顔面腫脹を契機に診断した節外性NK/T細胞リンパ腫、鼻型の1例
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(2) 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 10, 2020. 顔面腫脹から診断した ENKL. 初発から約 7 か月で死去となった ENKL を経験し. 直径約 3cm で赤紫色の隆起を触れた。皮下硬結は. たので報告する。. 境界不明瞭で弾性硬、熱感・潰瘍なし、無痛性で可 動性なし。Performance status:2。 血液検査所見:可溶性インターロイキン -2 受容体. 2. 症例 症例:51 歳、女性。. (sIL-2R)と乳酸脱水素酵素(LD)が高値を呈し. 主訴:顔面腫脹。. ていた。LD のアイソザイムは 2 と 3 が有意に上昇. 現 病 歴:X-50 日 頃 か ら 左 眼 瞼 腫 脹 が 出 現 し た。. していた。Epstein-Barr virus(EBV)関連抗体は. X-35 日に近医耳鼻科で急性副鼻腔炎として抗菌薬. IgM 抗体陰性、IgG 抗体陽性で既感染パターンで. 加療された。X-30 日頃から眼瞼腫脹は両側に広. あったが、EBNA は陰性であった。HTLV-1 も陰. がった。X-22 日に発熱、食思不振を認め、X-19 日. 性であった(Table 1)。. にかかりつけ内科入院となり抗菌薬加療されたが改 善しなかった。顔面皮膚病変ならびに全身精査目的. 血算 WBC. に X 日に皮膚科および当科に紹介となった。顔面 腫脹、乳房や背部の皮下硬結の所見、血清 LD と sIL-2R 高値、CT での副鼻腔等への軟部組織びまん. 生化学 4,100. /μL. TP. 6.3. g/dL. Na. 135. mEq/L. Neut. 76.0. %. Alb. 3.4. g/dL. K. 4.4. mEq/L. Eosi. 0.0. %. T-Bil. 1.8. mg/dL. Cl. 97. mEq/L. Lym. 20.6. %. AST. 70. U/L. CRP. 1.4. mg/dL. Mono. 3.2. %. ALT. 33. U/L. 血沈(1hr). 18. mm. RBC. 458. 104/μL. LDH. 1,145. U/L. Hb. 11.8. g/dL. LDH1. sIL-2R. 126. U/L. 7.3. 104/μL. LDH2. 447. LDH3. 389. U/L. 137. U/L. Plt. 性浸潤像から、皮膚リンパ腫と暫定的に診断し、同. 凝固. 日皮膚生検施行の上、精査加療目的に X 日入院と した。. LDH4. PT-INR. 1.04. APTT. 36.1. Sec. D-dimer. 1.4. μg/mL. LDH5. 血糖. 既往歴:精神発達遅滞、聾唖のため生来施設に入居. 随時血糖. 111. mg/dL. HbA1c. 4.3. %. 46. U/L. 286. U/L. γ-GTP. 21. U/L. CK. 32. U/L. BUN. 17. mg/dL. 0.46. U/mL. U/L. ALP. Cr. 3,246. U/L. していた。 初 診 時 現 症: 身 長 142cm、 体 重 48kg。 体 温. 血清. 36.8℃、脈拍 128/ 分、整、血圧 93 / 69mmHg、酸. 抗核抗体 抗CCPー抗体. 素飽和度 97%(鼻カニューレ 2L)。両側眼瞼腫脹、. フェリチン. 左頬部に腫脹。両側乳房、背部、右大腿内側に皮下 硬結(Figure 1)。生検を施行した背部皮下硬結は. (ー). CMVーIgM抗体. (ー). (ー). CMVーIgG抗体. (+). EBVーEBNA抗体. (ー). 1,191. マイコプラズマIgM抗体. (ー). dsーDNA抗体. 3.0. ループスアンチコアグラント 抗CLーB2GP1複合体. ng/mL. EBVーEADR抗体. 10. EBVーVCA IgM抗体/FA. <10. (ー). EBVーVCA IgG抗体/FA. (ー). 80(+). EBVーVCA IgM抗体/EIA. (ー). 0.0. 抗Joー1抗体. EBVーVCA IgG抗体/EIA. 1.4(+). 抗カルジオリピン抗体 PAーIgG. 58. U/L. 104. U/L. MPOーANCA. (ー). PR3ーANCA. (ー). 直接クームス. (ー). 間接クームス NTーproBNP. 2,521. U/L. HTLVー1(ATLA)抗体. (ー). (ー) pg/ml. Table 1 入院時血液検査成績. 入院時画像所見:CT 検査にて眼窩、副鼻腔、上咽 頭、両側乳房および背部の皮下軟部組織にびまん性 浸潤像を認めた(Figure 2)。 病理組織学的所見:背部皮下硬結より生検した。表 皮、 真 皮 に は 明 ら か な 所 見 は 認 め ら れ な か っ た (Figure 3a)。脂肪織に限局して大型で異型の強い リンパ球が正常組織を置換して密に増殖していた Figure 1: 両側眼瞼腫脹、左頬部に腫脹を認める。両側 乳房、背部に皮下硬結を認める。. (Figure 3b)。血管構造に異型はみられなかった。 免疫染色、フローサイトメトリーでは CD2 一部陽 53.
(3) 顔面腫脹から診断した ENKL. 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 10, 2020. した。X+2 日に病理速報で T 細胞系リンパ腫となっ た。 腫 脹 改 善 に 乏 し く、PSL 100mg/day に 増 量 した。X+5 日に眼瞼腫脹増悪がみられ、PSL だけ では腫瘍増殖を抑制できないと考え、病理結果到着 前に 80% dose で CHOP 療法(Cyclophosphamide、 Doxorubicin、Vincristine、Prednisolone) を 開 始 した。皮膚リンパ腫においても他の悪性リンパ腫と 同様に血清 LD が病勢マーカーとして知られている. Figure 2: 眼窩、副鼻腔、上咽頭、両側乳房および背部 の皮下軟部組織にびまん性浸潤像を認める。. が 4)、本症例でも LD が治療効果判定に有用で、腫 脹軽減とともに LD 387 U/L まで低下した。経過良 好 に て X+21 日 に 一 時 退 院 と な っ た。X+23 日 に. (a). ENKL(WHO 分類 2017)と判明した。ENKL は. (b). CHOP 療法の有効性が低いことが知られているが、 精神遅滞があり長期入院が必要ない CHOP 療法を 継続することとし、X+29 日より CHOP 療法 2 コー ス目を 100% dose で開始した。一時 LD 197 U/L (c). まで低下したが、LD 300 ~ 400 U/L に上昇し、顔. (d). 面 腫 脹 が 悪 化 し た た め 治 療 抵 抗 性 と 判 断 し た。 X+58 日より造血器腫瘍診療ガイドライン 5)におい (e). て、 進 行 期 ENKL の 治 療 法 の 第 1 選 択 と さ れ る. (f). SMILE 療法(Dexamethasone、Methotrexate、 Ifosfamide、L-Asparaginase、Etoposide)を開始. Figure 3:(a)H&E 染色。表皮、真皮に異常所見はない。 脂肪織に限局してリンパ球が正常組織を置換して密に増 殖している。(b)大型で異型の強いリンパ球が密に増殖 している。 (c)CD3陽性。 (d)CD8陽性。 (e)CD56陰性。 (f)MIB-1:90%以上陽性。. した。鼻腔周囲限局ではないため、放射線療法は適 応外と判断した。X+65 日に L- Asparaginase の副 作用が原因と思われる急性膵炎を発症し、SMILE 療法を中止した。X+82 日に腹部症状は落ち着いた が、他の化学療法を選択しても長期寛解を維持する. 性、CD3 陽性(Figure 3c) 、CD4 陰性(M Φのみ. ことは困難であると判断し一旦退院とし、外来フォ. 陽性) 、CD5陰性、CD7少数陽性、CD8陽性(Figure. ローとした。X+117 日に下腿腫脹、呼吸苦を主訴. 3d) 、CD10 陰性、CD15 陰性、CD20 陰性、CD30. に当院救急外来を受診し、LD 1302 U/L と再上昇. 陰性、CD34 陰性、CD45 陽性、CD56 陰性(Figure. し て い た こ と か ら 再 燃 と 判 断 し た。 同 日 よ り. 3e) 、MIB-1 90%以上で陽性(Figure 3f) 、EBER. DeVIC 療法(Dexamethasone、Etoposide、. 強陽性、細胞傷害性因子 TIA-1 陽性、Granzyme B. Ifosfamide、Carboplatin)を開始した。顔面腫脹. 一部陽性。. は軽減せず、これ以上の化学療法は難しいと判断. 遺伝子検査:T 細胞受容体β鎖において D β /J β. し、緩和ケアチームに介入を依頼した。X+178 日. に遺伝子再構成あり。免疫グロブリン H 鎖におい. に死去した。. て VH(FR1)/JH、VH(FR2)/JH、VH(FR3) /JH に遺伝子再構成あり。. 3. 考察. 入院後経過:X+1 日に呼吸状態悪化あり、皮膚リ. 皮 膚 リ ン パ 腫 は 非 ホ ジ キ ン リ ン パ 腫(non-. ンパ腫の病勢が早く、病理の最終結果は未着であっ. Hodgkin lymphoma)のひとつで、腫瘍細胞の由. たが、プレドニゾロン(PSL)1mg/kg/day で開始. 来 か ら 皮 膚 T 細 胞 リ ン パ 腫(cutaneous T-cell 54.
(4) 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 10, 2020. 顔面腫脹から診断した ENKL. lymphoma) 、 皮 膚 NK 細 胞 リ ン パ 腫(cutaneous . 分子のいずれかひとつ以上が陽性の場合、ENKL と. NK-cell lymphoma) 、 皮 膚B細 胞 リ ン パ 腫. 診断される。本症例の病態は SPTCL とオーバー. (cutaneous B-cell lymphoma) 、血液前駆細胞腫瘍. ラップしている可能性が否定できないが、現行の. (precursor hematologic neoplasm) に 分 類 さ れ. WHO 分類においては ENKL の診断が妥当と考え. 6). られた。. る 。病理組織学的所見から細分類化されるが、本. ENKL における CD56 陰性症例は散見される。. 症例は組織像、フローサイトメトリー、免疫染色の 結果から ENKL と診断した。. 齋藤らの報告によると 11)、国内外で 66 例の報告を. ENKL は悪性リンパ腫の数%程度とまれであり、. 認めるとされる。性別は男性 40 例、女性 26 例で. 本邦を含めた東アジアに好発する 。鼻腔、皮膚、. あり、原発巣は鼻腔 36 例、鼻腔以外 30 例(歯肉. 軟 部 組 織 な ど の 節 外 病 変 を 生 じ る と さ れ る。. 1 例、直腸 1 例、膵臓 1 例、胃 1 例、鼻腔以外の上. Epstein-Barr virus 関連疾患のひとつと考えられ、. 気道・上部消化管 26 例)であった。現段階では. 血管中心性、血管破壊性の腫瘍細胞の浸潤を組織学. CD56 陰性例は、CD56 陽性例と比べ臨床的な相違. 7). は明確でない。本症例では T 細胞受容体、免疫グ. 8). 的所見の特徴とする 。そのため、皮膚所見として 9). 潰瘍を生じたとする報告が散見される 。ENKL. ロブリンの両者において遺伝子再構成がみられた. のほとんどは NK 細胞由来であるが、一部に細胞. が、既存の症例報告はわずかであり、さらなる症例. 傷害性 T 細胞の表現型をとるものもあることから. の蓄積が必要と考えられる。. NK/T 細胞リンパ腫と名付けられている. ENKL 細胞には P-glycoprotein が発現している. 10). 。. 自験例は前医で蜂窩織炎などの炎症性皮膚疾患が. た め、 ア ン ト ラ サ イ ク リ ン に 耐 性 を も つ と の 報. 疑われ抗菌薬投与も改善せず、当院紹介となった。. 告 も あ り 12)、 近 年 で は CHOP 療 法 に 代 わ っ て. 皮膚所見と併せて血清 LD 高値から菌状息肉症やセ. L-Asparaginase をキードラッグとした多剤化学療. ザリー症候群などの皮膚リンパ腫も鑑別に挙げ、皮. 法が推奨されており、本邦では進行期 ENKL に対. 膚生検を行ったことで皮膚リンパ腫としても頻度の. しては SMILE 療法が用いられることが多い 13)。本. 低い ENKL と判明した。. 症例では L- Asparaginase による急性膵炎発症によ. 自験例における病理組織学的所見としては皮下脂. り SMILE 療法は中止せざるを得なかったが、治療. 肪織に限局して大型で異型の強いリンパ球が正常組. 開始時期は予後を左右しうるため、早期発見が重要. 織を置換して密に増殖しているため、皮下脂肪織炎. と考えられる。. 様 T 細 胞 リ ン パ 腫(Subcutaneous panniculitislike T-cell lymphoma; SPTCL)に近い像と考えら. 4. 結語. れたが、鼻腔病変が存在したことから ENKL が鑑. 今回われわれは顔面腫脹を契機に診断した. 別となった。ただし血管中心性、破壊性増殖がみら. ENKL の 1 例を経験した。ENKL は組織学的には. れないことは ENKL としては非典型的であった。. 血管破壊性の腫瘍細胞浸潤が典型的とされ、皮膚所. 表面マーカーで細胞質 CD3 陽性、CD8 陽性と腫瘍. 見としては潰瘍を呈することが知られているが、自. 細胞は T 細胞系で、NK 細胞由来のマーカーである. 験例においては血管構造が保たれていたため、潰瘍. CD56 陰性であることから NK 細胞の関連は否定的. 形成はせず、腫瘍細胞浸潤による皮膚腫脹が現れた. であった。ただし 2017 年度版 WHO 分類による. と考えられる。ENKL を含めた皮膚リンパ腫では. と 6)、CD3 陽性かつ CD56 陰性のリンパ腫でも細. 組織学的差異により多彩な皮膚病変を呈するため、. 胞傷害因子陽性で EBV 感染のあるリンパ腫では. 何らかの皮膚所見を認めた際には他の病変がないか. CD56 陽性例と極めて似た臨床経過を辿ることか. を確認するために全身を観察することが肝要とな. ら、CD56 陰性例においても EBER(EBV encoded. る。抗菌薬や外用ステロイドで改善しない皮膚所見. small RNA in situ hybridization) 陽 性 に 加 え、. をみた際には、皮膚リンパ腫を鑑別に挙げ、積極的. perforin、granzyme B、TIA-1 などの細胞傷害性. に皮膚生検を行うことが診断に寄与しうる。 55.
(5) 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 10, 2020. 顔面腫脹から診断した ENKL. Japanese Pathologists : The World Health. 本症例の要旨は、第 20 回日本病院総合診療医学. Organization classifi cation of malignant. 会学術総会(2020 年 2 月、福岡)にて報告した。. lymphomas in Japan : Incidence of recently 5. 文献. recognized entities. Pathol Int. 2000;50 9:696-. 1 ) H a m a d a T, I w a t s u k i K . C u t a n e o u s. 702. lymphoma in Japan: a nationwide study of. 8 ) Chan JK, Quintanilla-Martinez L, Ferry JA,. 1733 patients. J Dermatol. 2014;41:3-10. et al. Extrannodal NK/T-cell lymphoma,. 2 ) Fujii K, Hamada T, Shimauchi T, et al.. nasal type. In: Swerdlow SH, Campo E,. Cutaneous lymphoma in Japan, 2012-2017: A. Harris NL, et al. eds. WHO Classification of. nationwide study. Journal of Dermatological. Tumours of Haematopoietic and Lymphoid. Science. 2020. In press.. Tissues. Lyon: IARC, 2008;285-8. 3 ) 加藤則人、大矢幸弘、池田政憲、他:アトピー. 9 ) Chen T, Yong Y and Yizhuo Z. A case report of. 性 皮 膚 炎 診 療 ガ イ ド ラ イ ン、 日 皮 会 誌. primary cutaneous natural killer/T-cell. 2018;128:2431-2502. lymphoma. Molecular and clinical oncology. 4 ) Scarisbrick JJ, Prince HM, Vermeer MH, et. 2016;5:777-778. al. Cutaneous Lymphoma International. 10)川井弘光:皮膚悪性腫瘍取扱い規約第 2 版、金. Consortium Study of Outcome in Advanced. 原出版:東京 2010;p145-149. Stages of Mycosis Fungoides and Sezary. 11)齋藤恭子、高野哲郎、三井純雪、天羽康之:下. Syndrome: Effect of Specific Prognostic. 肢の紫斑で初発した CD56 陰性の節外性 NK/T. Markers on Survival and Development of a. 細 胞 リ ン パ 腫、 鼻 型 と 考 え た 1 例 皮 膚 臨 床. Prognostic Model. J Clin Oncol.. 2019;61 12:1899 ~ 1903. 2015;33:3766-3773. 12)Egashira M, Kawamata N, Sugimoto K, et al.. 5 ) 日本血液学会(Japanese society of hematology) . P-glycoprotein expression on normal and. 造 血 器 腫 瘍 診 療 ガ イ ド ラ イ ン 2018年度版. abnormally expanded natural killer cells and. http://www.jshem.or.jp/gui-hemali/2_9.. inhibition of P-glycoprotein function by. html#soron :2020 年 2 月 19 日アクセス. cyclosporin A and its analogue, PSC 833. Blood. 1999;93 2: 599-606. 6 ) 清水宏:第 22 章皮膚の悪性腫瘍、悪性リンパ 腫および類縁疾患(malignant lymphoma and. 13)Yamaguchi M, Suzuki R, Oguchi M, et al.. other hematopoietic tumors) 平 田 直・ 編:. Advances in the treatment of extranodal NK/. あ た ら し い 皮 膚 科 学 第 2 版 東 京: 中 山 書 店. T-cell lymphoma, nasal type. Blood. 2018;. 2011;444-445. 131 23:2528-2549. 7 ) S h i g e o N . Ly m p h o m a S t u d y G r o u p o f. 56.
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