際駐禧,3第鵜39旧記)
〔症例検討会〕
全身のリンパ節腫脹の1例
口 揚
(発言者)
司会
時=昭和39年7月3日
所:東京女子医科大学臨床講堂
内科 :中山 光重教授
病理:武石 詞助教授
学生 :
受持医ならびに:文責=鈴木 喜子
(受付 昭和39年7月17日)
中山:只 今よりCPCをはじめます.
患者は74才の女性.入院は昭和39年2月19日か ら3月30日までです.主訴は,全身のリンパ節踵
張です.Anamneseと本症の経過について簡単
に言いますと,昭和38年12月4日頃両側の上下 肢,および顔面に発疹が出現し,近医を訪れたが たいした事はないと言われた.熱はなく,食あた
りとも思えなかったが,すぐ治ってしまったそう です.昭和39年1月頃より,特に関節痛があると いうわけでないのに,坐っていて立つ時に苦労 で,長く坐っていると膝関節に痛みのようなもの を感じるようになった.またこの頃拭き掃除をす ると,足背と前腕に浮腫をきたすようになり,安 艀にしているとよくなってきました.昭和39年2 月両腋窩腺が腫:脹しているのに気付ぎ,:本院外科 を訪れましたが,痛みはありませんでした.これ がだんだん大きくなってくるので,精査のため内 科へ2月19日に入院しました.そして,1月から
2月の間にやせてくるのが目立ち,食欲も全くな くなっているようです.
既往歴としては,30才の時ApPendicitis,70
才の時時を心配して癌研へ行ぎ,Magen, Darm の透視を受け,異常はないと言われたそうです.
Allgemeine Statusとしては,何といっても,
各所のLymphdrUsen(図1,2)が腫脹しているこ とで,これは,Hautとの癒i着はなく,Grenzeは scharfで, Basisとは癒i着があるようだが,多 少の移動性はある.大きさは揖指頭大からクルミ 大までで,互の融合はみられません.これが頸 部,鎖骨上部,腋窩,鼠撲部などいたるところ
に,るいるいとあります.その他としては,咳が ある他は浮腫もなく,心尖部に弱い収縮期雑音を 聴取するくらいで,特別言うほどのことはありま
せん.
検査成績の方は,血液で,Hbが2月19日64
0/o,3月5日55%,Rote 266万と251万. Weisse 12,000と13,000.血沈が2月20日30分6㎜,60
分26㎜,120分54㎜H20で,3月3日はそれぞ
れ138㎜, 143㎜, 148皿H20.高田反応が帯,CRPは升, ASL−0120Todd単位, RA
Test陽性, Paul Bunnel 1:56,これは100 倍以上が陽性だからここでは陰性です.GOT 37Clinico.Pathelogical Conference (37) A case of general 1ymphatic nodes enlargement.
一 687 一
/
ぐしミ大
図1 入院時
、(ぐ
鶏卵夫 図2 2月29日頃
クルミ大
アヒノしの卵大
単位.GPT 9単位, Fe 192μ9/d1, CCFが冊,
3月9日のBSPは45分で5%以下,その他
Serumについては, Totalprotein 7.30%, AIG O.56,Al 2.610/o, G14.69%などです. Wa一反応
は陰性.Sputa中にStreptococcenが帯, Nei−
sseria−ff, Candida十です.
3月5日に:施行したSternalmarkの所見で
は,細胞の発育階梯はだいたい正常に思われる が,但しRetikulozellenカミ非常に多くなっています.3月11日のタンパク分劃では,Totalpro−
tein 7.6s g/dl, A/G O,56, Al 35.8%, Gl 5.s
%,β12・6%,or42・1%,だいたV・こんなようで
す.
入院後の様子は,2月19日から3月1日までの 間は,血圧も120/80くらいで食欲は相変らずな いが,比較的元気で自分の身のまわりの事はして いました.2月27日より皮質ステロイド(リンデ ロン)3錠を使用しはじめました.3月9日頃よ りリンパ節の腫脹が目立って小さくなってきた.
しかしこの頃より血圧が下り気味で80/60です が,動けなくなってきました.また,3月5日よ
りBlutが極:度:にAnamieになり,3月11日は Hbが28%に下ってきましたカミ,下血その他の 出血は認められなかったので,輸血を100ccずつ 行ないました.3月19日以後は食事は殆んどせず,
1日に牛乳半合ぐらい,1日中うなっているよう になったようです.
しかし,全身のリンパ節は目にみえて小さくな っていった.3月20日血圧は少し上って来たが 100/65です・食事は殆んどせず,今迄比較的良く 出ていた尿がだんだん出なくなってきました.3 月26日になると,K:ot, Harnは失禁状態で,全身 のOdemが増加し, Hustenはますます増加し て来たが,胸部にはRasselnなく,心音もrein です.3月27日右のソケイ部のリンパ節を試験摘 出した所から,serδsな液が流れ出て,ふとんを グショグショにした.3月29日夜中3時頃ベッド より落ち,その直後は返事をしていたが朝8時頃 から高いいびきをかいて眠り出し,当直医が呼ば れた時は,1(omaになっていました.その時の
血圧は92mmHg.その後Komaのまま夜8時過ま
で過ごしたが,午後8時15分に家族が枕のタオル を替えようとして頭を動かしたところ,急に呼吸 停止し,そのまま死亡したという例です.この症例のあらましは以上のようなものです が,これから考えられる病気には,どんなものが あるでしょうか,
学生::炎症性のもの,Retikulosafcom, Hodg−
kin s disease,悪性腫瘍の転移,その他Aller−
gie性のものとしてCollagen diseaseなど__
中山=よく外科でみるものに慢性のものがある
ガ何だぢうね.
学生:結核性のもの,それに梅毒でもあれば腫
れますし…■■・.
中山:Collagen d量seaseならAllergie性と いう事になる.その他リンパ節の腫れるという病 気としていろいろあげられる.リンパ節の機能と しては,喰菌機能そのものと,脂肪,タンパ クなどの蓄積,抗体の生成などがあげられる.
:Niemann・Pickとか, Hand・SchUller−Christian 病などは,この蓄積の病気にほかならない。血液 疾患として,Leu始mie, malignδsなGeschwu一 ユst,同じ新生物でも他:方からの転移,これも一種 の防禦機転によってリンパ節におさえられたもの に他ならないのですカミ…….さて,この入のは一・
体面であろうか.感染症が問題になるが,熱はど うでしょう.大体3Z 5。C前後で大した熱はない.
37℃台の熱が出る白血球増多,局所的感染による リンパ節腫脹でないのは確かですね.全身的の感 染症が考えられますね.これがnegierenができ
ますか.
鈴木:静脈血培養で菌は陰性です.
中山:Endocarditisがあれば, Herzに雑音 があるはずですが…….
鈴木:心尖で少し軽い収縮期雑音が聞えまし
た.
中山=前からこの人は弁膜症があるという Anammeseは持っていません.したカミつてこの
人は全身的な典型的なSepsisではない気がす る.しかし,これだけで感染症を否定することは できない.熱も多少あるし……Leukamieはど うですか.これでも,リンパ節がそんなに腫れて こない経過をとるものもある.
学生:慢性リンパ性白血病など……白血球がふ
える.
申山:白血球がふえるというより,junge Zel一 ユenが出るかどうかという事だね.殊に骨髄で異 常ぶ認められる.骨髄ではどうなんですか.
鈴木:Markでは特別junge Zellenは増殖し
ていません.Reticularzellenが{多々・のです.
中山:するとjunge Zellenが少なくともPeri一
pherieでは出ていないし,Peripherieには出なく してもMarkで変化があれば,疑わ.れるが,今奮
ったように,Markでは特別なjunge Zellenは 出ておらず,ただReticulumzellenが多v・.し たがって急性のLeukamieはもちろん,慢性のも のも考えにくい.慢性の場合は,大抵Milzが腫れ てくるのが主で,むしろリンパ節の:方が後まわし になり,大きくならないこともある.熱が出て急 性に始って,リンパ節が急に腫れ,Milzがあま
り顧れない時はacute Leuk浅mieが一番考えら れる.そうすると出血性素因などが強く出てよい が,そういうものぶ見られない.どこかのKrebs のMetastaseではないか,診断を確立するため にInguinaldrttseの1部分をとって病理に途つ
たが,Krebsではなく,ただReticulumzellen
が増殖していると言われた.Magen, Darmにも変化ありませんし,Knochenの転移があって も,こういう事がありますので調べたのですが,
アルカリフォスファターゼもそんなに増しておら ないし,そんな様子はない.転移でない事は確か です.そうすると,あと,リンパ節そのものの病 気という事が非常に問題になりますね.それには
どんなものがありますか.
学生:Hodgkin s disease,リンパ肉腫,細網 肉腫とか,硬性リンパ腺腫など…….
中山:リンパ節とMilzをもいれて,これらは どういうcategoryに入るのですか.
学生=細網内皮系
中山:細網内皮系の病気の相違を知っています か,主として病理学的にみて.先に学生の言った Gaucher病とか, Nie皿ann−Pick病とか, H:and.
Schttller・Christian病などと,今との見分け:方の 関係を.ちよつとむつかしいかな.要するにどう いう事かね.
学生=大きくみて細網内皮系疾患と考える.
中山=細網内皮系というのはどういうものか.
それに属するものにどんな病気があるか.
学生:細網細胞および組織球,それらの含まれ るOrganとしては,リンパ節,脾,骨髄などで す.もう一つの系統として肝の細胞とか…….機
一 689 一
能が類似しているのでこれらをまとめて細網内皮 系と言います.喰作用という機能を持っていま
す.
中山:その他,貯砂,沈着作用など.これらと 似た作用をするものが,身体中に拡がっている.
そのいうものの最大公約数を求めたものが細網内 皮系Reticuloendotherial System とAschoff
などが言ったのです.臨床家にとってはこの病 気かどうかよく分らぬ揚合がある.その時は一部 分,Markをとって病理にまわし,その結果によ って判定する.したがって全体の概念として細網 内皮系の病気にどんなものがあるかを知っておく 必要がある.
果してこのKrankeがその病気かどうかは問 題があり,まだわからないのですが,武石先生に お聞きして,後でわからないところをお聴きしょ
うと思うのです.
武石:剖検所見を申し上げます.挙例は私の方 から中山内科にCPCをおねがいした例ですが,
実はCPCとしては甚だ不適当な例であったので す.それは一口に言って本例がとてもむつかしい 例で,CPCのPの部を受持つ私の:方で,非常に 多くの問題を残しているからであります.しかし 乍らこのような症例にわれわれがかなりしばしば 遭遇することも事実ですので,本例をすっきりし た形で,しゃべれないにしても矢張り現在の時点 における私なりの扱い方を整理して見ることもま た何かの御参老になるかと思います.
まず剖検時における本例の特徴から初めて見ま す.何と言っても最も目についたのは全身の強い 貧血と非常に広汎に認められたリンパ節の腫脹で す.その広がりは,頸部,傍気管,静脈角,大動 脈周囲,肺門,膵周辺,後腹膜,腸間膜,両腋 窩,大腿および鼠隈部等で,ざっと見ただけでも 全身と言う感が明らかです(写真1).それら腫脹 リンパ節の大きさは種々で,小豆大から伊州指頭 大に及んでいますが,いずれも独立して存在し,相 互癒合の傾向は認められず,またその大きさも甚 だ高度の腫大とは言えません.割面はその中に白 色斑状の細胞増殖巣を認めるものが大部分です が,下部の一部には細網肉腫の時の様な貝罪状の
写:真1 リンパ節系の腫脹
所見が認められる所もあります.
これらの組織像はその割面肉眼所見を裏付ける 通り,リtンパ節全体にわたり同じような形をした 細胞が極めてノッベラボーに拡がっており,いわ ばリンパ節内に細胞が水びたしのように拡がって.
いると言うことです.それらの細胞の拡がりは確 かに非常にダラシなく増えているように見えます が,よく見ると本来のリンパ節構築の基盤は保た れているのが分ります(写真2).すなわちここに
議
写真2 リンパ節Masson 2×
見られる細胞の増殖は決して本来のリンパ節構築 を破壊して拡がっているのではなく,あたかも何 ものかに対する反応であるかのように,元来のリ ンパ節構築の基盤の上に細網細胞等が強い増殖を 来たしているのであります.このような所見は,い わゆる腫瘍とは明らかに異ったもので,類縁を求 めるとすれば矢張り何か反応性のものと思われる わけです.とは言ってもその細胞増殖の程度はと てもただの反応性の細胞増殖とは一寸ケタ外れで すし,また臨床像からも一般にこのような場合の 経過は急速かつ短いとされているところがらも矢 張り非常に特異な反応形式であることは確かであ
り,それだからこそこのような例に Reticulose という特別な呼び名を付けざるを得ないわけで
す.
というわけで本例をReticuloseとしたわけで すが,本証の拡がりは上記リンパ節のほかに脾,骨 髄,肝,消化管,心外膜,二等,本来Lymph・
reticul琶res Gewebeのある部分にも広汎に同様の 変化が認められ,それらの細胞構成は細網細胞の
ほかにリンパ球,形質細胞も可成りの増加を示し ておりました(写真3).これら細網,リンパ,形質 細胞の関係は未だ論議の多いところですが,いず れも間葉由来のものであるところがら,これらの 類縁関係も認められており,本四の場合,ただ細
網細胞のみがやたらに増えていたのではなく,リ ンパ球,形質細胞への分化を示しながら増殖した ということで,その増殖傾向は比較的mildなも のであったと言えると思います.これらの間葉増 殖傾向が端的に強ければ強い程その反応は強いわ けで,そのような場合には急性感染症のような症 状を呈することになるわけであります.このよう にReticuloseの経過には色々の程度の差がある わけですが,時にはあとかたもなく正常の程度に 戻ってしまうこともありますし,また一方では猛 烈な増殖を示して数日の内に死亡することもあり ます.このような揚合には,増殖した細胞が一方 からこわれて壊死に陥り,』それがまた増殖刺激と なって悪循環的にメチャクチャな増殖を起こすよ うに思われます.
しかし元R間葉細胞ですから他の方向では線維 化への傾向を取る盛合もあり,本例ではそのよう な線維化傾向が可成り強く認められます.その最:
も目立つのが骨髄で,出初に述べた本例のもう一・
つの特徴である貧血はここに原因があったわけで す(写真4).この様な骨髄内の細網細胞系の細胞 増殖ならびにその線維化傾向と貧血の関係は不明
ですが,少なく面この場合は赤1血球系列の強い成 熟障害が見られ,後述のように本例が突発事故で
写真3 リンパ節Masson 20× 写真4 大腿骨髄Masson 2×
一 691 一
亡くなられなかったならば,恐らく次第に骨髄の 機能不全が症状の前景に出て来たであろうと思い
ます.
以上が本例をReticuloseと呼ばざるを得なか った言訳けと,その背景ですが,本例ではもう一・
つの興味ある所見があります.それは肺の変化で す.先程も一寸繋れました通り,肺内のLymph−
reticulEres Gewebeの増殖があることはもちろ んですが,それとは別個に両鐙広汎に見られる主
として静脈壁から肺胞壁にかけての強い浮腫性の 一線維化傾向で,この感じはわれわれがロイマ形と 呼んでいる特色のある間質の変化によく似ており
ます(写真5).本例の右心肥大ないし拡張が極め 一て軽度であること,および臨床経過からもそれ程
.以前から肺変化があった様子が見られないこと,
更に本例の肺胞構築カミ74才の年令に比して肺気腫 傾向が少ないこと等から老え合わせて,このよう な広汎な,しかも一種特有な肺の線維化傾向が以 前からあったとは考えられませんので,このよう な所見は矢張り今回のReticuloseと時期を一つ にして発現した可能性が強いと思われます.更
.に本例ではこのような間質の類似変化が心筋層に も認められるので,その関聯性が更に疑われるわ
⑱です.もっともこのような間質変化がいつも
写真5 左肺尖Masson 4×
Reticuloseに相伴って認められるわけでなく,
むしろ可成り例外的なものですが,Reticu!ose と言ってもその主変化がReticulo・endothelia1−
systemに可成り限局する間葉組織の動きにある わけですから,ある時期には細胞要素の動きが,
また別の時期には細胞以外の間質要素の動きが前 景に出るというようなことがあっても差支えない
と思います.
このように見て参りますと,このReticulose と名付けるより仕方のない特徴ある性格を持つた 系統的変化が,一方ではTyphus abdominalis,
Rheumaから,他方ではHodgkin心病, Reti・
culosarkom,ないしはReticulosarkomatosis等 と全く関聯性のないものとばかりは言えないとい
う感じカミして来ます.
本釜ではこのような変化の途中で寝台から落ち て亡くなったという突発事故があったわけです が,この方は確かに右側の側頭葉前部の硬膜下に
130ccの新らしい血腫形成があり,それに伴って 多数の実質内隠出血,更にPons付近に特に強い 出血ないし新鮮軟化が見られますので,これが直 接の死因と思われますが,その出血を助けたのは 脳実質内細血管の強い硬化であると思います.
また本心で血圧の変動が強かったのは,一つに は栄養の強い低下もあったことでしょうが,今一・
つには心,肺を中心とする間質変化に伴う肺機能 ならびに心機能の低下が関与していた事が充分考 えられます.
中山:今武石先生からReticuloseの新しい概 念を皆さんに話して頂きました.おわかりになり
ましたか.まだ教科書に書いてないことです.
国際的にもReticulo−endotherial Systemの学 会ができたのですカミ,殊に日本では,その開祖と 言われる京大の清野先生がおられたので,この方 面の研究は非常に進歩している.だんだんReti−
culoseという診断がつくようになるでしょう.
われわれ臨床家は正常か,Geschwulstかと割切 ってしまいたい考え方を持ちたがるのですが,実 際にはそのように簡単なものでなく,曖昧もこ
としている方が,本当の自然の姿であり,われわ
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れは何とかしてどちらかに分けようとするのです が,分けられない部分もあるのです.
治療からいいますと,もしこれが腫瘍なら抗 ガン物質を使いたくなるのですぶ,今のお話によ りますと,確かに腫瘍ではないので,抗ガン物質
を使わない事になり,炎症とすれば,抗生物質 などを使いたくなる.また現今一般に使われる Steroidhormonが使われるのです.今後この方 面の研究が完成し,完全な治療が講じられること
を期待します.
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