奈良教育大学学術リポジトリNEAR
「読む力」の育成を目指した文章表現指導に関する 基礎的研究 −読むことと書くことの往還−
著者 西野 新之助
雑誌名 奈良教育大学教職大学院研究紀要「学校教育実践研
究」
巻 6
ページ 31‑37
発行年 2014‑03‑28
URL http://hdl.handle.net/10105/9875
-読むことと書くことの往還-
西野 新之助 Shinnosuke Nishino
奈良教育大学大学院教育学研究科教職開発専攻
School of Professional Development in Education, Nara University of Education
1. はじめに
本稿では文学的文章の一つである物語を読むとき に必要な文章を理解し、解釈する力、すなわち文章 表現を正確に読み取り、意味付ける力を「読む力」
と規定した
1)。 1. 1. 研究動機
日常生活で物語を読むとき、ストーリーを把握す ることに留まることは少なくない。ストーリーは物 語を理解する上で重要な要素である。ストーリーの 読み取りはプロットの読み取りに比べると、平易で あることから初めに読むことが多い。プロットは作 品の全体構造が捉えられなければ明らかにならない が、ストーリーは時系列に読むこと、つまり、前か ら順に読み進めることで明らかになる。
しかしながら、物語はストーリーだけでは捉える ことができない様々な表現によって構成されている。
ストーリーを追うことに終始する読み方は物語に編 み込まれている細部の表現を読み飛ばしがちになる。
だが、その細部の表現こそが物語を下支えしている のであり、それらを読み取らなければ物語を豊かに 読むことは難しい。表現を正確に読み取ることは物 語を豊かに読むための資源となるのである。
また、確かな読みを行うためにも「読む力」は必 要になる。授業で扱うことの意義は豊かさだけでは なく、確かさにおいても見出すことができる。表現 を正確に読み取るということは分析的に読むという ことでもある。日常で物語と出会い、経験する文学 体験は個人的な体験であり、他者からの承認を必要 としない。一個人の読みが教室空間で承認されたと き、その読みは確かな読みと言える。確かな読みは 承認を得るために必要なものである。ストーリー読 みから脱却し、豊かであり確かな読みを目指す。
現行の学習指導要領では、物語を書くことが書く ことの領域における言語活動例として挙げられてい
る。しかし、物語を書くための具体的な方法は学習 指導要領には明示されていない。
書くことの指導は単に書く能力を高めるだけでは ない。書くという行為を通して、複数の能力を同時 に育んでいるが、今回はその中でも読む能力に注目 した。
詳しくは後述するが、書くことと読むことは互い に関わり合う関係である。学習者が書き手を体験す ることで、読み飛ばしやすい表現や仕掛けに気付く。
その経験によって、物語を豊かに読むことができる のではないかと考えた。同時に、このことは確かな 読みを行うためでもある。物語を固定されたもので はなく、開かれたものとして読むことができるよう に創作活動を構想する。
1. 2. 研究目的
物語世界を豊かに、そして確かに読む手段として 物語創作を行うために必要な要素を見出し、授業を 構想する際に生じる課題を明らかにする。その上で 実施した授業実践について振り返り、得られた成果 とこれからの課題を整理することを目的とする。
1. 3. 研究方法
日本国語教育学会の「月刊国語教育研究」と全国 大学国語教育学会の「国語科教育」の 10 年分( 2003 年から 2013 年)とその他の先行研究等を概観し、単 元の中で創作活動がどのような手続きによって行わ れているか確認する。物語創作がどのように行われ ているのか明らかにするとともに先行実践で生じた 課題を把握する。
その上で筆者が学校実践Ⅲ
2)において実施した創
作活動の授業を振り返り、読む力を育てる物語創作
の授業構想に生かすことができるように成果と課題
を整理する。
2. 先行研究における物語創作 2. 1. 創作が読む力を育む可能性
読むことと書くことの関係を佐藤の学習過程モデ ルから考える。佐藤( 2004 )は「読むこと」の学習 過程を次のように示している
3)。
佐藤は『サーカスのライオン』を例として各段階 の活動を説明している
4)。
子どもたちに好きな動物について調べさせ、それ を紹介する文章を書かせる。これが表現1である。
そして、動物物語を書こうという願いを持たせた 上で、物語文「サーカスのライオン」を読ませる。
これが、理解である。その後、理解した物語文の 描写の仕方、比喩表現の仕方、文章構成の組み立 て方をもとに自分なりの動物物語を書かせる。こ れが表現2である。
書くことが読むことに繋がり、読むことが書くこ とへと繋がる。佐藤の指摘から表現と理解は表裏一 体の関係であることが分かる。このことから読む力 をつけるために書くことがアプローチとして有効で あると言えるのではないだろうか。
2. 2. 実践を概観するにあたって
創作活動を構想する際に想定される問題の一つと して創作する範囲の設定が考えられる。何もないと ころから立ち上げるのか、あるいは設定や制限があ るなかで進めるのかは各実践によって異なっている。
創作する範囲の異なる二つの実践を概観する。創作 する範囲の設定については後述する。
2. 3. 物語の後半部を創作した実践
青木( 2013 )は高等学校第二学年の「国語表現Ⅰ」
において「児童文学のリメーク作品を創作する」
5)ことを目標とした実践を行っている。この実践では
「着想・題材の収集・整理配列」を行う力を「構想 力」と規定し、この力を育てることに重きを置いて いる。青木によると、「実際のリメーク作品を鑑賞」
することと「リメーク作品の結末を予測する」こと が「物語創作のための構想指導」であると考え、本 格的な物語創作の前に二つの活動を設定している
6)。
リメーク作品の鑑賞では、元の作品と比べること によって二作品の異なるところを確かめている。さ らに、リメークされた作品における主人公の心情変 化を捉える活動も行っている。創作活動の前に読む 活動を積極的に実施している。青木の実践において
も書く活動の前に読む活動を取り入れている。
そして、創作に入る前にリメーク作品『三匹の コブタのほんとうの話』の読み聞かせを行ってい る。この時の教材ならびに学習活動の設定に関して 青木( 2013 )は「物語の創作という実践自体はそ れほど珍しくもない取り組みで、当時使っていた教 科書にも発展課題として、教科書準拠のワークブッ クに、イギリス童話『三匹のこぶた』をもとにした ジョン・シェスカ『三匹のこぶたのほんとうの話』
を例にした作品書き換えの実践指導案が載せられて いた。そこで私は、同じ『三匹のこぶた』の書き換 え作品である、ユージーン・トリビサス『3びきの かわいいオオカミ』をもとに、物語の後半部分を創 作させる試みに挑戦しようと考えたのである」
7)と 述べている。また、『三匹のコブタのほんとうの話』
を取り上げながら、具体的なリメークの方法につい て「中心人物を変える、時代や場所を変える、新しい 登場人物を出す、などを例として挙げた」
8)といって いる。予め指導者が具体的な方法を示すことによっ て、学習者は物語を考えるためのツールを用いるこ とができるようになる。一つの作品を用いながらリ メーク方法を示すことについても意義がある。元の 作品である『三匹のこぶた』とリメークの課題とな る『3びきのかわいいオオカミ』だけではなく、 『三 匹のコブタのほんとうの話』も扱うことで、創作ま での学習活動が二作品の場合よりも一段階、課題が 増えている。このようなスモールステップは「何を 書けばよいのかわからない」という声に表される学 習者の創作に対する抵抗を減らす役割がある。
創作する部分は『3びきのかわいいオオカミ』の 後半部である。前半部までの表現をもとに各自が後 半部を作る。なお、元々の後半部は、創作した物語 の相互評価や感想を記入する合評会の後、明らかに されている。その後は各自が選んだ作品をリメーク するということであるが、今回は後半部の創作につ いてのみ言及する。
元々、作られている物語の一部を創作すること のメリットは予め作られたものとの比較ができると いうことである。比較を通して、自分はこのように 作ったが、どうしてこのような書き方がなされてい るのかと文章表現を考えるきっかけとなる。青木の 実践においても「エンディングの見事さに感じ入っ た次第である」
9)とある。ここでの見事さとは、自分 たちが思い付かなかったようなことから生じた表現 ではないだろうか。書き手を経験し、元々の文章表 現と関わっているのである。
2. 4. 物語の続きを創作した実践
伊木( 2009 )は中学校第三学年において「人物像 をつむぐ―続き物語を書く―」という単元の実践を 表現1(個性)
↓ 理解(一般性)
↓ 表現2(個性+一般性)
西野新之助
行っている。教材は井上ひさしの『握手』である。
「視点をふまえて文章を読み、続き物語を書くこ とを通して、人物像をつむぐ能力を育てる」
10)とい う単元の指導目標に創作活動の位置付けがなされて いる。続き物語を書くことによって人物像をつむぐ。
人物像をつむぐことは読む能力の一つである。すな わち、読むために書くということが指導目標に示さ れている。
創作活動に入る前段階として視点に注目しなが ら文章を読むという活動が第一次に設定されている。
活動の意図として伊木は「冒頭の場面からこの作品 の場面設定と視点人物をとらえさせ、全文を読んで 人物像をつむがせていった」
11)と述べている。どの 視点から語られたものであるのか意識的になること で、学習者は視点人物が捉えた光景として文章表現 を理解する。作品世界は視点人物のフィルターを通 して得られたものであることを考慮して読むことで 学習者に視点人物がどのような考えの持ち主である のか検討することができる。視点を意識することは 確かな読みを目指すための手立てとなる。
第二次の創作活動では続き物語に三つの条件を課 している。条件は次の通りである
12)。
(1)視点人物である「わたし」とともに、「わた し」になりきって、「わたし」に同化して書く。
(2)一周忌を前にして、天国のルロイ先生へ手紙 を書く。
(3)書き出しはこのように
・上野公園の葉桜もそろそろ終わります。先生と お別れしてから、もう一年が経とうとしています。
……
これらの条件は物語の方向性に一定の制約を与 えている。ここでの制約とは否定的な意味合いでは ない。創作した続きが物語の続きとして整合性のあ るものになるように仕掛けられている。条件は学習 目標の達成を目指すための指標としてだけではなく、
書くことへの抵抗を軽減することにおいても機能し ている。
(1)は第一次に扱った視点と関連している。予 め視点をふまえながら読み進めることにより、視点 人物から見た物語世界を学習者は捉えている。その 視点人物である「わたし」の位置からルロイ先生に 向けて続きを書き表す。視点人物を変更することは 認められていない。それは、今まで読み進めてきた
「わたし」の視点とは異なる位置から物事を捉える ということであり、単元の指導目標に適合しないこ とが理由として考えられる。今までルロイ先生と関 わりのあった「わたし」だからこそ、思い付くであ ろう言葉を学習者は綴っていく。
(2)のような媒体の設定も学習活動を考える上 で重要な部分である。既に亡くなっているルロイ先
生に送るメッセージとして手紙を採用している。学 習者がつむいだ主人公の人物像が表出するような状 況を考慮した設定になっている。
伊木は「わたし」の思いを伝える手立てとして、
「作品の表現に学び、印象に残ったエピソード、指 文字、せりふなどを具体的に引用すること、語りか けるような文体にすること、余韻の残る印象的な結 びとすることなど、例示した方法を生かして表現 する」
13)としている。青木の実践と同様に具体的な 工夫の仕方について指導を行っている。引用は文章 表現を学ぶとともに物語本文に立ち返るきっかけと なっている。学習者は引用するとき、本文を振り返 り、引用部の表現に注目する。また、元の物語との 整合性を保つためにも本文に立ち返ることは必要と なる。
創作した続き物語は単に作るだけではない。作っ たものをそれぞれが批評する時間を設けている。元 の物語と整合性が保たれていなければ、指摘される 対象になる。集団で学ぶことにより、確かな読みに 近付く。
(3)に関して伊木は「書き出しでつまずきやすい 生徒のために、書き出しの例を示して書かせること を常としているが、この書き出しに必ずしもこだわ らなくてもよい」
14)と説明しており、書くことへの 抵抗を軽減する工夫であることが分かる。
2. 5. 創作活動を構想する際の留意点
創作活動の授業を構想するにあたって留意するこ とを整理する。
二つの実践から創作する範囲の設定について考え る。一つ目の青木の実践では物語の後半部を創作し ている。作者によって描かれている部分を学習者が 作るということである。それに対して伊木の実践は、
完結した物語の続きを書くということを創作と位置 付けている。続き物語を創作することは元々の物語 では描かれていない領域のため、どのような物語で も行うことができる。続き物語の創作は一部を書き 換える活動に比べ、物語を扱った単元に組み込みや すい。その点で汎用性が高いと言える。さらに、物語 の人物や状況の設定が既にあることも含めると、物 語展開の自由度は高いと言える。ただし、物語展開 の自由度と書くことへの抵抗は必ずしも一致すると いうわけではないことに留意する。
物語展開の自由度が最大のとき、つまり何も決め
られていない状態から物語を創作することは状況を
設定することから書き手に委ねられているため、何
を書けばよいのか分からない状態に陥る可能性があ
る。同じように、続き物語を書くときも元の物語が
描いていないところであるため、書けないというこ
とも想定される。このような事態を防ぐためにも、
伊木は三つの条件を提示していると考えられる。
では、物語の一部分を創作する活動に優位な点は あるのだろうか。優位な点は、元の物語にある表現 と比較することができるということである。続き物 語では元の物語との整合性を意識したとしても描か れていない領域のため、限界がある。学習者が創作 した物語と元の物語を比べることは物語の本文を正 確に読むためのきっかけとなる。そのきっかけから、
物語に配置されている表現の意図について考えを巡 らすことができる。本文を読むための創作を考えた とき、続き物語よりも有効であると言える。
次に、表現技法を学ぶ機会の設定が留意する点 として挙げられる。二つの実践では中心人物や状況 の変化、視点など表現技法についてふれられていた。
実際に物語の中で使うことにより、表現技法の習得 を目指す。
最後に、学習意欲の面である。実践を概観し、書 くことへの抵抗を減らす工夫が随所に見られた。学 習者が思わず書きたくなるような工夫を行う。
以上のことに留意し、中学校で実践を行った。
3. 学校実践Ⅲで得られた成果と課題 3. 1. 実践の概要
学校実践Ⅲの期間中( 2013 年 10 月 7 日から 2013 年 11 月 1 日)に、中学校第一学年において『星の花 が降るころに』の授業を行った。各時間の学習活動 は表1の通りである。
表 1 各時間の学習活動
時 学習活動
1 ・本文を読み、興味をもったこと、印象 に残ったところを記録し、感想を書く。
2 ・ 3
・時間や場所を捉え、場面展開を確認す る。
・本文の表現から中心人物の心情につ いて考える。
4 ・中心人物の心情変化を振り返る。
・戸部君に対する印象の変化を表現か ら考える。
5
・物語の続きを創作する。( 180 字程度)
・創作した物語を発表する。
※ 授業時間内に書き終わらなかった生 徒の分は後日、回収した。
創作するにあたって設定した条件は表2の通り である。三つの条件をスライドで提示するとともに、
口頭で説明した。
表 2 創作するときの条件
①『星の花が降るころに』とつながりのある 物語を作ろう。
②心象風景
15)と読むことができる文を一つ 以上書いてみよう。
③百八十字以上書こう。
3. 2. 教材内容と創作活動を設定した意図
本教材『星の花が降るころに』は安東みきえ作の 文学的文章である。光村図書1年に収録されている。
まずは、あらすじを示す。
主人公(名前は設定されていない。以下、「私」
と表記する。)は中学校に入ってから徐々に疎遠に なってしまった夏実と仲直りをしようと試みる。し かし、計画は失敗に終わる。落ち込んでいた「私」
であったが、同級生である戸部君の相手を思いやる 姿・発言から自分が悩んでいたことを相対化し、元 気を取り戻す。その後、 「私」は夏実との思い出の場 所であった銀木犀のある公園に行く。そこで、これ からの生き方に思いを馳せ、新たな一歩を踏み出す という話である。
あらすじの通り、夏実との関係は回復しないま ま物語は結末を迎える。また、冒頭部では戸部君が
「私」に対して好意を持っているように描かれてい るが、そのことに対する「私」の心情や直接的な戸 部君の発言・行動等は示されていない。実際に、子 どもたちの側からも初読後の疑問として声が上がっ た。
これらの疑問に対して何らかの意味付けを行うた めには本文の表現を正確に読むことが手立てとなる。
本文の表現を正確に読み取ることは今後、言語生活 を送る上で必要になる。子どもたちが一層、物語と 関わるために創作を試みた。
もう一つの意図は表現技法の理解を促すためであ る。子どもたちは前単元から情景描写を用いて主人 公の心理を表す表現方法を学習しており、今回も描 写の読み取りについては指導目標の一つとして設定 していた。自分たちがその表現方法を使ってみるこ とで表現技法の理解を深めるとともに表現効果を実 感することができるのではないかと考えた。
今回は物語の続きを創作している。完結した物 語としての内容理解と実習校の状況を考慮したため である。なお、目標とする字数は 180 字程度とした。
前時までの学習者の様子から授業時間内に終わる分 量を判断し、設定した。ただ、意欲的な学習者が多 かったことから目標字数よりも多く書こうとする学 習者が現れるのではないかと判断し、追加の原稿用 紙を用意した。
西野新之助
3. 3. 得られた成果
前節で述べた物語の中に描かれなかった部分に対 する学習者自身なりの意味付けがなされた作品が見 られた。主人公の行動によって夏実と仲直りする作 品以外にも夏実が主人公と関係を絶っていた理由が 明かされることにより和解する作品や戸部君の働き かけによって回復に向かう作品があった。
関係を回復させる方法は学習者によってそれぞ れ異なっており、物語本文の表現を伏線として扱い、
学習者独自の方法で伏線を回収していることが文章 から読み取れた。他にも戸部君との仲が深まるもの や仲直りはせず、前向きに生きる主人公の様子が描 かれたものも見られた。これらのことから学習者が 物語本文の表現を読み取り、意味付けたことがうか がえる。
また、予め設定していた人物の心理を描いた描写 表現を一文以上書き入れるという条件は続きを書い た生徒のほとんどが達成できた。創作の条件を設定 することにより、条件が表現技法の理解を促す役割 と理解しているかどうかを判断するための基準とし て機能していた。これは学習者が作り上げた成果物 に対する評価の観点になり得るだろう。
その他には、授業で目安とした目標の字数( 180 字程度)で満足せず、追加分の原稿用紙を取りに来 る生徒がクラスで7割ほど現れたことが挙げられる。
意欲的に取り組む姿が見られたことは成果の一つと 言える。
3. 4. 課題
授業実践を通して明らかになった課題の中でも特 に再考すべき課題について述べる。
授業計画の段階から想定された課題の一つとし て、元の物語と自分が作り出す続きとの整合性を保 つための条件設定が挙げられる。授業では「『星の 花が降るころに』とつながりのある物語を作ろう。」
と条件を設定し、さらに口頭で説明したが、整合性 を担保する説明とは言えなかった。たとえば、創作 した学習者自身が元の物語と繋がっている理由を文 章表現に則して述べるというような言語活動を取り 入れることで対処できたかもしれない。ただし、そ の場合はさらに時間を設ける必要が生じるため、単 元計画の再検討が必要である。
もう一つは各クラスで約1・2人が授業時間内に 書き始められなかったということである
16)。第5時 である本時までの学習活動ならびにワークシートや 机間指導での声かけ等を確認し、手立てを考える。
三つ目の課題は、元の物語にある表現の意図につ いて考えを深められたのか不明瞭だったということ である。それは完結した物語の続きを書くことが他 の創作方法に比べて「読む力」を育むものであった
かどうかと関わる。物語展開の自由度が高いことで 物語が多様な展開になり、本来の物語の内容と関わ りながら読む意識が薄れてしまうことが一部の生徒 に見られた。それを防ぐために細かな条件を設定す ることもできたはずである。学習者が、作者の表現 意図を考えられるように、より物語と対話するよう な関わり方ができないか検討する。
4. おわりに
本研究では、読む力の育成を目指す文章表現指導 について物語創作を用いてアプローチした。
読むことと書くことが表裏一体の関係であること を佐藤の学習過程モデルから明らかにし、創作が読 む力を育む可能性を示した。
二つの実践を概観し、物語創作を行うために必要 な要素として創作する範囲の設定、表現技法を学ぶ 機会の設定、学習意欲を向上させる工夫の必要性を 見出した。これらは同時に、授業を構想する際に生 じる課題となる。
そして、実践の場で創作活動を取り入れた授業を 行い、学習者自身で文章表現に対する意味付けがで きたこと、条件に設定していた表現技法を用いるこ とができたこと、予想を上回る多くの学習者が規定 字数以上の物語を創作したことは成果として捉える ことができる。一方で、続き物語であるが故の整合 性の保ち方に関する問題や授業内に書き始められな かった学習者への対応、よりよい創作活動の方法の 検討といったことが課題として浮かび上がった。構 想する際に生じる課題とともに乗り越えられるよう に研究を進める。
謝辞
連携協力校の校長先生、指導教諭をはじめとする 教職員の皆さま、生徒の皆さんに厚くお礼申し上げ ます。また、奈良教育大学教職大学院の松川利広先 生には丁寧なご指導をいただきました。本当にあり がとうございました。
註 1 )文章の解釈について、学習指導要領中学校国語
解説編には「文章の解釈とは,文や文章に書かれ
た内容を理解し意味付けることである。今までの
読書経験や体験などを踏まえ,内容や表現を,想
像,分析,比較,対照,推論などによって相互に
関連付けて読んでいく。文章の内容や構造を理解
したり,その文章の特徴を把握したり,書き手の
意図を推論したりしながら,読み手は自分の目的
や意図に応じて考えをまとめたり深めたりしてい
く。」と示されている。(文部科学省( 2008 )『中
学校学習指導要領解説 国語編』, 東洋館出版社)
2 )奈良教育大学教職大学院のストレートマスター が一年次に行う4週間の教育実習である。
3 )佐藤明宏( 2004 )『自己表現を目指す国語学力 の向上策』, 明治図書 p.27
4 )前掲書,佐藤( 2006 ), p.27
5 )青木はリメークという言葉について「本来「リ メーク」とは「新たに作り直すこと」の意であるが、
著名な映画作品のリメークなどが学習者たちの話 題に上ることが多いことから、学習者の馴染みや すさや意欲喚起も考慮に入れて、「物語作品の書 き換え」をここでは「リメーク」と呼ぶことにす る。」と規定している。(青木雅一( 2013 )構想 力を育てる創作指導―児童文学作品のリメーク実 践から―.月刊国語教育研究, Vol.48 , No.494 , pp.22-23 )
6 )前掲書,青木( 2013 ), p.22 7 )前掲書,青木( 2013 ), p.24 8 )前掲書,青木( 2013 ), p.25 9 )前掲書,註 8 )に同じ
10 )伊木洋( 2009 )いきいきとした批評を生み出 す学習のてびきのくふう―『握手』(井上ひさ し)の続き物語を書く―.月刊国語教育研究,
Vol.44 , No.448 , p.16 11 )前掲書,伊木( 2009 ), p.17 12 )前掲書,伊木( 2009 ), p.18 13 )前掲書,註 12 )に同じ 14 )前掲書,註 12 )に同じ
15 )心情が読み取れる描写表現を「心象風景」と いう用語で既に学習していることから今回は踏襲 した。
16 )この内の1人は後日、規定字数に達した続き を書くことができた。
参考文献
青木雅一( 2013 )構想力を育てる創作指導―児童 文学作品のリメーク実践から―.月刊国語教育 研究, Vol.48 , No.494 , pp.22-27
伊木洋( 2009 )いきいきとした批評を生み出す 学習のてびきのくふう―『握手』(井上ひさ し)の続き物語を書く―.月刊国語教育研究,
Vol.44 , No.448 , pp.16-21
佐藤明宏( 2004 )自己表現を目指す国語学力の向 上策.明治図書
西野新之助
〈資料〉学習者の作品例(改行・表記等は原文ママ)
夏実と仲直りパターン①
そのとき、夏実の姿が見えた。真っすぐこの木に向かって歩いてくる。私の姿をみると、立ち止まり、気 まずそうに目をそらした。
「本当だ…。」
「え、何が?」
「戸部君に言われたの。友達どうしなら、お前とあいつが考えてることは同じのはずだって…。」
「え…。」
戸部君が?いつの間にそんなこと…。
「それでほら、今、ここで会った。同じでしょう?」
「戸部君…。」
知らなかった。そんなこと知らなかった。あんな冷たい態度とっちゃってごめんなさいって、今度謝って おかなくちゃ。
「じゃあ、今私が思っていること、分かるでしょ?夏実。」
「うん、分かるよ。」
「ごめんなさい!」
「ごめんなさい!」
いつの間にか、あれだけ暑かった日差しは優しい光と温かさに変っていた。まるで、私達を祝福している かのように…。
夏実と仲直りパターン② それから、何日もたった。
前より、戸部君と話すことが増えた気がする。
学校の帰りに、公園の横を通ってみると、誰かがしゃがみこんでいるのが見えた。近付いてみると、夏実 が銀木犀の花を集めていた。
ちょっとしてから、夏実は私に気が付いた。
驚いた顔をしていた。それから、私に小さく「ごめん。」といって、小さな袋を渡した。
星の花が入っていた。私も小さく「ごめん。」と言って、二人で帰った。
戸部君との仲が深まるパターン
すると、そこには戸部君がいた。空は夕日でキラキラと輝いていた。気が付くと戸部君は地面に落ちている 星の花を手の上に集めていた。私はそれを半分、分けてもらいポケットに入っていたビニール袋を取り出し て入れた。
「この花キレイだな。」 と言った。
「うん…。」
私と戸部君は、それからしばらく星の花を見つめていた。二人に言葉はいらなかった。
また来年も二人で星の花を拾える事を今、二人で拾った星の花にお願いした。