小学校教員養成課程の理科教育カリキュラムの検討 1.非理科専攻学生の理科に関する意識調査を中心にして
小 川 正 賢
(1981年10月20日受理)
は じ め に
小学校教員養成課程が多くの問題を内包しているという指摘は従来から何度も行なわれてきてい る。1)特に教科教育学には,その「学」としての成立に関する議論2)に代表される共通問題と,個 別の教科教育学(たとえば理科教育学)の内部問題の二つの問題が存在する。本論では話を理科教 育学にのみ限定して論じることにする。理科教育カリキュラムの中で小学校教員養成課程と最も関 係が深い科目は言うまでもなく「理科教材研究」である。 「理科教材研究」に関する多くの調査や 論議3)によって,いくつかの問題点が明らかになっている。それらを簡単にまとめると,(1)受講者 が多いこと。(2施設,設備が不十分であること,(3)教官数が少ないこと,の3点に集約され,それ
● ●
に起因する教授上の諸問題(講義中心,実験不可能など)が生じてくる。このような状況下で当面
● ●● ● ● ● ●
タ行可能な改善をめざした理科教育カリキュラムの検討こそ本論の究極的な目標である。現在行な われている「理科教材研究」の授業内容や授業方法は多くのテキスト4)や調査5)によって知られる ように,既に確立されている。そしてこれらは「教授する側の論理」に基づいている。しかし,現 職教員に対するアンケート6)によると,「大学ではもっと実践に役立つことを教えるべきだ。」と
いう意見が多い。これは「教授された側の論理」であると言える。このように教えられた側に多く の不満があることに対し, 「教える側」は謙虚に反省して,そのギャップの存在理由を追求し,現 行のカリキュラムを改善しなければなるまい。
そこで本論では,大学教育を受ける立場,すなわち,将来教員となって小学校で理科を教える立 場に基本的視点をすえて理科教育カリキュラムを考えてみようと思う。そのためにまず非理科専攻 学生の理科に関する意識調査を実施し,彼らが今理科に対してどのような感情を持ち,何を学んで おきたいと考えているのかを調べてみた。なぜなら,彼らこそ大学で自然科学および理科教育を受 講する機会が最も少なく,それゆえ最も不安な気持で教壇に立たねばならない学生たちであり,本 研究の基本的視点をすえるにふさわしい学生たちだからである。本調査は従来よく見られる学生の 理科知識を問う調査7)とは本質的に異なり,彼らの理科に対する感情を問題にしている。以下にお いてその結果をできるだけ心理的側面から考察し,今後の具体的なカリキュラム検討のための問題 視点を示すことにする。
調 査 方 法
(1)調査は昭和56年5月30日と6月5日に行なわれ,対象は茨城大学教育学部の非理科専攻生で 本年度「理科教材研究」を受講している者である。2年生,男76名,女109名,3年生,男13名,
ノ
翌P5名,4年生,男2名,女3名,合計218名。
(2)調査問題(資料参照)と解答用紙を配布し,問9〜13,問15の3〜8は自由記述で,他の問 は記号選択で解答させた。
結 果 と 考 察
表1は,学生を以下の基準によって四つのグループに分類したもので,今後の考察の目安として 利用していく。すなわち,問4〜6において,得意科目と好きな科目にのみ少なくとも1つ以上理 科が記入されている学生を「理科好き学生」とし,不得意科目
と嫌いな科目にのみ少なくとも1つ以上理科が記入されている 表1 学生の分類(高校まで)
学生を「理科嫌い学生」,すべての解答欄に全く理科が記入さ 男 女 計 れない学生を「中立学生」,それ以外,すなわち得意,好き, 理科好き学生 20 21 41 と不得意,嫌い,の両方に理科が記入されている学生を便宜的 理科嫌い学生 30 59 89 に, 「不安定学生」とした。ここで「得意と好き」, 「不得意 中立学生
s安定学生
28 27 P3 20
55 R3 と嫌い」というある意味で似た質問をしたのは,学生の感情面 計 91 127 218 をも含めてグルーピングをしたいためである。
表2は,問13により彼
らが大学生になって教養 表2 学生の現在の現科に対する好き嫌い 部で自然科学系の科目を 現在理科好き 現在理科嫌い
受講することで理科に対 人数(%) 人数(%)
する感情がどう変化した ゥを調べたものである。
アこでは,「理科嫌い学
理科好き学生 女
@ 男理科嫌い学生 女
ll(ll:1)}34(829)
Q:闘26(292)
ll1;:1)}4(98)
i::;}54(6α7)
生」の三割が現在は理科 ェ好きだと答えた点が,
男中立学生 女
il:翻29(527) 11111:;;}2・(3a4)
高校までの理科教育を考
男不安定学生 女 il lll:1;}25(758) ll劉6(1&2)
えるうえである問題を投 ーかけていることを指摘
男計 女
lll謝114(5a3) lll劉84(3&5)
するにとどめる。
表3〜5は,問7,8,15
の1にそれぞれ基づいており, 表3 理科のなかで好きな分野((}内は%)
理科の各分野別の好き嫌いと 物理学 化 学 生物学 地 学 その結果生じるであろう苦手 理科好き学生
揄ネ嫌い学生
6 (14.6) 10 (24.4) 22 (53.7) 3 ( 7。3)
P0 (11:2) 13 (14.6) 56 (62.9) 13 (14.6)
意識を探ったものである。全 中立学生 13 (23.6) 9 (ユ6.4) 27 (49。1) 8 (14.5)
般的に生物学的分野を好み物 不安定学生 4 (12」) 3 ( 9.1) 20 (60.6) 6 (18.2)
理学的分野を嫌う傾向が見ら 計(%) 33 (15.1 ) 35 (16.1) 125 (57.3) 30 (13.8)
れ,化学的分野も嫌いな学生 が好きな学生をうわまわる。
表4と表5が極めてよく一一致するから,嫌いな分野は苦手になりそうな分野だと考えていること
がわかる。学生に理科に対し 表4 理科のなかで嫌いな分野(()内は%)
てあるいは各分野に対して好 物理学 化 学 生物学 地 学 き嫌いがあるのは事実である 理科好き学生 22 (53.7) 6 (14.6) 4 ( 9.8) 4 ( 9.8)
が,嫌いな分野は苦手になり 理科嫌い学生 40 (44.9) 34 (38。2) 7 ( 7.9) 11 (12.4)
そうだと考えていることに対 中立学生 s安定学生
23 (41.8) 15 (27.3) 6 (10.9) 11 (20.0)
Q0 (60.6) 11 (33.3) 2 ( 6.1 ) 1 ( 3。0)
しては大学教育において何ら 計(%) 105 (48.2) 66 (30.3) 19 ( 8.7) 27 (12.4)
かの対策をとる必要があると 考える。特に心理的側面から
表5 小学校教師として理科を教える臨苦手になりそうな分野
の対策が重要になろう。まず (()内は%表示)
なぜ自分がその分野が嫌いに
物理学 化 学 生物学 地 学 なったのかを意識させ,次い
理科好き学生 27 (65.9) 7 (17.1) 4 ( 9.8) 4 ( 9.8)
で,もしどうしていたら(あ 理科嫌い学生 43 (48.3) 33 (37.1) 11 (12.4) 10 (112)
るいは,先生にどうされてい 中立学生 20 (36.4) 17 (30.9) 6 (10.9) 15 (27.3)
たら)嫌いにならなかっただ 不安定学生 15 (45.5) 15 (45.5) 2 ( 6.ユ) 2 ( 6.1)
計(%) 105 (48.2) 72 (33.0) 23 (1α6) 31 (14.2)
ろうかを考えさせる。その点 ェわかれば,彼らは理科が嫌
いでない学生よりも,よい理科教師になりうるのではなかろうか。また指導内容や指導方法に関し ても,自分のつまづきの原因を大学教育の中で探究させることによって,児童のつまづきに共感と 理解を示し,適切な助言や指導を与えることのできる教師となりうるであろう。嫌いな学生こそよ い教師になれるという意識を持たせることによって,彼らの理科に対する学習意欲を向上させるこ
とが大学教育での第一歩ではなかろうか。その意識ができてはじめて自然科学に関心を持ったり,
自然科学の知識の正確な理解をめざそうとする基礎ができたと言えるのである。理科教育の難しさ を講義で強調しすぎることは,特に理科嫌いの学生にとっては無益というよりかえって有害でさえ あると思える。
問9〜11は,小・中・高校時代の理科授業のうちで,いい悪いにかかわらず一番印象深いこと を自由記述させたものである。集計にあたってはいくつかのグループに分類し,主なものを表6〜
8にまとめてみた。
小・中学校時代(表 表6 理科授業で一番印象深かったこと(小学校時代)
6,7)では,生物 内 容 物理的 化学的 生物的 地学的 野 外 実 験 解答
実験の印象が強く, 実 験 実 験 実 験 実 験 学 習 全 般 総 数 特に解剖やヒヨコの
件数理科好き学生 % 3 9 16 2 3 4
V.3 21.9 39。0 4.9 7.3 9。8
41
P00.0
フ化実験が多く,し ゥもほとんどが「気
件数理科嫌い学生 % 4 12 29 3 14 9 S.5 13.5 32.6 3.4 15.7 10.1
77
W6.5
持が悪かった」に代
¥される悪い印象で
件数中立学生 %
@ 件数
2 7 14 2 13 4 R.6 12.7 25.5 3.6 23.6 7.3
P 5 8 2 10 2
45
W1.8 R1
ある。心理的影響の 不安定学生 %
3.0 15.2 24.2 6,1 3α4 6.1 93.9
大きいこれらの教材 ノついては,教育効
件数解答総数 % 10 33 67 9 40 19 S.6 15.1 30.7 4.1 18.3 8.7
194 W9.0
果について再度検討
178 茨城大学教育学部教育研究所紀要14号特集(1981)
表7 理科授業で一番印象深かったこと(中学校時代)
内 容 物理的 化学的 生物的 地学的 野 外 実 験 授 業 解答
実 験 実 験 実 験 実 験 学 習 全 般 内 容 総 数
件数理科好き学生
5 9 6 1 2 5 1 29
% 12.2 22,0 14.6 2.4 4.9 12.2 2.4 70.7 件数理科嫌い学生 7 17 11 4 3 10 5 63
% 7.9 19.1 12.4 4.5 3.4 11.2 5.6 40.4 件数中立学生 5 6 9 1 5 11 3 35
% 9.1 10.9 16.4 1.8 9.1 20.0 5.5 63.6 件数不安定学生 1 4 11 0 0 6 2 24
% 3.0 12.1 33.3 0。0 0.0 18.2 6.1 72.7 件数解答総数 18 36 37 6 10 32 11 156
% 8.3 16.5 17.0 2。8 4.6 14.7 5.0 7L6
表8 理科授業で一番印象深かったこと(高校時代)
物理的 化学的 生物的 地学的 実 験 野 外 授業 解 答 実 験 実 験 実 験 実 験 全 般 学 習 内 容 総 数
件数理科好き学生
2 5 7 3 0 0 6 22
% 4.9 12.2 17.1 7.3 0.0 0.0 14.6 53.7 件数理科嫌い学生 7 6 8 4 7 5 21 65
% 7.9 6.7 9.0 4.5 7.9 5.6 23.6 73.0 件数中立学生 3 8 7 1 1 2 12 36
% 5.5 14.5 12.7 ユ.8 1.8 3.6 21.8 65.5
件数不安定学生 1 3 9 1 1 1 7 24
% 3.0 9.1 27.3 3.0 3.0 3.0 21.2 72.7 件数解答総数 13 22 31 9 9 8 46 154
% 6.0 10」 14.2 4.1 4.1 3.7 21.1 70.6
してみたいと思う。野外授業も比較的印象が強いが概して好印象である。ただし野外授業で何をど うしたかといった細かい記述は少なく,教育効果の有無について速断はできない。化学実験にっい ては実験方法や実験内容まで記述しているものが多かった。特に実験の失敗や事故の印象が強い。
中学校(表7),高校俵8)時代と学年が進むにつれて,野外授業を挙げる者が減少し,逆に授 業(講義)内容を挙げる者が増加する。これは教室授業が増えるからなのか内容のためなのかは判 断できない。また,これらの質問に解答した総数瓶学年が進むにつれて減少していく。これは理 科に対する関心が薄れるのか,全科目の中での相対的地位が下がるのかわからない。そのほかめだ ったのは,高校時代に遺伝に対して興味を持った学生が多いことである。身近なテーマであり,し かも関心を持つ時期だけに,その教材の取扱いについ
表9 自然観察授業の体験(()内は%)
て検討が必要であろう。身近な話題というのは,学生
を科学へひきこむ一つの大きな手段である。 体験した 体験しない 理科好き学生 33 (80.5) 7 (17.1 )
表9は,野外授業の一つである自然観察授業の体験 理科嫌い学生 60 (67.4) 28 (31.5)
を問うた結果であり,七割の学生が体験していること 中立学生 39 (70.9) 15 (27.3)
を示している。この体験と理科の好き嫌いは直接的な 不安定学生 26 (78.8) 8 (24.2)
関連はないと思われる。 計(%) ユ58 (72.5) 58 (26.6)
表10は,彼らの自然観形式に何が影響するかを問うた結果である。両親の影響もさることなが ら,教師(とりわけ,小学校教師)の影響は著しい。教員養成の場で概念的な自然観の議論よりも 具体的な自然観を議論する必要性を感じる。特に理科嫌いでしかも理科を専攻しないで卒業し,教 壇で理科を教えることになる学生に対して手段を講じたい。
表10 自然観形成に最も影響の強かったのは?
両親兄弟親麟人蠕翻繍蕪翼本その他
人数理科好き学生 4 3 2 1 9 5 2 1 4 6 5
% 9B 7.3 4.9 24 22.0 12.2 4.9 2.4 9.8 14.6 122 人数理科嫌い学生 15 1 2 4 12 11 11 2 8 10 10
% 169 1.1 2.2 4β 13.5 12L4 12.4 2.2 9.0 11.2 11.2 人数中立学生 9 3 1 2 11 11 4 2 5 4 2
% 16.4 5.5 1.8 3.6 20.0 2α0 7.3 3.6 9.1 7.3 3.6 人数不安定学生 5 0 0 1 6 5 5 1 、 2 3 3
% 15.2 0.0 α0 3.0 18.2 15。2 15.2 3,0 6.1 9.1 9.1
人数計
33 7 5 8 38 32 22 6 19 23 20
% 15」 3.2 2.3 3.7 1乳4 14.7 10.1 2B 8.7 10.6 9.2
表11には,小学校で行なう実験に対する苦手意識をまとめてある。物理学的実験に苦手意識を 持つ者が多いがこれは表4,表5から推定しうる。逆に生物学的分野は好きとする学生が多い
(表3)にもかかわら或動物学的分野の実験を苦手と思う者がかなりいることは注目すべきこと である。これは女子学生に多いのだ瓜表6,表7,表8に表われた解剖実験等の体験に起因する と考える。また天文学的実験に対する苦手意識は高校時代までに未経験であることが原因らしいの で,是非大学で経験させる方法を考えねばなるまい。化学実験をあげるのは,後述のように実験中 に事故がおきたらどうしようという心理的不安と基本操作を知らないという技術的不安が原因であ る場合が多い。
表11 理科実験を教える場合,苦手になりそうな分野
内 容 電磁気 力学的 化学的 植物学 動物学 地質学 気象学 天文学 的実験 実験 実 験 的実験 的実験 的実験 的実験 的実験
人数現科好き学生 8 7 2 0 8 0 6 9
% 19.5 17ユ 4.9 0.0 19.5 0.0 14,6 22.0 人数理科嫌い学生 32 11 22 2 12 4 6 14
% 36.0 12.4 24,7 2.2 13.5 4。5 6.7 15.7 人数中立学生 ユ4 11 7 3 11 3 5 9
% 25.5 20.0 12.7 5.5 20.0 5.5 9.1 16,4 人数不安定学生 9 9 5 1 3 1 4 4
% 27.3 27.3 15.2 3.0 9.1 3.0 12.1 12.1
人数計
63 38 36 6 34 8 21 36
% 28.9 17.4 16。5 2B 15,6 3.7 9.6 16.5
問15 の3は,野外観察授業を行なう時の不安材料を知ることで大学で何を教えれば学生が教 師となって積極的に野外観察にとり組めるかを考えようとする意図を持った問である。彼らの不安 は,「児童のケガ」など児童の安全に関するもの51件(23.4%),「動植物名を知らない」に代 表される知識不足で質問に答えられないとするもの49件(225%),また「児童をまとめられる
180 茨城大学教育学部教育研究所紀要14号特集(1981)
かどうか」32件(14.7%)「遊びにならないか」23件(10.6%)「目標を理解させ目的を達成 できるか」23件(10.6%)となっている。これを埼玉県立教育センターの現職教員へのアンケー
ト調査8)の結果と比べると,「動植物や岩石の名がわからない」ので指導に自信が持てないという のがかなり大きなウエイトを占める点で共通性がある。知識不足は確かに不安材料ではあろう。だ が大切なのは,「知識を持っていること」ではなく, 「知らないことを調べて知ることができる」
方法を知っておくことであるという点であろう。大学教育では,知識の伝達も大切だが調べる方法 を教えるべきであると考える。児童の安全に関しては,予防策を教えることも大切だが事故が起き た時の対策も教えねばなるまい。目標目的を理解させることに関しては,学習指導法とからめて教 授していくのがよかろう。
小学校低学年の理科では栽培飼育は重要な地位を占める。そこでその指導についての不安点を調 べたのが問15の4である。「うまく育つか,枯死しないか」62件(28.4%)「児童の興味を長 時間持続させられるか」24件(11.0%)「体験がない」16件(7.3%)「予想通りにならないか
もしれない」12件(5.5%)「動物は嫌いだ」12件(5.5%)という結果であった。やはり日常 生活の中で栽培飼育の経験をするように指導することが必要であろう。なお「動物嫌い」はここで
も女子学生が大多数であった。これに対してどう指導するか今後の大きな問題である。
理科教師には教科書や指導要領に基づいた指導以外に児童の自由な発想や素朴な疑問等を取りあ げて科学的思考や科学的態度を深めさせる必要がでてくる場合がある。自由研究もその一例であり その指導について大切だと思うことを記述させるのが問15の5であった。「自分で考え,自分で 実行するように指導する」46件(21.1%),「児童の興味や疑問点を明確にしてやる」38件
(17.4%),「生活に密着した身近な問題をとりあげる」23件(10.6%),「持続的に行なうよ う指導する」23件(10.6%),「独創性を大切にする」18件(8.3%)という結果であった。
「自分自身でするよう指導する」が多いのは,彼らの自由研究の体験が大きな原因であると考えら れ,現在の自由研究の指導が充分に機能していない可能性(特に能動的活動になっていない可能性)
があると思われる。
問15の6において,彼らの実験に対する意識特に技術面について調べた。圧倒的に多い意見 は, 「各種器具の正しい操作法を知りたい」というもので84件(38.4%)と全体の四割近い学生 がそう述べている。また「薬品の取扱い法」49件(22.5%),「実験中の児童の安全管理につい て」,19件(8。7%)であった。 r電気関係の実験技術」は12件(5.5%)で女子学生に多い。
これらの結果から,基礎的実験技術は是非とも大学で習得できるシステムを確立すべきだと考える。
このことはすでに現職教員へのアンケート調査9)の結果に表われていることでもある。
問15の7は,漠然とした質問で心理面を浮きぼりにする目的でこの位置に設定したものである。
「自分がよくわからないことや嫌いなことをはたして正しく教えられるだろうか」というものが88 件(40.4%)もある。 「実験を安全に行なえるだろうか」が45件(20,6%)「形式的な授業に 終始するのではなかろうか」が24件(11.0%)である。彼らの不安を要約すると「自分は理科に 関する知識はないし好きでもないから児童の質問にも答えられないだろう。実験方法も知らないか
ら実験を失敗して児童にケガをさせるのではなかろうか。それなら教科書をそのままやるほうがよ かろう。」ということらしい。学生のこのような心理が少なからず存在するからには,その対策を 考える場合に知識や技術の伝達以外にカウセリング的手法をとり入れる必要があると思う。彼らに 最も良い処方せんが書ける医師はやはり現場の教師ではなかろうか。そういう意味で附属学校の教
官等の学部授業への適切な導入という方法がとられるべきであろう。
問15の8は,理科教育で何が大切かを問うたものである。多様な解答のなかで多かったのは,
「自然に興味・関心を持たせる」48件(22.0%)「自然とかかわらせ自然を知る楽しさを知らせ る」34件(15.6%)「自分の手で実験・観察をすることで自然を調べさせる」33件(15.1%)
「科学的思考力を開発し科学する態度を身につけさせる」30件(13.8%)「日常生活との関連を 知らせる」14件(6.4%)などである。このような理科教育観が彼らの受けてきた理科教育によ って形成されてきたのか,それともそれに対する反作用として形成されてきたのかはわからない。
しかし,理科教育を受ける側の意識であるから,教える側ももう一度この結果の背景を考えておか ねばならない。それは理科を専攻せずに理科を教える立場の学生の理科教育観であるのだから。
問16,問17は,具体的に 囲
@ 50 ゙らが何を学ぶことを期待し
35 怩P0
ているのかを知るのが目的で ●5
ある。 「是非とも学びたいも 40 ●17
の」と「あまり必要性を感じ 学ないもの」の両方を五つづっ
●15
選択させることで全体的傾向 び30
がかなり明確に示される(図 た
23
1〜5)。ただし,それぞれ ●Q5
の内容については彼らはほと い20 :㌔縛響
んど無知であるからあくまで 9 14 1
もそのイメージで選択してい 10
13● ●4 11 21
ることになる。その結果から アれら35項目を四グループ
ノ分けた。 〔1〕「是非学ん o
でおきたいもの」これらは図 10 20 30 40 50 醐
不 必 要
の左端の近くに位置し「学び
図1 全員(数字は問16,17の選択番号を示す)たい」が10%以上あるもの
醐 囲
T ●10
50 35 50 35
10 ●5
露 4。
@ 学
●17
た30 び30 怩P5
い 25 26 た
●E♂3614 111勉0 1° °・ °12 Y調B四32 。3198碧゜♂・.ノ ゜°
い 2
@10
゜8834161
X鶯艶8 ●24、32♂22襯・&乙揺
0 10 20 30 40 50 (%
0 10 20 30 40 50 {劒
不 必 要 不 必 要
図2 理科好き学生(数字は選択番号) 図3 理科嫌い学生(数字は選択番号)
182 茨城大学教育学部教育研究所紀要14号特集(1981)
である。㈲実験観察の指導法⑩理科の学習指導法」(5)児童の自然認識(17)基礎的実験技侃(15)野 外指導法㈱安全管理㈱自然観察法⑧理科教育の目標,⑨理科の学習活動,②⑪野外実習。〔皿〕
「学ぶ必要性をあまり感じないもの」これは図の下端に位置し,「必要性を感じない」が10%以上 あるものである。(12)理科の経営,(2旧本理科教育史,(3)世界の理科教育(18)視聴覚機器利用法(7)
理科教育と教育学q9新教材開発(6理科教育と社会,⑳環境教育,⑳学習指導要領研究。 〔皿〕
「賛否同数グループ」これは図中の原点から45度の直線の近辺にあり10%の半円の外に位置する ものである。(1)理科教育原理,(4)理科と学習心理,(11)理科と評価,(13)理科の指導案作成法(殉教材 論(16理科授業参観②D科学的思考法,㈱現職教員の講演。〔岡「意識されないグループ」これ は10%の半円内に位置するものである。⑳物理学的実験,㈱化学的実験⑳生物学的実験⑳地 学的実験GD教養としての物理学,働教養としての生物学,⑬教養としての化学㈹教養としての
% (%)●10
@35
50 50 5
40 ●17 P0
怩T 40 35
学び30
スい 20 10 32
学
P5 び3● ●23 た
ォ蓼 誓 い2憲゜13 ? 114 73 1・
17
@ 23Q5P5
援j1、舩81噺げ2E
1。2。 3。4。 5。 % ・ 1・2・ 3・4°5° 醐 不 必 要 不 必 要
図4 中立学生(数字は選択番号) 図5 不安定学生(数字は選択番号)
地学。以上となっている。これは図2〜5についてもほとんど変わらないので学生の理科に対する 好き嫌いとは直接的には関係ないようである。男女別に見ても(図省略)ほとんど同じ傾向である が,(8理科教育の目標,については男子学生が「学びたい」と考え,女子学生は「必要1生を感じな い」としている。これに対して(1理科教育原理はその逆であった。これらの結果から,非理科専 攻学生は理科教育に関して主として学習指導法それも実践の場で役に立っと思える基礎技術や具 体的指導法また安全管理について学びたいと考えていることがわかる。彼らはまだ理科教育関係 の科目を履修していないのだから意見として受け止めればいいのだが現職教員のアンケート調査6)
の結果とかなりよく一致することを考えあわせると,これらの意見は大学教育に欠けている点を直 観的に見ぬいているとも思える。もちろん教える側の言い分もあるのだが3)それを主張すること1よ 現状を放置することの免罪符にはならない。多くの問題(受講生が多いこと,器具・実験室の不足,
時間不足教官不足,教官の負担増など)をかかえたなかで,特に非理科専攻学生の要望をいかに 授業にとり入れるかを考えねばなるまい。さらに,彼らが理科教育史や世界の理科教育の動向,我 々の社会と理科教育の関係といった問題に関心が薄い現状をどう打破するかも,我々大学教官の大 学の授業という実践の場における大きな問題であろう。大学の授業も教育実践の場であることを改 めて認識し,授業研究・授業改善に真剣にとり組む必要があるのではなかろうか。
お わ り に
筆者は,本年度理科教育研究室に着任し,はじめて理科教育に携わることになった。次年度から 実際に理科教育関係の授業を担当することになるので,何をどのように教えるかについて数カ月間 考えてきたわけである。何から始めたらよいか迷った末に,まず自分が小学校の教員になって理科 を担当するためには今何をしておけばいいだろうか,何が不安だろうかを考えることから出発する ことにして,今回の意識調査を行なった。結果は,自分の予想とよく一致する。この結果と現職教 員の意見3),さらにテキスト類から推定される現在の一般的な授業内容4・5)を総合的に考察すると
き,「理科教材研究」についてのいくつかの問題点が浮かびあがる。ここでは,それらを検討課題 として列挙し,今後の研究のテーマとしたい。この小論に対して御意見,御批判を多くの方々から いただけたら幸いである。
「理科教材研究」についての検討課題
(1)授業形態は,学生との対話形式をとりやすい演習実習形式を主にすること。多人数での演習に は,演習ノートなどを作成使用する。
② 非理科専攻学生に問題意識・目的意識を持たせるためには,できるだけ早期から,できるだけ 多く授業参観(附属校またはVTR)を実施する。
(3)具体的授業研究から始めるべきである。概念的講義はまとめの時に実施する。
㈲ 基礎的実験技術や実験法,,野外実習や野外指導法は,休暇中に集中形式で多くの実験室を借 用して同時開催する。指導には,教育機器はもちろんのこと,教育実習等で現場を経験した理科 専攻生(3,4年生)を再教育(これは単位認定を伴なう授業科目とする)してチューターとし て導入する。 (チューター制導入は岡山大学で教養部の物理学について実践されているlo)。)あ るいは,附属校の教官等の参加があれば理想的である。
⑤ 総合的な「野外指導法」のシラバスを確立しなければならない。
㈲ 野外実習(非理科専攻生対象)は是非とも授業に導入したい。 (宇都宮大学の実践11)は参考に すべきである。)ただし実習の場は,かえって身近な所(たとえば大学構内)のほうが教育的効 果があるのかもしれない。この場合もチューター制を導入する。
(7)学生の心理面を考えると,カウンセリング的手法による「理科教育相談(仮称)」は有効であ るかもしれない。カウンセラーは現職教師が最適であろう。
⑧ 非理科専攻であった若い現職教員との対話の機会を授業の中で持ちたい。
(9)理科教育関係の基本文献リストを作成し配布する。限られた時間で多くの実践的課題をこなぞ うとすると必然的に理論的背景のまとめが欠如するおそれがあるが,非理科専攻学生にとっては,
その不利よりも,理科の指導ができそうだという心理状態にすることのメリットのほうが大きい と考える。ただし彼らが将来その理論的背景を研究したくなった時に何を調べたらいいか,何を 読めばいいかということを彼らに明確に指示しうる資料を与えておくべきである。
⑩ 小学校教科専門科目(理科)の授業内容との密接な関連をとることが必要である。 (ただしこ のことは今回はとりあげていない。)
以上である。
184 茨城大学教育学部教育研究所紀要14号特集(1981)
注
1)日本教育大学協会教員養成制度委員会報告「小学校教員養成のたあの教育課程の改善等について」日本教 育大学協会会報第42号(昭和56年),37頁。堀孝彦「福島大学教育学部における「小学校教員養成課程」の カリキュラム改革について」r福島大学教育研究所所報』第43号(1980年),173頁。
2)高久清吉「教科教育学の科学的基礎づけに関する基本構想」r茨城大学教育研究所紀要』第1号(昭和43 年),3頁。小川博久「「教科教育学」についての方法論的検詠1)r教大協案への批判を中心に一」r教 育方法研究』第1巻(1975年),63頁。
3)文部省特定研究報告書(研究代表者,島塚一男) 「数学・理科の初等・中等教育教員の養成,現職教育及 び大学院教育の体系化に関する研究2」(昭和56年),111頁。文部省特定研究報告書(研究代表者,林良 重) 「教員養成大学における理科教育のカリキュラムおよび施設設備の改善に関する調査一実態報告書
一一v (昭和56年),2頁。
4)高野恒雄r理科教育の理論と実践』(東洋館出版社,1969年),森川久雄「理科教育要論一探究の過 程へのアプローチー』 (東洋館出版社,ユ973年),森一夫『初等中等理科教育法』 (学文社,1975年),
伊神大四郎編『三訂現代理科教育法;小学校編』(明治図書,1981年)など。
5)大内正夫・藤田哲雄「理科教材研究の性格とその構造観」r京都教育大学教育研究所所報』第17号
(1971年),100頁。竹村安弘「教師教育実践の一例。 理科教育のばあい一一」r大学研究ノート』
第27号(1977年),28頁。文部省特定研究報告書(研究代表者,林良重)前掲書,8頁。 ρ
6)文部省特定研究報告書(研究代表者,林良重)前掲書,3ユ頁。茨城大学教育学部「教員養成カリキュラム の研究」 (昭和34年),58頁。
7)横山俊一・香室昭円「教員志望学生(特に理科を専攻しない学生)の小学校理科の指導内容に関する基礎 的知識についての調査研究(その1)」『福井大学教育学部紀要 第y部 教育科学』第30号(1981年)
105頁。文部省特定研究報告書(代表研究者,鳥塚一男)前掲書,173頁。
8)須藤和人「野外観察の指導法に関する一考察」r地学教育』第33巻(1980年),ユ25頁。
9)6)を参照。基礎的実験技術の具体的内容は例えば,永井万介「小学校教育の理科実験に関する基礎的技 術のパフォーマンスについての調査研究一主としてB区分にっいて一一」r兵庫県立教育研修所研究紀要』
第92集(1981年),27頁。
10)橘高和義「講義と能動的学習」r科学教育研究』第3巻(工979年),19頁。橘高知義「大学教養課程物 理学教育への提言①一④」r科学と実験』第32巻(1981年),第5号一第8号。
11)小堀志津子・川上進。亀山弘・田原博人・伊藤明彦「小学校教員養成課程における野外実験・実習の実践 的研究」日本理科教育学会第31回大会講演要旨集(1981年),20頁。
資 料 理科に関する意識調査
この調査は理科教育の授業をよりよくしていくための資料として利用されます。できるだけていねいに記入 して下さい。解答は解答用紙のほうに記入して下さい。
1.専攻(例.小理) 2.学年 3.性別
4.5.6 小・中高校生時代の得意科目,不得意科目,好きな科目,きらいな科目 7.8 理科のなかで好きな分野,きらいな分野。 (記号で)
(A)物理学的分野 (B}化学的分野 (C)生物学的分野 (D)地学的分野 9.10.11.小・中・高校生時代の理科の授業で一番印象深かったこと。
12.これまで自然観察授業を体験したことがあるか否か。
13.今現在,あなたは理科は好きかきらいか。 (理由も)
14.あなたの今日の自然観に最も強い影響を与えたのはどれか。(記号で)
(A)両親 (B)兄弟 (C)親族 (D)隣人 (El小学校教師 (F)中学校教師
(Gl高校教師 (H)大学教師 (D マスコミ( ) (J)本( )
(Klその他( )
15.あなたが小学校で理科を教えるときを想定して以下に答えて下さい。
15−1 苦手になりそうな分野(記号で)
(A)物理学的分野 (B)化学的分野 (C)生物学的分野 (D)地学的分野 15−2 理科実験を教える場合,苦手になりそうな実験(記号で)
(A)電磁気的実験 (B)力学的実験 (C)化学的実験 (D)植物学的実験
(E}動物学的実験 (F)地質学的実験 (G)気象学的実験 (H)天文学的実験 15−3 野外観察授業を行なうとき何が不安か。
15−4 栽培飼育実習をさせる場合何が不安か。
15−5 夏休み等の自由研究の指導をするとき何が大切か。
15−6 基礎的な実験技術のうち何を知っておきたいか。
15−7 理科を教える時一番不安なことは何か。
15−8 理科を教える時一番大切なことは何か。
16.17 将来,小学校教員として理科を教えるために,今大学で是非学んでおきたいものを5っ,またあまり 必要性を感じないものを5つ,選んで,それぞれ記号で答えよ。
(1)理科教育原理 (2)日本理科教育史 (3)世界の理科教育
(4}理科と学習心理 (5)児童の自然認識 (6)理科教育と社会
(7)理科教育と教育学 (8)理科教育の目標 (9)理科の学習活動
(10)理科の学習指導法 (11)理科と評価 (12)理科と経営
(13)理科の指導案作成法 (14)教材論 (15)野外指導法
(16)理科授業参観 (17)基礎的実験技術 (18)視聴覚機器利用法
(19)新教材開発 (20}野外実習 (21)科学的思考法
(刎学習指導要領研究 (23安全管理 (24)環境教育
(25)自然観察法 (26)現職教員の講演 (27)物理学的実験
(28)化学的実験 (29)生物学的実験 (30}地学的実験
(31)教養としての物理学 (32)教養としての生物学 (33)教養としての化学
(鋤教養としての地学 (35渓験・観察の指導法