外国租税法乃至租税判決の承認と執行に関する英国 国際私法規則
その他のタイトル Rules on Recognition and Enforcement of Foreign Revenue Law or Tax Judgement
著者 本浪 章市
雑誌名 關西大學法學論集
巻 44
号 4‑5
ページ 817‑868
発行年 1995‑01‑20
URL http://hdl.handle.net/10112/00024634
本 浪
外国租税法乃至租税判決の承認と執行に関する
英国国際私法規則
章
市
(2) (1)
外 国 租 税 法 乃 至 租 税 判 決 の 承 認 と 執 行 に 関 す る 英 国 国 際 私 法 規 則
二 六
標準的でコンセンサスをえられる規則の定立を期さねばならないとの制約はあるものの︑最も斬新で先駆的傾向を
反映する体系の形成作業の一環でもある対外関係法第一ニリステイトメントさえ︑外国租税への対応としては︑これを
外国離婚等と並列的に︑外国判決の承認執行の一項目として取扱い︑もちろんその中では異質的であるが︑むしろあ
る意味で正統派的な規則を提示している︒その第四八三条は︑
﹁合衆国の裁判所は︑他国の裁判所によって言渡された租税︑罰金または科料の徴収に関わる判決を承認し︑若く
( 1)
は執行するよう強制されない﹂と規定する︑もっとも強制はされないけれども︑任意にそうした外国判決を執行した
としても︑合衆国法や国際法に何ら違反しないと解釈されている︒だがいずれにしても︑このような規則は
( 2)
一 九
三
0 年代前半までは︑僅少ではあったが︑他州租税判決の承認執行問題にもこの規則が適用されてきた︒
﹁判決はそれが税金に対するものだからといって︑十分な信頼と信用を否定されるべきでない﹂とされたのは
Mi lw ( 3) au ke e C ou nt y v M. .E . W hi te o C
.
の連邦最高裁判所判決以降のことである︒
判決以外には若干別異の原則が支配し︑グットリッチによれば︑﹁一州において発生している課税請求権で
あって︑かつ同州で判決の形に変えられたものは︑他州裁判所における法的訴訟によって執行される︑請求権が先に
( 4)
判決の形に変えられていない場合︑その請求権が強制されるか否かの問題は未解決である﹂と公式化されている︒
( 5)
︵6
)
③初期はもとより戦後にも英国判例の影響をうけた領域と推定され︑ことに
Un it ed St at es
v•
Ha rd en
のカナダ判
( 7)
決が関心を呼び︑また近年には
He r Ma je st y t he Qu ee n i n Rig ht f o th e P ro vi nc e o f B ri ti sh
‑C ol um bi a v. Gi lb er ts on
で 合
序
論
︵八 一九
︶
(1)
( 2 )
(1) (2)税法を強制しないという一般原則の範囲内に外国租税判決も入ることに疑いを挿まなかったと思われる︒
(9 )
その点︑英国は
Ho lm an
v .
Jo hn soの同一先決例中の意見を母胎としながらも︑現実に提起された諸判例の態様か
nら︑租税法の強制の否認という同根異性の原則を開示してきた︒けだし︑州際事件とは異なり︑課税国が自国裁判所
判決をえて他国裁判所にその承認執行を求めて訴を提起する可能性は少なく︑課税国国家は自国判決をまつまでもな
く︑直ちに自国租税法に基づく請求権を他国裁判所に提訴することが多いからである︒そこで︑ダイシー
1 1
モ
リ ス
は ︑
﹁英国裁判所は︑① 直接的にせよ間接的にせよ︑外国の刑法︑歳入法その他の公法の強制を求める訴訟︑若くは︑
( 10 )
国家行為に基づく訴訟を︑受理する管理権をもたない﹂との規則を提言している︒その根拠としては︑
他国に課税請求権の承認を強制するのは︑課税国の主権の拡張であって︑他国の領域内における一国による
( 11 )
︵課税王張︑即ち︶主権の権限の主張は独立主権の概念に反する︒
外国国家はは国外において自国法を強制する国際的管轄権をもたず︑英国裁判所は外国国家の過度の管轄権を
( 12 )
援助するために︑自国自身の管轄権を行使しないであろう︑等と解説されている︒
こうした理由から︑上記の規則が導かれたように思われるが︑それにつき若干の疑義が提出される︒
合衆国法と異なり︑英法はこの種の規則を外国租税法を強制する訴訟を受理する管轄権をもたないという表現
( 5 )
内国の審査になじまないから︑
( 4 1
第四四巻第四・五合併号
︵八 二
0 )
外国判決が公序に反するときは承認も執行されないわけであるが︑外国租税判決のどこが公序違反であるかは
一律的に公法判決の承認執行を拒否する方がベターと考えられたようである︒
( 8)
外国租税法の強制と外国租税判決の承認執行を区別する事由の存在が考えられるにも拘らず︑裁判所は外国租 衆国自身が独自にこの原則を宣言し固執した︒
関法二六四(3)
外 国 租 税 法 乃 至 租 税 判 決 の 承 認 と 執 行 に 関 す る 英 国 国 際 私 法 規 則 で集約したが︑何故に︑ことさら管轄権という用語を採用したのか︒
二 六 五
両国法に共通する要因として刑法と租税法を並列的に記載しているが︑両者には類似し︑符合する側面と同時
に︑相達する側面があって︑それが租税法ないし租税判決の強制や執行に何らかの影響を及ぽさないか︒
なければならない場合の間接的な強制を求める私人の訴とを︑何故区別してはならないか等々である︒
もちろん︑これらに対する適切確実で納得のゆく解答は相応に準備されている︒
先ず管轄権については︑例えば刑事事件で枢密院が管轄権という専門用語を使用した最初の主要先決例である
( 1 3 )
H u
n t
i n
g t
o n
v .
A t t r
i l l
において︑現実には会社の債務を社長に負わせるニューヨーク判決を執行したが︑﹁︵当該事件
でオンタリオ裁判所として位置する︶英国裁判所は外国刑罰判決を執行する管轄権を有しない﹂との公式が提示され︑
これに同調する過去の諸判決では英国裁判所は外国租税を徴収し乃至はそれを手助けする訴訟を受理する管轄権をも
たないとの見方が広く受容れられてきたから︑上記のよう規則が伝統的に存続することとなったようである︒
次に刑事法ないし刑事判決との類推であるが︑合衆国を例にとると︑﹁いかなる国の裁判所も他国の刑法を執行し
( 1 4 )
ない﹂という恐らくそれが表明された事件での付随的意見が︑その後文脈を離れて繰返し剰窃された︒⁝合衆国およ
び英国の双方において︑この規則は沿革的に罰金と一しよに分類された租税判決にも拡張されて適用されるようにな
り︑しばしば一国は他国の刑法ないし租税法に留意しないと記述されるに至った︒さらに︑恐らく罪刑法定主義と挨
を一にすると思われる租税法律主義の下で税金を回収する対人訴訟はそうした訴訟をする権限が制定法によって明示
( 1 5 )
的に付与されていない限り︑課税州においてさえ成立しないという趣旨の初期の判決文も見出せる︑そのような叙述
( 2 )
外国国家が直接に租税請求権を英国において強制したいと考える場合と︑結局いずれかの私人が租税を負担し
︵八 ニー
︶
続的なものではありえず︑若干の批判が再度提出される︒ ばならないとされる︒
第四四巻第四・五合併号︵国際間における︶資産の ︵
八 二
二 ︶
は税金の支払義務は幾分刑罰的性質を帯びるという初期の信念を一部反映している︒課税請求権が実際に刑罰的性質
のものとするならば︑租税法の強制も一国は他国の刑法を強制しないという規則の範囲内に入るかもしれない︒
最後に直接的強制と間接的強制についてであるが︑外国国家またはその指名者が懸案の外国規則に依拠して︑英国
訴訟によって税金の回収を求める場合に︑直接的強制は起る︒間接的強制は例えば清算中の会社が︑取締役の一人か
ら会社の負担すべき外国租税を支払うべく清算人が使用するのに︑その取締役の管理下にある資産を回収しようと求
( 16 )
める場合に起る︒しかし︑間接的強制もまた禁止される︒けだし︑外国国家が直接になしえないことを︑間接的にな
すのは許されえないからであると説明される︒従って︑ いかなる場合にも︑請求の内容を精査しなければならず︑現
実にそれが外国租税債務を徴収する目的から提起される訴であることが明らかであれば︑その請求は棄却されなけれ
それにも拘らず︑キャッチフレーズ的付言への長年にわたる追随が集積してできた規則の系が必ずしも絶対的で永
第一に︑﹁この規則は租税判決と刑事判決を同様に取扱うけれども︑外国租税判決に関する考慮事項は刑事判決に
対する考慮事項とは相異なる︒実質的にすべての国家が租税を賦課し徴収する時代︑また
即時の移転が容易に取決められる時代では︑租税判決を承認せず執行しない理論的根拠は大部分陳腐なものとなっ
( 17 )
第二に︑租税法の承認と執行の区別は既に教科書的知識となっているようである︒即ち︑ダイシー
1 1
モリスの規則
は単に執行のみに関係し︑問題の種類の外国法の承認を妨げない︒直接的強制も間接的強制も生じない場合には︑外 関法
二 六
六
外国租税法乃至租税判決の承認と執行に関する英国国際私法規則 出資者たる組合員と一しょに︑
( 一 )
そうでない場合の限界の微妙さと識別の困難さを指摘する︒ 国法が争点に関係し︑かつそれが公序に反しないことを条件として︑その種類の外国法は承認されるであろう︒例え
( 1 8 )
ば︑準拠法所属国の刑法または歳入法によれば無効とされる契約は無効もしくは強制しえないと判決されよう︒また
英国裁判所は︑信託のプロパー・ローの構成部分である外国租税法に相応じた行動を︑受託者にさせないようにする
( 1 9 )
指示を否認したと言及されている︒
最後に︑間接的な強制の否認について︑
二 六 七 チェシアー
1 1
ノースは極めて抑制的な表現であるが︑若干批判を秘めた語
調で次のような事象に言及する︒外国租税法の間接的強制の禁止は︑外国がその国の納税者の一人に対する証言を得
るのを︑英国裁判所が手助けするのを妨げるものでない︒だから︑英国裁判所は英国の証人が一九七五年の証拠法に
従って口頭の証言を与えるようにとの外国の要求に同意するであろう︒たとえこの事が外国納税者に対する外国の訴
( 2 0 )
︵2 1 )
訟手続に関連するとしても然りである︒そして終局的に
Br ok aw
v .
Se at ra inU .
K .
L t d
を例示しつつ︑間接的強制と
本稿の目的は論題に関係ある判例を初期のものから年代順に検討し︑それぞれの判例について︑これまで述べてき
( 2 2 )
た問題点との関連性を摘示し︑許せば︑最近の
Re S ta t e o f N or wa y' s A pp li ca ti on
まで概観するにある︒
s( 2 3 ) Ho lm an
v .
Jo hn so
n
ではフランスのダンケルクに居所をもち同地の住民であった原告は︑生来の地元民である共同
一定量のお茶を︑被告の注文に応じて︑彼が英国に密輸する積りなのを知りながら売
却し︑ダンケルクでそれを引渡した︒訴訟での請求金額に当る代価の支払いは︑同地で用意された金員または英国で
︵ 八
二 三
︶
第四四巻第四・五合併号
マンスフィールド卿はフーベルスを全面的に引用して︑概略次のように判決する︒
︵八 二四
︶
振出される手形でなされることになっていた︒しかし︑原告は密輸の画策それ自体とは全く関係なく︑単に普通かつ 日常の取引態様で別の人たちに売却するときのように︑このお茶を売却したにすぎない︒その取引は買主が上首尾に 物品を英国に陸揚げした場合に支払われる売買契約ではなくて︑ダンケルクでの物品の引渡しによって︑売主たる関 係は全面的に終了し︑契約は完全に成立する︒原告は陪審の評決を得たが︑被告は陪審の再審理を求め︑それが認容 英国では関税を支払わなかったお茶は禁止されており︑英国で売却されるとき契約は無効となる︒しかし︑ダンケ
ルクのように禁止されていない場所で売却され引渡され︑英国でその代価を求める訴訟が提起されるときは︑買主は 代価を支払う責に任ずる︒けだし︑当初の契約は有効だからである︒
しかし︑売却される物品が︑禁止されている英国で引渡される手筈になっていたとすれば︑契約は無効であり︑買 主は代価を求める訴訟において責を負うとされるべきではない︒けだし︑そのような訴訟を追行しうるとするのは︑
国家に対する不都合な侵害行為ともいうべきことであろうからである︒
最終的な引渡しはダンケルクでなされた︒もし︑被告がダンケルクのお茶を一定の価格で英国へ送り届けるように 注文し︑原告が英国への搬入を引受けたとか︑あるいは英国への密輸に何か関係したというのであれば︑彼は英国法 に対する侵犯者となったのであろう︒しかし︑事件の諸事実に徴して︑彼は︑終始︑英法に違反しなかったことは明
( 2 4 )
らかである︒従って︑陪審の再審理を認める決定は取消される︒
従って︑本件判旨は判決録が要約しているように︑売却された物品の代価を請求する訴訟は︑たとえ売主がその物 されてはならないとする理由開示の仮決定を得た︒
関法二六八外 国 租 税 法 乃 至 租 税 判 決 の 承 認 と 執 行 に 関 す る 英 国 国 際 私 法 規 則 ﹁英国で審理される総ての訴訟は︑英法によって審理されなければならないことに疑いはありえないが︑多様な情
況にあって︑外国で適法に締結された契約に就いては︑訴訟原因が生じた国の法律が規律する︒あらゆる国がそう宣
言しているが︑大多数の事件は訴訟原因の生じる外国の法によって解決されよう︒然るに︑その理論を実施する際の
諸原則が本件にどのように適用されるかは分明でない︒けだし︑いかなる国も決して他国の歳入法に留意しないから
( 2 6 )
である︒﹂この言葉は難解だが結局はフランス裁判所が英国関税法への回避疑惑のあるフランス法を準拠法とする契
約にどう対応するかが明確でないとの趣旨であろう︒ストエルも︑ をもつ表現で貫かれている︒
二 六 九
品が英国に密輸される予定であることを知っていたとしても︑引渡しが外国で完了したときは︑英国での売却が禁止
されているにも拘らず︑英国において成立するというものであって︑外国の租税法の強制乃至は租税判決の承認・執
行とは全く無縁である︒またマンスフィールド卿の意見は︑﹁いかなる裁判所も訴訟原因を不道徳な乃至は違法な行
為に基礎づけている人に援助の手を貸さないであろう︒原告自身の陳述その他から︑訴訟原因が明らかに不道徳な訴
訟原因
e x
tu rp ca us
または英国の実質法の侵犯を惹起するときは︑裁判所はその人は援助を受ける権利はないと宣
a( 2 5 )
告する︒﹂と云うふうに要約されているが︑原告自身の英国公序に対する違反︑あるいは本件特有の情況下では英国
関税法の通脱があったとすれば︑英国裁判所において救済はえられなかったであろうことは容易に理解しえても︑事
実関係に徴して外国租税法との関係は明確を欠く︒しかるに︑判決文の最初の部分におけるマンスフィールドの言及
が唐突に事案との関連も脈絡も殆どないままにそれだけが突出して︑二
0
0 年間も外国租税法の強制否認の支配的命
題になるという︑奇妙な現象が起った︒それはむしろ契約準拠法に関する英国国際私法規則の形成の沿革上︑重要性
マンスフィールド卿は︑外国契約が英国歳入法に
︵八 二五
︶
第四四巻第四・五合併号
違反する画策の一部であったかに留意することは︑外国裁判所の権限範囲外のこのであるから︑その外国契約は有効
( 27 )
であると主張したに過ぎないとの解釈を示している︒また対外関係法第三リステイトメントはこの判決のために同書
としてはかなりの行数を割いているが︑その後半部で以下のように叙述している︒﹁裁判所はフランス原告勝訴の判
決を下したが︑その判決は︑彼は不道徳な行為を犯してはいない︒けだし歳入法は単なる実定的な法であって道徳に
関わる法ではないからである︒⁝⁝彼は犯罪行為を犯すことはありえなかった︒けだし︑彼はフランスにおいてのみ
行為したのであり︑﹃いかなる国家も他国の歳入法に決して留意しない﹄からであるとの︑根拠に基づくものであっ
( 28 )
た ︒
﹂
( 29 ) Pl an ch e a nd ot he
r
v .
Fl et ch er
で︑原告のプランシェとジャクリィはロンドンの商人であって︑
にオステンドに寄港して︑目的地のナントに行くスエーデン船に物品を積載しこれに付保した︒保険業者である被告
は三
0
0 ポンドの保険を引受けた︒同船のロンドン通関手続その他の書類はすべて専らオステンド向けのように作成
された︒しかし︑こうして出港を許された船舶と物品はオステンドに寄港せず︑ナントヘ直行する︒フランス語の船
荷証券はロンドンで船長によって署名されたが︑故意にその船荷証券はオステンドで作成され︑物品は同地で船積み
され︑ナントで引渡されるということになっていた︒偽装である︒このように手の込んだ操作をする理由は︑英仏海
峡の直行便と知れると支払わなければならぬ灯台税を節税するためと︑英国からの物品よりも︑オステンドからの物
品の方がフランス関税のかかり方が少ないためである︒保険証券は被告によって署名され︑それから一ヶ月程して船
関法(
二 )
ロンドンから任意
ニ 七
0
( 八
二 六
外国租税法乃至租税判決の承認と執行に関する英国国際私法規則 のことは英国では詐欺ではない︒
二 七
積みがなされた︒その頃フランス船に対して復仇するとの布告が発せられたが︑別の二つの保険業者は布告後にも保
同船はグレーヴゼンド
Gr av es en t
(英国イングランド南東部ケント県北西部︑テームズの河口に臨む都市︶を出港したがナ
ントヘの途中で英国の関税監視艇によって拿捕された︒出港後に船長はロンドン税関から受取った書類全部を船外に
投棄した︒それらはグレーヴゼンド港の税官吏によって抹消されて了っていたので︑も早何の役にも立たなかった︒
船舶は中立国船舶であるから︑海事裁判所によって差押えを解除されたが︑物品は没収された︒原告は船舶には何の
関係も持分も持っていなかった︒訴訟原因はロンドン市議会場で開廷としているマンスフィールド卿によって審理さ
れ︑陪審の評決は原告勝訴の認定をした︒被告の陪審の再審理を求める申立てに際して︑
( 3 0 )
以下のように判決した︒
評決は二つの理由から忌避されている︒① マンスフィード卿は︑大略
船舶はオステンドに寄港する意図がなかったのに︑同地向けの船舶と
して通関手続をしたので︑保険業者に対する詐欺があったと主張される︒私見によれば︑保険業者に対しても︑恐ら
く何人に対しても詐欺はなかった︒本件で実行されたのは恒常的な取引の仕方であることが立証される︒オステンド
向けで通関手続をし︑船荷証券に同地を出発したと記載した理由は十分審かでなく︑推側の域を出ないが︑総徴収請
負人がフランス租税を司っていて︑英国がフランス物品に対して多大の関税等をかけたように︑
に同じことをしたようである︒英国商品の輸入を見て見ぬふりをし︑禁止にも相当する厳しい税金を取立てることに
よって︑取引を停止させる関税より︑オステンド関税をとる方が農民の利益になろう︒しかし︑ 険証券に署名している︒
フランスも英国物品
いずれにしても︑こ
一国は他国の歳入法に留意しない︒灯台税の回避に関して︑船舶はそのために没収
︵ 八
二 七
︶
口
第四四巻第四・五合併号
二 七 二
︵ 八
二 八
︶
第二の異議は︑保険証券は復仇の布告前に作成され︑船舶は布告後に出
発したことに関係する︒しかし︑その頃の英仏の人々は皆戦争の即時開始を予期していた︒現実に開始されていたわ
一触即発の状態であった︒物品がフランス財産であったとは
思われない︒英国人が中立国船舶で自己の物品をフランスヘ輸送中であったといえよう︒だが物品がフランス物品で
あったか英国物品であったかはどうでもよいことである︒保険を付された危険はあらゆる海上捕獲を対象範囲として
いる︒他の保険業者も布告後に同じ保険料で署名しているように︑被告が署名したとき戦争の危険は視野にあったこ
とは明らかである︒危険が増しはするが被告が保険証券を作成するに当って慎重に考慮に入れた出来ごとを︑被告は
( 3 1 )
利用しえないであろう︒陪審の再審は認めるべきではない︒判決録の頭注では次のように要約されている︒
オステンドに任意に寄港してロンドンからナントヘ行く船舶に積載する貨物に保険をかけ︑同船は単にオステンド
向けで出港許可をうけているのに︑実際には直接にナントヘ向けて出帆し︑かつそれが英仏両国のある税金を節税す
るための公知の取引態様であるときは︑保険証券を無効とするほどには︑保険業者に対する詐欺はない︒交戦開始の
前に保険証券が作成されたが︑誰れしもが即刻にも戦争が起こることを予期している場合に︑たとえ戦争が開始され
た後に船舶が出航したとしても︑保険金受取人は保険業者に通知をする義務はなく︑保険業者は海上捕獲の場合に担
( 3 2 )
保する義務がある
1英国裁判所は外国歳入法に留意しない︒
( 33 ) Sy de ne y M un ic ip al o C un ci l
v .
Bu ll
に お
い て
︑
ニュー・サウス・ウエールス州の立法府の法律が︑シドニー市議会 けでないが︑両国の大使は召還された︒艦隊は集結し︑ される程の有責とされたわけではない︒② 関 法
(2)
外国租税法乃至租税判決の承認と執行に関する英国国際私法規則 税金を回収する訴訟に類似している︑
(1)
に同市内の街路の改善を遂行するため︑改善地区内に所在する財産の所有者に︑改善費用の分担義務を課する権限を
授権した︒分担金の支払いを強制する目的上︑市議会は分担義務を負う所有者の動産を差し押え︑また差押えによる
救済に加えて︑訴訟によって支払われるべき金額を回収する権利を与えられた︒
一 八
九
0年の条例に基づき︑準男爵 F ・クック卿に対し︑彼の改善地
( 34 )
区内の財産につき︑三九一九ポンド余を請求し︑被告
H ・
バルは歯型捺印証書によってクック卿との間で︑本件請求
に対する損害補填契約を結び︑かつ防禦許可の申立てを認められたので︑以後 H ・バルを被告として言及する︒差押
えという手段で改善地区内の財産所有者から支払われるべき分担金を回収しえなかったので︑シドニー市議会はその
金額を回収するため英国で訴訟を提起した︒ニュー・サウス・ウエールス訴訟によって回収する原告の権利は被告に
よって争われなかった︒判決録で本件判決は次のように要約されている︒
分担金の支払義務は外国が専らそれ自身の内国目的から課したものであるから︑それを強制する訴訟は罰金や
訴訟は外国に所在する不動産に関係するとの理由から︑この訴訟は英国においては成立しない︒
グランサム判事の意見に依れば︑第二の判旨については︑本件訴訟は対人・対物の混合訴訟であって︑この請求は
土地に関する事項という性質のものである︒ニュー・サウス・ウエールス州法は訴訟による救済を利用しうるとして
いるが︑そのことは請求の性質を変更するものでなく︑植民地立法の付与している差押えによる救済が︑英国での差
押えを正当化しないと同様に︑原告の英国での訴訟提起を可能にすることはないというもので︑本稿の目的とは余り
関係ないが︑第一の判旨は看過しえない意義をもつ︒判決文を要約すれば︑﹁この訴訟は刑罰に対する訴訟または税 原告は支払われるべき地方税的公課として︑
二 七 三
︵ 八
二 九
︶
リーがやはりケベック住所を有して死亡し︑ 一部は同州内の財産と︑ 一部はアメリカ合衆国内に所在する債券︑無担
一 九
0 六年十二月今度は夫ヘン 第四四巻第四・五合併号
金を回収する訴訟とも云うべき性質のものである︒即ち︑それは一国において他国の歳入法を強制するために提起さ
れた訴訟に類似している︒そのような事件で︑訴訟は歳入法を制定した国家の領域外では成立しないと常々判決され
てきた﹂のであり︑﹁原告の主張は帰するところ︑外国立法者がそれ自身の国内目的のためにそれ自身の国民に人的
責任を課すことによって︑英法によれば英国裁判所が審理するのを相当としない問題につき裁定する義務を︑英国裁
判所に課しうるというものであるが︑私見によれば︑ ロンドン都議会が条例違反に対する罰金をシドニーにおいて回
( 3 5 )
収する権利がないのと同様に︑原告は英国において本件請求金額を回収する権利がない﹂
( 3 6 ) Ch ar le s
&
. Co tt on
v•
Kingはシャルロッテ•L・コットンとその夫ヘンリー•H・コットンの遺産につき相続税の
支払いを請求するケベック州政府の主張から生じた訴訟である︒シャルロッテは一九〇二年四月に死亡し︑
ベック州内の財産と︑ 一部はアメリカ合衆国に所在する債券︑無担保債券︑
︵八 三
0 )
工業会社の株式その他の動産を残した︒
死亡当時︑彼女はケベック州に住所を有していた︒遺言によって︑若干の特定動産を遺贈した後︑残余財産を夫ヘン
リーに与え︑彼を遺言執行人に指名した︒シャルロッテの死亡当時︑相続税に関してケベック州で実施されていた法
律は
5
& 5
5 6
V
ic . c. 17 (1
(57)
および本件には影響のないその後の修正制定法
Vi c. c . 1 6
̀ 5 8
V
ic . c. 1
6
および
5 9 Vi c. c .
17)
中に規定されていた︒ケベック州政府は妻の遺言執行人としてのヘンリーから︑妻の遺言のもとで移転
した純資産全部に対し︑制定法上の税率を適用した相続税を請求し︑かつ徴収した︒
一 部
は ケ
関法
四
二七四外国租税法乃至租税判決の承認と執行に関する英国国際私法規則 ものである︒第一審裁判所は︑
二 七
五
保 債
券 ︑
工業会社の株式その他の証券および動産からなる遺産を残した︒ヘンリーの死亡当時︑相続税に関しケベッ
( 37 )
ク州で実施されていた法律は
6Edw 7
, c .
1 1
中に包合されていた︒
ケベック州政府は当のヘンリーの遺言執行人︵上告人︶からヘンリーの遺言のもとで移転する純資産全部について
の名において債務を負う︑
一 九
0
九 年
七 月
︑ に権利請願の訴を提起し︑上告人に対して国王は三万一千四百九十ニドルの金額およびその利子につき︑ケベック州
つまり税金の取り過ぎであるとの宣告を申立てた︒その金額はアメリカ合衆国その他ケ ベック州外に所在する動産について︑それぞれシャルロッテとヘンリーの遺産に基づき支払われた相続税を合算した
一八六七年の英領北米法第九二条の付表②のもとでケベック州立法府は同州域外に所 在する動産に課税する権利をもたないとの理由で︑上告人は請求金額を受取る権利があると判決した︒︵本件枢密院 での︶被上告人はこの判決から王座部裁判所︵上訴部︶に控訴し︑王座部裁判所は些細な修正を加えて第一審判決を
命 ︶
確認した︒それは事案は
Wo od ru ff
v .
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の判決によって規律され︑たとえ税金が財産に対してで
なく︑移転に対して賦課される形式を採るとしても︑立法府が直接課税するのを禁止されていることを間接的に行な おうと企図するものであるから無効であるとの趣旨である︒被上告人はカナダ最高裁に上訴し︑上告人も第一審判決 の修正に対して交差上訴を行い︑最高裁は四対二の多数意見をもって︑夫ヘンリーの遺産に関する限り︑上訴を認容
( 39 )
したが︑シャルロッテの遺産に関する上訴は意見同数をもって棄却する判決を云渡した︒上記の修正に関する交差上 訴は棄却された︒カナダ最高裁判決の趣旨は簡略に云えば次のようである︒
シャルロッテの死亡当時に実施されていた制定法は現実にケベック州外の財産に拡張される意図はなかったが︑
制定法上の税率で算定した相続税を詰求した︒
︵ 本
件 枢
密 院
で の
︶
︵ 八 三
一 ︶
上告人はケベック第一審裁判所
(2)
一 九
0 六年のケベック相続税法によって課せられる租税は︑
第四四巻第四・五合併号九
0六年の相続税法中に導入された財産の定義の効果は︑州内に所在すると州外に所在するを問わず︑州法のもとに
移転する総ての財産に︑その制定法を拡張することであったと主席裁判官は考え︑そのような法律を制定する州立法
府の権限に関して︑動産は人に従う
m o b i
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p e
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の原則を適用して︑主席裁判官は立法府の意図は権
原の移転に課税するにあり︑また相続は包括承継と見倣されるべきであるから︑相続準拠法によって法律上課せられ
る税金が支払われてはじめて︑人格代表者は権原を取得することができると判決した︒多数意見の他の三判事も︑主
席裁判官の判決理由と主として同様の理由で上訴を認容する判決を云渡した︒彼らは
W o
o d
r u
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の事件を区別される
先例と考えた︒少数意見の二判事は各々が夫妻のいずれの遺産についても上訴は棄却されるべきであるとの意見で
あった︒アングリン判事は一九 0 六年法中の財産の定義が課税の範囲を州外の財産に拡張する効果をもっとする点で︑
主席裁判官と同意見であったけれども︑そうした税金は州内租税とは云えないから︑州立法権を躁越していると判決
した︒この税金が直接税でないとの理由で州立法府の権限を踏越しているか否かの問題は︑
( 4 0 )
フ判事によってのみ考察され︑それぞれがこの税金は直接税であると意見であった︒
枢密院に対するチャースル・ S ・コットンからの上告審に当って︑次のように判決された︒
ー
の移転に対して何らかの租税義務を賦課するものではない︒
︵ 八
三 二
︶
アイディントン判事とダ
一九〇六年のケベック相続税法も一八九二年に通過した同州の相続法も︑その真の解釈によれば︑州外の動産
一八六七年の英領北米法第九二条の趣旨の範囲内
( 41 )
での﹁直接税﹂ではなく︑その結果︑州立法府の権限を躁越するものである︒
抵獨法と異なり︑租税法上では国家でなく地方であるケベック州が外国乃至は州外財産に相続税を課すことが権限 関法 二 七 六
外 国 租 税 法 乃 至 租 税 判 決 の 承 認 と 執 行 に 関 す る 英 国 国 際 私 法 規 則 二七七 躁越か否かが争われ︑英領北米法の解釈との関連において︑直接税であれば課しえないことを前提要件として︑ケ ベック相続税が直接税か間接税かどうかという︑極めて初歩的な論争が展開された︒
上告人側弁護人はミルの経済学の著書中の定義を引用しつつ以下のように論じる︒﹁﹃直接税とは︑税金を支払うべ
きことを意図されまた要求されるまさにその人に︑直接要求される税金である︒間接税とは︑例えば︑消費税や関税
のように︑他人の出損において埋合せされるとの期待と意思をもつ人に︑要求される税金である︒﹄
もとでは︑財貨の移転の申告をする人︑即ち︑遺言執行人または遺言執行に立ち会う公証人によって︑税金の支払い
がなされ︑その人は遺産または受益者たちから支払われる金額を徴収しなければならない︒それ故︑税金はその定義
( 4 2 )
の範囲内で直接税ではない﹂
これに対して被上告側弁護人は以下のように論じる︒﹁ケベック制定法によって課せられる相続税は直接税である︒
州立法府の権限を直接税の賦課に限定している英領北米法の目的は︑カナダの州が関税︑消費税および厳密にそれに
類似する税金を賦課するのを妨げるにあり︑こうした相続税はそれに当らない︒同法の要求している申告をする人が
税金を支払うべきであるとの規定は︑税金の性質に影響を及ぼしうるものでなくて︑単に税金の徴収の仕組みに関す
る規定にすぎない︒それ故︑申告をする人︵遺言執行人︶は義務を負う人︵相続人︶
( 4 3 )
て︑関税や消費税の支払いとは全く異るのである︒⁝⁝﹂ のために支払いをなすのであっ
英法では手続上遺言管理人または遺言執行人が納税する形式をとるから︑真正の納税者である相続人たちは担税者
のような外観を呈するが︑不特定多数の人が担税者となる消費税とは性質が異なり︑むしろ雇傭主が従業員の給与所
得税の源泉徴収をするのに類似する︒従って︑相続税を直接税と性質決定する被上告人の主張に一理あるにも拘らず︑
︵ 八
三 三
︶
一 九
0 六年法の
国の通念からは若干奇妙な帰結が導かれた︒
( 2 )
第四四巻第四・五合併号
枢密院司法委員会ムルトン卿は次のように言及した︒
﹁例えば︑ニューヨーク所在の債券や株式のような動産が同州に住所を持たない人に遺贈された事件を想定せよ︒
な事件で︑受遺者は遺言書の作成を正規に立証し︑必要とあらば︑それに関するニューヨークの租税法の要求を充足
した後に︑そうした証券類の所有権を取得することは疑いない︒それでは州政府はどのようにして相続税の支払いを
収受するか︒州政府は︑自らは負担の責任をもつ意思がなく誰か他の人によって埋合せてもらうことを意図する人か
らのみ収受する︒そのような税金は明らかに従前の諸判例において司法委員会によって受容れられた直接税の定義の
外にあると︑裁判官たちに思えるようである︒⁝⁝この徴収の仕方は地方の遺言の検認が必要となり︑それに関する
料金が請求された事件のように︑政府によってなされた役務に対する代償としてではない︒本件は上記の一般に受容
れられる定義の意味の範囲内で税金を負担する意思のない人から支払いを収受する純粋な租税事件であり︑それ故︑
( 4 4 )
裁判官たちは租税は直接税ではないと判決せざるをえず︑従って︑制定法は州政府の側の権限踊越である⁝⁝︒﹂
本件では枢密院司法委員会は自治領のカナダ最高裁からの上告を受け︑恰もカナダ裁判所として開廷している
のであるから︑外国租税判決の承認や執行を取扱った事案とは到底云えない︒
英領北米法の解釈をめぐり︑直接税と間接税の性質決定が争点となり︑遺産管理人や遺言執行人を介する相続
制度および納税手続きの異質性から︑関税や消費税とは全く異っている相続税を間接税と性質決定するという︑わが
( 1 ) いずれにしても︑ 諸国家は外国租税法を承認ないし強制すべきであるとの趣旨の︑ 一般に受容れられた国際法の原則はなく︑そのよう
関法二七八︵八 三四
︶
の債券の利子として外国会社が受取る所得に対し
2
パーセントの所得税が課せられ︑源泉徴収されて合衆国官憲に支
( 46 )
払われた︒鉄道会社はその債券につき半年毎の利子の支払いをなすに当って︑合衆国所得税を差引くよう主張した︒
税金の差引きを認めない原告は次のように主張する︒﹁アメリカ所得税法が利子からの所得税の源泉徴収を︑利子 を受取る権利をもつ人への支払いと同等としている事実は無関係である︒けだし︑英国裁判所は外国の租税法が英国 契約の当事者の地位を変更するのを承認しないからである︒
5 パーセントの利子から合衆国によって課せられた所得
税を差引いて支払うとの被告の抗弁は不当な抗弁である︒契約は英国で締結されたから︑被告は完全にそれを履行す そ
の 後
︑
外国租税法乃至租税判決の承認と執行に関する英国国際私法規則
二 七 九
判旨と直接関係なく︑単なる付随的意見でしかないが︑﹁諸国家は外国租税法を承認または強制すべきである という趣旨の一般に認められた国際法の原則はない﹂との提言が︑この判決の中にも挿入されている︒
( 45 ) In di an an d G en er al In ve st me nt Trust,
t d L . v . Bo ra x C on so li da te d, t d ・ L
で は ︑ 出 小 ム ロ 如 小 国 に お い て 設 立 さ れ ︑ 同 国 で 事
業を営んでいる鉄道会社が︑ 五 0
万ポンドの金額のモーゲージ付年利
5
パーセントの金貨債券を原告会社に対して発 行し︑信託証書によってロンドンでの元本と利子の支払いを引受けた︒信託証書の当事者であった被告会社は︑鉄道 会社が義務不履行のときはそうした金額の支払いを保証することになっていた︒信託証書中にある条項は︑鉄道会社 が英国での訴訟係属に同意しているから︑その証書は英法によって解釈されるべきであり︑またそのもとで請求をな す全当事者の権利は英法によって規律されるべきであると規定する︒原告会社と被告会社は共に英国会社であった︒
( 3 )
一九一六年のアメリカ合衆国の所得税法(‑九一七年の戦時所得税法︶によって︑合衆国居所を有する法人
( 五 )
︵八 三五
︶
第四四巻第四・五合併号
( 4 7 )
る義務がある︒外国の権力が介入したというのは言訳にならない︒﹂被告側弁護人は次のように言及する︒﹁鉄道会社
は合衆国所得税法に従い︑合衆国外で保持される債券に対する所得税を︑合衆国税務当局に源泉徴収して支払う義務
がある︒⁝⁝外国で事業を営んでいる会社に金銭貸借を行うとき︑貸主はその外国の租税立法に服するという危険に
突進むのである︒成程︑利子の支払は英国においてなされねばならないが︑その義務は合衆国からの送金によっての
み遂行されうるものであり︑送金の条件として同国の租税立法に服するであろう︒仮に︑原告が利子の支払を強制す
るために合衆国に赴かねばならなかったとすれば︑ 5 パーセントの利子から税金を差引いた金額の支払が有効な履行
となろう︒⁝⁝英国裁判所は鉄道会社がアメリカ会社であって︑被告会社は単なる保証人にすぎないこと︑および金
( 4 8 )
員はアメリカから送金されねばならず︑合衆国政府の租税立法に服する事実を拿重するであろう︒
S pi l l er
v .
Tu rn er
では︑英国株主たちを持ち︑オーストラリアで事業を営んでいるが同国で設立されたのでない英国会社は︑従って︑
その英国会社の英国株主間で締結された契約は︑オーストラリア立法によって影響をうけることはありえないとされ
( 4 9 )
た︒それらの諸事実は本件とは著しく相違しており︑それ故当該事件は適用がない﹂と︒これに対する原告側弁護人
の訴答は︑﹁一八四二年の英国所得税法第一〇二条および第一
0三条は年毎に利子の支払義務のある人は所得税に関
してそれから差引くことができ︑かつそうした源泉徴収は支払と同等であり︑その限りにおいて履行であると明確に
規定する︒︵しかし︑︶その規定がなければ︑所得税の源泉徴収は支払いと同等ではない︒外国所得税の徴収分につい
( 5 0 )
ては類似の規定は存在しない﹂というものである︒
( 5 1 )
王座部のサンケイ判事は︑
Sp il le
r
v .
Tu rn er , J ac ob
s
v .
Cr di t L yo nn ai
s
に言及した後に︑以下のように判示した︒
﹁外国における所得税の支払を契約の履行として考えるのを認める英国制定法は存在せず︑普通法上も英国におい
関法ニ 八
0
( 八
三 六
︶
外国租税法乃至租税判決の承認と執行に関する英国国際私法規則
ニ八て帰結された契約は他国の法律によって規律されない︑さらに︑契約中に原告会社が合衆国所得税法の規定が英国に おいて同社に強制されることに合意したとの約定を黙示的にも察知することはできず︑従って︑
アメリカの鉄道会社
( 52 )
および被告会社は債券の利子として原告会社に支払うことに合意した金額から合衆国所得税を差引く権利がない﹂︒
( 53 ) In re i V ss er (H .
M .
Th e Q ue en of Ho ll an
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Dr uk ke r a nd Others)
において
起された問題は︑外国国家がその外国
t iの国民から支払れるべき歳入に関して︑その外国国民に対する請求を英国で行った場合に︑英国裁判所はその請求を 承認し強制するかどうかである︒原告のオランダ女王は︑請求陳述書によって︑オランダ国民でオランダ住所をもち 一九二六年十二月にアムステルダムにおいて死亡した被相続人
D
・ヴィサールなる者の遺産に対して債権を有すると 主張した︒被告は遺言執行人であって︑
やはり被告のー・ツィーゲンと共にヴィサールの法定相続人であった
M
・ ド
ラッカー︑および彼からの委託を受けてヴィサールの英国動産の遺産管理人となった
w .
R
・ビショップとである︒
しかし︑ヴィサールの遺言執行状は遺言検認登記所本庁から一九二八年三月ビショップの代りにドラッカーに付与さ れた︒ヴィサールが英国に残した遺産は本来の税金とすべての遺産管理費を支払った後の正味の価値はおよそ︱︱五
( 54 )
0 ポンド程あった︒
請求の陳述書で︑原告はオランダ法ことに一八五九年の相続法︑その後修正されたあるオランダの制定法に従って︑
問題のヴィサールの遺産は相続税につき納付義務があると申立て︑また一八五九年法第二五条に依れば︑動産質や譲 渡抵当によって担保とされていないすべての他の債務に優先して︑遺産に対する相続税額は︑当該遺産からの原告へ
(
六 )
︵ 八
三 七
︶
第四四巻第四•五合併号ニ八二
︵八 三八
︶
の債務を構成すると主張した︒原告はさらに︑被告の M ・ドラッカーとー・ツィーゲンは一八五九年法第二八条によ
り︑とりわけヴィサールの遺産の性質および価値を明記している覚え書を適切な官憲を通して原告に提出し︑かつ同
( 5 5 )
法第一八条によってそれに基づく相続税の支払義務があると申立てた︒
英国で上記の訴訟を提起したオランダ国元首としての原告は︑ヴィサールの遺産に債権を有するとの宣告と未払勘
定についての決定を訴求した︒女王は必要とあらばヴィサールの動産が裁判所によって管理されるよう懇願した︒
被告側の主張は次のようである︒﹁英国裁判所は外国国家がその歳入を徴収するのを援助しないであろうというが︑
長期にわたり確定されてきた原則である︒それ故︑原告の請求は削除されるべきである︒この規則はダイシーの法律
抵燭論第四版五四規則ニニ四頁に正確に記述されている︒﹂これに対し原告側は次のように反論する︒﹁これは原告に
対し適法に支払われるべき債務である︒文明国家の法律によって不本意でも同意されてきた諸権利は英国裁判所に
よって承認され︑この原則は外国歳入法には適用されないという被告の主張は十分な根拠がない︒歳入という言葉は
ダイシーの法律抵燭論第四版並びに第一二版(‑九二二年︶に現われてはいるが︑二つのそれ以前の版には現われてい
ない︒第三版と第四版で言及されている命題を支持している先決例は︑ほんの取るに足りない基磐に依存しているに
過 ぎ
な い
︒
Hu nt in gt onv .
A tt r i llは被告の主張を支持するものでなく︑原告が英国裁判所において訴え得ないとの命
( 5 6 )
題に組する先決例ではない︒﹂衡平部トムリン判事はこの主張を却下し︑オランダ女王による訴は棄却されなければ
ならないと判決した︒判決録の頭注では︑﹁英国裁判所は外国国家がそれ自身の国民から支払われるべき歳入に対す
る請求権に基づいて英国において提起している訴訟を受理しないであろう︒
Mu ni ci pa Cl ou nc il of S yd ne y
v .
B ul l ( 5 7 )︹1909)
l K .
8.
7
に追随する﹂と要約されている︒ 関法
外 国 租 税 法 乃 至 租 税 判 決 の 承 認 と 執 行 に 関 す る 英 国 国 際 私 法 規 則
(
七 )
一見したところ普遍的に受容れられた原則が存在す 最も正確には︑ウェブが登載しているトムリン判事の判決文の一節は次のようである︒ ﹁ハードウィック卿の時代以来︑およそ二
0
0 年の間にわたり︑裁判官たちはこの見解につき意見を提示してきた
し︑英国裁判所が外国の歳入法に留意しないと繰返し言及したきたのは明白なように思われる︒本官は︑
告である主権国家ー外国主権国家ーが国税の回収を求めている場合と︑他方では原告である外国の市当局が地方税そ
( 58 )
の他の公課の回収を求めている場合との間に何らかの区別乃至は有効な区別を設けることができるとは理解しない︒﹂
この判決文は︑請求を削除すべきであるとの被告ヴィサールの遺言執行人の異議申立てに対するものであるが︑
Mu ni ci pa l C ou nc il of S yd ne y v . Bu ll
の原告は外国の市当局であって主権国家でないから︑当該事件は本件の先決例で
ないとの弁論が原告のためになされたのを念頭におけば理解に便宜であろう︒
グレーヴソンはトムリン判決を以下のような簡潔かつ重点的な表現を用いて総括している︒﹁少なくとも︑およそ
二 0
年間にわたって実施されてきた十分に確定された規則があって︑その規則のもとでは︑英国裁判官は外国国家 0
( 5 9 )
の元首のために︑そうした外国の租税を徴収しないであろうとされている︑というのが本官の意見である﹂
上記の判決文から判断するならば︑諸国は管轄権および承認の問題に相異なるアプローチを採用しているとしても︑
一国裁判所は他国の租税徴収機関として使用されえないという︑
るとされる︒この原則を最初に確立したのは本件であると考えてよいであろう︒
( 6 0 ) Go ve rn me nt of I nd i a , Mi ni st ry f o Fi na nc e ( Re ve nu e D i vi s i on ) v. Ta yl or n a d A no th er