金 沢大学 十 全医 学 会 雑 誌 第90巷一第2 号 3 7 3 ‑3 95 (19 81)
C ob alt‑G elatin e に よ る実験 て ん か ん焦 点巣の 電 子 顕微鏡 的研 究
金沢大 学 医学 部 神 経精 神 医単 数室(主 任: 山口成長 教授)
小 山 善 子
( 昭和5 6年3 月3 1日受 付)
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K ey w o rds Ele ctr o n mic r o s c op y , Expe rim e ntal epilepsy,Cob alt・gelatin e
1 8 9 0年Ja cks o nl )は詳 細な臨床 観 察か ら, てん かん
発作を ≒局所 的な灰 白 質の発射≒ と生理学 的な概 念で 定義し た が, その実 体につい ては その後 も長く不 明で あっ た。 1929 年,Be rge r
2}によ り人の脳 波が報 告さ れ
る や,G ib bs 夫 妻や Le n n o x3 )によ りてん か ん は≒発 作 性脳律動 異 常(pa r o xysmalc e r ebr al dys rhy th mi a) を呈する脳 疾 患ク と して定義さ れ今日もその概 念は支 配的であ る. こ の てん か ん発 作あ るいは脳 波の発 作 性 異常がいか な る械 序にも とずい て発 現してく るのか,
すな わ ちてん か んの成 因に関す る研 究は, 神 経 生理.
神経病理, 神経 化 学な ど さ ま ざ ま な分 野で行な わ れて いる. その中でも神 経 病理学 的 研 究は歴 史が古く,19 世紀 前 半の て ん か ん脳の A m m o n 角 硬 化の 報 告 (182 5年, Bo u chet & Ca z a n vie11a) にまで謝ること ができ る ト近 年の こ の方 面の大き な研 究と しては,
ScboIz4}の機 能 的 循 環 障 害を中心と し た血 管 痙 攣 説 と,Pe nfiel d らS)と Ga sta ut6 )らの脳一 髄 膜 療 病をてん かん発 作の焦 点と考え る説が あ り, こ の二つ の説は対 立して多くの論議を生ん だ. その後の てん か んの神 経 病理に関す る研 究は, 上 記の てん か ん焦 点扮病理 を中 心と して続け ら れて いる。 す な わ ち脳 外 傷や脳 腫 瘍な どの脳外科 観 察や Strych in ine, Pic r oto xin, Uaba nin,
Pe nicillin な どの薬 物の脳への局 所 的 塗 布, な ら びに
コ バ ルト, アル ミニ ウム , タングス テ ンな どの金属お
よ び その化 合物の脳 内投 与によっ て得ら れ た動 物の実 験的て んか ん焦 点の神 経 病理学 的 研究が行な わ れて い る.
一方, 電子 顕 微 鏡が神 経 病理の分野に導 入さ れt 光
学 的頗 微 鏡では明ら か に さ れ な かっ た多くの問 題が解 明さ れ,てん か ん研 究の上にも新しい展 開が み ら れ た.
すな わ ち電顕に よ る微細 構 造の観 察結 果はてん か ん発 作の発現 機序の問琴解 明にまで立ち入ろ う と して いる 現 状であ る.
本 研 究は, て ん か ん研 究に関す る神経 病理学の こ
の よ う な背 景のも と に,家 兎 脳で,Cobalt‑Gelatine(以 下Co‑gel) によ るてん か ん焦点 病 巣 (以下Co ・gel 焦 点) を作り. 光 顕な ら びに電顔 を用い て焦 点の経 時 的 観 察を行ない, てん か ん発 作現 象の解 明を意 図と して
行な わ れ たもの であ る.
材 料 と 方 法
実験には体 重2 〜3 kg の成 熟 家 兎2 0 匹を用いた.
■
焦 点の作 製には,F is che r ら7),伊 晴ら8 )が用いた と同様の Co‑gel棒 ( 径0.8m m. 長さ 2.Om m) を使用 し た. 家 兎 脳へのCo‑gel棒の刺 入の手 術は すべて無 菌 的に行っ
た・ す な わ ち,Ne mbutal の静 脈麻 酔 ( 35mg/ kg) 下, 家 兎の頭 部を秋 元・石 川の装 置に固定し た後. 頭 皮を 正中で切 開し, 頭 蓋 背 面を広く 露 出して, 冠状 縫 合の 吻 側約4 m m, 矢状 縫 合よ り右 約2 m nの部 位 ( 右 Ar e a
Pr e C e ntr alis agr a n ula ris,R o s e) を中心に頭 蓋 骨に 径 約5mmの孔 を開け, その孔の中央 部の硬膜を小 切 閲 し, 前記のCo ‑gel棒を脳 表面に垂 直に, かつ Co・gel 棒の上 端が脳 表 面と 一致す る よ うに刺 入し た.
焦点 形 成の有 無を み る た め, 刺 入 部の頭 蓋 骨の孔の 吻側 線に接し た部 位, 反 対 側 半 球の刺入 部と同 側で刺 入 部か ら吻 側5m m, 尾側5 m mの部 位の計4個 所の硬膜
E le ctr o n M ic r o s c opic Study of Expe rim e ntal Epilep toge nic Fo c u s Pr odu c ed by C ob alt‑ Gelatin e Stick・ Yo sh ik o 瓦oya m a, D epa rtm e nt of N e u r opsychiatry (D ir e cto r : Pr of. N . Y a m agu ch i),Sch o ol of M edicin e, K a n a z a w a Univ ersit y.
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上に皮 質 電 極を, 前 頭 洞 上 壁の は ゞ正 中 部 位に不 閃 電 極を植え込ん だ. これ ら全て の電 極はビニ ー ル被 覆線
に てプラグに接 続し た. さ らに歯 科 用 合 成 樹 脂に て頭 蓋 骨に固定し た.
脳 波 観 察は上 記プ ラグに装 着さ れ たコ ネクク ーを 通して無拘 束, 無 麻 酔で行なっ た. 大 多 数の家 兎は M egimi de(0.1 〜 0.3 mg/ kg/ 寧C) の 静 脈 内 投 与に よ る賦 活記 録を行ない. 発 作 焦 点の完 成を観 察し た.
実 験 家 兎は, 3 日, 7 日, 1 4 日後に神 経 病理学 的 検 索のた め,Ne mbutal麻 酔 下で以 下の方 法で採 取し た. 光 顕 観 察の た めには10 % ホ ルマ リン液で海 流 後.
広 範 囲に関頭し, 焦 点 部 位を含めて脳 全 体を摘 出し,
1 0 % ホ ルマリン浸 潰 固 定 後, 各 種の染 色 (He mat・ O Xylin ・Eo sin 法, N is sl法tB iels cho w sky 鍍 銀 法,
K l nv e r+Ba r r e r a 法.Cajal法,HoIz e r 法,Golgi‑C O X
法, Rube a n∴酸C obalt 染 色 法,Suda n 】‡法,Perdr a u
法) 標 本を作製し た.
電 顕 資料の採 取は次の よ う に行なっ た. 前 記の麻 酔下で両 側 頸動 脈を露 出して, 右 側 頚 動 脈にカニ ュ ー
レ巷挿 入し, あ ら か じ め生理食 塩 水で海 流し た後に燐 酸 緩 衝 (pI椚.4)2.5 % G luta r al dehyde 液に て約 30 分 間 潅 流し た. 生理食 塩 水の潅 流 開 始 直 後に左 頚 動 脈 を結 集, 頚 部静 脈を切 開し た. 海 流 固 定 後 直ち に焦 点 を中心に可 及 的に広く関 頭し. 焦 点を含めて脳 組 織を 切り出し,燐 酸 緩衝(pH 7.4)3.0 % G luta r al dehyde 一
液に て1 〜 2 時 間浸 溝 固 定し た. こ の固 定の終了 と同 時に燐 酸緩 衝 液の申で資 料を電 顕 観 察に適し た組 織 片 に細 片し, 燐 酸緩 衝 (P H 7.4) 2 % d云0。液にて約2時
N O,5 4 C O 8 A L T 7 D A Y S
間 固 定し た■ 海 流は室 温で, その後の固 定は すべて4
℃の氷 室 内で行な っ た. 引き続き順 次 高 濃 度の etha n ol 系 列で脱 水し,E P O N 8 1 2 樹 脂に包 埋し た.超 薄 切 切 片には酢 酸ウ ランと クエ ン酸 鉛の二重 染 色を行 ない ・
一部の薄 切 切 片はコ バ ル ト顆 粒の観 察のた め,
無 染 色で鏡 検し た. 鏡 検には 日立H U M II D S 型お よ び 日本 電 子J E M ‑ 100B 型 電 顕を使 用し た. なれ 電 顕に よ る観 察 部 位 確認のた め,あ ら か じ め E P O N 包壇 材 料か ら 1 〜 2FL の切 片を作り, Tolui d in el〕1u e 染色 標 本を作 製し た.
こ の実 験の対 照と して , 無 処 置 家 兎の同 一部お よ び Co‑gel 棒 片と同 大の gelatin e のみの棒 片を脳の同叫 部 位に刺 入し, 脳 波 観 察を行な う と と もに, 光 顕な ら び に電 顕に て経 時 的に観 察し た.
成 績
Ⅰ. 実 験 家 兎の臨床お よ び 脳波の観 察
発 作焦 点の完 成は, 実 験 家 兎の臨 床 観 察な ら び に頭 蓋 骨を 通 して硬 膜 上に植え 込 ん だ電 極よ り, 皮 質脳波 を 記録して確 認し た. こ の実験で用い ら れ た大き さの Co二gel棒 (0,8 m m x 2.O m m) 別 人 家 兎で は自然 発 作に み ら れ ず, そのた めに大 部 分の実験 家 兎に0.1 〜 0.3
mg/ kg/秒のM egi mi de 胱 活 法を施 行し, 焦 点の完 成を確 認し た,す な わ ち 7 日 ないし は 1 4 日の実 験 家兎
では, 全 例M egi mi de 賦 活 脳 波 記 録で, 同 側ま た は Co一宮el 植え込み部 位と反 対 側 半 球 の対 称 部 位
( mir r o rfo c u s) に発 作 波が出 現し, 続い て額面措鰯
や 上下 肢に始ま るJa cks o n 型 発 作に発 展し た.な お3
M〜g 川Ii d●
.. 1 2 0 0/JV
1 5 E G
F ig.1.
Cobalt‑Gelatin e によ る実験て ん か ん焦点 巣の電子顕 微 鏡的 研 究 3 7 5
日日の受 験 家 兎で は半 数以上が Megi mi d e 賦 活で臨 床発作に移 行し た. これ らに対して, 対 照と して用い たgelatin e 棒 単 独 刺 人 家 兎では M egimi de 斌 活に よ る発作彼の出 現は一 定せず, 臨 床 発 作に移 行す る もの は な かっ た. (F ig.1)
ⅠⅠ. Co・gel 焦点の神経 病 理学的 所 見 1. 肉眼的所 見
Co・gel 焦 点は, 肉眼上 脳 表 面に径5 m m大の円 形 軟化 巣と して観 察さ れ る. 軟 化 巣の性 状は, 脳表 面よ り わ ず かに隆 起して灰 黄 色の外 観を呈して いる.1 4 日 目の観 察でもこ の軟 化 巣の 中 央に Co‑gel 片が残 存 し,病 巣 内に拡 散し ていない.3 ,7 日の焦 点では軟 化 巣
の周囲に同心円 性の出 血 帯を伴な うこと が多い. いず れの時 期の観 察におい ても,Co‑gel焦 点は限 局 性で隣 接す る脳 軟 膜や脳 実 質には混 淘, 腫 脹な ど肉 眼 上の異 常所見は観 察さ れて いない. な お対 照 家 兎で は3 日呂
の観察で gelatine片や手 術の直 接の影 響が み ら れ る が.7 日 以後では刺 入 部 位は療 痕 的に認め ら れ るにす
ぎない,
2. 光軸 所 見
光顕によ る Co 瑠el 焦 点へ の病理学 的検 索の詳 細は 伊崎ら別によって報 告さ れ た が, こ の研 究との関 連 上 に, その要 旨を以 下に述べてお く.
Co‑gel は肉眼的観 察で示さ れ た よ うに起 炎 性の 強
い物質であ る.焦 点は3 日,7 日 お よ び14 日の観 察で,
いずれ も大 脳 皮質か ら皮 質 下 白 質にか けて広い楔 状な いし ロ字 形の軟 化 巣を形 成して いる. 焦点は Co ‑gel を囲んで組織 学 的に3 っの帯 状組 織に区 別 すること が でき る・ すな わ ち 1) Co 瑠elに接 する壊 死 帯, 2) 出 血を含む炎症 反応の強い反 応帯,3 )その外 側で正常 組 織との間の移 行 帯であ る. (F ig.2)
壊死帯は Co‑gel に よ る壊 死 組 織や凝 血, 炎 症 性 溶 出物の集 合よ り な る組 織 崩 壊 部と そ れ を取り囲む凝 固 壊死部に分け ら れ る. 組 織 崩 壊 郎は 1 4 日日の観 察で も, わ ず か に fi br ob la st や m a c r ophage が み ら れ る 程度で変 化に乏しい. 凝 固 壊 死 部は H. E. 標 本では
e o sin 好 性に均一 に染ま りt N is sl標 本では染 色さ れ
ない・ その中には急 性 壊死像を示 す神 経 細 胞や多 核 白 血球が散 存して いる が全 体に は細 胞 反 応は乏しい.
最 も変化の激しい反 応 帯は,3 日目では, 内方よ り出 血部, 浮腫 部に細 分す ること ができ る. こ の郡には毛 細血管の増 生や fib r ob la st も わ ず かに み ら れ る.浮腫 部は基質が浮 腫状でt と きに海 綿 状を 呈 して いる. こ の部に存 在す る細 胞の 多く は変 性 神 経 細 胞や glia C ellで, 同 時に多核 白血 球を主とする遊 走細 胞も出現 する.
反応 帯 3 日目の こ のよ う な急 性 炎症 像は, 7 ,1 4 日 目の観 察では, 次 劉こ間 展 性 細 胞反応が強ま り, 慢 性 炎 症の肉 芽組 織へと移 行して ゆ き, 毛 細 管の 増 生,
lympho cy te, m a C r Ophage な どの単 核 細 胞の 増 殖,
fi br ob la st の増 加とc ollage n fibrill の形 成と脂 肪 顆 粒細 胞の出現な ど, 清 掃一顧 癌 化の過 程に要 約さ れ る. (F ig.6 ) こ のよ う な過 程は皮 質 表 層の出血 部よ り 皮 質深 部に, ま た陳接す る凝 固壊 死 部や浮 腫 部に広が り, 経 過と と も に反 応 帯は狭く限 局してゆ き, 周 囲 脳
実 質の a str o cy te の増 生と相まっ て.1 4 日目には壊 死
部を囲む未 熟な glio‑m e S e n Chymal s c a r が完 成 す る. (F ig.4)
これ らの過 程の中で, 神 経 細 胞の変化を み る と.
各期 間を通じて, 急 性壊 死 性 変 化を示す神 経 細 胞は,
凝 固 壊 死 部にみ ら れ る. ま た反 応 帯の出血 郎や浮腫 部
の肉 芽 組 織 内に, 埋 もれ た よ う にmin e r aliz atio n 像 を示す壊 死 神 経細 胞が多数 存 在して い て. そ れ は主に 皮 質 表 層の肉芽 組 織 内に多く,Rube an 酸Cobalt染 色
で黄 褐 色に可 染さ れ る ものが多い. (F ig.3 ) 移 行 帯の 神経 細 胞は, 細 胞 硬 化や陰 影 化な どの退 行性 変 化を示 し, 細 胞 脱 落は軽 微であ る. な お移 行帯は経 時 的 観 察
でし だいに その巾を減じ, 反 応帯との境 界が不 鮮 明と なっ てゆ く. (F i g.5)
刺 入さ れ た Co‑gel は,1 4 日目で も ほヾ原 型の ま ま刺 入 部 位 ( 壊 死 部 中心、) に認め ら れ る が,
一部は焦
点 内に散 在し, m a C r OPhage 内に も存 在して いる.
な お, 本 実 験では焦点 内に∴お よ び周 囲の 正常 組織内
に, A Izheim e r 原線 碓 変 化は認め ら れて いない . 神 経細 胞 以 外では, a Str O Cyte の反 応が著 明で,3 日 日よ り焦 点 病 巣 側の大 脳 半球, 特に髄 質には a str o‑ Cy te の活 性 化が み ら れ, 焦 点 病 巣 周 辺に肥 大し た
a str o cy t占 が増 殖し, し だい に 限 局して , 肉 芽 組 織
の外 側に集 合し療 痕 化の像に変 化す る が, 1 4 日目では 未だ線 維 性glia は み ら れ ない. (F ig.7)′その他
,焦点
病 巣 周辺に髄 鞘の崩 壊が, 限 局 性に認め ら れ る. 一 方, 対 照と し た gelatin e 単 独病 巣の組 織 像は.3 日目の観 察では刺 入し たgelatin e 片と同 大の 限 局し た小 軟 化 巣と して認 め ら れ るにす ぎずtCo‑gel焦 点に
比して細 胞 反 応も軽く,1 4 日目の観 察では皮 質 内に限
局し たa str o cy te に囲ま れ た小 葉 胞の形 成が み ら れ
た. いず れの時 期の観察でも周 囲 実質への影響は軽 度
で. 炎 症 反 応は 認 めて いない.
以 上, 記載し た観 察 結 果よ り,Co‑gel 焦点の光 顕 所 見 を ま と め る と次のよ うにな る.
1) M egi mi申e 誘 発によ る 発作 彼の出 現は. Co‑
gel によ る焦 点 病 巣の急 性 炎期を過ぎ, 慢 性 炎 期の肉