論文審査の結果の要旨
氏名:吉本 秀輔
博士の専攻分野の名称:博士(歯学)
論文題名: Effect of Prostaglandin E2 on Human Dental Follicle Cells during Osteogenic Differentiation (歯嚢細胞の骨形成分化過程におけるプロスタグランジンE2の効果)
審査委員:(主 査) 教授 小 方 賴 昌
(副 査) 教授 近 藤 壽 郎 教授 吉 垣 純 子
ヒト歯嚢由来細胞 (humam dental follicle cells: hDFCs) は, 未分化間葉系幹細胞が存在し, 歯嚢から分離し た骨芽細胞誘導培地 (osteogenic induced medium: OIM) で培養すると石灰化することが報告されてきた.
hDFCsは, 骨芽細胞や脂肪細胞, 神経系細胞へと分化すること, 間葉系幹細胞マーカーを発現することから,
骨髄由来ヒト未分化間葉系幹細胞 (human mesenchymal stem cells: hMSCs) と類似した性質を有していると 考えられている. 歯嚢は, 歯科治療の過程で破棄される組織であり, 新たな生体侵襲を加えることなく採取 可能なことから, 再生医療の細胞源としての可能性を有している. そのため, hDFCs は, 顎顔面領域での骨 再生医療の細胞源として, さらに, 石灰化機序解明等の研究用体性幹細胞としての有用性が示唆されてい る.
Prostaglandin E2 (PGE2) は, 多様な作用を有する生理活性物質であり, 細胞膜リン脂質のアラキドン酸か ら誘導される代表的な脂質代謝産物である. PGE2は骨代謝においても重要な役割を果たしていると考えら れているが, PGE2は骨形成を促進する, または, 骨形成を抑制するとの報告が混在している. PGE2産生の律 速段階を調節する酵素であるCyclooxygenase (COX) は, COX-1および-2のアイソザイムが存在する. また, PGE2の受容体であるE-type prostanoid receptor (EP) には, EP1~EP4の4つのサブタイプが存在しており, 各 EPのシグナル伝達経路や作用機序に関する研究も行われている.
著者は, hDFCsの骨芽細胞分化/石灰化に関与する因子の検討を目的に, hDFCsをgrowth medium (GM) ま たはOIM で培養を行い, DNA microarray解析を行った. さらにPGE2がhDFCsの骨芽細胞分化/石灰化に与 える影響について検討し, 以下の結果を得た.
1) DNA microarray解析の結果, 培養0日目およびGMでの培養17日目のhDFCsと比較して, OIMで培 養17日目のhDFCsではCOX-1およびCOX-2の遺伝子発現が上昇した.
2) hDFCsの骨芽細胞分化誘導過程におけるCOX-1およびCOX-2の経時的遺伝子発現を調べた結果, 培
養17日目にGMと比較してOIMで培養したhDFCsでCOX-1およびCOX-2の遺伝子発現が有意に 上昇した.
3) DNA microarray解析の結果, 骨芽細胞へ分化誘導を行っていないhDFCsにおいてEP1~EP4の全てが 発現していた. また, EP4の遺伝子発現は, 培養0日目と比較して培養17日目のhDFCsで遺伝子発現 が上昇した.
4) hDFCsの骨芽細胞分化誘導過程におけるEP1~EP4の経時的遺伝子発現を調べた. hDFCsをOIMで培
養したところ, EP2遺伝子発現は培養17日まで経時的上昇が認められた. EP4遺伝子発現は培養10日 目まで経時的上昇が認められた.
5) 10-5 ~ 10-7 Mの PGE2をOIMに添加してhDFCsの培養を行ったところ, 10-5 および 10-6 Mの PGE2
添加群でAlizarin red S染色の遅延が認められた.
6) hDFCsを 10-5 ~ 10-7 Mの PGE2添加または無添加OIMで3日間培養を行い, 骨芽細胞分化関連遺伝 子の発現を調べた. PGE2無添加群に比べPGE2添加群では, OsterixとALPの遺伝子発現は有意に減少 し, Runx-2, BMP-4, TGF-βの遺伝子発現は減少傾向がみられた.
本論文は, hDFCsの石灰化過程でCOX-1およびCOX-2遺伝子が発現上昇すること, hDFCsではEP1~EP4
の発現が認められるとともに, hDFCsをOIMで培養することによって, EP2およびEP4遺伝子の発現上昇が 認められたことから, hDFCsの骨芽細胞分化および石灰化過程にPGE2が影響を与える可能性を示した. ま
た, PGE2を添加した骨芽細胞分化誘導培地でhDFCsの培養を行ったところ, 石灰化の遅延および骨芽細胞
分化関連遺伝子の発現減少が認められた. これらの結果は, hDFCsの培養系では, PGE2は骨芽細胞分化を抑 制することによって, 石灰化の遅延を引き起す可能性が示唆するものである.
よって, 本論文は, 博士(歯学)の学位を授与されるに値するものと認められる.
以 上 平 成30年2月22日