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目 次 1. HIV 感染症の臨床経過 1 2. HIV 感染症の検査 / 診断 5 3. 抗 HIV 療法 HIV 薬剤耐性とその検査 HIV 感染症と肝炎 血友病患者の診療 AIDS 関連症候群 (ARC) の診断と治療 カンジダ

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目  次

1. HIV 感染症の臨床経過 1 2. HIV 感染症の検査/診断 5 3. 抗 HIV 療法 10 4. HIV 薬剤耐性とその検査 22 5. HIV 感染症と肝炎 27 6. 血友病患者の診療 34 7-1.AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 37 7-2.カンジダ症 45 7-3.クリプトコックス症 48 7-4.クリプトスポリジウム症 51 7-5.サイトメガロウイルス(CMV)感染症 54 7-6.非結核性抗酸菌症 57 7-7.ニューモシスチス肺炎 60 7-8.結核症 62 7-9.サルモネラ感染症 66 7-10.イソスポラ症 68

7-11.リンパ球性間質性肺炎(Lymphocytic interstitial pneumonia:LIP) 70

7-12.本邦ではまれな ARC 72

7-13.HIV-1 消耗性症候群 74

7-14.原発性リンパ腫 76

7-15.HIV 脳症 79

7-16.進行性多巣性白質脳症(Progressive maultifocal leukoencephalopathy;PML) 81 7-17.トキソプラズマ脳症(Cerebral toxoplasmosis) 83 8. HIV 感染者の皮膚症状 87 9. 妊婦および新生児の HIV 94 10. 小児の HIV 感染症 103 11. 眼科の HIV 感染症 114 12. HIV 感染症と精神疾患 117 13. HIV 感染血友病患者の関節症の治療 124 14. HIV 感染症患者のリハビリテーション 131 15. HIV 感染症の口腔病変と歯科治療 135 16. HIV 感染症患者の心理的支援 142 17. HIV 感染症患者の看護 152 18. 外科領域での安全対策 165 19. 検査・輸血部領域での安全対策と検査項目 168 20. 病理診断領域での安全対策 173 21. 針刺し・切創及び皮膚・粘膜曝露時の対応 177 22. 医療福祉制度のてびき 192 23. HIV 感染症とインターネット情報 202 24. 相談室について 206 25. 抗ウイルス薬 209 26. 国内未販売薬 244 付 録 251

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HIV 感染症の臨床経過 1

1

HIV 感染症の臨床経過

HIV 感染症の臨床経過の全体像

1

 HIV(human immunodeficiency virus)感染症の臨床経過は、感染初期(急性期)、 無症候期、 AIDS(acquired immunodeficiency syndrome)発症期の3期に分けられる。 HIV に感染すると多くの症例では2~3週間後にインフルエンザ様の急性期症状があり、その 後長期間の無症候期に入る。この間に HIV は宿主内で盛んに増殖し、CD4 陽性リンパ球数は 徐々に減少していく。CD4 陽性リンパ球数の減少により細胞性免疫不全が進行していくと、表 在リンパ節が腫脹したり発熱や下痢を繰り返したり、体重の減少がみられるようになる。さらに CD4 陽性リンパ球数が減少していき、200 個/μℓ以下となると様々な日和見感染症を発症する。 表1に我が国における AIDS 診断の診断基準を示すが、ここにあげた 23 の指標疾患のどれかが 現れたときはじめて AIDS と診断する。 図1 HIV 感染症の経過(模式図)

HIV 感染症の臨床症状

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 急性期  HIV に感染すると、HIV は宿主内で急速に増殖し、CD4 陽性リンパ球数は一過性に減少す る。この時期には感染者の約 90%に何らかの急性レトロウイルス症候群の徴候を認めるが(表 2)、多くの症状はインフルエンザ様で非特異的であるため HIV 感染と認識されないことが多 い。問診などから積極的に HIV 感染を疑い、HIV-RNA の増加が確認できれば「急性 HIV 感 染症」と診断可能である。その後、宿主の免疫反応により血中ウイルス量は低下し、2~3 週間で急性感染の症状は消退する。CD4 陽性リンパ球数も回復し、抗 HIV 抗体が陽性となり (seroconversion)無症候期に移行する。低下した血中ウイルス量は感染約6ヶ月後にはある

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HIV 感染症の臨床経過 2  無症候期  急性期を過ぎた後の症状のない時期をさし、一般に潜伏期とも呼ばれる時期である。この間 も HIV は盛んに増殖を繰り返しているが、宿主の免疫反応により長期間の平衡状態が保たれ る。CD4 陽性リンパ球数は徐々に減少していくが、その減少スピードは HIV のウイルス量に 依存している。以前は、無症候期の期間は5~15 年と言われていたが、最近では感染から3 ~4年で AIDS を発症することもまれではなく、無症候期が短くなってきていると言われて いる。  AIDS 発症期  HIV の増殖と宿主の免疫反応による平衡状態が破綻すると急速に HIV-RNA が増加し、 CD4 陽性リンパ球数も減少し細胞性の免疫不全が顕著となってくる。CD4 陽性リンパ球数が 200~500/μℓの時期は細菌性肺炎、肺結核、帯状疱疹、口腔カンジダ症、口腔毛状白板症や カポジ肉腫などを合併する。更に CD4 陽性リンパ球数が 200/μℓ以下に低下すると消耗が進 行し、様々な日和見感染症、悪性腫瘍や神経症状を合併するようになり(表1)、AIDS と診 断される。AIDS 指標疾患を発症した時の CD4 陽性リンパ球数の中央値は 60~70/μℓである。 AIDS の診断基準を満たす日和見感染症などの症状や診断・治療法については各論に詳述する。 適切な抗 HIV 療法 (ART: antiretroviral therapy) が行われなかった場合、CD4 陽性リンパ 球数が 200/μℓ以下に低下してからの生存期間中央値は 3.7 年、AIDS を発症してからの生存 期間中央値は 1.3 年と報告されている。しかし例え AIDS を発症しても適切な抗 HIV 療法を 行うことにより免疫系の再構築が成され、感染症の回復、社会生活への復帰が可能となってい る。実際に、ART 後に CD4 陽性リンパ球数を 500/μℓ以上に維持できた患者は、健常者と同 じ生命予後を得ることも報告されている。 表2 急性 HIV 感染症の症状と徴候 症 状 割 合 発 熱 96% リンパ節腫脹 74% 咽頭炎 70% 発 疹 70% 筋肉痛と関節痛 54% 下 痢 32% 頭 痛 32% 悪心、嘔吐 27% 肝脾腫 14% 体重減少 13% 口腔カンジタ 12% 神経症状 12% 発  疹:顔面及び体幹の他、ときに手掌・足底を含む四肢に病変を有する紅斑性丘疹 ときに口腔、食道または生殖器に及ぶ皮膚粘膜潰瘍を形成 神経症状:髄膜脳炎または無菌性髄膜炎/末梢神経障害または神経根障害/顔面神経麻痺/ギラ ン・バレー症候群/上腕神経炎/認知障害または精神障害

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HIV 感染症の臨床経過 3 表1 AIDS 診断のための指標疾患 A.真菌感染症  1 カンジダ症(食道、気管、気管支または肺)  2 クリプトコッカス症(肺以外)  3 コクシジオイデス症    ①全身に播種したもの    ②肺、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの  4 ヒストプラズマ症    ①全身に播種したもの    ②肺、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの  5 ニューモシスチス肺炎 B.原虫症  6 トキソプラズマ脳症(生後1ヶ月以後)  7 クリプトスポリジウム症(1ヶ月以上続く下痢を伴ったもの)  8 イソスポラ症(1ヶ月以上続く下痢を伴ったもの) C.細菌感染症  9 化膿性細菌感染症(13 歳未満で、ヘモフィルス、連鎖球菌等の化膿性細菌により以下   のいずれかが2年以内に、2つ以上多発あるいは繰り返して起こったもの)    ①敗血症 ②肺炎 ③髄膜炎 ④骨関節炎     ⑤中耳・皮膚粘膜以外の部位や深在臓器の膿瘍  10 サルモネラ菌血症(再発を繰り返すもので、チフス菌によるものを除く)  11 活動性結核(肺結核叉は肺外結核)※  12 非結核性抗酸菌症    ①全身に播種したもの    ②肺、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの D.ウイルス感染症  13 サイトメガロウイルス感染症(生後1ヶ月以後で、肝、脾、リンパ節以外)  14 単純ヘルペスウイルス感染症    ①1ヶ月以上持続する粘膜、皮膚の潰瘍を呈するもの    ②生後1ヶ月以後で気管支炎、肺炎、食道炎を併発するもの  15 進行性多巣性白質脳症 E.腫瘍  16 カポジ肉腫  17 原発性脳リンパ腫(年齢を問わず)  18 非ホジキンリンパ腫    LSG 分類により    ①大細胞型     免疫芽球型    ② Burkitt 型  19 浸潤性子宮頸癌※ F.その他  20 反復性肺炎  21 リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成:LIP/PLH complex(13 歳未満)  22 HIV 脳症(認知症又は亜急性脳炎)  23 HIV 消耗性症候群(全身衰弱又はスリム病) ※C 11 活動性結核のうち肺結核およびE 19 浸潤性子宮頚癌については、HIV による免疫 不全を示唆する症状および所見がみられる場合に限る。

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HIV 感染症の臨床経過

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■参考文献■

1 HIV 感染症治療研究会編 . HIV 感染症「治療の手引き」第 15 版.2011 年 12 月

2 Bartlett JG et al. Medical Management of HIV Infection 2009-2010, 15th Edition. Published by Johns Hopkins University School of Medicine, 2009

3 DHHS. Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in HIV-1-Infected Adults and Adolescents. January 10, 2011

4 平成 22 年度厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 HIV 感染症及びその合併症の 課題を克服する研究班編 . 抗 HIV 治療ガイドライン. 2011 年3月

5 Lewden C, Chene G, Morlat P, Raffi F, Dupon M, Dellamonica P, Pellegrin JL, Katlama C, Dabis F, Leport C; ANRS Study Group. HIV-infected adults with a CD4 cell count greater than 500 cells/mm3 on long-term combination antiretroviral therapy reach same mortality rates as the general population. J Acquir Immune Defic Syndr. 46: 72-77, 2007.

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HIV 感染症の検査/診断 5

2

HIV 感染症の検査/診断

HIV 関連検査の種類と特徴

1

 スクリーニング検査

 酵素抗体法(ELISA 法)、粒子凝集法(PA 法)、免疫クロマトグラフィー法(IC 法)によ り HIV-1 及び HIV-2 に対する抗体を測定または同定する。感度は高いが、特異度は低いため、 0.1~1%程度の疑陽性が生じる。一方、感染してから抗体が検出されるまで通常3~4週間か かるため(window period (WP))、結果が陰性でも急性感染を否定できない。感染初期数週 間は HIV 抗原(p24 抗原)が上昇し ELISA 法で検出可能となる。WP を短縮するため現在、 北海道大学病院ではスクリーニング用検査として HIV-1,2 抗体価と HIV-1 抗原同時測定検査 (第4世代検査キット、アボット社の HIVAg/Ab Combo, CLIA 法)を使用している。  確認検査

 Western blot 法(WB 法)、間接蛍光抗体法(IFA 法)により HIV-1 と HIV-2 それぞれ に対する特異的な抗体タンパクの存在を確認する検査である。院内では 1 WB と HIV-2 WB の検査が可能。特異度は高いが、感度は低いため、感染初期には検出できない。HIV-1 WB と HIV-2 WB の間には交叉反応が生じるため判定には注意を要する。

 HIV 抗原検査 〈HIV-1 RNA 定量〉

 PCR 法と核酸 hybridization 法を組み合わせて HIV-1 の RNA を高感度に検出できる検 査で、従来は Amplicor HIV-1 Monitor v1.5(RT-PCR)を使用していたが、北大病院では 2008 年2月からロシュダイアグノスティクス社のコバス TaqMan HIV-1 オート (TaqMan PCR 法 ) を導入している。HIV-RNA の定量は急性感染の診断に不可欠であるが、HIV-2 は 検出できない。病勢、治療効果のモニタリングとしても有用である。TaqMan PCR 法による HIV-1 RNA コピー数の測定範囲は、40-1.0×107コピー/ml で、従来の Amplicor 法よりも

高感度となっており、さらに 40 コピー/ml 以下の場合に定性法での評価も可能となっている。 しかし、TaqMan PCR 法では従来の方法よりも結果が高値に測定される傾向があると指摘さ れており、結果の解釈に注意を要する。

〈HIV-1 proviral DNA〉

 リンパ球を検体として PCR 法にて細胞内の proviral DNA を検出する検査であり、極めて 感度は高いが、測定系が標準化されていないため普及していない。抗体検査での判定困難例や WP 時期での感染確認、治療中の潜伏感染ウイルスの評価に用いられる。本邦では母子感染の 早期診断として保険適応がある。 〈p24 抗原〉   HIV-1 のコアタンパクである p24 を ELISA 法で検出する。特異度は高いが、感度が低いため、 感染初期数週間と感染後期にしか検出できない。前述の抗体価測定と組み合わせてスクリーニ ングで用いられる。  簡易迅速抗体検査キット  前述の IC 法により抗 HIV 抗体を同定するキット。本邦ではダイナスクリーン・HIV-1/2 が使用されている。15 分で結果が得られるため、即日検査として保健所、各種医療機関で 2001 年以降導入され、自発検査や早期発見、感染不安をもつ人への利便性により普及してい

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HIV 感染症の検査/診断

6

る。偽陽性が約1%あるため、結果が陽性の場合、通常のスクリーニング検査と同様に確認検 査の追加が必要である。院内では針刺し等の緊急時にのみ用いられる。

 HIV 薬剤耐性検査

 血液中に存在する HIV の抗 HIV 薬に対しての耐性、感受性を調べる検査であり、genotype 検 査( 遺 伝 子 型 解 析 ) と phenotype 検 査( 表 現 型 解 析 ) の 2 種 類 が あ る。 院 内 で は genotype 検査が可能。検査の詳細については「4.HIV 薬剤耐性とその検査」の項を参照。

HIV 感染症診断法の実際

2

 スクリーニング検査

 院内では HIV-1、2 抗体価と HIV-1 抗原同時測定検査(HIVAg/Ab Combo)に加えて、 追加スクリーニング検査としてアボット社のダイナスクリーン・HIV-1/2(IC 法)、バイオラッ ド富士レビオ社のジェネディア HIV-1/2 ミックス PA(PA 法)の異なる2法を実施。初期ス クリーニング検査を含めた3法中、2法以上が陰性の場合に「陰性」、2法以上が陽性の場合 に「陽性」と判定する。 〈「陽性」または「保留」と判定された場合〉  確認検査を行う。 〈「陰性」と判定された場合〉  感染のリスクが無い場合には「感染無し」と診断する。感染のリスクがある場合や急性感染 を疑う場合には RT-PCR による HIV-1 RNA 定量検査を行う。この結果が「陰性」でも期間 を空けて再検査を行う。  確認検査

 日本エイズ学会では確認検査として HIV-1 WB 法と HIV-1 RNA 定量検査を同時に行うこ とを推奨している。(表1)

〈HIV-1 WB 法が「陽性」〉

 HIV-1 の感染者と判定する。但し HIV-1 RNA 定量検査が陰性の場合は高感度法で再検査 を行う。高感度法でも陰性であれば HIV-2 WB 法を実施し、「陽性」であれば HIV-2 の感染 を否定できない。

〈HIV-1 WB 法が「陰性」または「保留」で HIV-1 RNA 定量検査が「陽性」〉

 HIV-1 急性感染者と考えるが、確定診断には後日 HIV-1 WB 法の「陽性」を確認する必要 がある。

〈HIV-1 WB 法が「陰性」または「保留」で HIV-1 RNA 定量検査が「測定感度以下」〉  HIV-2 WB 法を実施し、「陽性」であれば HIV-2 の感染者と判定。HIV-2 WB 法が「陰性」 または「保留」であれば、2週間後にスクリーニングからの再検査を勧める。

 母子感染の診断

 母親から児へ抗体が移行するため、抗体検査は有用でない。HIV-1 抗原(p24 抗原) 、HIV-1 RNA 定量検査を実施し判定を行う。

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HIV 感染症の検査/診断 7

HIV 感染者の検査

3

 進行を把握するための指標 〈CD4 陽性リンパ球数〉  HIV により破壊された宿主の残存免疫力を反映し、病態の進行度や治療開始を考慮する重 要な指標となる。測定はフローサイトメトリーを用いて行われ、健常人では 500~1400/μℓ であり、HIV 感染者で 200/μℓ未満になると種々の日和見疾患のリスクが高まる。未治療者で は3~6ヶ月毎、治療中の患者では初期は毎月、その後は2~4ヶ月毎に検査を行う。測定値 の変動が大きいため複数回の検査で評価する。 〈血中 HIV-RNA 定量〉  血中のウイルス量は CD4 の低下速度と相関しており、予後予測の指標となる。また治療効 果を判定するのにも重要な指標となる。男性に比べ女性では低値となる。未治療者では3~4ヶ 月毎、治療開始または変更した患者では開始2~8週後とその後は4~8週毎に測定し、検出 限界以下に到達したら3~4ヶ月毎に測定する。2倍または 0.3 log10コピー/ml 以上の変動 は有意な変化と見なされる。感度以下に低下しても体内から HIV が消失したことにはならな い。  初診時に必要な検査 ・末梢血一般(白血球分画も) ・生化学(ART 施行前には空腹時血糖値および血清脂質値) ・T細胞サブセットおよび CD4 陽性リンパ球数 ・HIV-1 RNA 定量 ・肝炎ウイルスマーカー(HAV 抗体、HBs 抗原、HBs 抗体、HBc 抗体、HCV 抗体) ・梅毒血清反応(RPR、TPHA)

・サイトメガロウイルス IgG、トキソプラズマ IgG、水痘・帯状疱疹ウイルス IgG ・ツベルクリン反応(結核の既往、BCG 接種後の結果が不明の場合)

・胸部レントゲン写真

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HIV 感染症の検査/診断 8 表1 HIV-1/2 感染症診断のためのフローチャート HIV-1/2 感染症の診断法 2008 年版(日本エイズ学会・日本臨床検査医学会 標準推奨法) HIV-2 確認試験が陽性の場合は HIV-2 感染者 両者が陰性の場合は非感染者6) 1 明らかな感染のリスクがある場合や急性感染を疑う症状がある場合は抗原・抗体同時検査法 によるスクリーニング検査に加え HIV-1 核酸増幅検査法による確認検査を行う必要がある (ただし、現時点では保健適応がない)。 2 急性感染を疑って検査し、HIV-1/2 スクリーニング検査とウエスタンブロット(WB)法が 陰性または判定保留であり、しかも HIV-1 核酸増幅検査法(RT-PCR 法)が陽性であった 場合は、HIV-1 の急性感染と診断できるが、後日、HIV-1/2 スクリーニング検査とウエス タンブロット法にて陽性を確認する。 3 HIV-1 感染者とするが、HIV-1 核酸増幅検査法(RT-PCR:リアルタイム PCR 法または従 来法の通常感度法)で「検出せず」の場合(従来法で実施した場合は、リアルタイム PCR 法または従来法の高感度法における再確認を推奨)は HIV-2 WB 法を実施し、陽性であれ ば HIV-2 の感染者であることが否定できない(交差反応が認められるため)。この様な症例 に遭遇した場合は、専門医・専門機関に相談することを推奨する。 4 後日、適切な時期に WB 法で陽性を確認する。 5 2週間後の再検査において、スクリーニング検査が陰性であるか、HIV-1/2 の確認検査が 陰性 / 保留であれば、初回のスクリーニング検査は疑陽性であり、「非感染(感染はない)」 と判定する。 6 感染のリスクがある場合や急性感染を疑う症状がある場合は保留として再検査が必要であ HIV-1/2 スクリーニング検査法1) ELISA・PA 法など ※感度が十分に高い検査法であること 陽性 保留 陰性 非感染またはウインドウピリオド2) HIV-1 確認検査法(両法を同時に行う) WB 法及び RT-PCR HIV-1 検査結果 判定・指示事項 WB 法 RT-PCR 陽性 陽性 HIV-1 感染者 検出せず HIV-1 感染者3) 保留 陽性 急性 HIV-1 感染者4) 検出せず HIV-2 の確認検査を実施、陰性 時は保留とし2週間後に再検 査5) 陰性 陽性 急性 HIV-1 感染者4) 検出せず HIV-2 の確認検査を実施、陰性 時は保留とし2週間後に再検 査5)

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HIV 感染症の検査/診断 9 る。また、同様な症状を来たす他の原因も平行して検索する必要がある。 注1 妊婦健診、術前検査等の場合にはスクリーニング検査陽性例の多くが偽陽性反応によるた め、その結果説明には注意が必要。 注2 母子感染の診断は、移行抗体が存在するため抗体検査は有用でなく、児の血液中の HIV-1 抗原、または HIV-1 核酸増幅検査法により確認する必要がある。 ■参考文献■

1 Bartlett JG et al. Medical Management of HIV Infection 2009-2010, 15th Edition. Published by Johns Hopkins University School of Medicine, 2009

2 日本エイズ学会.診療における HIV-1/2 感染症の診断ガイドライン 2008(日本エイズ学会・ 日本臨床検査医学会 標準推奨法).日本エイズ学会誌 11: 70-72, 2009

3 DHHS. Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in HIV-1-Infected Adults and Adolescents. January 10, 2011

4 平成 22 年度厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 HIV 感染症及びその合併症の 課題を克服する研究班編.抗 HIV 治療ガイドライン.2011 年 3 月

5 HIV 感染症治療研究会編.HIV 感染症「治療の手引き」第 15 版.2011 年 12 月

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抗 HIV 療法

10

3

抗 HIV 療法

治療開始時期

1

 現在行われている多剤併用での抗 HIV 療法(antiretroviral therapy=ART)による HIV 増 殖抑制効果は強力であり、治療開始早期に HIV ウイルス量を測定感度以下に押さえ込み、徐々 に CD4 リンパ球数を回復させ、免疫機能を回復・維持することが可能である。しかしながら、 ART の継続によっても HIV の体内からの完全な排除には平均 73.4 年かかると推定されており、 現時点では一度治療を開始すれば、生涯に渡り治療を継続する必要がある。また、十分な服薬遵 守(アドヒアランス)が維持できなければ、薬剤耐性ウイルスが誘導され、結果的に治療の失敗 につながる。また ART の長期継続により軽視できない種々の副作用が出現してくる。以上の理 由から、以前は ART の開始をできるだけ遅らせるという考え方が主流であった。しかし、最近 の大規模試験において、ART を早期に開始することにより、CD4 陽性リンパ球数を高く維持で きる、HIV 増殖によってもたらされる可能性のある心血管疾患や腎・肝疾患のリスクを減らせ る、CD4 陽性リンパ球数が高くても発症する可能性のある HIV 関連疾患のリスクを減らせる、 パートナーへの感染を減らせるなど、早期治療のメリットが示され、さらに、飲みやすく副作用 の少ない薬剤が増えたことなどの理由から、治療開始時期は早まる傾向にある。米国保健福祉 省(Department of Health and Human Services = DHHS)のガイドラインでは、「CD4 陽 性リンパ球数 <350/μℓのすべての患者で治療開始をすべきである」となっており、CD4 陽性リ ンパ球数が 350~500/μℓの患者への治療開始に対しても、専門家の 55%は「強く推奨する」、 45%は「強くはないが推奨する」という意見であった。また、DHHS、International AIDS society-USA(IAS-USA)、British HIV Association(BHIVA)のガイドラインでは、それぞ れ初回治療の推奨薬を提示している。治療開始に際しては患者の状態、服薬アドヒアランスへの 意識・理解度、副作用および薬物相互作用なども考慮し、入念なカウンセリングや教育を行った 上で判断を下す必要がある。 〈未治療患者に対する ART 開始基準〉 ① AIDS および HIV に関連する重篤な症状がある場合  CD4 陽性リンパ球数・血中ウイルス量の数値にかかわらず → 治療開始 ②無症状の場合  CD4 陽性リンパ球数 ・ <350/μℓ → 速やかに治療開始 ・350~500/μℓ → 治療開始を推奨 ・ >500 → DHHS ガイドライン委員間では推奨度合が異なる        (委員の 50%が治療を好ましいとし、50%が開始は任意とした)  CD4 陽性リンパ球数にかかわらず以下の患者では治療開始 ・妊婦 ・HIV 腎症の患者 ・HBV 重複感染者で HBV 感染治療を必要とする場合

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抗 HIV 療法 11 〈治療を早期に開始した場合の利点と欠点〉 利    点 欠    点 免疫機能の保持(無症候期の延長) 服薬による QOL の低下、重篤な副作用 他人への伝播のリスクを低下出来る可能性 将来の治療選択肢の範囲が狭まる CD4>350 でも発症する可能性のある HIV 関 連合併症(結核、非ホジキンリンパ腫、カポ ジ肉腫、末梢神経障害、HPV 関連悪性腫瘍、 HIV 関連認識機能障害等)のリスクを減らす ことができる 内服不十分による耐性獲得の危険(耐性ウイ ルス伝播のリスク) HIV 増殖により発症・増悪する可能性のある 疾患(心血管系疾患、腎疾患、肝疾患、非 AIDS 関連悪性腫瘍・感染症等)のリスクを 減らすことができる アドヒアランス維持のために必要な服薬開始 前の準備期間が短くなる 将来さらに強力で低毒性の ART 開発の可能性

初回抗 HIV 療法

2

 HIV 感染症の治療は、血中ウイルス量を検出限界以下の抑え続けることを目標に、強力な多 剤併用療法 (ART) を行う。以下に本邦の治療の手引き、DHHS、IAS-USA、BHIVA のガイ ドラインで推奨される初回治療 regimen を示すが、患者のライフスタイル、合併症、他の薬 剤との薬物相互作用、薬剤耐性検査の結果などを総合して個々の患者に最も適切と考えられる regimen を選択すべきである。またガイドラインは最新の臨床データに基づいて定期的に更新 されるため、治療も最新の情報に基づいて決定されるべきである。 〈抗 HIV 薬の種類〉 左から略号、一般名、商品名 核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI) プロテアーゼ阻害剤(PI)

AZT zidovudine レトロビル IDV indinavir クリキシバン ddI didanosine ヴァイデックス SQV saquinavir インビラーゼ 3TC lamivudine エピビル RTV ritonavir ノービア d4T stavudine ゼリット NFV nelfinavir ビラセプト ABC abacavir ザイアジェン LPV/RTV lopinavir/ritonavir カレトラ TDF tenofovir DF ビリアード ATV atazanavir レイアタッツ FTC emtricitabine エムトリバ FPV fosamprenavir レクシヴァ AZT/3TC コンビビル DRV darunavir プリジスタ ABC/3TC エプジコム インテグラーゼ阻害剤(INSTI) TDF/FTC ツルバダ RAL raltegravir アイセントレス 非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI) 侵入阻害剤(CCR5 阻害剤) NVP nevirapine ビラミューン MVC maraviroc シーエルセントリ EFV efavirenz ストックリン DLV delavirdine レスクリプター ETR etravirine インテレンス

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抗 HIV 療法

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 HIV 感染症「治療の手引き」(2011 年 12 月版) 好ましい組み合わせ

ベース キードラッグ バックボーン 服薬回数(錠数)

NNRTI ベース EFV1) +ABC

5)/3TC 1日1回(2or 4) +TDF6)/FTC 1日1回(2or 4) PI ベース ATV2)+RTV +ABC 5)/3TC 1日1回(4) +TDF6)/FTC 1日1回(4) DRV3)+RTV +ABC 5)/3TC 1日1回(4) +TDF6)/FTC 1日1回(4)

INSTI ベース RAL +ABC

5)/3TC 1日2回(3) +TDF6)/FTC 1日2回(3) その他の好ましい組み合わせ ベース キードラッグ バックボーン 服薬回数(錠数) NNRTI ベース EFV 1) +AZT/3TC 1日2回(3or 5) NVP4) +AZT/3TC 1日2回(4) PI ベース ATV2)+RTV +AZT/3TC 1日2回(5) FPV+RTV

+ABC5)/3TC 1日1or 2回(4or 5)

+AZT/3TC 1日2回(5or 6) +TDF6)/FTC 1日1or 2回(4or 5) LPV/RTV +ABC5)/3TC 1日1or 2回(5) +AZT/3TC 1日2回(6) +TDF6)/FTC 1日1or 2回(5) ※妊婦に対する抗 HIV 療法については、本章4-を参照 1 EFV:600mg 錠の場合は 1T、200mg 錠の場合は 3T。妊娠第1期には使用すべきでなく、 妊娠の予定がある、あるいは妊娠する可能性のある女性では使用を避ける。 2 ATV:RTV 併用時は 150mg カプセル 2C。オメプラゾール相当で 20mg/ 日を超える量 のプロトンポンプ阻害薬を投与中の患者では使用しない。 3 DRV:1日1回で投与する場合は 400mg 錠 2T 4 NVP:最初の2週間は 1T、その後 2T。中等度~高度の肝障害(Child Pugh スコアBま たはC)を有する患者では使用すべきでない。また、治療前 CD4>250/μℓの女性、治療前 CD4>400/μℓの男性では使用すべきでない。 5 ABC:HLA-B5701 を有する患者には使用すべきでない。心血管系疾患のリスクの高い患 者では注意して使用する。血中ウイルス量 >100,000 コピー/ml の患者では、ABC/3TC よ りも TDF/FTC の方が、ウイルス抑制効果が高いとの報告がある。DRV+RTV、RAL と の併用については十分なデータがない。 6 TDF:腎機能障害のリスクの高い合併症・併用薬のある患者、および高齢者では腎機能に 注意して使用する。  DHHS ガイドライン(2011 年1月版)で推奨される初回療法の組み合わせ ○優先療法  NNRTI ベース ・EFV/TDF/FTC  PI ベース ・ATV+RTV+TDF/FTC

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抗 HIV 療法 13 ・DRV(1日1回)+RTV+TDF/FTC  INSTI ベース ・RAL+TDF/FTC  妊婦の場合 ・LPV/RTV(1日2回)+AZT/3TC ○代替療法  NNRTI ベース ・EFV+(ABC または AZT)/3TC ・NVP+AZT/3TC  PI ベース ・ATV+RTV+(ABC または AZT)/3TC ・FPV+RTV(1日1回または2回)+(ABC ないしは AZT)/3TC または TDF/FTC ・LPV/RTV(1日1回または2回)+(ABC ないしは AZT)/3TC または TDF/FTC  IAS-USA ガイドライン(2010 年 7 月版)で推奨される初回療法の組み合わせ ・2 NRTI + キードラッグを推奨 推奨薬剤

2NRTI キードラッグ(NNRTI or PI or INSTI)

・TDF/FTC(1日1回) ・EFV(1日1回) ・ATV+RTV(1日1回) ・DRV+RTV(1日1回) ・RAL(1日2回) 代替薬剤

2NRTI キードラッグ(NNRTI or PI or INSTI)

・ABC/3TC(1日1回) ・LPV/RTV(1日1or 2回) ・FPV+RTV(1日1or 2回) ・MVC(1日2回)  BHIVA ガイドライン(2008 年 10 月版)で推奨される初回治療の組み合わせ カラムAとBとCから一つずつ選択

カラムA(NNRTI or PI) カラムB(NRTI) カラムC(NRTI)

推奨 ・EFV ・TDF ・ABC ・3TC ・FTC 代替 ・LPV/RTV ・FPV+RTV ・ATV+RTV ・SQV+RTV ・ddI ・AZT 特定の集団で推奨 ・NVP * ・ATV** * CD4 値が女性で 250/μℓ未満、男性で 400/μℓ未満の場合のみ使用。 ** 心血管合併症の高リスク患者で PI を使用する場合。

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抗 HIV 療法 14  原則として推奨されない抗 HIV 療法 〈推奨されない抗 HIV 療法〉 ・NRTI の単剤療法 ・NRTI の2剤併用療法

・NRTI3 剤(ABC+AZT+3TC or TDF+AZT+3TC 以外)  → 何れも耐性を誘導し治療失敗のリスクを高める 〈抗 HIV 療法の一部として推奨されない薬剤または組合わせ〉 ・d4T+ddI(末梢神経障害などの毒性↑) ・TDF+ddI(ddI の血中濃度↑) ・AZT+d4T(HIV に対する拮抗作用) ・FTC+3TC(単剤と同じ効果) ・Unboosted DRV(効果不良) ・Unboosted SQV(効果不良) ・ATV+IDV(高ビリルビン血症) ・妊娠初期、妊娠可能な女性への EFV(催奇形性) ・CD4 高値(女性で 250/μℓ以上、男性で 400/μℓ以上)への NVP(急性肝障害↑) ・NNRTI 2 剤併用 (副作用を高める) ・ETR+Unboosted PI(ETV により PI の代謝促進の可能性) ・ETR+boosted ATV, FPV(ETV により PI の代謝促進の可能性)

 1日1回療法  血中または細胞内半減期の長い薬剤の開発により、1日1回投与可能な薬剤のみの組み合 わせで ART を組み立てることが可能となり、アドヒアランスの向上さらには患者の QOL 改善が期待されている。しかし、飲み忘れによる耐性誘導のリスクが上昇することが懸念さ れるため、服薬指導が従来以上に重要となる。 〈1日1回投与が可能な薬剤〉( )内は投与剤数 2NRTI NNRTI PI ・TDF/FTC(1) ・ABC/3TC(1) ・ddI*+3TC or FTC(2) ・EFV(1or 3) ・ATV ± RTV**(2~3) ・FPV+RTV***(3~4) ・DRV+RTV***(3) ・LPV/RTV(4) * カプセル剤(ヴァイデックス EC)のみ ** TDF との併用時は ATV の AUC が低下するので RTV 併用が必要。 *** 1日1回投与は国内では初回療法のみの適応。

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抗 HIV 療法 15  全ての抗 HIV 薬で副作用が報告されており、治療の変更や中止、アドヒアランスの低下の重 要な要因となっている。副作用の中には継続することで徐々に軽減するものから重篤となり死に 至るものまで様々であるが、各薬剤の副作用の種類と発現時期、その対処法について十分熟知し、 患者にも投薬前に十分説明して理解を得る必要がある。以下に発現時期別に主要な副作用につい て概説する。個々の薬剤の副作用については「25.抗ウイルス薬」の項を参照。  開始直後から出現 〈消化器症状〉  AZT、TDF、ddI とすべての PI で悪心、嘔吐、腹痛が出現することがある。また NFV、 LPV/RTV、ddI では下痢の頻度が高い。いずれも継続と共に軽快することが多いので、初 期は制吐剤や止痢剤などで対応する。 〈EFV による中枢神経症状〉  EFV の投薬により半数以上の症例で眠気、不眠、異常夢、めまい、集中力低下が出現するが、 2~4週で減弱消失することが多い。症状が持続する場合には薬剤の変更を考慮する。 〈高ビリルビン血症〉  ATV と IDV の内服により高率に間接型ビリルビンの上昇が認められるが、これは肝臓 でグルクロン酸包合に係わる酵素を薬剤が阻害するためであり、臨床的に問題となることは ほとんど無く継続投与が可能である。  開始後数日~数週で出現 〈皮疹〉

 NNRTI での発現頻度が高い。PI では ATV、FPV、NFV、DRV で発現頻度が高い。多 くは軽~中等度であるが、稀に Stevens-Johnson 症候群や中毒性表皮壊死症などの重症型 薬疹に進展することがあるため、発熱や粘膜の潰瘍を伴う場合には直ちに投与を中止する。 〈ABC による過敏症〉  投与から6週間以内に高熱を伴う皮疹、全身倦怠感、消化器症状、呼吸困難などを呈す。 発症の中央値は9日目。発現時は全ての抗 HIV 薬を中止し、ABC の再投与は禁忌である。 発症と HLA-B*5701 と関連があると報告されており、日本人ではこの遺伝子型は少ないた め発症頻度は低いと考えられている。 〈NVP による過敏症・急性肝障害〉  発現時期は投与開始から 16 週以内で、多くは6週以内に出現。症状は消化器症状、黄疸、 発熱、皮疹で、急速に肝壊死が進行し肝不全に至る可能性がある。CD4 値が女性で 250/μ ℓ以上、男性で 400/μℓ以上で有意に発現率が高いため投与は避ける。発現時は全ての抗 HIV 薬を中止する必要があるが、肝障害が進行する場合もある。再投与は禁忌である。  開始後数週~数ヶ月で出現 〈AZT による骨髄抑制〉  AZT 投与から数週から数ヶ月後で貧血や好中球減少が認められる。高度の場合は多剤へ の変更を考慮する。 〈腎障害〉  TDF 投与後に腎尿細管障害が出現することがあり、多くは無症候性だがまれに急性腎不 全を生ずる場合があるため、既に腎障害のある場合は投与を避ける。IDV では薬剤の結晶 により高率に腎結石を生じ、さらに膿尿を伴う腎不全を合併することがあるため、予防的に

抗 HIV 薬の副作用

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抗 HIV 療法 16 1日に 2L 程度の水分摂取の継続が必須となる。 〈膵炎〉  ddI 単独投与で1~7%に合併の報告があり、d4T や TDF との併用では更に頻度が上昇 する。直ちに ddI を中止し、適切な管理を行う。 〈PI による出血傾向〉  すべての PI によって、特に血友病患者で出血傾向増強が認められることがある。凝固因 子製剤の使用頻度を高めるか、高頻度であれば NNRTI への変更も考慮する。 〈免疫再構築症候群〉  厳密には薬剤の直接的な副作用ではないが、ART による免疫回復に伴い、軽快していた 日和見感染症(OI)が逆に増悪したり、新たな OI が顕在化する現象を指す。ART 開始か ら数ヶ月以内(多くは8週間以内)に発症し、ART 開始前の CD4 数は通常 50/μℓ未満で ある。頻度の多いものは CMV 網膜炎、MAC 感染症、結核であるがB型やC型肝炎の報告 もあり注意を要する。ART は原則継続し、OI に対する治療と NSAIDs の投与で対応する が、炎症所見が高度であれば PSL 30~60mg/ 日の併用による過剰免疫の抑制も考慮する。 ART の中止を余儀なくされる場合もある。  開始後数ヶ月~数年かけて出現 〈乳酸アシドーシス / 肝脂肪変性〉  NRTI によるミトコンドリア障害が原因で、非特異的な消化器症状を前駆症状として呼吸 困難、ギランバレー症候群様の症状が進行する重篤な副作用である。発症頻度は 0.5-1.0% 程度であるが、一度発症すればその死亡率は高い。理論的には全ての NRTI で起きる可能 性があるが、とりわけ d4T と ddI での報告が多い(AZT ではまれ)。血清乳酸値5mM(45mg/ dl)以上では直ちにすべての ART を中止する必要があるが、回復までは4~48 週必要と される。ビタミン B1、B2 などの投与が有効とする報告もある。但し、無症候性の高乳酸 血症(2mM(18mg/dl)以上)は8~20%に認められるため、ルーチンの測定は推奨され ない。 〈lipodystrophy/ インスリン抵抗性 / 高脂血症〉  ART の長期継続により引き起こされる代謝異常。体幹と内臓に脂肪は蓄積する一方で、 四肢と皮下の脂肪は萎縮する。更にインスリン抵抗性と高脂血症も合併し、結果的に心筋梗 塞などの心血管イベントのリスクが高まることが報告されている。原因としては NRTI、PI との関連が報告されているが、その作用は各薬剤間でも異なり、NRTI の中では d4T で脂 肪萎縮や中性脂肪の上昇の頻度が高く、一方 PI では ATV は代謝への影響が少ない。治療 方針は確立していないが、運動・食事療法、薬物療法、影響の少ない治療 regimen への変 更などが有効とされる。 〈骨壊死 / 骨粗鬆症〉  ART の長期継続により 0.08~1.33%に症候性の骨壊死が合併、さらに MRI で確認され る無症候性の骨壊死は 1.33~4.4%に合併すると報告されている。多くは大腿骨頭病変を有 す。アルコール、高脂血症、糖尿病、ステロイド使用、TDF 使用などの関与が疑われている。 骨密度の低下は ART 導入前の HIV 感染者でも報告がある。  薬物相互作用について

 NNRTI と PI はすべて肝のチトクローム P450(CYP)により代謝を受けるため、抗 HIV 薬同士、または同じ CYP で代謝される薬剤との併用では相互作用が生じる可能性がある。ま た NRTI でも同様の薬物相互作用が報告されている。代謝低下により抗 HIV 薬の濃度が上昇

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抗 HIV 療法 17 すれば、副作用の出現や増強が生じ、一方、代謝促進により抗 HIV 薬の濃度が低下すれば、 十分なアドヒアランスが維持できていても、治療の失敗に繋がる可能性があるため、投薬に際 しては薬物相互作用に十分な注意が必要である。薬物相互作用が疑われる場合には後述する TDM が有用である。個々の薬剤の薬物相互作用について DHHS guideline の Table 15 を参 照。  ART の治療中断について  種々の抗 HIV 薬の副作用やその他の理由で ART の中断を余儀なくされる場合には、薬剤 耐性の発現を阻止するために、すべての抗 HIV 薬を原則、同時に中止する。但し、NNRTI の EFV と NVP は半減期が極めて長いため、同時に中止すると、事実上 NNRTI の単剤治療 を行っていることとなり、NNRTI に対する耐性変異を誘導する結果となる。このため EFV と NVP 中止時には、NRTI を1週間長く継続してから中止するか、代わりの PI を1週間追 加投与してから、全ての薬剤を中止する方法が推奨される。  ART を計画的に中止したり再開したりすることで、HIV 特異的免疫反応を刺激し、ウ イルス抑制能を高め、結果的に ART による長期毒性を回避する目的で計画的治療中断法 (Structued treatment interruptions = STI)が試みられてきたが、大規模な study である SMART study の中間解析では、治療継続群に比較し STI 群で有意に OI 発症率と死亡率が増 加し、試験は中止された。この結果からも、現時点では治療安定期における STI は推奨され ないと考えられる。急性 HIV 感染症治療後、妊婦における ART 後の治療中断についても有 益性は確立していず、現時点では推奨されない。

特別な状況での抗 HIV 薬療法

4

 急性 HIV 感染症  急性感染期中に治療を開始することによる長期的な有益性は現時点で不明であるため、急性 感染での治療開始は任意と考えるべきである。もし、治療を開始した場合には慢性感染の治療 と同様に HIV-RNA 量を測定限界以下に到達させるのが目標となる。また治療開始前の薬剤 耐性検査の実施を考慮する。急性感染症の適切な治療期間についても明確な結論は得られてい ない。  妊婦に対する抗 HIV 療法   児への感染を予防するために、基本的には CD4 数に係わらず全ての妊婦に対して治療を 行う。   HIV 感染妊婦からの母子感染予防は、以下の3つの治療で構成される。 ①母体に対する ART による子宮内感染の予防 ②分娩中の AZT 点滴投与+選択的帝王切開術による産道感染の予防 ③人工栄養による母乳感染の予防と児に対する AZT 投与  妊婦が ART を行っていない場合で、HIV の治療適応がある場合は、緊急性がない限り妊 娠 14 週から AZT を含んだ ART を開始し、分娩中や出産後も継続する。HIV の治療適応が ない場合でも母子感染予防の観点から妊娠 14 週から AZT を含んだ ART を開始する。分娩 時は抗 HIV 療法を継続するが、出産後は治療継続の必要性を再検討する。妊娠判明以前から ART を行なっている場合は、一般的に器官形成期の間(妊娠 14 週まで)も ART を中止す べきではない。妊婦に使用する抗 HIV 薬については以下の表を参照。

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抗 HIV 療法 18 〈HIV 感染妊婦に対する抗 HIV 薬の推奨度〉 推奨度 NRTI NNRTI PI その他 第一選択 ・AZT ・3TC ・LPV/RTV  (1日2回) 第二選択 ・ABC ・FTC ・ATV+RTV ・IDV+RTV ・NFV ・SQV+RTV 代替薬がない場 合のみ使用可能 ・TDF ・EFV データ不十分 ・ETR ・DRV+RTV ・FPV+RTV ・RAL ・MVC  具体的な治療方針については「9.妊婦および新生児の HIV」の項を参照。  HIV と HBV の重複感染時の抗 HIV 療法  抗 HIV 薬の内、3TC、FTC、TDF は抗 HBV 活性も併せ持つ薬剤であり、3TC は単剤で HBV 治療薬としても使用される。HIV/HBV 重複感染患者に HBV 治療目的に 3TC が単剤 で投与された場合には、2年で 50%に 3TC 耐性が誘導されたと報告されている。このため HIV/HBV 重複感染患者に ART を行う場合には、3TC、FTC、TDF を単独で含む regimen は 避 け、TDF+FTC ま た は TDF+3TC を NRTI 2 剤 と し て 用 い る こ と が 推 奨 さ れ る。 3TC、FTC、TDF の単剤使用が避けられない場合には entecavir(バラクルード)の併用を 考慮する。Entecavir、adefovir は HIV に対する活性も有し、重複感染者に単独で使用する と薬剤耐性を誘導する可能性がある。治療開始時の CD4 数が低値の場合には、免疫再構築症 候群による肝炎の増悪が起きる場合がある。詳細は「5.HIV 感染症と肝炎」の項を参照。  HIV と HCV の重複感染時の抗 HIV 療法  HIV/HCV 重複感染患者では HCV 単独感染患者に比較し、肝炎の進行が急速であり早期に 肝硬変、肝癌への進展がみられ、主要な死因となっている。このため HIV/HCV 重複感染患 者では肝疾患の進行を阻止するために、より早期に ART を導入することを推奨する意見もあ る。また、CD4 数が低下していると抗 HCV 療法の有効率が低下するため、CD4 数が 200/μ ℓ未満では、先に ART を開始し、免疫能を回復させてから抗 HCV 療法を導入する。現在、 ペグインターフェロンとリバビリン(RBV)の併用療法が標準的な抗 HCV 療法であるが、 ddI や d4T は RBV との併用で乳酸アシドーシスや膵炎、急性肝不全などの重篤な副作用の報 告があり、また AZT は RBV による貧血が高度となる可能性があるため、これらの薬剤との 併用は避けることが推奨される。当院では「HIV・HCV 重複感染症診療ガイドライン第4版 (2010 年 11 月改訂)」を作成しており、詳細はこちらを参照(http://www.hok-hiv.com か ら download 可能)。  結核合併時の抗 HIV 療法  活動性結核の合併時には速やかに結核治療を開始する必要があるが、結核では ART による 免疫再構築症候群の合併頻度が高く、また使用薬剤による副作用の発現頻度も高いことから、 結核の治療を先行することが望ましい。DHHS ガイドラインでは CD4 数が 200 未満の場合 に抗結核治療開始から2~4週以内に、CD4 数が 200~500 の場合は抗結核療法開始から2 ~4週以内または少なくとも8週以内に、CD4 数が 500 以上の場合は抗結核療法開始から8 週以内に ART を開始することを推奨している。また結核治療に重要な薬剤である rifampicin

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抗 HIV 療法 19 は CYP 誘導作用があるため、全ての PI または NNRTI と薬物相互作用を生じる。薬物相互 作用のため rifampicin の使用が困難な場合には、rifabutin への変更を検討する。またこれら の薬剤の併用時には投与量の調整が必要であり、具体的な投与量については DHHS guideline の Table 15 を参照。具体的な治療法については「7-8.結核症」の項を参照。

治療効果判定と薬剤変更

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 治療反応性のモニタリング 〈HIV-RNA 量〉  治療開始時と開始2~8週後に測定する。十分な治療効果とアドヒアランスが維持されて いれば少なくとも月に 1.0 log10コピー/ml 以上の減少が期待出来る。その後は4~8週毎 に測定し、開始 16~24 週後に検出限界以下に到達させるのが目標となる。検出限界以下に 到達したら3~4ヶ月毎に測定する。 〈CD4 リンパ球数〉  治療開始時と開始後は初期は毎月、その後は2~4ヶ月毎に測定する。通常は上記 HIV-RNA 量と同時に測定する。HIV の抑制が十分であれば通常、年に 100/μℓの割合で上昇が みられる。  ART 失敗の定義 〈ウイルス学的失敗〉 ・治療開始 24 週後の HIV-RNA 200 コピー/ml 以上 ・一度抑制後に再び2回以上連続して HIV-RNA 200 コピー/ml 以 上に上昇* * 1000 コピー/ml 未満の一過性の上昇で、治療の変更無く、検出限界以下に戻る一過性の ウイルス血症の場合は“blip”であり、治療失敗とは関連ないと考える。 〈免疫学的失敗〉    明確な定義はないが以下の様な場合と定義されることがある。 ・治療開始後ある期間(4~7年など)に CD4 数がある値(350 あ るいは 500/μℓ以上など)まで増加しなかった場合。 ・特定の期間で治療前よりある値(50 あるいは 100/μℓ以上など) まで増加しなかった場合。  ART 失敗時のアプローチ  ART 失敗の原因を究明することが重要であり、以下の評価を行う。 〈アドヒアランス〉  アドヒアランスが不十分な場合にはその根本的な原因(服薬方法、食事の影響など)を特 定し、それに対処する。可能であれば1日1回療法の様な処方の簡略化を行う。 〈副作用〉  副作用が原因でアドヒアランスの低下が生じる可能性も考慮する。 〈薬物血中濃度モニタリング(Therapeutic Drug Monitorig = TDM)〉

 服薬時間の非遵守(食後投与など)や薬物相互作用、遺伝学的な個体差などにより抗 HIV 薬の濃度が目標レベルに到達していないことが予想される場合に行う。本邦では「抗 HIV 薬の血中濃度に関する臨床研究」班(ホームページ http://www.psaj.com)を通して 測定が可能である。NRTI については細胞内濃度が重要であり、細胞内濃度と血漿中濃度の 関係が確立していないが、上記研究班では TDF のみ血中濃度測定が可能である。

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抗 HIV 療法 20 〈薬剤耐性検査〉  ウイルス学的失敗が認められた患者において、治療方針を決定する際には、特に薬剤耐性 検査が有用である。薬剤非存在下では野生株が優勢となり、変異株が検出されなくなるため、 検査は治療中または治療中止後4週間以内に実施する。HIV-RNA が 1000 コピー/μℓ未満 では実施できない。検査の詳細については「4.HIV 薬剤耐性とその検査」の項を参照。 〈ART 治療歴〉  現在は服用していないが、過去に使用した抗 HIV 薬に対しては、薬剤耐性検査では耐性 が検出されなくても耐性株が存在している可能性があることを念頭に置く必要がある。  薬剤変更の実際 〈薬剤耐性が認められない場合〉  少数の変異株の存在を完全に否定は出来ないが、アドヒアランスと服薬について再評価を 行い、この結果に基づいて必要があれば薬剤の変更を行う。変更後は早期に薬剤耐性検査を 再検する。 〈薬剤耐性検査の結果と過去の治療歴から少なくとも二つ以上の有効な薬剤が存在する場合〉  少なくとも2種類(可能なら3種類)の薬剤を含んだ治療法に速やかに変更し、これ以上 の耐性変異の拡大を抑え、HIV-RNA を検出限界以下に到達することを目標とする。新規作 用機序の薬剤も考慮する。 〈薬剤耐性検査の結果と過去の治療歴から二つ以上の有効な薬剤が存在しない場合〉  この場合の治療の目標は免疫機能を維持し、疾患の進行を防ぐことである。薬剤の変更は 行わずに、現行の治療を継続し経過観察するのが適切なこともある。治療の中止・短期間の 中断は疾患の進行に繋がるため注意が必要である1種類の有効な薬剤の追加は急速な耐性の 誘導を促すため一般的には推奨されないが、CD4 数が 100/μℓ未満で臨床的進行のリスク が高い場合には、一時的な効果を期待して行われる場合がある。 〈ウイルス学的には安定だが、免疫学的に失敗した場合〉  免疫学的失敗への対処については一定の見解がない。ウイルス量がコントロールされてい る状況で治療の変更すべきかどうかは明らかではない。それまでの治療に1剤追加したり、 更に強力な治療に変更したりすることもある。HIV-2、HTLV-1 の重複感染や薬剤毒性な どの評価も必要である。

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抗 HIV 療法 21 ■参考文献■

1 Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in HIV-1-Infected Adults and Adolescents (DHHS). January 10, 2011(http://aidsinfo.nih.gov/)

2 Thompson MA et al. Antiretroviral Treatment of Adult HIV infection:2010 Recommendations of the International AIDS Society-USA panel. JAMA 304:321-333, 2010(http://www.iasusa.org/)

3 Gazzard B et al. British HIV Association (BHIVA) guidelines for the treatment of HIV-1-infected adults with antiretroviral therapy 2008. HIV Med 9:563-608, 2008 (http://www.bhiva.org/)

4 Bartlett JG et al. Medical Management of HIV Infection 2009-2010, 15th Edition. Published by Johns Hopkins University School of Medicine, 2009

5 HIV 感染症治療研究会編.HIV 感染症「治療の手引き」第 15 版.2011 年 12 月

6 Cohen MS et al. Prevention of HIV-1 infection with early antiretroviral therapy. N Engl J Med. 365:493-505, 2011

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HIV 薬剤耐性とその検査

22

 抗 HIV 薬剤が効かない HIV を薬剤耐性 HIV という。HIV は逆転写酵素により自身のゲノム RNA を DNA に変換し、それを宿主細胞遺伝子に組み込むことにより子孫の HIV を作り出す。 その際に働く逆転写酵素は間違った塩基を取り込んでも、それを校正する機能を持たないため変 異 HIV が生じる。複製エラーは高率(10-4~10-5、1回の複製につき1カ所変異する)に起き、

生体内では一日に 109~1010もの HIV が産生されるため高度の多様性が獲得され、かつ、薬剤

による選択圧により薬剤耐性 HIV が出現する。薬剤耐性 HIV は抗 HIV 薬剤治療中に出現し、 特に不適切な抗 HIV 薬剤の使用により出現する危険性が高い。近年では新規未治療感染者から 薬剤耐性 HIV が検出され、その割合が年々増加していることが報告されている。  薬剤耐性検査の特徴と意義  HIV 薬剤耐性検査とは、血液中に存在する HIV がどの薬剤に感受性があるかを推定する検 査であり、適切な治療薬選択の指標となる。その意義については多くのコホート研究で薬剤耐 性検査による治療薬の選択が良い治療効果を得る上で有効であることを報告している。薬剤耐 性検査には genotype 検査(遺伝子型解析)と phenotype 検査(表現型解析)の2種類があり、 それぞれに長所短所がある(表1)。 genotype 検査(遺伝子型解析) 方   法 特   徴 HIV 遺伝子の塩基配列を決 定し、逆転写酵素、プロテ アーゼ、インテグラーゼ領 域のアミノ酸変異から耐 性薬剤を推定する(表2)。 phenotype 検査に比べ検査方法が簡便で、短時間(3~4 日)で結果が得られる。 標的酵素のアミノ酸変異から耐性を推測するには専門的 な知識・経験が必要である。 データ蓄積の少ない新薬などの未知の耐性変異は判定で きない。 phenotype 検査(表現型解析) 方   法 特   徴 患者から分離した HIV を培養・増殖させ、 そのウイルスの増殖を阻止するのに必 要な抗 HIV 薬の濃度を測定する方法で、 通常、薬剤に対する感受性はウイルス増 殖能 50%阻止濃度(IC50)等で表現され る。 細菌に対する感受性に類似した判定が行え る。 交差耐性が確認できる。 検査方法が複雑で検査に長時間を要する。 表 1  genotype 検査と phenotype 検査の特徴

4

HIV 薬剤耐性とその検査

1

薬剤耐性 HIV はなぜ出現するのか?

2

HIV 薬剤耐性検査とは?

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HIV 薬剤耐性とその検査 23  genotype 検査(遺伝子型解析)について

 genotype 検査は簡便かつ比較的短時間に結果が得られ、薬剤と変異に関するデータベース も充実しているため世界的に実施されている検査である。薬剤はいくつかの決まった変異を誘 導するため、誘導された変異をみることによって耐性を示す薬剤の推測が可能となる。具体的 な方法は血漿中 HIV より抽出した RNA を RT-nested PCR にてプロテアーゼ、逆転写酵素、 インテグラーゼ領域を増幅し、DNA sequencing により塩基配列を決定し、耐性変異アミノ 酸の有無を調べる。  genotype 検査結果を解釈する際には、以下の事を知っておく必要がある。 1 長期間の薬剤使用により耐性変異が集積された場合、変異同士の相互作用により変異と薬 剤の対応関係が崩れ、genotype 検査による評価と実際の臨床経過の間に乖離が生じる場合 がある。 2 血液中に優位(約 20%以上)に存在する HIV の耐性変異しかみることができない。 3 検査可能なウイルス量の目安としては 1,000 コピー/ml 以上である。 4 抗 HIV 薬投与中止後は野生株が増殖し、薬剤耐性 HIV の割合が減少しているため正確な 結果が得られないことがある。 5 治療継続中であってもかつて投与したことがある抗 HIV 薬に対する耐性株は検出できな いことがある。  薬剤耐性検査は、抗 HIV 薬剤を変更する際に有効である。しかし、高額な自己負担が生じる(保 険点数:6,000 点)ため、必要以上の検査の実施を防ぎ、適切なタイミングで検査を行うことが 重要である。我が国のガイドラインで示された実施のタイミングを以下に示す。 1 HIV 感染の新規診断時(急性感染症例を含む) 2 治療開始時 3 治療開始後十分な治療効果が認められない時 4 治療中薬剤耐性の出現が疑われた時 5 ウイルス学的失敗以外の理由で薬剤を変更する時 6 治療の中断と再開時 7 HIV 感染妊婦において予防投与を行う時 捕捉:針刺し事故など感染者血液への暴露があった場合の予防的措置

引用:HIV 薬剤耐性検査ガイドライン ver.5(2011 年3月),http://www.hiv-resistance. jp/index.htm

 判定は耐性変異と薬剤との関係が記載されている耐性変異表や薬剤耐性評価アルゴリズムを用 いた WEB での解析を基におこなう。耐性変異表には IAS-USA(International AIDS Society-USA) が作成している Drug Resistance Mutations in HIV-1,WEB 解析には Stanford HIV Drug Resistance Database が広く用いられている。詳細は HP

(IAS-USA: http://www.iasusa.org/、Stanford HIV Drug Resistance Database: http:// hivdb.stanford.edu/)を参照。薬剤耐性アルゴリズムは薬剤耐性検査結果の解釈を容易にする

3

薬剤耐性検査をいつおこなうか?

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HIV 薬剤耐性とその検査

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ためのものであり、上記以外に The Agence Nationale de Recherche sur le SIDA(ANRS) や REGA が公開されている。これらのアルゴリズムによる主要な耐性変異の判定はほぼ一致す るが、完全には一致しないため、解釈が困難な場合については専門医に相談することが望ましい。  HIV 薬剤耐性検査は 2006 年4月1日より保険適用となり、抗 HIV 薬の選択および再選択の 目的で行った場合に、3カ月に1回を限度として 6,000 点を算定できる。依頼は病院情報シス テムから行う。  依頼方法  依頼画面は [ 6.感染 ] → [HIV 確認検査 ] → [ 薬剤耐性検査 ]  依頼種は2種類あり、担当医の判断で選択する。 ① HIV 薬剤耐性検査(保険適用)   治療薬剤選択および再選択を目的とする場合 ② HIV 薬剤耐性検査(受託研究費)   ・3カ月に2回以上おこなうとき   ・治療選択目的以外でおこなうとき(含初診時)  ①②いずれの依頼でも,プロテアーゼ、逆転写酵素、インテグラーゼの3領域を解析する運 用としている。  検体採取  採血管は EDTA-2Na(紫シール栓、7ml 用)に5ml 以上採血し、採血後はよく転倒混和する。 検査室では HIV RNA 定量検査済の残余検体を検査終了後5年間凍結保存しているので、薬 剤耐性検査の後追い検査が可能である。保存検体で薬剤耐性検査を行いたい場合は遺伝子検査 室(内 5714、藤澤)に連絡する。必要量あることが確認できたら病院情報システムにてオー ダ入力し、バーコードのみを検査室に提出する。  検査所要時間と結果参照

 薬剤耐性検査には HIV RNA 量のデータが必要なため HIV RNA 定量検査を経てから検査 を実施する。そのため所要時間は HIV RNA 定量検査終了後、約 10 日を要する。ただし所要 日数は短縮できることもあるので、結果を急ぐ場合は遺伝子検査室(内 5714、藤澤)に連絡 する。

 耐性判定は IAS-USA と Stanford HIV Drug Resistance Database での判定結果を採用し ている。検査結果は2通りの方法で参照できる。ひとつは,詳細報告書(PDF 形式の電子報 告書)であり、画像情報システム(PACS)で参照可能である。もうひとつは,簡易報告であり, 薬剤ごとの耐性判定のみ(Susceptible,Low-level resistance,Intermediate resistance, High-level resistance,Potential low-level resistance の4段階)を通常の検査結果報告画 面で参照することができる。ウイルス量が少ないなど検査ができなかった場合には検査結果報 告画面で「測定不可」の報告のみとなり、電子報告書はない。

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HIV 薬剤耐性とその検査 25 アミノ酸番号 41 62 65 67 69 70 74 75 77 115 116 151 184 210 215 219 AA(WT) M A K D T K L V F Y F Q M L T K 多剤耐性 (TAMs) L     N   R       W YF QE 多剤耐性 (69ins) L V ins R W YF QE 多剤耐性 (151)   V       I L   Y M         ABC     R       V     F     V       DDI     R       V       FTC     R       VI       3TC     R       VI       d4T L     N   R       W YF QE TDF     R     E       AZT L     N   R       W YF QE 結 果 L - - - - R - - - W YF -野生株のアミノ酸 (1文字表記) 耐性に関わる アミノ酸変異 検体中 HIV のアミノ酸 2種類の変異アミノ酸が混在 変異アミノ酸(1文字表記) 変異なし アミノ酸番号 90 98 100 101 103 106 108 138 179 181 188 190 225 230 AA(WT) V A L K K V V E   Y Y G P M EFV     I   N M I     CI L SA H   ETR I G I EHP   I   A DFT CIV   SA   L NVP   I N AM I CI CLH A   結 果 - - - YC - - -

-アミノ酸番号 10 11 13 16 20 24 30 32 33 34 35 36 43 46 47 48 50 53 54 AA(WT) L V I G K L D V L E E M K M I G I F I ATV+/-RTV IFVC     E RMITV I   I IFV Q   ILV   IL   V L LY LVMTA FPV/RTV FIRV       I       IL V   V   LVM DRV/RTV   I       I F       V   V   ML IDV/RTV IRV       MR I   I       I   IL         V LPV/RTV FIRV       MR I   I F         IL VA   V L VLAMTS NFV FI       N         I   IL       SQV/RTV IRV         I       V     VL TPV/RTV V   V   MR       F   G I T L V       AMV 結 果 - - - I - - - - -表2 薬剤耐性変異リストと見方 核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTIs) 非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTIs) プロテアーゼ阻害剤(PIs)

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HIV 薬剤耐性とその検査 26 アミノ酸番号 143 148 155 AA(WT) Y Q Y Raltegravir RHC HKR H 結 果 - H -アミノ酸番号 58 60 62 63 64 69 71 73 74 76 77 82 83 84 85 88 89 90 93 AA(WT) Q D I L I H A G T L V V N I I N L L I ATV+/-RTV   E V   LMV   VITL CSTA       ATFI   V V S   M LM FPV/RTV       S   V   AFTS   V       M   DRV/RTV       P V       V     V     IDV/RTV       VT SA   V I AFT   V       M   LPV/RTV       P     VT S   V   AFTS   V       M   NFV       VT       I AFTS   V   DS   M   SQV/RTV     V       VT S     I AFTS   V       M   TPV/RTV E         K     P     LT D V       M   結 果 - - - V - - - M

- 変異は major mutations(灰色)と minor mutations に 分けられます。major mutations とは薬剤特異的に最初 に出現する耐性変異で、耐性化に大きく関わる変異です。 minor mutations とは major mutations に引き続き出現す る変異で、この変異のみでは明らかな耐性は示しません。

インテグラーゼ阻害剤

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HIV 感染症と肝炎 27

5

HIV 感染症と肝炎

 ウイルス性肝炎は、輸血後肝炎(血清肝炎)と流行性肝炎(伝染性肝炎)に大別できる。前者 には、B型肝炎・C型肝炎が含まれるが、これらは HIV の感染経路と重複する可能性が少なか らず存在する。わが国の献血では、1972 年からB型肝炎ウイルス(HBV)、1986 年から HIV に対するスクリーニングが開始されたが、C型肝炎ウイルス(HCV)が発見され、わが国での 献血スクリーニングが導入されたのは 1989 年である。したがって、1980 年前後から濃縮製剤 を使用されているわが国の血友病患者などでは HIV と HCV の重感染を起こす可能性が高率に ある。さらに、HCV 感染例では慢性化するものが多いため、HIV コントロールの進歩に伴って、 特にC型慢性肝障害への対策がクローズアップされてきている。また、HBV 重複感染例では、 抗 HBV 作用 / 抗 HIV 作用を合わせ持った薬剤があり、その有効性以外に耐性出現に関する注 意が必要となっている。  わが国では、厚生労働省科学研究費補助金エイズ対策研究事業として、「HIV 感染症に合併す る肝疾患に関する研究」班により、「HIV・HBV 重複感染時の診療ガイドライン」(2009 年)、「HIV・ HCV 重複感染時の診療ガイドライン」(2005 年)が著わされている。また、HIV 感染症治療研 究会から「HIV 治療の手引き」が毎年改訂されて発行されている。(2010 年に第 14 版)  当院では、HCV との重複感染症例に関して「HIV・HCV 重複感染症診療ガイドライン」(2010 年に第4版)が作成されている。

慢性肝障害の診断・症候

1

 慢性肝炎  6か月以上の肝機能障害とウイルス感染が持続する状態である。さらに、組織学的には、門 脈域はリンパ球を中心とした炎症細胞浸潤や線維増生による拡大がみられる。全身倦怠感・食 欲不振 、 肝腫大を認める場合もあるが、一般的には自他覚所見に乏しい。  肝硬変  病理学的に、慢性の肝細胞障害とそれに引き続く結合組織の増生および肝細胞再生の結果、 線維性隔壁で囲まれた再生結節(偽小葉)が肝全体にびまん性に形成された状態である。自他 覚所見としては、全身倦怠感・食欲不振・腹部膨満感・腹水・浮腫・黄疸・肝性脳症・手掌紅 斑・クモ状血管腫などを認める。

慢性肝炎の診断のためのウイルスマーカー検査

2

 B型肝炎ウイルスマーカー 1 HBV 関連抗原抗体系  a) HBs 抗原:HBV 感染状態を表わす。  b) HBs 抗体:過去の HBV 感染を示す中和(防御)抗体。  c) HBe 抗原:HBV 量や感染力の高い状態を表わす。  d) HBe 抗体:HBV 量や感染力の低い状態を表わす。  e) HBc 抗体:HBV の感染の事実(継続あるいは既往)を表わす。キャリアでは、CLIA

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