特別活動でOECD準拠型コンピテンシーを育成するた めの指導方法の開発に関する成果と課題
著者 林 尚示, 安井 一郎, 鈴木 樹, 眞壁 玲子
雑誌名 東京学芸大学紀要. 総合教育科学系
巻 72
ページ 85‑100
発行年 2021‑02‑26
その他の言語のタイ トル
Results and Issues in Developing Instructional Methods for Fostering OECD Compliant
Competencies in Extracurricular Activities
URL http://hdl.handle.net/2309/166799
* 1 東京学芸大学 教育学講座 学校教育学分野(184‑8501 東京都小金井市貫井北町 4‑1‑1)
* 2 獨協大学(340‑0042 埼玉県草加市学園町 1 番 1 号)
* 3 鎌倉女子大学(247‑8512 神奈川県鎌倉市大船 6 丁目 1 番 3 号)
* 4 千代田区立教育研究所(101‑0048 東京都千代田区神田司町 2 丁目 16)
特別活動で OECD 準拠型コンピテンシーを育成するための 指導方法の開発に関する成果と課題
林 尚示
* 1・安井 一郎
* 2・鈴木 樹
* 3・眞壁 玲子
* 4学校教育学分野
(2020 年 9 月 29 日受理)
1.はじめに
本研究は,特別活動で
OECD準拠型コンピテンシー
を育成するための指導方法の開発に関する成果と課題 を明らかにすることを目的としている。近年,
OECD
「国際学習到達度調査」(Programme for International Student Assessment, PISA
)が各国の教 育政策に影響を及ぼしている。OECD生徒の学習到達 度調査とは,経済協力開発機構(OECD
)によって実 施される国際的な生徒の学習到達度調査のことである。2000 年から 3 年単位で実施されている。対象は 15 歳 の生徒で,これは,
OECD
加盟国の多くが 15 歳を義 務教育修了段階としているためである。この調査では,国際比較によって各国が教育方法を改善していくこと や,義務教育の標準化を図ることなどが期待される。
2018 年調査は,OECD加盟 37 か国,非加盟 42 か国・
地域で合計 79 か国・地域,そして約 60 万人の生徒を 対象として実施されている。この調査のもととなるコ ンピテンシーなどがどのように指導されているか,そ してどのように指導方法を改善していけるかというこ とを一連の研究で検討してきた。
一連の研究では,日本の特別活動で
OECD
準拠型コ ンピテンシーを育成できるかということがリサーチク エスチョンであった。そして,どのような特別活動で どのような指導方法を活用するとより効率的にOECD
準拠型コンピテンシーを育成できるか,どのようにそ の教育効果を把握するかといったことがサブクエス チョンである。科学研究費補助金による 2 期 6 年にわたる研究が一 区切りを迎えるため,現状を整理し,次につなげるた めに研究の総括をすることとした。対象とした研究は,
次の 8 論文である。「特別活動で社会的資質を育成する ための指導内容と指導方法の開発に関する基礎研究:
東京学芸大学附属竹早小学校の学級活動の分析を通し て」(林・安井・鈴木,2016),「特別活動で社会的資質 を育成するための指導内容と指導方法の開発に関する 基礎研究(1)」(林・安井・鈴木,2016),「特別活動で 社会的資質を育成するための教育課程と教育方法の検 討」(林・安井・鈴木,2017),「特別活動で社会的資質 を育成するための指導内容と指導方法の開発に関する 基礎研究(2)─生徒指導及び道徳教育の機能に着目し て─」(林・安井・鈴木,2017),「特別活動で社会的資 質を育成するための指導内容と指導方法の開発に関す る基礎研究(3)─学級活動を事例として─」(林・安 井・鈴木,2018),「学級活動で
OECD
準拠型コンピテ ンシーを育成するための指導方法の開発に関する研究─小金井第二小学校の話合い活動を事例として─」
(林・安井・鈴木・眞壁,2019),「小学校特別活動の学 級活動における授業評価に関する研究─小金井第二小 学校の学級活動(1)の実践を事例として─」(林・安 井・鈴木・眞壁,2019),「
The OECD Learning Compass
2030 と学級活動との対応に着目した特別活動でOECD 準拠型コンピテンシーを育成するための指導方法」(林・安井・鈴木・眞壁,2020)である。
特徴となるのは次の点である。初期には社会的資質 に着目し,その後
the OECD Learning Compass
2030 をよりどころとした。学校は東京学芸大学附属竹早小学 校,小金井市立小金井第二小学校などにご協力いただ いた。分析の視点として,生徒指導と道徳教育,教育 課 程 と 教 育 方 法 な ど に 着 目 し た。 教 育 方 法 に は,
Think-Pair-Share
とOne-minute paper
も含まれる。コン ピテンシー育成のために授業評価にも着目した。2.OECD の Education 2030 プロジェクトの視点から の検討
図 1 The OECD Learning Compass 2030
(OECD, 2019)
E ducation 2030 プロジェクトは,2015 年から
OECD
によって推進されてきたプロジェクトで,現在も進行 中である。このプロジェクトでは,2030 年を目安に して生徒に必要とされるコンピテンシーとそれに関連 する事柄が検討されてきた。現在のモデルを示すと次 のようになる。
OECD
のEducation
2030 プロジェクトでは,コンピ テンシーとともに,agency
とco-agency
が重視されて いる。コンピテンシーは文部科学省の資質・能力の一 部と重なり,agency
は文部科学省の主体的に学習に取 り組む態度と重なり,co-agency
は児童生徒同士,児 童生徒と教師,児童生徒と保護者,児童生徒と地域住 民等と協働する主体性である。OECDのモデルの特徴は
well-being
をめざすことである。
well-being
とは,社会の幸福のことである。そして,現在のところ,
well-being
は,the OECD Better Life Index(OECDのよりよい生活指数)によって,OECD
が必須であると特定した 11 のトピックに基づいて比 較可能であるとされている。11 のトピックとは,ハウ ジング,所得,仕事,コミュニティ,教育,環境,市民参加,健康,人生の満足,安全性,仕事と生活のバ ランス,である。教育を一例とすると,正規教育の平 均期間,
PISA
の平均成績,高等教育修了者の割合に よって調べられている。正規に教育を受けた期間(
Years in education
現在学校に通っている 5 歳から 39 歳までの人数から判断した平均値)は国により幅があ り,コロンビアは約 14 年間,オーストラリアは 21 年以 上,OECD
平均は約 17 年になる。(OECD
:2020a)「特別活動で社会的資質を育成するための指導内容 と指導方法の開発に関する基礎研究:東京学芸大学 附属竹早小学校の学級活動の分析を通して」(林他,
2016)では,OECDが参照していた研究組織 Center
for curriculum redesign
(CCR
)の 21st century education
による知識,スキル,キャラクターというコンピテン シーモデルが活用された。態度・価値の部分がキャラ クターとなっていることが特徴である。このキャラク ターには,思いやり,関心,勇気などの要素が含まれ ている。東京学芸大学附属竹早小学校の特別活動の時 系列分析により,コミュニケーションについての指導 が授業の中盤で,協働性についての指導が授業の終盤 で実施されていることが明らかとなった。コミュニ ケーションのスキルの指導は,比べ合う時間でペア学 習の場面であった。協働性のスキルの指導は比べ合う 時間でグループ学習の場面であった。これらはco-
agency
の育成に関連するものである。「特別活動で社会的資質を育成するための指導内容 と 指 導 方 法 の 開 発 に 関 す る 基 礎 研 究(1)」( 林 他,
2016)では,特別活動で社会的資質を育成するため に 21 世紀型教育,人権教育,生徒指導の機能を生か すことが検討された。特に人権教育については東京都,
神奈川県,埼玉県,川崎市,さいたま市などの資料を 収集し,CCRの提案する 21 世紀型教育のコンピテン シーとの関連を明らかにした。人権教育の教材を特別 活動で活用することで,21 世紀型教育のコンピテン シーの育成が可能であることを文献分析から明らかに した。
「特別活動で社会的資質を育成するための教育課程 と教育方法の検討」(林他,2017)では,海外との比較 を試みて,社会的資質の指導が台湾,フランス,日本 で異なることが明らかになった。台湾が教育課程に組 み込んだ深い学び型,フランスが教育課程外で行う対 話的学び型,日本はバランス型であった。
co-agency
につながる社会的資質の育成方法の違いはあるものの,各国が工夫して社会的資質の育成を指導に組み込んで いることが明らかになった。
「特別活動で社会的資質を育成するための指導内容
と指導方法の開発に関する基礎研究(2)─生徒指導 及び道徳教育の機能に着目して─」(林他,2017)で は,
OECD
の 2015 年のコンピテンシーモデルが使わ れている。ここでは,知識,スキル,エモーショナル クオリティ(emotional qualities
)が構成要素となって いる。一方で,actionにつなげるというモデルである ことは現在と一貫している。この段階は事前事後調査 等は試みず,理論研究と川崎市立稲田中学校や珠洲市 立宝立小中学校等への参観やインタビュー調査の段階 であった。「特別活動で社会的資質を育成するための指導内容 と指導方法の開発に関する基礎研究(3)─学級活動 を事例として─」(林他,2018)では,社会的資質と いうキーワードで
co-agencyについての検討をしてい
る。授業の映像分析によると,知識,スキル,態度・価値のキー・コンピテンシーの中ではスキルの指導に 重点が置かれていることも明らかになった。
「学級活動で
OECD
準拠型コンピテンシーを育成す るための指導方法の開発に関する研究─小金井第二小 学校の話合い活動を事例として─」(林他,2019),「小学校特別活動の学級活動における授業評価に関す る研究─小金井第二小学校の学級活動(1)の実践を 事例として─」(林他,2019)では,
OECD
のキー・コンピテンシーの知識,スキル,態度・価値を文部科 学省の資質・能力と対応させて評価する質問紙を作成 し実施した。
OECD
のpersonal
な態度・価値の向上が 確認でき,agencyの育成が把握できた。「
The OECD Learning Compass
2030 と学級活動との対 応に着目した特別活動でOECD
準拠型コンピテンシー を育成するための指導方法」(林他,2020)ではOECD
の学習過程である予測(anticipation
),実践(action
),振り返り(reflection)の
AAR
サイクルで授業展開をし,OECD
準拠型コンピテンシーの育成傾向を明らかにし た。このように,これまでの研究を振り返ってみると,次 の点が明らかになってくる。1 つ目に,
OECD
が目標 としているwell-being
について,研究の出発点で重視 していた人権教育の視点から補強することができるの ではないか。個人的に幸せで社会が幸せである前提と して,人権が尊重されている状態を目指すことと,人 権が侵害された場合は人権の回復がなされる仕組みの 実質化が必要ではないだろうか。この部分は,OECD
が必ずしも充分には意識しておらず,一方で,国連(
United Nations
)では常識となっている部分であるため,国連レベルで根拠のある発見となった。なお,国 連の目的は,平和と安全の維持,自決の原則,人権の
尊重である。OECDの
well-beingは,人権を尊重して,
それぞれの国が自決し,平和と安全を維持する基礎の 上に成り立つものである。
2 つ目に,OECD は well-being を the OECD Better
Life Index
で測定しているので,ハウジング,所得,仕事,コミュニティ,教育,環境,市民参加,健康,人 生の満足,安全性,仕事と生活のバランス,の状況を 正の方向に変化させることを意識した授業計画が必要 なのではないだろうか。日本の特徴として,the OECD
Better Life Index
では市民参加のグレードが 1.9 と極端 に低い。市民参加は,規制を策定するための利害関係 者の関与と投票率の指標から測定される。特に投票率 は,政治プロセスへの市民の参加の尺度で,政治への 信頼や社会的結束とつながるとされている(日本は 投票率 53%,40 か国中 36 位)。そして社会的結束がwell-being
に不可欠と考えられている。そのため,特別活動の学級活動などで集団への信頼,集団の結束な どの経験を積むことを意識的に指導することが重要で ある。
3 つ目に,特別活動で意識して Think-Pair-Share と
One-minute paper
などのアクティブ・ラーニングの手法を導入することや事前事後質問紙調査・教師対象イ ンタビュー調査などにより教育の効果を検証すること は,授業改善や教育政策の策定のエビデンスを提供す るといった意味においてとても重要なことである。ア クティブ・ラーニングという概念が日本に導入される 前から,特別活動では同様の活動が行われてきた。し かし,必ずしも自覚的ではなく無自覚的に指導方法を 採用していた。本研究では,アクティブ・ラーニング の 具 体 的 な 手 法 で あ る
Think-Pair-Shareと One-minute
paper
を活用することで,特別活動におけるアクティブ・ラーニングの指導法モデルの一例を確立できた。
(林 尚示)
3.The OECD Learning Compass 2030「変革を 起こす力のあるコンピテンシー」と特別活動
3.1 本節の目的
The OECD Learning Compass
2030 と特別活動との関 係について,筆者らは,「特別活動で社会的資質を育 成するための指導内容と指導方法の開発に関する基礎 研究(3)─学級活動を事例として─」(林他,2018)の研究以降,知識,スキル,態度・価値のキー・コン ピテンシーに注目し,学級活動を評価する質問紙を作 成し,小金井市立小金井第二小学校における学級活動 の実践の分析を行ってきた。しかし,図 1 のコンパス
の外側に示された「変革を起こす力のあるコンピテン シー(
transformative competencies
)」,その内容として の「新たな価値を創造する力(creating new value
)」,「対立とジレンマに対処する力(reconciling tensions &
dilemmas
)」,「責任ある行動をとる力(taking responsibility
)」 については,検討をしていない。「特別活動でOECD
準拠型コンピテンシーを育成できる」という本研究の 仮説を検討するためには,この部分が重要であると考 えられる。そこで,本節では,筆者らが検討してきた 小金井市立小金井第二小学校の学級活動の実践につい て,「変革を起こす力のあるコンピテンシー」,その内 容としての「新たな価値を創造する力」,「対立とジレ ンマに対処する力」,「責任ある行動をとる力」の観点 から検討する。図 1 の
the OECD Learning Compass
2030 の 外 側 に 示された 「変革を起こす力のあるコンピテンシー(transformative competencies)」は,特別活動において 育成されるコンピテンシーであると考えられる。「変 革を起こす力のあるコンピテンシー」は,「新たな価 値を創造する力(
creating new value
)」,「対立とジレ ンマに対処する力(reconciling tensions & dilemmas
)」,「責任ある行動をとる力(taking responsibility)」の 3 項目から構成されるが,これらを特別活動の目標と比 較する(文部科学省,2017a)。特別活動の目標にある
「集団や自己の生活上の課題を解決する」ということ は,「生活上の課題を解決する」ことに学級における 集会活動や学校行事を実施するということを含めて考 えると,「新たな価値を創造する力」である。特別活 動の目標の(1)における「多様な他者と協働する」,
目標(2)「集団や自己の生活,人間関係の課題を見い だし,解決するために話し合い,合意形成を図ったり,
意思決定したりすることができるようにする。」にお ける「合意形成」と「意思決定」は異なる立場や意見,
対立する立場や意見を調和するということであり,
「対立とジレンマに対処する力」を実践することを意 味する。「互いのよさや可能性を発揮」する,「多様な 他者と協働する」ということは,係活動,児童会・生 徒会活動,学校行事などにおいて,自分の役割を果た すということであり,「責任ある行動をとる力」を発 揮するということである。それらを通して,新たな学 校生活と新たな学校文化を創造していくというコンピ テンシーが,「変革を起こす力のあるコンピテンシー」
である。このように,特別活動は,the OECD Learning
Compass
2030 のこれらのコンピテンシーを育成する教育活動だと言える。
The OECD Learning Compass
2030 のコンピテンシー とかかわりの深いことは,学級活動についても同様で ある。筆者らが検討を行ってきた学級活動(1)につい ては,『小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 特別活動編』において,図 2 の通り「学習過程(例)」が例示されている(文部科学省,2017 p.45)。「①問 題の発見・確認」では,「学級や学校における生活上 の諸問題から課題を見いだ」す,「②解決方法等の話 合い」では,「よりよい生活づくりのために,(中略)
話し合う。」,「⑤振り返り」では,「一連の実践の成果 や課題を振り返り,結果を分析し成長を実感したり,
次の課題解決に生かしたりするなど,実践の継続や新 たな課題の発見につなげる。」とあり,これらは「新 たな価値を創造する力」である。「②解決方法等の話 合い」における「よりよい生活づくりのために,取り 組む内容や方法,役割分担などについて意見を出し 合ったり,くらべ合ったりしながら話し合う。」,「③
図 2 学級活動(1)の学習過程(例)(文部科学省:2017a)
解決方法の決定」における「意見の違いや多様性を認 め合い,折り合いを付けるなど集団としての考えをま とめたり決めたりして『合意形成』を図る。」という プロセスは,「対立とジレンマに対処する力」の発揮 場面である。「①問題の発見・確認」における「解決 に向けて自分の考えをもつ」,「②解決方法等の話合 い」における「役割分担」,「④決めたことの実践」に おける「決定したことについて,自己の役割を果たし たり,互いのよさを生かして協働したりして実践す る。」は,「責任ある行動をとる力」の育成の場面であ る。学級活動(1)では,「①問題の発見」「②解決方法 等の話合い」「③解決方法の決定」「④決めたことの実 践」「⑤振り返り」という一連のサイクルが「変革を 起こす力のあるコンピテンシー」を育成する。
3.2 小金井第二小学校の実践の分析
筆者らは,学級活動(1)の実践として,小金井市立 小金井第二小学校の事例を分析してきたが,
the OECD Learning Compass 2030 の「変革を起こす力のあるコン
ピテンシー」の視点では分析していなかった。そこで,「新たな価値を創造する力」,「対立とジレンマに対処 する力」および「責任ある行動をとる力」の 3 つの視 点から実践を分析することを試みる。筆者らが分析の 対象としたのは次の 2 つの既報の実践に関する記述で ある。質問紙の分析に加えて下記の 2 つの実践には,
実践の様子についての記述があったので分析の対象と した。
①「特別活動で社会的資質を育成するための指導内容 と指導方法の開発に関する基礎研究(3)─学級活 動を事例として─」(林他,2018)
②「小学校特別活動の学級活動における授業評価に関 する研究─小金井第二小学校の学級活動(1)の実践 を事例として─」(林他,2019)
3.2.1 「特別活動で社会的資質を育成するための 指導内容と指導方法の開発に関する基礎研究
(3)─学級活動を事例として─」の分析 この論文に掲載されている実践は,小金井市立小金 井第二小学校 5 年 2 組を対象とした担任・K 教諭(男 性)による 2017 年 3 月 10 日(金)3 校時に実施された 学級活動(1)「 1 年間お世話になった A 先生のお別れ 会を開こう」である。この学級の話合い活動は,国立 教育政策研究所『特別活動指導資料 楽しく豊かな学 級・学校生活をつくる特別活動(小学校編)』(国立教 育政策研究所,2014)に沿った典型的なものであった。
次に,中教審第 197 号の別添 17 3 「特別活動におけ
る学級活動・ホームルーム活動の学習過程のイメー ジ」との比較を試みている。この学習過程のイメージ 図は,先に検討した「学級活動『(1)学級や学校にお ける生活づくりへの参画』の学習過程(例)」(図 2 ) と流れは同じものである。
実践は,「①問題の発見・確認」の過程で,「『A 先 生のお別れ会をしよう』という『議題の確認』が行わ れ,『国語や社会の勉強を教えてもらって大変お世話 になったので,感謝の気持ちを伝えたい』という『提 案理由』が述べられ,K 教諭より『以前の○○先生
(教育実習生の先生)のお別れ会をふまえてよりよい ものにしていきましょう』というひと言諸注意が述べ られ,話合いが始まった」とある。「A 先生に感謝の 気持ちを伝える」お別れ会を催し,「以前の○○先生 のお別れ会をふまえてよりよいものにする」というこ とは,「新たな価値を創造する力」である。「②解決方 法の話合い」では,「出し物を『班ごとに行うか』『係 ごとに行うか』ということについて,『班ごと』を支 持する児童は『係と出し物は関係ない』という理由を 述べ,『係ごと』を支持する児童は『A 先生のお別れ 会のとき,係ごとに行ったら盛り上がった』という理 由を述べ,それぞれの賛成理由を述べる児童がほぼ同 数で,拮抗しなかなか合意形成が行われなかった」が,
「最終的には K 教諭の助言により『班ごと』に決定す るが,問題の解決に対して十分な話合いが行われ,全 員が納得して『班ごと』の出し物をすることができ」
たのである。このように,2 つの提案に対して,全員 の納得がいく合意形成を行うということは,「対立と ジレンマに対処する力」を発揮することであり,学級 活動(1)の話合い活動では,これに対処するコンピテ ンシーが実践を通して育成できる。「③活動方法の決 定」では,「『ドッキリをする』『プレゼント』『班ごと の出し物』『まちがいさがし』という A 先生のお別れ 会で行う事柄が合意形成の上決まっていった」のであ る。この過程は,お別れ会で行う事柄を考えるという 点においては,「新たな価値を創造する力」である。
しかし,この後の「④決めたことの実践」では,「『決 定した解決方法や活動内容を責任もって実践する。』
という活動が想定されて」おり,「話合いで決めた内 容と役割分担にしたがって,3 月 22 日(水)4 校時に,
『A 先生のお別れ会』の実践が行われた」のであるが,
このように「話合いで決めた内容と役割分担」を遂行 するということは,「責任ある行動をとる力」の発揮 ということである。
以上の通り,「学級活動『(1)学級や学校における 生活づくりへの参画』の学習過程(例)」に沿ってい
る本実践は,the OECD Learning Compass 2030 の「変 革を起こすコンピテンシー」の育成と合致している。
小さいながら学級に「変革を起こす」のである。
3.2.2 「小学校特別活動の学級活動における授業 評価に関する研究─小金井第二小学校の学級 活動(1)の実践を事例として─」の分析 この実践では,A 教諭による 3 年 1 組,B 教諭によ る 3 年 2 組,C 教諭による 3 年 3 組の学級活動(1)の 3 つの実践を比較した。3 年 1 組の議題は「雨の日に みんなで遊ぶ『何でもバスケット』の工夫を考えよ う」,3 年 2 組の議題は「みんなが楽しめるドッジボー ルの仕方を工夫しよう」,3 年 3 組の議題は「おにごっ こをする時に,クラスのみんなが仲良くなれるような 工夫を考えよう」である。議題の中に「みんなで遊 ぶ」「みんなが楽しめる」「みんなが仲良くなれる」と いう言葉が入っている。「みんな」で何かをするため には,異なる意見の「折り合い」と「合意形成」が必 要であるので,議題の中に「対立とジレンマに対処す る力」というコンピテンシーの育成が含まれる。そし て,「工夫を考えよう」「工夫しよう」というように
「工夫」という言葉が 3 つの組とも含まれているが,
「工夫」は「新たな価値を創造する力」である。
話合い活動では,この 3 学級に共通する指導として,
「先ず,提案理由に書かれた課題の解決に向けて話し 合うため,内容の共通理解を図った。次に,事前に考 えてきた解決方法を一人一人が発表し,意見の違いや 共通点をはっきりさせながら話し合うようにした。最 後に少数の意見も大切にしながら,多様な意見のよさ を生かして,学級全体で合意形成を図るようにし」て いる。「内容の共通理解」を図り,「意見の違いや共通 点をはっきりさせながら話し合う」,「少数の意見も大 切にしながら,多様な意見のよさを生かして,学級全 体で合意形成を図る」ということは,「対立とジレン マに対処する力」を発揮するということである。
3 年 1 組の指導目標は,「相手の思いを受け止めたり,
聞いたり,相手の立場や考え方を理解する。」というも のである。この項目は,『小学校学習指導要領(平成 29 年告示)』における学級活動の「 3 内容の取扱い」
に,「第 5 学年及び第 6 学年」の配慮事項として挙げ られているものである(文部科学省,2017a p.185)。
実践をした A 教諭から直接の言及はなかったが,本 実践ではこの項目を,発展的な学習として下位学年で 指導しているということになる。このことは, 3 年 1 組の話合い活動のスキルが高いものであることを示し ているといえよう。この目標の内容を,話合いのスキ
ルや態度と見れば,the OECD Learning Compass 2030 の中心にある態度(
attitude
)やスキル(skills
)に含 まれるものであるが,「変革を起こす力のあるコンピ テンシー」の視点で見るならば,「対立とジレンマに 対処する力」の育成につながるものである。3 年 1 組の実践では,次のように行われていく。
「出し合う活動では,①おにを 3 人にする。②自分の 名前の文字が入っていたら動く。③キャラクタークイ ズが分かった人が動く等である。比べる活動では,③ については,キャラクタークイズを『何でもバスケッ ト』に取り入れることで,(1)友達の新しい発見があ るかもしれない,(2)間違ったり合っていたりしてど きどき,わくわくして楽しそう,(3)どういうキャラ クターがいるのかを知ることができる,等の賛成意見 が多数だされた。まとめの活動では,③のキャラク タークイズを『何でもバスケット』に取り入れること に決定した。また,罰ゲームは,『歌かダンスをする。
歌は,自分の歌いたい歌でよいが,短くする』という ことに決まった」。これらの過程で決まったことは,
「新しい価値の創造」である。話合い活動の中で,教 師は,介入により 4 点の指導をしている。このうち,
「①まとめる活動の前に,提案理由に戻り,どの様な ルール,どの様な工夫をすれば楽しくできるかをまと めるよう指導した。」というものは,話合い活動が混 乱したときに目標を確認させるというものである。こ こに,「どの様なルール,どのような工夫をすれば楽 しくできるか」というものは「新たな価値を創造する 力」を再確認している。「②まとめる活動で,出され た意見を合体させる,反対意見を受けて改善する等,
学級全体で合意形成するための考え方を示した。③
『みんなが納得するようにするにはどうしたらよいか』
を考えるように発言した。」という部分は,「出された 意見を合体させる」「反対意見を受け入れて改善する」
という「学級全体で合意形成」を目指している。これ は「対立とジレンマに対処する力」である。質問紙で は「 1 .相手の思いを受け止めたり聴いたり,相手の 立場や考え方を理解する。」という項目に 5%水準で 有意差がみられたので,児童も合意形成ができたこと は実感している。
「A 教諭は教員としての経験年数は少ないが,過去に 1 年間本研究の研究協力者として 6 年生の学級活動の 実践に力を入れてきたこともあり,他の 2 名の教諭の 授業と比べて,児童の主体性に任せる傾向が強かっ た。」ので,このことは,「責任ある行動をとる力」と いうコンピテンシーの育成が図られたものであるとみ ることができる。ただし,後日に実施した実践の振り
返りの際,「校長から『先生のところ,なんか高学年並 みに子どもにお任せ』と指摘されているように,児童 の実態以上に任せる部分が多」いと指摘され,実際の 話合い活動でも児童だけで解決できない部分があり,
若干の混乱が見られている。このように,「児童に任せ る」,「主体性」,それらに基づく「責任ある行動をとる 力」というコンピテンシーの育成における指導法につ いては,どこまで児童に任せるかという点が課題であ る。しかし,教師の振り返りでは,この混乱を越えて,
「児童は大人が思いつかないような意見の合体,改善に アイディアを発揮し,自分たちなりに納得できる決定 をすることができた」という点が評価されている。ま た,質問紙調査において,「 1 .相手の思いを受け止め たり聴いたり,相手の立場や考え方を理解する」と「 7 . よりよい学級生活のために自主的に行動することがで きる」の 2 項目に有意な上昇が見られたが,他の 7 項 目については若干の低下が見られたことについて,「本 授業では,教師の目から見ると,すっきりまとまった 話合いにはなっていないが,普段の授業では活躍でき ないような児童も積極的に発言し,どのような意見に ついても『相手の気持ちになって考えること』を意識 したことにより,大人が思いつかないようなアイディ アで,自分たちなりに納得できる決定をしたことに よって,このような評価になったと考えられる。」と総 括されている。「大人が思いつかないアイディアで,自 分たちなりに納得できることを決定した」ということ は,「新たな価値を創造する力」である。「子どもに任 せる」ことによって混乱が生じながらも「新たな価値 を創造する力」が発揮されたということは,指導にお ける教師の介入との関係が示唆される。
3 年 2 組の指導目標は「お互いの意見をよく聞き合 いながら話し合う。」というものである。3 年 2 組の指 導目標は「お互いの意見をよく聞き合う」という話合い のスキルであり,これらも
the OECD Learning Compass
2030 の 中 心 に あ る 態 度(attitude) や ス キ ル(skills)に含まれるものである。しかし,これは,「前回の話 合いで児童がよく考えないで意見を述べていたことを 踏まえた」ものであると B 教諭は述べている。「B 教 諭は,振り返りの中で,『考える学級会にして欲しい』,
『分からないことがあったらよく質問してよく聞いて やろうっていう話をした』などと述べていた。」ので,
このことは,むしろ,話合いに参加する一人ひとりの 児童に対して「責任ある行動をとる力」を求めるもの であると言える。
3 年 2 組の実践では,「お楽しみ会のドッジボール の工夫について,意見を出し合ったが,主にチーム決
めについて意見が集中した。「男対女」「班対抗」「じゃ んけんでリーダーを決めてメンバーを選ぶ」「二人で グーパー」「赤対白」「出席番号順」等の意見が出され た。」という。これらの意見を「比べる活動」では,
「①これまでやったことがない」ということが一つの 観点になっている。このことから,「新たな価値を創 造する力」に向けて,話合いが進められたことが分か る。「③力の差がでないようなグループ分けにするに はどうしたらよいかという観点で意見が出された。そ して男対女のグループで行う方向にまとまった。『み んなが楽しめるように』という提案理由に立ち返って 話合いを進め,女子のグループが不利にならないよう にルールを決めて実施することが決まった。」とある が,一度「男対女」と決まったことに対して「みんな が楽しめるように」という提案理由に立ち返ったこと は,「対立とジレンマに対処する力」が考慮されてい る。
話合い活動の中で行われた教師の指導は,9 回あり,
教師の介入の頻度が高いものであった。これは,「 3 年生になって 3 回目の学級会ということで,話合いの 進め方,ルール,留意点等がまだ十分に身についてい ないことから,ただ意見を述べればよいのではなく,
話合いの流れを意識し,ルールを守って意見を交換す ることの重要性を理解させることが重視されている」
というものであるが,このことは,「責任ある行動を とる力」というコンピテンシーを考慮したものであり,
このことが今回の話合い活動において B 教諭に通底し ていたことがわかる。個々の介入については,「③工 夫は,チーム分けだけではなく,楽しめる工夫もある ことを話し,考えてきた意見を出すように促した。」
というものは,「新たな価値を創造する力」である。
「⑥多数意見に決まりそうな時,少数意見の発言を促 した。⑦多数決の前に,自分もよくみんなもよいもの を選ぶように促した。」「⑧多数決をとった時に出た不 規則発言に対して,話合いのルールがあることを指導 した。」というものは,「対立とジレンマに対処する 力」の育成を図るものである。これらの教師の介入か ら,話合いの状況によっては,適切な教師の助言指導 が必要なことが分かる。質問紙調査では,「 6 .集団の 一員であることを考え,集団で決定することができ る。」という項目が 5%水準で有意に低下した。担任は,
「活動の前は,できると思っていたが,実際に話合い 活動をしてみると難しかった」ということを実感した 児童がいたのではないかと捉えているが,児童たちが
「緊張とジレンマの融和」の難しさを実感していた結 果であると言えよう。このように,実際の自分たちの
問題として取り組むことを通してコンピテンシーを育 成することが,学級活動(1)の話合い活動の特徴だと 言える。
3 年 3 組の指導目標は「互いの意見を認めながらお にごっこのルールの工夫を話し合う。」である。この 中で,「互いの意見を認めながら」というのは,「対立 とジレンマに対処する力」を発揮する場面である。3 年 3 組の C 教諭は,授業の振り返りの中で,「『子ども 同士で活発に話し合わせたい』,『誰かが言ったことに 対して他の誰かがそれはこうじゃないのか,ああじゃ ないのかというような,意見が活発に出るといいな』
と語っている」が,このことは「新たな価値を創造す る力」を意図していると言える。「一方,学級の中に たくさん発言はするが折り合いをつけられないような 児童が数名いるということを踏まえ,『互いの意見に 折り合いをつけながら話し合う』ことをねらいとして いる」と振り返っているが,これは「対立とジレンマ に対処する力」の発揮場面である。
3 年 3 組の実践では,「『おにごっこをすると,タッ チされたのにされていないという人がいてトラブルに なるのでけんかがないようにしていきたい』という,
提案理由を受けて,話合いが進んだ」のであるが,こ のことは,議題が「おにごっこをする時に,クラスの みんなが仲良くなれるような工夫を考えよう」という ものであり,「工夫を考える」という「新たな価値を 創造する力」であると同時に,「けんかがないように していきたい」という「対立とジレンマに対処する 力」についての実践でもあることによる。この話合い における教師の指導は 4 点あるが,いずれも,「出し 合う,比べる,まとめる」という話合いの過程に関す るものである。この中で,「②折り合いを付けて話し 合う力を付けるために,『分からなかったら大きな声 で言ってくださいと言う。』『同じ意見があれば出す。』
『分からない時は,聞く。』等の指導をした。このこと で,主体的に話し合っていくことができた。」「④比べ る活動をしている中,新しい意見が出た際,意見の出 し方について指導した。」というものは,「対立とジレ ンマに対処する力」に関する指導である。「このこと で,出し合う,比べる,まとめる,の段階を経た話合 いの仕方について,共通理解が図られた。」が,「共通 理解を図る」ということで,「対立とジレンマに対処 する力」の育成が図られている。
「児童は具体的な意見を次々と出し,C 教諭も最後 の講評の中で,『誰かが話をしてそれでおしまいでは なくて,その話について僕はこう思うよ,こういうと きどうするの,納得できないからもう 1 回,じゃあこ
ういう場合はどうなのっていうのが,みんなの中でで きるのがすごく良かったなと思います。』と評価して いる」が,「納得できないからもう 1 回(説明して)」
「じゃあこういう場合はどうなの」というのは「対立 とジレンマに対処する力」の発揮場面である。さらに,
C 教諭は振り返りの中でも,「ある児童の発言に対し て,『そのままでは良くないけれど,じゃあこうした らいいんじゃないかって付け足す,プラスの意見をつ けてってというところが,まさに折り合いをつけると いうところになると思うので,こういうところを私は 評価しなきゃいけないんですよね,きっと。』と述べ,
折り合いをつける話合いとするためには,『なんか変 だな』『それってどういうこと』『それってこうすれば いい』『こうしたらいいんじゃない』等の児童の発言 を重視することの重要性を指摘している」が,「プラ スの意見をつける」ことと「なんか変だぞ」「こうし たらいいんじゃない」という感情や素朴な意見を重視 するということによって「折り合いをつける」という 指導方法を語っている。C 教諭の振り返りから,これ らは「折り合いをつける」という「対立とジレンマに 対処する力」であると同時に「新たな価値を創造する 力」と言える。換言すれば,学校生活の実際の場面で は,「対立とジレンマに対処する力」を発揮すること により,「新たな価値を創造する力」が発揮される。
このようにして,「変革を起こす力のあるコンピテン シー」が育成されるのである。
以上の考察から,学級活動(1)の実践では,the OECD
Learning Compass
2030 における「変革を起こす力のあ るコンピテンシー」が育成され,学級活動(1)はそれ を実践を通して育成する場であることに大きな特徴が あると言えよう。(鈴木 樹)
4.学校現場から見た the OECD Learning Compass 2030 と特別活動の関連
これからの予測困難な時代において,決まった答え のない複雑な問題を前に,すでに身に付けた知識・技 能をもとに自ら学び,考え,様々な人と協働しながら,
自主性をもち,それに対応することのできる人材が求 められている。
the OECD Learning Compass
2030 で示 されているコンピテンシー「変革を起こす力のあるコ ンピテンシー」,その内容としての「新たな価値を創 造する力」,「対立とジレンマに対処する力」,「責任あ る行動をとる力」を児童が身に付けていくためには,どのように教育活動を進めていったらよいか,学校現
場から考察する。
「新たな価値を創造する力」を育てるために,従来 行ってきた「何をするか」についての話合いの内容の レベルを上げて,「どのように行うか」という「活動 の工夫について」出し合い,比べ合い,まとめる活動 を行った。(「小学校特別活動の学級活動における授業 評価に関する研究─小金井第二小学校の学級活動(1)
の実践を事例として─」2018 年の実践から)具体的 には 3 年 1 組では,雨の日にする遊びを決めるのでは なく,雨の日に遊ぶ「何でもバスケット」の工夫を考 えた。何をして遊ぶかを決める話合いでは,決定する 内容は既に子どもたちの前に示されているが,「工夫 を考える」となると話合いの内容が難しくなっていく。
児童が解決に向け事前に調べてきたり,知恵を絞って アイディアを出し合ったりと,創造的な話合いの内容 となった。それぞれの考えのよさを認め合い,正解の ない問題,明らかな解決法が存在しない課題を解決す る過程を大切にした活動である。教師が意図的に話合 いの内容をレベルアップしていくことで,子どもに
「新たな価値を創造する力」を育成する手立てとなっ たことが明らかになった。
まとめる段階では,それぞれのよいところを合わせ るなどして,反対意見を合意形成していく活動をてい ねいに行った。
「The OECD Learning Compass 2030 と学級活動との 対応に着目した特別活動で
OECD
準拠型コンピテン シーを育成するための指導方法」(林他,2020)にお いて合意形成の活動の前にThink-Pair-Share
の手法を 導入することで,これまで話合いに終始していた活動 が,一旦個に戻って自分の考えを見つめ,整理し,ペ アで話し合うことにより,自分の意見を修正したり考 えを広げたりすることができ,自分や他者のよさに気 づく活動となった。Think-Pair-Share
を通して一人一 人の児童が主体的に話合いに参加した上で,対話的に 合意形成することで実践への意欲が高まった。このことから,
Think-Pair-Share
の導入は「対立とジレンマに対処する力」を育成するための有効な手立てとなる と考えられる。
話合いの終盤に,
One-minute paper
を活用すること で,自己を振り返り,児童が話合いにおいて自分の考 えを発表するだけでなく,発表をうなずいて聞いたり,質問したり,司会に協力したりと,自分の役割を果た すことができたと感じ,自分の存在を肯定的にとらえ られ,次への活動の原動力となった。
話合いによって決まったことを役割分担し,役割を 遂行する中で,「責任ある行動をとる力」の育成につ
ながると考える。
以上の予測,活動,振り返りのサイクルを行う中で,
よりよい学級・学校づくりの活動がなされ,「変革を 起こす力のあるコンピテンシー」が身につくと考える。
また,教員の指導の立場に立つと,特別活動の授業 後に画像や文字起こし,質問用紙のデータ等で授業内 容を可視化することで授業を客観的に振り返り,考察 することができた。データ分析により実践の成果と課 題が明らかになり,次への実践につなげることができ た。教員は本研究に関わることで,自分の授業の理論 的な背景を学び,指導法を工夫し,授業力を高めるこ とにつながった。このことがよい授業実践につながり,
児童のコンピテンシーの育成に貢献した。
研究当初,the OECD Learning Compass 2030 は,現 場とは遠い存在であったが,新学習指導要領と重ねな がら実践を考えていったところ,特別活動はコンピテ ンシーに直結するということが明らかになってきた。
特別活動の指導を意図的,計画的に積み重ねていくこ とで,児童にコンピテンシーを育てることができると いう検証結果を受け,今後も我が国の子どもが
well-
being
をめざしていくことを教育現場が中心となって応援していきたい。
(眞壁玲子)
5.The OECD Learning Compass 2030 における Student Agency と特別活動
平成 29(2017)年改訂の新学習指導要領は,「幼稚 園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学 習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答 申)」(中央教育審議会,2016)等の資料から判断して,
OECDの Education
2030 プロジェクトを意識して進められている。前節の学級活動(1)の分析で明らかにさ れたように,特別活動で育成される資質・能力と
OECD
の「変革を起こす力のあるコンピテンシー」とは,高 い共通性を有している。別の言い方をすれば,「変革を 起こす力のあるコンピテンシー」は,特別活動におい てこそ,最も良く育成される。しかし,図 1 で示され ているように,そのためには,student agency
が発揮さ れることが必要である。しかし,特別活動とstudent
agency
との関係についての研究は,まだ始まったばかりである( 1 )。
本稿 86 ページで,林は次のように指摘している。
「
OECD
のEducation
2030 プロジェクトでは,コンピテ ンシーとともに,agencyとco-agencyが重視されてい
る。コンピテンシーは文部科学省の資質・能力の一部と重なり,agencyは文部科学省の主体的に学習に取り 組む態度と重なり,
co-agency
は児童生徒同士,児童 生徒と教師,児童生徒と両親,児童生徒と地域住民等 と協働する主体性である。」OECDのコンピテンシー と文部科学省の資質・能力が,完全に一致するという わけではないが,両者にはかなりの一致が見られる。本項では,the OECD Learning Compass 2030 における
student agency
と特別活動の関係について考察する。なお,本節は,筆者らの科研研究と関連付けて発表さ れた「次世代の教育と児童生徒主体の学校生活づくり の課題」(日本特別活動学会第 28 回沖縄大会 課題研 究第 3 分科会「集団や社会の形成者を育てる特別活動
─児童生徒主体の学校生活づくりと特別活動の課題
─」提案 3 )発表資料に基づいている(安井,2019)。
文部科学省の白井俊(初等中等教育局教育課程課 教育課程企画室長)は,第 3 回主権者教育推進会議
(平成 30 年 12 月 26 日)の配付資料 3 「OECDにおける
Agency
に関する議論について」(白井,2018)において,agencyを,将来的な目標を見据える力,批判的思 考力,現状に疑問を持つ力等,「自ら考え,主体的に 行動して,責任をもって社会変革を実現していく力」
(p.4 )と定義し,その特徴について,次のように述べ ている。
Contextual
人や社会における関係性の中で育つものNon-linear
非直線的性格Multi-dimensional
多面的性格(道徳性,社会参画,創造性,等)
Not-replaceable by Artificial Intelligence
AI による代替 が困難(p.5 )その上で,学習指導要領における特別活動の目標に ついて,下線部が
agency
の考え方と共通性があると 指摘している。学習指導要領第 5 章(特別活動)
「集団や社会の形成者としての見方・考え方を働かせ,
様々な集団活動に自主的,実践的に取り組み,互いの よさや可能性を発揮しながら集団や自己の生活上の課 題を解決することを通して,次のとおり資質・能力 を育成することを目指す。
1 .多様な他者と協働する様々な集団活動の意義や 活動を行う上で必要となることについて理解し,
行動の仕方を身に付けるようにする。
2 .集団や自己の生活,人間関係の課題を見いだし,
解決するために話し合い,合意形成を図ったり,
意思決定したりすることができるようにする。
3 .自主的,実践的な集団活動を通して身に付けた
ことを生かして,集団や社会における生活及び人 間関係をより良く形成するとともに,人間として の生き方についての考えを深め,自己実現を図ろ うとする態度を養う。」(p.7 )
以上のように, 特別活動の目標のほぼすべてが
agency
の考え方と共通性を有している。別の言い方をすれば,学校教育において
agency
の育成を図る上で,特別活動がその中心的な役割を担うことができる,と 言うことができる。
以 下 で は,
the OECD Learning Compass
2030( 図 1 参照)におけるstudent agency(子どもたちの行為主
体性)とは何かということについて,「Student Agencyfor 2030
仮訳 2030 年に向けた生徒エージェンシー」(
OECD
,2020b)に基づいて,概観する。
OECD
では,student agency
という考え方は,「生徒 が自分の人生や周りの世界に対してポジティブな影響 を与えうる能力と意志を持っているという原則」にも とづいており,「変革を起こすために目標を設定し,振り返りながら責任ある行動をとる能力」と定義され る(p.3 )。
「 『Student Agency』
は
『生徒の自治(Autonomy)』,『生徒の声(
Voice
)』,または『生徒の選択(Choice
)』の同義語として間違って用いられることも多い」が,
「これらの概念以上の意味」をもっている。「自律的に 行動するということは社会から孤立して,あるいは私 利私欲を満たすために単独行動すること」とは異なる。
「同様に生徒エージェンシーとは,生徒が何でも好き なことを発言できるということでも,また好きなもの であればどの教科を選択してもよいということ」でも ない。(
OECD
,2020b p.4 )「生徒エージェンシーはアイデンティティーと所属感 の発達」と関連している。「エージェンシーを育むと き,生徒はモチベーション,希望,自己効力感,そし て成長する思考態度(能力や知能は発達可能であると いう理解)を支えとしてウェルビーイングの方向へと 指針を合わせ」ることができる。「こうすることで生 徒は目的意識を持って行動することができ,社会に出 ても活躍できる」ようになる。(
OECD
,2020b p.5 ) St udent agency,すなわち,教育において能動的な役 割を果たす子どもたちの能力は,図 1 に示されている ように,the OECD Learning Compass
2030 の全体を成立 させるキーコンセプトのような役割を果たしている。また,図 1 には,
student agency
とともに,co-agency
という概念も示されている。Co-agencyは,保護者,仲 間,教師,地域の人々といった他者との関係を意味している。「保護者や仲間,教師,そして広い範囲のコ ミュニティは生徒が持つエージェンシーの感覚に影響 を与え,また生徒も保護者や仲間,教師が持つエージェ ンシーの感覚に影響を与え,子どもの成長やウェルビー イングによい影響を与える好循環」を創り出す( 2 )。こ のように,「『協働的なエージェンシー(Collaborative
Agency)』としてしばしば言及される『共同エージェ
ンシー(
Co-Agency
)』は,人を取り巻く環境がその人の持つエージェンシーの感覚に与える影響」を含ん でいる。「効果的な学習環境は,生徒,教師,保護者,
コミュニティが共同して働く『共同エージェンシー』
の上に構築」される( 3 )。そこでは,「生徒だけではな く,教師や学校管理職,保護者,そしてコミュニティ の全員」が学習者であると考えられる。(OECD,2020b
pp.
6 7 )「伝統的な教育モデルにおける教師は,指導や評価 を通して生徒に知識を伝達すること」が期待されてい る。「一方,
Student Agency
を奨励するシステムでは,学習は,指導や評価だけではなく共に構築する営みで あるという考え方」が含まれている。「そのようなシ ステムでは,教師と生徒が互いに教えと学びの過程の 共同制作者」になる。そうすることで,「生徒は自ら の教育の中で目的意識を身につけ,学びのオーナー シップを得る」ようになる(図 3 を参照)。
もう一つ,コモングッド(みんながよくなる社会)に 向かって変化を起こすために必要な
collective agency
という概念がある。「集団エージェンシー(collective
agency
)とは,個々のエージェント(agent
)が同じ共同体,運動,またはグローバル社会のために行動を取 ること」を意味している。「集団エージェンシーは共同 エージェンシーと比べて規模が大きく,共通の責任,所 属感,アイデンティティー,目的や成果」を含んでい る。「政府への不信感,移民の増加,気候変動などの複 雑な課題は,集団での対応」を必要としている。「これ らの課題は社会全体で取り組まなければ」ならない。
「集団エージェンシーは,個々人の違いや緊張をひとま ず横に置き,共通の目標へ向かうために足並みを揃え ること」を求めている(4)。またそうすることで「更に 結束して一体化した社会を築くこと」ができる。(p.8 ) ここで考えなければならないのが,「教師と生徒が 互いに教えと学びの過程の共同制作者」になるという ことをどのように見取るのかということである。「社 会学者ロジャー・ハートは 90 年代初頭に子どもによ る活動や意思決定への参画レベルを表した『参画のは しご』を開発」した(Hart:1992,図 3 )。それから 26 年後の 2018 年に,「
OECD
生徒フォーカスグループ の生徒たち(10 ヵ国から任意でラーニング・コンパ スの発展のかじ取りを助けることに加わり,かつそれ ぞれの国からその活動を行うために選出された)は,はしごのモデルをもとに『共同エージェンシーの太陽 モデル』」を創り出した。(pp.8 9 )
図 4 共同エージェンシーの太陽モデル 光はみんなで一緒に輝いたとき一番明るくなる(p.10)
OECD Future of Education and Skills 2030 Student Focus Group
「生徒たちは,エージェンシーは直線よりも円のほう がより適切に表象されるとの結論に達したため,イメー ジをはしごから太陽に」変えた。また生徒たちは,共 同エージェンシーのすべての段階で大人と協働してい 図 3 参画のはしご
若者の参画を示した 8 つのレベル(p. 9)
(Hart, R. : 1992)( 5 )
るということ示したかった。0 .
Silenceから 8 . Young people-initiated and directed
に発展していくことによっ て,生徒と大人との協働の度合いが高まっていく。「エージェンシーの段階は高ければ高いほど,生徒と 大人双方のウェルビーイングにとって良い」状態に なっていく。(p.10)これは,子どもと大人,生徒と 教師が,どのように協働することによって,お互いが お互いをより良く実現できる社会や学びを創り出すこ とができるのか,そのプロセスを具体的に表している。
その意味で特別活動の自治的活動の指標となる。
以上のように,student agency,co-agency,collective
agency
を含むagency
という概念には,新学習指導要領で示された,特別活動の三つの視点である「人間関 係形成」,「社会参画」,「自己実現」のすべてが含まれ ていることがわかる。
特別活動は,自治と文化の創造を中核とする生活づ くりの活動である。その点から見ると,太陽モデルで
表された
co-agency
の発達のプロセスは,子どもと教師の協働による生活づくりのプロセスそのものを表し ている。協働という取組の形が自治の本質を表し,協 働の内容そのものが文化の内実を形成している。前項 で授業分析に用いられた各活動の学習過程の段階にお いて,co-agencyの太陽モデルをどのように組み込む ことによって,学級や学校における自治的能力の発達 を見取る指標として活用していくことができるのか,
その実践モデルを検討することが今後の課題となる。
(安井一郎)
6.まとめ
本研究では,特別活動で
OECD
準拠型コンピテン シーを育成するための指導方法について,これまでの 研究を俯瞰する方法で検討を深めた。その結果,次の3 点について新たな発見があった。
一つは,現在の
OECD
のコンピテンシーとエージェ ンシーの概念から一連の特別活動の研究を比較するこ とによって,well-being
をめざす特別活動とOECD
の 教育の方向性の共通点について整理することができた。そして,理論解釈だけではなく,川崎市立稲田中学校,
小金井市立小金井第二小学校,珠洲市立宝立小中学校,
東京学芸大学附属竹早小学校といった具体的な学校の 教育実践から裏付けが取れた。
二つは,「新たな価値を創造する力」,「対立とジレ ンマに対処する力」,「責任ある行動をとる力」といっ た変革を起こすコンピテンシーが特別活動に含まれて おり,そのことから,特別活動で
OECD
準拠型コンピ テンシーを育成できることが明らかとなった。さらに 言えば,特別活動はOECD
準拠型コンピテンシー育成 の場であることが明らかとなった。三つは,個別の研究では各コンピテンシーを中心と
and Practice of Involving Young Citizens in Community Development and Environmental Care, UNICEF. Modified from the Ladder of Student Participation by the OECD Student Sphere (Linda Lam, Peter Suante, Derek Wong, Gede Witsen, Rio Miyazaki, Celina Færch, Jonathan Lee and Ruby Bourke).
表 1 共同エージェンシーの段階(p.11)
0. Silence(沈黙)
若者が貢献できると若者も大人も信じておらず,大人が すべての活動を主導し,すべての意思決定を行うのに対 して若者は沈黙を保つ。
1. Manipulation(操り)
主張を正当化するために大人が若者を利用し,まるで若 者が主導しているかのように見せる。
2. Decoration(お飾り)
主張を助ける,あるいは勢いづけるために大人が若者を 利用する。
3. Tokenism(形式主義・形だけの平等)
大人は若者に選択肢を与えているように見せるが,その 内容あるいは参加の仕方に若者が選択する余地は少ない。
4. Assigned but informed(若者に特定の役割が与えられ,
伝えられるだけ)
若者には特定の役割が与えられ,若者が参加する方法や 理由は伝えられているが,若者はプロジェクトの主導や 意思決定,プロジェクトにおける自分たちの役割に関す る判断には関わらない。
5. Adult led with student input(生徒からの意見を基に大人 が導く)
若者はプロジェクトの設計に関して意見を求められ,そ の結果について報告を受けるが,大人がプロジェクトを 主導し,意思決定を行う。
6.
Shared decision making,adult led
(意思決定を大人・若 者で共有しながら,大人が導く)大人が進め,主導するプロジェクトの意思決定の過程に,
若者も参画する。
7. Young people-initiated and directed(若者が主導し,方向 性を定める)
若者が大人の支援を受けてプロジェクトを主導し,方向 性を定める。大人は意見を求められたり,若者が意思決 定しやすいように指針やアドバイスを与えたりするが,
最終的にすべての意思決定は若者が行う。
8. Young people-initiated, shared decisions with adults(若者 が主導し,大人とともに意思決定を共有する
若者がプロジェクトを主導し,意思決定は若者と大人の 協働で行われる。プロジェクトの進行や運営は若者と大 人の対等な立場で共有される。