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気胸を伴つた気道異物症例

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Academic year: 2021

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39 (東京女子医大誌・第24巻 第1号頁:39一一42昭和29∠年2月)

気胸を鞭つアこ気道異物症例

緒 蕪辞女子医科大学耳鼻咽喉科学教室(主任 佐藤イクヨ教授) 助 教 授 助 言 手 窪 クポ 佐 々 木 サ サ キ (受付昭和29年1月19N) 気管支鏡検査法は,近来の肺結核に対する立体 的治療方針の一環として普及される迄は,Ki11ian 発明以来主として異物を対象として発達して来た もので,従って臨床上気道異物ぱさして珍稀なも のではない。然し気道異物に自発性気胸を伴った ものの報告は稀である。 余等ぱ異物誤嚥に由る呼吸困難を主訴として気 管切開を施され,遠路送院された患者に自発性気 胸を伴った例に遭遇し,異物摘出法に於ては失敗 例であるが種々考えさせられる点があったので敢 て鼓に報告する次第であるL, 症 例 患者:内田某、5才の男児、伊豆下田の人r 初診=昭和27年4月16日午後5時半。 主訴:異物誤嚥による呼吸困難。 家族整:特記すべきことなし, 翫往歴=満期安産,母乳栄養。1年前肺炎に罹患・ 半年前に5円硬貨を誤嚥したが,胃中に落下し便と共 に自然推泄した事がある・ 現病歴1初診当日午前8時頃,友人と共に幼稚園に 行く途中,路ヒで硝子片を拾い之をロ中に含んだ儘走 った.転んナ謎端に呼吸困難とt・・b苦悶中・偶々自転 車で通りかかった患児の伯黛二「ガラス」と言ったま ま窒息状態とたった.面二耳鼻科医院に抱え込み・気 管切開授け危急を蜘・れたが・休電日の為レンげ ン検査瀬来ず,共のまま医師附添いの上自動車にて 上京,7騨を要して到着し,入院した・途中熱海にて 急に呼咽醗作が起り,附1恭い医師の強心剤注騰 の応急処置により,危期を脱したとの事である。 現症:体格栄養共に中等変、体温36.6。C,脈搏 は145で頻数なるも撃L気管カニューレを装用し ておるが,呼吸数は50で促迎.・顔貌断伊蒼白 敦 一f・ソ タ 子 コ カ 不安状,チアノーゼばない。胸部は左側前上部に 軽度の皮下気腫を呈し,聴診上一般に気管雑音が 著明であるが,呼吸音も聴く事が出織る。左胸点 前上部には皮下気腫による捻髪音あll)。レントゲ ン透視並に撮影により,左気胸著明で肺虚脱を起 し,右肺にも軽度の気胸を起している。左肺門部 に小指頭大の濃厚陰影を認めたので,左側気管支 に異物介在を疑った。 治療及経過;患者は疲労して居り,全身状態が あまりよくないので,葡萄糖リンゲル注射を行 い,伺感染防止の目的にペニシリン(40万単位時 間注)を注射し,カニューレ交換を行った。カニ =L一レを抜去するや咳蹴と共IC,小指頭大の気腫 状結合織が切開創左縁から飛出して,気管切開口 を塞ぎ痴話犬態となったので,急いで扁平鉤で開 創してカニューレを挿入し,呼吸は恢復した。翌 日レ線透視及撮影を行ったが,前日よりも気胸は 著明となり,左肺門部陰影も鮮明となった(第1図 参照)o 異物の種類に就いてぽ,最初誤嚥時に, 第1図(第2日目撮) Rq

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40 「ガラス」と言ったが共後医師並に家族から繰返し 質問したが判然せす,発音出来す,且筆談の出来 ぬ幼児の事とて甚だ曖味であったが、肺門部陰影 附近に異物介在を疑い,取敢す下気管支鏡検査を 行った。患児に適当な管がなく,Killian式(O・7 ×25cm), Jackson式(0.6×40cm), (0.5×35 cm)の気管支鏡を種・々取かえて,無麻酔の下に 気管切開ロより挿入しtaが,気管分岐部迄には異 物も特別に損傷せる部分も認めす,左気管支に挿 入を試みたが大ぎすぎて不能なため,やむなく Killian式食道鏡(0.6x35 cm)にて左気管支を 精査したが異物を認めなかった。食道鏡を使用せ るため呼吸困難となり中止し,しばらく休息して 再検するに,左気管支粘膜にやや充血,腫脹を認 めるが,特に損傷部はなく,下葉分岐部迄精査し ても異物を認めなかった。此時尊上は咳噺発作と 同時に液体様のものをかなり大量嘔吐した。留れ 以後検査中時吟声が出る様になった。次で管を上 方に向けて声門下男を検したがやば}〕異物は認め なかった。喉頭直達鏡検査を行ったところ,此処 にも異物は無かったが,声帯は蝶々発赤肺製し, 右側声帯に小肉芽を認めた。最後IC食道鏡検査も 施行したが食道入口右側に線状掻傷あり,新鮮な 凝血少量附着するをみたが夫以下に異常がなかっ た。何処にも異物が発見されない為,再検査を予 定して第1回を終了した。共時,不図術者の足元 の呼物中に硝子片が混っているのを発見し,患児 にみせたところ,口に入れたのは「これだ」と言 う。数回確めたが間違なしと言い,類似の硝子片 数個と共にみせろと,落ちて居た硝子のみを選び とるので共風構片を異物と決定した。異物となっ た単子片は,無色透明な薬瓶の口の破片で,大さ 1.2×0.9cm大体三角形で厚さ0・2cmの尖鋭なも のであった(第2図参照)り 術後呼吸安静となり,劇痛も訴えす熟睡した。 術後3日目に気管カニューレを抜去し・術後6日 目より趨,児ぽ笑顔で話をする様になつ起15日目 に,レントゲン撮影により気胸は殆んど恢復して いるのを確めて,同日退院帰郷した。 考 按 異物の喉頭,気管,気管支への介入に当って, 完全閉塞と不完全閉塞とがある・完全閉塞の場合 には肺胞の空気は吸収されて無気肺に陥り・予後 第2図 異物(硝子片)

置編

不良とされて居る。しかし不完全閉塞で所謂弁状 狭窄の丁合には,其の弁の開く方向によって却っ て異物側に肺気腫を呈し,心臓を健側に圧迫する が予後は比較的良好とされて居る。又異物の気 管,気管支壁刺入によって,外傷性気胸を起す場 合には,急に虚脱症状を呈し,不幸の転帰をとる 事がある。本症例の治療方針を顧みて楠t鬼に堪え ぬ点は,最初に喉頭鏡検査を行わなかった点であ る。即ち本例は下気管切開を行われて送呈されて 来た患者で,しかも胸部所見上左肺門部附近に無 気肺陰影を認めたため,直ちに左気管支異物を疑 V・下気管支鏡検査を施行したものであるが,此際 に下気管支鏡検査法を撰択した事に対しては,笹 木教授(15)も原則としては上気管支鏡検査法を行 うが,特殊な異物及び既に気管切開を受けて来た 患者には,下気管支鏡検査法を行うと’葺われる如 く:先ず安曇とするも,只書例は異物誤嚥と同時に 呼吸困難で窒息に瀕したが気管切開によP之を免 かれた点からみて,異物は喉頭乃至声門下臥に存 在すると考えるべきであった。かくすれば声門間 に存在した異物を直ちに発見し得たであろうか ら,検査中の唐物の中に異物を発見するが如き不 手際は起らなかった筈である。 然らば何故に既往歴を聞いて㌔・ながら直ちに下 気管支鏡検査法を選んだかと言えば,之は専ら胸 部所見を過信したためである。本盗の異物ま路上 で拾ったもので形状共の他判然としないが,窒息 前に言った患児の言を信ずるならば硝子片である から,レ線上でぱ陰影は認められない。然るに胸 部所’見で左肺門部に濃厚陰影があり,然も左側に :著明な気胸を認めたため,尖鋭異物により気管支 壁を穿曝して気胸を招来すると共に,小気管支に 対しては閉塞性異物となって,無気肺を併発した

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4,i ものと判断し,此無気肺の起っている肺葉の所属 気管枝分岐部こそ異物の存在部位と推測したもの である。然し実際は気胸を起したため,肺門部に 三品した肺葉が:伯爵して濃厚な陰影となったと解 すべきであろう。 次に本例の異物介在部位を声門と断定した論拠 は, 1.患児が異物を誤嚥した途端に呼吸困難が起 り窒息に瀕したが気管切開により之を免れ得た点 2.患者来院時に行ったカ=ユーレ交換時に, 三管抜去後切開創左縁から突出した気腫状結合織 にて切開口を閉塞された時に,呼吸困難を来して ・全然発声出来なかったに不拘,下気管支鏡検三時 に嘔吐後は検査中時々発声出来た事。 3.1二時の三物中に異物を見出した事。 4.其の後行った声門下腔検査では声帯に充.血 をみるのみであるが,直達喉頭鏡検査では声帯の 三一血と軽度の腫脹並に右声帯に小肉芽を発見した 事とによつて,本異物は尖鋭な側を右に向けて声 帯間に介在していたものと推定される。 5.食道入口部右側に小掻傷あり,新鮮な凝血 が少量附着してbた事は,検査二丁噺発作のため 声門間を外れた異物が食道入口二二落下し,この ため嘔吐を催し吐出したが,この時尖端で右入口 「二二を擦過したための傷と思われる。 樹異物は病院等では往・々見る事の多い薬瓶らし きものの口の破片であるが,検査室は入念な清掃 後であること,類似の硝子片を混在させて患児に 示しても毎常同一一一一のものを選びとった点からみて 之が異物に間違いないと断定した。 気道異物続発症として,肺炎,気管支炎,肺壊疸, 膿胸,肺浮腫,声門一ド喉頭炎,皮下気腫,心臓麻痺等 が挙げられているが,自発性気胸を併発した症例報告 は稀である。気道異物例で笹木教授(九大)σ5)100例, 松井教授(満大)(1Jr)88例,羽生・福島(城大)(5)16例, 金子(熊大)⑧ の13例,安藤(岩手大)の7例,柏戸 教授(横大)(g)8例,大草・富永・広戸・万回目(阪 大)、13)の167例,後藤・中野②の蒐集した本邦文献 中の18例,荻野・田中の文献中の96例をみても自発 性気胸に就ての記載をみない。僅かに法水・高橋(3) の東大に於ける60例中に只1例をみる。即ち6才女 児,落花生の:声門下腔異物の一ド気管切開施行例で,異 物摘出の翌日両月に特発性気胸像を呈したが,5日後 殆んど恢復したもので気胸の原因には言及していな い。其の子骨・熊野(16)は満1才女児,焼鯛鱗の骨誤 嚥後12日目に喉頭後連合理に小豆大ポリ・・一プを認め之 を摘出,一時呼吸困難は去りたるも再度激しき呼吸困 難を来し,下気管切開に依るも軽快せず,下気道にて も異物を認めず,X線撮影にて右側気胸を証明した。 気胸成立機転ぽポリ門プの陰に隠れて刺入介在してい た小魚骨が,手術の際右気管枝末端深くに落下介入し ている時,偶々気管切開に依り急激に:空気を吸入した はずみに小気管四壁を破って,夫より其部の肺気腫, 及気胸を生じたものならんと。又,畑・山本・野辺地 (4例は,!年9カ月女児,南京豆破片異物誤i蕪後1週 聞目に受診した例で,右気管麦閉塞陸肺気腫,所謂 Holzknecht症状を噛したものが,後右腕下葉に一 部無気肺,更に肺気腫を来し,1ヵ月後其の破綻によ ると思われる気胸を認めしむるに至ったが約1ヵ月で 消失した。其の後は中葉無気肺を惹起したまま5ヵ月 経過している例を報告している。異物によるもの1’1以 上3例であるが,他に大石ユL)は:1才10ヵ月女児にヂ フテyrによる呼吸困難に施行した下気切の後,頸胸 部皮下気腫と共に右側気胸を惹起し,気胸の原因は, 気管ヵニュFレによる気管壁損傷に由来するものとし て幼児の気管切開は上気切の方を推奨している。 醗って余等の症例の気胸の成立機転に就いて唱 えてみるに, 1.異物症の場合に最も起り易V・のは尖鋭な異 物によって,気管,気管麦壁の損傷による事が考 えられるが旧例では異物も刺傷も下気道に認めら れなかった。 2。弁状異物によって肺気腫を起し,其の区域 の肺胞破裂に.よって気胸が成立し得るが,本辞ば 之に該当しない。 3.異物介在場所は声帯聞と推定するが,此所 から気胸は起り得ない。 4. 稲垣(6)/J、井(7)氏等1て二よれ帽ご, 牛与癸悟王気理幻 の発生機転に就て,単純性気胸は何等特別の原因 なくとも,急激なる肺内圧及び胸膜腔内圧の上昇 を来すべぎ原因があれば健康人にても起り得ると 言われているから,本例に於ても否定は出来ない が然し次の5,の原因を順当「と考える。 5.下気管切開を施したものに,カニューレに よる気管壁損傷に由来して気胸を起した報告(12) がある。小児の下気管切開では,気管側壁を剥離 し過悟るときは肋膜腔を開く事になって呼気に際 して肺尖が飛び出す事があるから,其の夢合にぱ 気胸の成立を来たし得る。 一一 41 一

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42.} 本例は左側頸部前上胸部に軽度の皮下気腫を認 め,気管カニューレ交換の際に,咳鍬発作により 切開口左縁より小指頭大の気腫状結合織が気管切 開口の上に飛出して来た所見から老えて,気管切 開直後余儀なき長途の自動車旅行によつて,切開 創から空気の侵入を来し気胸の成立を許すに至っ たものと思惟する。 結 語 本例ぼ5才の男児,路上で拾った硝子片を口に 含んだまま走って転び,途端に窒息状態となり, 直ちに近医により気管切開を受け危急を救われた が,休電日にて検査不能のためそのまま医師付添 いの上自動車にて来院。レ線検査にて両三特に左 に著明の気胸あID,左上葉無気肺を認めたので, 左気管支異物の介在を疑い,下気管:支鏡検査を施 行したが異物及気管気管支損傷を認めす。検査中 咳鍬癸作と共に嘔吐あり,温点海中に硝子片の異 物を発見。喉頭直達所見により異物は声帯間に介 在したものと断定した。以後経過順調にて15日目 に気胸も恢復して退院した。本例に伴った自発性 気胸の威因は,気管切開直後の長途の自動車旅行 による振動のため,気管切開創から空気の侵入を 来して成立したものと思惟する。 本論文の大要は第18回東京女子医科大学々会総会, 28年11月日本耳鼻咽喉科学会誌3101互東京地方会 に点て口演した。 稿を終るに当り,御懇篤なる御指導御校閲を胆りた る佐藤教授に深甚の謝意を捧げると共に,本症例治療 上御協力を頂いた小児科磯田教授並に放射線科島津教 授に深謝する。 引、用 文 献 1・安藤撃二:日気食会報,創刊号25頁昭25年3月 2・後藤修二・中野明’:大日耳鼻,41巻4号,507頁 昭9年4月。 3・法水正文・高橋次夫:胸部外科4巻,6号,40頁 昭26年12月 4,畑 秀雄・山本高治郎・野辺地篤郎; 目三食会報,3巻,1号,29頁,昭27年2月 5・’羽生純夫・編島敏夫:耳喉 7巻,2号,128頁, 昭29年2月 6・稲垣敏澄:目医新報1423号,2554頁,昭26年9月 7・小井敏夫:診療と経験5巻,6冊,648頁,昭16年6且 8・金子 栄1大日耳鼻42巻,8号,1204頁,昭11年 9・柏戸貞一・武安敏夫:気食会報3巻,12号,49頁 昭27年5月 10.松井太郎=耳喉13巻,11号,872頁,昭15年11月 11・荻野朝一。田中努郎:愛知医会誌33巻,6号, 1210頁,大正5年11月 12・大石公一郎:耳喉11巻,4号,383頁,昭13年4月 13・大草次瓢他3名:山川教授開講20年教室研究業 績集,昭26年11月

14. 4、里予譲霞尺 (C.Jaρkson and C.L. Jackson) 気管食道科診療の実際昭26年7月 15・笹木 実:口気食会報2巻,3−4号,1頁,昭26年 10月 16.谷 豊。蕪野武雄:大日耳鼻47巻,2号,260頁 昭16年2月

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