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福岡県南筑後地域の「省力・低コスト栽培研究会」による水稲乾田直播栽培導入の取り組み

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Academic year: 2021

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普 及 の 現 場 か ら

福岡県南筑後地域の「省力・低コスト栽培研究会」による水稲乾田直播栽培導入の取り組み

奥野 竜平 (福岡県農林業総合試験場,福岡県南筑後普及指導センター) 1 はじめに 福岡県南筑後地域は,県の南西部に位置し,4 市 1 町(大 牟田市,柳川市,大川市,みやま市,大木町)で構成され, 熊本県と県境をなす東南部の山麓地帯と筑後川・矢部川下 流に広がる平坦地帯,有明海沿岸の干拓地帯に大別される. 水 田 面 積 は 約 10,000ha で,水 稲 約 5,100ha,麦 類 約 6,100ha,大豆約 2,500ha が作付されており,県内でも有 数の水田農業地帯である.また,南筑後地域における水田 農業は,集落営農組織及び個別大規模農家といった担い手 により約 8 割がカバーされており,農地集積が進んでいる. 2 背景 水田農業経営体の柱である水稲は,米価の下落や米の直 接支払交付金の見直しにより収益性が低下している.ま た,生産調整の廃止や貿易自由化の風潮により,水田農業 経営体の先行き不安は大きくなっている.さらに,農業従 事者の高齢化や後継者の都市部への流出による担い手不 足,あるいは過度な規模拡大により手が回らず,栽培管理 が粗放的になっている. 水田における転作作物としては,収益性の高い大豆が多 く選択されているが,排水不良や難防除雑草の多発を受け, 飼料用米や WCS などの新規需要米への転換が進んでい る.しかし,それら新規需要米の育苗場所や労力に余裕は 無く,経営判断の制限要素となっていた. これらのことから,南筑後地域における水田農業経営体 では,育苗管理と苗運搬を省略でき,省力・低コスト化が 図られる水稲直播栽培への関心が高まりつつあった. 3 取り組み 平成 27 年度に水田農業経営体を対象とした水稲直播栽 培に関するアンケート調査を実施したところ,「収量品質 が確保できれば」や「飼料用米や加工用米であれば」直播 に取り組みたいという経営体が約9割を占めていた.ま た,現状で水稲直播栽培に取り組んでいない理由として, 苗立ち不良や雑草害といった失敗のイメージが先行してい ることが明らかとなった(第 1 図). 当地域では湛水直播栽培試験が一部地域で取り組まれて いたが,スクミリンゴガイの被害を受けやすいこと,種子 のコーティング作業が必要なこと,またスムーズな水管理 のために作溝が必要なことから普及困難な状況であった. そこで,漏水対策に振動鎮圧機【型式:SV2-T(川辺農研 産業(株)社製)】を用いる乾田直播栽培技術に取り組むこ ととした(第 2 図).当技術は「攻めの農林水産業の実現に 向けた革新的技術緊急展開事業」において現地実証が取り 組まれており,平成 27 年度にマニュアルが作成され,ホー ムページ(http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/ publication/pamphlet/tech-pamph/index. html)で 公 表 さ れている(第 3 図). 一方,新技術である乾田直播栽培技術の導入支援に当た り,普及指導センターが個々の農業者からの要請に応じて 技術支援を行う従前の手法では,地域全体に配置した実証 試験への十分な指導が行き渡らず,また,雑草防除体系や 漏水対策のポイントなど,普及指導センターで得られる知 見のみでは不十分となることが懸念された.また,一部の 農業者が乾田直播栽培技術を習得したとしても,そこから 拡大するまでに時間を要することが考えられた. そこで,乾田直播栽培技術の早期確立及び普及を図るた め,農業者と試験研究機関,JA,市町村,農機・農薬メー カー等で構成する「省力・低コスト栽培研究会」を設立し た.この研究会では,各参画機関の役割分担を明確にした 上で,試験設計から現地視察,成績検討などを通じて,構 成員間での情報共有を図った(第 4 図).それにより農業 者による技術実証から導入までパッケージ化された継続的 な支援が実現した(第 5 図). 具体的な取り組みとしては,平成 27〜28 年度にかけて, 参画した経営体ごとにニーズを把握し,3 つの播種方法 (「表層散播法」,「部分浅耕一工程播種法」,「一発耕起播種 機」)による大規模な水稲乾田直播実証試験を行った.品 種は,主力品種である「ヒノヒカリ」や福岡県育成新品種 48

Rep. Kyushu Br. Crop Sci. Soc. Japan 84 : 48-51, 2018 日 作 九 支 報

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である「実りつくし」など 6 品種について調査した(第 1 表).実証試験の結果は,市町村や地域が異なるため一概 には比較できないものの,収量は移植栽培と比較して 1 割 減から 3 割増となった.品質や食味についても特に問題は 無かった. 4 集落営農法人における実践事例 次に,平成 28 年度に大牟田市大字宮崎で取り組んだ実 証試験を紹介する.当地区は,5 集落で構成される農事組 合法人 宮崎が地域農業を担っており,農地の維持を主な 目的に,地区農地の 95%を集積し,水稲・麦類・大豆の種 子生産を中心に経営を行っている.構成員は約 70 名,う ちオペレータは約 10 名で,栽培品目は,水稲 9ha,麦類 11ha,大豆 15ha を作付している. 実証試験では,汎用性が高く作業速度も速いとされる一 発耕起播種機(第 6 図,【型式:KTBM2200E-C((株)クボ タ社製)】)を用い,当地域の主力品種である「ヒノヒカリ」 を播種した.播種は条間 27.5㎝の条播とし,播種量 3.7㎏ /10a,播種粒数 138 粒/㎡とした.苗立率は 72.3%と良好 であり,苗立ち数は 99 本/㎡でやや過密となった.ほ場全 体のバラツキは小さく播種精度に問題はなかった.雑草防 除は,4 回の除草剤処理により雑草の発生を抑えることが できた(第 7 図). 実証区の生育は,隣接する移植栽培ほ場の慣行区と比較 したところ,出穂期は実証区が 1 日早く,成熟期も 3 日程 度早く,両区とも倒伏はなかった.1 穂籾数は 3%少ない ものの,穂数が 27%多く,㎡当たり籾数は 33%多かった. 登熟歩合は実証区が 8%高く,千粒重は 0.4g 重かった. その結果,収量は,慣行区と比較して 32%の増収となった. 品質は,慣行区が 1 等中であったが,実証区は未熟粒が多 49 第 3 図 水稲乾田直播マニュアル 第 2 図 振動鎮圧作業【型式:SV2-T(川辺農研産業(株))】 第 4 図 現地検討会,成績検討会の様子 第 5 図 「省力・低コスト栽培研究会」概念図

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く 2 等中となった.タンパク質含有率は実証区の方が 0.5%低かった(第 2 表). 経営評価としては,実証区は慣行区に比べて,農業薬剤 費及び減価償却費が増加したものの,種苗費及び労賃が低 減でき,10a 当たり 12,724 円の収益向上となった(第 8 図).このことから,今回実証した乾田直播栽培の技術体 系は,水田農業経営体の経営改善に有効な技術と評価され, これらの実証試験から得られた知見を基に「水稲乾田直播 栽培こよみ」を作成し,技術の汎用化を図った(第 9 図). 5 地域の動き 水稲乾田直播栽培は,平成 26 年度に 1 経営体(1ha 弱) の現地実証から始まり,平成 29 年度には 14 経営体(17ha) まで普及した.また「省力・低コスト栽培研究会」は,設 立当初 30 経営体で構成されていたが,現在では 80 経営体 (平成 29 年 12 月時点)まで増加した.さらに,当研究会の 取り組みや水稲乾田直播栽培技術の紹介をソーシャルネッ トワークサービス(SNS)を通じて発信することで,普及 指導センター管轄地域外からの反応もあり,今後の面的な 普及が期待される(第 10 図). 6 今後の課題と方向性 水稲乾田直播栽培の課題としては,雑草防除体系の見直 しや,流し肥など省力的な施肥法の確立による更なる生産 コスト低減がある.当地域は,麦類の産地であり水稲乾田 直播栽培に必要なロータリや播種機等を装備している経営 体が多いため,既存の装備で対応可能な技術開発も普及を 推進する上では重要であると考える.さらに,今回用いた 振動鎮圧機による漏水対策は,土質,地下水位,鎮圧時の 土壌水分条件等に基づく,生産者段階で分かる簡易なマ ニュアルを作成する必要がある.また,直播栽培を連年実 施すると雑草イネや漏生イネ,抵抗性雑草が発生すること が報告されており,事前に対策を講じる必要がある. このように水稲乾田直播栽培の課題は山積しているが, 「省力・低コスト栽培研究会」の課題として一つずつクリア していく必要がある. 7 終わりに 「省力・低コスト栽培研究会」は,水稲乾田直播栽培技術 の早期確立及び普及の一助を担ったが,当研究会は水稲直 50 第 7 図 水稲乾田直播栽培における雑草防除体系 第 6 図 一発耕起播種機【型式:KTBM2200E-C((株)ク ボタ)】 第 1 表 実証試験結果 注)全区,倒伏は発生しなかった.

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播栽培技術確立のみが課題ではない.平成 28 年度には, 畑作物の収量向上を目指し,カットドレーンを用いた排水 性改善の実証試験を行い,麦類,大豆の収益性向上に寄与 するとともに,排水性の悪い水田における畑作物導入の可 能性を検討した.このように,当研究会は目まぐるしく変 化する水田農業情勢に,いち早く対応するとともに,5 年 後,10 年後の地域農業を思い描き,農業者や試験研究機関, 民間企業等の参画者の英知を結集し,持続可能な力強い水 田農業経営体を育成する場であると考える. 51 第 8 図 水稲乾田直播栽培を導入した場合の経営改善効 果 第 9 図 水稲乾田直播栽培こよみ 第 10 図 Facebook ページ ロゴ 第 2 表 集落営農法人における実証試験結果

参照