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超微小電極法による網膜制止の機序に関する研究

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(東京女医大高第27巻第g号頁475−485昭和32年9月)

超微小電極法による網膜制止の機序に関すろ研究

東京女子医科大学生理旧教室

田 ケ 沢 ザワ

ミ 禰 ネ (受付 昭和32年「8月7日) 1.緒 言 網膜活動電位が網膜内における興奮並びに制止 過程の外的表示であることは何人も疑わないとこ ろであるが,その発生部位に関し種々研究が進め られているに拘わらず,未だ異論が残されている 現状である7)ユ8)へ21)28・29’。近年における細胞内電 極法の目ぎましい発展も,未だ脊椎動物の複雑な 網膜機構を解明するに到っていない。然しながら もっと網膜構造が簡単で,例えば光受容細胞から 出ている視神経線維が第2次neuronを介在する ことなしに,直ちに視神経に入るようなものが下 等動物に見出されれば,研究に非常な利点がある と思われる。Hartlineはこのような利点をカブト ガニの複眼に見出し,之について幾多の優れた研 究を行っている8)’11)。 今カブトガニの複眼についてその概略を述べる と,約600個の個眼を光受容器単位として持ち, 各々の個眼には10∼20個のretinula ceUと呼ば れる色素に富んだ細胞がその長軸を中心としてあ たかもみかんの実の如く排列し,その各々の中枢 端から細い神経線維を視神経中に送っている。別 に個眼の中枢端に近いところに通常1個時には 2個のeccentric cellと呼ばれる細胞があり,こ れからは比較的太い神経線維が発足し,上記の retinula cellから出た神経線維と一緒に個眼を出 て視神経に入る。但し個眼を出て閤もなくそれら の神経線維はplexusと呼ばれる神経構造の部を 通過する(第1図参照)。 上記の如く個々の個眼からは10数本の神経線維 が小束となって出ているわけであるが,この神経 線維の小束から活動電位を記録すると,単一神経 線維の活動に相当する悉無律:的なものだけしか得 られない。H:artline等8)はこの活動電位はeccen− tric cellから出る神経線維のみから出されるも のであろうと考えた。方法は異なるが同じ材料で Waterman及びWiersma501初〕く単一視神経線維 の活動に相当する悉無律的な電位変動を認めて, Hartline等と同様な結論を下している。時には2 本の神経線維の活動に相当するdouble d主5charge が見られるが,組織学的に単一個眼内に時として 2個の’ eccent「ic cellの存在力認められているか らH:artlineの考えに矛盾するものではない。最: 近MacNicho127・はretinu1a celi及びeccentric ce11を露出し,これらの細胞内に微小電極を挿入 して活動電位の記録を試みたところ,eccentric cellだけから活動電位が誘導されたと云っている。 これちの事実から,視神経で記録される活動電位 はeccentric .cellの活動と直接的な関係にあるこ とが明白となって来た。他方retinula ce11及び それから出ている神経線維の役割に関しては未だ 不明である。 :最近冨田27)はこの視神経から記録きれる活動電 位の発生部位及びその発生機構に関して研究を進 め,次の如き成績を得た。即ち,1)個眼内で細 胞内誘導を行うと,光刺激を与えた時に正方向に 振れる緩電位と,これに重畳する正方向のスパイ クが得られる。2)電極を個眼を出た直後の視神 経線維小束の上にのせその活動電位を誘導する と,負方向のスパイクと,大きさは非常に小さい が正方向の緩電位が得られる。3)個眼内の細胞 外誘導により緩電位は負方向,スパイクは正方向 の振れを示す。4)視神経線維小束の上に微小電

Mine TAZAWA (Department of Physi’ology, Tokyo Women’s Medical College.) : Studies on the

mechanism of retinal inhibl, tion with superfine−microelectrodes.

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極を置いて刺激すると,負の電流刺激が正の電流 刺激よりも一層効果的であるのに反し,’個眼内に 細胞外微小電極を置いて通流すると,関係は全く 反転し,正の電流刺激がより効果的である。以上 の実験成績から富田は緩電位の発隼部位と3バイ ク電位の発生部位とは異っていて,緩電位は個眼 内細胞の形質膜の脱分極により生ずるもので,こ のものは神経線維が細胞体から出る直前叉は直後 の部の形質膜に外向き電流を与え,これが刺激と なってその部から伝導性のスパイクが生ずるもの と鮮かな解明を与えている。 神経線維が個眼を出た直後のところで構成して いるPlexusの構造については判然とした結論が 得られていないが,.、富田24嫉視神経から単下視神 経線維を分離し,これに逆方向性興奮を起す刺激 を与えた時,個眼を出た直後の神経線維上に置い た細胞外微小電極で活動電倖が記録され弓か否か を調べる方法により,逆方向性興奮がこのplexus の部を自由に通過しうることをみ,個眼と視神経 の間に少なくとも興奮伝導の上ヵ〉らは、倒napεe の存在を老える必要のないことを明らかにした。 Hartljne:等8♪はユつの}個眼を照射した時にそれ から出ている神経線維に現われるスパイクの頻度 が,当該個眼に隣接する個眼の照射によって減少 することを見出し,この現象をlateral inhibition と名づけた。その後の詳細な研究10.’11;の結果,こ の綿塵の制止の強さは1)近傍を照射する照射光 の強度,2)照射面積及び当該個眼からの距離, 3)照射の部位等により左右きれることをみてお りダ更に個眼から出ている神経線維を損傷しない ようにplexusの部位に1おいて小さな鋏で周囲の 組織を離断するとこのような制止が全く現われな くなることから,lateral inhibitionにはplexus における神経線維の交錯そのものが大きな役割を 演ずるものであろうと結論した。更にHartline 等11)は2つの光受容細胞を単独に照射した時の夫 々のスパイクの頻度は,両者を同時に照射した時 の夫々の頻度よりも大であること等の事実から, 2個の個眼聞に相互制止の存在することを明らか にした。叉興味ある点は彼の脱制止の実験で,1. つの個眼から出る神経線維iから記録されるスパイ クが近傍の第2の個眼の照射により制止を受けて いる時,第1個眼から離れた側で第2の個眼に対 する近傍照射を行うと,第1の個眼に対する制止 の効果が減少することを認めている。 他方において冨ra 24は単=一一神経線維を視神経か ら分離し,その神経線維の発足する個眼に光刺激 を与えてその神経線維に放電が起っている時に, 残りの視神経幹に逆方向性興奮を起させるための 刺激を反復して与えると,近傍照射の際に見られ たのと同様な制止の効果が現われることを見出 し,制止機序の解明に1つの有力な手段を提供し た。、そして冨田は,視神経に反復刺激:を与えた時 に,個眼を出た直後の神経線維から誘導される逆 方向性興奮が,光刺激によりその高さを著明に減 少すること,叉この状態において制止のための逆 方向性興奮を残りの視神経に送ると,この減少し たスパイクの高さが再び増大の傾向を示すことか ら,個眼が光刺激を受けて興奮過程にある時は神 経末端に脱分極が起るのに反し,制止によってそ の部に高分極が起るものであることを推定してい る。この推定は細胞内電極を用いての最近の待 山17)の研究によりその直接的証明がなされた。 以上今日までのカブトガニ複眼についての興奮 並びに制止に関する研究の概要を述べたが,以下 に述べようとする研究の目的は,細胞内超微小電 極及び冨田のペンシル型微小電極25・29)を用いて, 個眼から誘導される活動電位が制止時に如何なる 態度を示すかを一層詳細に検して制止の機序を窺 わんとするにある。本研究では近傍照射の代りに 凡て逆方向性興奮を送って制止を起させている が,これは近傍照射を行った場合に散乱光の影響 を除外し得ないことの欠点を除くためである。云 うまでもなく光学装置自体も幾らか散乱光の原因 となるし,叉角膜が完全に透明でないためにこの 場所でも相当の散乱が起るので,若しも中心照射 に比較的弱い光を用い,近傍照射に強い光を用い て実験を行うような場合には,近傍照射の散乱光 が中心照射を実質的に強めるように働くので,そ のために制止効果の減弱,八時には却って疎通を 起す危険すら伴うが,逆方向性興奮を起させるた めの刺激を用いるとこのような危険を完全に除外 しうる利点がある。

1 2.実験方法

瀬戸内海産カブトガニ(TachypJeus tridentatus) の複眼を1.5∼2Cmの長さに視神経をつけたまま生体 から切り離し,安全カミソリの双で角膜に対し垂直方 向の半戴を加える。このようにして得られた標本は, in 476 “一r

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カブ1・ガニ用生理的塩類溶液14)を充したプラスチッ ク製小函に魚価を上にして固定し,実体顕微鏡下で個 眼内に誘堪電極を刺入する(第1図)。 視神経の中心断端には予め糸を付けておき,必要に 応じて糸を持って視神経を液面より持ち上げ刺激電極 の上にの母,出力絶縁型刺激装置を用いてこれに逆方 向性興奮を送った。 7’一xXI

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1

optic@nerY.q.ie−fstim. eleet・ 一一Q処し 第1図吻デJ・ガニ複眼半戴標本における活動電位の誘 導法並びに逆方向性興奮の送り方を示す模型図。Liは 細胞内微小電極,L,はベンシフレ型微小電極を示す。 関電極は主にLing及びGerard16)の製怯に従った 尖端0.5μ以下の超微小電極を用いたが,更に最近富田 が老案し,これを網膜の内外活動電位の同時誘導に応 用している25)2627)ペンシル型微小電極を用いた実験 も併せて行った。このペンシノレ型微小電極の内部極の 製法はほぼLing及びGerardの製法に従ったもので あるが,それを外部極の中に挿入して用いるという目 的に適うように海部を特に長く2∼2.5cmとした。内 部樋の尖端は0.5μ以下とし,抵抗10数MΩから30MΩ までのものを用いた。:叉外部極は冨田25)の製法に従い 先端外径約10μ,全長2cmとし,カブトガニ用生理的 塩類溶液を充した。 細胞内電位の変化は初段に6BE6を通常より低い 陽極電圧及び線条電圧を用いて仇かせて前置増巾を行 い(グリッド電’th10−1 2amp.,入力抵抗10i2Ω),その 後に5AK5及び12AT7の直結回路を用いた。この 三軸器の特性は抵抗20MΩ程度の超微小電極を接続し た鋳続1msecの矩形波を殆んど歪みなしに増巾し得 kものである。高力は二現象用ブラウン管オシ・グラ フに導き観察,記録を行った17)。 ペンシル型微小電極で内外同時誘導を試みたユ例 を考察の章で述べるが,この際には12AU7をca・ thode follower型前置増素謡とし(グリッド電流1:0−12 amp.),内外両極の電位変化は直結三論によって二現 象用ブラウン管オシPグラフに導いた。 光刺激は両者共にブラウン管の掃引に連動するリV T.回路を用い,任意の時点で一一一一定時間与えられるよう にしt: 17)。 3.実験成績

第2図は1つの個眼内に刺入した細胞内電極

(第1図L1)で自発性興奮を記録中に,その視神

a

b

c

Ql SEC. 第2図aは自発性スパイクの発生しているところに毎 秒21回の割合で逆方向興奮を送ったもので,刺激の時 点は点となって現われている。bは刺激の強度をより 強くしたもの。cは更に強くしたため刺激の頻度に一 致して逆方向性スパイクが記録されたもの 経幹に毎秒21回の割合で逆方向性興奮を起させる ための刺激を興えた時の影響を示す記録である。 個々の刺激時点は点として各記録に下向き方向に 現われている。この場合光刺激は一切与えていな い。この実験は逆方向性興奮を起させる刺激の強 度を3段階に変えて行ったもので,aでは比較的 弱く,bではやや強く,Cでは更に刺激の強度を 一一一 477 一

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強くしたものである。 aでは僅かながら制止の影響が見られ,逆方向 性興奮を送ってからしばらくしてスパイクの頻度 の減少が現われている。刺激を幾分強めたbでは この影響が更に大きく現われ,刺激開始から約0.2 秒の潜伏時の後にはスパイクの発生が全く制止さ れ消失している。cは更に刺激を強めたために当 該個眼に連なる視神経線維の閾値以上となったも ので,刺激の頻度と一致した逆方向性興奮が記録 されている。以上の成績は冨田が細胞外電極を個 眼直後の視神経小束の上に置いて観察したところ と全く一致するもので,aでは刺激が弱いため神 経舟中の噴く僅かの神経線維が興奮した場合に相 当し,bでは刺激強度の増強により興奮する神経 線維の数が増大し,そのために制止の影響も大き く現われたものであることは明らかである。 更に注目すべき重要な点は,制止効果の弱いa では著明でないが,制止の著明に現われているb では制止時において基線レベルがスパイク発生の 臨界脱分極レベルと陽性後電位との中間附近にお さえられていることである。cの如く逆方向性興 奮が記録電極下の個眼にまで到達した場合にも, その平均した基線レベルはbの話合とほぼ同様の 位置にわさえられているのが認められる。流露方 向性興奮が当該個眼にまで到達した。の揚合にお いて,スパイクの高さ及び陽性後電位が次第に縮 小を示しているが,これがスパイクの頻度の増大 に伴う現象であるか,それとも制止に関連した現 象であるかはこの記録だけからは判定が困難であ る。 第3図は別の標本を用いて行った類似の実験に おいて毎秒20回の割合で逆方向性興奮を送った時 の記録である。記録波形上の小さな規則性ある振 動は交流混入のためのartefactである。同図上 左の記録は自発性スパイクの1波形だけを示した もので,上前は逆方向性興奮により制止を受けて スパイクの消矢した状態を示す。又下右はこれよ りも僅かに刺激強度を増したことによる逆方向性 興奮の当該個眼への到達を示し,下左はこの刺激 の直前に対照として記録した自発性スパイクであ る。制止刺激時の上山及び下右の記録の基線レベ ルは夫々上頚及び下図の記録の下に挿入された直 .線として示してある如く,この揚合にも明らかに 制止時における基線レベルはスパイクの臨界脱分 第3図上左は自発性スパイク,上右は逆方向性興奮に より自発性スパイクが制止されたもの。一著は逆方向 からの刺激を強めたために記録されたスパイク,又下 左はこの刺激直前に対照として記録した自発性スパイ クである。 極レベルと陽性後電位の中間に来ている。そして 逆方向性三三のスパイクの高さ及び陽性後電位が 減少している点も第2図と同様で,この例では陽 性後電位が殆んど消失している。この陽性後電位 の消失に関しては,あるいはそれが逆方向性興奮 の波形に固有なもので,順方向性スパイクの波形 とは本来異っているものではないかとめ疑問も一・ 応成立するが,・この可能性は第4図に示す成績か ら否定されるg.即ち第4図は逆方向性興奮を起さ ] 茎

20mSEC

第4図順方向1性スパイクの現れている所に,●印の各 時点で視神経に刺激を与えて発生した逆方向性スパイ クを順方向性スパイクに混じて記録したもの。 せるための刺激頻度を減少して毎秒12回とし,之 により逆方向性スパイクを順方向性の自発性スパ ー 478 一

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婁 イク中に混じて両者の比較に便ならしめたもので あるが,そこには何等本質的な波形の差異は認め られなかった。図において刺激時点を示す●印の 次に現われたスパイクが逆方向性のもので,他は 順方向性のものである。何故に頻回刺激時に第21 図及び第3「}に見られるような逆方向性興奮の旧 姓後電位の縮小が生ずるかについては尚確言し難 いが,少くとも次の可能性は除外できる。その可 能性とは制止時に非常に強固な膜の制止平衡電位 が現われ,そのためにスパイク電位及び後電位を 含めた凡ての電位変化が平衡電位に向って縮小す るのではないかというのである。〔Ecdes等2)及 びKuffler等15)によると制止時には特殊イオンに 対する膜の透過性が増大し,そのためにそのイオ ンの平衡電位へ向う基線レベルの変動が起るとい う。Eccles等はこの特殊イオンがK及びC1であ るとしている(考察の章参照)。〕然しながら第2 図aの如く制止によって放電頻度が減少している ような場合の順方向性スパイクの波形には何等の

a

b

一 O.1 SEC t 第5八逆方向性興奮(毎秒21同)を送った時のi基線レ ベフレ。aは長期聞刺激時の基線レベフレの低下を,又b は短期間刺激(片矢印で示す)後の基線レベフレの複帰 の状態を示す、, 顕著な変化が認められないし,又臥図bの如く制 止が強くてスパイクが一時完全に停止する如き場 合でも,稀にescapeして現われるスパイクの波 形もほぼ正常の高きと陽性緩電位を示すから上記 の可能性は考え難い。やはりスパイクの高頻度の ための反復そのものがこのような波形の縮小6)エ2) 15、を劃した主因をなしていると思われる。 第5図は自発性スパイクが疎らで,そのスパイ クの高さが50mVを越す大きなものが得られた標 本からの記録である。かかる大きなスパイクが得 られるのは,誘導電極がスパイク発生部位に極め て接近した部位に置かれたと考えられる場合であ る。 (冨田によれば緩電位が大きく出る時には一 般にスパイクは小さく,反対に緩電位が小さい時 には概してスパイクが大きく,緩電位の大きさと スパイクの大きさとは反比例的な関係にある。冨 田はこの事実から両電位の発生部位が幾らか離れ て存在していることを推論した27」。)図のaは毎秒 21回の割合で逆方向性興奮を長期間に亘って送り 込んだ時の基線レベルの変動を,叉図のbは刺激 を短時間で中止した後の基線レベルの復帰の状態 を示すものである。この逆方向からの刺激期聞周 辺の神経線維の興奮による制止の影響が膜の分極 を高めるように作用していることは明らかである が,この場合にも基線レベルの落ち着くところは 順方向性スパイクの臨界脱分極レベルと陽性後電 位の中畑であることが見られる。 第6図は第5図を得たのと同じ標本からの別の 記録例で,毎秒24回の割合で送っている逆方向性 興奮波形が光刺激を加えた場合に如1可に影響され るかを見たものである。図aは対照で逆方向性興 奮を送ることなく,矢印のロ零点以後光の連続照射 のみを行ったものである、,Cは逆:方向性スパイク の発生しているところにaの場合と同じ強度の光 刺激を与てその影響を見たもので,この蒔は光照 射の初期に逆方向性興奮の頻度よりも高い頻度の 順方向性スパイクが生ずるために,その期聞だけ より頻回なスパイクが認められるが,基線の変動 そのものはaの場合と比較して著変が認められな い。逆方向性興奮の記録されている。の場合には 周辺の個眼に連なる視神経線維も刺激きれて興奮 し,これが記録電極下の個眼の活動に対しては制 止的に働いていることは明らかであるにも拘ら ず,緩電位の発生する如き何等の顕著な影響も認 一 479 ・一 一一

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a

b

c

茎 O.1 SEC. 第6図’aは矢印の時点以後に連続して光回避を与えた 場含。cは逆方向性スパイクの現われている所にaの 場合と同一強度の光刺激を与えた場合で,bは。の場 合と同じであるが順方向性スパイクが現れないように 弱い光刺激を与えたもの。 められないのは注目すべき点で,:先に冨田が網膜 を挾んで置いた大きな1対の電極で得た成績と一 致する。 第6図bは。の揚合よりも光刺激の強度を弱め ることにより,順方向性スパイクによる期外放電 が起らないような状態にしたもので,比較飽軽四 の緩電位の持ち上りが見、られる。この場合スパイ クの頻度は終始不変であるにも拘らず,緩電位の 経町に平行して陽性後電位のprofileの持ち上り とスパイクの高きの僅かな減少とが認められる。 このことは光照射に伴う緩電位の発生が膜抵抗の 相当強い減少と関係しており,その短絡効果が放 電々位の縮小としで現われたものであると考えら れる。 以上の諸例が明らかに示すように,制止時にお ける電位変化の上述した如き関係,即ち制止時に おける基線レベルが順方向性スパイクの臨界脱分 極レベルと陽性後電位の中間におさえられるとい う関係は,スパイクの小さく記録された第2図, それの中間的な第3図及び極めて:大:きなスパイク の誘導された第5図に示す如き場合の何れにもほ ぼ同様に成立することが見られる。唯これまでの 実験は総て電極刺入による人工的なある程度の脱 分極状態に対する制止の効果を検出したわけであ るが,次に光刺激によって生ずる脱分極に対して 制止の影響が如何に現われるかを述べる。 光刺激時の脱分極状態に対する制止の影響は第 7図に例示してある。即ち第7図は強い光刺激時

a

b

c

Ql SEC. 第7図 aは矢印で示した期聞だけ光刺激を与えた場 合・bは光刺激9)継続中に片矢印の時点で毎秒23回の 割合で逆方向性興奮を送ったもの。Cは後放電の持続 中bと同様な割合で逆方向性興奮を送ったもの。 に強度の脱分極が認められたところの標本につい て,このような強度の脱分極が逆方向性の制止的 刺激によってどのように影響されるかを見たもの である。この標本では図aに示すように,強い光 刺激を矢印の期間だけ与えた時に大きな緩電位が 得られたもので,しかも光刺激中に緩電位に二次 的な高まりが見られる。そして光刺激中断後も緩 電位ば直ぐには元の電位に戻らず,約2分の経過 一 480 ・一

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を辿って徐々に戻り,その間烈しい後放電の続い た例である。図bは矢印の時点で光刺激を与え, 光刺激の持続中に片矢印の時点で毎秒23回の割合 で逆方向性興奮を送った時の記録である。.この場 合基線は軽微の低下を示すが,その程度は前述の 諸実験におけると同様な関係,即ち基線が順方向 性スパイクの臨界脱分極レベルと陽膣後電位の中 間にまで低下するに止まり,大きさの割合で引戻 す程の効果は何等認められていない。図。は光刺 激を中断した後の後放電の経過中に逆方向性興奮 を送った時の記録であるが,この場合にも上述し た程度以上の基線の低下は現われていない。 最後に制止の実験中に遭遇レた例外的な1例に ついてのべる。既に待山ユ7)により逆方向性興奮に より稀に初期に一過性の脱分極とそれに伴う疎通 が見られ,次いで制止に移行するもののあること が報告されたが,第8図の記録は逆方向性興奮を

a

b

O.1 SEC. 第8図逆方向からの刺激により脱分極のみ起り高分極 の起らなかった例。aは光刺激のみを与えた対照。 b は毎秒20回の割合で逆方向性興奮を送った時の脱分極 とそれに伴う一群の放電を示す。 周辺個眼に送り込んだ時に記録電極下の個眼に脱 分極だけが起り・その後に何等高分極方向の電位 変化が認められなかった例である。図aは対照と して光刺激の影響のみを見たもので,その際の脱 分極の形は他の標奉と変りがない。bは当該個眼、 ノ に対して丁度閾下の逆方向からの刺激を視神経幹 に毎秒20回の割合で与えた.ものであるが,この時 明瞭な脱分極と一群の放電とが現われた。この放 電があるいは何らかの原因℃視神経に与えた刺激 が当該個眼に連なる神経線維に対して一過性に有 効となったことによる逆方向性のスパイク電位か も知れないと考えられたので,ブラウン管の掃引 を早くして同じ標本からの記録を繰返して見た (第9図)。aは二二bと同じく光刺激により生じ

a

b

第9図第8図と同一例のものを掃引を早くして記録し たもの。aは制止性刺激によ、り現われた放電群, bは 光刺激中の放電。矢印は逆方陶から刺激を与えた時点 を示す。 た一一一一paのスパイクの一部分の記録であり,叉bは 前図aと同じく逆方向から刺激を与えた時に記録 されたスパイクである。之が逆方向性のスパイク 電位でないことは刺激のartefact(矢印で示した 4つの時点)と全く無関係にスパイクが現われて いることから明瞭である。 4.考 察 以上の実験結果に基き,2∼3の点について次 の考察を加える。 1.多くの記録例で繰返し示された如く,細胞 内電極で個眼内から大きなスパイクが誘導された 場合にも小さいものが誘導された融合にも,制止 時における基線レベルは順方向性スパイクの臨界 一 480’一

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脱分極レベルと陽性後電位の大凡中将庭落ち着く・ のが見られる。このような事実ぽ,制止め効果が 緩電位め発生部位に及んで直接それを抑制するよ うに働くと考えては決して説明出来ない。』何故な らば,緩電位の七生部位とスパイクの発生部位と が幾らか離れて存在していることは冨田により既 に明らかにきれたところで,∫従って若しも制止の 効果が緩電位の発生自体を抑えるものであれば, 電極が緩電位の発生部位の近くに置かれて大きな 緩電位が記録される如き条件下では,制止時の基 線レベルの低下はそれに応じて大きく現われなけ ればならない。これに反して若しもスパイクの発 生部位に近接した点に制止の効果が及ぶものであ るならば・このような制止の勅果聖受け為場所か ら離れたところで誘導した鳥合にも,あるいはそ の近く.で誘導した場合にも,制止時の基線レベル の低下は常にその時記録されているヌ1バイクの大 ききに応じた割合で現われなければならない。実 験結果は後者の正しいことを示している。第7図 に見られる如く,光刺激により大きな緩電位が誘 導される如き条件下に制止を加えても,緩電位の レベルの低下の程度はスパイクの大きさに応じた 割合でしか認められない。 以上の如くカブトガニの複眼では,緩電位の発 生部位と制止効果の癸現部位とは明らかに離れて 存在していると老えられる。このような構造のも のは今までのところ他に類例がない。Eccles等i)∼ 5)はその広範な研究から,脊髄前角細胞にはその 形質膜上に興奮機序に関与する多数の小領野『(興 奮斑)と制止機序に関与する多数の小領野(制止 斑)とが密に交錯して存在していることを示唆し ている。興奮斑と制止斑とが夫々独立した部位を 占めているという点ではカブトガニの複眼の場合 と本質的には栢違しないとしても,前角細胞内で 誘導されるシナプス電位は常に興奮斑と制止斑の 干渉の結集だけを示すもので,誘導部位を変える ことによって夫々の効果をいくらかでも分離する ことができるというわけのものではない。定心:近 Kuffler等15)により研究されたザリガニやエビの 心内の張力受容細胞を麦配する制止神経線維にし ても,その制止効果は伸展による緩電位の発生部 位に直接及ぶものであることが示されている。 この点カブトガニの複眼では上述の2者と明ら かに異っている。この場合の制止効果は視神経線 維が個眼を出た直後のところで形成するPlexus を介して伝えられることは既にHartline等によ り示されkところであり,他方冨田はスパイク発 生部位は神経線維が個眼の後極から出る直前か直 後のところにあることを明らかにしている。従っ て冨田の想定しているスパイク発生部位の附近に plexusを介して伝えられる制止効果が「直接及ぶ と考えることは,以上の如き構造玉め観点からも 極めて合理的であると思われる。「 上記の推測に対する確証が最近のペンシル型微 小電極を用いての1実験で得られたと信ずるので それについて附言する。本実験はペンシル型電極 を第1図L2の如く個眼内に挿入し,外部極を細 胞外に叉内部極を細胞内に刺入して細胞の内外か ら同時記録が得られた時に,視神経幹から型の如 く逆方向性興奮を送り,その記録中の両波形に対 する影響をみたものである(第10図)。図aは記録 電極下の個眼に連なる視神経線維に対し刺激が僅 かに閾下であった出合,網図bはこれより僅かに 刺激を強めて閾上とした開合の記録である。何れ の場合にも逆方向からの制止性刺激により細胞内 第10図ペンシル型微小電極を用い細胞の内外から同時 誘導を行った記録で,a, b共に上は内部誘遵,下は 外部誘導によるもの。両者共毎秒28回の割合で視神経 を刺激し,aは刺激強度が記録電極下の個眼に連なる 神経線維に対して丁度閾下であった場合,bは僅かに 刺激強度を増して閾上とした場合である。 一 48」’ =一 一

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誘導電位の基線レベルは僅かではあるが高分極の 方に振れている。それと共に細胞外から誘導中の 電位の基線レベルも同一め負方向の変化を示1して いる。このことは誘導部位の形質膜が制止の効果 をpasslveに受けていることの明らかな証拠とな るもので,若しも制止時の電位変動が誘導部位の 形質膜のtt活動”によるものとすれば,内外から の誘導電位の極性は反対でなければならない。こ のことは冨田が緩電位とスパイク電位との発生部 位の離れて存在することを示すのに用いたと同じ 理論によって容易に理解される。 2. 制臨時の基線レベルが順方向性スパイクの 臨界脱分極レベルと陽性後電位の中間におさえら れるという結果は,Eccles等25’が脊髄前角細胞に おいて制止の影響をみた際の結果と一致してい る。彼等によれば制止時には形質膜のK,CI両イオ ンに対する選択的透過性が同時に高まるために制 止時の基線レベルはC1イオンの平衡電位(70mV) とKイオンの平衡電位(90mV)との中間(80mV) に落ち着くことになるという。陽性後電位がKイ オンの平衡電位に近づこうとする電位変化である ことは諸家の意見の一致するところであり,従っ て陽性後電位よりも制止時の基線レベルが上にあ るという著者の実験結果もEccles等の理論によ ってよく説明せられる。 3.実験成績の最後に掲げた例外的な1例では 制止的な逆:方向からの刺激時に高分極でなくて却 って脱分極が現われている。制止刺激による膜電 位の変化が制止平衡電位へ向うものである以上, その時の膜電位が何等かの原因で,若しもこの平 衡電位よりも大きがつだような揚合には翻止刺激 時にこの例における如き説分極方向の電位変化が 現われるのは当然である。この記録の時の膜電位 の正確な値をとっていないρでこの問題に関する これ以‡(ρ追掌は困難で命るが,恐らく上述のよ うな成因によるものと老えちれる。Kuffler等15) も張力受容器で同様の現象を見てこれに同様な解 釈を商えている。ド 4.MacNicho1.の冨田教授への私信kよれば, 細胞内電極法による著者と同様な研究により,制 止の効果峠寧ち常に脱分極方向の電位変化として 現われ,高分極は得られないという。このことは 氏が制止を起「させるのに近傍の個眼を照射する方 法を用いているための散乱光の影響による可能性 が極めて大きいと思われる。その理由を次の如く 論ずる。 著者の研究により,制止の効果は緩電位の発生 部位に直接及んでその発生を抑える毛のではな く,スパイクの発生部位に対する高分極作用であ ることが明らかとなった。従ってそこの関係を模 型的に田中22)による光受容器等価回路に従って示 すと第11図の如くなる。図においてA画品電位発

A

Ao

R

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B

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P

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Ai Ri Bi

第11図光受容器の興奮並びに制止の機序を示す等価回 路破線の部は綱止の回路。Aは緩電位発生部位, B はスパイク発生部位(本:文参照)。 生部位形質膜を,Bはスパイク発生部位形質膜を 示し,Ai, Aoは夫々Aにおける形質膜の内側と 外側,又Bi, Boは夫々Bにおける形質膜の内側 と外側を示すものとする。ERは静止時における 膜電位を決定する起電力,Cは膜容量を示してい る。光照射を行うとAにおいて光の強度に応じた Rの減少が起ってAに脱分極を生ぜしめる。この 脱分極はRiを通してBに外向き電流を与える。 S はこの外向き電流の強さにほぼ比例した頻度で開 閉を繰返すスヰッチと考えればよく,その1回の 開閉毎にEAが並列に加わって1つのスパイク電 位を生ずる。’ 以上が個眼における興奮機序と考えられるもの であるが,制止に対する等価回路は点線で示した 如きものと考えられる。制止時にはこのRIが減 少し,スパイク癸生部位であるBにEI方向の高 分極を生ずる。その電気緊張電位がAにおいて誘 導出来ると考えるわけである。AiとBiの間には Riが存在するためにAにおける制止時の高分極の 程度は当然Bにおけるよりも弱い。従ってAの附 近に細胞内電極が挿入されていると,近傍照射に 一一@483・ 一

(10)

よりBにおいては高分極方向め変化が生じ,.スパ イク発生の頻度が減少する筈であるが,電位を誘 導しているAの附近では近傍を照射した光の散乱 .により直.レこの.部に幾らかの脱分極が生.じ,.これ がBからの電気緊張電位を打消して優位を.占める 可能性は充分に.ある。このよ.うに考えると著者の 成績とは一致しないMac:Nicho1の成績がよく理 解出来る。 5・要 約 1. カブトガニ(Tachypleus tridentatus)の 複眼の個眼.内から細胞内微小電極により.膜電位を 誘導し,これが制止時に如何に変化するかを検し た。制止の方法は視神経.を電気的に刺激して逆方 向性興奮を周辺の個眼に送った。 2.制止時における膜電.位の基線.レベルは.,順 方向性スパイクの臨界脱分極レベルと.陽性後電位 の中間におさえられる。これに反.し,光照射に伴 って発生する緩電位に及ぼす制止の影響は僅微で ある。 3.上記の所見から制止効果が緩電位の発生部 位に直接及んで緩電位の発馬を抑制するものでな く,緩電位の発生部位から幾らか離れて存在する ξころのスパイク畢生部位に制止効果が及ぶもの であることを結論したb尚この結論はペンシル.型 微小電極を用いた実験により確かめられた。 4.制止刺激時に脱分極とそれ}と.伴う1群の放. 電の見られた1例につき述べた。 曲筆にのぞみ御懇篤なる御指導と御校閲を賜った富. 田恒男教授に衷心より謝意を表す。 文 献

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参照

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