歳 9 7
20〜29歳 27 18
30〜39歳 23
4
40〜49歳 10
6
5。一59歳16。一69歳 i
10 9
3 2
70〜79歳 1 0
80歳〜
1 0
計 88 50
計 8 13 45 27 16 19 5 0
・1138
表2 糞婆の原因並びに部位
翠雲炎炎核症症傷 明 船囲 菌併 造畢弓鳴 合 癌 回腸 線術 糞虫四鏡結放手外 不
空腸
4000201000
回腸
4710422000
3
・盲腸
3921620110 1
虫垂又 はその
遺残
0400000000
上行
結腸
0200000000
横結0000000000
行腸籍躍 4000000000 10000010000
直腸
0000003001
不明
9700410000
計
493166611ー
ハりQU ーム計
715・i351412i・141・114[2・【138
Statistic Observation of Fecal Fistula. Shunsuke Somemura, Departmellt of Surgery(皿) (Director:Prof. S. Kumanomido), School of Medicine,:Kanazawa Univefsity.
800 染
V 糞痩造設術によらざるもの
1.症状 表5のごとく,74例の全例において腸内 容の腹壁痩孔よりの排出を認め,その他皮膚ゐ炎症,
栄養障碍等を認める.
糞縷周囲皮膚炎は表6に示すごとく,上位腸管の痩 孔ほど症状が強い.全身状態も上位腸管のものほど悪 いものが多い.
2.治療及び転機 74例中9例死亡,死亡率12.1
%,他の65例のうち,56例が糞痩治癒し,9例は未治 である.
糞獲の治癒せる56例は表7の如く,15例は手術によ らず,保存的療法のみにて治癒した.13例に腸切除,
表3 糞痩造設術の行なわれた疾患
疾 患
名 i症例数
イ幾}戒白墨腸閉塞
絞掘性腸閉塞 (ヘルニアを除く)
嵌頓ヘルニア
腸管の癌腫
38
nδ23
3
麻痺性腸閉塞
虫垂炎穿孔
胃・十二指腸潰瘍穿孔 腸チフス穿孔
子宮周囲炎 盲腸周囲炎
そ 1の 他
24
噌1ρ01占−←ーム4
1
潰瘍性大腸炎 2
計 64
表4 二三造設術後の糞痩に対する治療
治療法陣数「治剰未治癒
法術術 療合除
二
丁縫切 保腸腸
n6QU戸0 8∩δβ0000
表5 糞婆の症状
・症 状 症例面
痩孔より腸内容の排出 獲孔周囲皮膚炎 食 思 不 主 面 痩 貧血または低蛋白血症 腹 痛 倦 怠 感
42ρ04ハOQりPO
75QJ9︼ワ臼−←村
9例に腸縫合,8例に腸腸吻合を施行した.手術に際 し癒着を認めたものは癒着剥離術を併用した.表に見 るごとく,単純なる糞痩は保存的療法のみには閉鎖す るものが多い.
腸切除を行なったものには唇状魔窟4例(虫垂炎穿 孔3例,ヘルニアの手術合併症1例)を含む.痩孔切 除術は管状鼻孔に対してこれを行なった.
糞疲未治の9例は表8のごとく,手術を行なうもな お再び糞痩を形成せるものが多く,結核,或いは放線 菌症にしばしば見られた.保存的に行なったものは一一 般状態その他が未だ手術の適応でないものである.
表6 糞痩の部位と糞痩周囲皮膚炎 部位
\
皮膚恋鹸ミミ 高軽な 度度し
空腸
2i⊥0
回腸
ρOQり一∴
結腸
0δームQゾ 一凸2
不明
27.4
表7 糞痩の治癒せるものに対し行なった治療
医心名 治療法
虫 垂 炎 虫垂炎穿孔 盲腸周囲炎 腸 結 核
放線菌症
不 二 丁治保的療 ハ6Qりn乙00ーム
腸縫 合
04︵U−占00
垂除虫切切
腸回腸合腸吻
2ームOn600 Qり41占5110 噌lPOO︵UOO
凄孔 切除 計
咽1ρ00り911鵡噸19臼
26δ0000
計
1・519181131615/56
表8 糞痩未治の症例に対して行なった治療
麟轡 腹結放手 線術 膜菌餅 炎核症症
保存的 療法
0ーム︵UO
腸腸 吻合 腸切除
−11占9臼ーム
痩孔 切除
00ーム0
計
﹁⊥6δ41ゐ
計
1レ15[・lg
総括並びに考察
熊埜御堂外科にて1928年より1950年までに経験した 糞痩138例につき,統計的観察を行なった.
糞獲の原因としては画工的の糞痩造設術,外傷,虫 垂炎,潰瘍特に結核,放射菌病,局所性腸炎によるも の或いは悪性腫瘍,腸閉塞による腸壊死,腹壁の疾患 が腸に波及しておこるもの等があげられる.回教複音
糞覆の統計
801例中には糞痩造設術によるもの最:も多い.虫垂炎によ るものこれに次ぎ,これは特に虫垂の切断部に多く,
または回腸,盲腸等にも生じ,単にドレナージのみで 虫垂切除を行なわぬものは遺残虫垂から糞痩となった ものもある.結核では自然に生じ,または虫垂切除を 行なった後に糞痩となる.放線菌症も糞痩を形成する ものが多い.手術の合併症として,外科,婦人科,ま た腎の手術に際し,腸を傷つけておこるものもある.
糞痩の症候は痩孔より腸内容またはガスの排出を 見る.胆汁の排出を認めることもある.しかしガスが 出ても必ずしも糞痩とは限らない.i糞痩の際に腸液を 多量に喪失すると血清蛋白の低下,電解質の不均衡を きたし,全身状態不良となる.皮膚が腸液のため侵蝕 され,特に小腸上部の糞獲では著しい.しかし本統計 にも見るごとく,空腸上部でも皮膚炎の少ないもの,
結腸にても高度のものもある.
多くの場合糞痩は保存的療法にて自然に治癒する.
1週間位で漸次排泄量が減少してくるが,3週間を経 ても減少せぬものは手術の対象となる.当教室症例は 糞痩造設術を行なったもののうち約1/2,虫垂炎によ 多ものの約1/3は保存的に治癒せしめえた.治癒しが たいものは二二痩孔,結核または放線菌症によるもの のほか,二二部位より二二に通過障碍を有するもので ある.手術に際し,多くの場合に腸管の癒着を認め,こ
、れが回腸内容の通過障碍を認める.二丁に対して腸縫 合或いは腸切除を行なうと共に,腸4吻合または癒着
剥離を行なって糞痩の肛門に存する通過障碍を解除せ ぬ限り,再び糞痩形成を認めることもある.下流に通過 障碍の存しない糞痩は自然治癒の傾向が強いと考え
る.
結 語
糞痩の138症例につき統計的観察を行なった.人工 的糞痩造設術によるもの最も多く,次いで虫垂炎,結 核,放線菌症,手術合併症等がその原因となる.唇状 痩孔,結核,放線菌症等特殊のものを除き,その肛側 に通過障碍の存せぬ糞痩は自然治癒の傾向が大であっ
た.
文 献
1)赤岩八郎3手術,2,5(1948). 2)安藤 只雄=外科,5,609(1941). 3)伊藤 博・
中出泰安3 日外会誌,43,313(1942). 1 4)
石原:恵三=手術,3,99(1949). 5)岡田 恭二3 日臨外会誌,7,1(1943). 6)織部 利雄3手術,2,488(1948>. 7)藥飛龍=
大阪医事新誌,12,1050(1941). 8)住本 良』3台湾医会誌,42,656(1943). 9)
瀬屑英一:東京医会誌,41,2880(1927).
10)瀬屑英一:東京医会誌,43,1120(1929).
11)田中清十郎=外科,5,237(1941).
12)西島藤治郎= 日二二函,20,640(1943).
13)福地省吾= 日臨外会誌,5,202(1941).
14)古井清=外科,5,237(1941).
15)松本為一郎:千葉医会誌,18,1801(1940).
16)三藤 寛: 日外会誌,47,8〜9号,10
(1949).
17)三羽兼義:外科,5,313(1941).
18)森川政一=日工会誌.50,406(1940).
19)吉浦一雄3九州医会誌,41,51(1941).
Abstract
The statistic observation of 138 cases of fecal fistula was perfσrmed, which were treated註t the Kumanomido surgical clinic during the period of 13 years from 1928 tQ 1950.