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エコーキャンセラの収束解析と安定かつ高速な学習 アルゴリズム

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(1)

エコーキャンセラの収束解析と安定かつ高速な学習 アルゴリズム

著者 平野 晃宏

発行年 2000‑09‑29

URL http://hdl.handle.net/2297/30602

(2)

      〃一キャン㌔ヲの収束解析ど       案定かつ高速巷学習アルゴリズム

.◆

・業

◆」.

   Co皿vergemce Ama1yses and

Rob皿stamdFastLearningA1gorithms

     fbr瓦。ho Camce皿ers

平野晃宏

平成12年プ月

(3)

博士言含文

エコーキャンセラの収束解析と 安定かつ高速な学習アルゴリズム

    Co皿verge皿。e A皿a1yses and

RobustamdFastLeamimgAlgorithms

      hr Fc11o Cance㎜ers

金沢大学大学院自然科学研究科

平野晃宏

(4)

目次

第1章序論

 1.1 背景......、、..

 1.2 本研究の目的、...........

第2章 適応フィルタとエコーキャンセラ  2.1 適応フィルタ

 2.2 エコーキャンセラ.、.....、..

1 1 6 9

9 10

第3章 参照信号パワーと雑音パワーに基づく可変ステップサイズ確  率勾配アルゴリズム      13

 3.1 緒言.................、........   13  3.2 従来法とその問題点       14

 3.3新しい可変ステップサイスアルゴリズム       16  3.4 計算機シミュレーション...      18

 3.5 シグナルプロセッサによる実現と評価      22  3.6 緒言........................     25

第4章参照入力信号の長時間平均パワーに基づく正規化LMSアル  ゴリズムの安定化       27

 4.1 緒言.......、..、............、......27

 4.2 LMSアルゴリズムと正規化LMSアルゴリズム      29  4.3 正規化LMSアルゴリズムにおける参照入力信号パワー推

    定の影響........................... 32  4.4 参照入力信号の長時間平均パワーと短時間平均パワーを用     いたパワー推定............、......    35  4.5 計算機シミュレーション...1,       40

 4.6 緒言..............      44

(5)

第5章 1チャンネル1個の適応フィルタで構成される多チャンネル  エコーキャンセラ

5.1 5.2 5.3 5.4 5.5 5.6 5.7 5.8

第6章

糸者言 ........、.

線形結合型ステレオエコーキャンセラ 基本アルゴリズム..、

話者交代への高速追従アルゴリズム..

遠端側音響特性のエコー除去性能に対する影響.

計算機シミュレーション.....

DSPによる実現と性能評価

むすび.、...I.......

前処理を用いたステレオエコーキャンセラの収束解析と2次 前処理フィルタによる収束高速化

6.1 6.2 6.3 6.4 6.5 6.6

緒言.....

線形結合型ステレオエコーキャンセラ

ステレオエコーキャンセラにおける解の不確定 性 前処理を用いたステレオエコーキャンセラ..

係数期待値の収束特性.....

周波数領域の解析..............、...

6.7 計算機シミュレーション......

  6.7.! 前処理フィルタ.......

  6.7.2 シミュレーション条件.、.

  6,7.3 線形結合型の収束特性..

  6.7.4 群遅延特性の影響......

  6.7.5 1_F(z)の振幅特性の影響 6.8 2次APFによる前処理フィルタ..

6.9 むすび.......,

第7章

謝辞 参考文献

結論

本研究に関連する論文・講演 知的所有権

45

45 46 48 50 52 58 62 68

69 69 70 72 73 76 79 83 83 85 87 88 98 102 106

107 110 112 126 135

図目次

2.1 2.2 2.3 2.4

3.1 3.2 3.3 3.4 3.5 3.6 3,7 3.8 3.9

4.1 4.2

適応フィルタ 回線エコー 音響エコー

エコーキャンセラ.

従来法のステップサイズ........、....

提案法のステップサイズ..

音声と雑音のパワー Noise1に対するERLE.

Noise1×100に対するERLE

Noise2に対するERLE..........、...

エコーキャンセラのブロック図

エコーキャンセラの外観........、、...

残留エコーのパワースペクトル

正規化に用いるパワーの収束特性に対する影響.

正規化に用いたパワー

4,3 提案するパワー推定器のブロック図....、.....

4.4 提案法によるパワー推定の概念 4.5 エコーと雑音のパワー

4.6 LMSおよび正規化LMSとの性能比較

4.7 耐雑音可変ステップサイスアルゴリズムとの性能比較.

4.8

5.1

5.2 5.3

強い雑音に対する性能比較................

線形結合型ステレオエコーキャンセラを用いたステレオ音

:ヒ△…生

ノ]コ;[ミロ孝定  .  .  .  .  .  、  .  .  .  .  .  .  .  .  .  .  .  .  .  .

エコーパスの簡略化

単一適応フィルタによるエコー除去.....

!0 1!

12 12 15 17 18 19 20 21 23 24 26 33 34 36 38 40 41 42 43

47 48 49

(6)

5.4 1チャンネル1個の適応フィルタで構成されるステレオエ   コーキャンセラ.

5.5 フィルタ係数切り替え型ステレオエコーキャンセラ、

5,6 部屋Aの設定(ユ)...

5.7 エコーパスのインパルス応答 5.8 伝達関数比GT1(z)G2(z)、.

5.9 適応フィルタの最適係数、1 5.10タップ数とERLEの関係..

5.1ユ部屋Aの設定(2)...

5.12タップ数とERLEの関係...

5.13収束特性...

5.14話者交代に対する追従特性.

5.15I/Fボード.。..、..

5.16DSPボード

5,17ステレオエコーキャンセラのブロック図 5.18ステレオエコーキャンセラの外観...

5.19残留エコーのパワースペクトル

5.20マイクロホン間隔とエコー消去量...

6.1 線形結合型ステレオエコーキャンセラを用いたステレオ音

  =ヒ∠\…圭   戸]万口我 .

6.2 前処理を用いたステレオエコーキャンセラ.

6.3 周期関数。(ん)

6.4 各部屋の伝達関数...

6.5線形結合型の収束特性...

6.6 前処理(1)および(2)の群遅延特性.....

6.7 前処理(ユ)の収束特性 6−8 一前処理(2)の収束特性

6.9 前処理(3)のHF(z)_1Il.....

6.!0前処理(3)の収束特性

6,112次APFによる前処理フィルタの特性.....

6,122次前処理の収束特性...、...

50 51

:l

11   表目次

11

      4.1演算量の比較.

1;

ll

l:

11 67

71 73 84 86 87 88 92 95 99 100 103 104

39

(7)

第1章

序論

1.1 背景

 適応フィルタ[11一[41は学習によってその特性を自動的に調節できる。

特性の調節はディジタルフィルタの係数を学習することによって行われ、

その規範としては目的信号との誤差を最小化するものが多く用いられる。

FIR(FiniteImpu1seResponse)型とIIR(In丘niteImpu1seResponse)型 の両方が検討されているが、安定性および解の一意性からFIR型が広く 用いられている。

 適応フィルタの応用例は、予測、等化、システム同定、妨害信号除去 の4種に分類されることが多い[1]。予測は携帯電話などの音声圧縮符号 化に欠かせない技術であり、等化もディジタル伝送において伝送路歪み を除去するために広く用いられている。妨害信号除去の例としては、ノ イズキャンセラ[51一[121、エコーキャンセラ[131、適応マイクロホンア レイ[141■161などが知られており、これらの中でエコーキャンセラは 最も広く用いられている。

 エコーキャンセラは、未知システムであるエコーパスを適応フィルタ で同定し、未知システムの出力であるエコーから適応フィルタの出力で

(8)

ある疑似エコーを差し引くことによって、エコーを除去するものである。

エコーパスと適応フィルタの特性が一致すればエコーは除去できる。エ コーパスは環境によって異なり、また、時間変化する場合があるので、エ コーキャンセラに特性を固定したフィルタを用いることはできない。そ れゆえ、環境に応じた学習が可能な適応フィルタが用いられる。

 エコーキャンセラは電話回線用、音響用、データ通信用に大別される。

電話回線用エコーキャンセラデータ通信用エコーキャンセラの歴史は古 く1970年代に遡る[13]。しかし、現在でも残された課題は多く、不言己の ものがあげられる。

1.高速収束 2.演算量削減 3.非線形性

4.妨害信号への耐性 5.多チャンネル化

これらの中には、多チャンネル化のように通信システムの発展に伴って 浮上したものも含まれる。

 環境の変化に高速に追従するためには、学習の収束速度は速いことが 望ましい。LMS(Leaset Mean Squares)アルゴリズム[1]や正規化LMS アルゴリズム[3]は演算量が少なく実現が容易であるが、有色信号に対し ては収束速度が低下することが知られている。有色信号に対しても高速 に収束する学習アルゴリズムとしては、最小自乗(LeastSqures,LS)ア ルゴリズムや逐次最小自乗(Recursive Least Squres,RLS)アルゴリズム 121・射影アルゴリズム[171一[191、共役こう配法[211などが検討されて

いる。

 通信の広帯域化、多チャンネル化によって、エコーキャンセラに必要 な演算量が増加する傾向にある。演算量が少ないしMS系の学習アルゴリ ズムを用いて、線形結合型多チャンネルエコーキャンセラを採用すると、

演算量はサンプリング周波数の自乗に比例し、チャンネル数の自乗に比 例する。サンプリング周波数を8kHz、部屋の残響時間を250msecとする

と、1チャンネルのエコーキャンセラを実現するためには毎秒32×106の 積和演算が必要となる。これはシグナルプロセッサー個でも実現可能で ある。サンプリング周波数を48kHzにすると、毎秒1,152×10g回の積和 演算が必要となり、これをステレオ化すると4,608×10g回となる。これ

は、最新のDSPを用いても単一のプロセッサでは実現できない。

 広帯域の音響エコーキャンセラに対しては、サンプリング周波数を下 げることによって演算量を削減する方法が検討されている。帯域分割型 エコーキャンセラ[221一[301や周波数領域エコーキャンセラ[311一[321な

どが知られている。室内インパルス応答の特性に着目し、さらに演算量 を削減できるタップ数可変帯域分割型エコーキャンセラ〔28],[29]も検討 されている。

 インパルス応答の特性に着目して演算量の削減が可能なものとしては、

衛星通信などの長距離電話回線用エコーキャンセラもある[33]■42〕。衛 星通信の遅延のため、インパルス応答の大半は零であり、ごく短い応答 波形部がある。このような場合に効率よく演算できるように、少数のフィ ルタ係数を任意の場所に配置できる方式1331■401や、可変遅延と小規 模なフィルタを組み合わせる方法[41]_[42]が検討されている。

 エコー発生モデルとして線形モデルを用いた研究が多いが、常に線形 モデルで取り扱えるとは限らない。安価なアンプやスピー力は非線形性 が高いという報告もあるので[431、パソコンなどを用いた低価格のデスク

トップ会議では非線形エコーキャンセラが必要になると思われる。ニュー

(9)

ラルネットワークを併用した非線形エコーキャンセラt441一[451や適応 Vo1terraフィルタ[46]などが検討されている。

 エコーキャンセラが妨害信号が混入する環境下で使われる場面は少な くない。双方の話者が同時に発言するダブルトークは、TV会議や音声会 議ではしばしば見受けられる。また、音響エコーキャンセラにおいては、

周辺雑音の影響が無視できない場合もある。走行中の自動車内で運転手 が携帯電話を使用することが社会問題となっている現在においては、ハ ンズフリー電話への要望が高まっており、通信品質を良好に保つための エコーキャンセラが必要となっている。走行中の自動車内では、種々の 雑音がエコーキャンセラの学習の妨げとなる。

 ダブルトークに対しては、ダブルトークを検出し[47],〔48]、ダブルトー クの間は学習を停止することが広く行われている。しかし、ダブルトー クとエコーパス変動の区別、ダブルトークの検出遅れなどの課題がある。

 ダブルトークを検出しないで学習を続ける方法として、可変ステップ サイスアルゴリズム[49]■61]が提案されている。初期の可変ステップ サイスアルゴリズムには収束速度と残留誤差のトレードオフを解決する ことを目的としたもの[491,[501である。近年は、ステップサイズを自動 的に小さくすることで妨害信号への耐性を強める方式も提案されている

[511一[611。

 一方、正規化LMSアルゴリズムー3]に固有の問題として、参照入力信 号のパワーによる正規化に着目した研究もなされている。正規化する際 の分母が小さすぎると正規化結果が極端に大きくなることに着目し、参 照入力信号のパワーが小さいときには学習を停止する方式[62]がその代 表的なものである。また、分子が小さすぎると固定小数点演算では精度劣 化が生ずることに着目した方式[63],[64]も見られる。しかし、正規化に 使用する参照入力信号パワーの計算方法に関する検討は知られていない。

 これらの改良型アルゴリズムを用いると、ダブルトークや雑音が混入 した環境下でもエコーキャンセラの学習は可能になる。しかしながら、混 入した雑音による通話晶質の低下は避けられない。この問題を解決する ために、エコーキャンセラとノイズキャンセラとを融合させることも検

討されている[65],[66]。

 音声会議やTV会議においても、音声品質を向上させ、より臨場感あ るものにすることが求められている。そのためには、広帯域化と多チャン ネル化が必要となる。音声を多チャンネル化すると音像の定位が明確に なり、空間的な臨場感は大幅に向上する。DVD(Digita1Versati1e Disk)

などでは5+1チャンネルをサポートしているのもこのためである。

 音声会議やTV会議を多チャンネル化した場合には、エコーキャンセ ラも多チャンネルに対応したものが必要となる。最も基本的な多チャンネ ルエコーキャンセラとして、線形結合型[67],[68]が提案されている。こ の方式は、エコーパスと一対一に対応する適応フィルタを用いてエコー を消去する。

 多チャンネルエコーキャンセラにおいては、モノラルにはない新たな 問題点が指摘されている。収束特性の解析[691一[751により、遠端側の 話者が一人であるような非常に強い相互相関を有する場合にはエコーを 消去できる解が無限個存在するという、解の一意性の問題〔69],[76]指摘

されている。これは多チャンネルエコーキャンセラにおける最大の問題 とされ、多くの研究が行われている[771一[97ト

 解の一意性の問題を解決する方法としては、遠端信号にディザを加え るもの[781,[791、遠端信号に前処理を施す方法[801一[871、仮想的な方程 式を導入するもの[881などが知られている。前処理を施す方法は・さら に、線形な前処理を行うもの[801一[831、非線形な前処理を行うもの[84/

一[86/に大別される。前処理を用いた方法は有力な候補であるが・音声品

(10)

質と収束速度とのトレードオフ、収束の保証、最適な前処理の設計方法 などの課題も残されている。

 多チャンネルエコーキャンセラの高速収束アルゴリズム[89]■93]も 研究されている。解の一意性の問題を直接解決するものではないが、相互 相関のゆらぎを利用して最適値に近づけることが期待できる。また、解 の一意性の問題を解決する方法との併用は有効である。

 多チャンネルエコーキャンセラの問題点としては、演算量もあげられ る。演算量がチャンネル数の自乗に比例するため、チャンネル数の増加に つれて、演算量は急速に増加する。演算量を削減する方法としては、疑 似ステレオ方式を採用して通信容量とエコーキャンセラの演算量を同時

に削減すること[97],[98]も検討されている。

1.2 本研究の目的

 本研究では、エコーキャンセラの諸問題のうち、妨害信号への耐性と 多チャンネル化を検討する。適応フィルタの学習においては、最適なフィ ルタ係数に高速に収束することが求められている。しかし、妨害信号の 混入や強い相互相関のために最適値に収束できない場合がある。このよ うな例として正規化LMSアルゴリズムにおいて妨害信号が混入した場合 と・ステレオエコーキャンセラにおける演算量と解の一意性問題を取り

上げる。

 第2章では、適応フィルタとエコーキャンセラの概略を示す。まず、本 稿で取り扱うLMSアルゴリズムや正規化LMSアルゴリズムに基づく FIR型適応フィルタを紹介する。次いで、その応用例としてのエコーキャ

ンセラを示す。

 第3章では、妨害信号に強い可変ステップサイズの確率勾配型アルゴ

リズムを提案する。正規化LMSアルゴリズム[3]や可変ステップサイス アルゴリズム[53],[54]に対する付加雑音の影響を解析し、参照入力信号 パワーが小さい場合に付加雑音の影響が大きくなることを指摘する。こ の解析結果に基づいて、付加雑音の影響を受けにくい、参照信号パワー と雑音パワーに基づいてステップサイズを制御する確率勾配アルゴリズ ムを提案する。自動車内で測定した雑音やエコーを用いた言十算機シミュ

レーションによって、雑音が混入した環境下でもエコー除去性能が従来 法より5dB以上高いことを示す。また、シグナルプロセッサを用いた試 作装置により、提案法の性能を確認する。

 第4章では、妨害信号に強く、かつ、高速に収束する正規化LMSアル ゴリズムを提案する。正規化LMSアルゴリズム[31,[41において正規化 に用いられる参照入力信号パワーの推定方法が収束特性に与える影響を 解析する。解析結果に基づいて、参照入力信号の長時聞平均パワーを用 いた正規化LMSアルゴリズムを提案し、雑音が混入した環境下でも正常 に動作することを確認する。

 第5章では、音声会議において最も一般的である同時には話者が一人 しか発言しない場合のエコー生成モデルを用いて1チャンネル1個の適 応フィルタでエコーを消去できることを示し、この原理に基づく多チャ

ンネルエコーキャンセラを提案する。フィルタ係数の最適値が遠端側の 話者位置に依存するため、話者交代に高速に追従できるアルゴリズムを 提案する。部屋の音響特性の実測値を用いた解析により、音声会議で通 常想定されるマイクロホン配置では、提案法は演算量を削減できること

を示す。最後に、ハードウェアを用いた評価により、提案アルゴリズムの 有効性と解析の妥当性を確認する。

 第6章では、最適値に高速に収束する前処理を用いたステレオエコー キャンセラを提案する。まず、前処理を用いたステレオェコーキャンセ

(11)

ラ[801■83/のフィルタ係数期待値の収束特性を解析し・フィルタ係数 の期待値が最適値であるエコーパスのインパルス応答に収束する条件を 導出する。また、周波数領域において解が一意に定まるための必要十分 条件を求める。これらの解析結果より、最適な時変前処理フィルタの条 件を示し、2次の全域通過フィルタ (A11−Pass Fi1ter,APF)を用いるこ

とにより音声晶質を保ったままで収束速度を高速化できることを示す。

朴    立

引2早

適応フィルタとエコーキャンセラ

2.1 適応フィルタ

 適応フィルタ[1],[2]はディジタルフィルタの係数を学習可能にしたも ので、一定の規範に基づいて自動的にフィルタ係数を決定する。図2.1に FIR型適応フィルタのブロック図を示す。時刻ηにおける出力ひ(n)は、

参照入力信号z(n)とフィルタ係数ω{(n)を用いて       N−1

       州=Σω1(η)・(卜1)    (2・1)

      乞=O

で計算される。Nはタップ数である。フィルタ係数叫(η)は目的応答伽)

とフィルタ出力ひ(几)の誤差が最小になるように学習する。誤差の規範と しては平均自乗誤差を用いる場合が多いが、自乗誤差を用いるものもあ る。代表的な学習アルゴリズムとしては、LMSアルゴリズム[1]や正規 化LMSアルゴリズム[3]が知られている。

 LMSアルゴリズムにおいては、フィルタ係数は、

ω{(η十1)=叫(η)十μ{d(η)一ツ(η)}工(η一乞)    (2・2)

で更新する。μはステップサイズと呼ばれる数であり、これによって収束 特性が支配される。

(12)

兀(η) Z■1 Z.1 Z−1

a(η)

wO(n) w1(n)

w2ω w3ω

e(〃)

ツ(〃)

Figure2.1:適応フィルタ

 正規化LMSアルゴリズム(NLMS)はLMSアルゴリズムに参照入力 信号パワーによる正規化を導入したものである。フィルタ係数は、

      叫(1・1)一ψ)・μ{伽仁、小)} (卜z) (。.。)

      Σ乞一。 2(η一1)

で更新する。正規化LMSアルゴリズムは、参照入力信号パワーによる正 規化を行うため、入力信号パワーの影響を受けにくい。

2.2 エコーキャンセラ

 通信システムにおいて、送信側が送り出した信号が時間遅れを伴って 送信側に戻ってくることがある。このようにして戻された信号をエコー

と呼ぶ・エコーの例としては、図2.2に示す回線エコーや図2.3に示す音 響エコーがあげられる。回線エコーは、2線一4線変換に用いられるハイブ

リッドトランスのインピーダンス不整合によって発生する。音響エコー は・音声会議やTV会議などにおいて、スピーカで再生された音声がマ

イクロホンで収録され、送信側に転送されて発生する。

4線

じ一

2線 2線

H SW H

エコー

H1ハイブリッド・トランス SW=交換機

Figure2.2:回線エコー

 音声通信においては、エコーが戻されるまでの遅延時間が30ms以内 であればエコーと知覚されることはなく、大きな問題にはならない。遅延 時間が30msを超えればエコーと知覚され、快適な会話の妨げとなる。全 二重データ通信におけるエコーは、遅延時間を問わず通信の妨げとなる。

 このようなエコーを除去するために、エコーキャンセラ[13]が広く用 いられている。図2.4にエコーキャンセラの原理を示す。回線エコーにお けるハイブリッドトランスや音響エコーにおける室内伝達関数をエコー を生成する経路、すなわちエコーパスとする。適応フィルタを用いてエ コーパスを未知システムとしたシステム同定[11によって、エコーパスと 同じ特性を人工的に作り出す。エコーパスに送られる信号を適応フィル タにも入力させると、エコーパスと適応フィルタからは同じ信号が出力 される。これらを差し引くことにより、エコーを除去できる。

(13)

13

Room A       Room B

E肋0

◎0 ㊥◎

θ〃0

ηe〃0

Figure2.3:音響エコー

エコー生成モデル

Φ>」

Q一圭1箏①

・O LL㊦・一

  十

エコーキャンセラ

Figure2.4:エコーキャンセラ

第3章

参照信号パワーと雑音パワーに基 づく可変ステップサイズ確率勾配 アルゴリズム

3.1 緒言

 ハンズフリー電話は、ハンドセットなしで会話を行うことができるの で通話時に常に片手をふさがれることがないなどの利点から、近年急速 に普及している。ハンズフリー電話では、スピーカから再生された遠端 側音声がマイクで収録されて、快適な会話の妨げとなるエコーやハウリ ングが生ずる。これらを除去して快適な会話を行うために、エコーキャ ンセラを用いている。

 自動車電話においても、ハンズフリー電話が普及し始めている。走行 中にハンズフリー電話を使用する場合は、乗員の動作によってエコーパ スが変動するため、会話中にも適応フィルタを学習させる必要がある。し かし、自動車の走行中は雑音が大きいため、従来の正規化LMSアルゴリ

ズム王3]や可変ステップサイスアルゴリズム[53],[54]などでは、適応フィ ルタを正しく学習させることが困難であった。

 本章では、走行中の自動車内のように雑音が混入した環境下でも学習

(14)

が可能な適応フィルタの学習アルゴリズムを提案する。まず、正規化LMS アルゴリズムが雑音に弱い理由を考察する。考察結果に基づいて、勾配型 アルゴリズムにおいて参照入力信号パワーと雑音パワーに応じてステッ プサイズを制御するアルゴリズムを提案する。車内で収録した音声デー タを用いたシミュレーション結果によって、本アルゴリズムの有効性を 示す。また、本アルゴリズムをDSPを用いて実現し、ハードウェアによ る評価実験で、雑音の混入した環境下でのエコー除去が可能であること

を示す。

3.2 従来法とその問題点

 。Vタップの適応FIRフィルタを仮定する。時刻ηにおける参照信号 ベクトルをX(η)・フィルタ係数ベクトルをW(η)エコーを伽)とす ると・擬似エコーd(η)およびエコーキャンセラの出力信号e(η)は、

      伽):WT(η)X(η)       (3.1)

      ・(・):伽)一価)     (3.2)

で与えられる。確率勾配型アルゴリズムにおけるフィルタ係数更新は、

        W(n+1)=W(η)十μ(η)ε(η)X(η)    (3.3)

で行なう。ここで、上付添字rはベクトルの転置を表す。ステップサイ ズμ(肌)は係数更新量を定めるもので、参照入力信号パワーへ(n)に応

じて変化する。

 図3・1に、従来法におけるへ(η)とμ(η)の関係を示す。正規化LMS アルゴリズムのμ(η。)はへ(η)に反比例し、

      μO

       μ肌M∫(η):       (34)

       へ(η)

   一4

  10

ρ

…1

Φ10−8

.]

ω

O一 一12 ω

210

   一16

  10

  =  : Norma1ized LMS  1  1  …

 、\ 1 1 = 1 1 1 1

\ぺ  、ト㌧ l  1  .  1  1  1   1\べ  \。  1  :  l  l  :

一二一

g≒>÷ミき

  l  1 、∴  1,  1 一\  1  1

  1 1 1、≒  1、之\ト、1

  l    l    :   :  、1    ・、  ・  \

一一一 一一1一一 1.. I ㌣こ㌣ぐ;1 \

  1   1Adaptlve…∋tep 1   1  ,1,  F\

  1         1         ・        .        一         .        1    、  一   ・         1         1        .        ・         1        .        、   =      I      =      =      :      =     =      1  、

1

10 102 103104105106107108109

Reference lnput Signa1Power Px(t)

Figure3.1:従来法のステップサイズ

で与えられる。ここで、μoは、0<μo<2なる定数である。エコーパ スのインパルス応答ベクトルHと付加雑音①(η)を用いると、フィルタ 係数の更新は、

     W(η・1)一W(η)・μ…∫H蒜詰Txηxη

      十呼    (…)

で表される。式(3.5)の右辺第2項は係数誤差による更新、第3項は付加 雑音〃(η)による更新を示す。参照入力信号パワーみ(η)による正規化

によって、係数誤差による更新量はみ(η)によらず一定となる。しかし、

付加雑音〃(η)による更新量はみ(η)が小さい時に非常に大きくなる。こ れが、正規化LMSアルゴリズムが、参照入力が音声のような非定常信号 であり、かつ、雑音が混在した場合に正常な学習ができない原因となって

いる。

(15)

 雑音に強い可変ステップサイスアルゴリズムとして、the norma1ized

stochastic gradient a1gorithm with a gradient adaptive and1imited step−

size(NSG−GALS)[531やthe time−varying step−size NLMS(TVS−NLMS)

[54]が提案されている。NSG−GALSは、誤差パワーのステップサイズに 対する勾配を用いてステップサイズを制御する[491。さらに、ステップ サイズの変動量に制限を設けて、ステップサイズの制御を安定化してい る。TVS−NLMSは、雑音パワーの推定値を用いてステップサイズを制御 している。これらのアルゴリズムによるステップサイズ制御は、図3.1に おいて、パワーの逆数に比例する直線を上下に平行移動させることに相 当する。雑音が大きくなると直線は下に移動し、係数修正量を小さくす る。ステップサイズの制御により耐雑音性能は向上するものの、参照入 力信号パワーが小さいときの問題はそのまま残されている。したがって、

参照入力が音声のような非定常信号であり、かつ、雑音が混在した場合 に正常な学習ができない可能性がある。

3.3 新しい可変ステップサイスアルゴリズム

 従来法では参照入力信号パワーへ(η)が小さい時に付加雑音〃(n)に よる更新量が非常に大きくなることが問題であったので、み(η)が小さ い時にはステップサイズを小さくするアルゴリズムを提案する。ステッ

プサイズは、

      μ。px(η)

         μ・岬(・)=         (3.6)

       碍H(肌)十∫貴(η)

で求められる。P〃(η)は雑音パワーの推定値PN(η)を用いて

什H(η):αPN(n)      (3.7)

で言十算する。ここで、μoは0<μo<2なる定数、αは正の定数である。

(  一4

じ10 i

あ10−8

ま ω  一12一

  10

 一16

10

\・  Normalized LMS1  、

.....

P.二⇒・ぺ.上 …;(ル..1.......1.......1.....

  I     .     ・  、  ・     ・     I     ・     .

         、     ・    1    ・    1

1・・111・N・11・!、\≡

…・・o・…・十・7イ・・・… j・ …!・・…;;レ :・・…十一一

  ■         I         ●      ●         一    一    I         I      I

.十!1 1  11一11 1 1 …

  ・         ・        ・      ・

  1  1  レ1 1  1Larger Nose  1

    ・  1       ・              ・

一一 ノ; .r.一 一Pr・p…d 一† 1. I一一 1一

 ■        l   1   l   1   l   l

    ト・r・。(t)1

1

10 102 103104 105106107 108 10g Reference1nput Signa1Power Px(t)

Figure3,2:提案法のステップサイズ

雑音パワーPN(η)は、誤差信号ε(η)と疑似エコーd(η)を用いて、

・・(η十1)一 ^㌫)十(1一ル2(η);二1㍑(η))(…)

で推定する。ここで、Pヵ(η)は疑似エコーd(η)のパワー、尺(η)は誤差信 号ε(几)のパワーである。疑似エコーd(η)が小さいときのみに雑音パワー の推定値を更新することにより、雑音パワーの推定値に残留エコーのパ ワーが混入することを防いでいる。

 図3.2に、提案法における参照信号パワーとステップサイズの関係を 示す。提案法のステップサイズμp、。p(η)は、参照信号パワーPX(η)の増 加に対して、竹(几)<P〃(η)の区間では単調増加し、竹H(η)<み(η)

の区間では単調減少する。片∬(η)は雑音パワーの推定値PM(几)に比例 するので、雑音レベルの変動に応じて、μ戸、。ρ(亡)のピーク位置が変化して いる。

(16)

        Echo and Noise Power

108

    7

  10

…;

0106

雲10・

.9

  104

103

   0   5   10  15  20  25  30   35

      Time[sec]

●      ・      ■      一

NoIse2 …    …    ≡    ≡Nolse1x OO

ぷ〆㌣ ■       1

ノ1、へ ●       1

一; τへ 二、v 3

お一、4、、一一一

1 I

I

●一● ●■・ ●● ・ 一 ●    ●● ●一 一●●

\1

ラNoise2

1

= ト

一 ・ 一・・C ・一o・ ・ ・ ■□・一一 枯r ● ●   ● ●   ・●

蟻  e1  一●●

・ ・ 一一●■ 一一一●一●■●●● ・ ●● 一●●● ・■一 一● 『F一  ・

。1

一一●● ●■●・ ・一一・一.・・■・一

h

≡    …    ≡Echo…    1    :I      1      一      ●      1      ●

●      I      I      l      .      一 E       ■       一       I       ■       1

Figure3.3:音声と雑音のパワー

3.4 計算機シミュレーション

 自動車電話用音響エコーキャンセラを仮定し、ディーゼルエンジン搭載 車内で収録した雑音とエコーを用いて、計算機シミュレーションを行なっ た。エンジン停止中の車内で収録したエコーに、付加雑音としてアイドリ ング時の雑音(Noise1)、Noise1のパワーを100倍にしたもの(Noise1×

100)および走行中の雑音(Noise2)を加えた。エコーと雑音は、8kHzでサ ンプリングし、16bit整数に量子化した。図3に、エコーと付加雑音のパ フ』を示す。Noise1のパワーはほぼ一定であるが、Noise2のパワーは変 動している。Noise2の、26秒および29秒付近のピークは、甲高いブレー キ音による。図3,3に、エコーと付加雑音のパワー比ENR(Echo−to−Noise Ratio)を示す。

 シミュレーションでは、雑音に強い可変ステップサイスアルゴリズム

  30   25   20

面15 旦10

山 5

o= O

   一5   −10   −15   −20     0

Noise1

・・・…@Proposed 一

   .  .小  l  1

・…   一      ・      一   ・・,■ 一一

      1

・・一・

@糾…1・{ 柵 丁1

.滋=.oll いl l l に1講㍗ll]1111二1−lll

ψ..

岨、{

ll

1 1

1 1

NS−GALS

  1

+∵^トー…

 4.・

二二1二1÷

一一一一一一一一一

P…_一一1一一十一…1一一一一一一斗÷_一…阜§1Ψ§一一一一一一

.........j...........1..」......1..........⊥..........1..........土.........

5   10  15   20  25  30   35       Time[sec]

        Figure3.4:Noise1に対するERLE

であるNSG−GALSとTVS−NLMS、提案アルゴリズムを比較した。タッ プ数Nは512とした。評価基準としては、エコー除去性能ERLE(Echo RetumLossEnhancement)を用いた。ERLEは

      Σ旨 ひ2(上1)

        亙肌五(肌):101・g。。        (39)

      Σ乞。1ε2(η一1)

で定義される。時間平均の区間ムは1600サンプルとした。これは0.2 秒に相当する。各方法のパラメータは、Noise1を加えたデータに対し て亙R工亙(η)が最大になるように定めた。NSG−GALSのパラメータは μo=0.1,ρ=1,0×10−4,α=2.0×10 5β=0.0001とした。TVS−NLMS に対してはρ=0.01および6二1.o×106を用いた。提案法はμ〇二〇.2,

α=O.1,β=0.9984である。図3.4にNoise1に対するエコー除去性能 ERLEを示す。提案法は25dB以上エコーを除去している。また、提案 法の収束後のERLEは、NSG−GALSより5dB以上、TVS−NLMSより

(17)

20 Noise1x1OO

   10

[ o  0 旦

山一10

O=

山一20

Proposed

一30 一40  0

.㍗..;L.

  ・I

1....

   L

郷郷創ド、

1;…・・11…寺…一・…一1・・…・糾…!・…

  NSG−GALS

・1 、ぺ し1

   一τ

.1......1.......1.lL.1...{...........1… ….玉.∠.....

 ・I1寸 l1ノ一  

5  10  15  20  25  30  35 Time[sec]

Figure3.5:Noisel X100に対するERLE

15dB以上高い。図3,5にNoise1のパワーを100倍した場合のERLEを 示す。従来法はエコーを全く除去できていないが、提案法はエコーを最 大約15dB除去している。図3.6に非定常な雑音であるNoise2に対する ERLEを示す。提案法は10dB〜15dBエコーを削減しているが、従来法 のERLEはほとんどの区間でマイナスになっており、エコーをむしろ増 幅している。

20 Noise2

値 Io

山」

0=

10  0

−10

−20

−30

Proposed

手1

一40  0

  ;、

1   1

@r−

I   .

1〜

鰍、

   、U

1

、l

I1

NSG−GALS

 ._.

 一・・:・・『・・一…  一

  =1

・一… D,・・…・・一… ……・…≒・…・・…斗………TVS−NLMS…

   症

    1       .      ・      ・      1

5  10  15  20  25  30  35 Time[sec]

Figure3.6:Noise2に対するERLE

(18)

3.5 シグナルプロセッサによる実現と評価

  提案法に基づくエコーキャンセラをDSP(Digita1Signa1Processor)

を用いて実現し、性能比較を行った。DSPとしてはNEC製の32bit浮動 小一数点DSPμPD−77230[99]を使用した。1個のDSPでは演算量が不足す

るため、複数のDSPを搭載したボードを組み合わせたマルチDSPシス

テム[951を試作し、本評価に使用した。

 マルチDSPシステムはインターフェースボード(I/Fボード)とDSP ボードの2種類のボードで構成される。I/Fボードは各々4チャンネルの A/D変換器とD/A変換器、4個のDSPを搭載している。DSPボード には外部メモリを追加したDSPを4個搭載している。I/Fボード、DSP ボードともに、同一ボード内の4個のDSPは共有バスで接続されてい る。ボード間の通信にはシリアルI/Oポートを使用している。

 提案アルゴリズムの実現には、I/Oボードを1枚使用した。I/Oボー ドのブロック図を図3.7に示す。32bit浮動小数点DSPμPD−77230を4 個で512タップFIR適応フィルタを実現している。各DSPは128タップ の畳み込み演算および係数更新を行う。DSP井0は、エコー除去、ステッ プサイズおよび係数更新量の計算、全体の制御も行う。実現したエコー キャンセラの外観を図3.8に示す。

Echo  Output Reference

 ◎      ◎      ◎

〃D

1

DSP#

D/A A/D

1      1

DSP#1 DSP#

Timing Signa1  Generator

16

Figure3.7:エコーキャンセラのブロック図

DSP#

(19)

Figure3.8:エコーキャンセラの外観

 第3,4節で用いたエコーとNoise1を用いてハードウェアによる性能評 価を行った。測定にはAdvantestのR9211B FFTアナライザを使用し た。図3.9に雑音とエコーキャンセラ出力のパワースペクトルを示す。エ コーキャンセラ使用時(On)と未使用時(Of)の比較により、エコーをほ ぼ25dB削減していることがわかる。残留エコーのハワース.ヘクトルは 雑音のパワースペクトルとほぼ一致していることから、エコーを付加雑 音とほぼ同じレベルまで削減していることがわかる。

3.6 緒言

 雑音および参照信号のパワーに基づく可変ステップサイズのアルゴリ ズムを提案した。まず、付加雑音が従来法の学習に与える影響を解析し、

参照入力信号パワーが小さいときに雑音の影響が非常に大きくなること を示した。この解析結果に基づいて、雑音に強い可変ステップサイズの アルゴリズムを提案した。参照入力信号パワーがしきい値以下では単調 増加し、しきい値以上では単調減少する。しきい値は雑音パワーの推定 値に応じて制御する。自動車内で収録した、雑音が混入した音声を用い て計算機シミュレーションを行なった。本アルゴリズムは雑音レベルの 変動に追従してエコーを除去できることを確認した。さらに、本アルゴ

リズムをDSPを用いて実現し、ハードウエアによる評価実験で、雑音の 混入した環境下でのエコー除去が可能であることを示した。

(20)

27

第4章

Noise

・6ad

・伽ε  1〔1

d lリ

柵)

・いMlj臼FFTS卿0舳角し帆い州   1ルニーこξl  l111

、)

12.5       FPEQ岨㏄YH〜        5,OkFP.≡則」1≡NCY H〜       『 u k

言二;日s、、cτ

参照入力信号の長時間平均パワー

に基づく正規化LMSアルゴリズ

ムの安定化

用R9211BFFτSm)口舳LYZ冊 州   94−2−25 23:

 Echo

Cance11er   On

一2

く6aa)

 10d晩

/d l)

一100.0  dB)

一2〔1.O

 1畑v

I

1!.E・   r〔ld1  冊Ou則CYHz 5.Ok

o2;ε、し、、

 Echo

Cance11er

 Off

       oπ^

・6aa、      舳VE1

1州8

 10      0π^

・.р戟E      舳E2

 dB)

      50k

〔S旺CT=VI則】      舳G(Slハ)1 32/32

巫不可一可TiT1

Figure3.9:残留エコーのパワースペクトル

4.1 緒言

 確率勾配アルゴリズムに基づく適応フィルタ[1]_[60]は、演算量が少 なく実現が容易なことから、エコーキャンセラやノイズキャンセラに広

く用いられている。LMS(1eastmeansquare)アルゴリズム[1]や正規化 LMSアルゴリズム(NLMS)[31,[41は、その最も一般的な例である。正規 化LMSアルゴリズムは、正規化に用いるパワーの計算方法によって、さ

らに二種類に分類できる。学習同定法[3]として知られる参照入力信号ベ クトルの自乗ノルムを用いる方法と、リーク積分器でパワーを計算する

方法[4]である。

 LMSアルゴリズムは、その収束特性が参照入力信号のパワーに依存す るため、音声のような非定常信号への適用が困難である。正規化LMSア ルゴリズムは、参照入力信号パワーによる正規化を行うため、入力信号 パワーの影響を受けにくいとされているCそのため、非定常信号に対し て使用されることが多い。

(21)

 参照入力信号パワーによる正規化は、一方で、正規化LMSアルゴリ ズムを自動車用ハンズフリー電話のように雑音が混入する環境で使用す る際の妨げともなっている。第3章でも指摘したとおり、これは、参照入 力信号パワーが小さくなったときに、付加雑音の影響が非常に大きくな るためである。

 これに対して、LMSアルゴリズムは付加雑音に強いことが確認でき る。LMSアルゴリズムは無限長時間の平均パワーを用いて正規化した正 規化LMSアルゴリズムと等価であることから、正規化LMSアルゴリズ ムにおける参照入力信号パワーの推定方法がその収束特性に大きな影響 を与えることが予想される。しかし、参照入力信号パワーの推定方法が 正規化LMSアルゴリズムの収束特性に与える影響は明らかにされてい ない。特に、リーク積分によるパワー推定時定数の影響は報告されてい

ない。

 本章では、参照入力信号の長時間平均パワーと短時間平均パワーを用 いた正規化LMSアルゴリズムの安定化手法を提案する。まず、LMSア ルゴリズムと正規化LMSアルゴリズムを比較し、各々の問題点を示す。

次に、参照入力信号パワーの推定法が正規化LMSアルゴリズムの収束特 性に与える影響を解析する。参照入力信号パワーの推定方法によって、正 規化LMSアルゴリズムは雑音に強くなる場合も、不安定になる場合もあ ることを示す。参照入力信号パワーの新しい推定方法を提案し、実測信 号を用いた計算機シミュレーションによりその有効性を確認する。

4.2LMSアルゴリズムと正規化LMSアルゴリ

    ズム

 Nタップの適応FIRフィルタを仮定すると、離散時刻ηにおけるフィ

ルタ出力g(η)は

      伽)二WT(η)X(η)       (4.1)

で計算される。ここで、W(η)はフィルタ係数ベクトル、X(肌)は参照入 力信号ベクトルであり、上付添字丁はベクトルの転置を表す。参照入力 信号ベクトルX(η)は過去Nサンプルの参照入力信号 (η)で構成され、

       X(η):[州ψ一1)・…(η一N+1)lT  (4.2)

で定義される。フィルタ係数ベクトルW(れ)はN個のフィルタ係数から

なり、

        W(η)=[ω。(η)ω1(几)…ω。.1(η)1T   (4.3)

で定義される。W(肌)は誤差信号

ε(η)=ψ)一価)      (4.4)

の自乗平均値を最小にするように更新される。ここで、μ(η)は目的応答 信号である。

 LMSアルゴリズムにおいては、フィルタ係数W(η)は

W(η斗1):W(η)十μ川5ε(η)X(n)    (4.5)

で更新される。μ川∫はステップサイズと呼ばれる定数であり、これによっ て収束特性が支配される。定常な参照入力信号に対しては、フィルタ係 数が収束するための必用十分条件は

       2

      0<μ工M5<       (46)

      Nσ妄

(22)

で与えられる111。ここで、σ妄は参照入力信号z(η)の分散である。

 正規化LMSアルゴリズムは、ステップサイズμ〃5を時変にしたもの と考えることができる。フィルタ係数は、

       μMM5e(η)X(η。)

       W(η十1)=W(η)十      (47)

       !VPx(η)

で更新される。μ帆M5は正の定数、へ(η)参照入力信号のパワーである。

収束条件は

      0<μM工M∫<2      (4.8)

であり、参照入力信号π(η)に依存しない。このため、音声のような非定 常信号に対して広く用いられている。

 自乗ノルムを用いた正規化LMSアルゴリズムにおいて、参照入力信

号パワーPx(η)は        1

       へ(η)二一XT(η)X(η)         (4,9)

       N

で求められる。一方、リーク積分によるパワー推定は、

み(η)=αへ(上1)十(1一α)工2(η)   (4.10)

となる。正の定数αによって、リーク積分器の時定数を調整する。LMS アルゴリズムは(4.!0)の特別な場合であり、積分の時定数を無限大にし たものとみなすことができる。(4.5)と(4.7)の比較により、LMSアルゴ

リズムのスナッブサイズμ〃∫は       μNLM∫

      μム〃∫二       (411)

      N竹(n)

となる。

 LMSアルゴリズムと正規化LMSアルゴリズムには、各々の問題点が ある。ステップサイズμ〃sを決定するためには参照入力信号パワーが必 要なので、LMSアルゴリズムは参照入力信号パワーが未知である場合に

は使用できない。非定常な参照入力信号に対しては最大パワーに応じた ステップサイズを使用するため、参照入力信号パワーが小さくな った際 の収束速度が低下する。

 自乗ノルムによる正規化LMSアルゴリズムの最も重要な問題として、

付加雑音の影響があげられる。システム同定を仮定し、未知システムの インパルス応答ベクトルHと付加雑音り(η)を用いると、フィルタ係数 W(η)の学習は、

W(η・1)一W(η)・μ…!(H蒜1詰τx舳)

・呼   (・・1・)

で表される。参照入力信号パワー片(η)による正規化は、上式右辺第2 項の係数誤差H−W(η)による学習量が参照信号パワーPx(η)によら ず一定になるようにする。しかし、第3項の付加雑音η(η)の影響は、参 照信号パワーPX(η)が小さい時に非常に大きくなる。このため、正規化 LMSアルゴリズムは、参照入力信号が非定常で、かつ、付加雑音が存在 する場合にはフィルタ係数を正しく修正できない。

 システム同定におけるLMSアルゴリズムによる係数修正は、同様に、

W(η十1)=W(n)十μ〃5(H−W(肌))TX(η)X(η)

       十μ川sれ(n)X(n) (4.13)

となる。参照入力信号パワーが小さくなっても、付加雑音ω(几)がLMSア ルゴリズムの収束特性に与える影響は大きくはならない。参照入力信号 の最大パワーに対して収束速度がほぼ同じになるようにステップサイズ μMM5およびμ川5を選んだ場合には、LMSアルゴリズムに対する付加 雑音の影響は正規化LMSアルゴリズムより小さくなる。μMM5を小さく すると付加雑音による影響は緩和されるが、収束速度が低下してしまう。

(23)

 リーク積分による正規化LMSアルゴリズムのふるまいは、定数αに よって制御される。リーク積分の時定数がタップ数Nとほぼ等しい場合 には、その収束特性は自乗ノルムによる正規化LMSアルゴリズムとほぼ 等しいと考えられる。αを1.0に近づけると、LMSアルゴリズムと同様 の収束特性になると予想される。しかし、パワー推定法が正規化LMSア ルゴリズムの収束特性に与える影響はほとんど解明されていない。

4.3 正規化LMSアルゴリズムにおける参照入力

    信号パワー推定の影響

 種々の参照入力信号パワーの推定法に対して、正規化LMSアルゴリ ズムの収束特性を確認した。自動車用ハンズフリー電話に対する音響エ コーキャンセラの計算機シミュレーションを行い、自乗ノルムおよびリー ク積分による正規化LMSアルゴリズムとLMSアルゴリズムの収束特性 を比較した。エコーと付加雑音は自動車内で録音したものを用いた。サ ンプリング周波数は8kHzとした。参照入力信号は女性の音声、雑音は ディーゼルエンジン搭載車のアイドリング雑音である。最大S/N比は約 20dBである。適応フィルタのタップ数は512とした。

 収束特性の評価には、エコー消去量ERLE(EchoRetum Loss Enhance−

ment)を用いた。時刻亡におけるERLEは

      Σ白ユひ2(卜1)

        E肌E(η)=101・g1。       (414)

      Σ旨 ε2(上1)

で定義される。時間平均の区間工は1600サンプルとした。これは0.2秒に 相当する。ステップサイズμ川5およびμ帆〃3はエコー消去量亙Rム五(肌)

が最大になるように選択した。μ〃∫は1.25×10−10、μ肌M5は0.1である。

なお・エコーパスはわずかながら常に変動しているので、叱M∫やμ肌M3 を小さくしすぎるとエコー除去性能が低下する。

30 1nfluence of Power Estimation

25 20

[  15

旦 山  10

   5

O

一5

一10

 NLMS/Leak\

 (a=0.9999) \         、

   LMS・ 、       \

・…/・・r・

   1 斗

1/NLMS/Leak

1(a=O.99992)I

1、

k

徴1

l/

NLMS/Leak(a=O.99)

 λ

ll

0 5     10    15    20    25    30    35

       Time[sec】

      LMS i一.一    NLMS/Leak(a:099)

  NLMS/Norm       NLMS/Leak(a=09999)一一一一       NLMS/Leak(a:O.99992):一一一一一

Figure4.1:正規化に用いるパワーの収束特性に対する影響  図4.1にLMSアルゴリズムと正規化LMSアルゴリズムの収束特性を示 す。LMSアルゴリズムのエコー除去性能は自乗ノルムによる正規化LMS アルゴリズム(NLMS/Nom)よりも優れている。

 リーク積分による正規化LMSアルゴリズム(NLMS/Leak)の性能は・

リーク積分の定数αに依存する。定数αを大きくするにしたがって、エ コー消去量ERLEは向上する。定数αを大きくした場合のリーク積分に よる正規化LMSアルゴリズムは、LMSアルゴリズムとよく似た収束特 性を示している。このことから、LMSアルゴリズムが平均区間を無限大

とした正規化LMSアルゴリズムと等価であることが確認できる。

(24)

5x10g

①     9

事 4x1O

O・

⊂    g

o 3x1O

三    9α

  2x1O O

■一     g

① 1x1O

o=

O

ヒSτlma−1On OT He−erenCe ln uτ51nal HOWer

Leak

Norm

(・・O・9999) Leak(N=512)

i則β)/

1!1

1/

ξ

il/17

Constant

I

ポ1

1\ 1\

1\

三.\

@\

、。

O

Estimation of Reference ln ut Si na1Power

 5    10   15   20   25   30   35         Time[sec】

Norm(N=512)        Leak(a=099)

  Constant一一一一   Leak(a=09999) 一一一一 Figure4.2:正規化に用いたパワー

 リーク積分の定数αを大きくするとERLEが改善できる傾向はある が、αを大きくしすぎるとリーク積分による正規化LMSアルゴリズムは 不安定になる。図4.1より、0.99992<αでは不安定になることがわかる。

シミュレーション開始後約2秒で、五月工亙(η)が_ooになっている。

 図4.2に参照入力信号パワーの推定値Nみ(η)を示す。LMSアルゴリ ズムに対するパワーは一定値であると考えられ、(4.11)より

       μN工〃∫

      NPx(η)二      (415)

       μ乙M5

で計算した。リーク積分の定数αを大きくすると、リーク積分器の追従 速度が遅くなり、無音区間でも参照入力信号パワーの推定値が大きな値

を保っている。このため、小さすぎるパワーで正規化することが避けら れ、無音時の雑音による影響が小さくなっている。一方、参照入力信号パ ワーが急に増加した際に参照入力信号パワーの推定値が小さくなりすぎ ると、リーク積分による正規化LMSアルゴリズムは不安定になる。適切 な定数αを選択する必要があるが、その選択方法は明確にされていない。

4.4 参照入力信号の長時間平均パワーと短時間平     均パワーを用いたパワー推定

 正規化LMSアルゴリズムの付加雑音に対する耐性を考えると、長い 時定数のリーク積分を用いて参照入力信号のパワー推定を行うことが望

ましい。しかし、リーク積分を用いる場合には安定性を保証できるメカ ニズムが必要となる。

 自乗ノルムによる正規化LMSアルゴリズムはμN川∫<2の範囲で安 定であることに着目すると、正規化に用いる参照入力信号パワーの推定

値P女(η)カざ

       μ〈・〃5    2

       <       (416)

       NPx(肌) XT(η)X(肌)

を満足すれば、正規化LMSアルゴリズムは安定に収束することがわか る。これより、参照入力信号パワーの推定値へ(η)の下限は

       μM〃∫X「(n)X(η)

         p舳(n)=         (417)

      2N

となる。これは、自乗ノルムをタップ数Nで正規化した古XT(η)X(η)よ りも小さくなり得る。もし、パワーの推定値Px(肌)が(4.17)を満たさ ない場合には、PX(η)を適切な値で置き換える。例えば、パワーの下限

P灯ん(η)を用いる。

 リーク積分器を用いてパワーの下限へTん(η)を計算することもでき る。ただし、リーク積分の時定数を長くすると不安定になるので、時定

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