体育教員における授業リフレクションの可視化の方 法とそれらのアーカイブ化の意義に関する研究
著者 新保 淳, 野津 一浩, 高根 信吾
雑誌名 静岡大学教育学部研究報告. 教科教育学篇
号 46
ページ 193‑203
発行年 2015‑03
出版者 静岡大学教育学部
URL http://doi.org/10.14945/00009187
静岡大学教育学部研究報告 (教 科教育学篇 )第 46号
(20153)193〜203 193
体育教員における授業 リフレクシ ヨンの可視化の方法 と それ らのアーカイブ化の意義に関す る研究
A Research on the Method of Visualization of Class Renecion by Physical Education Teachers,and theヽ leaning of the Archived Data
新 保 ピ 野 津 一 ざ 高 根 信 吾 中
*Atsuslu SⅢ
Ⅳ
BO, Kazuhiro NOZU and Shhgo TAKALTE(平
成26年 10月 2日受理)Abstract
ln the present educa」
onal world,in order that physical educaton teachers may becomeindependent, renectlve practltioner, it is necessary to develop a system of determinmg the proficiency of his or her class practice po、 ver First of all, the purpose of this research
clari■
es a ne、 v method Of visualizing class re■ ection Next, it discusses the meaning of tlle archived data First by considering the tllinking process of the hypothetico‐
deductlve method、 vhich is one of the methodology of nattlral science and the thinkmg process of Class practice in analogy,this research proposes tllat clぉ s renection can be visualized and the result can be utllized also as a class reflecuon sheet Next this is disctlssion of the kind of erect that archlvhg of the class reflection sheet is expected to hか ′
e for a young teachers improvement h developing dass pracuce powerKey VVords:proiciency of class practice power, hypothetico― deductive method, Class
re■
ectlon sheet archivlng
キ ー ワ ー ド
:授業 実 践 力 の 熟 達 化 、 仮 説 演 繹 法 、 授 業 リ フ レ ク シ ョ ン シ ー ト、 ア ー カ イ ブ化
1緒 言
中央教育審議会 は、平成
2年 8月 28日
の第82回総会 において「教職生活の全体 を通 じた教員 の資質能力の総合 的な向上方策 について(答
申)」 を取 りまとめた。それによれば、 これか ら の教員に求め られる資質能力 として、〇 また、教職生活全体 を通 じて、実践的指導力等 を高める とともに、社会の急速な進展の 中で、知識 技能の絶えざる刷新が必要であることか ら、教員が探究力 を持ち、学び続ける 存在であることが不可欠である (「学び続ける教員像
Jの
確立)。ことをあげている。すなわちこの答 申の前提 となっている「社会の急速な進展の中で、知識・
沐 保健体育講座 **常
葉大学
194
新 保 高 根 信 吾
技能の絶えざる刷新」は、留まることが無いと予想 されるだけに、「学び続ける教員像」は、
喫緊の課題であるとともに、それはまた永続的に追求すべき課題でもある。またこのことは、
授業実践にのぞむ教員の立ち位置を示すものでもある。それは、「学校現場での授業はマニュ アルに従 った作業ではありえず、完結することなく絶えずより良いものを目指す実践」
(樋
日、2010、
p23)と して授業を提えることが、まさに「学び続ける教員像」の姿勢であるとも言えよう。
しかしながらこうした「姿勢」は、教員本人が常に意識 していれば、自ず と独 りでに培われ るものでないこともまた、誰もが認めるところであろう。すなわち、そのための「システム」
が求められるのである。
筆者 らは、これまでもこうした教員像を現実化するために、これからの教員には、普段の授 業実践から「授業構想 (Plan)J→ 「授業展開
(Do)」
→「授業省察(Check)」
→「再デザイ ン(授
業改善:Acton)」 のいわゆるPDCAの
サイクルに基づいて授業実践を行う自立 した教 員像が求められているものの、①PDCAサ
イクルの中でも、C→ A→ P→ Dの
時間の確保 と 質的な保障がないこと、②授業省察から再デザインの過程が各教員に委ねられ、他者の視点が 入 りに くいこと、③授業省察か ら再デザインの過程 に対 して、 自らの授業実践力の向上 を自覚 化す るものになっていないことを指摘 して きた(註
1)。 またこうした問題は、授業経験が豊富 な教員 ほ ど、授業展開か ら授業省察そ して再デザイ ンの過程 は、個 々の教員の経験の中に埋め 込め られてお り、それ らが可視化 されることは、ほとんど無いこと。そのため、 この可視化 さ れていない部分の掘 り起 こしをいかに行い、それをどの ようにして実行性のあるものにす るか は、教員 自らの課題 を明確化するために も、 また、教員が 自らの授業実践力の熟達化 を進めて い くために も重要であることを指摘 して きた。 さらにこうした授業経験が豊富な教員の授業実 践 における思考 のプロセスの可視化 は、初任者や経験の浅い着手教員 といった教職生活のス ター ト近辺 に存在する「未熟練者」にとって も、大 きな資源にな りうるとい うテーマはヽ先行 研究か らのテーマで もあることを認識 した上で、その周辺部分 を研究対象 として取 り組 んで き た(註
2)。これ らへの一つの回答 として、例えば、保健体育科における授業実践のデータベースを構築 することによって、実践力のある体育教員 を養成する方法について検証することを試み、その 結果、1 自らの授業 を振返ることがで きる撮影 アングル とビデオ再生形態 についてのモデル を提示 した。2 授業の単元全体 をビデオ共有 システムに蓄積することによって、一時間のみ の授業研究 とは異なる授業研究の可能性について実証 した。3 ビデオ共有 システムを使 うこ とによる、教科専門家か ら体育教員への支援 について検証 した
(註
3)。これ らに加 えて個 々の教員の経験の中に埋め込められた実践の知 を可視化するための方法 と して、例 えば、「授業 リフレクシ ョン」のツール として様 々な リフレクシ ョンシー トが公的教 育機関か ら出されている。実際のシー トとしては、東京都教職員研修セ ンターのホームページ にある、「『授業力』診断シー ト活用資料集
Jに
おいて「『授業力』 自己診断シー ト」が示 され てお り、そ こでは、診断項 目として、「使命感、熱意、感性J「
児童・生徒理解」「統率力」「技 術指導J「教材解釈、教材開発J「
『指導 と評価の計画』の作成・改善」の6つ
に分類 された計44 項 目が挙 げ られている(註
4)。 また、保健体育科 に特化 し、かつ単元 ごとの リフレクシ ョンを 可能 とす るシー トとしては、横浜市立高等学校保健体育研究会の「保健体育科『カリキュラムJリフレクシ ョンシー ト」が挙 げられる
(註
5)。 このシー トは、「計画力J「
実践力」「整理力」「改野 津 一 浩
体育教員における授業リフレクシヨンの可視化の方法とそれらのアーカイプ化の意義に関する研究
善力」の
4つ
に分類 された計17項目を4件法で評価 を行 うが、残念なが ら単元ごとの リフレク ションを行 うのみで、個々の授業ごとのリフレクシヨンが行えるシー トではない。またこれら シー トの共通点は、各項 目の評価を容易にするため該当項 目を選択する方法を用いていること である。確かに、授業 リフレクシヨンは、準備や記述などの作業量 とそこから得 られる恩恵の 間には正の相関関係がみられるが、作業量 と実行性の間には負の相関関係がみられよう。 しか しながら目黒によれば、「授業 リフレクシヨン」とは、「教師の意思決定や内面過程に着 日した 授業研究方法」の総称であるとする限り、人間の「意思決定や内面過程」を「選択肢」から選 ぶ方法は、簡便ではあるものの、後にそれを「生かす」 という前提に立つ限り、他の方法を考 案すべきであると考えられる(註
6)。 すなわち、授業実践の骨子を見渡すことができ、それヘ の「リフレクシヨン」が可視化できるものであることが最低必要条件 となるであろう。それが また、他の教員にも理解可能であるとするならば、より有効性の向上が想像 されるのである。これまでの研究方法は、それぞれにおいて利点を持つ ものの、ビデオではアーカイブ化に対 する作業量が多いこと、一方、「選択肢」では、個々人においてのみの「リフレクシヨン」に 留まること等の検討課題を有 していた。そこで、本研究においては、その有効性を検証するも のではないものの、上記二つの問題点について、何 らかの回答を与えるであろう「個々の教員 の経験の中に埋め込められた実践の知を可視化するための方法」とそのアーカイブ化について 提案を試みる。
2 本研究の目的と方法
本研究の目的は、授業リフレクシヨンを可視化する新たな方法について、まずは明らかにし たうえで、それらの資料をアーカイブ化することの意義について展望することにある。
そのために、まず、自然科学の方法論の一つである「仮説演繹法
(時
potheicO deductivemethod)Jの思考プロセスを類比的に授業実践の思考プロセスに投射することによつて、それ が授業 リフレクシヨンを可視化できる方法であるとともに、さらには授業 リフレクシヨンシー トとしでも活用 しうることを提案する。すなわち、「仮説演繹法」において求められる「観察 事実」、「仮説」、「仮説検証条件」、「観察予測」からなる思考プロセスを、授業リフレクシヨン
シー トでは、「児童 生徒の見取 り」、「授業 目標」、「手立て」、「授業展開の予想」と置き換え ることで、自らの授業構想における「予測」と授業実践 という「現実」の観察結果の差異を授 業者が書 き込んでい く方法について説明を加える。そ してその一連の方法論に保健体育科 とい う教科における特殊性を加えた考察を行 うとともに、これらシー トのアーカイブ化が教員の授 業実践力向上に対 して、どのような効果があるのかについての展望を試みるものである。
3 仮説演繹法とその方法論の授業構想への援用
仮説演繹法を端的に表現するならば、それは、まず「非演繹的推論によって仮説を立てるJ。
次に「演繹的推論によつて仮説から予言を引 き出す」 と説明することができよう
(戸
田山、2011、
pp 83‐116)。
一 般 的 に仮 説 を導 き出 す 推 論 に は、「 帰 納 法 (hducion)」、「 投 射 (praecton)」、「類比(征
dogy)」、「アプダクシ ヨン(abducton)」
があ り、これら非演繹的 推論の特徴は、「見たものがどうなっているのかを踏まえて、見ていないもの、あるいは見え ない ものがどうなっているのか」(戸
田山、p96)、
すなわち「仮説」を導 き出すことに適 して いるという点にある。 しかしながら、非演繹的推論は、結論の正 しさを保障するものではない。196 高 根 信 吾
というのも、非演繹的推論の段階においては、既存の観察事実から、未だ見ていないものを想 像 しただけであつて、それを確認 したわけではないからである。すなわちここに、それを確認 するための推論が必要 とされることになる。それが演繹的推論である。演繹的推論 とは、「仮 説のなかに暗黙のうちに入っているけれども、明らかには言われていないことが ら」
(戸
田山、p107)を
導きだすこと、すなわち「仮説がもし正 しかったら、こっちも正 しい」(戸
田山、p108) と言えることを導き出すことである。以上の非演繹推論による仮説の提示、そしてその仮説を演繹的推論によつて確かめるプロセ スを、一枚のシー トにしたのが、図
1で
ある。新 保 野 津 一 浩
ここでは、「観察事実」ある いは、「先行研究」等によって、
「仮説」
(そ
れがイコール「研究 目的」になるが)を
導 き出し、その「仮説」を検証するための 何 らかの条件(「仮説検証条件」)
を設定することによって、演繹 的推論による「観察予測」が導 き出される、ということを図示 している。結局の ところ、「仮 説」から演繹される「暗黙のう ちに入つているけれども、明ら かに言われていないこと」をあ る条件設定によって導 くこと、
例えばその条件設定が実験にお いては、初期条件 とも言われる ものであり、そしてその実験結 果が、「観察予測」 と一致する とき、仮説は検証されたことに なる。
この仮説演繹法の思考 プロセ
ス を類比 的に授業構想の思考 プロセスに当てはめてみたのが、図2である。 ここで まず指摘 し てお きたいのは、仮説演繹法 においては、非演繹 的推論 によって導 き出された「仮説」が、授 業においては、授業の目標、あるいは単元の目標 という学習指導要領 レベルである程度決定さ れているということである。 しかしながら、そうした学習指導要領による「 目標」を前提 とし つつも、それに「児童・生徒の現状」という観察
(見
取 り)に
よって、より授業対象 としての 児童 。生徒 に即 した、「 目標設定」が「仮説」として設定されるべ きことが、まさに授業実践 という場において求められることも、重要な意味をもつことになることは言うまでもないであ ろう。そこで設定された「 目標=仮説」を成立させるために、次に導 き出されるのが、「手立て」
と呼ばれるものである。これには、教員の発間を始め として、教育内容や指導の順序、場面
図
l仮説演繹法のシー ト化
体育教員における授業リフレクシヨンの可視化の方法とそれらのアーカイブ化の意義に関する研究
等 々が、いわゆる仮説演繹法で い うところの「仮説が もし正 し かったら、 こつち も正 しい」の 類比 としての演繹的推論 におい て構想 される要素である。す な わち授業構想 においては、「 目 標 を達成するためには、 このよ うな手立てがなされる必要があ る」 とい う演繹的推論 によつて、
授業展開が構想 される。そ して その「 目標」 と「手立て」の一 致 を目指 した授業実践が展開さ れることになる。一方で、授業 構想段階における「予想 される 児童・生徒の活動」 と「手立て」
によつて実際に表われる児童・
生徒の活動が、授業進行 中のあ らゆる局面 において、授業者 に よってチェックされるべ きポイ ン トとなる。まさに授業実践 に おいては、この「一致」、「不一 致」が授業後 におけるリフレク
ションのポイン トとなるのである。「あの
F手
立て』によつて、何故、先に予想 した『児童 生徒の活動』 との間に、相違があつたのか」という授業観察の結果に対 して、その要因、例え ば、「『児童・生徒における現状観察』に未だ把握できない部分があつたのか」、あるいは、「『手 立て』の順序は、①→②→③→④ と考えていたが、②→③→①→④の方が良かつたのではない か」等々のリフレクシヨンを行うことが可能となるのである。まさに鹿毛のいう「教育的瞬間」(註 7)の
半」断についてのリフレクシヨンがなされることになる。4 小学校体育の授業実践におけるリフレクションの導出とそのシー ト化
まず小学校における体育科の授業場面を想定 して、授業実践のサイクルとしての授業の構 想 ,実際の授業 評価 という観点を通 してリフレクシヨンの導出を試みることにする。
授業づ くりは、まず 目標
(ね
らい)の
設定を検討することから行われる。児童・生徒の発達 段階に合わせて、この学年の子たちには、何をどこまで身に付けさせてい くのかの検討をして い く。この目標を設定 していく時、基準のひとつになるのが学習指導要領である。学習指導要 領には、各学年ごとにそれぞれの種 目の内容が示されてお り、その内容が一般的にその学年で 押 さえておきたい内容 となる。またこの学習指導要領には、「〜ができるようになる」という ような示 し方がされていることから、そのことができるようになるためには、何を教えていか なくてはいけないのかという教育内容をより具体的にしてい くことの必要性が考えられる。教 えなくてはいけない具体的な教育内容は、教科書に書かれている内容によつて細か く示されて児童・ 生徒における現状観察
=ラ
Fぎ再石児亘・生徒の活動④図
2
授業構想のシー ト化198
高 根 信 吾
い くのが一般的である。その内容 を理解することによって、教育内容の明確化が図られてい く。
しか し、体育科 においては、検定教科書なるものが存在 しない。 このことは、体育科で扱 う各 領域の運動種 目において、それぞれ どのような技術が必要なのか ということの理解 に基づいて、
それぞれの学年 に応 じた教育内容 を検討 し、見出 してい くことが必要であることを意味 してい る。
これ らについて、小学校高学年のハー ドル走の内容を例に検討 してみることにしよう。
学習指導要領 には、「 インターバルの距離やハー ドルの台数などのルールを定めて競走 した り、
自己の記録の伸 びや 目標 とする記録の到達 を目指 した りしなが ら、ハー ドルをリズ ミカルに走 り越 えることがで きるようにする」 と示 されている。 この内容 を受けて、ハー ドルをリズ ミカ ルに走 り越 えることがで きるようにするには、何 を教 えな くてはいけないのかということの検 討が必要 なのである。
また、
[例
示]と
して、00〜60m程度のハー ドル走
・第 1ハ ー ドルを決めた足で踏み切って走 り越えること。
・ハー ドル上で上体 を前傾 させること。
インターバルを
3〜 5歩
の リズムで走 ること。とい うように示 されている。 これ らの内容 に基づいて次に以下のような検討が必要になる。
例 えば、「ハー ドル上で上体 を前傾 させ ること」 とい うのは どの ような姿勢 なのか を教 えな くてはいけない。 また、何のために前傾 させるのか、さらには、前傾 させ るためには体 をどの ように使 えばよいのか、 とい うようなことも教 えていかな くてはいけないこととな り、それら の検討が必要 となる。そ もそ も、ハー ドル走の技術 を洗い出 してみると、①インターバルの走 り方、②振 り上げ脚の上げ方、③抜 き足の抜 き方、④踏み切 り位置と着地位置の関係等、細か くあげることができる。すなわち「ハー ドルをリズミカルに走 り越えることができるようにす る」ために教え身に付けさせなくてはならない教育内容として見出してい くという作業が必要 となる。ここに他教科 と体育科 との相違が見られる。他教科では、それぞれの学年で扱ってい く教材は教科書に準ずるものであり、扱 う内容 も決まってくることから、細かい教育内容 も自 ずと定まる。 しかし、体育科では運動を扱っていくことから、 日の前の児童・生徒の実態に合 わせて、教育内容を設定 していく必要があるため、扱う種 目は決まっていても、児童・生徒の 実態の的確な把握に基づいて、実態に合わせた教育内容の設定が行われることが必要 となる。
教育内容が明確になると、それにともなって、評価の観点や基準が表れてくることになる。
というのも教育内容とは、教え身に付けさせなくてはならないことなのであり、その内容がど れだけ身に付いたのか、できるようになったのかということを評価 してい くものだからである。
そのために、何をどのように評価するのかということが検討される。適切な方法で評価 してい くということは、児童・生徒の記録の伸びやできばえを自覚させることはもちろんのこと、次 への課題を生み出し、学習を適切に連続させていくことになると考えられる。同時に、設定 し た教育内容が質的・量的に適切であつたか、ということを振 り返ることになる。さらには、適 切な評価は、児童・生徒のみならず、自分がどれだけ教え身に付けさせることができたかとい う、教員自身の指導を振 り返ることにもなってい くところに評価の本質が読み取れると考えら 才ιる。
さて、具体的な教育内容が設定されれば、次は、どのように教えるのかという検討をするこ
新 保 野 津 一 浩
体育教員における授業リフレクションの可視化の方法とそれらのアーカイプ化の意義に関する研究 199
とになる。この内容を教えようとすると、児童 生徒はどのような反応を示すのかということ の予測をしてい くことになる。このことから、学習活動や活動の工夫等が生み出されてい くこ
とは明白である。
これを、小学校高学年のハー ドル走を例にして記述するならば、以下のように具体化できよ つ。
まず「ハー ドルをリズ ミカルに走 り越えることができる」と、学習指導要領の目標に示 され ていることの確認である。このことをできるようにするために、インターバルの間隔の違 う コァスを設定 して練習するという活動を計画 したとする。そのため、ハー ドルとハー ドルの間 をいつも同じ歩数で走つてい くことの意義を理解させた上で、児童に自分にあつたコースを見 つけさせなくてはいけない。児童は、間隔の違うい くつかのコースでの練習をしてい く中から、
自分が同じ歩数で走 りきることのできるコース見つけてい くことになる。こうした場面につい て教員は以下の観点から振 り返 りを行 うことになる。児童の実態に合わせてハー ドルの間隔を 設定 したが、それは児童の実態に合つていたか、また、練習 してい く中でどの児童 も自分に 合つたコースを見つけることができたか、である。また、なかなか歩数や歩幅が一定 しないた め、自分に合つたコースを見つけられないでいる児童へは、こういった声かけをしていこうと 準備 していたとする。まさにそうした場面に出会って声をかけたとしたとするならば、次には 声かけしたことによつて、その児童は歩数を安定させて走 りきることのできるコースを見つけ ることができたか、という振 り返 りの観点が求められることになる。このように教員は、授業 が進行 してい く中で、即座の判断に基づいて行わねばならず、それを逸するとす ぐに次の場面 へ と移 り変わつていつてしまうのである。授業後の最後には、インターバルの間隔の違うコー スの設定は有効であったか、また、このコースを使つての指導を適切に行うことができたかい
うことを振 り返ってい くことになると考えられる。
前述 したように、ハー ドル走の技術を洗い出してい くと、い くつ もの技術に分けることがで きる。小学校高学年の児童に対 して、踏み切る位置と振 り上げ脚について教えようとしたとす る。児童の実態から予測 して、「つまず き」が想定されることになる。それらを整理 して検討 してい くと、次のようになる。
<予
想されるつまずき>・ハー ドルを跳ぶ時に、高 く跳んでしまうためにスピー ドが落ちて しまう。
<つ
まず きの起 きる要因の分析>・踏み切る位置がハー ドルに近すぎるため、振 り上げ脚 も曲がつてしまい、高 く跳び上がっ てしまう。
<つ
まずきの解消のための手立て>・ハー ドルからできるだけ遠 くの位置で踏み切ることができるように、踏み切る位置を意識 するためのラインを引いてお く。
・ハー ドルのバーの上に画用紙を貼 り付けておいて、そこを目印にして足の裏でけってい く ように跳び越すことで振 り上げ脚をまっす ぐに振 り上げることができるようにする。
児童のつまずきが検討されて考えられた手立てが実践され、授業の中でのチェックが行われ てい く。ハー ドルからできるだけ遠 くの位置で踏み切ることを意識させるために引いたライン
200
高 根 信 吾
によつて、ある児童が遠 くか ら踏み切 ることで低 く跳 び越 えてい くことがで きるとい う姿が見 られれば、その手立てが有効に働いた とい うように捉えることがで きる。 しか し、ラインを引 いたことによって、 ラインに合わせ ることを意識 しす ぎてインターバルの走 り方がぎこちな く なってしまうという児童の姿があつたならば、なぜそのようになってしまったのかとυ`うこと を検討する新たな観点が生み出され、授業後にその要因を探 り、次への手立てを検討してい く ことになるのである。
つまずきを想定することにより、そのつまず きを解消するためにどのように対処 してい くと よいのかを検討することにより、その手立てが生み出され、学習活動の工夫 として示されるよ うになる。そして、実際の授業で実践することから、その手立ては予測 したつまずきを解消す るために有効であったか、または、問題点は何だつたのかということが振 り返 りの観点となる のである。
ハー ドル走のつまずきの例で検討 したように、つまずきを想定することから、様々な手立て が準備 されることになるが、授業実践においては、予測 していないことに遭週することも考え
られる。そのできごとに気づき、そのことが起 きた要因を即座に分析して対処できればよいが、
そうできなかった場合に、なぜそのようなことが起 きたのか、どのように対処すればよかった のか、ということが授業後の振 り返 りの観点となろう。
以上のことから、教え身に付けさせようとする教育内容に関して、児童・生徒の反応を予波1
して授業実践 してい くことを考えてい くならば、それだけ手立ても準備されることになる。こ のことから、準備 した手立ての分だけ、そのことが適切だったかと振 り返ってい く観点となる と言える。また、授業を実践する中で、様々なできごとに気づ くことができるならば、授業後 の振 り返 りの観点は、気づけた分だけ生まれてい くものと考えられる。すなわち、それらので
きごとを見逃さない、ということが次の授業をよりよくしてい くためには重要なのである。
新 保 野 津 一 浩
爾 範│[[1:{」
̀i覇
喘
21,(li::[:『
「llし`め予■
…
いくつかのコ‐スで練習することで●層疇
自卸1同じ歩数でたりきれるコ‐スを見 つけることができ
ツズムよくだりきることができるようになるだろう.
図 3 授業構想シー ト
Verlハー ■ウからできるだけ障くの位置から
"滲
初ることができるように
踏み 切る位置を意凛するためのラインをういて績習させる.
振り上げ脚をまっすqlばして振り上げていくことができるように、ハード ルのパ¨の上にコ用紙を貼り付けておいて、そこを目中にして足の凛で鷹つて いくようにさせる.
・ 予■椰 ■■08ロ
・どのあたりから踏み切ればよいかが分かることにより、遠くから踏み切ることができるよ うになり
低くスピートを喜ときなセンヽ― ドリングができるようになるだろう.
ハー ドル上の画用紙を目印l.して振,上げ瑯を上げて,ヽくことで、前方にまっすぐ振o上 げていくことで
スピ¨ 卜を薄ときな│ツヽ― ドツングになるだろう.
図 4 授業構想シー ト Ver2
以上のように、体育科の授業では運動を扱うことから、そこでの活動は連続的であり、行つ たことがその場にとどまってくれない。例えば、算数や数学では、問題が提示され、児童
生
く (X)時 ロロ0口■における見ヨ0■■■●
>
同じ間隔のコースだけでは、歩幅の違いによって′ヽ―ドル間の国隔がせまか ったり広かったりして、 ,ズ ムよくたれない子がいた。
く (X+1)時 田目●●●における見自の
3R●
●>
^―ドル間の閾輛0違 ういくつ力ゆ●―スでは青することによって
自分の歩椰に合 わせて同じ歩颯で最後までたりきることができるコースをみつけることができヽ
′ヽ―ドルを離がときに上に高く跳んでしまうために スピードが落ちてしまう姿が見
鷲 ]る燿 がハー』 騨 警禦 囃 勒 上中 を曲げて上に高く摯社 がつて しまう
摯テ0日 薔
ハー局しを,ズミカルにた,建えることができる(鋼 時 に中 (X+2)時 ロロ
000Lお
ける日●^―ドルからせくの世■で饉み匈ってスピードを停とさない^―ド 'ン
グができ るようにしよう。
単元の目椰: ハードルを,〆ミカルにた
'越
えることができる(学習指導要領に攀
") (X+1)哺ロロの口●の日●
ハードル間 ンター′ウい を同囃 (3〜5場でたりきることができる.
体育教員における授業リフレクシヨンの可視化の方法とそれらのア ニカイブ化の意義に関する研究 201
徒がいろいろな方法 を駆使 して解 こう とす る。そこで、思考 した ことはノー トやプリン ト等 に書かれてい くため、
何 をどの ように考えたのかが 目に見 え る物 として残 ってい く。そ してその内 容 をていねいに見てい くことで、修正 した り付 け加 えた りと学習 を進めてい くことがで きる。国語で も、例 えば作 文の学習では、様 々な材料 を使 つて書 かれた ものが残 つてい く。書かれた も のに基づいて推敲 してよりよい ものに してい くことがで きるのである。体育 の授業 は体育館やグラウン ド等の広い フイール ドで行われること、 また、そ こにとどまることのない動 きの一瞬一
瞬を見逃すことなく捉えて、即座に判断して指導 していかなくてはならないというところに、
他教科 との相違が見 られるとともに、体育の授業実践の難 しさと特殊性があるのである。
これらのことからも、授業の中での振 り返 りを瞬間瞬間で行つてい くことはもちろんのこと、
その授業の中での振 り返 り
(そ
の場面での瞬間の判断)に
よつて生み出された観点に基づいて 授業後のリフレクシヨンを行つてい くことの重要性が浮き彫 りになるのである。5 授業構想シー トによるリフレクションの方法とそのアーカイブ化の意義
前述 したような教員の体育科における授業の一部を授業構想シー トに記載するとするならば、
それは以下のようになろう。
図
3の
「授業構想シー トVerl」
において、まずは、前時(こ
の例では、(X)時
間目)の
授業における「児童の現状観察」を受けて、本時
(こ
の例では(X+1)時
間目)の「授業の目標」が設定されるとともに、その目標を実現させるべ き「手立て」 とそれに対 して「予想される児 童の活動」という構想のもとに、一時間の授業実践が実施される。さらにそれを受けて、図4 の「授業構想シー ト
Ver 2」
に示されているように、(X+1)時
間目の「児童の現状観察」をもとにした、それに対する
(X+2)時
間目の授業の目標 とそれに対する「手立てJな らびに、「予 想される児童の活動」が構想されることになる。このような方法で授業構想シー トを用いて授業構想を連続的に行うことによって、その後に
「予想 される児童・生徒の活動」と現実の授業中に観察された「児童・生徒の活動」結果のず れについてリフレクションを行 うことは、まさに
PDCAサ
イクルの中のPDCを
実践 したこと になろう。 しか しながら、次の授業に向けて、あるいは、ある単元を構想シー トに記 して、次 年度以降、あるいは他のクラスの次の授業に向けてこのシー トに修正を加えるとき、それはま さに「記述としてのリフレクシヨン」すなわち、「再デザイン(授
業改善:AciOn)」 のプロセ スヘ と踏み出すことになる。さらに具体的に例えば、一ケ月後に研究授業を実施する教員を想定し、この授業構想シー ト
` ヽ
、
L…
… … …口………図
5
授業リフレクションシー トのアーカイブ化202
高 根 信 吾
を活用す る方法について想定 してみることにしよう。 まず教員は、現在の授業進行 と研究授業 の 日数 を摺 り合 わせつつ、研究授業の当 日が、単元 においてどの辺 りの進み具合 になるかにつ いて予想する。そこでこの授業構想シー トを用いて、 日々の授業において、授業 目標→手立て
→予想 される活動‐ずれのチェック→授業構想の修正……を繰 り返 し、研究授業時における授 業構想 シー トを創 りあげてい くと想定 しよう。 とす るならば、それまでに繰 り返 し繰 り返 し練 り上げ られた授業構想
(研
究授業時の指導案)は
、まさに授業 リフレクシ ョンの結果 としての 授業実践であるとともに、その修正 した授業構想 シー トを一時間一時間(二
枚一枚)残
す とき、それは研究授業 までにその授業担当教員が授業構想 における思考プロセスの全体像 を可視化す ることになるであろう
(図 5)。
まさにこの「総体Jこ
そが「個 々の教員の経験の中に埋 め込 められた実践の知」 を「可視化」 した もの とな りうるのである。そ してこれ らの「思考 プロセ ス」 を別のシー トにチ ャー ト図 として表現するとき、それはまた初任者や経験の浅い若手教員 といつた教職生活のス タ‐ 卜近辺 に存在す る「未熟練者」にとつて も、大 きな資源にな りうる と考 えられる。6結 論
現在の教育界では、教員が反省的実践家 として自立す るために、 自らの授業実践力 を熟達イヒ してい くためのシステムを開発することが求め られている。
そこで本研究の 目的は、授業 リフレクシ ョンを可視化する新 たな方法論 について提案す るこ とにあった。その提案 とは、 自然科学の,方法論の一つである「 仮説演繹法」の思考 プロセス と 授業実践 の思考 プロセスを類比的に捉えることによって、授業 リフレクシ ョンを可視化すると ともに、それが授業 リフレクシ ョンシー トとして も活用 しうるというものであつた。またそれ らの資料 をアーカイブ化することによって、授業 リフレクシ ョンシー トを一時間一時間
(一
枚 一枚)残
す とき、これ らの「総体」こそが「個 々の教員の経験の中に埋 め込め られた実践の知Jを「可視化」 した もの とな りうること、またそれ らは初任者や経験の浅い若手教員 といつた教 職生活のスター ト近辺に存在する「未熟練者」にとって も、大 きな資源 にな りうると言 えるで あろう。
付記
本研究 は、平成26年度科学研究補助金
(基
礎研究(C))課
題番号25350721を受 けて実施 さ れた。7.註及 び引用・参考文献
註
1)こ
の3つ
の授業実践 におけるPDCAサ
イクル実行性の課題の詳細 に関 しては、以下の資 料論文 を参照 されたい。新保 淳、長倉 守、「省察」 を中核 とした授業実践力向上のた めの方法論 に関する研究、教科開発学研究、第1号
、2013、 p248
註
2)高
根信吾、三澤宏次、新保 淳、「学 び続 ける教員像」確立のために求め られるリフレク シ ョンに関する研究(1)、
常葉大学保育学部紀要、第1号
、2014、 pp95107
を参照のこと。
註
3)これら一連の研究は、く 基盤研究 (C)(研 究期間
:2010〜2012)、 課題番号 :22500540、
研究課題名
:実践力のある体育教師養成のためのデータベース構築に関する研究、研究代
新 保 野 津 一 浩
体育教員における授業リフレクションの可視化の方法とそれらのアーカイブ化の意義に関する研究
表者 :新保 淳〉において実施されたものである。 またその研究成果は、①新保 淳、樋 口 聡、高根信吾、相場 誠、体育教師・スポーツ指導者養成論序説
:(2)一
体育教師養成に寄与するビデオ共有システムの意義 と方法 ―、静岡大学教育学部研究報告
(教
科教育 学篇)、 第42号、2011、 pp299312
②高根信吾、新保 淳、質的研究の方法論に関する一 考察 ―ビデオ共有システムを用いた授業研究 ―、体育哲学研究、第42号、2012、 pp 59‑61
③高根信吾、三澤宏次、新保 淳、授業を「物語る」ための方法論の探求―「点」の授業 研究か ら「線
Jの
授業研究ヘ ニ、富士常葉大学研究紀要、第12号、2012、
pp 71‐86
④新 保 淳、高根信吾、樋口 聡、体育教師・スポーツ指導者養成論序説:(3)一
体育科における授業研究支援のための研究方法に関する研究―、静岡大学教育学部研究報告
(教
科教 育学篇)、 第43号、2012、 pp 275‐ 284
において報告 されている。註
4)東
京都教職員研修セ ンター「『授業力』診断シー ト活用資料集」掲載年不明。(httpノ /
www kyolku kensyumetro tokyojp/08o」tttyuttρ
shindansheet/、 2014年9月 18日
閲覧)註
5)横
浜市立高等学校保健体育研究会「その他 市教委資料」2011年。(httpノ
/www edudけ
yOkOhamajp/sch/kenkyu/hs hota1/txノsonotttsblryo htm、
2014年9月 18日
間覧)註
6)失
守は、自らが開発 した学習ツール (「クロスロー ド」)の
持つ意味について、以下のよ うに述べる。すなわちかつて災害を体験 した当事者の「センス・メーキングJを
基盤とし て、今後の防災にとり組 もうとする当事者たちの「センス・メーキングJを
誘発するので あり、その点においてこそ、こうした学習ツールは、「個人化」 した社会においてナラテイ ブ(語
り)を
基盤としたアクシヨン リサーチを展開するのに相応 しいものとなる(失
守、p37)。
よつて、選択肢によるリフレクシヨンでは、「センス・メーキング」を誘発するものになりにくいため、「語 り」あるいは「記述」がなされる必要があると言えよう。矢守 克也 (2010):ア クシヨンリサーチー実践する人間科学―、新曜社、
p37
参照のこと。註
7)鹿
毛は、こうした教師が「子 どものために何 らかの教育的働 きかけをしなければならな い一瞬」をヴァンマネン (Van Manen)の用語 を用いて「教育的瞬間Jと呼ぶ。鹿毛雅 治 (2008):授 業づ くりにおける「しかけ」、秋田喜代美、キヤサリン・ルイス、授業の研 究 教師の学習 レッスンスタデイヘのいざない、明石書店、p■ 54
参照のこと。中央教育審議会、「教職生活の全体 を通 じた教員の資質能力の総合的な向上方策 について
(答
申)」(2012年 8月 28日
)戸 田山和久
(2011):「
科学 的思考」 の レッス ンー学校 で教 えて くれないサ イエ ンス、NHK出
版樋 口聡 (2010):授 業研究の新 しい方向性 ―反省的実践家 によるアクシ ョン リサーチ と 映像活用 ―、広島大学大学院教育学研究科紀要
(第
一部)、 第59号、pp 2130鹿毛雅治 (2006):授 業研究再考、田中克佳編著、「教育」 を問 う教育学 教育への視角 と
アプローチ、慶應義塾大学出版会、pp 309綴
0
鹿毛雅治 (2008)授 業づ くりにおける「 しかけ」、秋 田喜代美、キヤサ リン ルイス、授 業の研究 教師の学習 レッス ンスタデ イヘのい ざない、明石書店、
pp 152‑168
矢守克也 (2010):ア クシ ヨンリサーチ ー実践する人間科学―、新曜社
0 乙
(3)
(4)
¨b
(6)
203