小学校「特別の教科 道徳」における発達障害児及 びその傾向のある児童への指導上の工夫・配慮
著者 青木 利樹, 田中 亮, 奥住 秀之
雑誌名 東京学芸大学紀要. 総合教育科学系
巻 72
ページ 217‑224
発行年 2021‑02‑26
その他の言語のタイ トル
Moral Education Support for Elementary School Children with Developmental Disabilities
URL http://hdl.handle.net/2309/166810
* 1 東京学芸大学大学院 教育学研究科教育実践専門職高度化専攻特別支援教育高度化プログラム
* 2 長野県塩尻市立塩尻東小学校(393‑0712 長野県塩尻市塩尻町 426)
東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科
* 3 東京学芸大学 特別支援科学講座 発達障害学分野(184‑8501 東京都小金井市貫井北町 4‑1‑1)
小学校「特別の教科 道徳」における
発達障害児及びその傾向のある児童への指導上の工夫・配慮
青木 利樹
* 1・田中 亮
* 2・奥住 秀之
* 3発達障害学分野
(2020 年 9 月 29 日受理)
1.はじめに
特別支援教育の開始からすでに 10 年以上が経過し た。LD等の知的な遅れのない発達障害の子どもの支 援については,年々その重要性がいわれるようになっ ている(奥住,2019;田中・奥住,2019)。こうした 現状を受けて,小学校学習指導要領(平成 29 年告示)
の各教科では,「第 3 指導計画の作成と内容の取扱 い」に「障害のある児童について」に関する記述が追 加された。
ところで,小学校学習指導要領が改訂され「特別の 教科 道徳」(以下,道徳科)が新たに行われるよう になった。道徳科の目標をみると,「よりよく生きる ための基盤となる道徳性を養うため,道徳的諸価値に ついての理解を基に,自己を見つめ,物事を多面的・
多角的に考え,自己の生き方についての考えを深める 学習を通して,道徳的な判断力,心情,実践意欲と態 度を育てる」とある。発達障害のある児童の中には,
自己を見つめることや物事を多面的・多角的に考える ことについて困難を抱える者が少なくない。例えば ASD児では「他者の見えの理解」,「他者の知識の理 解」,「他者の感じていることの理解」に関する「視点 取得」に困難があることが指摘されている(奥田・井 上,2000)。このように発達障害のある児童が小学校 学習指導要領にある道徳科の目標をじゅうぶんに達成 するためには,何らかの特別な配慮が必要であるに違 いない。「小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 特別の教科 道徳編」をみると,「発達障害等のある
児童に対する指導や評価を行う上では,それぞれの学 習の課程で考えられる『困難さの状態』をしっかりと 把握した上で必要な配慮が求められる。」とある。ま た,「内容項目について単に知識として観念的に理解 させるだけの指導や,特定の考え方に無批判に従わせ るような指導であってはならない」とあり,他の教科 とは違った特別な配慮が必要になると考えられる。し かし,問題解決的な学習や評価に関する検討は行われ ているが(遠藤ら,2017),発達障害のある児童に対 する配慮に関する研究は少ない。
本研究では,道徳科における発達障害のある児童及 び発達障害の傾向のある児童(以下,発達障害児)へ の指導上の工夫と配慮(以下,支援)の現状と課題を 検討する。その際,「他の教科にもおける共通の支援」
と「道徳科独自の支援」の視点からの検討を試みる。
2.方法
2.1 対象と手続き
A県B市の市立小学校全 8 校に調査協力の依頼を し,承諾が得られた 7 校に所属する通常の学級の道徳 科を担当する教員を対象に,郵送法による質問紙調査 を行った。質問紙は 20XX年 10 月に配布し,同年 11 月に回収した。
全市立小学校 8 校のうち,質問紙調査に承諾したの は 7 校であった(承諾率 87.5 %)。 7 校で該当する教 員数は 53 人であり,53 部の質問紙を配布し,回収数 は 51 部であった(回収率 96.3 %)。この 51 部全てが
回答に不備がなかった(有効回答 100%)。
質問紙のフェイスシートより,51 部の回答者の属 性 は 以 下 の 通 り で あ る。 性 別 は, 男 性 が 17 名
(33.3%), 女 性 が 34 名(66.7%) で あ っ た。 教 師 歴
(有期雇用の期間を含む, 1 年未満切り捨て)の平均 は 16.7 年(SD11.8 )であった。保有する教員免許状 は,幼稚園が 14 名(27.5 %),小学校が 51 名(100%),
中学校が 29 名(57.9 %),高等学校が 29 名(57.9 %),
特別支援学校が 2 名( 4 %)であった。道徳科を担当 している学級の平均児童数は 19.2 名(SD7.2 )であっ た。また,道徳科を担当している学級に発達障害児が 在籍していると回答した教員は 41 名(80.4 %)であっ た。
2.2 質問内容
質問紙調査の内容を表 1 に示した。道徳科を含む全 ての教科の学習指導で行っているもの,道徳科で特に 行っているものについて,それぞれ表 2 の支援内容か ら当てはめるものの回答を求めた。表 2 の支援は,小 学校学習指導要領(平成 29 年告示)の各教科の解説 から抜粋したものである。また,道徳科で行っている
発達障害児への支援で得られた成果と今後の課題につ いても自由記述で回答を求めた。
2.3 分析
質問項目「『特別の教科 道徳』を含む全ての教科 の学習指導で行っている発達障害児及びその傾向のあ る児童に対する指導上の工夫又は配慮」と「『特別の 教科 道徳』のみで行っている,または『特別の教科 道徳』で特に力を入れている発達障害児及びその傾向 のある児童に対する指導上の工夫又は配慮」について は,質問紙で両方の項目で丸を付けたものを「○○」,
前者のみ丸を付けたものを「〇×」,後者のみ丸を付 けたものを「×○」,両方とも丸が付かなかったもの を「××」とし,選択肢ごとにその人数と選択肢内の 割合を求めた。
自由記述式の「『特別の教科 道徳』の時間に行っ ている発達障害児及びその傾向のある児童に対する指 導上の工夫や配慮で,得られている成果」と「『特別 の教科 道徳』の時間において,発達障害児及びその 傾向のある児童に対する指導上の工夫や配慮での今後 の課題」については,第一筆者が回答を類似した内容 表1 質問紙調査の内容
質問項目
「特別の教科 道徳」を含むすべての教科の学習指導で行っている発達障害児及びその傾向のある児童に対す る指導上の工夫又は配慮
「特別の教科 道徳」のみで行っている,または「特別の教科 道徳」で特に力を入れている発達障害児及び その傾向のある児童に対する指導上の工夫又は配慮
「特別の教科 道徳」の時間に行っている発達障害児及びその傾向のある児童に対する指導上の工夫や配慮で,
得られている成果
「特別の教科 道徳」の時間において,発達障害児及びその傾向のある児童に対する指導上の工夫や配慮での 今後の課題
表2 選択肢の内容
選択肢 A.教科書の文を指等で押さえながら読むよう促す。
B.拡大コピーをしたものを用意する。
C.分かち書きされた教材を用意する。
D.読む部分だけが見える自助具(スリット等)を活用する。
E.児童の日常的な生活経験に関する例文を示す。
F.文章中のキーワードを示す。
G.気持ちの変化を図や矢印などで視覚的にわかるように示す。
H.児童の興味・関心や生活経験に関連の深い題材を取り上げる。
I.既習の言葉や分かる言葉に置き換える。
J.本時の活動の流れを黒板に記載しておく。
K.手順等を視覚的に捉えられる掲示物やカードを明示する。
L.その他
X.特に行っていない。
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ごとに分類した。
3.結果
3.1 道徳科で特に行われている支援
表 3 は質問項目「『特別の教科 道徳』を含む全て の教科の学習指導で行っている発達障害児に対する指 導上の工夫又は配慮」と「『特別の教科 道徳』のみ で行っている,または『特別の教科 道徳』で特に力 を入れている発達障害児に対する指導上の工夫又は配 慮」の回答である。質問紙で,両方の項目で該当する としたものを「○○」,前者のみ該当するものを「〇
×」,後者のみ該当するものを「×○」,両方とも該 当しないものを「××」として,選択肢ごとにその人 数と割合を示し,特徴ごとに 4 つの群に分類した。括 弧内は,解答教員数を道徳科担当学級に発達障害児が 在籍すると回答した人数(41 人)で除した値(%)
である。
「○○」は,「道徳科以外の全ての教科の学習指導で も行っている支援だが,道徳科で特に力を入れてい る」ことを示す。「〇×」は,「全ての教科の学習指 導で行っている支援であり,道徳科でも同様に行って いる」ことを示す。「×○」は,「道徳科以外の全て の教科の学習指導では行っていない支援であり,道徳 科で特に行っている」ことを示す。「××」は,「道徳 科を含む全ての教科の学習指導で行っていない」とい うことを示す。
「Ⅰ型」は,「○○」が 40%以上,「〇×」が 20%以 上 40%未満,「×○」が 20%未満,「××」が 40%未 満と定義した。選択肢Gがこれに該当する。「○○」
「×○」の合計の人数が多いことから,道徳科で特に 力を入れられている支援である。
「Ⅱ型」は「○○」が 20%以上 40%未満,「〇 ×」
が 20%以上 40%未満,「×○」が 20%未満,「××」
40%未満と定義した。選択肢Iが該当する。「○○」
「〇×」の人数が多いことから,全ての教科の学習指 導で行っている教員が多く,また道徳科で特に力を入 れている教員も多い。
「Ⅲ型」は「○○」が 20%未満,「〇×」が 10%以 上 40%未満,「×○」が 20%未満,「××」が 40%以 上 70%未満と定義した。選択肢A,E,F,H,J,
Kが該当する。「○○」,「×○」の人数が少ないこと から,道徳科含む全ての教科の学習指導で一律に行わ れている支援である。
「Ⅳ型」は「○○」,「〇×」,「×○」の全てが 10%
未満,「××」が 70%以上であり,選択肢B,C,D が該当する。「○○」「〇×」「×○」がきわめて少な く,「××」が多いことから,道徳科を含む全ての教 科の学習指導で行っている教員が少ない。
表 4 は,質問項目「『特別の教科 道徳』を含む全 ての教科の学習指導で行っている発達障害児及びその 傾向のある児童に対する指導上の工夫又は配慮」の選 択肢L「その他」で得られた回答について,「ICT教 材」「発問」「授業参加」「学習活動」「板書」の項目に 分類したものである。表 5 は,「『特別の教科 道徳』
のみで行っている,または『特別の教科 道徳』で特 に力を入れている発達障害児及びその傾向のある児童 に対する指導上の工夫又は配慮」の選択肢L「その 他」で得られた回答について,「発問」「授業参加」
「学習活動」「共通」の項目に分類したものである。 2 つの表を比較すると,場面理解や登場人物の心情理解 のために「役割演技」や「寸劇」等が道徳科で特に行 われている。また,「読み書き」に困難がある児童に 対しては,言葉で聞く,質問するといった支援が道徳 表3 道徳科で特に行われている支援について
型 選択肢 ○○ 〇× ×○ ××
Ⅰ型 G 17(41.5) 9(22.0) 6(14.6) 9(22.0)
Ⅱ型 I 12(29.3) 16(39.0) 1(2.4) 12(29.3)
Ⅲ型
A 3(7.3) 11(26.8) 1(2.4) 26(63.4)
E 2(4.9) 15(36.6) 0(0) 24(58.5)
F 5(12.2) 14(34.1) 0(0) 22(53.7)
H 7(17.1) 13(31.7) 3(7.3) 18(43.9)
J 7(17.1) 8(19.5) 2(4.9) 24(58.5)
K 7(17.1) 14(34.1) 0(0) 20(48.8)
Ⅳ型
B 4(9.8) 4(9.8) 3(7.3) 30(73.1)
C 0(0) 1(2.4) 0(0) 40(97.6)
D 0(0) 0(0) 0(0) 41(100)
科で特に行われている。
3.2 道徳科で行っている発達障害児への支援で得 られた成果
道徳科を担当している学級に,発達障害児が在籍 し,道徳科で支援を行っていると回答した教員は 41 人であった。このうち「道徳科で行っている発達障害 児への支援で得られた成果」について回答が得られた のは 31 人(回答率 77.5 %)であった。
表 6 は,「道徳科で行っている発達障害児への指導 上の工夫又は配慮で得られた成果」についての回答で ある。成果を「ストーリー理解」「授業参加」「指導方 法」「道徳科の内容」「他の児童」「成果はまだ得られ ていない」に分類した。各項目の括弧内の数字は「項 目の総回答者数」を示す。教材の「内容」や「登場人 物の心情」,「場面の様子」のような「ストーリーの理 解」ができるようになったと回答した教員が最も多 い。また,発達障害児に対する配慮が,「配慮が必要 でない生徒にとってもわかりやすい授業となってい
る」ということも見て取れる。
3.3 道徳科で行っている発達障害児への支援にお ける今後の課題
道徳科を担当している学級に発達障害児が在籍して いると回答した 41 人のうち,「道徳科で行っている発 達障害児への指導上の工夫又は配慮における今後の課 題 」 に つ い て 回 答 が 得 ら れ た の は 33 名( 回 答 率 80.5%)であった。
表 7 は,「道徳科で行っている発達障害児への支援 における今後の課題」についての回答である。「教員 の課題」と「児童の困難」に分類した。さらに「教員 の課題」は,「教材」「支援」「展開」「環境づくり」
「児童の発言への姿勢」「国語科との違い」「発問」
「SST(ソーシャルスキルトレーニング)との関連」
に,「児童の困難」は「他者理解」とさらに分類した。
「教員の課題」,「児童の困難」,「項目名」の括弧内の 数字は各項目の「総回答者数」を示す。課題点として
「教材」を挙げた教員が多く,その中でもデイジー教 表4 「『特別の教科 道徳』を含むすべての教科の学習指導で行っている発達障害児及び
その傾向のある児童への指導上の工夫又は配慮」の選択肢 L「その他」の回答内容
項目 指導上の工夫又は配慮
ICT教材 電子教科書を使って視覚的に捉えられるように配慮している。
ICTを活用して提示する。
タブレットの音読機能の活用。
発問 教科書の内容に合わせた問いかけ。
「選択」して答えられるような発問。
授業参加 多動の傾向が見られるのでその支援。
学習に興味を示すような声掛け。
学習活動 他の児童の考えを受けて参考とする場の設定。
問題数を減らす,できる範囲のことをさせる。
板書 今 どこを板書するか,何をやっているか視覚的に分かるように磁石(目 立つ色のもの)を使う。
表5 「『特別の教科 道徳』のみで行っている,または『特別の教科 道徳』で特に力を入れている発 達障害児及びその傾向のある児童への指導上の工夫又は配慮」の選択肢 L の「その他」の回答内容
項目 支 援
発問 文 字の読み書きに困難があるため,ノートに書かせることより言葉で聞 いたり,質問したりしている。
授業参加 多動の傾向が見られるのでその支援。
学習活動 読 み物資料を読むのではなく,お話しや寸劇等にして,場面理解ができ るようにする。
気持ちを喜怒哀楽で記述させている。
疑 似体験的な活動(役割演技)を行い,登場人物の気持ちを考えさせて いる。
共通 全ての教科と同様に行っている。
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科書やデジタル教科書といったICT教材充実や有効活 用が多かった。また,教材や授業づくりに関する課題 だけではなく,「認められる」「認め合える」雰囲気を つくるといった学級づくりも挙げられている。
4.考察
本研究では,道徳科における発達障害児への支援の 現状と課題について, 7 校の小学校教員を対象として 検討した。その結果,支援はⅠ〜Ⅳ型の 4 群に分ける 表6 道徳科で行っている発達障害児への支援で得られた成果
項目 成 果 人 数(人)
ストーリー理解
(13)
教材(話)の内容理解が深まっている。
登場人物の心情を考えることができている。
場面の様子を捉えやすくなっている。
6 4 3 授業参加
(12)
発言が増えた。
意欲が高まった。
ノートへの記述ができるようになった。
ワークシートへの記入を熱心に行っている。
考えを得られるようになった。
自分の考えをまとめられるようになった。
なぜそう思ったのか理由を言えるようになった。
クラスの児童と一緒に考え,自分の考えを時折話すことができた。
短時間であるが,落ち着いて取り組めることもある。
集中する姿が多くなった。
2 2 1 1 1 1 1 1 1 1 指導方法
(3)
ICT機器は児童の反応も良く,効果が高い。
「自分」というカード(掲示物)を活用し,自分に置き換えて考えさせるよう にしている。
2 1
道徳科の内容
(4)
考えを深めるべき内容が分かりやすい。
道徳の時間は変わっていく気持ちを感じていくことなのだということを意識で きるようになってきた。
3 1
他の児童(2) 配慮が必要でない児童にとってもわかりやすい授業となっている。 2
成果はまだ得られていない。 3
表7 道徳科で行っている発達障害児への支援での今後の課題
項目 課 題 人数(人)
教員の 課題
(34)
教材(17) ICT教材(デイジー教科書,デジタル教科書)の導入と有効活用すること。
視覚的な教材を充実させること。
分かち書きや挿絵を有効活用すること。
教材研究等の時間の確保。
8 7 1 1 支援(5) 支援員の導入。
個に応じた支援。
道徳的価値の理解を深めるための支援。
3 1 1 展開(4) 活動を取り入れた展開を工夫する。
より実践的で日常に焦点を当てた活動を取り入れること。
相手の気持ちを知り,どういうときにどうしたらいいのか学べるようにする。
善悪の判断や美しいと思えるような心が育つような授業づくり。
1 1 1 1 環境づくり
(3)
考えを認められる雰囲気をつくる。
周りの友達も認め合える雰囲気をつくる。
落ち着いて学習に取り組める環境をつくる(学習意欲や集中力を持続できる支援)。
1 1 1 児童の発言への
姿勢(2)
話や発言を聞いてあげること。
児童に無理に発表をさせず,ゆったりとした気持ちで発表に参加させること。
1 1 国語科との違い
(2)
国語の読み取りと道徳の違いを意識して,指導の工夫をする。
発達障害のある児童に国語との違いをどのように感じ取らせたらよいか。
1 1
発問(1) 児童が選択できるような発問をすること。 1
SSTとの関連
(1)
ソーシャルスキルトレーニングとの関連を図ること。 1
児童の 困難
(3)
他者理解
(3)
気持ちによりそうことが大変苦手であり,自分の感情を表出することも困難である。
人物の行動や心を感じたり,考えたりすることが苦手。
友達との話し合いができない。
1 1 1
ことができた(表 8 )。「Ⅰ型」の選択肢Gは,道徳科 で特に行われている支援であり,「気持ちの変化を図 や矢印などで視覚的に分かるように示す。」というも のである。道徳科の教科化に合わせ,小学校学習指導 要領(平成 29 年告示)解説「特別の教科 道徳編」
に検定教科書の使用が義務づけられた。また,指導方 法の例として,登場人物の立場に立って自分との関わ りで道徳的価値について理解することが挙げられてお り,「教科書を読み,登場人物の心情を考える」とい う授業展開が想像される。しかし,発達障害児は他者 理解に課題がある者が多く,小学校で道徳科が教科と して実施される前に行われた「道徳教育に係る評価等 の在り方に関する専門家会議」においても,発達障害 児の「困難」として,「他者の気持ちを想像すること が苦手」が挙げられている(文部科学省,2016)。こ うしたことから,選択肢Gが道徳科において特に行わ れている支援であることが推察される。
「Ⅱ型」の選択肢Iは,道徳科を含む全ての教科の 学習指導で行われ,かつ,道徳科の時間に特に力を入 れている。選択肢Iは「既習の言葉や分かる言葉に置 き換える。」というものであるが,発達障害児は顕著 な知的な遅れはないものの,学習への意欲の低下など から,同学年の児童と比べ,獲得語彙が少ないことが ある。そのような実態を受けて,多くの教員が全教科 で選択肢Iのような支援を行っていると推察できる。
また,小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説「特 別の教科 道徳編」には,「児童が教材の内容を把握 して道徳的価値の理解を図ったり,自己を見つめたり することができるように,児童の発達の段階に即した 内容,表現であることが求められる。」とある。選択 肢Ⅰは児童の発達の段階に即した内容,表現に近づけ る支援であるため,特に道徳科で行っている教員が多 いことが推察される。
「Ⅲ型」の選択肢は,道徳科含む全ての教科の学習 指導で一律に行われており,「Ⅳ型」の選択肢は,道 徳科を含む全ての教科の学習指導であまり行われてい ないものである。この 2 群の差異に注目すると,「Ⅲ
型」に分類された項目はかける時間や経費が少ないも の,「Ⅳ型」に分類された項目はそれらが多いものと,
時間的,金銭的コストの差異が影響している可能性が ある。
また,選択肢L「その他」について,道徳科で特に 行われている支援として「寸劇」や「役割演技」が挙 げられた。小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解 説「特別の教科 道徳編」の「発達障害等のある児童 や海外から帰国した児童,日本語習得に困難のある児 童等に対する配慮」として,他者の心情を理解するた めに役割を交代して動作化,劇化することが挙げられ ていることと関連がみられる。また,「読み書き」に 困難がある児童に対し,「ノートに書くことより,言 葉で聞いたり,質問している」というものも挙げられ た。道徳科の評価は,児童の学習状況や道徳性に係る 成長の様子を継続的に把握し行うとされている。その ため,「言葉で聞いたり,質問している」という支援 は道徳科の特性を生かしたものであると考えられる。
次に,道徳科で行っている発達障害児への支援で得 られた成果については,「内容」や「場面」,「登場人 物の心情」など「ストーリーの理解」に関する成果が 最も多かった。選択肢Gや「寸劇」「役割演技」など,
発達障害児の他者理解への困難に対する支援を行って いる教員が多いことが予想される。また,「配慮が必 要でない児童にとってもわかりやすい授業となってい る。」という回答が得られ,発達障害児への支援が全 ての児童に向けたいわゆる「ユニバーサル化」につな がっていることが推察される。
最後に,道徳科で行っている発達障害児への支援の 今後の課題について考察する。まず,ICT教材の充実 や有効活用を課題として挙げた教員が多かったことに ついて,対象とした市は特別支援学級児童には一人 1 台のタブレット端末を配布しているものの,通常の学 級の児童にはまだ配布されていない。水内(2015)は 発達障害児へのICT教材の有効性と必要性について指 摘しており,今後はICTの利活用がますます重要とな るであろう。また,発達障害児の在籍する学級の雰囲
群 支援 選択肢
Ⅰ型 道徳科で特に行われている支援 G
Ⅱ型 道徳科を含む全ての教科で行われており,
道徳科でも力を入れている支援
I
Ⅲ型 道徳科含む全ての教科の学習指導で一律に行われている支援 A,E,F,H,
J,K
Ⅳ型 道徳科を含む全ての教科の学習指導で行われていない支援 B,C,D 表8 支援の分類
東 京 学 芸 大 学 紀 要 総合教育科学系 第 72 集(2021)
気づくりも課題として挙げられた。曽山・堅田(2012)
は友だちからの受容の重要性について指摘している が,このような回答は,発達障害児の個性が学級で受 容されることが重要であることを示唆していると考え られる。
付記
本研究にご協力いただきました先生方に感謝いたし ます。本研究の内容の一部は,日本特殊教育学会第 57 回大会(Web発表)で発表した。
引用文献
1) 遠藤信幸・永田繁雄・松尾直博・面川怜花・川井優子・
齋藤大地・幸阪創平(2017)「特別の教科 道徳」 における 問題解決的な学習と評価の研究.東京学芸大学附属学校 研究紀要,44,19‑35.
2) 水内豊和(2015)発達障害児(者)へのICT機器活用の 基本的視座.日本教育工学会論文誌,39(2),117‑122.
3) 文部科学省(2016)道徳教育に係る評価等の在り方に関 する専門家会議「特別・教科 道徳」の指導方法・評価 等について(報告)
4) 奥田健次・井上雅彦 (2000)自閉症児への「心の理論」指 導研究に関する行動分析学的検討̶誤信課題の刺激性制 御と般化̶.心理学評論,43,427‑442.
5) 奥住秀之(2019)インクルーシブ教育システムと新学習 指導要領.教室の窓,58,18‑21.
6) 曽山和彦・堅田明義(2012)発達障害児の在籍する通常 学級における児童の学級適応に関する研究.特殊教育学 研究,50(4),373‑382.
7) 田中亮・奥住秀之(2019)小学校の通常の学級における 特別支援教育の推進―学級経営・授業改善,校内連携,
校内体制を中心に―.東京学芸大学紀要 総合教育科学系,
70,383‑392.
*1 Graduate School of Education, Tokyo Gakugei University
*2 Shiojiri East Elementary School / The United Graduate School of Education, Tokyo Gakugei Univershity
*3 Tokyo Gakugei University (4‑1‑1 Nukuikita-machi, Koganei-shi, Tokyo, 184‑8501, Japan)
小学校「特別の教科 道徳」における
発達障害児及びその傾向のある児童への指導上の工夫・配慮
Moral Education Support for Elementary School Children with Developmental Disabilities
青木 利樹
* 1・田中 亮
* 2・奥住 秀之
* 3 AOKI Toshiki, TANAKA Ryo and OKUZUMI Hideyuki発達障害学分野
Abstract
The present situation and difficulties of educational support for children with developmental disabilities were examined for moral education classes in elementary school. In a municipal elementary school in A city, a questionnaire survey was administered by post to the teacher in charge of moral education. Educational support for moral education is divisible into four groups according to its characteristics. Results of the survey suggest that educational support for children with developmental disabilities led to universalization of classes. Results also suggest that the class atmosphere is important and that, although ICT teaching materials were effective, they were not sufficiently widely used.
Keywords: elementary school, regular class, moral education, developmental disabilities
Department of Developmental Disabilities, elementary school, moral education, regular class Tokyo Gakugei University, 4-1-1 Nukuikita-machi, Koganei-shi, Tokyo 184-8501, Japan
要旨 : 小学校通常の学級の「特別の教科 道徳」における,発達障害児及びその傾向のある児童への指導上 の工夫・配慮の現状と課題について検討した。ある 1 つの市を対象とし,市立小学校 8 校中 7 校の「特別の教 科 道徳」を担当している教員に郵送法による質問紙調査を行った。「特別の教科 道徳」で行われている指 導上の工夫・配慮は,その特徴から 4 群に分けることができた。成果についての調査では,発達障害児への指 導上の工夫・配慮が授業のユニバーサル化につながっていることが示唆された。また,課題として,ICT教材 が有効であるにも関わらず,十分に普及されていないことや,学級の雰囲気が重要であることが示唆された。
キーワード : 小学校,通常の学級,「特別の教科 道徳」,発達障害