社 会 問題 と しての 「 犯 罪 報 道 」 の構築
構築主義視点か らみ る「匿名報道主義」によるク レイム 申 し立 て活動
大 庭 絵 里
1.は じ め に
本 稿 は,構 築 主 義 の ア プ ロ ー チ を と る 社 会 問 題 研 究 の 一 つ と し て,「 犯 罪 報 道 」 へ の ク レ イ ム 過 程 を 考 察 す る もの で あ る。 す な わ ち,犯 罪 報 道 に お け る 実 名 報 道 を は じ め とす る様 々 な報 道 実 践 を 「社 会 問 題 」 と して ク レ イ ム す る 人 々 の 活 動 に 着 目 し,そ の 活 動 の 展 開 を 社 会 問 題 の 構 築 過 程 と し て 追 究 す る
こ とが 本 稿 の 目 的 で あ る。
構 築 主 義 ア プ ロ ー チ と は,社 会 問 題 を客 観 的 な 「状 況 」 と と ら え て,そ の
「状 況 」を分 析 す る の で は な く,社 会 問 題 は ク レ イ ム す る 人 々 に よ っ て 構 築 さ れ る過 程 で あ り,社 会 問 題 と し て 定 義 し て い く過 程 に 注 目 す る研 究 視 点 で あ
る。 こ の 視 点 は,1977年 に キ ツ セ とス ペ ク タ ー(KitsuseandSpector,1977=
訳,1990)が 提 唱 し て 以 来,20年 近 い 年 月 の 中 で 様 々 な 批 判 や 議 論 を 経 て, ア メ リカ で は 多 くの 経 験 的 研 究 が 積 み 重 ね られ て い る 。 日本 に お い て も,そ の 歩 み は 着 実 に 進 み つ つ あ る 。 本 稿 は,構 築 主 義 の 視 点 と そ れ へ の 批 判 に つ い て 理 論 的 レ ビ ュ ー を 行 う こ とが 目 的 で は な い の で,そ の 詳 細 に つ い て は ふ
1)
れ な い が,あ え て,本 稿 の土 台 とな る視 点 を明 示 す る必 要 はあ るだ ろ う。本 稿 は,構 築 主義 ア プ ロー チ の 中 で も厳 格 派 とよ ばれ る構 築 主 義 視 点 と方 法 を
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採 用 す2).っ ま り,イ バ ラ と キ ツ セ(IbaraandKitsuse,1993)の 研 究 視 点 と概 念 装 置 を基 礎 と し て,人 々 が 「問 題 」 だ と ク レ イ ム す る対 象(こ こ で は 実 名 報 道 に よ る 犯 罪 報 道)に つ い て,筆 者 が そ の 実 態 や 構 造 に つ い て 分 析 す る の で は な く,人 々 が 「問 題 」 だ と ク レ イ ム し た り,そ れ に対 して 対 抗 ク レ イ ム が 生 じ る 際 の 言 説 や レ ト リ ッ ク を研 究 対 象 とす る 。 レ トリ ッ ク と は,あ る 「状 態 」 の カ テ ゴ リー に つ い て ク レ イ ム す る場 合 に 使 用 さ れ る 言 語 的 資 源 で あ る(IbaraandKitsuse,1993)。 犯 罪 報 道 を 「問 題 」 あ る 「状 況 」 と し て カ テ ゴ リー 化 し,ク レ イ ム を 申 し立 て る に あ た っ て}ど の よ う な レ ト リ ッ ク が 使 用 さ れ る の か,そ の 複 数 の レ ト リ ッ ク の 関 係 や 対 抗 ク レ イ ム は どの よ う な もの で あ る の か を 分 析 す る こ とが 本 稿 の 課 題 で あ る。
社 会 問 題 の 構 築 過 程 は,そ れ 自体 時 間 の か か る過 程 で あ り,実 際,犯 罪 報 道 を 「問 題 」 で あ る とす る活 動 も進 行 中 で あ る 。 そ こで 本 稿 は ク レ イ ム 申 し 立 て 活 動 の 初 期 に お け る 言 説 の 応 酬 に焦 点 を 絞 る 。 また,構 築 主 義 ア ブm
チ を採 用 し つ つ,そ の 概 念 装 置 の 応 用 可 能 性 や 発 展 可 能 性 に つ い て の 議 論 に 進 む た め の 予 備 的 考 察 と し て本 稿 を 位 置 付 け た い 。 本 稿 は,犯 罪 報 道 へ の ク レ イ ム 申 し立 て 活 動 を 「社 会 問 題 」 の 構 築 過 程 と し て 研 究 す る第 一 歩 の 作 業 な の で あ る 。
本 稿 に お い て 考 察 の 対 象 とな る質 的 デ ー タ は,犯 罪 報 道 に対 す る諸 運 動, 特 に 「人 権 と報 道 ・連 絡 会 」 を 中 心 とす る市 民 団 体(ネ ッ トワ ー ク)や そ の 他 の 団 体(弁 護 士 会 や 新 聞 社 の 労 働 組 合 な ど)が 活 動 の 中 で 記 し た 記 録,新 聞 報 道 に お け る記 事,犯 罪 報 道 に 関 す る 刊 行 物 な どの 書 か れ た 資 料,活 動 に 関 わ る人 々 へ の イ ン タ ビ ュ ー,そ し て 参 与 観 察 に よ っ て 得 られ た 知 見 で あ る 。 筆 者 の 「人 権 と報 道 ・連 絡 会 」 へ の 参 与 観 察 は,全 くの 「中 立 的 立 場 」 で 行
っ た わ け で は な い 。 筆 者 は,こ の 会 の メ ン バ ー と し て 関 わ り な が ら 参 与 観 察 す る こ と と な っ た 。 こ こで,研 究 者 の 「中 立 性 」 の 議 論 が 起 こ り う るが,ど の 「立 場 」 で な け れ ば,あ る い は 全 くの 「中 立 」 で な け れ ば,研 究 は妥 当 で な い と い う議 論 は,即 座 に は 受 け 入 れ が た い 。 「調 査 者 自 身 が"社 会"と い う
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社 会 問 題 の舞 台 の登 場 人物 で あ る以 上,そ の選 択 が 実 践 的 お よび倫 理 的 問題 へ の 免 疫 を保 障 しな い こ とは 自明 で あ る」 とい う中 河(1995) ,「 研 究 の成 果 は基 本 的 に は,デ ー タ に対 す る細 か い,目 配 りや論 理 展 開 の 一 貫 性 ・切 れ味 の よ さな どの点 で 計 測 され るべ き」 とい う赤 川(1996)の 考 え方 に筆 者 は賛 同 す る。
本 稿 で は,「 人権 と報 道 ・連 絡 会 」を 中心 として,後 述 す る 「匿名 報 道 主 義 」 を主 張 す る人 々 を ク レ イム 申 し立 て の メ ンバ ー と考 え て い る。 この メ ンバ ー は必 ず し も 「人 権 と報 道 ・連 絡 会 」 会 員 を意 味 しな い。 「匿名 報 道 主 義 」 に共 鳴 す る人 々 をそ の メ ンバ ー と考 え る。 一一方,対 抗 ク レイ ム を 申 し立 て るメ ン バ ー は,「 匿 名 報 道 主 義 」に共 鳴 しな い人 々 で あ り,報 道 機 関 もその 一 員 で あ る。 また,本 稿 で論 じ る 「報 道 」 とは新 聞 を媒 体 と した もの で あ る。 そ れ は, そ もそ も ク レイ ム 申 し立 て者 が 新 聞 報 道 にお け る犯 罪 報 道 を ター ゲ ッ トと し て 活 動 を始 め た か らで あ る。
2.「 匿名 報 道 主 義 」 の 誕 生 及 び 問題 の定 義
「人 権 と報 道 ・連 絡 会 」が発 足 した の は,1985年7月 で あ る。 「人 権 と報 道 ・ 連 絡 会 」 で は,月 一 回 の 定例 会 に お い て犯 罪 報 道 を は じめ とす る様 々 な報 道 の 実 態,報 道 の 問題 点 の 討 議,被 報 道 者 に よ るマ ス コ ミ機 関 へ の異 議 申 し立 て の 援助 な ど を行 って い る。 メ ンバ ー に は,被 報 道 者,ジ ャー ナ リス ト,研 究 者,弁 護 士 な どが 含 まれ る。 さ らに,年 に一 度 の シ ン ポ ジ ウム や,メ ンバ ー に よ る出版 物 の 刊 行 な ど を通 じて,議 論 の 場 を拡 大 して い る。 この 会 に よ る犯 罪 報 道 に対 す る問 題 意 識 は,次 の 「入 権 と報 道 ・連 絡 会 案 内 」 にお い て表 され て い る。
「現 在 の 犯 罪 報 道 は,『 犯 罪 者 』 に見 せ しめ制 裁 を与 え,当 局 サ イ ドに偏 る 取 材 が 権 力 に よ る情 報 操 作 を招 い て い ます。 そ して,無 実 の市 民 に拭 い難
い人 権 侵 害 を与 え る誤 報 が 絶 え ませ ん。 誤 っ た報 道 は本 人 だ けで な く家 族, 社会問題 としての 「犯罪報道」の構築63
関係 者,さ らに は被 害 者 の プ ラ イバ シ ー を も踏 み に じ って い ます 。犯 罪報 道 を変 え て い くた め に は,ま ず報 道 に よ る人 権 侵 害 の事 実 に 目 を向 け るべ きで す 。(中 略)そ の作 業 の 中 心 はマ ス コ ミ関 係 者,と くに報 道 現 場 で 働 く
3)
ジ ャー ナ リス トと市 民 の協 力 に よ って 進 め られ るべ きだ と思 い ます」
この会 の 目的 が 「マ ス コ ミ報 道 に よ る人 権 侵 害 を 防 止 す るた め」(山 際, 1988)で あ る こ とか らわ か る よ うに,こ こで は,問 題 は 「マ ス コ ミ報 道 に よ
る人 権 侵 害 」 で あ る と定 義 され て い る。
会 の発 足 よ り1年 前,『 犯 罪 報 道 の 犯 罪 』(浅 野,1984)が 刊 行 され た。 同 書 は,犯 罪 報 道 に よ り精 神 的,物 理 的被 害 を受 け た被 報 道 者 の事 例 をあ げ,
そ の原 因が 逮 捕 段 階 で被 疑 者 を実 名 報 道 す る こ とにあ る と論 ず る。 そ の解 決 策 の一 つ と して著 者 の浅 野健 一 は 「匿名 報 道 主 義 」を提 唱 す る。 「匿名 報 道 主 義 」 の 主 張 はお お よ そ次 の よ うに ま とめ る こ とが で き る。 ① 現在 の犯 罪報 道 は被 疑 者 を(被 害 者 も)逮 捕 段 階 で 実名,住 所,職 業,年 齢 を明 らか に して 報 道 し(1989年 まで は被 疑 者 は呼 び捨 て〉,取 材 源 は ほ とん どが 警 察 な どの捜 査 当局 で あ り,被 疑 者 につ い て は一 方 的 な報 道 とな っ て い る。 この よ うな実 名 報 道 は被 疑 者 を 「犯 人 視 」 す る こ とに な り,そ の報 道 に よ って,被 疑 者 や そ の家 族 まで もが様 々 な人 権 侵 害 を うけ る。② この状 況 を解 決 す るに は,「無 罪 推 定 」 の 法 理 の も とに被 疑 者 ・被 告 人 ・囚人 につ い て,氏 名,年 齢,職 業, 住 所 な どに よ りその 人 が 本 人 で あ る と推 知 で き る よ うな記 事 や 写 真 を報 道 し
な い こ とで あ る(公 人 に よ る犯 罪 を除 く)。 ③ オ ンブズ マ ンや 報 道 評 議 会 な ど の 第 三 者 機 関 に よ って人 権 侵 害 の 防止,救 済 を はか るべ きで あ る(浅 野,ibid;
1985)o
この浅 野 の 「匿 名 報 道 主 義 」 の主 張 は,自 らが 世 話 人 の ひ と りで あ る 「人 権 と報 道 ・連 絡 会 」 の活 動 に も引 き継 が れ る。 「人 権 と報 道 ・連 絡 会 」 は 「マ ス コ ミ報 道 に よ る人 権 侵 害 」 とい う問題 の定 義 をひ ろ く設 定 しつ つ,犯 罪 報 道 に関 して は,問 題 とな る 「状 況 の カ テ ゴ リー 」 を い くつ か特 定 し,ク レ イ
ム活 動 を行 っ て い く。
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日本 に お い て,犯 罪 報道 に よ る人 権 侵 害 を 「問題 」 と して定 義 しsク レ イ ム を申 し立 て た人 々 は,浅 野 以 前 に もい た。 浅 野 に よれ ば,1950年,九 州 弁 護 士会 連 合 会,中 部 弁 護 士 会 連 合 会 が起 訴 前 の被 疑 者 ・関係 者 の氏 名 や 被 疑 事 実 を発 表 しな い よ う検 察 庁 及 び警 察 署 に要 求 す る決 議 を行 って い る。 また, 公 安 事 件 で被 疑 者 ・被 告人 とな っ た人 々 へ の 救i援活 動 す る運 動 団体 か らマ ス
コ ミ批 判 が 起 きて い る と,浅 野 は著 書 の 中 で述 べ る。1980年 に は,関 東 弁 護 士 会連 合 会 が 「報 道 と人 権 」 を テー マ に調 査 ・研 究 を行 い,「 不 当報 道 」 に よ
る 「人 権 侵 害 の 実 情 」 と防 止 策 につ い て,シ ンポ ジウ ム で報 告 した(関 東 弁 護 士会 連 合 会,1980)。
こ う した地 域 の弁 護 士 会 や 運 動 団体,ジ ャー ナ リス トの犯 罪 報 道 に関 す る 言 説 の 中 で は,犯 罪 報 道(特 に誤 報 な ど)は 「不 当 報 道 」 「人 権 侵 害 」 として 位 置 付 け られ て い る。 この よ う に,犯 罪 報 道 へ の ク レイ ム は各 分 野 に お い て 散 在 して いた が,浅 野 の 『犯 罪 報 道 の 犯 罪 』,そ して それ に続 く「人権 と報 道 ・ 連 絡 会 」 の結 成(東 京)と 活 動 は,そ の よ うな ク レイ ム を接 合 し,継 続,発
A)
展 させ る発 端 とな った 。
「匿名 報 道 主 義 」とい う言 葉 は,活 動 の性 格 を表 し,ク レイム 申 し立 て の 内 容 を集 約 す る シ ンボ リッ クな 言語 で あ る。 また,そ れ以 前 に散 在 して いた ク
レイ ム を統 合 す る役 割 を も果 た す の で あ る。
浅 野 は この 「匿名 報 道 主 義 」 を明 言 す る にあ た り,そ の 言 説 の資 源 を 日本 弁 護 士 連 合 会 の 主張,及 び,ス ウ ェ ー デ ンの報 道 倫 理 綱 領 及 び報 道 実 践 に 見 出 した。 た とえ ば,浅 野 が影 響 を受 け た とい う 日本 弁 護 士連 合 会 の 『人 権 と 報 道 』 は次 の よ うに犯 罪 報 道 に対 して 論 じる。
「… … い か に それ(注:犯 罪 事 件)が 読 者 の 関 心 をひ く もの で あ って も,世 間 の関 心 な い し好 奇 心 が そ の ま ま公 共 の利 害 につ なが る わ けで は決 して な い の で あ っ て,興 味 本 位 の 犯罪 関 連 事 実 の報 道 に は厳 に反 省 が 求 め られ る べ きで あ る,と 考 え る。(中 略)少 な くと も無 罪 の推 定 を受 けて い る は ず の 被 疑 者 ・被 告 人 に対 して は,原 則 と して,氏 名 を公 表 す る こ とな く報 道 す
社会問題としての 「犯罪報道」の構築65
べ きで あ る,と 考 え る」(日 本 弁 護 士 連 合 会,1976:105)
また,ス ウ ェー デ ンの報 道 倫 理 綱 領 に は次 の よ うな条 項 が あ る。
「一般 市 民 に とっ て明 白な社 会 的 関 心 が な い限 り,氏 名 の公 表 が人 権 侵 害 と な る よ うな報 道 をや め よ。 と りわ け この こ とは,被 疑 者 ・被 告人 ・囚人 に あ て は まる」(ス ウ ェー デ ン報 道 倫 理 綱 領,浅 野,1984:308に お け る引 用) 特 に 日本 弁 護 士 連 合 会 が,後 に 「匿 名 報 道 主 義 」 と呼 ぼれ る発 想 と同 じ考 え をす で に1976年 に刊 行 して い た こ と は,そ の後 の弁 護 士 に よ る 「人 権 と報 道 」 へ取 り組 み と活 動 に影 響 を与 えた と考 え られ る。 そ の他,報 道機 関,報 道 関 係 労働 組 合,研 究 者 な ど,様 々 な分 野 に 「匿名 報 道 主義 」 が 紹 介 され 議 論 の 対 象 とな っ て い く。
同時 期 に,「 報 道 被 害 」とい う言 葉 も流 布 され始 め る。 「報 道 被 害 」は,「 匿 名 報 道 主義 」 と同様,ク レ イ ム 申 し立 て活 動 の特 性 に関連 す る シ ンボ リッ ク
な語 で あ る。 も と も と 「報 道 に よ る人 権 侵 害 」 とい う語 句 が,弁 護 士,ジ ャ ー ナ リス トらに よ って使 用 され,そ れ に よ っ て問 題 とな る 「状 況 」 が 表 わ さ れ て い た。 しか し,X984‑55年 頃 よ り,浅 野 の著 作 や 「人 権 と報 道 ・連 絡 会 」 は 「報 道 被 害 」 とい う語 を使 用 し始 め る。 「人 権 侵 害 」 とい う語 で は意 味 され
る内容 が 漢 然 と して い るが,「 報 道被 害 」 とい う語 に よっ て 「被 害 」の 原 因 は
「報 道 」 で あ る こ とを特定 し,明 確 に表 す こ とが 可 能 とな る。 また,「 報 道 被 害 者 」は 自 らの体 験 を 「被 害 」 と して語 る機 会 を もつ よ う にな る。 「報 道 被 害 者 の立 場 」 「被 害 の実 態 」 「被 害状 況 」 とい う語 彙 に よ って,報 道 被 害 者 は 自
らの体 験 を ク レイ ム に変 え て い く。 「報道 被 害 」とい う語 は,報 道 に関 す る刊
5)
行 物 や 新 聞 に お い て も使 用 さ れ,定 着 し て い っ た 。
「匿名 報 道 主 義 」を推 し進 め よ う とす る活 動 の メ ンバ ー は,逮 捕 時 に被 疑 者 が 実 名 で報 道 され る報 道 実 践 を 「問 題 」 と見 な す。 なぜ な ら,そ の報 道 実 践 に よ って 「報 道 被 害 」が生 み 出 され る と認 識 す るか らで あ る。 こ こで,「 匿名 報 道 主 義 」 の 活 動 が 二 層 の 「社 会 問題 」 の構 築 に携 わ っ て い る こ とに留 意 し
66国 際 経 営 論 集No.111996
た い 。 まず,被 報 道 者 は,自 らが体 験 した 「状 況 」 を 「被 害 」 と して 同定 す る。 また,メ ンバ ー た ち は 「報 道 被 害 」 とい う 「状 況 」 の 実 態 調 査 ,イ ン タ ビュ ー を通 して,「 問 題 とな る状 況 」=「 被 害 」 を同定 す る。 次 に,メ ンバ ー た ち は 「報 道 被 害 」 を もた らす報 道 実践 を 「問 題 」 と して定 義 し,そ の 「問 題 」 の 「解 決 」 のた め に 「匿 名 報 道 主義 」 を主 張 す る。 この よ うな2段 階 を 経 て構 成 され て い るの が,こ の 「匿 名 報 道 主 義 」 の ク レ イム 申 し立 て の特 徴 で あ る。 そ の た め,「 匿 名報 道 主 義 」の ク レイ ム は,報 道 実 践 の 変 革 に関 す る レ トリ ック と被 害 の救 済 に関 す る レ ト リックか ら構 成 され て い る。
「匿 名 報 道 主 義 」の メ ンバ ー は被 報 道 者 が 語 る言 語 を 「報 道 被 害 」 とい うフ レー ム の 中 で再 構 成 し,そ の 救 済 と防 止 を呼 び か け る。 これ は,い わ ば 「匿 名 報 道 主 義 」 の メ ンバ ーが,被 報 道 者 の ロ ー カ ル な ク レイ ム(自 分 た ち の こ
とを報 道 しな い で ほ し い,報 道 の せ いで 社 会 の 中で 生 きて い か れ な くな った 等)を 「匿名 報 道 主 義 」 とい う ク レイ ム 申 し立 て を構 成 す る言 語(無 罪 推 定 の原 則 を報 道 にお い て徹 底 す る こ とに よ って,あ る程 度 の 被 害 を減 らす)に 言 い直 す作 業 で もあ る。
さ らに,問 題 として定 義 され る報 道 実 践 が,実 名 一 匿 名 とい う記述 の 仕 方 の み な らず,取 材 か ら紙 面 に至 る まで の報 道 プ ロセ ス及 び報 道 の理 念(「知 る 権 利 」 や報 道 の 「公 共 性 」 な ど)に 関 わ るた め,そ の 諸 要 素 ご とに論 争 が発 展 す る。 後 述 す る よ うに,対 抗 ク レイ ム との応 酬 の 中 で その ク レイ ムの 内容 は明確 化 す る。 た とえば,「 匿 名 報 道 主 義 」は,知 る権 利,名 誉 殿 損,プ ラ イ バ シー侵 害,無 罪 推 定 とい った法 の 言説 に入 り込 み,ま た,法 学 研 究 者 や 弁 護 士 の議 論 を言 説 の 資 源 と して取 り入 れ る。 同様 に,「 報 道 被 害 」救 済 の た め の制 度,プ レス ・オ ン ブ ズマ ンや 報 道 評 議 会 の 導入 につ い ての 主 張 も,報 道 に関連 す る制 度 の言 説 へ の参 入 につ なが る。 た だ し,本 稿 で は,主 に実 名 一 匿名 とい う被疑 者 の 扱 い を中心 に論 じる。
社 会 問題 と しての 「犯 罪 報 道 」 の構 築67
3.「 匿 名 報 道 主 義 」 対 「実 名 原 則 」
犯 罪 報 道 に お い て は実名 報 道 が慣 習 とな っ て い る。 それ は報 道 機 関 の報 道 基 準 として も明 文 化 され て い る。 こ こで は,実 名 報 道 を維 持 す る機 関 の公 式 見解(新 聞紙 面 上 で の 社 会 部 長 や 事 件 担 当者 の 見解)や 他 の刊 行 物 で の記 者
お
な どの 発 言 を 「実 名 原 則 」 派 と して カ テ ゴ リー 化 す る。
「匿名 報 道 主 義 」 の立 場 か らそ の慣 習 に対 して ク レイ ム が提 起 され た と き・
報 道 機 関 や報 道 に携 わ る記 者 た ち な ど,報 道 の慣 習 を維 持 す る側 は,な ぜ 実 名 報 道 が 原 則 な のか,そ の根 拠 を提 示 す る必 要 に迫 られ た 。そ れ は,「 匿名 報 道 」 を求 め る ク レイ ム に対 す る対 抗 クレイ ム と して 考 え て よいだ ろ う。 また,
「実 名 原 則 」 を維持 す る側 か らの対 抗 ク レイ ム が登 場 し,「 匿 名 報 道 」 批 判 を は じめ た こ と自体,「 匿 名 報 道 主義 」の存 在 を公 式 に認 め た こ とを表 す。 犯 罪 報 道 が 実 名報 道 を原 則 とす る こ とは,報 道 機 関 の報 道 基 準 にす で に うた わ れ て い る もの だが,1984年 以 降,実 名 報 道 の 原 則 に関 す る論拠 が 匿 名 報 道 との 比 較 か ら提 示 され だ した 。 す なわ ち,「 匿 名 報 道 主義 へ の疑 問 」,「反論 」とい う形 で の 言説 が あ らわ れ た り,報 道 機 関 の公 式 見解 と して実 名 原 則 の再 確 認 が な され た 。 この ク レイ ムー 対 抗 ク レイ ム の応 酬 は,一 見,「 匿名 報 道 」対 「実 名 報 道Jと い う報 道 テ クニ ッ クの議 論 の様 相 を呈 す る。 しか し,そ れ は犯 罪 報 道 の意 義 と理 念 をめ ぐる論 争 で あ る。r実 名 原 則 」派 は,単 に慣 習 の 維 持 を はか るた め だ けで は な く,「 匿 名 報 道 主義 」 か らの 問題 化 に対 して,「 脱 問 題 化 」 を はか る。
(1>「 実 名 原 則 」 派 に よ る 対 抗 ク レ イ ム
犯 罪 報 道 は,な ぜ 被 疑 者 を 実 名 で報 道 す る の か 。 「実 名 原 則 」派 の 主 張 の 基 本 は 三 つ あ る と い わ れ て い る 。 第 一 に,報 道 の 使 命 は正 確 な 事 実 を伝 え る こ とで あ り,「 だ れ か 」は そ の 出 発 点 で あ る。 第 二 に,犯 罪 の 背 景 を 描 き・ そ の
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社 会 性 を掘 り起 こ す の に 実 名 は 欠 か せ な い 。 第 三 にs警 察 は 「だ れ を ど の よ う な 容 疑 で 」 逮 捕 す る の か 社 会 に対 して 明 らか に す べ き で,そ の チ ェ ッ ク の た め に も実 名 報 道 は 欠 か せ な い(柴 田,浅 野,1987に お け る 引 用)。 これ ら を
よ り細 か く考 察 して み よ う。
「実 名 報 道 」派 に よ る 「匿 名 報 道 主 義 」へ の 対 抗 レ ト リ ッ ク に は,ク レ イ ム に よ っ て 提 起 さ れ た 問 題 とな る 「状 況 」 「報 道 被 害 」の 存 在 を 認 め るがaそ の 解 決 策 を 拒 絶 す る と い う消 極 的 対 抗 ク レ イ ム と,ク レ イ ム そ の もの を 拒 否
し批 判 す る と い う積 極 的 対 抗 ク レ イ ム を見 出 す こ とが で き る。 これ は イ バ ラ と キ ツ セ の 分 類 す る 「同 情 的 対 抗 レ ト リ ッ ク 」 と 「非 同 情 的 レ ト リ ッ ク 」 に 呼 応 す る もの で あ る(IbaraandKitsuse,1993)。
ま ず,「 実 名 原 則 」 派 は,総 じ て 「匿 名 報 道 主 義 」 の 主 張 を受 け 入 れ な い が,被 疑 者 や 被 害 者 とい っ た 被 報 道 者 の 人 権 が 侵 害 さ れ て い る と い う ク レ イ ム は 認 め る。 少 な く と も,犯 罪 報 道 に よ っ て 被 報 道 者 は 何 の 被 害 も被 ら な い ,
と い う対 抗 ク レ イ ム は見 い だ さ れ な い 。 しか し,「 匿 名 報 道 主 義 」が ク レ イ ム す る解 決 法 は 拒 絶 され る。
そ の よ う な ク レ イ ム へ の 対 抗 レ ト リ ッ ク と し て 現 れ る 一 つ が,「 人 権 と犯 罪 報 道 が 絶 え ず 対 立 す る の は 宿 命 で あ る」 とい う返 答 で あ る(山 崎,1985:
48)。 またa被 疑 者 と し て 報 道 さ れ た 人 の 家 族 が 「不 当 な 迫 害 を受 け る の は,
7)
社 会 が 遅 れ て い る か ら」 だ と い う反 応 を 示 す 場 合 もあ る 。 これ らの 反 応 は,
「ク レ イ ム に は 同 情 す る 。 しか し … … 」 とい う形 で 登 場 す る 「同 情 的 対 抗 レ ト リ ッ ク」 の 典 型 で あ り,ク レ イ ム に対 す る と ま ど い を表 す もの と考 え られ る 。 こ れ ら は,い わ ば,自 然 現 象 の よ う な 状 況 に ク レ イ ム を 申 し立 て られ て も困 る,あ る い は,ク レ イ ム され る 「状 況 」 の 存 在 は認 め る が 解 決 の ク レ イ ム の 申 し立 て 先 を 間 違 え て い る,と い う 消 極 的 な 対 抗 レ ト リ ッ ク で あ る 。
「匿 名 報 道 主 義 」 に 対 す る 「同 情 的 対 抗 レ ト リ ッ ク 」 あ る い は 消 極 的 対 抗 レ ト リ ッ ク と し て 提 起 さ れ る も う一 つ は,ク レ イ ム に 対 す る 「戦 術 批 判 」 の レ ト リ ッ ク で あ る 。 こ れ は,報 道 被 害 と い う 「状 況 」 を認 め る が,そ の 解 決 策
社 会 問題 として の 「犯 罪 報 道 」 の構 築69
と し て,被 疑 者 を 匿 名 で 報 道 す る とい う前 に 考 え る べ き こ とが あ る,と い う 対 抗 ク レ イ ム で あ る。 い くつ か の 例 か ら以 下 の よ う に整 理 で き る 。
(1)報 道 被 害 を生 み 出 す 原 因 と し て,報 道 の 行 き 過 ぎや 取 材 方 法 の エ ス カ レ ー トが 問 題 で あ る 。 見 出 し,内 容 な どの 面 で や るべ き こ とが 多 い,と い う取 材 者 の 練 度 に よ る 問 題 の 解 決 を 主 張 す る(柴 田,1984=1986:
sa
175;富 森,1984=1986=311)。
(2)被 疑 者 が 無 罪 と な っ た ら,続 報 に よ っ て 名 誉 回 復 を は か る(柴 田, 1984=1986:176)o
(3)た と え 仮 名 で あ っ て も人 権 侵 害 を起 こす 恐 れ が な い と は い え な い(水 9)
上y1984=186:311)。
(4)実 名 一 匿 名 の 線 引 き は 技 術 的 に も,論 理 的 に も難 し い 。 有 力 者 だ け を 実 名 に す る の は 矛 盾 で あ る(柴 田,1986=浅 野,1987=173に お け る 引 用)。
以 上 の(1)② は 「匿 名 報 道 」 とい う 方 法 を と ら な くて も,現 行 の 実 践 の 中 で 解 決 可 能 で あ る と い う対 抗 レ ト リ ッ ク で あ り,「 匿 名 報 道 」に よ る解 決 策 を 拒 否 す る 。(3>(4)は ど う に も手 の 打 ち よ う の な い 「宿 命 」 を表 現 す る こ とに よ る 対 抗 レ ト リ ッ ク で あ る 。
し か し,「 実 名 原 則 」派 に よ る 対 抗 ク レ イ ム は,単 に 報 道 被 害 の 解 決 策 と し て 拒 絶 と して の み 申 し立 て られ て い る の で は な い 。 「実 名 原 則 」 派 は 「実 名 」 が 原 則 で あ り,そ れ が 妥 当 で あ る とい う対 抗 ク レ イ ム を報 道 の 自 由,公 共 性
とい う報 道 の 理 念 と意 義 の 枠 組 か ら構 成 し,展 開 す る。 そ こ で,「 匿 名 報 道 主 義 」 派 との 間 の 論 争 は,犯 罪 報 道 の あ り方 を め ぐ る 言 説 の 応 酬 と い う様 相 を 呈 す る 。
「実 名 原則 」 派 に とっ て,い まだ現 実 で はな い 「匿名 報 道 主 義 」 の 実施 は,
「問 題 」 として定 義 され る。 単 な る解 決 をめ ぐる消 極 的 対 抗 レ トリ ック を越 え,「 実 名 原則 」 派 は,「 匿 名 報 道 主 義 」 こそ 「問 題 」 で あ る と して カ テ ゴ リ
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一化 し,そ の推 定 され る 「状 況 」に対 して対 抗 ク レ イム を 申 し立 て る。 「実名 原 則 」の妥 当性 を主張 す る際 に,「 匿 名 報 道 主 義 」が いか に妥 当 で な い か,積 極 的 に対 抗 ク レ イム を 申 し立 て る とい う形 式 を とるの で あ る。 「実 名 原則 」派 は新 た な 「問 題 」 を構 築 し始 め る。
「匿名 報 道 主 義 」に対 す る 「実 名 原 則 」派 か らの対 抗 ク レイ ムの 中 で推 論 さ れ る 「問 題 」 は次 の よ う に整 理 で き る。
(1)匿 名 報 道 で は 事 実 の 正 確 な報 道 が で き な い 「事 件 の もつ 意 味 は, 記 事 の 基 本 要 素 で あ る5WlHに よ っ て 伝 え ら れ る の で あ り,『WHO
(だ れ が)』 を 欠 け ぼ,必 然 的 に意 味 が 失 わ れ … … 人 間 と社 会 の 記 録 と し て 不 十 分 な も の に な る」(清 水,1984=1986:203),「 報 道 の 基 本 は や は り実 名 で す 。 事 実 を正 確 に 報 道 す る こ とが 新 聞 の 使 命 で あ り,機 能 だ か らで す 。 匿 名 報 道 で は 事 実 関 係 が あ い ま い に な っ て し ま っ て,真 実 の 核 心 に迫 る こ と は で き ませ ん 」(柴 田,1984=1986:173)。
② 匿 名 報 道 で は 一 般 読 者 か ら の 信 頼 を得 られ ず,知 る 権 利 に 応 え ら れ な い 「犯 罪 報 道 は 匿 名 で や れ とい う こ と を厳 密 に 適 用 し て い け ば,被 疑 者 の 名 前,写 真,生 い 立 ち,こ れ ら は す べ て 書 け な くな る こ とに な る
… … 被 害 者 の 名 前 もふ れ られ な くな る … … 匿 名 報 道 を や っ た 場 合
,こ の 事 件 が ど う い う 事 件 で あ る か は,ま ず 一 般 の 読 者 は わ か ら な い と思 う
… … 国 民 の 知 る権 利
}国 民 の ニ ー ズ に 応 え,よ り人 間 ら し さ を 出 し た い と思 う と き に,犯 罪 報 道 に 実 名 原 則 は 欠 か せ ず,貫 い て い か な くて は な ら な い 」(山 崎,1985:46)。
(3)匿 名 報 道 で は 権 力 の 行 使 を監 視(権 力 チ ェ ッ ク)で き な い 「匿 名 報 道 が 捜 査 当 局 の 密 室 性 を 助 長 し か ね な い … … 捜 査 当 局 が"匿 名 の 必 要 性"を 理 由 に 情 報 を操 作 し て くる だ ろ う」(井 上,1984=1986:222),「 人 を逮 捕 す る と い う の は 大 変 な 人 権 問 題 だ か ら,警 察 は だ れ を どの よ う な 容 疑 で 逮 捕 した の か を 社 会 に 対 し て 明 らか に す べ き で あ り,そ れ を チ ェ
社会問題 としての 「犯罪報道」の構築71
ッ ク す る 意 味 で も(実 名 が)原 則 」(朝 日新 聞1986年3月27日 朝 刊 に お け る柴 田 氏 の 発 言)。
(4)匿 名 報 道 は 「犯 人 探 し」 を生 む 「匿 名 の 犯 罪 報 道 は 地 域 で の 犯 人 探 し の 現 象 を生 む 」(井 上,1984=1986:222)。
㈲ 匿 名 報 道 に な る と取 材 ・記 事 が 甘 くな る 「匿 名 報 道 に な る と,取 材 の 詰 め も甘 く な り,記 事 ま で 書 き と ば し が ち に な る 」(柴 田,浅 野 1987:161に お け る 引 用),「 被 疑 者 の 人 権 が 守 られ る か ら逆 に無 責 任 な
こ と を 書 くケ ー ス が で て く る の で は な い だ ろ うか 」(山 崎,1985:48)。
さ らに,「 実 名 原 則 」 の 必 要 性 ・妥 当性 はs犯 罪 報 道 の 役割 に関 連 して論 じ られ る。
(6)実 名 報 道=社 会 的 制 裁 「報 道 の 役 割 の なか で,社 会 に対 す る チ ェ ック機 能 は最 も重 要 な部 分 で す 。 社 会 の なか の 不 正,腐 敗,犯 罪 な ど を 摘 出 し,糾 弾 す る報 道 は,結 果 と して の社 会 的 制 裁 と切 っ て も切 れ な い 関 係 に あ ります」(柴 田,浅 野1987:172に お け る引 用)。
(7)実 名 報 道=犯 罪 抑 止 「実 名 主 義 は報 道 内容 をあ い まい に しな い厳 し さ を取 材 者 に求 め る もの で あ ろ う し,社 会 が 犯 罪 の抑 止 力 をそ こ に求 め て い るか にみ え る」(高 羽,1989)。
以 上 は,「 実 名 原 則 」 派 の代 表 的 な対 抗 ク レイ ム で あ る。 「実名 原 則 」 派 に とって 「匿 名 報 道 主義 」 を 「問 題 」 で あ る と推 論 す る根 拠 は,① 犯 罪 報 道 が 事 実 の正 確 な記述 で な くて は な らな い こ と(「 誰 が 」は事 実 の構 成 要 素),② 犯 罪 は社 会 を反 映 す る もの で あ る か ら,犯 罪 報 道 に は 「公 共 性 」 が あ り(そ
れ故 に実名 も含 め事件 は知 る権 利 の一 部),対 社 会 的 に は,社 会 に警鐘 を な ら す役 割 が犯 罪 報 道 に は あ る,③ 捜 査 当局(権 力)へ の監 視 の た め に も 「実 名 」 が 必 要 とな る,と い う3点 に要約 され るだ ろ う。
こ こで,こ の 対 抗 レ トリッ クが依 拠 す る資源 や 文 脈 に注 目す る必 要 が あ る。
72国 際経営論集No.111996
先 の 消極 的 対 抗 レ トリッ クが 「報 道 被 害 」 を問題 とな る状 況 の カ テ ゴ リー と して語 られ るの に対 し,こ の 「実 名 原 則 」 派 に よ る 「匿 名報 道 主 義 」 へ の積 極 的 な対 抗 レ トリック は,「 匿 名 で報 道 され る犯 罪 報 道 」が対 象 とな る状 況 の カ テ ゴ リー で あ る。前者 が,「 報 道 被 害 」 の解 決 を枠 組 と した文 脈 の 中 で 語 ら れ る の に対 し(解 決 策 に は応 ず る こ とが で きな い に して も),後 者 は,犯 罪 報 道 の対 社 会 的,対 捜 査 当局 的 な役 割 に関 連 して語 られ て い る。 後 者 の対 抗 レ
トリッ クの 枠組 は,報 道 の使 命 と権 利 で あ り,「事 実 を正 確 に報 道 し,読 者 の 知 る権 利 に応 え,権 力 を監 視 す る」 とい うジ ャ ー ナ リズ ム の 特性 に関 す る文 脈 の も とで 「実名 報 道 」 を維 持 す るた め の 語 彙 が 用 意 され る。 言論 の 自 由, 報 道 の 自由 とい う近 代 社 会 に お い て与 え られ る権 利 に関 す る語 彙 が 言説 を構 成 す る。 た だ し,こ こで は報 道 被 害,す な わ ち報 道 が人 権 侵 害 を 引 き起 こす
こ と と,そ れへ の解 決 策 に関連 す る語 彙 が み られ な い。
対 抗 ク レ イ ムが 依 拠 す る も う一 つ の 資 源 は,「 実 名 原 則!が 慣 習 で あ る こ とで あ る。 事 実 の 正 確 な報 道 はな ぜ被 疑 者 の 名 前(「 誰 か 」)を 要 求 す る の か 。 そ れ は 「事 件 報 道 の長 い歴 史 と伝 統 か ら実 名 主 義 を基 本 とし,裁 判 の 審 理 を待 た ず 捜 査 当 局 の動 き を動 き と して一 刻 も早 く速 報 して い る」(高 羽, 1989)か らな の で あ る。 少 年 事 件 や 精 神 障 害 者 の事 件 につ い て の み匿 名 で報 道 され るが,そ れ は 「例 外 」 と して扱 わ れ る。
対 抗 ク レ イ ム は,時 に法 執 行 の 結 果 の 妥 当性 を背 景 と して 申 し立 て られ る。
「被逮 捕 者 の起 訴 率 ・有 罪 率 の 高 さ」 は,逮 捕 段 階 で の報 道 を合 理 化 す る根 拠
1U)
と し て,「 実 名 原 則 」派 に よ っ て 運 用 さ れ る。 さ ら に,犯 罪 に 関 す る 感 情(犯 罪 を 憎 む 国 民 感 情)も,逮 捕 段 階 で の 実 名 報 道 を支 え る 根 拠 と し て 運 用 さ れ る 。 この こ とは,と りわ け,1989年 の 「呼 び 捨 て 」 廃 止 宣 言 ま で 顕 著 で あ る。
一 方,被 疑 者 の 氏 名 を 「実 名 ・呼 び 捨 て 」 で 報 道 す る こ と は,「 逮 捕=犯 人 」 で あ る イ メ ー ジ を 読 者 に 与 え る と して,「 匿 名 報 道 主 義 」 派 に よ っ て 「問 題 」 と し て カ テ ゴ リー 化 され る。 「実 名 原 則 」 派 も被 疑 者 の 「実 名 ・呼 び 捨 て 」 が 読 者 に 対 し て 「犯 人 」 で あ る こ と を感 受 化 さ せ る 語 彙 で あ る こ と を 認 め るが,
祉会問題 としての 「犯罪報道」の構築73
そ れ を 「問題 」として カ テ ゴ リー 化 しな い。 そ の理 由 を表 す 言説 の 資 源 が 「起 訴 率 ・有 罪 率 の高 さ」 や 「国民 感 情 」 なの で あ る。
しか しなが らs多 岐 にわ た る 「実 名 原則 」 派 の ク レイ ム の うち,1989年11 月一12月 の新 聞社 に よ る 「呼 び捨 て」 廃 止 宣 言(被 疑 者 の呼 び捨 て廃 止 し,
「容 疑 者 」 も し くは肩書 き を実名 に付 加 す る)を 経 て,「 犯 罪 報 道 が 社 会 的 制 裁 の役 割 や 犯 罪 防 止 の役 割 を もつ」 とい う対 抗 ク レイ ム は,姿 が 見 え な くな る。 新 聞 各 社 に よっ て表 現 は や や異 な る もの の,「 呼 び捨 て」 廃 止 の主 な理 由 は,「被 疑 者 の法 律 的 立 場 」を明 確 にす る こ とで あ り,起 訴 後 に は氏 名 に 「被 告 人 」 を付 け るの に対 し,逮 捕 時 の み呼 び捨 て だ った矛 盾 を解 決 す るた めで あ る。 しか し同 時 に 「入権 へ の 配 慮 」,「 人 権 意 識 の 高 ま り」 とい った語 彙 も 理 由 の一 部 に使 用 され る。 「呼 び捨 て」 廃 止 宣言 は対 抗 レ トリ ック に一 定 の 影 響 を与 えた よ うだ。 「人権 へ の 配 慮 」は 「実 名原 則 」派 に よ る 「社 会 的制 裁 」 の 語 の使 用 を限 定 した か にみ え る。
1990年 初 め以 降,顕 著 に表 明 され る対 抗 ク レイ ム は,実 名 報 道 に よ って警 察 の権 力 行 使 を監 視 す る とい う観 点 か らの もの で あ る。 これ は,匿 名 報 道 が 拡 大 す る こ とに よ り警 察 発 表 す ら も匿 名 で の発 表 にな るr状 況 」 へ の 危惧 を あ らわ す 。 その 危 惧 は,次 第 に彼 らに とって現 実 の も と して 認uさ れ,そ れ
11)
故 に 「匿 名 報 道 」 へ の対 抗 ク レイ ム を再 度 申 し立 て る。
② 「匿 名報 道 主 義」 と 「実 名 原 則 」 の 両 者 が 依 拠 す る 「報 道 の使 命 」
「知 る権 利 」,報 道 の 「公 共 性 」 は,「 実 名 原 則 」 派 ・「匿 名 報 道 主義 」 派 の 両 者 に よ って 同様 に使 用 され る,報 道 の使 命 に関 す る語 彙 で あ る。 これ らの 語 彙 は,報 道 に関 して 何 等 か の ク レイ ム を 申 し立 て の 言説 に説 得 力 を もた せ る。 しか し,両 者 に よっ て使 用 され方 が異 な る。 匿名 報道 主義 派 に とって, 一般 私人 の 犯 罪 事 件 の場 合 にそ の人 の ア イ デ ン テ ィテ ィは 「公 共 性 」 が な く,
「知 る権 利 」の対 象 とは な らない(浅 野,1984;山 口,1986)。 一 方,「 実 名 原 則 」派 に とっ て,「 知 る権 利 」の対 象 とす る犯 罪 事 件 の 範 囲 は広 く,私 人,公
74国 際 経 営 論 集No.111996
人 とい う区別 は 明確 で はな い。 「実 名 原 則 」 派 ・「匿 名 報 道 主 義 」 派 の そ れ ぞ れ の 言 説 の 間 で概 念 の適 用範 囲 が異 な る。 しか し,権 利 と使 命 に関 す る レ ト
リッ ク と して は,両 者 と も同様 の言 語 資源 に依 拠 して い るの で あ る。
4.「 匿 名 報 道 主 義 」 の ク レ イ ム の 明 確 化 と 「実 名 原 則 」
「匿名 報 道 主 義 」派 か らの ク レイ ム と 「実 名 原則 」派 か らの 対 抗 ク レイ ム の 応 酬 は,報 道 関 係 者,弁 護 士,法 学 者 を含 め,議 論 の場 を拡 大 させ た。「人 権 と報 道 」 とい う大 きな テ ー マ の 中 で,細 分 化 し,焦 点 を明 確 にす る議 論 も進 行 した 。
「匿 名 一 実 名 の線 引 きが難iしい」 とい っ た 「実 名 原 則 」派 か らの批 判 に対 応 す るた め,「 人 権 と報 道 ・連 絡 会 」 は顕名 基準 研 究 会 を設 け,「 市 民 の た め の 新 聞 作 りに向 けて 匿名 報 道 主 義 に お け る顕 名 基 準 試 論 」 を発 表 す る(山
口,1986)。 「顕 名 基 準 」とは,「 実 名 報 道 」を原 則 と し,少 年 や精 神 障 害 者 な どを 「例 外 的 に匿 名 」で 報 道 す る とい う現 行 の基 準 とは対 立 的 に,「 匿 名 を原 則 」 と し,公 人 や権 力 の絡 む犯 罪 に限 り 「顕 名 」 に す る,と い う 「匿 名 報 道 主 義 」 の も とで の基 準 で あ る。 「顕 名 」 とい う語 自体,「 実 名 」原 則 へ の対 抗 姿 勢 を表 す 語 で あ り,「 市 民 の た め の新 聞 」 とい うタ イ トル に代 表 され る よ
う に,こ の 試論 は あ る種 の秩 序 化 へ の試 み を具 体 的 戦術 と して表 す。
そ の後,同 会 は 「検 証 ・被 疑 者 顔 写真 ・連 行 写 真 」(報 道 基 準 研 究 会,1988) に お い て,実 名 原 則 に加 え,被 疑 者 顔 写 真 や 連 行 写 真 の 掲 載 を もク レイ ム の 対 象 とす る こ とを明 確 に す る。被 疑 者 は逮 捕 時 の実 名(住 所,職 業,年 齢 も 含 む)報 道 の み な らず,顔 写 真 や連 行 写真 に よ っ て も,「 犯人 視 」され て い る こ とを問題 と して カ テ ゴ リー化 し,顔 写真 ・連 行 写 真 の掲 載 に は法 的根 拠 が な く,被 疑 者 の プ ラ イバ シー や 肖像 権 な ど人格 権 を侵 害 す る もの で あ る,と ク レイ ム す る。
さ らに,同 会 は,「ニ ュー ス価 値 判 断基 準 の検 証 市 民 の た め の新 聞 作 り 社会問題としての 「犯罪報道」の構築75
III」にお いて,現 行 の犯 罪 報 道 の ニ ュー ス価 値 基 準 の脱 パ タ ン化 をは か り,
「市 民 的 転 換 」 を呼 び か け る(山 口,1990年)。 す な わ ち,従 来 の 「犯 罪 報 道 」 を 「警 察報 道 」として批 判 し,「 警 察 の捜 査 の あ り方 を問 い,違 法 捜 査 や人 権 侵 害 をニ ュー ス価 値 として と ら え直 す」 作 業 と 「差 別 の 告発 や 少 数 者 の視 点 か らの問 題 提 起 」 を重 視 す る。 そ して 「市 民 的 立場 に立 った 」 ニ ュー ス価 値 判 断基 準 を提 起 す るの で あ る。
こ う した 「匿名 報 道 主義 」 に よ る 「基 準 」 作 りを ケ ー ス ・ス タ デ ィ を通 し て行 う こ とに よ り,「 匿 名 報 道 主 義 」派 は それ が 単 な る理 念 で はな く実 行 可 能 な報 道 実 践 で あ る こ とを主 張 す る。 そ の際,「 市 民 的 立 場 」 「市 民 的転 換 」 と い う 「市 民 」に関 す る語 彙 は,「 実 名 原 則 」の慣 習 を脱 パ タ ン化 し,新 た な秩
ユ
序 化 へ の 感 受 性 を 引 きお こ す 言 語 的 な 道 具 立 て とな っ て い る 。 「実 名 原 則 」派 か ら の 対 抗 ク レ イ ム に 「対 抗 」 す る過 程 で 「匿 名 報 道 主 義 」 派 に よ る ク レ イ ム は 具 体 化,明 確 化 す る。 自 らの ク レ イ ム を説 得 的 に 申 し立 て る手 だ て と し て,ケ ー ス ・ス タ デ ィが 行 わ れ,ク レ イ ム は 「市 民 」 に 関 す る語 彙 に よ っ て 語 ら れ る 。
こ の よ うな 「匿 名 報 道 主 義 」 の ク レ イ ム 申 し立 て の 戦 術 は,時 に 「科 学 的 ス タ イ ル 」(IbaraandKitsuse,1993)を 帯 び る こ とが あ る。 ケ ー ス ・ス タ デ ィ も そ の 一 つ と し て 考 え られ る。 ま た,統 計 を説 得 性 の あ る 言 説 の 資 源 とす る場 合 も あ る 。 「実 名 原 則 派 」 は 逮 捕 時 の 被 疑 者 報 道 を 妥 当 化 す る根 拠 と し て 「起 訴 率 ・有 罪 率 の 高 さ」 を あ げ る の だ が,浅 野(1984)は,1982年 に お け る 起 訴 率 は 全 事 件 でii%で あ る もの の,「 業 過 を除 く刑 法 犯 」の 起 訴 率 は 57.2%に す ぎ ず,殺 人 事 件(未 遂 を含 む 〉 で は起 訴 率 は42.9%に す ぎ な い,
とい う。そ こで 浅 野 は,「 一 般 犯 罪 で は被 疑 者 の10人 の う ち4人 以 上 が 起 訴 さ れ な い 」 と結 論 す る 。 「一 般 犯 罪 で は 被 疑 者 の10人 の う ち4人 以 上 が 起 訴 さ れ な い 」 とい う数 字 を,多 い とみ る か,少 な い とみ るか,解 釈 は様 々 だ ろ う が,少 な く と も,「 匿 名 報 道 主 義 」 派 に と っ て は 起 訴 率 は 「少 な い 」 の で あ り,「 起 訴 率 ・有 罪 率 」 を 理 由 に 「逮 捕 時 点 で マ ス コ ミが 実 名 を 出 して 犯 人 扱
76国 際経営論集No111996
い し て し ま う不 当 性 に,だ れ も反 論 で き な い は ず で あ る」 と 主 張 す る (ibid}o
同 様 に,「 警 察 に よ る匿名 発 表 が 増 えた 」 とい う 「実 名 原則 」派 の対 抗 ク レ イム に対 して も,「 人 権 と報 道 ・連 絡 会 」 は傘 下 の 記 者 た ち に対 す る調 査 を行
I3)
い,そ の 対 抗 ク レ イ ム が 「あ ま り根 拠 が な い 」 と,結 論 す る 。
社 会 問 題 の 構 築 に あ っ て,メ ンバ ー は あ る 「状 況 の カ テ ゴ リー 」 に つ い て,
「実 際 は どの よ うで あ る か 」 の 判 断 の 正 当 性 を 争 う。 そ の 際,メ ンバ ー は,相 手 の ク レ イ ム を 自 ら の 視 点 か ら見 る 「状 況 」 の 文 脈 に お い て 検 討 す る作 業 に
ノ
と りか か る。 ク レ イ ム の 「正 し さ」 や 「誤 り」 を 主 張 す る と き,メ ンバ ー は, あ た か も コ ン テ ク ス ト派 構 築 主 義 視 点 で の 社 会 学 研 究 と同 様 の 作 業 を行 っ て い る。
5.お わ り に
1984年 以 降1990年 前 後 まで の,「 人 権 と報 道 ・連 絡 会 」 を は じめ とす る 「匿 名 報 道 主義 」 の 主 張 と,「 実名 原 則 」 を維持 す る側 の主 張 は,も っ ぱ ら,「 実 名 」対 「匿 名 」 の表 現 上 の 議論 に加 え,犯 罪 報 道 の あ り方 を め ぐる言 説 の応 酬 で あ った。 「匿 名 報 道 主 義 」派 は 「報 道 被 害 」 とい う語 を生 み だ す こ とに よ
っ て ク レ イムの 特 性 を明 確 に しつ つ,さ らに 「報 道 被 害 」 を生 み 出 す 報 道 実 践=「 実 名 」 の 原 則 を 「問 題 」 と して定 義 し,構 築 す る活 動 を進 め て い った 。 そ れ へ の対 抗 クレ イ ム は,「 報 道 被 害 」 よ り もむ しろ 「匿 名 報 道 」 とい う 「状 況 」 の カテ ゴ リー に対 す る危 惧 か ら言 説 を構 成 す る方 向 に む か っ た。 ク レイ ム ー対 抗 ク レイ ム は,双 方 に対 し,明 確 化,具 体 化 を促 し,「 匿 名 報 道 主 義 」 は さ らな る 「問 題 」 の構 築 に む けて ク レイ ム活 動 を発 展 させ よ う と して い る。
以 下 は,ク レイ ム の概 要 を捉 えた にす ぎ な い観 の あ る本 稿 を,さ らに構 築 主 義 ア ブmチ か らの 「匿 名 報 道 主 義 」 の研 究 と して深 め る 上で今 後 考察 す べ
き課 題 で あ る。
社会問題としての 「犯罪報道」の構築77
前 述 の よ うに,「 匿 名 報 道 主義 」 を掲 げ る ク レイ ム 申 し立 て や それ へ の対 抗 ク レ イ ム は,今 も進 行 中 で あ る。 ク レイ ム 申 し立 て の 拡 大 化 や その 内容 の 具 体 化 に つ い て は,今 後 も考 察 す る必 要 が あ る。 た とえ ば,「 匿名 報 道 主義 」 派 は,ク レイ ム の 具体 化,明 確 化 の作 業 と同時 に,知 る権 利,名 誉 鍛 損,接 見 交 通,当 番 弁護 士 制 度,報 道 被 害 者 救 済 制 度 な ど,取 材 か ら報 道 に至 るす
べ ての 過 程 に関 わ る諸 問題 につ い て,弁 護 士 や 法 学 者 との 問 に フ ォー ラム を 形 成 し,法 制 度 の デ ィス コー ス に入 り込 む。 法 律 家 との フ ォー ラ ム は ク レイ ム の具 体 化 に とって の 資源 を提 供 し,ま た,ク レイ ム 申 し立 て活 動 の拡 大 に っ なが った 。 その過 程 に つ い て の分 析 は,次 の機 会 に行 い た い。
「匿 名 報 道 主 義 」 が 報 道 関 係 者 を一 部 含 み な が ら も市 民 べ 一 ス で ボ ラ ン タ リス テ ィ ッ クに加 わ る メ ンバ ー に よ って 展 開 され る活 動 で あ るの に対 し,本 稿 で と りあ げ た 「実 名 原 則 」 派 は,新 聞 社 の警 察 担 当の 記 者 で あ っ た り,新 聞 紙 面 上 に あ らわ れ る新 聞 社 の公 的 見 解 で あ る。 メ ンバ ー シ ップ の特 性 が 言 説 と関連 して い るの で は な い だ ろ うか。 新 聞紙 面 上 にお い て提 起 され る見 解 は,「 慣 習 」=「 実 名 報 道 」 を維 持 す る内容 とな って語 られ るの も,当 然 なの か も しれ な い。 逆 に い えば,r実 名 原 則 」派 は あ えて発 言 の場 を求 め よ う とせ ず と も,す で に新 聞 とい うア リー ナ の指 定 券 を獲 得 して いた 。 また 「実 名 原 則 」 派 自体 が ア リー ナ で あ った とも考 え られ る。 従 って,新 聞 とは異 な るア リー ナ にお い て は,「 匿 名 報 道 主義 」の言 説 が 目立 つ。 とはい え,ク レイ ム が 登場 す る媒 体 の相 違 を越 えて,双 方 の ク レイ ム は影 響 を及 ぼ し合 った。 新 聞 紙 上 にた まに登 場 す る人 権 と報 道 に関連 す る記 事 の存 在 は,そ の 結果 と考 え
て も よい だ ろ う。
しか し,そ う した両 者 間 の相 互 作 用 は,紙 面 や 刊行 物 に限 らな い。 具 体 的 な メデ ィア に対 す る苦 情 申 し立 てや,メ デ ィア に対 す る訴 訟 とい う場 面 で の 相 互 作 用 も重 要 な要 素 で あ る。 この 場 合 に は,被 報 道 者 が ク レイ ム 申 し立 て に積 極 的 にか か わ る こ とに な るが,法 廷 や苦 情 処 理 とい う手 続 き は,ク レイ ム を どの よ うに変 化 させ るの だ ろ うか 。
78国 際経営論集No.ll1996
本 稿 は,「 人 権 と報 道 」 を め ぐる社 会 問 題 の構 築 過 程 に関 す る考 察 と して は,予 備 的 な もの で あ り,構 築 主義 に よ る分 析 の た め の概 念 装 置 に つ い て 深 い議 論 が で きて いな い。 社 会 問 題 として の 「匿 名 報 道 主義 」 の ク レイ ム 申 し 立 て 活 動,及 び,そ れ へ の対 抗 ク レイ ム の考 察 と合 わせ て,今 後 の 課題 と し
た い 。
注
1)構 築 主 義 の 分 裂 に関 す る議 論 は,中 河(1991,1993)が 詳 細 に 紹 介 して い る。
2)構 築 主 義 ア プ ロー チ につ いて は,ま だ議 論 に終 結 が つ い た わ けで は な く,筆 者 自身,厳 格 派 が他 の 方法 よ り有効 なの だ,と 言 い切 れ て い るわ けで は な い。
社 会 問題 を定 義 す る ク レイ マ ン トの活 動 や 言説 を追 う中 で,研 究 者 の 分 析 に は
「存 在 論 的 な ご まか し」(WoolgerandPawluch,1985)と 呼 ばれ る,研 究 者 自 身 に よ る 「問 題 」設 定 が あ る こ とは否 め な い。 しか し,と にか く経験 的 研 究 の 積 み 重 ね の 中 か ら,建 設 的 な議 論 を行 い た い と筆 者 は考 え る。
3)こ の 「案 内 」は 『資 料 集 人 権 と犯 罪 報 道 』(1986)83頁 に掲 載 され,そ の 後,会 主 催 の シ ンポ ジ ウム の チ ラ シ に も刷 られ て い る。
4)そ の後,仙 台(1985),関 西(1986)y東 海(1986)に も,報 道 問 題 を考 え る 会 が結 成 され,そ れ らの会 は互 い にニ ュー ズ レ ター 交 換 や情 報 の 交 換 をは か っ て い る。
5)も ち ろん,す べ て の 「報 道 に よ る人 権 侵 害 」が 「報 道 被 害 」 と言 い換 え られ た の で は な く,「 報 道 被 害 」 とい う語 が 「人 権 侵 害 」 「報 道 に よ る影 響 」 に加 わ った の で あ る。 東 京 新 聞(1989年10月28日 朝 刊)で は 「"報道被 害 者"の 問 う も の 」とい う見 出 しの 記 事 が 掲 載 され た。1991年 には 『報 道 被 害11人 の 告発 』 (創 出版 〉が 刊 行 されi犯 罪 報 道 に限 らず,週 刊 誌,新 聞,写 真 週 刊 誌 等 で プ ラ イバ シ ー 侵 害 を被 っ た 「報 道 被 害 者 」 た ち が 「被 害 」 を 訴 え た 。 「報 道 被 害 」 は 犯 罪 報 道 を越 え,あ らゆ る分 野 の報 道 にお い て も使 用 され る に至 っ た。
6)「 匿 名 報 道 主義 」の主 張 に対 し,そ れ に反対 す る立 場,あ るい は 「匿 名 報 道 主 義 」が批 判 の対 象 と して い る報 道 実 践 を擁 護 す る立 場 か ら,「 匿 名 報 道 」へ の対
社 会 問題 と しての 「犯 罪 報 道 」 の構 築79
抗 ク レイ ム が 出 され て い る。「匿 名 報 道 」へ の 対 抗 ク レイ ム は,1984年,浅 野 の
『犯 罪 報 道 の 犯 罪 』 刊 行 時 か ら,報 道 機 関 内部 で 起 き て い る と・浅 野 は 言 う (1985)。 記 者個 人 の 発 言 や,記 録 され て い な い発 言,「 社外 秘 」とな っ て い る発 言 は,社 会 問 題 の構 築 の過 程 に とっ て無 視 で きな い要 素 で あ る。 しか し,こ こ で は,い わ ば公 的 な ア リー ナ(HilgartnerandBosk,1988)に 登 場 し,だ れ で もが 入 手 可 能 な形 で残 っ てい る ク レ イ ム を取 り上 げ る。個 人 的 な会 話 や,記 録 され な い発 言 で あ って も,そ れ が ク レイ ム と して何 らか の形 で生 き延 び な け れ ば,そ の視 覚 か らの 「問題 」の構 築 また は脱 構 築 は成 功 しない 。 そ こで,こ
こで は,誰 もが 入 手 可 能 な,公 的 な ア リー ナ,す な わ ち刊 行 され た資 料 を 中心 に,ク レ イ ム,対 抗 ク レイ ム の 応酬 を 「匿 名 報 道 主 義 」 派対 「実 名 報 道 」派 の 言 説 か ら考 察 して い る。
7)朝 日新 聞 労 働 組 合 本 部 新 聞研 究委 員 会 編 『新 研 か わ ら版 』101号 にお け る植 竹 伸 太 郎 氏 の記 事 にお いて 書 か れ た もの 。 しか し,同 記 事 にお い て植 竹 氏 自身 は 被 報 道 者 本 人 及 び 家 族 に対 す る ド制 裁 を加 え る権 利 が,我 々 新 聞 記 者 に は あ る
の か 」 と問 いか け た。
8)『 朝 日ジ ャ ー ナル 』(1984年12月7日 号)誌 上 の 討 論 会(青 木 彰,浅 野 健 「 柴 田鉄 治)「"被 疑 者=匿 名"の 原 則 は是 か非 か 」にお け る柴 田鉄 治 朝 日新 聞 東 京 本 社 社 会 部 長(当 時)の 発 言,『 資 料 集 人 権 と犯 罪 報 道 』(1986)所 収, 172頁 。 及 び,富 森 叡 児(朝 日新 聞 東 京本 社 編 集 局 長 く当時 〉),「実名 犯 罪 報 道 の是 非 を問 う 一 千 文 字 ア ン ケ ー ト」 『創 』(1984年11月 号),同 『資 料 集 人 権 と犯 罪報 道 』 所 収,311頁 。
9>水 上健 也(読 売 新 聞編 集 局長 〈当時 〉),「実名 犯 罪 報 道 の 是 非 を問 う 一 千 文 字 ア ン ケー ト」 『創 』(1984年11月 号),「 資 料 集 一人 権 と犯 罪 報 道 』(1986) 所 収,311頁 。
10)逮 捕 時 点 で の報 道 を妥 当化 す る根 拠 と して 「被 逮 捕 者 の起 訴 率 ・有 罪 率 の 高 さ」 をあ げ る記 述 は,「 実 名 犯 罪 報 道 の是 非 を問 う 一 千 文 字 ア ン ケ ー ト」
『創 』(1984年ll月 号)に お け る朝 日新 聞,サ ンケ イ新 聞 か らの 回答,浅 野(1987) が 引 用 す る朝 日新 聞 柴 田記 者 の記 述 な ど,数 多 くの 資料 に見 い だ せ る。
11)本 稿 は,80年 代 中頃 か ら後 半 に か けて の対 抗 クレ イ ム を 中心 に論 じて い る た め,新 た な 「匿 名 報 道 拡 大 」 へ の 危1に つ い て 論 じる余裕 は な い。
12)イ バ ラ とキ ツセ(1993)が 論 じる 「市 民 的 レ トリッ ク」が 「上 品 」で あ る と い う よ うに,浅 野(1984,1985)は 報 道 に は デ ィー一セ ン シー(品 格,上 品 さ) 80国 際経営論集No.111996
が必 要 で あ る と繰 り返 し述 べ る。「匿 名 報 道 主 義 」の ク レ イム に お け る レ トリ ッ クは,こ の 「市 民 的1な る もの は何 か を訴 え,そ れ に よ って 形成 され て い る と 考 え られ る。
13)「 人 権 と報 道 ・連 絡 会 」 主 催 シ ン ポ ジ ウ ム(1993年6月12日)に お い て配 布 され た資 料 で は,警 察 の匿 名 発 表 が 少 年 や 精 神 障 害 者 に よ る事 件 で あ るた め で あ る こ と を調 査 か ら引 き出 して い る。 この 具 体 的 な 内容 は,次 の機 会 に論 じた
い 。
引用 文 献
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82国 際 経 営 論 集No.111996