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「少」の上古音再考― 義通換讀から見た上古音再構

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(1)

「少」の上古音再考―

義通換讀から見た上古音再構

野 原 將 揮

はじめに

 「少」の字音をめぐっては、研究者によって異なる音價が示されており、未 だ見解の一致を見ていない。野原(2015:57-75)では「少」の諧聲系列を再整 理し、出土資料の通假例と閩語との對應關係に基づき、*

stewʔ、

*

stewʔ-s

のよ うに再構した1)。本稿は當該論文中において殘された課題を取り上げ、視點を 變えて「少」に關連する諸問題について檢討を加えることを目的としている。

第一章では「少」の字音再構の複雜さを示すため、野原(2015)の再構の要點 を再度整理する。第二章では「義通換讀(同義換讀)」について簡單に述べてお きたい。第三章では通假・諧聲關係にあると屡々指摘される「少」と「小」の 關係および關連する語について、「義通換讀」から檢討を加える。

1.「少」の上古音價再構

1-1.「少」の諧聲關係と再構音

 上述の通り、野原(2015:57-75)ではすでに「少」を*

stewʔ、

*

stewʔ-s

のよう に再構しているが、本章ではいま一度「少」と「小」の複雜な關係性を示すべ く、諧聲・通假關係を簡潔に整理しておきたい。「少」の諧聲關係はやや複雜 な樣相を呈しており、その複雜さ故に「復元強度」の低い語と見なすことがで きる2)。「少」は許愼によると、明母宵部「眇」、「杪」、「秒」だけでなく、初 母宵部「鈔」とも諧聲關係にある。さらに意味・字體の近似により、心母宵部

「小」との諧聲關係を認める研究者も少なくない。しかし諧聲原則によれば、

そもそも書母と心母は諧聲・通假關係にないことから、「少」と「小」が諧聲 關係にあるとは到底考えられない3)。そこで鄭張尚芳(2003)は明母をいわば

(2)

「仲介役」として位置づけることで、書母「少」と心母「小」の諧聲關係を認 める。この再構の利點は許愼の説解と合致することと、泥母と諧聲關係にある 書母・心母、さらに疑母と諧聲關係にある書母・心母と竝行した關係を構成す る點にある:

表1.鄭張尚芳(2003)書母―明母―心母(野原(2015:59)の表3を再掲)

*m-グループ *n-グループ *ŋ-グループ

書母 「少」:書母 *hmjewʔ/s 「恕」:書母 *hnjas 「勢」:書母 *hŋjeds 仲介役(鼻音) 「秒」:明母 *mewʔ 「女」:泥母 *naʔ 「埶」:疑母 *ŋeds 心母 「小」:心母 *smewʔ 「絮」:心母 *snas 「褻」:心母 *sŋed

 これに對して、Schuessler(2009)Baxter and Sagart(2014)はそもそも書母 と明母の諧聲關係を認めないため、鼻音を再構しない。したがって心母「小」

との諧聲關係も認められない4)。このように爭點となるのは明母との諧聲關係 の有無にある。まずは「少」が明母相當の語と通假關係にあるかを見極めるた め、出土資料における「少」の振る舞いを整理しておきたい。

1-2.戰國楚簡における「少」と「小」の通用例と使い分け

 「少」と「小」は甲骨文字・金文において明確に使い分けがなされているわ けではない5)。戰國楚簡については「少」という表記が壓倒的に多く、「少」

を{少}に讀むこともあれば、{小}に讀むこともある({}は語を表す)。以下、

戰國楚簡において「少」が{小}を表す例を幾つか擧げておこう(野原(2015)

では2例しか擧げていないが、ここでは例を多めに擧げておく):

A (以)(小) (謀) (敗) (圖) 上博楚簡『緇衣』12

B 毋以 (小) (謀) (敗) (圖) 郭店楚簡『緇衣』22

C (汝)毋以少(小) (謀) (敗) (作) 清華簡『祭公』16 D (小)邦凥(處)大邦之 (間) 上博楚簡『曹沫之陳』14 E 今邦 (彌)(小)而鐘愈大 上博楚簡『曹沫之陳』2 F 大命有 (常)(小) 命日成 清華簡『命訓』1 G (小)之多 (易)必多 (難) 郭店楚簡『老子』14

(3)

H (謀)(無)(小) 清華簡『芮良夫毖』25 I 今我卑(譬)(小)于大 清華簡『皇門』2 J (小) 大之事、必智(知) (其)(故) 清華簡『管仲』17

K (苟)(無)大害、(小) 枉、

内(納)之可也

郭店楚簡『性自命出』61

L (以)(小) (害)大道、(簡) 郭店楚簡『五行』35 M (有)大辠(罪)而大 (誅)之、東<柬>也。

又(有)少(小) (罪)而亦(赦)之、匿也。

郭店楚簡『五行』38

N 大材埶(設)(諸)大官,(小) 材埶(設)

者(諸)少(小)官。

郭店楚簡『六徳』14

O 唯君子能好(匹)(小)人剴(豈)

能好其駜(匹)

郭店楚簡『緇衣』42

P (小) (逞)人於刄(恩)

君子不 (逞)人於豐(禮)

郭店楚簡『成之聞之』34-35

Q

卑(譬)道之才(在)天下也、猷(猶)少(小)

谷之與江 (海) 郭店楚簡『老子』20

R 寡邑 (小) 清華簡『皇門』1

S (小) 人之悳(徳) 清華簡『厚父』9 T (小)(雅) 郭店楚簡『緇衣』7、36 U (小) 旻多

(疑) 上博楚簡『孔子詩論』8 V (小) 心翼= 清華簡『殷高宗問於三壽』27 W (小) 人= (將) (召) (寇) 上博楚簡『昭王毀室』2 X (小)民隹(惟)曰悁(怨) 郭店楚簡『緇衣』9-10 Y (小) 臣既 (羹) 清華簡『赤 之集湯之屋』

例ARについては、それぞれ「大」と「小」あるいは「君子」と「小人」の ように對を成しており、明らかに「少」が{小}を表している。このほか例T では「少夏」が『詩經』の「小雅」を表し、例Uでは「少旻」が『詩經』「小 旻」を表す。例Vでは「小心翼々」が「少」で表記される。例Wや例X、例Y の「少(小)人」、「少(小)臣」、「少(小)民」もしばしば見られる表現である。

(4)

これに對して、次の例aeでは「少」が字のごとく{少}を表している。

a (寡) 郭店楚簡『老子』甲2

b 既又(有)病、病心疾、 包山楚簡221

c (卒)(欲) (以)多、少則 (易)

(察)

上博楚簡『曹沫之陳』46b

d (焉)(知) 清華簡『管仲』12

e (孰)而老 清華簡『湯在帝門』5

例cと例dは「多」と對を成しており、{少}に讀まれる。例eは「老」と對を 成していることから{少}の去聲に相當する字音に讀まれると推定される。興 味深い點は例eと同じ清華簡『湯在帝門』第5號簡に「少」が見え、そこでは

{小臣}に讀まれる點である。このことから見ても、「少」という表記は前後文 脈によって讀み分けがなされていたと想像される。そもそも例ARに擧げた ように、「少」は「大」と對を成すものが大半を占めており、讀み手は{少}

と{小}を容易に讀み分けることができたはずである6)

 「少」と「小」の使い分けが曖昧な楚系文字に對して、秦系資料―特に行政 文書や天水放馬灘秦簡では「少」と「小」に明確な使い分けが見られる(大西

(2010a、2010b)參照)7)

f 大、短長、廣亦必等。 睡虎地秦簡『秦律十八種』16 g 事果成、大事又(有) 睡虎地秦簡『日書』甲種34 h 它毋(無)大盡吉 睡虎地秦簡『日書』甲種34

i 其狀、類(纇)(嗌)、 少 (眉)、墨、

四支(肢)不用

天水放馬灘乙種『丹』志四

j 利築宮室、爲 嗇夫,有疾難療 天水放馬灘秦簡甲種『建除』

甲十五

漢代になると、「少」と「小」の使い分けはより一層明確になる8)。いずれに せよ、「少」には明母との通假關係がないため鄭張案を採用することは困難で

(5)

ある。また諧聲原則上、そもそも書母と心母は諧聲關係を有しないため、これ らの例に基づき「少」の聲母を再構することはできない。

1-3.「少」の字音再構の根據―通假例

 そこで野原(2015:65)では清華簡『繋年』において「 」、「 」、「 」が

{趙}を表していることを根據に「少」、「勺」、「趙」が同音あるいは類音で あったと推定した。「勺」は中古音章母あるいは禪母であり、いわゆる上古音

のT-typeである。戰國楚簡においてこれと通假關係にある「少」および「趙」

はいずれもT-typeに由來すると推定される9)。したがって「勺」は*tewk

*

dewk、「趙」は*drews、そして「少」は

*

stewʔ/

*

stewʔ-s

と再構される。

1-4.閩語との對應關係

 戰國出土資料の例に加え、當該假説を支持するものとして、閩語との對應 關係がある。上古音書母と閩語(中古音書母相當の語)の對應關係については白

一平(Baxter (2010:161-177))によって初めて示された。その後、野原・秋谷

(2014:340-350)によって當該假説の檢證がなされ、假説の妥當性および上古 音研究における閩語のデータの有用性が確認されている。これらに基づき、野 原(2015:70)では書母に關する假説を示した:

(1)閩語で無聲無氣 破擦音の場合、上古の*ST-に由來する

(2)閩語で無聲有氣 破擦音の場合、上古の無聲鼻音、無聲流音に由來する

「少」は閩語において無聲無氣破擦音で實現されるため、當該假説(1)により

*ST-に由來する書母と判斷される10)。『説文』の説解、そして鄭張尚芳(2003)

の體系としてのバランスの良さは、「少」を*

stewʔ

/

s、

*

stewʔ-s

と再構する上で 一つの障害となり得るが、出土資料の通假例および閩語との對應關係を萬遍な く説明するためには「少」の上古音聲母を*st-と再構する以外にない。

 以上が野原(2015)の大まかな内容である。以下、野原(2015)で殘された 問題――「少」と「小」の關係について檢討を加えたい。

(6)

2.「義通換讀」(同義換讀)

2-1.「少」を文字構成要素にする字と通假例

 1-2で擧げたとおり、戰國楚簡において「少」は{小}も表す。このこと は「少」字が書母宵部相當の字音と心母宵部相當の字音を有していたことを示 唆するものであるが、「少」と「小」をめぐっては更に複雜な通假關係(と思 しき例)が見られる。たとえば下記の通り:

k (沙) 包山楚簡91

l 乃東 (徙),止于成周 清華簡『繋年』9 m (簫)與淳于之田 清華簡『繋年』71-72 n 郢大 (府)之□ (筲) 郢大府銅量

o 君又(有) (謀)臣則壞 (地)不鈔(削) 郭店楚簡『語叢』四24

p (故)上不可 (以)(設)(刑) (輕)

(爵)

上博楚簡『緇衣』15

上記の例は二種に分類される。一つ目は例kと例lの「少」あるいは「小」の 字音と全く關係のないもの、そして二つ目は例mpまでの「少」あるいは

「小」の字音と關連がある(と思しき)ものである。

 前者はそもそも「少」、「小」の字音とは何ら關係がなく、むしろ「沙」の 省聲と見なすべき事例である。たとえば例kの「長 」は{長沙}を表し、一 見すると「 」の「少」が聲符の役割を擔っているかのように見えるが、「少」

は書母宵部に相當し、「沙」は生母歌部であり、聲母・韻部ともに合わないた め、當該字の「少」はおそらく「沙」の省聲である。

 これと同樣に、例l「 」の「少」も聲符ではなく、「沙」の省聲であると思 われる。「徙」は心母歌部に相當し、「沙」と通用可能である。これらはたとえ ば「魦」(生母歌部)が『説文』で「魦:从魚沙省聲」と説解されるのと同じこ とである。それぞれの上古音價は下記の通り:

(7)

表2.「少」「沙」「徙」の再構音

「少」 「沙」 「徙」 「魦」

*stewʔ/*stewʔ-s *sˤraj *sajʔ *sˤraj

これに對して例mpは「少」あるいは「小」の字音と關連する例であり、別 の角度から説明を加えなければならない。野原(2015)ではこのような例につ いて有效な回答を持ち合わせていなかったため、「少」には{少}と{小}の 二つの字音があるとするだけであった。本稿では義通換讀(同義換讀)という 視點から「少」と「小」――および「小」の字音に相當する語――との通用を 可能にするメカニズムについて檢討を加えたい。

2-2.轉注

 六書のうち、「象形」、「指事」、「會意」、「形聲」は漢字の造字法であり、殘 りの「假借」と「轉注」は漢字の用法である11)。「假借」は『説文』に「假借 者,本無其字,依聲託事,令長是也」とあるように、いわゆる「當て字」の用 法である。これに對して、「轉注」については「轉注者,建類一首,同意相受,

考老是也」とあり、特に「建類一首」と「考老是也」の部分が難解であるた め、「轉注」をめぐる解釋については諸説紛紛としている。紙幅の關係上ここ では詳しくは立ち入らないが、本稿は河野(1978/1994:60)の「音の類似關係 ではなく、意味上關連のある語に轉用した場合が轉注」であるという見解に從 う。ちなみに河野(1978/1994)はヒエログリフや楔形文字から論を展開してい るが、訓讀はシュメール語、アッカド語等にもよく見られる用法であり、楔形 文字に見える訓讀の用法は從來から「轉注」という用語でもって説明が加えら れている。たとえばNakahara(1928:x)では次のようにある12)

The fifth is called chuan-chu 轉注 or deflectives, characters turned to their attributes or derivatives; the same character is used in one or more other words simply because the meanings of these words are similar or relatives.

本稿では河野(2978/1994)に從い、音に基づく當て字が「假借」であり、義に

(8)

基づく當て字が「轉注」であるとみなしておくこととする13)

2-3.義通換讀(同義換讀)

 この「轉注」のような同字異語の現象は「義通換讀」あるいは「同義換讀」

とも稱される。「同義換讀」とは沈兼士(1986:311)によって示された用語で あるが、その後、呂叔湘(1980:31)や裘錫圭(1988:219)等にもしばしば取 り上げられる。「義通換讀(同義換讀)」とは「本來の字音に關係なく、意味が 同じ或いは近似した單語を用いて表す」用法である14)

 このような義通換讀と稱される現象は傳世文獻だけでなく出土資料中でも確 認されており、出土資料を扱う上でも重要な現象とみなされている。たとえば 上博楚簡『柬大王泊旱』に次のような例が見える:

q 王滄(汗) (帶) 上博楚簡『柬大王泊旱』1-2

例qでは「滄」が{汗}を表すが、「滄」は清母陽部であり、「汗」は匣母元部 であるため、通假と見なすことはできない。陳劍(2005)はこの通用を「滄」

が意味の近似によって{寒}に讀み替えられ、さらに{寒}の字音(匣母元部)

に基づいて{汗}に通假したもの、すなわち「義通換讀(同義換讀)」の結果と する15)。兪紹宏・王婭瑋(2017:231-232)はこのような現象を「X同義換讀爲Y 後,再通假爲Z」というように一般化しており、極めて重要である16)。つまり 兪紹宏(2017)に據れば、「滄」から{汗}への讀み替えは、「滄」が意味の近 似性に基づく「義通換讀」により{寒}に讀まれ(「X同義換讀爲Y」)、さらに

「寒」から通假によって{汗}に讀まれたもの(「再通假爲Z」)と考えられる。

本稿ではこの「X同義換讀爲Y後,再通假爲Z」という觀點から、「少」と「小」

に關連する通假と思しき例について檢討を加えたい。

3.「少」「小」の義通換讀と通假

3-1.「“少”同義換讀爲“小”後,再通假爲“Z”」

 1-2に擧げたように、「少」は{小}をも表すが、これは通假ではなく意 味の近似による「義通換讀(同義換讀)」であると考えられる。したがって、甲

(9)

骨・金文・戰國楚簡では「少」という表記はそのまま{少}に讀むこともあれ ば、{少}に相當する字音(T-type宵部)と通假することもある(1-3)。さら に義通換讀によって{小}に讀むこともあれば(1-2、例AY)、{小}相當 の字音(心母宵部)に讀むこともある(例mp)。たとえば下記のとおりである。

 2-1で示したように、下の例mpは「少」という表記にもかかわらず

「小」の字音と關連する通假例である。

m (簫)與淳于之田 清華簡『繋年』71-72 n 郢大 (府)之□ (筲) 郢大府銅量

o 君又(有) (謀)臣則壞 (地)不鈔(削) 郭店楚簡『語叢』四24

p (故)上不可 (以)(設)(刑) (輕)

(爵)

上博楚簡『緇衣』15

 例mは「 」が{簫}を表す例である。聲符と思しき「少」が書母宵部であ るのに對して、「簫」は心母幽部であるため、やはり通假とは言えない。これ は「少」と{簫}の直接的な通假というよりは寧ろ「少」と「小」の意味の近 似による讀み替え(義通換讀)と通假を經た結果、すなわち「 少 同義換讀爲

小 後,再通假爲 簫 」であると考えられる:

表3.“少”同義換讀爲“小”,再通假爲“簫”

例 義通換讀 通假

m 少 小 簫

書母宵部 ▶ 心母宵部 ▶ 心母幽部

*stewʔ *sewʔ *sˤiw

例nの「 」と{筲}の通用についても同樣に、意味の近似による「少」から

「小」への義通換讀、そして「小」から{筲}への通假が想定される:

(10)

表4.“少”同義換讀爲“小”,再通假爲“筲”

例 義通換讀 通假

n 少 小 筲

書母宵部 ▶ 心母宵部 ▶ 心母宵部

*stewʔ *sewʔ *sˤrew

例oについては、「鈔」が{削}を表している17)。許愼は「鈔」を「少聲」と するが、「鈔」は初母宵部であるため「少」は聲符の役割を擔っていない。戰 國楚簡中に見える通假例と同樣に「少」は「小」の字音を表していると考えら れる(これも「少」と「小」の義通換讀である)。したがって實際には「小聲」と するのが妥當であろう。例oについては下記の通り:

表5.“鈔”と{削}

例 通假

o 鈔(小聲) ▶ 削

初母宵部 心母藥部

*tshˤrew *sewks

例pの「 」について、通常、楚系文字資料では{爵}は「雀」を用いて表記 されるため、當該字はやや特殊な表記と言える18)。「爵」は精母藥部であり、

「少聲」や「沙省聲」とは到底考えられないため、野原(2015:64)では「 」 を「雀」の省聲とみなし、{爵}との通假を想定したが、本稿では義通換讀と 通假を經たものと考えたい。「雀」は『説文』に「从小隹。讀與爵同」とあり、

「小」と「隹」から構成される會意文字とされる。「小」は心母宵部、「雀」は 精母藥部であり、末子音の有無に違いが有るにせよ互いに通用可能である。し たがって例pの「 」についても、文字構成要素の「少」から「小」への義通 換讀、そして「小」から{爵}{雀}へと通假を經た可能性がある:

表6.“少”同義換讀爲“小”,再通假爲“爵、雀”

例 義通換讀 通假

p 少 小 爵/

書母宵部 ▶ 心母宵部 ▶ 精母藥部

*stewʔ *sewʔ *tsewk

(11)

してみると、「雀」は「从小隹」の會意文字というよりは寧ろ「从隹小聲」と 理解するほうが良いかも知れない。

 興味深い點は、このような書母相當の「少」が「小」および心母・初母等の 精組相當の字音を表す現象は出土資料においてしばしば見られる現象であるの に對して、傳世文獻ではほとんど見られないことである。

3-2.「趙」について

 「 少 同義換讀爲 小 、再通假爲 Z 」というメカニズムが存在するので あれば、理論的には、これとは反對に「小」から義通換讀で「少」に讀み替 え、「少」から通假で (T-type宵部相當の)Z へ讀み替えるというメカニズム が存在するはずである。筆者は「趙」がそれに當たると考えている。

 「趙」は澄母であり、中古音からはT-typeL-typeかは判斷できないが、出 土資料等では「勺聲」で表記されるためT-typeであることが確實である(1-

3で述べたとおり)。ところが、『説文』によると、「趙」は「趨趙也。从走肖聲」

とあり、「肖」を聲符とする。「肖」は心母宵部であり、T-typeの「勺」はもと より{趙}との通假は原則として認められない。よって本稿では「肖」の聲符

「小」から義通換讀で「少」、さらに「少」との通假で{趙}という讀み替えも 可能であったと考える:

表7.“小”同義換讀爲“少”,再通假爲“趙”

義通換讀 通假

小 少 趙

心母宵部 ▶ 書母宵部 ▶ 澄母宵部

*sewʔ *stewʔ *drews

實際に野原(2015:66)で擧げたように、『侯馬盟書』に見える{趙}を表す字 では「少」と「小」が混在しており、それぞれ瓣別的な役割を擔っていない。

このことからも當時「少」と「小」が表記にかかわらず自由に讀み替えられて いたことは確實である。そしてその根底にあるのが「少」と「小」の意味の近 似による義通換讀であると考えられる。

(12)

3-3.殘された課題

 そもそも本稿の目的は野原(2015)において未解決のままにされていた課 題――すなわち書母「少」と心母「小」および心母宵部に相當する語との通假

(と思しき)例――を説明することである。この點に關しては、上述した通り、

「義通換讀+通假」という視點からその關係性を明らかにすることが可能であ る。しかし許愼が説解するように、「少」は明母「眇」、「杪」、「秒」とも諧聲 關係があるかのようである。ところが上述したように出土資料において「少」

が明母と通用するような例は見られない。さらに閩語との對應關係から見て も、「少」と明母との諧聲關係を積極的に認めることはできない。それではな ぜ『説文』では「眇」、「杪」、「秒」が「少聲」とされるのであろうか。現時點 では有效な回答を持ち合わせていない。

おわりに

 本稿では野原(2015)の再構音に基づき、「少」と「小」の關係性について

「義通換讀(同義換讀)

+通假」という視點から檢討を加えた。近年の比較言語

學的手法や出土資料を基礎とする研究によって、上古音研究は格段に進歩を遂 げているが、體系的にやや不自然な二重子音や母音が再構されている場合も少 なくない。「少」と「小」はまさにそれに當たるものである。上古音體系の不 自然さは方言差や時代差、さらには他言語との接觸を明確にすることができ ないこと――すなわちデータの缺落と雜多なデータに起因すると考えられる が、「義通換讀(同義換讀)」といういわば訓讀の用法までも通假とみなす傾向 にあることも要因の一つと考えられる。つまりこれまで通假と見られてきた用 例を「義通換讀」という視點から再檢討を加えてみると、より矛盾の少ない自 然な音體系を再構することができる。野原(待刊)では「泉」と「原(源)」に ついて、義通換讀から檢討を加えた。たとえば「泉」は*

s-N-ɢʷa

[r]、「源」は

*

N-ɢʷa

r]と再構され、語根N-ɢʷa[r]を同じくする同源語と見なされるが19)、こ れらは音韻論的に關係があるというよりは寧ろ意味上の關連性のため、義通 換讀(同義換讀)を經ていると考えられる20)。無論、本稿は上古音研究に比較 言語學的手法を用いることを否定しているわけではない。野原・秋谷(2014)、 秋谷・野原(2019)は上古音と閩語との比較を通じて檢證を加えたものであり、

(13)

比較研究の有用性を再確認したものである。今後、上古音研究を着實に進める ためにはより多角的な視座から檢討を加える必要がある。

注)

1)「少」には上聲と去聲がある。本稿では中古音上聲に對應する上古音には*-ʔ、去聲 に對應する上古音には*-sを再構する。このほかType-Aには咽頭化(pharyngealization)

を認め*-ˤ-を再構する。また本稿の中古音の「表記」はBaxter and Sagart(2014)に 基づく。

2)「復元の強度」については平田(2010:62-65)を參照。「復元の強度」は再構の手 がかりが乏しい場合に「低い」とされるが、上古音を再構する場合、再構の手がか り(と思しき例)が多すぎるため却って再構の障害となる場合も少なくない。「少」

と「小」はまさにこれに當たる。

3)諧聲原則については李方桂(1971/1980:10)および古屋(2009:211-228)を參照 されたい。

4) Schuessler(2009:204) は The element is semantic. と し、*hjau ?と 再 構 す る にとどまる。Baxter(1992)は*hljewʔとするが、Baxter and Sagart(2014)では

*stewʔ/*stewʔ-sと再構する。

5)大西(2010a:384-386)。

6)文脈に基づき讀み分けるというのはやや難しいと考えられるかもしれないが、たと えば英語のreadが文脈によって[ri:d]、[rɛd]と讀み分けられるように、それほど 困難なことではない。日本語の漢字の讀み方についても同樣である。

7)睡虎地秦簡では「少」で{小}を表すものがしばしば見えるが、これはテキストの 性格に起因すると考えられる。

8)秦においていつ頃「少」と「小」の使い分けが形成されたかについては不明である。

これに加えて、秦末〜漢初の頃の「少」と「小」の混用については大西(2010a385-386)に詳しい。

9)野原(2009:67-85、2016:79-93)參照。「勺」は複雜な諧聲關係を有するが、當 該字と同一の清華簡『繋年』において「勺」は「召」と通假關係に有ることから、

少なくとも清華簡『繋年』の中ではT-typeであることは確實である。野原(2015:

65)參照。

10)厦門tsio3、永福tso3、福州tsieu3、古田tɕiɐu3、中仙tʃo3のように無聲無氣破擦音で 實現される(野原・秋谷(2014)參照)。

11)河野(1978/1994:46-47)。

12)河野(1994:65)の補記にもYomokuro Nakahara(中原與茂九郎)(1928)につい て言及がある。當該書については、東洋文庫アカデミア「楔形文字を讀む」にて 森若葉先生より紹介していただいた。またシュメール語/アッカド語を參照する

(14)

ことについては第二屆李方桂學會青年學者研討會(2018 LFK Society Young Scholars Symposium)にてGuillaume JacquesWolfgang Behrの兩氏から助言を頂いた。ここ に記して謝意を示したい。假に何らかの誤りがあるとすれば、それらはすべて筆者 の責任である。

13)大西・宮本(2009:170)でも指摘されるように、河野(1978/1994)で轉注とされ る「立」「位」、「樂」のラクとガクについては轉注というよりは寧ろ假借と見なす のが良いだろう。

14)たとえば裘錫圭(1988:219)は次のように述べている。 有時候,人們不管某個字 原來的讀音,把這個字用來表示意義跟它原來所代表的詞相同或相近的另一個詞(一 般是已有文字表示的詞)。這兩個詞的音可以截然不同。

15)陳斯鵬(2011:77-81) 滄 可記{汗},正可表明,楚人確實把 滄 作爲{寒} 這個詞的記錄形式來使用的,所以它才可以讀{寒}音,從而才可以假借來表示讀同

寒 音的{汗}。 滄 既可表示{寒},又可表示{汗},這分別是同義換讀的直接 和間接結果。 詳細については大西・宮本(2009:103-104)、野原(待刊)を參照。

またこの「滄」と「寒」の義通換讀に對する異論もある。郭永秉(2014)を參照さ れたい。

16)兪紹宏・王婭瑋(2017)では「X同義換讀爲Y後,再假借爲Z」というように「假 借」を用いるが、本稿では特に「通假」と「假借」の用語の使い分けはしていない ため、本文中の他の箇所との整合性から「X同義換讀爲Y後,再通假爲Z」とする。

17)「鈔」は中古音に基づけば初母であるが、楚語において「鈔」が初母相當の語であっ たかどうか定かではない。しかし注18に述べるように、{削}を表す場合、精母

「雀」が用いられることがあるため、楚語において{削}は精組相當の語であった と推定される。したがって「鈔」の「少」が「小」の字音を表している蓋然性が高 い。

18)ここでは賞罰のことを述べているが、このほかたとえば酒器の{爵}を表す場合、

のように「竹」が加えられ(清華簡『耆夜』第3號簡)、{スズメ}を表す場合、

のように「鳥」が加えられることもある(清華簡『説命下』第3號簡)。また

「雀」は{爵}だけではなく、{削}を表すこともある(郭店楚簡『太一生水』9號 簡、裘錫圭案に據る)。

19) Baxter and Sagart(2014:258)、野原(待刊)を參照。

20)「泉」と「源」の開合の不一致についてはJaxontov(1960/1986)、秋谷(1995:68- 83)、野原(待刊)を參照されたい。

付記:本稿はJSPS科研費JP18K12379の助成の成果の一部である。

(15)

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 *  *

作 者:野原 将揮 AuthorNOHARA Masaki

標 題: 少 字的上古音再考――從義通換讀的角度看上古音的再構

TitleReconsideration of the Old Chinese Shao ―― A Reconstruction Based on the Semantic-loan

摘 要:關於 少 的諧聲關係及其上古音,上古音學者的觀點並不一致。根據 出土文獻的通假例子和上古音與閩語的對應關係,野原(2015:57-

75)將 少

字音構擬為*stewʔ、

*stewʔ-s。其實,

在甲骨文、金文和楚簡中,少 和 小 基本上不分工。因此,有些學者認為 少 和 小 有諧聲關係。筆者卻認為 少 與 小 沒有諧聲、通假關係。本文試圖(1)整理野原(2015)構擬 少 字 音的要點,(2)通過 同義換讀(義通換讀) 的現象解釋 少 和 小 的 換讀現象。本文採用俞紹宏・王婭瑋(2017)提出的假設,即 X同義換讀為Y 再通假為Z 據此本文拟解釋 少 和精組的諧聲、通假關係。

關鍵詞:上古音  少 字 通假 閩語 同義換讀(義通換讀)

参照

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