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要旨 更年期障害は加齢に伴うホルモンバランスの乱れが主因となって起こる疾患である 現在の日本人女性の更年期は 45 歳 ~55 歳といわれており このときにホルモンバランスが大きく崩れる このホルモンバランスの崩壊がほてりや肩こり 抑うつなどといった様々な症状を引き起こすことになる 本論文では 実際

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平成 25 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅱ

産婦人科疾患の病態生理と薬物治療に関する研究

‐更年期障害における処方せん調査‐

Study on Pathological Physiology and Pharmacotherapy in

gynecologic disease

Survey on Prescribed Drugs of a menopausal disorders‐

臨床薬剤学研究室

6 年

08P109 河内 綾子

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要 旨

更年期障害は加齢に伴うホルモンバランスの乱れが主因となって起こる疾患である。現在

の日本人女性の更年期は 45 歳~55 歳といわれており、このときにホルモンバランスが大きく

崩れる。このホルモンバランスの崩壊がほてりや肩こり、抑うつなどといった様々な症状を引

き起こすことになる。

本論文では、実際の臨床現場においてどのような薬物治療が行われているか処方実態を調 査し、更年期障害治療薬の使用状況をまとめた。

更年期障害の治療法はホルモン補充療法と漢方療法と向精神薬療法の 3 つに分かれて

いる。治療法はホルモン補充療法が第一選択となっているが今回の処方箋調査では漢方

療法が主流となっているものが多かった。しかしながら、ホルモン補充療法を行っている患

者も少なくはなかった。また、いずれの患者も短期処方ではなく長期の処方ばかりだった。

更年期障害の治療は薬物の治療が主体となり、ホルモン補充療法や漢方療法、向精神

薬療法、いずれも複数の治療薬、効果発現までの時間、副作用、様々な観点から十分な薬

の知識が必要となる。また、長期治療が基本となるため患者のケアも必要となるだろう。

患者本人の治したいという姿勢と医療従事者のサポートにより更年期障害は患者の症状

の軽減や QOL の向上が望める。薬剤師も更年期障害の治療にあたって患者への服薬指導

を始めホルモン製剤や漢方製剤の選択への助言、患者への生活指導など患者の症状を軽

減させ快適な生活を送るためにできることが多いと考えた。

(3)

キーワード

1.更年期障害

2.更年期の時期

3.ホルモンバランス

4.閉経

5.エストロゲン

6.プロゲステロン

7.ホルモン補充療法

8.漢方療法

9.向精神薬療法

10.副作用

11.卵胞ホルモン製剤

12.黄体ホルモン製剤

13.当帰芍薬散

14.補中益気湯

15.抗不安薬

16.睡眠導入剤

17.長期処方

18.薬剤選択

19.服薬指導

20.コンプライアンス

(4)

目 次

1.はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1

2.更年期障害の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1

3.治療法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2

4.調査方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

5

5.調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

6

6.考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

14

7.おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

16

謝 辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

17

引用文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

18

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- 1 -

論 文

1.はじめに

現在、日本には更年期と呼ばれる世代の女性が約2,000 万人いるとされている。 そして更年期の女性は私たちの母や叔母などというように、とても身近なところにも 何人もいるのである。 では、どれだけの女性が更年期障害という病気について理解しているのだろうか。 日常的な会話の中でも「わたし、最近更年期障害なのかしら。」や「最近イライラし すぎじゃない?更年期障害?」などと軽く発言しているような場面がよく見受けられる ことが多い気がする。また更年期障害と聞くとイライラやうつ状態などの症状をあげる 人が多いが、その他の詳しいことについて知っている人はどれだけいるのだろうか。更 年期障害なんてほっとけば治ると思い病院に行く人も少ないように思う。しかし、一口 に更年期障害と言っても個人によって現れる症状や治療方法は大きく異なるのである。 そこで本論文では、実際の臨床現場においてどのような薬物治療が行われているか処方 実態を調査し、更年期障害治療薬の使用状況をまとめた。

2. 更年期障害の概要

2-1. 定義

更年期障害とは更年期の時期に出現し、日常生活に大きな影響を及ぼす様々な不定愁 訴で女性ホルモンの低下に起因する全身の適応障害である。女性の体が最後に迎えるホ ルモンバランスの大きな変化に伴うもので環境や心理的因子が複雑に絡み合い器質的 疾患がないにも関わらず自律神経失調を中心とした不定愁訴を訴える。 *更年期の時期とは… 性成熟期と老年期の間の移行期をいい卵巣機能が減退し始め消失するまでの時期 のこと。1)2)一般には閉経の前後数年間のことをいい、現在の日本人の平均閉経年齢 は50.5 歳なので、日本人女性の更年期は 45~55 歳ということになる。

2-2. 更年期障害の病因

加齢によるエストロゲンの欠乏が更年期障害の主因とされていて、これに伴う視床下 部・下垂体の混乱が環境因子や個人の気質によりおさまらないで起こるとされている。

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- 2 - ●更年期とホルモンについて2) 更年期におけるホルモンバランスは、エストロゲン↓、FSH↑、ゴナドトロピ ン↑、LH↑となる。これは女性の一生の排卵数が決まっているため更年期になる と正常な機能を持つ卵胞は徐々に減少し、月経不規則や無排卵期を繰り返しやがて 閉経する。閉経すると卵胞は消失する。 正常な機能の卵胞が減少するため卵胞からのエストラジオール(E2)の分泌は低 下し、反対に脳からのFSHとLHの分泌は増加する。この状態を高ゴナドトロピ ン状態という。 2-3. 臨床症状 更年期障害の症状は大きく4つに分類できる。これらの症状は社会的、環境的、精神 的要因が絡み合うため個人差が大きい。 ① 血管運動障害:のぼせ・ほてり・発汗(これらを総称して hot flash という)、 手足の震え、動悸、肩こり、腰痛、手足の冷え ② 精神神経障害:頭重感、抑うつ、不安感、睡眠障害、易怒性、焦燥感、めまい ③ 知覚神経症状:手足のしびれ、手足の感覚の鈍化 ④ 運動器官症状:易疲労性、手足の痛み、関節痛 これらの症状は数年続くが全身の適応により次第に軽快していく。 3. 治療法 3-1. 主な治療法 更年期障害の治療法は3つに分けられる。 ① ホルモン補充療法(HRT) ホルモン補充療法とは、エストロゲン欠乏を補う目的でエストロゲンとプ ロゲステロンを経口的または経皮的に投与する方法のこと。 ▼HRT の原理2) エストロゲンを投与することで更年期障害の症状が緩和される。しかし エ ス ト ロ ゲ ン の 投 与 に よ っ て エ ス ト ロ ゲ ン は 相 対 的 な 過 剰 状 態 (unopposed estrogen:エストロゲンがプロゲステロンの拮抗を受けず、エ ストロゲンの作用が強くなってしまうこと)になり子宮体癌のリスクが高 まってしまう。そこでプロゲステロンを投与することでエストロゲンの子 宮内膜増強作用による子宮体癌の発生、乳がん細胞増殖を抑えることがで きる。また、子宮がない女性の場合はエストロゲン単独の投与が行われる。

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- 3 - ② 漢方療法 生薬を用いるため比較的副作用が少ないので HRT を選択せずに漢方療法 を選択する人も多い。漢方製剤は患者の症状から選択する。 ▼漢方療法時の症状の分類7) 漢方製剤を選択する際に重要となるのが患者の症状であり、この症状を 3 つの証に分類している。 ・実証:症状としてのぼせ、ほてり、子宮筋腫などの婦人病の症状出現。 これは血の巡りが滞る「才血」が原因とされている。 ・嘘証:症状として冷え性、むくみ、体力低下が出現。 これは血の巡りが悪くなっているためとされている。 ・中間証:症状としてほてり、のぼせに加え自律神経失調症や精神の不安 定が症状として出現。 実証と嘘証の中間にあり、気の巡りが原因とされている。 ③ 向精神薬療法 更年期障害の症状で精神的な不調があるときには向精神薬が使われる。不 眠やうつ、イライラ、気分の落ち込みなどは長時間放置すると治りにくくな るため早めの薬物治療が肝心となる。 向精神薬にも様々な種類があり症状によって使用する薬を分類する。 3.2 治療薬 ① ホルモン補充療法 HRT で使用されるホルモン製剤は人間の不可逆的な加齢を一時的に止めるもしくは 戻そうとしてしまうためリスクが大きくなる。このためホルモン製剤使用時には十分な インフォームドコンセントが必要となる。主なホルモン製剤を次項の表1 に示した。 ② 漢方療法 患者の証や症状によって薬剤を選択する。漢方製剤の副作用は少ないが効果発現まで に時間がかかってしまう。更年期障害時に使用される漢方薬を表2 に示した。 ③ 向精神薬療法 この治療法では主に抗うつ薬(SSRI)が使用され症状に合わせて睡眠導入剤などの他 の向精神薬が処方される。 (次項 表 1)

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- 4 - 一般名(商品名) 用法用量 作用 重大な副作用 卵 胞 ホ ル モ ン 製 剤 エ ス ト ラ ジ オ ー ル と そ の 誘 導 体 エストラジオール錠 (ジュリナ) 0.5mg (1 日 1~2 回 1 回 1 錠) 卵巣機能の急激な低下でエ ストロゲンが欠乏し、のぼせ などの障害がおこる。経口 E2 の投与によりエストロゲン濃 度を上昇させて症状改善。 静脈血栓塞栓症 血栓性静脈炎 アナフィラキシー 様症状 エストラジオール 貼付剤 (フェミニスト) 2.17mg、4.33mg (下腹部に貼付し週に 2 回貼り替える) エストロゲンの欠乏により hot flush、泌尿生殖器の委縮症 状などを引き起こす。経皮的 に直接全身循環中へ供給し、 E2 濃度を上昇させて症状軽 減。 エストラジオール テープ (エストラーナ) 0.72mg (下腹部または臀部に 貼付し 2 日毎に貼付) エストラジオール ゲル(ディビゲル) 1mg (1 日 1 回 1mg を下腹 部または大腿部、約 400 ㎡に塗布。) 経皮投与によって直接全身 循環系に到達させることによ って血清中 E2 濃度を維持さ せることで症状軽減。 エ ス ト リ オ ー ル と そ の 誘 導 体 エストリオール錠 1mg (1 日 1 回食後 1 回 1 錠) 子宮頸部の機能亢進、その 重量増加、頸管間質の膨化と 粗鬆化が著名となり頸管を柔 軟化させる。子宮体にはほと んど影響しない。 血栓症 結 合 型 エ ス ト ロ ゲ ン 製 剤 結合型エストロゲ ン錠(プレマリン) 0.625mg (1 日 1 回朝食後 1 回 1 錠) 水溶性製剤で、肝臓で分解さ れにくい。 血栓症・ 血栓塞栓症 黄 体 ホ ル モ ン 製 剤 プ ロ ゲ ス テ ロ ン と そ の 誘 導 体 クロルマジノン酢 酸エステル (ルトラール) 2mg (1 日 2~12mg 分 1~ 3) 黄体ホルモン作用は有する が卵胞ホルモン作用はほぼ ない。E2 製剤と併用して用い る。 アナフィラキシー 様症状 両 性 混 合 ホ ル モ ン 製 剤 (ボセルモン) 1A (1 日 1~2ml1 日 1 回 または隔日。) 1A,5mg(テストステロン 4.76mg、 エストラジオール 0.24mg) 血栓症 (ダイホルモン・ デポー) 1A (1 回 1ml2~4 週毎 筋 注) 1A,5mg(テストステロンエナント 酸エステル 90.2mg、エストラジオ ール吉草酸エステル 4mg)

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- 5 - 表2 漢方製剤 よみ 症状 紫胡加竜骨牡蠣湯 さいこかりゅうこつぼ れいとう 便秘傾向で肩こり、動機、不 眠、不安感がある。 桃核承気湯 とうかくじょうきとう 月経が乱れがちでのぼせ、足 の冷え、顔のほてり、肩こり、 しびれがある。 桂枝茯苓丸 けいしぶくりょうがん 便秘はないが冷え、のぼせが ある。 温経湯 うんけいとう だるさ、ほてり、冷え、動機 加味逍遥散 かみしょうようさん めまい、耳鳴り、目のカスミ、 不安感、イライラがある。 半夏厚朴湯 はんげこうぼくとう 咽に何か痞えているような感 じがしてイライラしたり、みぞお ちのつかえがある。 当帰芍薬散 とうきしゃくやくさん 生理不順で手足が冷えやす く、疲れやすい。 通導散 つうどうさん 不安やイライラを抑え、ホルモ ンバランスを整える。 抑肝散 よくかんさん 情緒不安、不眠などがある。 女神散 にょしんさん のぼせやめまい、動機があ る。 三物黄ごん湯 さんぶつおうごんとう ほてりがある。

4. 調査方法

新潟市内を中心に薬局展開する市民調剤薬局からデータ提供の協力を得て、平成 24 年10 月から 12 月(10/1~12/31)に来局した患者の処方せんから更年期障害に適応の ある薬物が処方されている患者を対象とし、過去 1 年間の患者の処方せんのデータ収 集・集計を行った。なお、患者情報に関するデータの収集・集計は個人情報保護法に配 慮して行った。

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5.調査結果

5-1. 対象患者

平成24 年 10 月から 12 月に来局した更年期障害に適応のある治療薬が処方され ていた35 歳から 65 歳の女性患者 32 名を対象に過去 1 年の処方を 139 例集めるこ とができた。 なお、更年期の時期は50 歳±5~10 歳と言われているが個人差なども考慮し、今 回の調査は日本人女性の平均閉経年齢である50 歳±15 歳として調査を進めること とした。また、対象患者の平均年齢は 47.4 歳であった。患者の年齢層についての グラフをグラフ1 に示す。 グラフ1

5-2.処方例

① I.K さん(43) Rp.1 ツムラ当帰芍薬散エキス顆粒(医療用) 7.5g 1 日 3 回毎食前服用 90 日分 Rp.2 プレマリン錠 0.625mg 2T 1 日 2 回朝・夕食後服用 63 日分 Rp.3 プロベラ錠 2.5mg 2T 1 日 2 回朝・夕食後服用 21 日分 10 5 5 6 2 4 35~40歳 41~45歳 46~50歳 51~55歳 56~60歳 61~65歳

更年期障害に適応のある薬物を

使用している患者の年齢

更年期障害と思われる患者の年齢

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- 7 - ①の処方例ではRp.2 のプレマリン錠は結合型エストロゲン製剤であり、Rp.3 の プロベラ錠は黄体ホルモン製剤である酢酸メドキシプロゲストロンであり、卵胞ホ ルモン製剤と黄体ホルモン製剤の併用をしておりHRT の患者であることが分かる。 また、処方日数を見るとプレマリン錠63 日分、プロベラ錠 21日分であることから、 1 ヵ月のうちの最初の 2 週間はプレマリン錠(卵胞ホルモン製剤)のみを服用し、3 週目はプレマリン錠とプロベラ錠(黄体ホルモン製剤)の 2 剤を服用し、残りの 1 週 間は休薬するという卵胞ホルモン製剤と黄体ホルモン製剤を周期的に服用すると いう服用方法であることが読み取れる。この患者は薬物の投与方法から閉経前の更 年期障害の患者であることが推測できる。またRp.3 の当帰芍薬散は更年期障害に 適応のある漢方薬であり、生理不順や手足が冷えやすい、疲れやすいなどの症状が 出現していると予測され、HRT と漢方療法の併用療法を行っている患者であるこ とが分かる。 ② N.M さん(48) Rp.1 エストラーナテープ 0.72mg(0.72mg) 9 平方 cm 45 枚 指:2 日に 1 回貼り替え 1 日 1 回外用 Rp.1 のエストラーナテープは卵胞ホルモン製剤であるエストラジオールとその 誘導体の貼付剤であり、経皮的に直接全身循環中へエストロゲンを供給し体内の E2 濃度を上昇させ、エストロゲンの欠乏により引き起こされる hot flash などの症 状を軽減させる。下腹部または臀部に貼付する。この患者はHRT のみを受けてい る患者ということがこの処方から読み取りことが出来る。またこの患者はエストロ ゲンのみを連続的に使用している服用方法から、子宮がない(過去に子宮を全摘し ている)可能性があると考えられる。もしくは、更年期障害の症状が出現したばか りで短期間のHRT を行っている患者とも推測できる。 ③ I.H さん(49) Rp.1 ツムラ補中益気湯エキス顆粒(医療用) 7.5g 1 日 3 回毎食前服用 90 日分 Rp.2 ツムラ半夏厚朴湯エキス顆粒(医療用) 7.5g 1 日 3 回毎食前服用 90 日分

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- 8 - Rp.1 の補中益気湯は疲れやすい、体力低下時に服用し、Rp.2 の半夏厚朴湯はイ ライラや咽やみぞおちのつかえを訴えているときに用いる。この患者は処方例①、 ②の患者とは異なりHRT は行わず漢方のみを使用している患者である。漢方薬の み使用の患者は更年期障害の症状が長期にわたり出現している、HRT が行えない、 本人が漢方療法を望んだなどの理由が考えられる。

5-3.ケーススタディー

① I.M さん(44) H24.2 Rp.1 プレマリン錠 0.625mg 2T 指:生理5 日目から 1 日 2 回朝・夕食後服用 72 日分 Rp.2 ヒスロン錠 5.5mg 2T 指:プレマリン内服15 日目から 1 日 2 回朝・夕食後服用 30 日分 Rp.3 マイスリー錠 10mg 1T 1 日 1 回就寝前服用 28 日分 H24.5 Rp.1 ソフィア A 配合錠 2T 1 日 2 回朝・夕食後服用 21 日分 H24.6 Rp.1 プレマリン錠 0.625mg 2T 指:生理5 日目から 1 日 2 回朝・夕食後服用 24 日分 Rp.2 ヒスロン錠 5.5mg 2T 指:プレマリン内服15 日目から 1 日 2 回朝・夕食後服用 10 日分 Rp.3 マイスリー錠 10mg 1T 1 日 1 回就寝前服用 28 日分

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- 9 - H24.7 Rp.1 プレマリン錠 0.625mg 2T 指:生理5 日目から 1 日 2 回朝・夕食後服用 48 日分 Rp.2 ヒスロン錠 5.5mg 2T 指:プレマリン内服15 日目から 1 日 2 回朝・夕食後服用 20 日分 Rp.3 マイスリー錠 10mg 1T 1 日 1 回就寝前服用 28 日分 H24.10 Rp.1 エディロールカプセル 0.75μg 1C 1 日 1 回朝食後服用 28 日分 Rp.2 テルネリン錠 1mg 2T 1 日 2 回朝・夕食後 28 日分 H24.11 Rp.1 プレマリン錠 0.625mg 2T 指:生理5 日目から 1 日 2 回朝・夕食後服用 72 日分 Rp.2 ヒスロン錠 5.5mg 2T 指:プレマリン内服15 日目から 1 日 2 回朝・夕食後服用 30 日分 Rp.3 マイスリー錠 10mg 1T 1 日 1 回就寝前服用 28 日分 H24.11 Rp.1 エディロールカプセル 0.75μg 1C 1 日 1 回朝食後服用 56 日分

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- 10 - 今回調査を行った処方箋の中で44 歳の女性に焦点を当ててみることにした。H24 年 2 月にこの患者はプレマリン錠(卵胞ホルモン製剤)とヒスロン錠(黄体ホルモン製剤)の 周期的投与がされており、この患者は閉経前のHRT の患者であることが分かる。そし て薬物の投与方法がエストロゲンと黄体ホルモンを周期的に使用していることから閉 経前の更年期障害の患者であることが推測できる。また、マイスリー錠(ベンゾジアゼ ピン系薬剤)が処方されていることから不眠も訴えている可能性が高い。 同年 5 月の処方でホルモン製剤が黄体・卵胞ホルモン混合製剤であるソフィア A 錠 に切り替わっている。薬が切り替わった理由として、ホルモン療法は服用方法が1 剤服 用する日もあれば2 剤服用する日もあり、患者は服用方法が困難なため患者の希望で服 用方法の単純な混合ホルモン製剤に切り替わったのではないだろうかと推測した。ソフ ィア A 錠は中容量ピルの一種で更年期障害時に起こる高ゴナドトロピン状態を改善さ せることができる。ソフィア A 錠も周期的な服用をする薬剤であり一般的には生理 5 日目を初日として、以後3 週間連続投与してから 1 週間休薬し 28 日を 1 クールとする。 主な副作用は吐き気、嘔吐、乳房の張りや痛み、不正出血である。 しかし同年6 月にはソフィア A 錠からまたプレマリン錠とヒスロン錠に戻り、その 後、ソフィアA 錠は使用せずにプレマリン錠とヒスロン錠の 2 剤を併用していること が分かる。これはソフィア A 錠を使用した患者に何らかの副作用が出たなどの薬が合 わなかった、症状のコントロールがうまくできなかったなどの理由が考えられる。 また、同年10 月からはエディロールカプセル(活性型ビタミン D3製剤)が併用されて いることから骨粗鬆症を併発した可能性が高いと考えた。更年期障害と骨粗鬆症との因 果関係は大きく骨粗鬆症は更年期障害の症状の1 つとしてよく見られる。 女性ホルモンであるエストロゲンは破骨細胞が骨を分解する速度を調節して骨量を 維持する働きがあるのだが、更年期の時期に急激にホルモンバランスが崩れエストロゲ ンが減少することで骨密度が減少し骨粗鬆症を発症してしまう 10)。この患者も更年期 障害によるエストロゲンの減少により骨粗鬆症を発症したのだと考えられる。また、こ こで処方されている骨粗鬆症治療薬のエディロールカプセルは活性型ビタミンD3の誘 導体でありヒト破骨前駆細胞に作用し破骨細胞の形成を抑制する働きを持つ活性型ビ タミンD3製剤である。一般的には1 日 1 回 0.5μg または 0.75μg を服用する。主な副 作用は血中または尿中のカルシウム濃度上昇や血中尿酸濃度増加などである。 この患者は翌月の11 月にまたエディロールカプセルが日数を 28 日から 56 日分とな り続けて処方されていることから、おそらくエディロールカプセルが今後も続いていく のだろうと考えた。

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- 11 -

5-4.実際の処方状況

更年期障害の治療方法には HRT、漢方療法、向精神薬療法の 3 つがあり実際の処方 箋ではこれら3 つの治療方法が併用されているもの、単独で処方されているものと様々 だった。 対象患者32 人の治療傾向をみてみると HRT のみの患者(15%)、HRT と漢方療法の 併用している患者(6%)、HRT と漢方療法と向精神薬の併用している患者(3%)、漢方療 法のみの患者(56%)、漢方療法と向精神薬を併用している患者(12%)、その他(3%)に分 類できた。図5-4-①参照。これらの結果からも分かるように漢方薬を使用している患者 が多く全体の77%であった。 HRT を受けている患者の処方箋(32 例)を見てみると卵胞ホルモン製剤と黄体ホルモ ン製剤を併用している症例(63%)、卵胞ホルモン製剤のみを服用している症例(34%)、 卵胞ホルモン製剤と黄体ホルモン製剤の合剤を使用している症例(3%)の 3 つに分ける ことができた。図5-4-②参照。 その中でも卵胞ホルモン製剤と黄体ホルモン製剤の併用で使用される卵胞ホルモン 製剤は結合型エストロゲン(90%)とエストラジオール(10%)に分けることができた。図 5-4-③参照。また卵胞ホルモン製剤のみを使用している症例も使用薬剤をエストラジオ ール(55%)とエストリオール(45%)に分けることができた。エストラジオールの単剤投 与は子宮がない患者に適応があり、エストリオールの単剤投与は短期的なHRT または 閉経後5 年以上の患者に適応がある。図 5-4-④参照。 漢方薬の使用については当機芍薬散、補中益気湯、桂枝茯苓丸、半夏厚朴湯などの更 年期障害や体の虚弱などに適応のある17 の漢方薬が実際に使用されていた。実際の使 用割合は図5-4-⑤に示した。 向精神薬の使用についてはレンドルミンD 錠®やマイスリー錠®などの不眠に適応を もつ薬剤が使用されているものが多かった。しかし、SSRI などの抗うつ薬を使用して いる患者はいなかった。 また、139 症例のうち 11 例の処方箋(8%)に自律神経調整剤であるグランダキシン錠 ®(一般名:トフィソパム)が使用されていた。グランダキシン錠®は更年期障害時に出現 する頭重感や心悸亢進、発汗等の症状を軽減させる作用がある。一般的に1 日 3 回、1 回50mg を投与する。主な副作用は眠気、ふらつき、口渇などがある。

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- 12 - 図5-4-① 図5-4-② HRTのみ 19% HRT+漢方療法 6% HRT+漢方療法 +向精神薬 3% 漢方療法のみ 56% 漢方療法 +向精神薬 13% その他 3%

更年期障害における治療法

63% 34% 3%

HRTにおける薬剤の使用割合

卵胞ホルモン+黄体ホルモン 卵胞ホルモンのみ 合剤 ※1 ※2

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- 13 - 図 5-4-③ 卵胞ホルモン製剤と黄体ホルモン製剤を併用している患者でも使用され ている卵胞ホルモン製剤に違いがあった。 図 5-4-④ 卵胞ホルモン製剤のみを使用している患者でも使用されている卵胞ホル モン製剤に違いがあった。 90% 10%

使用されている卵胞ホルモン

(※1) 結合型エストロゲン(プレマリン®) エストラジオール 55% 45%

使用されている卵胞ホルモン

(※2) エストラジオール エストリオール

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- 14 - 図5-4-⑤

6.考察

更年期障害は閉経の前後数年で発症されていると言われており、日本人女性の平均 閉経年齢は50.5 歳のため今回は個人差を加味して 50 歳±15 歳で調査を進めることと した。今回の調査では40 歳代の女性の罹患率が最も高く 32 例中 11 例(全体の 34%)あ った。また、30 代の罹患率も高かったが、更年期障害の治療薬は月経異常や排卵障害 時にも使用されるものも多く実際に処方薬だけでは更年期障害と断定することは難し いが、今回は更年期障害に適応のある薬剤を使用している35 歳~65 歳の女性患者を対 象としたためこのような結果になった。 調査対象患者における治療方法は全体の約 80%が漢方薬を使用しているという結果 になった。中でも漢方療法のみを受けている患者が最も多く全体の 56%であった。漢 方薬は作用するまでに時間がかかるが副作用が少ないため患者にとっても負担が少な い。また、HRT と異なり更年期時のホルモンバランスを整えてくれる他に、更年期障 害に発現する諸症状を軽減させてくれる薬物も多い。この2 点の理由から漢方薬の使用 割合が大きいのではないかと推測した。また、漢方単独での使用が多い理由として、上 記にも示したが漢方薬は効果が緩和で副作用も多くはないので使いやすい薬物である ためだと考えた。また、患者にとっても漢方薬は医薬品と言うよりもどちらかというと 20 20 18 17 12 9 7 5 4 4 4 3 3 2 1 1 1

漢方薬の使用割合

(枚)

漢方薬の使用割合(枚)

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- 15 - 健康食品のようなイメージの方が強くすんなりと更年期障害における薬物治療を受け 入れることができるのだろうかと考えた。漢方療法で最も多く使われていた漢方薬が当 帰芍薬散と補中益気湯であった。この二つはどちらも更年期障害時の代表的な薬剤とし て知られている。当帰芍薬散は更年期障害のほかに虚弱な女性の月経不順、月経困難症、 腰痛などにも適応のある婦人病に効果のある漢方薬として知られている。補中益気湯は 消化機能の衰えや食欲不振、多汗症などに適応のある虚弱体質の患者に効果のある漢方 薬として知られている。 また、HRT は更年期障害の第一療法とされているが HRT を受けている患者全体の 約 30%程度だった。HRT を受けている患者のうち 60%は卵胞ホルモンと黄体ホルモ ンの併用療法をしている患者で、35%の患者は卵胞ホルモンのみを使用していた。卵胞 ホルモン製剤のみの使用は子宮癌などのリスクを考えて原則、子宮のある患者には使用 しないことになっている。故に、卵胞ホルモン製剤のみを使用している患者は子宮がな い確率が高いと考えた。しかし、卵胞ホルモン製剤のみを使用している患者の使用して いる卵胞ホルモン製剤の内訳を見てみるとエストラジオールとエストリオールの 2 剤 だった。(図 5-4-④参照)更年期障害における HRT ガイドラインによるとエストリオー ルはE3 製剤であり、これはエストラジオールの 10 分の 1 の効力であり子宮があって も短期間のHRT 時には用いることができるとなっている。従って卵胞ホルモン製剤の みを使用しているうちの 45%の患者(エストリオール使用患者)は子宮がないとは断定 し難く、短期間の卵胞ホルモン製剤のみでのHRT を行っている可能性も考えられる。 ホルモン製剤と漢方薬を併用していた患者は全体の 10%程度だった。これはホルモ ンバランスの乱れはホルモン製剤で、その他の諸症状は漢方薬で治療しているのだと考 えた。 また、SSRI や SNRI などの抗うつ薬を使用している患者はおらず、向精神薬を使用 している患者のほとんどがレンドルミンやマイスリーなどの抗不安薬や睡眠導入剤を 使用していた。これは更年期におけるホルモンバランスの乱れによる精神症状(不眠や 抑うつ、不安感など)の症状が出現しているが抗不安薬や睡眠導入剤などで補える程度 の症状なのだと推測した。 更年期障害の患者はホルモン製剤を使用している患者、漢方薬を使用している患者、 いずれにせよ長期の処方ばかりだった。このため薬の特性などをよく理解し、十分な服 薬指導が必要となるだろうと考えた。

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7、おわりに

更年期障害という疾患はみんなが分かっているようでまだまだ不明確な疾患ではな いかと調べていくうちに感じた。 人間の老化は避けることのできないものであり、もしかしたら更年期障害という病に かかるということは当然の流れなのかもしれない。 しかし、仕方ないなどと言って放っておくと患者のADL や QOL は大きく低下してし まう。 更年期障害の治療法で主要となる治療法は HRT であるが今回の処方箋調査で実際 に主要になっていたのは漢方療法であった。漢方療法は作用が緩和で副作用が起こり にくいものの作用発現までに時間がかかる。また、漢方薬は多くの種類があるので適 切な治療薬の選択が治療のカギとなるであろう。ここでは薬剤師が持つ薬の知識は大 きく役に立つのではないかと思う。 またHRT も今回の調査では漢方療法よりも処方箋枚数は多くなかったものの HRT は更年期障害における主要な治療方法の一つである。ここで用いるホルモン製剤によ り子宮体がんのリスクの増加やその服用方法の複雑さにより患者のコンプライアンス の低下の例がみられる。このため、患者のサポートという面で薬剤師ができることは 多いように思う。 更年期障害の治療に重要なのは患者本人の治したいという意志とその人に合った治 療法、治療に用いる薬物なのである。 薬の専門家である薬剤師が更年期障害について十分理解し、正確な知識と適切な服 薬指導をすることで更年期障害患者のADL、QOL の向上などを実現することができ るのではないだろうかと本論文を通して感じた。

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謝辞

本研究を行うにあたり、多大なるご協力をいただいた 株式会社 市民調剤薬局の皆 様、新潟薬科大学臨床薬剤学研究室 河野健治教授に深くお礼申し上げます。

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引用文献および参考文献

1) 斉藤康:わかりやすい疾患と処方薬の解説,2010 年小改訂版(第 2 版),アークメデ ィア,pp332~325(2010). 2) 医療情報科学研究所:病気が見える vol.9 婦人科・乳腺外科,第2 版,メディック メディア,pp98~101(2009) 3) 高久史麿,矢崎義雄:治療薬マニュアル2010,2010 年版,医学書院,pp147~152, pp169~173,pp225~230,pp351~356,pp869~899,pp1907~1944,pp1845 ~1849(2010). 4) 奥田拓男:漢方薬学‐現代薬学生のための漢方入門‐,廣川書店,pp56~60(2011). 5) NPO 法人 女性の健康とメノポーズ wham 40 代からの健康医療 (http://www.meno-sg.net/index.html). 閲覧日 2013.01.16 6) 更年期のここカラダ(http://mp.cocokarada.jp/). 閲覧日 2013.01.16 7) 更年期障害で困ったら見るページ (http://kounenkidekomatta.net/01kiso/index.html). 閲覧日 2013.01.17 8) しんじょう薬局 (http://shinjou.s172.xrea.com/modules/xfsection/article.php?articleid=23). 閲覧日 2013.01.17 9) 漢方健康ネットワーク Quality of life(http://www.kenko-network.jp/). 閲覧日 2013.01.16 10) 更年期障害ガイド (http://www.kounenkisyougai.com/) 閲覧日 2013.01.17

参照

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