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雑誌名 東京学芸大学紀要. 芸術・スポーツ科学系

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(1)

著者 衣, 犁, 筒石, 賢昭

雑誌名 東京学芸大学紀要. 芸術・スポーツ科学系

巻 57

ページ 33‑46

発行年 2005‑10

その他の言語のタイ トル

A Study of Piano Group Lessons in Normal

Universities of the People s Republic of

China :The History and the Present Situation

URL http://hdl.handle.net/2309/807

(2)

1.歴史

1.1 1970年代末期〜1980年代初期

1970年代末から,中国の教員養成教育1)が盛んになってきた。当時の全国において,中等師範学校2)及び高 等師範学校3)は400校以上になり,各学校には約400〜900名の学生が在籍していた。教育大綱4)により,ピア ノ演奏はすべての学生に対して必修の科目になっていた(音楽系・芸術系専攻には3〜5年間必修,その他に は1年間必修)。学生人数の多さ,そしてピアノ及びピアノ教師の数の少なさなどの原因で,中華人民共和国 国家教育委員会5)は,中等師範学校におけるピアノ授業はグループ・レッスンの形でし,高等師範学校におけ るピアノ授業は個人レッスンの形ですることに決めた。グループ・レッスンの場合では,一つの授業に1人の 教師が10人ぐらいの学生を教え,1週間に100人ぐらいの学生を指導することであった一方,個人レッスンの 場合では,一つの授業に1人の教師が1人の学生を指導するだけであった。両種類の授業とも国家統一の教員 養成用ピアノ教材を使い,基礎的な指使い,バイエルやチェルニーなどの練習曲,ポリフォニー,小品などの 内容であった。

1.2 1980年代中期〜1990年代初期

1979年から,中国政府は一人っ子政策を実施した。経済的発展とともに,保護者は自分の子に対する教育を

中国の教員養成大学・課程におけるピアノグループ・レッスンの研究

─その歴史と現状─

衣   犁・筒石 賢昭 音楽科教育学

(2005年6月23日受理)

図1.『高等師範院校試用教材ピアノ 基礎教程1』6)1983年初版

図2.『高等師範院校試用教材ピアノ 基礎教程1』中の1ページ

(3)

極めて重視するようになって,子どもたちが小さいごろからダンス,書道,図画,楽器特にピアノの演奏など 色々な芸術的教育を受けることは普通の社会現象になった。1980年代末期に至り,中国全土における「ピアノ 熱」が広まった。それに応じて,学校教育の中にも芸術的内容を増え,音楽教員に対する需要が一層高まった。

音楽教育の改革を目指して,1986年に第1回「全国国民音楽教育改革研究討論会」7)が開かれた。この研究 討論会に中国音楽家協会は初めてピアノグループ・レッスンに電子ピアノを導入することを提案した。

1.3 1990年代

1990年に開かれた第4回「全国国民音楽教育改革研究討論会」に電子ピアノ及び電化教室8)を活用して音楽 教育の普及を促進することを検討した。そして1992年に開かれた第5回「全国国民音楽教育改革研究討論会」

に,中央音楽学院及び中国音楽家協会音楽教育委員会がアメリカのピアノグループ・レッスンの状況を紹介し,

「ピアノの教授には個人レッスンの形の他に,グループ・レッスンの形でも行うべきで,ピアノ理論,ピアノ 教授法,ピアノ伴奏の課程も開設すべき」だと提言した9)。当年7月に「アメリカのグループ・レッスンにお ける鍵盤教学法」に関する研究討論会がさらに開催され,10月に「中国音楽家協会音楽教育委員会師範ピアノ 学会」の成立に至った。華東師範大学,山東師範大学などの高等師範学校でピアノグループ・レッスンの研 究・実践をはじめた。

1995年,中国音楽家協会から李和平,李美格,朱珍など6名を研修のためにアメリカに派遣した。11月に,

全国の音楽教員養成課程の教師を対象とした「ピアノグループ・レッスン研修班」は河南省鄭州幼児師範学校 で開かれ,アメリカから帰ってきた天津音楽学院の朱珍が主指導教官となった。

1999年5月に中国音楽家協会は広東省湛江師範学院で,全国の音楽教員養成課程の教師を対象とした「ピア ノグループ・レッスン研修班」を再び開催した。

1.4 2000年以降

2001年から,上海,福建,陜西,貴州,浙江などの地域で全国の師範学校を対象とするピアノグループ・レ ッスン研究会,見学会,コンクールが次々と行われた。華東師範大学,上海師範大学などのピアノグループ・

レッスン実践学校は各自の実践成果を発表した。

中国各地の教員養成大学・課程へのピアノグループ・レッスンの導入・発展は一層広まってきた。

2.現状についてアンケート調査

2005年5月15日から29日にわたって,中国の教員養成大学・課程におけるピアノグループ・レッスンの現状 をより把握するために,衣は中国の東北地方,北地方および南地方にある六つの大学を訪問し,ピアノグルー プ・レッスンの見学,現場の教師へのインタビューをする他に,学生を対象としてアンケート調査を実施した。

調査に協力してくれた学生は総計169名であった。

2.1 アンケートを実施した学校

図3.アンケートを実施した学校の分布図10)

(4)

2.1.1. 東北師範大学音楽学院

東北師範大学は中国の東北地方の都市の長春にある4年制教員養成大学である。音楽学院は1946年に創立さ れ,教師数は52名であり,学生数は667名である。コンピュータ音楽教室,視聴覚教室,マルチ・メディア教 室,電子ピアノ教室などを備えている。今回この学校で行ったアンケートの対象は非ピアノ専攻の学生たちで ある。

2.1.2. 吉林芸術学院音楽学院

吉林芸術学院は長春にある芸術系の4年制大学である。音楽学院は1946年に創立され,教師数は52名であり,

学生数は476名である。コンピュータ音楽教室,電子ピアノ教室,コンサート・ホールなどを備えている。今 回この学校で行ったアンケートの対象は音楽教育学部の学生たちである。

2.1.3. 北京師範大学芸術・メディア学院

北京師範大学は中国の首都の北京にある4年制教員養成大学である。芸術・メディア学院は1902年に創立さ れ,教師数は40名であり,学生数は413名である。コンピュータ教室,視聴覚教室,マルチ・メディア教室な どを備えている。今回この学校で行ったアンケートの対象は非ピアノ専攻の音楽学生たちである。

写真1.東北師範大学音楽学院 電子ピアノ教室

写真2.東北師範大学音楽学院 コンピュータ音楽教室

写真3.吉林芸術学院音楽学院 電子ピアノ教室① 教師用電子ピアノ

写真4.吉林芸術学院音楽学院 電子ピアノ教室② 授業中の学生たち

写真5.北京師範大学芸術・メディア学院 マルチ・メディア教室

写真6.北京師範大学芸術・メディア学院 コンピュータ教室

(5)

2.1.4. 中央民族大学音楽学院

中央民族大学は北京にある4年制総合大学である。音楽学院は1959年に創立され,教師数は78名であり,学 生数は520名である。コンピュータ音楽教室,電子ピアノ教室などを備えている。今回この学校で行ったアン ケートの対象は音楽教育学部の学生たちである。

2.1.5. 星海音楽学院

星海音楽学院は中国の南沿海地方の都市の広州にある4年制音楽大学である。1957年に創立され,教師数は 320名であり,学生数は約3000名である。電子音楽制作センター,コンピュータ教室,マルチ・メディア教室,

視聴覚教室,電子ピアノ教室などを備えている。今回この学校で行ったアンケートの対象は音楽教育学部の学 生たちである。

2.1.6. 広東外国語芸術職業学院

広東外国語芸術職業学院は広州にある4年制教員養成大学である。1984年に創立された広東芸術師範学校は,

2001年に広東外国語師範学校と併合し,広東外国語芸術職業学院になった。音楽学部には教師数が39名であり,

学生数は約800名である。電子ピアノ教室,コンピュータ音楽教室,マルチ・メディア工作室,視聴覚教室な どを備えている。今回この学校で行ったアンケートの対象は音楽学部の学生たちである。

2.2 アンケートの内容

アンケートの内容(日本語訳)を下記に示す。

① 大学でピアノグループ・レッスンを受けたことが A ある

B ない

② 大学で電子ピアノを使ったグループ・レッスンを受けたことが A ある

B ない

③ 大学で個人ピアノ・レッスンを受けたことが A ある

B ない

④ グループ・レッスンと個人レッスンを比べて,どちらが好きですか?

A グループの方が好き B 個人の方が好き

写真7.広東外国語芸術職業学院音楽学部 電子ピアノ教室① 教師用電子ピアノ

写真8.広東外国語芸術職業学院音楽学部 電子ピアノ教室② 授業中の様子

(6)

4-1.(上記4項の続き)Aを選んだ理由は何ですか?(次から該当するものを全て選んでください)

A 緊張しない。

B 人の演奏を聞くことができる。

C お互いに聞いて,相互学習ができる。

D 曲に対する背景知識,曲想をより簡単に把握できる。

E 一つの授業に学べる内容量が多く,効率が高い。

F 学習に対する意欲を高める。

4-2.(上記4項の続き)Bを選んだ理由は何ですか?(次から該当するものを全て選んでください)

A 緊張しない。

B 自分のペースでできる。

C 細かく指導してもらえる。

D 曲に対する背景知識,曲想をより簡単に把握できる。

E 一つの授業に学べる内容量が多く,効率が高い。

F 学習に対する意欲を高める。

⑤ 電子ピアノを使ったグループ・レッスンの長所だと思うのは?(次から該当するものを全て選んでくだ さい)

A いつも人前で演奏するので,演奏の時の過度な緊張や不安感を克服できるようになる。

B 相互学習ができ,お互いの長所を生かせる。

C 自動伴奏などの機能があって,授業が多様になる。

D 授業の時間を十分に使え,教え・学びの効率を高める。

E 豊富な教授方法があって,学習に対する意欲を高める。

F その他:

⑥ 電子ピアノを使ったグループ・レッスンの短所だと思うのは?(次から該当するものを全て選んでくだ さい)

A 指先のタッチの感覚が弱い。

B 音楽表現が単調になりやすい。

C 自分のペースでできなく,それぞれの個人に応じた教育ができない。

D 一つの授業に1人の教師が多数の学生を教えるので,細かな指導に限界がある。

E 電子ピアノの使い方が難しい。

F その他:

⑦ 他にグループ・レッスンまたは個人レッスンに対して何かのご意見,ご要望があれば,記入してくださ い。

(7)

2.3 アンケートの結果

① 大学でピアノグループ・レッスンを受けたことが 選択項:A ある  B ない(N=169)

② 大学で電子ピアノを使ったグループ・レッスンを受けたことが 選択項:A ある  B ない(N=169)

③ 大学で個人ピアノ・レッスンを受けたことが 選択項:A ある  B ない(N=169)

A ある B ない 未 回 答

N

148 21 0 169

B ない 12.43%

A ある 87.57%

未回答 0.00%

A ある B ない 未 回 答

グラフ1.

表1.

A ある B ない 未 回 答

N

137 32 0 169

B ない 18.93%

A ある 81.07%

未回答 0.00%

A ある B ない 未 回 答

グラフ2.

表2.

A ある B ない 未 回 答

N

101 67 1 169

B ない 39.64%

A ある 59.76%

未回答 0.59%

A ある B ない 未 回 答

グラフ3.

表3.

(8)

④ グループ・レッスンと個人レッスンを比べて,どちらが好きですか?(N=169)

選択項:A グループの方が好き  B 個人の方が好き

4-1.(上記4項の続き)Aを選んだ理由は何ですか?(次から該当するものを全て選んでください)

(N=42)

選択項:A 緊張しない。

B 人の演奏を聞くことができる。

C お互いに聞いて,相互学習ができる。

D 曲に対する背景知識,曲想をより簡単に把握できる。

E 一つの授業に学べる内容量が多く,効率が高い。

F 学習に対する意欲を高める。

A グループの方 B 個  人  の  方

未 回 答 N

42 126 1 169

B 個人の方 74.56%

A

グループの方 24.85%

未回答 0.59%

A グループの方 B 個  人  の  方 未 回 答

グラフ4.

表4.

A B C D E F 未 回 答

N

33 24 32 19 16 20 0 42

A B C D E F 未回答

0 5 10 15 20 25 30 35

A 78.57%

B 57.14%

C 76.19%

D

45.24% E 38.10%

F 47.62%

未回答 0.00%

グラフ5.

表5.

(9)

4-2.(上記4項の続き)Bを選んだ理由は何ですか?(次から該当するものを全て選んでください)

(N=126)

選択項:A 緊張しない。

B 自分のペースでできる。

C 細かく指導してもらえる。

D 曲に対する背景知識,曲想をより簡単に把握できる。

E 一つの授業に学べる内容量が多く,効率が高い。

F 学習に対する意欲を高める。

⑤ 電子ピアノを使ったグループ・レッスンの長所だと思うのは?(次から該当するものを全て選んでくだ さい)(N=169)

選択項:A いつも人前で演奏するので,演奏の時の過度な緊張や不安感を克服できるようになる。

B 相互学習ができ,お互いの長所を生かせる。

C 自動伴奏などの機能があって,授業が多様になる。

D 授業の時間を十分に使え,教え・学びの効率を高める。

E 豊富な教授方法があって,学習に対する意欲を高める。

F その他:

F項について,以下のような意見があった:

⇒「練習しなくてもいいです。他人の演奏を聞いているからです。(吉林芸術学院2年生)

⇒「心理素質を育てられると思います。(星海音楽学院3年生)

⇒「ピアノグループ・レッスンの授業法を学べます。これは将来教師になったら,自分がより良くピアノグ ループ・レッスンを教えることに役立てると思います。(広東外国語芸術職業学院1年生)

⇒「最も目立つ長所は個人レッスンと比べて緊張しないことでしょう。授業は楽です。(広東外国語芸術職 業学院1年生)

⇒「コンピュータ音楽をやっているので,電子ピアノでのピアノグループ・レッスンを受けることは必要だ と思います。(広東外国語芸術職業学院1年生)

A B C D E F 未 回 答

N

21 86 110 62 89 46 0 126

A B C D E F 未回答

0 20 40 60 80 100 120

A 16.67%

B 68.25%

C 87.30%

D 49.21%

E 70.63%

F 63.51%

未回答 0.00%

グラフ6.

表6.

A B C D E 未 回 答

N

94 114 63 48 67 7 169

A B C D E 未回答

0 50 100 150

A 55.62%

B 67.46%

C

37.28% D 28.40%

E 39.64%

未回答 41.1%

グラフ7.

表7.

(10)

⑥ 電子ピアノを使ったグループ・レッスンの短所だと思うのは?(次から該当するものを全て選んでくだ さい)(N=169)

選択項:A 指先のタッチの感覚が弱い。

B 音楽表現が単調になりやすい。

C 自分のペースでできなく,それぞれの個人に応じた教育ができない。

D 一つの授業に1人の教師が多数の学生を教えるので,細かな指導に限界がある。

E 電子ピアノの使い方が難しい。

F その他:

F項について,以下のような意見があった:

⇒「先生は学生それぞれの心理に配慮することはとても難しいです。良い教師は少なく,個人レッスンをう まく教えられる先生でも必ず電子ピアノでグループ・レッスンをうまく教えることは言えないでしょう。

(星海音楽学院3年生)

⇒「個人の指導時間がないから,学習の効果は良くないです。(広東外国語芸術職業学院1年生)

⇒「あまり学べることがないから,興味が上がらない。(広東外国語芸術職業学院1年生)

⑦ 他にグループ・レッスンまたは個人レッスンに対して何かのご意見,ご要望があれば,記入してくださ い。

この項目に対する答えは,以下のようであった:

⇒「ピアノグループ・レッスンは一斉教授ですので,学生みんなは教えられることを一斉に全部理解し身に 付けることができないから,授業における学生の自主練習時間をより多めにしてほしいです。(東北師範 大学2年生)

⇒「電子ピアノの指先のタッチを良くならないでしょうか?また,グループ・レッスン中に学生たちにより 良く参加させてほしいです。(吉林芸術学院1年生)

⇒「ピアノグループ・レッスンの授業時間が短く,細かな指導を受けられない。(吉林芸術学院2年生)

⇒「先生はもっとまじめにやってほしいです。(吉林芸術学院2年生)

⇒「グループ・レッスンと個人レッスンの割合をバランス良くしてほしいです。(吉林芸術学院2年生)

⇒「グループ・レッスンでも,個人レッスンでも,学生のピアノに対する興味を高めることが大事だと思い ます。曲に対する背景知識を良く理解させ,学生それぞれの個人に応じた教授方法が望ましいです。(吉 林芸術学院2年生)

⇒「個人レッスンはグループ・レッスンより良いので,グループ・レッスンの時にもっと個人指導をもらいた いです。(吉林芸術学院2年生)

⇒「ピアノが嫌いですから,グループ・レッスンも個人レッスンも嫌いです。(吉林芸術学院2年生)

⇒「ピアノグループ・レッスンはない方がいいです。(吉林芸術学院2年生)

⇒「やはり個人レッスンの方が自分の要求に合っています。(吉林芸術学院2年生)

A B C D E 未 回 答

N

123 64 68 109 14 1 169

A B C D E 未回答

0 50 100 150 A

72.78%

B 37.87%

C 40.24%

D 64.50%

E

8.28% 未回答 0.59%

グラフ8.

表8.

(11)

⇒「個人レッスンを多めにすることを提唱します。なぜなら,学生の実力を高められるからです。(中央民 族大学1年生)

⇒「一部の初心者はグループ・レッスンで明らかな進歩があったら,個人レッスンに変更した方がいいと思 います。グループ・レッスンの時間が短いので,教授効率は良くないと思います。(星海音楽学院3年生)

⇒「グループ・レッスンでも個人レッスンでも長所をもつので,私は両方とも好きです。(星海音楽学院3 年生)

⇒「私はピアノの初心者です。最初からグループ・レッスンでピアノを学んでいます。初心者にとってグル ープ・レッスンのほうがとてもいいと思います。あまり緊張しないからです。ピアノを学ぶことには,緊 張は大敵です。グループ・レッスンは楽な雰囲気がある。しかし,ある程度のピアノ実技能力を持ったら,

個人レッスンを受ける必要があると思います。先生との一対一の指導により,学生の進歩はより明らかな のです。この視点から見ると,ピアノグループ・レッスンの短所は,やはり細かな指導に限界があること でしょう。(広東外国語芸術職業学院1年生)

⇒「個人レッスンを受けたいです。先生の教えることを十分に学べるのです。(広東外国語芸術職業学院1 年生)

⇒「グループ・レッスンと個人レッスン両方とも受けるなら一番いいと思います。(広東外国語芸術職業学 院1年生)

⇒「1年生の時はグループ・レッスンで学ぶのがまだいいですが,2年生からは個人レッスンまたはより少 人数のグループ・レッスンの形で学んだ方がいいと思います。自分のミスをすぐ発見し,直すことができ る。(広東外国語芸術職業学院1年生)

2.4 アンケートについての考察

アンケートの結果を見ると,169名の学生の中では80%以上の人が電子ピアノでのグループ・レッスンを受 けたことがある。個人レッスンを体験した学生は約60%も占めているので,グループ・レッスンと個人レッス ンとも経験ある学生は約半分である。

しかし,なぜピアノグループ・レッスンより個人レッスンの方が好きな学生は75%もいるだろうか?その原 因は,個人レッスンが①細かな指導を受けられること(87.30%),②一つの授業に学べる内容量が多くて効率 が高いこと(70.63%),③学生自分のペースで授業できること(68.25%),などに魅力があるからであろう。

それに対して,ピアノグループ・レッスンが好きな学生は,ピアノグループ・レッスンは,①授業で緊張し ないこと(78.57%),②相互学習ができること(76.19%),③人の演奏を聞くことができること(57.14%),な どの利点を挙げている。

「グループ・レッスン派」と「個人レッスン派」両方を統合して,電子ピアノでのグループ・レッスンは,

①相互学習ができ,お互いの長所を生かせること(67.46%),②いつも人前で演奏するので,演奏の時の過度 な緊張や不安感を克服できるようになること(55.62%),③豊富な教授テクニックがあって,学習に対する意 欲が高められること,などの優れた点があると思われている。また,電子ピアノでのグループ・レッスンは,

①指先のタッチは良くないこと(72.78%),②細かな指導に限界があること(64.50%),③自分のペースでで きなく,それぞれの個人に応じた教育ができないこと(40.24%),などの欠点があることも指摘されている。

したがって,ピアノグループ・レッスン,特に電子ピアノでのグループ・レッスンをより推進するためには,

グループ・レッスンの専門的教師を育成し,専門的教材を開発する他に,グループ・レッスンと個人レッスン の割合をバランス良くさせ,学生が両種のピアノ・レッスンとも受けられるようにする必要があるだろう。こ の理由は,両種のピアノ・レッスンそれぞれの長所を活かせ,短所を避けられるからである。

(12)

3.ピアノグループ・レッスンの実際例

3.1 東北師範大学

東北師範大学音楽学院では,2003年から電子ピアノでのピアノグループ・レッスンの実践が始まった。しか し,学生たちの電子ピアノでのグループ・レッスンへの反対意見により,2004年9月からの新学期では,もと のピアノグループ・レッスンのように戻った。即ち,一つの授業時間に教師が1人で学生8人を1人づつで教 える形である。

3.2 吉林芸術学院

吉林芸術学院音楽学院では,2001年から電子ピアノでピアノグループ・レッスンの実践が始まった。電子ピ アノ教室には教師用電子ピアノが1台,学生用が16台を設置しており,音楽教育学部の学生だけではなく,音 楽学学部,表現学部などの学生も含み,1学年に232人の学生がこの教室でピアノグループ・レッスンを受け ている。

電子ピアノグループ・レッスンの授業時間は2年度計4学期とし,毎学期に17週,毎週に2授業時間であり,

毎学期に総計34授業時間である。一つの授業には教師1人が8人または16人の学生を教える。授業にはレコー ダ,ビデオなどのマルチ・メディアも用い,独奏,一斉演奏,合奏,4手(多手)演奏などの様々の形である。

授業内容はピアノ実技の他に,楽典,和声,伴奏などの内容も含まれている。

学生は各自のピアノ実技などのレベルにより,5つのクラスに分けられている:①入学時にまったくピアノ を弾けない人たち ②入学時にチェルニーの教則本Op.599(『第1課程練習曲』)の中期レベルを持つ人たち ③ 入学時にチェルニーの教則本Op.599の後期レベルを持つ人たちである。④入学時にチェルニーの教則本Op.849

『30番』)の中期レベルを持つ人たちである。⑤入学時にチェルニーの教則本Op.299の前期レベルを持つ人た ちである。チェルニーの教則本Op.299(『40番』)の前期レベル以上に達した学生は,成績も配慮した上に,電 子ピアノでのピアノグループ・レッスンからピアノでの個人レッスンや少人数のピアノグループ・レッスン

(一つの授業を2つに分けて,学生1人づつが指導される形である)に転入できる。

2003年度の成績を見ると,電子ピアノグループ・レッスンを受けた学生は,校内ピアノ試験の合格率は98%

に至り,「優」をもらった学生は30%も占めている11)

3.3 星海音楽学院

星海音楽学院音楽教育学部では,電子ピアノでのピアノグループ・レッスンは週2授業時間計80分間がある。

ピアノ専攻以外の学生たちのピアノ・レッスン,鍵盤和声及び即興編曲授業,ピアノ専攻の学生のグループ演 奏練習の3つの内容は電子ピアノグループ・レッスンの形でやっている。

3.4 広東外国語芸術職業学院

ピアノグループ・レッスンはチェルニーの教則本Op.599程度以下の学生を対象としており,1年生と2年生 に行われている。グループ・レッスンの担当教師は3〜4名で,電子ピアノでやっている教師もいるし,ピア ノでやっている教師もいる。専門的電子ピアノ教師がおらず,授業に使う教材は『全国高校音楽教育専攻教材 ピアノ』(中華人民共和国国家教育部体育衛生及び芸術教育司 1998)12)と『ピアノグループ・レッスン教程』

(李和平 2003)13)である。当校では音楽教育学生の即興伴奏能力を重視しているため,採用された教材にはピ アノ実技の内容の他に,即興伴奏に関する楽典,和声などの内容も含まれている。

(13)

3.5 その他

北京師範大学芸術・メディア学院では,非ピアノ専攻の学生でも,全部個人のピアノ・レッスンを行ってい る。

中央民族大学音楽学院では,音楽教育専攻の学生は週1回計2授業時間のピアノ授業があり,電子ピアノで グループ・レッスンの形でやっている。

また,広州にあるもう一つの4年制大学華南師範大学音楽学院では,電子ピアノのグループ・レッスンは週 1回計2授業時間があり,一つの授業に学生5人を対象として行われている。電子ピアノでやっているといっ ても,実は一つの授業を5人分に分けて順番に個人レッスンのようにやっている。

各大学・課程でのピアノグループ・レッスンに使う教材は,各自の編纂したものの他に,『高等師範院校試 用教材 ピアノ基礎教程 修訂版(1〜4)15)(韓林申,李暁平,徐斐,周荷君 2003)『ピアノグループ・レッ スン教程(1〜2)(李和平 2003)『全新電子ピアノグループ・レッスン教程(上・下)16)(李美格 2004)

『高等音楽(師範)院校 ピアノ分級教程(1〜6)17)(楊鳴 2004)など,様々である。

4.まとめ

中国の教員養成大学・課程におけるピアノ・レッスンは,従来では一対一の個人レッスンの形でやってきた が,近年では,電子ピアノでのグループ・レッスンの形で行うところが益々増えてきている。

一対一の個人レッスンでは,学生は細かな指導を受けられ,教師はそれぞれ個人の実際に応じた授業を行う ことができる。しかし中国では課題も見られる。一つ目は,個人レッスンにおける教師の人数が不足している こと。二つ目は,学生に対するピアノの実技の過度な要求のため,その結果学生の創造的学習能力及び授業能 力が無視される傾向があること。三番目は,少人数のピアノグループ・レッスンでは,ピアノ一台あたりの学

図6.『高等師範院校試用教材 ピアノ基礎教程 修訂版3』

図7.『高等音楽(師範)院校 ピアノ分級教程6』

図4.教育部体育衛生及び芸術教育司編

『全国高校音楽教育専攻教材 ピアノ2』

図5.李和平著

『ピアノグループ・レッスン教程2』14)

(14)

生人数が多くなり,学生1人ひとりに当てる指導時間が少なくなる現実もある。短い授業時間には,新しい学 習内容の練習や楽典・和声などの勉強はほとんど不可能である。

それに対して,電子ピアノでのピアノグループ・レッスンでは,1人の教師の授業に学生8〜20名を教える ことが可能になり,人に邪魔されずに個人の練習をできる他に,先生の指導も可能になり,学生同士とのアン サンブルもできる。マルチ・メディアの機能を使えば,楽典や曲想に関する内容も学べる。このような授業で は,学生が主体的に練習し,学生同士が協力し合うことにも慣れていく。

しかし,アンケートに現れたように,電子ピアノでのピアノグループ・レッスンには,専門的教師が足りな い,専門的教材が少ない,授業の中では個人に対する指導が不足などの問題点がある。

これらの問題を解決するには,ピアノグループ・レッスンの教材を開発する他に,多くの人が感じたように,

これからはより科学的に個人レッスンと電子ピアノでのグループ・レッスンをバランス良く統合することであ ろう。

1)中国では「師範教育」と呼んでいる。

2)日本の3年制専門学校に相当する。

3)日本の4年制大学に相当する。

4)日本の「学習指導要領」に相当する。

5)1998年に「中華人民共和国教育部」と改称した。

6)韓林申,李暁平,徐斐,周荷君(1983,1984,1985)『高等師範院校試用教材 ピアノ基礎教程(1〜4)』上海文芸出 版社 この教材は,中華人民共和国教育委員会が1981年に告示した「高等師範院校ピアノ教学大綱(草案)」に基づく編 集したものである。

7)1980年に,広東省音楽家協会が「音楽教育委員会」を成立し,学校音楽教育に関して,教育行政部門の補助となる。

1986年3月に,中国音楽家協会が「音楽教育委員会」を成立し,「国民音楽教育改革研究討論会」を開いた。その後,

この研究討論会は2年毎に開き,音楽教育に関する事情を検討し,全国における音楽教育を発展することを促進する。

8)OHP,テープレコーダ,テレビなどの電器設備を備えた教室であり,現在ではコンピュータも含めたマルチ・メディア 教室に当たる。

9)馬達(2002)『20世紀中国学校音楽教育』 上海教育出版社 p314.

10)この地図は,中国の国家基礎地理情報センターのHP(http://nfgis.nsdi.gov.cn/)に載ってある地図に基づき,筆者が加 工したものである。

11)胡広権,唐明順,劉暁秋(2003)「利用先進教学設備,大力推進教学改革――音楽学院 電子ピアノグループ・レッス 教学浅析」『吉林芸術学院学報』2003年第2期,pp.44〜48

12)中華人民共和国国家教育部体育衛生及び芸術教育司(1998)『全国高校音楽教育専攻教材 ピアノ』 上海教育出版社 13)李和平(2003)『ピアノグループ・レッスン教程(1〜2)』 上海音楽出版社

14)李和平著『ピアノグループ・レッスン教程2』の目次

サブタイトル 内   容

1.ピアノ鍵盤理論とテクニック ① 三和音とその転回

② 調内並行三和音との転回

③ 音符記号による転回の演奏

④ 属七和音

⑤ 三和音と属七和音

⑥ 指定した音高を根音として和音を構成する練習

⑦ ペダルの使い方

2.初見視奏 ① エチュード

② カノン

(15)

15)韓林申,李暁平,徐斐,周荷君(2003)『高等師範院校試用教材 ピアノ基礎教程 修訂版(1〜4)』上海音楽出版社 16)李美格(2004)『全新電子ピアノグループ・レッスン教程(上・下)』 人民音楽出版社

17)楊鳴(2004)『高等音楽(師範)院校:ピアノ分級教程(1〜6)』 中央音楽学院出版社

参考文献

1.李和平(1999)「ピアノグループ・レッスンの教学実験と研究」『高等師範教育研究』1999年第2期,pp.71〜76 2.陳宗花(2003)「新時期歴届国民音楽教育改革研討会文献資料研究」 河南大学修士論文

3.馬達(2002)『20世紀中国学校音楽教育』 上海教育出版社

サブタイトル 内   容

3.独奏と合奏

4.創造的活動 ① 和音づけと即興演奏

② 和音進行

③ 伴奏の和音練習

④ 旋律の即興伴奏 1.ピアノ鍵盤理論とテクニック ① 主和音

② 属和音

③ 属七和音の進行

2.初見視奏 ① エチュード

② カノン 3.独奏と合奏

4.創造的活動 ① 和音づけと即興演奏

② 根音,三音,五音での即興伴奏

③ 旋律の即興伴奏

④ 左手伴奏

⑤ 両手伴奏

⑥ 聴音による暗記演奏 1.ピアノ鍵盤理論とテクニック ① 下属和音

② 下属和音の四六の和音

③ 異なるスタイルの伴奏音型

2.初見視奏 ① エチュード

② カノン 3.独奏と合奏

4.創造的活動 ① 和音づけと即興演奏

② 祝日音楽に和音づけをする練習

③ 根音,三音,五音での即興伴奏

④ 旋律の即興伴奏

⑤ 聴音による暗記演奏

⑥ コードネームによる即興伴奏

参照

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