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甲状腺の解剖学

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Academic year: 2022

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(1)

甲状腺の解剖学・組織学

甲状腺は重量20g前後,横径4 cm程度で、

左右の両葉とその間の峡部から成る。

組織学は、濾胞と呼ばれる大小さまざま な球形の構造が集合した器官である。

個々の濾胞の大きさは、甲状腺ホルモン の需要量、栄養状態、年齢、食餌中の ヨード量などにより大きく変化する。濾 胞を構成する細胞を濾胞上皮という。濾 胞内には、ゼリー状の均質な物質が貯留 し、これをコロイドと呼ぶ。コロイド内 には主としてサイログロブリンが含まれ ている。

正常甲状腺 甲状腺濾胞が充満している。濾胞間にはC細胞が存 在しているはずだが、HE染色では通常、C細胞は判別できない。

(2)

良性腫瘍 腺腫様甲状腺腫

甲状腺濾胞上皮の過形成と出血や嚢胞形成などの退行 変性を特徴とした病変である。高頻度に発生する病変 である。男女比1:10。加齢とともに頻度は増加する。

肉眼所見: 多結節性病変で、薄い被膜を有することも ある。単結節の場合は腺腫や癌との鑑別が難しいこと もある。

組織学的所見: 大きく拡張した濾胞や小型の濾胞があ り、これら濾胞の密度も様々で、濾胞上皮細胞にも扁 平化や好酸性化などの多様な所見を呈し得る。

個々の結節は、単クローン性であることが明らかに なっている。一般に、癌は単クローン性であることか ら、本病変も癌としての潜在能を有していても不思議 ではない。濾胞癌の頁にあるように、腺腫様甲状腺腫 の既往の有る患者に、転移性濾胞癌が見つかることが あり、その場合は、(もちろん精査の上で)既往の腺腫 様甲状腺腫は濾胞癌であったと考えられる。

腺腫様甲状腺腫(割面)大小多数の結節があり、線維化も認める。

腫瘍鑑別アトラス 甲状腺癌 文光堂p.114, 115より 甲状腺癌取り扱い規約 第8版 金原出版株式会社p.48より

(3)

良性腫瘍 濾胞腺腫

成人の3~5%に認められるとの報告もある、頻度の高 い腫瘍である。男女比1:4~6, 40歳台~50歳台に多いが どの年齢層にも生じる。

肉眼所見: 被膜に完全に覆われた濾胞上皮性の腫瘍で、

乳頭癌の核所見を有さないもの (乳頭癌の頁参照)。通 常は単発である。多発する場合は遺伝性疾患の可能性 を考慮すべきである。

組織学的所見: 大小の濾胞構造や索状構造を取る。個々 の濾胞構造や腫瘍細胞だけでは、濾胞癌と区別はつか ない。病変内に石灰化や粘液様変性などの変性を伴う ことも多い。被膜浸潤や血管侵襲はない (あれば濾胞癌 である。)

細胞質が好酸性を示したり、奇形核を有するものなど 亜型が存在する。

濾胞癌との鑑別が問題となる。

甲状腺癌取り扱い規約 第8版 金原出版株式会社p.91, 92より

(4)

甲状腺癌の要点

甲状腺癌は、乳頭癌、濾胞癌、低分化癌、未分化癌がある。

乳頭癌と濾胞癌は高分化癌としてまとめられる。低分化癌 は、甲状腺癌取り扱い規約 第6(2005)に独立した組織 型として加わった。未分化癌は、その名の通り分化傾向の 見られない癌であるが、未分化癌の一部に高分化癌や低分 化癌が併存することが多く、これらを先行病変として発生 すると考えられている。

C細胞に分化する癌である髄様癌は、カルシトニンの産生 を示す。

甲状腺の穿刺吸引細胞診(aspiration biopsy cytology)

甲状腺腫瘍を疑う場合、診断のための病理学的検査として穿 刺吸引細胞診が有用である。最も頻度の高い乳頭癌は、細胞 に特徴的な所見があるため、細胞診で確定診断ができること が多い。

甲状腺癌は昨今、同じ癌の中でも再発・転移のリスクが高 いものや低いものがあり、それぞれの組織学的特徴が明ら かになってきている。それらの特徴を病変を正確に見出し て診断し、過剰でない適切な治療を行う必要がある。病理 診断分野では、再発・転移リスクの低い病変の疾患概念が 確立されてきているが、現在はまだ定着したとは言えず、

流動的・あいまいな部分がある。甲状腺病変は頻度が高い だけに、その疾患概念の変化は多くの患者に影響を与える ことになるので、注視していく必要がある。

(5)

乳頭癌 Papillary carcinoma

最も頻度の高い癌で、甲状腺原発悪性腫瘍の95%以上 を占める。男女比1:5~10, 30-50歳台に多いが、10歳 台, 20歳台でも生じる。予後良好で10年生存率は70% 程度。BRAF遺伝子変異を有する例が60-80%を占める。

肉眼所見: 結節性病変で、被膜が有るものも無いもの もある。被膜がなく周囲に浸潤性に発育し腫瘍内に白 色調の線維化を伴う像を呈する、非被包浸潤型とよば れる肉眼型が75%を占める。

組織学的診断:乳頭癌に特徴的な核所見を以て診断し、

乳頭状あるいは濾胞状などの腫瘍細胞の配列 (構造)に は拠らない。

[乳頭癌の核所見]

①すりガラス状核 ②核内細胞質封入体 ③核の溝

④核の重積

腫瘍全体を観察し、上記の核所見が少なからず認めら れる腫瘍を乳頭癌と診断する。各所見の量的基準はな く、総合的に判断する。

リンパ節転移の頻度が濾胞癌に比し高いが、それ自体 は予後に影響しない。

甲状腺癌取り扱い規約では9種類もの組織亜型がある が、高細胞型、充実型、びまん性硬化型、ホブネイル 型、円柱細胞型は通常型乳頭癌に比し予後がやや不良

~不良である。

乳頭癌乳頭状構造, すりガラス状核, 核の重積

乳頭状構造: 線維血管性間質(▲, ピンク色の線維様の部分)を軸として その周りを上皮が取り囲む構造

すりガラス状核: 核の内部が白く抜けていて明るい 核の重積: 隣りあう核の核膜が接したり重なったりする像

砂粒体 乳頭癌に認めることもあるが、認めないこともある。 濾胞型乳頭癌 濾胞構造を呈しているが、すりガラス状核や核の溝があり、

乳頭がんの診断になる。

乳頭癌 核の溝(白矢印)や核内細胞質封入体(黒矢印)が認められる。

甲状腺癌取り扱い規約 第8版 金原出版株式会社p.29, 30より 腫瘍鑑別アトラス 甲状腺癌 文光堂p.17より

(6)

濾胞癌 Follicular carcinoma

乳頭癌に次いで多い。甲状腺原発悪性腫瘍の5-10%程度を 占める。男女比1:2~3, どの年代にも発生する。

肉眼所見: 通常単発の結節性病変で被膜を有する

組織学的診断: まず、乳頭癌の核所見がないこと(あれば乳 頭癌である)。腫瘍の構築は、大小の濾胞構造や索状構造 をとる。乳頭状構造を取ることもある。

濾胞癌の診断に必須の組織像: ①被膜浸潤、②血管侵襲、

③リンパ節転移・遠隔転移 ①~③のいずれか。いずれも ない場合は、濾胞腺腫の診断となる(細胞の異型度は要件 に含まれていない。血管侵襲が多いと予後が悪くなる。

①被膜浸潤がある場合、その程度により、微小浸潤型と広汎浸潤型とに 亜分類する。後者は、残存する被膜が不明瞭で、肉眼的にも周囲の甲状 腺組織を破壊・浸潤する像が見られるほどのもので、予後がやや不良で ある。顕微鏡的に被膜浸潤が確認される程度の微小浸潤型にも、血管浸 潤像が4カ所以上に見られる場合は、再発転移のリスクがある。

②被膜浸潤がなく血管侵襲がある場合、被包型血管浸潤型に亜分類され、

血管侵襲が4カ所以上にある例は3カ所以下の例に比し再発転移のリスク がある。

③甲状腺内の病巣が悪性と診断できない場合でも、転移の存在が組織学 的に明らかにされれば、甲状腺内の病変が原発腫瘍と認定される。

腫瘍鑑別アトラス 甲状腺癌 文光堂p.36, 37より

甲状腺癌取り扱い規約 第8版 金原出版株式会社p.87より

(7)

低分化癌 Poorly differentiated carcinoma

甲状腺癌取り扱い規約 第8版 金原出版株式会社p.38より

甲状腺癌取り扱い規約 第6版 (2005年)に独立した組織 型として加わった、比較的新しい疾患である。

高分化癌(乳頭癌や濾胞癌)と後述する未分化癌との中 間的な生物学的態度を示す、濾胞上皮由来の悪性腫瘍。

高分化癌に比べ遠隔転移の頻度が高い。

10年無再発生存率50%程度。(高分化癌では90%程度)

形態学的に、充実性、索状、島状の増殖パターンを取 る。乳頭癌の核所見は認めない。核分裂像が散見され、

壊死をしばしば伴う。

高分化癌成分が併存することもある。

(8)

未分化癌 Anaplastic carcinoma

高齢者に発生し、60歳より若い症例は少ない。男女比 は1.5~2.5:1で男性にやや多い。

腫瘍は急速に増大し、1週間で2倍の大きさになる症例 もある。甲状腺周囲臓器 (筋、神経、気管、食道、喉 頭)に浸潤し、診断時に40%にリンパ節転移や遠隔転 移がある。血液検査では、白血球高値とCRP上昇が特 徴で、腫瘍が産生するGM-CSFによるとされている。

予後は不良で、平均余命は3-6か月、殆どの例で1年以 内に死亡する。腫瘍が小さく甲状腺内に限局する例で は生存例が報告されている。

高度な構造異型と細胞異型を示す癌。急速に増殖し、

壊死や出血を伴う。腫瘍細胞は多型性、紡錘形、扁平 上皮様、巨細胞など多彩な形態を示す。

未分化癌の一部に高分化癌や低分化癌が併存すること が多く、これらを先行病変として発生すると考えられ ている。

腫瘍鑑別アトラス 甲状腺癌 文光堂p.53より

甲状腺癌取り扱い規約 第8版 金原出版株式会社p.39より

(9)

髄様癌

甲状腺癌の1.4%程度と稀。多発性内分泌腫瘍症

(multiple endocrine neoplasm, MEN) 2型に見られる腫瘍 であるが、MENでない孤発例もある。MEN2型は、RET 遺伝子の機能獲得変異が原因である。10年生存率97% と予後は良い。

C細胞の腫瘍であり、神経内分泌腫瘍の特徴を有する。

多稜形核で細胞質の広い腫瘍細胞が充実性に増生する。

血管腫様の構造を取ったり、紡錘形細胞様になること もある。腫瘍細胞間にアミロイドが沈着する。

診断の要件:カルシトニン染色を施行し、腫瘍細胞が カルシトニンを産生していることを確認する。(神経 内分泌マーカーも陽性となるが、これの確認は必須で はない。)

MEN2型の例と孤発例との違いは、MEN2型例では甲状 腺内に髄様癌が多発し、癌の背景の甲状腺にはC細胞 の過形成が認められるという点が挙げられる。

甲状腺癌取り扱い規約 第8版 金原出版株式会社p.40より

(10)

甲状腺癌の病理診断報告書の一例

●甲状腺左葉切除検体 組織型: Papillary carcinoma.

占拠部位: 左, 中上下 大きさ: 25x25x20 mm

割面・発育様式: 限局・充実型 多発の有無: なし

甲状腺組織内への腫瘍組織散布: なし 癌に付随する組織変化: 線維化

脈管侵襲: ly (-), v (-)

腺外浸潤: pEx1 (前頸筋群浸潤)

切除断端: 陽性 (神経との剥離部と思われる部位) pT分類: pT3b (=pEx1)

リンパ節: 気管傍リンパ節(2/2)*, 切片#9 (2/2)

* 節外浸潤を含みます.

甲状腺癌取り扱い規約 第8版 金原出版株式会社p.9-10より

pEx:甲状腺外浸潤 腺外浸潤があれば1 なければ0と記載する。

(11)

小テスト

1. 甲状腺組織の濾胞内にある好酸性ゼリー状物質 を何と呼ぶか。

2. 甲状腺濾胞間に存在するホルモン産生細胞の名 称と産生ホルモン名を答えよ。

3. 甲状腺癌との鑑別を要する良性病変を2つ答えよ。

4. 右組織写真A~Cの所見名を答えよ。A1とA2は同 じ所見である。

5. 右組織写真A~Cの所見を特徴とする病変名を答 えよ。

6. 穿刺吸引細胞診によって、濾胞癌と濾胞腺腫の 鑑別は可能か否か答え、理由を簡潔に述べよ。

(以下の設問は本スライドには載せていない内容である。調べて解答せよ。)

7. 多発性内分泌腫瘍症 (multiple endocrine neoplasm, MEN)に生じる腫瘍とおよその発生頻度を答えよ。

8. 甲状腺に発生するリンパ腫について簡潔に述べ よ。

9. 2011年の福島原発事故により、近隣住民の甲状

腺癌は増加したか否か答え、簡潔に解説せよ。

10. 1986年のチェルノブイリ原発事故により、近隣

住民の甲状腺癌は増加したか否か答え、簡潔に 解説せよ。

A1 A2

B C

参照

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