一20一
食 物 学 会 誌 ・第35号
N,N'一
ジ ア ル キ ル エ チ レ ン ジ ア ミ ン と ア セ ト ン
と の 反 応: イ ミ ダゾ リ ジ ン環 の 生 成
*串
岡
慶
子
The Reaction
of N,N'—Dialkylethylenediamines
with
Acetone:
Formation
of the Imidazolidine
Ring
Keiko
Kushioka
緒
言
葉 酸 の テ ト ラ ヒ ド ロ 体(図1a)は,補 酵 素 と し て 生 理 活 性 を 示 す 。 そ の う ち,5,10一 メ タ ノ テ ト ラ ヒ ド ロ葉 酸(図1b)は,ピ リ ジ ン ヌ ク レオ チ ドの 代 謝, グ リ シ ンーセ リ ン の 相 互 転 換,グ リ シ ンの 分 解 と 生 成 な ど の 代 謝 系 に 関 与す る 。1)こ れ は,テ ト ラ ヒ ドロ 葉 酸 の5,10位 に あ る 窒 素 原 子 に 結 合 し た 水 索 原 子2個 と,ホ ル ム ア ル デ ヒ ドや ギ 酸 が 脱 水 縮 合 して イ ミ ダ ゾ リ ジ ン環 を 生 成 し,そ の 後,開 環,脱 メ チ レ ン に よ り 炭 素 原 子1単 位 の 移 動 を 伴 う 代 謝 を 行 な う も の で あ る 。 こ の 代 謝 系 に と っ て 本 質 的 に 重 要 な 部 分 は.イ ミ ダ ゾ リ ジ ン 環 の 形 成 で あ る 。 イ ミ ダ ゾ リ ジ ン は,N,N'一 二 置 換 エ チ レ ン ジ ア ミ ン と ア ル デ ヒ ドと の 縮 合 反 応 に よ り 合 成 さ れ る が,ケ ト ン と は 反 応 しな い と い う の が 通 説 で あ っ た 。2,3)そ こ 図1 で,こ の 反 応 性 の 相 異 を 利 用 し,両 者 を 区 別 す る の に N,N'一 二 置 換 エ チ レ ン ジ ァ ミ ン が 用 い ら れ て い る。4・5) た だ,例 外 と し て,ケ ト ン の う ち シ ク ロ ヘ キ サ ノ ン が,エ チ レ ン ジ ア ミ ン と,6)ま た,ア セ ト ン が,N,N'一 ビ ス(p一 メ トキ シ ベ ン ジ ル)エ チ レ ン ジ ア ミ ン と 反 応 す る5)こ と が 報 告 さ れ て い た 。 そ の 後,ア セ ト ンが. N,N'一 ジ メ チ ル ー, N,N'一 ジ エ チ ル エ チ レ ン ジ ァ ミ ン と 反 応 す る 報 告 が 発 表 さ れ て い る 。7) そ こ で,ケ ト ン がN,N'一 二 置 換 エ チ レ ン ジ ァ ミ ン と 反 応 し な い と い う 通 説 を 検 討 し,合 わ せ て,葉 酸 が な ぜ ホ ル ム ァ ル デ ヒ ドや ギ 酸 と の み 反 応 す る か に つ い て の 知 見 を 得 る た め,種 々 のN,N'一 ジ ァ ル キ ル エ チ レ ン ジ ア ミ ン を 合 成 し,ケ ト ン の う ち で 最 も単 純 で 立 体 的 な 影 響 も小 さ い ア セ ト ン と 反 応 さ せ 検 討 し た 。結
果
* 食品 学研究室 エ チ レ ン ジ ア ミ ン お よ びN,N'一 ジ ア ル キ ル エ チ レ ン ジ ァ ミ ン8種 類 を ア セ ト ン と 反 応 さ せ た 結 果 は 次 の 通 り で あ る 。 用 い た 反 応 条 件 下 で は,N,N'一 ジ メ チ ル ー, N,N'一 ジ エ チ ル ー,N,N'一 ジ ーn一プ ロ ピ ル ー. N,N'一 ジ ーn一ブ チ ル ー, N,N'一 ジ ーiso一ブ チ ル エ チ レ ン ジ ァ ミ ンが,各 々 相 当 す る イ ミダ ゾ リ ジ ンを 生 成 し た 。 ま た,こ の 反 応 で は. ア ル キ ル 基 の 鎖 が 長 く な る と 反 応 性 が 小 さ く な る と い う結 果 も 定 性 的 に 得 た 。 表1に,実 験 で 得 た 各 イ ミ ダ ゾ リ ジ ン と,そ の 沸 点,MS, NMR,元 素 分 析 の 測 定 結 果 を 示 す 。 一 方,N,N'一 ジ ー150一プ ロ ピ〉ル ー, N,N'一 ジ ーsec一ブ チ ル ㍉N,N'一 ジ ーtert一ブ チ ル エ チ レ ン ジ ア ミ ン は 全 く反 応 を 示 さ な か っ た 。 無 置 換 の エ チ レ ン ジ ァ ミ ン は,相 当 す る イ ミ ダ ゾ リ ジ ン と シ ッ フ 塩 基N,N'一 ジ ー150一プ ロ ペ ニ ル エ チ レ ン ジ ア ミ ン(図2)の 混 合 物 を,ほ ぼ1 :1の 比 で 生 成 し た が,各 々 を 単 離 す る こ と が 出 来 な昭和55年11
月
(1980年) - 21 -表1
1, 3ージアルキノレー2,2-ジメチノレイミダゾリジンR
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=7Hz *3 sext= 6重線l
当2 N,N'ージーIS0-プロベニルエチレンジアミン CH:i'-...I ' _ 1¥T " T T "--'TT '" ~ / CH:i : C = N - CHsー CH2- N = C CH:,/ '-...CHi かった。 NMRを用いて測定すると,一般に, -C=N-CH2ーのメチレンは &=3.5付近に,イミダ ゾリジン環のーC H2-CHzーのメチレンは δ=2.7付近 にシグナJレカt出る06〉エチレンジアミンとアセトン-
d
6 を混ぜて .NMRのシグナノレを追跡すると, δ=3.44 とδ=2.941と各メチレンプロトンのシグナjレが観察さ れたので,これを利則してi
再生成物の確認と生成量比 の決定を行なった。また,生成物のうち N,N'ージー IS0-プロペニルエチレンジアミンは. MSIとより. 140の 分子イオンピークが催認出来たが,一方のイミダゾリ ジンは.GC法による MS測定で分子イオンピークを 確認することが出来なかった。これは,このイミダゾ リジンが熱あるいはイオン化時の衝撃に不安定なため と思われる。 さらに,この条件下で反応しなかったN,N'ージー IS0-プロピノレー. N,N'ージ -sec-プチル-. N,N'ージーtert-ブ チルエチレンジアミンをアセトンと10時間加熱還流さ せ,反応時間および反応泊度の効果を検討したが,こ の条件下でも全く反応は進まなかった。考
察
N,N'ージアルキルエチレンジアミンとアセトンとの 反応結果から.次のことが言える。 この反応は,カルボニjレ基のZ電子が立ち上がり, 陽性な炭素原子がジアミンの窒素原子の孤立電子対を 攻撃することから始まると思われる。反応が円滑に進 行するには,窒素原子のまわりの電子密度が高く,カ ルボニル基の炭素原子がより陽性であると良い。炭素 原子の陽性はカルボニル基のZ電子の分極の強さに影 響される。この分極の強さは,赤外線吸収スペクトノレ によるカルボニル基の吸収波数から知ることが出来, 飽和脂肪族アルデヒドは. 1740"" 1720cm-1に,鎖状 ケトンは . 1715cm-1に吸収を示すので,アノレデヒド の方が強く分極していることがわかる。従って,この 点ではイミダゾリジン環形成にアルデヒドの方が有利 であると言える。 また,窒素原子のまわりの電子密度は,置換基の性 質lとより大きく左右される。アルデヒドとケトン類を 区 別 す る 試 薬 N,N'ージベンジノレエチレンジアミン4) は,ベンジル基により窒素原子の電子密度が低くなる ので,分極の大きいアルデヒドとのみ反応するものと 忠われる。-JJ.
ベンジノレ基のP位ζ メトキシ基を導l ノ¥したN,N'ービス (pーメトキシベンジル〉エチレンジ- 22-アミン5)は,メトキシ基の電子供与性のため窒素原子 の電子密度が高まり,アセトンとも反応したのであろ う。本実験で用いたN,N'ージアルキルエチレンジアミ ンがアセトンと反応したのも,同様にアノレキル基の電 子供与性が原因であろう。以上のように,この反応に は,窒素原子のまわりの電子密度とカルボニル基の分 極の強さが,大きく影響することは明らかである。 と乙ろで.窒素原子のまわりの電子密度は,アルキ ル基の鎖の長さや枝分れの増加に応じて高くなるにも かかわらず,反応'性は逆に小さくなり,窒素原子のα 位の炭素原子に枝分れがあると,全く反応しなかった。 乙の結果は,乙の反応lと電子的要因に加えて立体的要 因も大きく作用している乙とを示している。 立体的要因の大きさは,反応温度を室温からアセト ンの沸点、に上げても,全く反応しなかったことからも わかる。なお, N,N'ージアルキルエチレンジアミンは, 2級アミンとみなされるから, 2級モノアミンである ジーn-プロピJレアミンとジーlSOープロピルアミンを用い てアセトンとの反応を試みたが反応しなかった。乙 れは,イミダゾリジン環の生成には,キレート形成と 食物学会誌・第35号 同様に,環形成のエントロピー効果が寄与しているこ とを示す。 以上の結果に基づいて,テトラヒドロ葉酸について 考えると,この化合物は, 5, 10位の窒素原子の各々 に,ピリミジンと
ι(N-
置換カJレパモイル)フェニ ル基が置換したN,N'一二置換エチレンジアミンとみる 乙とが出来る(図1a)。乙の置換基は.どちらも電 子吸引性で窒素原子のまわりの電子密度を低め.特異 的に極性の高いカJレボニJレ基をもっホJレムアルデヒド およびさらに極性の高いギ酸のホルミJレ基とのみ反応 し,炭素原子1単位の移動を行なっているように思わ れる。また,ホルムアJレデヒドやギ酸は分子が小さく, テトラヒドロ葉酸との聞に立体的な障害も小さいこと が,イミダゾリジン環形成を可能にしているのであろつ
。
実
験
(1)試薬 エ チ レ ン ジ ア ミ ン (b.p.37-380Cj28mmHg), N,N'ージメチルー(b.p.1200C),N,N'ージエチノレエチレ 表2 N,N'-ジアルキノレエチレンジアミン.
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=7Hz 本3sept= 7重線 料 sext=6重線 M.H' 145 173 173 a b e * 2.61s1.06s 2.S2t 2.60s 0.88s l69sepl * ., 2.61s1.00s 2.54t *三 2.61s 0.98s 2.38d *2, ! 2.61s1.05s U9sex 2.56s 0.79s d C g H(%) C(%) 上1(%) C(%) * 司k 13.81 66.36 13.97 66.60 1 .47sext O.92t ホー 1 .02d 14.08 66.46 13.97 66.60 1A2m 1A2n九
921 13.78 69.91 14.04 69.70 *ー *, 14.14 69.43 14.04 69.70 1 .70m 0.90d 0.90d *2 * :: 13.87 69.60 14.04 69.70 1 .34m O.88t 0.99d 1.07s 1.07s 14.34 69.42 14.04 69.70昭和55年11月(1980年) ンジアミン (b.p.59.50Cj24mmHg)は 市 販 品 を 蒸 留 して用いた。その他の
N
,N
にジアルキルヱチレンジア ミンは次のように合成したo1
,2
ージプロモエタンと1
級アミンと水あるいはヱタ ノーノレを1: 5 : 3のモJレ比に混合し15時間加熱還流 する。冷却後, 40%-水酸化ナトリウム溶液を加えて アミンを遊離させ,エーテノレで抽出する。エーテル抽 出部は,無水硫酸ナトリウムで乾燥し.エパポレータ ーでエーテルを留去後.分別蒸留を行なってN,N'ージ アJレキJレエチレンジアミンを得る(収率10--85%)。 上 の方法で合成したN,N'-ジアノレキノレエチレンジアミン の確認は, MS,NMR,元素分析により行なった。測 定結果と沸点は表2に記す。 アセトンは!
r
iJlb(品(特級)をそのまま使用した。 (2)装 置 反応の進行は, OV-17のカラムを備えた日本電子 JGC-1100ガスクロマトグラフィーを用いて追跡した。 生成物の同定に用いたNMRは,日本電子MH-100型, MSは目立ガスクロマトグラフ質量分析計M-70型で ある。 また.元来分析は,京都大学元素分析センターに依 頼した。 (3)反 応 条 件 一例として, 1, 2, 2, 3-テトラメチルイミダゾリ ジン生成の反応条件を記す。 三角フラスコに, N,N'ージメチルエチレンジアミン と大過剰のアセトンを入れ,約30分間室温で放置する。 反応の進行はガスクロマトグラフィーにより生成物の 生成量と原料の減少により追跡した。反応終了後,未 反応のアセトンを除去し.続いて,沸点148--1490 Cの - 23-留分の生成物を得た。この反応は,ほとんど定量的で あった。その他のN,N'-ジアノレキノレエチレンジアミン についても.同様に反応を行なった。アルキノレ基の鎖 が長くなるにつれ反応速度は非常に遅くなった。エチ レンジアミンについても同様に行なったが.生成物を 単離する乙とが出来なかった。2
,2
ージメチノレイミダ ゾ リ ジ ン と シ ッ フ 塩 基 N,N'ージーiso-プロペニルエチ レンジアミンの生成比は, NMRを用い,d=3.44お よびδ=2.94のシグナJレを利用して決定したが.アセ トン-d6大過剰の反応条件下で 1 : 1であった。謝 辞
本実験に際し,多大な御指導をしていただいた谷本 お夫教授と, MSの測定を御指導していただいた自然 科学研究室田口弘康助教授に深く感謝いたします。文 献
1) 日本生化学会編,生化学実験講座13,ビタミン と補酵素(下),東京化学同人, 405, 1974. 2) ].L. Riebsomer, J. Org. Chem., 15,237 (1950). 3)R
.
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