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甲状腺のしこりについて

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Academic year: 2021

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タイトル「甲状腺のしこり」 藤田保健衛生大学内分泌外科 岩瀬克己 甲状腺は、首のほぼ中央部、喉頭(のどぼとけ)の下方に気管前方を取り巻くホルモンを生 成分泌する器官です。人の体にある最大のホルモン分泌器官で、重さ約 20~30g で蝶の形を していますが、健常人では触れず、何らかの異常により、甲状腺は様々な腫れ(しこり)を示 し、触れることができます。 甲状腺の腫れ(甲状腺腫)は、その一部が気管に固定されており、嚥下と共に移動すること で他のしこりと区別ができます。 甲状腺ホルモンは、全身の器官・臓器の働き具合を調整しており、過剰な分泌はその働き を活発にし、逆に分泌の低下はそれを鈍らせ、分泌異常の程度により全身の様々な症状をも たらします。 甲状腺疾患には、形の異常と機能(ホルモン分泌)の異常があり、両者の特徴の詳細な検索 により診断を確定し、的確な治療を施します。 甲状腺腫には、全体が一様に腫れるび慢性甲状腺腫と部分的に腫れる結節性甲状腺腫とが あります。前者には、甲状腺疾患で最も多い慢性甲状腺炎(橋本病)やバセドウ病があり、後 者には、良性腫瘍(腺腫)と悪性腫瘍(癌)があり、時には結節が多発するものもあります。 一般に、ホルモン分泌異常はび慢性腫大を示し、結節性甲状腺腫に分泌異常を伴うことは きわめて稀です。 最も多い慢性甲状腺炎は、必ずしもホルモン異常を伴わず、大きく腫れた場合以外は、検 診などで甲状腺腫大を指摘され、その後の検査で診断されることがほとんどです。この病気 は自己免疫疾患の概念が、世界で最初に実証された疾患として知られ、その偉業を成し遂げ た日本人医師に敬意を表して橋本病とも呼ばれています。ホルモン分泌低下による甲状腺機 能低下症を示すものもあり、甲状腺摘出以外では本疾患がほとんどを占めています。 その治療は、適切な量の甲状腺ホルモンの補充となりますが、個々の代謝量や年齢により 変化し、定期的な血中ホルモンのモニタリングが必須であり、多くの患者は生涯に及びます。 また、稀に甲状腺細胞の炎症性破壊により、一過性にホルモン過剰分泌を生ずるために、バ セドウ病と誤診される危険もあり注意を要します。 一般に最もよく知られているのがバセドウ病です。これは、甲状腺全体の腫大とホルモン 過剰分泌を来すもので、比較的特徴的な症候を示します。主な症状には、頻脈(心悸亢進)、 体重減少、発汗過多があり、突眼など様々な眼の症状を伴うことがあります。また、甲状腺 ホルモンが全身の身体機能に影響を及ぼす特性から、他にも様々な症候を示すことがありま す。 バセドウ病以外にもホルモン過剰を起こすものがあり、それらの的確な鑑別が治療の第一歩 となります。 バセドウ病の原因は、血液中に甲状腺刺激物質(自己抗体)が存在するためとされています。 その治療には、大きく分けて3つの方法があり、第一は薬による治療で、ホルモンの生成を 止める抗甲状腺剤を主体に諸症状に応じて薬が追加されます。抗甲状腺剤の効果は高いので すが、治療期間は通常 2 年以上と長く、また治癒率は約 50%とされ、投薬中止後に再燃する など生涯服薬を要する場合もあります。さらに、稀に重篤な肝障害や造血機能障害をなどの 副作用があり、治療中止となる場合もあります。薬物治療が不向きな場合には、ホルモン産

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生細胞を物理的に減らす手段として、手術(甲状腺切除)と放射性ヨード治療があります。い ずれも確実に効果が得られる治療法ですが、それぞれ、利点・欠点があり、患者さんの条件 ・希望に応じた選択が要求されます。 次に主として手術の対象となる甲状腺腫瘍があり、その多くは良性(腺腫)ですが、悪性 (癌)も少なくありません。いずれも、殆どは甲状腺機能異常は認めません。甲状腺癌の約 90%は生命を脅かすことが少ない乳頭癌と呼ばれるタイプで、女性に圧倒的に多く発生する 特徴があります。30 代までの女性に発生する癌としては、乳癌をしのぎ、最も多いと言わ れています。 大変ゆっくり発育する一方、手術後の再発は長期に渡り、その頻度は術後 20 年間に延べ 20~30%と比較的高く認められます。特に頚部局所の再発が多く、それによる呼吸、嚥下・ 発声、運動神経機能障害への対処の良し悪しは、再発後長期間の QOL を大きく左右すること になります。また、放射性ヨード被爆により、この癌が誘発されることが知られ、今年 3 月の東日本大震災・福島原発事故以来注目されています。しかし、これまでの原子力関連の 調査報告では、主に幼少児期と妊婦の被爆に注意すべきものの、一般成人への明らかな弊害 の報告はありません。また、その外の癌にもそれぞれ特異的な病態があり、治療方法も異な ります。的確な診断の下に、最も有効な治療法を選択せねばなりません。 甲状腺は小さな器官ですが、ホルモン分泌による全身への影響や存在場所の観点から、そ こに発生する病態を診誤ると大きな障害を招くことになります。疾患発見の契機は「首の腫 れ」が最も多く、健診や他疾患の画像検査中に指摘されるのが殆どです。続いて超音波検査 や血中ホルモン濃度測定などの検索へと進みます。今日では、一般診療施設で容易にできる 検査ですが、的確な診断を得るためには専門医の受診が勧められます。一方、インターネッ トを通じて診断から治療にいたるまで、多くの専門医療施設により様々な情報が提供されて います。しかし、これらの情報の利用に際しては、必ず専門医に助言を求める慎重さが望ま れます。 また、海外からの公開情報として代表的なものに、北米の NCCN(National Complihensive Cancer Network)、 ATA(American Thyroid Association)、ヨーロッパの ETA (European Thyroid Association)があり、我が国には日本甲状腺学会(腫瘍以外)および日本甲状腺外 科学会(腫瘍)からそれぞれ診療ガイドラインが示されています。主に医療者向けの情報が 中心となっていますが、患者向けの情報も公開される方向となっています。 しかし、これら公式情報の解釈に当たっても、日本と海外では医療制度(保険医療制度、 医師の役割分担)、医療環境(診療施設、医師の臨床能力、診療報酬)や文化の違い(放射 線被爆への心配)などにより、選択すべき最適な治療が大きく異なる場合もあることに注意 が必要です。何よりもすべての甲状腺の病気は生涯に渡ることが多く、その数十年を快適に 生きるためには、時代の流れの中で変遷する最新医療の情報を的確に得ることが必要であり、 そのためには生涯専門医の助言の下にあることが最適と思われます。

参照

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