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(1)

刑事訴訟と民事訴訟の交錯 : 訴因の特定・変更等 に関する問題を中心として

著者 佐藤 嘉彦

雑誌名 同志社法學

巻 60

号 7

ページ 783‑808

発行年 2009‑02‑28

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011655

(2)

刑事訴訟と民事訴訟の交錯七八三同志社法学 六〇巻七号

刑事訴訟と民事訴訟の交錯 ―

訴因の特定・変更等に関する問題を中心として

藤 嘉 彦

  (三八〇一)

第一  はじめに   刑事訴訟と民事訴訟では、その目的を異にしており、これを単純に比較して論じてみても意味がない。両訴を学んで いる学生の効率的な学習に資することはあっても、その比較検討から直ちに理論的成果を期待することはできない

1)

  とはいえ、実務家として刑事裁判と民事裁判の双方を担当していると、目前に迫った問題を処理するに当たり、多角的な視野を提供してくれるのは、両訴から学んだ知識であり経験である

2)

  たしかに、民事訴訟において実現されるべき権利は私権であって、その処分は当事者に委ねられている。刑事訴訟において実現されるべき権利は刑罰権であって、その処分には制約がある。民事訴訟では対等な当事者による攻撃防禦が

想定されているが、刑事訴訟ではそれが想定されていない。同日の談でないことは明らかである。

(3)

刑事訴訟と民事訴訟の交錯七八四同志社法学 六〇巻七号

  しかし、刑事訴訟でも民事訴訟でも、手続の保障と真実の発見は、最も重要な目的であって指導的な理念である

。証 3

拠の偏在は、刑事訴訟のみならず民事訴訟でも強く意識されており、公平をはかるための理論が構築されている

理は訴訟には、従来の訴訟にな代かった特質があり、新たな型現者訴訟、薬害訴訟、消費た訟、環境訴訟などといっ訴 公。害 4)

論的展開もみられている

と制事訴訟は、法度。上も交錯して民訟るを附帯私訴など考訴えると、刑事く 5)

6)

  そうすると、法制史的な研究や比較法的な検討に加え、今少し刑事訴訟と民事訴訟との対比が試みられてよい

7

  本講では、刑事訴訟における訴因の特定・変更等に関する重要な問題について、民事訴訟的な視野を交え、若干の考察を加えてみたい

8

1、﹁︺﹄) 

2) 

︺﹄︺﹄ 3︺﹄) 

4) 

5) 、小

  (三八〇二)

(4)

刑事訴訟と民事訴訟の交錯七八五同志社法学 六〇巻七号

6) 

7) 

8、﹁) 

第二  訴訟物の特定と訴因の特定について

 

はてらめ求が判審いてつに否存のそ、﹁れい法う権利関係ないしる律関係﹂をい  

1

との請の上訟訴、は象対判あ審、ていおに訟訴事民求るさ物れている物ここに訴訟とい訟訴はたま求請に単は。

、てはと物訟訴、いおに訟訴事刑。 9

﹁原告である検察官の被告人に対する一定の請求であ(り)、請求の内容は、結局は一定量の刑罰﹂である

訴を期の理論的成果円、滑に享受するこ両りが訴るきで待よい。訟な物がキーワードとと てっいと 10

11

 

 

2

打ち防止﹂のため、訴物訟の特定が必要である。意﹁不で民事訴訟でも刑事訴訟もと、﹁審判の対象の特定﹂訴 訟物が特定されないと、審理を開始することはできず、訴えは却下され、公訴は棄却される

)、ばきる程度に特定されておれ足別り(これを﹁識別説﹂というで識状てでは、訴とおいに訴の訟訟訴物他が物 。訟訴事民、もとっも 12

請求を理由あらしめるに足りる事実(攻撃防禦方法としての請求原因事実)のすべてが主張されている必要はない

13

 

 

3

できる程度に特定(他の犯罪事実との区別化)され別識とに刑事訴訟では、起訴状お物いて訴訟物が他の訴訟て

いるだけでは足りず、刑罰請求を理由あらしめるに足りる事実(犯罪特別構成要件)のすべてが主張されている必

  (三八〇三)

(5)

刑事訴訟と民事訴訟の交錯七八六同志社法学 六〇巻七号

要がある。したがって、刑事訴訟では、まずもって民事訴訟でいう識別説ではなく、理由記載説が採られているこ

とになる。なお、刑事訴訟では、﹁訴因の記載は、他の訴因と紛れることのない程度の特定で足りるか(識別説)、それとも被告人の防禦に支障を来さない程度に具体的な記載も必要か(防禦権説)﹂といった観点から、識別説と

防禦権説との対立がある

14

 

 

4

伴う事例がある。最高は裁、密出国事件においてを困難で民事訴訟でも刑事訴訟もに、他の訴訟物との識別

、﹁犯 15

罪の種類、性質等の如何により、(日時・場所)を詳らかにすることができない特殊事情がある場合には﹂幅のある表示でも足りるとしているが、特殊事情がなくても、他の訴訟物との識別が困難な事例は少なくない。いかに日

時、場所が詳細に特定されていても、他の訴訟物との識別ができない事例がある。

    例えば、貸金返還請求事件において同一期間内に複数の同種・同額の貸付けがされているようなケース(利息制

限法絡みの事案では、同一機会に同内容の複数の貸付がなされていることも少なくない)、覚せい剤自己使用事件において同一期間内に複数の使用が行われているようなケースがそれである(共犯者絡みの事案では、それが複数

起訴される余地もある)。これらのケースにおいて他の訴訟物との識別が困難になるのは、前者の場合、給付の対象に代替性があるからであり、後者の場合、複数の犯行が事実上可能であるからである(もっとも、使用窃盗事案

では、特定物が複数回窃取されることもある)。日時・場所・方法といったいわゆる六何の原則を満たすのが困難だからではない。

  

も本請金貸にかほの求請件﹁権はていお件事求請還返求は貸かてっあが権求請金貸にほなの求請件本﹁かと﹂い金

 

こで事刑もで訟訴事民、は務訟実判裁、合場なうよの訴でる様いてしらこを夫工な々めもたるす定特を物訟訴、。

請求しない﹂とかいった釈明を、覚せい剤自己使用事件においては﹁最終行為を起訴したものである﹂とか﹁追起

  (三八〇四)

(6)

刑事訴訟と民事訴訟の交錯七八七同志社法学 六〇巻七号 訴の予定はない﹂とかいった釈明を取り付けることにより、論理的に訴訟物を特定するか、あるいは、訴訟物を特定する代わりの措置を講ずることにより、特定の不備を補っている

物せ訟訴、りよにとこるさを明釈たっいうそ。 16

の特定の必要性のうち二重起訴、既判力、一事不再理効に関する問題を解決するとともに、被告人の主張・立証に支障が生じないよう﹁疑わしきは被告人の利益に﹂の原則を徹底し、被告人の防禦に支障が生じないよう配慮して

いる

17

 

  

5

件の中に、不特定概念規や範的要素が含まれてい要構成訟⑴民事訴訟にも刑事訴に別も、請求原因や犯罪特る

ものがある。民事訴訟では過失・正当事由・権利濫用等がそれであり、刑事訴訟では過失、未遂、欺罔、恐喝、牙保、傷害等がそれである。そのような場合、実務上も、評価の根拠となる事実を具体的に主張しなけばならないと

されている

、いに実事接間が実事うとぎ﹂たし転運てっ酔にすな﹁防ずらま定が象対の禦撃い攻な的体具、﹁とるすと酒るけ いに載記の因原求請るけおに訟訴事民、ばえつて。﹂づ拠根を実事件要の失過過、﹁ばれとに例を失例 18

反論・反証等の準備をする機会が確保でき(ず)、不意打ちの不利益を受けるおそれがあり、手続保障に欠ける

、つを例にとれば、﹁傷害にい傷ては、凶器を用いたとか害て訟い説かれている。刑事訴における訴因の記載につと ﹂ 19

或いは手拳または平手で打撃を与えたという程度まで具体性を要するものというべきあり、単に暴行を加えたとい

う程度の記載では不適法である

訟きこてし定特を実事べをるなと罪て以を法れしびし訴の他、﹁がるいてとな﹂いならなばれけ方及所場、時日り 。六五二法訴刑はるあも条見たっい解、﹁三に限るきで、はる項す示明を因訴﹂と 20

物との識別の問題﹂とは別に﹁不特定概念や規範的要素の特定﹂の問題を考えてみる必要がある

21

    ⑵  最判平成一四年七月一八日(いわゆる前原遺体白骨化事件

等覚件事用使己自剤いせや件事国出密出前、は) 22

とともに訴因の特定の問題として採り上げられる判例であるが、被害者が死亡しており、民事訴訟的意味では他の

  (三八〇五)

(7)

刑事訴訟と民事訴訟の交錯七八八同志社法学 六〇巻七号

訴訟物との識別に困難はない(民事訴訟上、特定方法としての請求原因の記載としては十分である)。問題は、﹁手

段不明の暴行を加え⋮⋮傷害により死亡するに至らしめた﹂とあり、いかなる暴行が加えられたかについて具体的主張がないことである(民事訴訟上、攻撃方法としての請求原因の記載として十分かという問題である)。傷害に

ついて前述した﹁凶器を用いたとか、あるいは手拳または平手で打撃を与えたという程度まで具体性を要する﹂という見解に従うと、﹁手段不明の暴行を加え﹂といった程度では具体性を欠き、訴因の記載に不備があるというこ

とになる。

    ⑶  しかし、規範的要素について特定が求められるのは、﹁一般的、抽象的な概念によっては具体的な攻撃防禦

の対象が定まらず、反論・反証等の準備をする機会が確保されないため、不意打ちの不利益を受けるおそれがある﹂からである。この理は、民事訴訟における不特定概念の場合と同様である。﹁手段不明の暴行を加え﹂といった記

載で足りるかどうかは、被告人の防禦上の不利益の程度によって決するほかない。この程度の特定でも、﹁アリバイ主張のほか、有効な防禦方法として、暴行に関与したことの自体の否認、その暴行が致命的であったことへの反

証、さらに違法阻却事由、責任阻却事由の主張が、犯罪手段につき明確な表示を欠くことによって不可能となるわけではない

えいイや暴行に関与してなリいことの立証はなしバア。、いった見方もある手﹂段が不明であってもと 23

よう。

    ⑷  問題は、﹁その暴行が致命的なものであったこと﹂についての反証が困難なことにある。死因の記載までも が概括的なものとなると

。事、﹁えうため認を実たのし与関に行暴ていおそよ人。たし出みし苦に急いうないてえ加は行暴なに告被、合場く 死よるめしら至に暴。﹁るう加倍は度難のす行なと多、は証反うい﹂、いないてえ加はそ 24

死因は他にある﹂などといった自らの供述を恃むしかない(このような供述は、自らが犯行に関与していることを

  (三八〇六)

(8)

刑事訴訟と民事訴訟の交錯七八九同志社法学 六〇巻七号 自認しない限りなしえない)。﹁肉を切らせて骨を切る﹂ような立証を強いられることになる。被害者が受けた傷害の状況から暴行の程度を推認することができないようなケースにおいては、予見的証拠(動機等)や回顧的証拠(死 体を遺棄していること等)に依拠せざるをえないが、これらの証拠の証明力の評価次第では、あたかも民事訴訟において、間接反証や表見証明が機能したような結果となる

25

    ⑸  しかし翻って考えてみると、﹁手段不明の暴行を加えた﹂という程度の認識しか持ちえないのに、﹁被害者の死が被告人の所為によってもたらされた﹂といえるのか、﹁傷害致死の構成要件を充足している﹂との判断をなし うるのか、大いに疑問である。裁判所は、いかなる事実に基づいて﹁被害者を死亡するに至らしめるに足りる傷害が加えられた﹂と判断したのか、﹁傷害致死の構成要件を充足している﹂と判断したのか、説示すべきである

。そ 26

うしなければ、合理的な自由心証主義は担保できない。

 

  

6

上の性質を主張するこはと、訴訟物の特定のため律て法原⑴民事訴訟において、告いが訴訟物たる権利につ必

要ではなく、また、仮に特定の権利を主張したとしても、それが裁判所を拘束するものでもない。原告に求められることは、特定の権利関係を基礎づけるに足る事実を主張することであり、それに基づいて法律上一定の権利関係

が成立し、その内容として請求の趣旨に表示された給付内容が正当化される

訴事事刑、はで訟訴民、てっがたし。 27

訟でいう法律構成説ではなく事実記載説がとられていることになる

るいてれさ視重 観も務義摘指点的法、ていおに方他、しかし。 28

29

  

な題るいてし解に的極消を問、﹁、は説通つ立に説載記が訴事はと要必が更変の因訴き因とる変が価評的律法の実  

 

⑵て化変の価評的法、もい訴おに訟訴事刑、点のこと因るじあでろことるいてれら論変てしと題問の否要の更。 る(この点で、法律構成が変れば訴因は変わるとする法律構成説の主張は、事実記載説に吸収されることになる

)、 30

  (三八〇七)

(9)

刑事訴訟と民事訴訟の交錯七九〇同志社法学 六〇巻七号

といった見解もみられる。

  

をくるな異と載記状訴起、な条とこるとを続手の更変罰を罰適条罰るな異と載記状訴起、がるいてしとるきで用条  

 

⑶条ていつに否要の更変罰被、は例判・説通、おな、告りを限いながれそおるす生益人利不な的質実に禦防の、 適用する場合には罰条変更の手続をとるべきであるとしたうえ、罰条変更命令に形成力を認める見解もある

趨も評価は訴訟条件の存否とか法かわっており、訴訟の帰的。絡る変更の要否の問題とめ、議論を深める必要があ 。因訴 31

を決することもある。﹁我に事実を語れ、されば汝に法を与えん﹂では済まされない。

9) 

10︺﹄) 、﹁

11﹂、﹂、) 

12) 

、﹁、請、訴 、﹁ 13) 

、﹁﹂、 14) 、﹁

  (三八〇八)

(10)

刑事訴訟と民事訴訟の交錯七九一同志社法学 六〇巻七号 、﹁、(、﹁、﹁、︹、(、﹁、﹃使使)、、(、﹁)、

15) 、﹁

。﹁ 使使 16使) 、﹁

、﹁ 17) 

  (三八〇九)

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