博 士 ( 薬 学 ) 斎 藤 芳 郎
学 位 論 文 題 名
ヒト血漿セレン含有蛋白質SelenoproteinP の 構造と機能に関する研究
学位論文内容の要旨
必 須 微 量 元 素 セ レ ン(Se)は , 生 体 内 で はCysのSがSeに 置 き 換 わ っ た ア ミ ノ 酸 selenocysteine (Sec)の 形 で 蛋 白質 中に 存 在し てお り ,Secを含 む蛋 白 質はselenoproteinと 総称 さ れ て い る ,Secは 翻 訳 さ れ う る21番 目 の ア ミ ノ 酸 で あ り , 終 止 コ ド ン の ー つUGAで コ ー ド され , ユニ ーク な 翻訳 機構 に よっ て蛋 白 質中 に取 り 込ま れる, selenoproteinとしてglutathione peroxidase (GPx),thioredoxin reductase (IR)等が 知ら れ てお り,Secは こ れら の酵 素 の活 性部 位 を 形 成 し て い る . SelenoproteinP(PはPlasmaの 意,SeP)は ,血 漿 中の 主要 なselenoprotein で あ り , そ の 最 大 の 特 徴 は , 他 のselenoproteinが ポ リ ペ プ チ ド 鎖 内 にSecを1残 基 し か 含 ま な い の に 対 し ,10残 基 のSecを 含 む 点 で あ る .SecはN末 端 側 に1残 基 が ,C末 端 側 に9残 基 が 局 在 し て お り , 中 央 付 近 に 連 続 し たHis残 基 を 含 む 配 列 の 繰 り 返 し が 認 め ら れ る .1973 年 にSePの存 在 が見 出さ れ て以 来, 長 い間 その 機 能は 不明 で あっ た.
´ .とトSePおよびSePフラグメントの構 製
ヒト血漿(1.51)を出発材料に,50/0 polyethylene glycol分画,Heparin‑Sepharose,Q−Sepharose, Ni‑NTA agaroseカ ラ ム ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー を 行 い , 精 製SeP標 品1.0 mgを 得 た . こ れ に よ り SePの 生 化 学 的 研 究 や 生 物 活 性 の 研 究 が 初 め て 可 能 と な っ た . ― 方 , 筆 者 は こ の 精 製 過 程 に お い て ,69KのSePが 血 漿 由 来 の セ リ ン プ ロ テ ア ― ゼ に よ り60Kお よ び17Kの フ ラ グ メ ン 卜(60 KF,17 KF)に 限 定 分 解 さ れ る こ と を 見 い だ し た , こ れ ら の フ ラ グ メ ン 卜 を 精 製 し , N末 端 ア ミ ノ 酸 配 列 分 析 を 行 っ た 結 果 ,60 KFがN末 端 側 に ,17 KFがC末 端 側 に 由 来 す る こ と が 明 ら か と な っ た . 前 者 をSeP‑NF, 後 者 をSeP―CFと し て 以 下 の 実 験 に 用 い た : ま た , 精 製 ヒ トSePを ラ ッ ト に 免 役 し ,11種 類 の ラ ッ 卜 抗 ヒ 卜SePモ ノ ク 口 ― ナ ル 抗 体 を 得 た . 作 成 し た2種 類 の 抗 体 を 用 い て サ ン ド ウ イ ッ チELISA法 に よ るSePの 測 定 法 を 確 立 し た .
〃.SePの酵素活性およびその性質
GPxは,GSH存在下に過酸化物を還元する酵素で,過酸化物(過酸化水素や脂質過酸化物)
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に対 する特異性および局在性の 異なるタイプの存在が知られている, cellular GPxは細胞質に 局在 しており,過酸化水素を基 質とするが,過酸化脂質を還 元する活性はない,phospholipid hydroperoxide GPxは細胞質,ミ トコンドリアの両方に存在しており,過酸化水素だけでなく,
過酸 化脂質も還元する,血漿中 に存在するextracellular GPx (eGPx)は,過酸化水素と過酸化 脂 質 の両 方を 基質 とす る .GPxに 代表されるselenoproteinの多くが酸化還元 酵素であること か ら ,SePのGPx活 性を 測定 し た, 活性 測定 は,GSHの消 費 を間 接的 に検 出す る カッ プリ ン グ 法 を用 いて 行っ た. 過 酸化 水素 を基質とした 場合,活性は認められなかっ たが,過酸化リ ン 脂 質で あるphosphatidylcholine hydroperoxide (PCOOH)を基質とした場 合,GSHの消費が 認 め ら れ た .HPLC法 に よ りPCOOHの 還 元 を 解 析 し た と こ ろ ,PCOOHの 滅 少 に 伴 う 還 元 体 PCOHの 生 成 が 確 認 さ れ ,PC・OOHの 還 元 が 確認 で きた .SeP精 製標 品に 不溶 化 ラッ ト抗 ヒ トSePモノ クロ ー ナル 抗体BD1を加 える と, 上 清中 の酵 素活 性 が消 失し た. この こ とから,
精 製 標品 中へ の他 の酵 素 の混 入が 否定 され ,SePが 過 酸化 リン 脂質 特異 的 なGPx様 の酵素で ある ことが明らかとなった, SePの比活性は83 nmol/min/nmol of proteinであり,SeP‑NFにSeP と同 等の酵素活性が認められた(69 nmol/min/nmol of protein).ー方,SeP―CFには活性は認め ら れ な か っ た .GPxで はSecが 酵 素 活 性 部 位 で あ り ,SePの 場 合 もN末 端側 の孤 立し たSec が活 性部位と考えられる,
川,SePのSe運接 作用
細 胞培 養に 無血 清 培地 を用 いる際,亜セレン酸 ナトリウムの添加が必須で あるが,血清を 添加 した 培地 では 亜 セレ ン酸 ナト リ ウム を加 える 必要 は ない .こ れよ り血 清 中にSeを供給 する 因子 の存 在が 示 唆さ れ,SeP,eGPxが その 候 補と して挙げられる,そこ で,ヒト血清と SePお よ びeGPxに 対す る抗 体 結合 したSepharose 4Bを 反応 し, 各selenoprotein欠乏血清を 作成 した . Se含 量を 測定 し た結 果, 血清 中のSeの内SeP,eGPxは それ ぞれ53,19qoを占め る こ と が 明 ら か と な っ た ,5%の 各 欠 乏 血 清を 含むRPMI‑1640培 地でTリ ンパ 球 腫Jurkat細 胞を3日 間培 養し ,細 胞内 のselenoproteinで あるGPxおよびTR活性を測定し た.その結果,
SeP欠 乏血清の場合の み活性の低下が認められた, また,細胞内のSe含量の低 下も認められ,
SeP欠 乏 血清 で培 養す るこ と によ り,Jurkat細 胞 がSe欠乏になることが明ら かとなった,次 に ,SeP欠 乏 血 清を 含 む培 地に 可変 量のSe含有 物を 添加 し, そ れぞ れのSe供 給 活性 を比 較 し た , そ の 結 果 ,SePは 最 も 低 いSe濃 度で 細胞 内 のcGPx活 性を 上昇 さ せた .さ らに ,SeP フ ラ グ メ ン ト のSe供給 活性 を比 較 じた とこ ろ,SeP・CFでの み 有意 なcGPx活 性 の上 昇が 認 め ら れ た , こ れ よ り ,C末 端 側 のSecがSe運 搬 作 用 を 担 っ て い る と 考 え ら れ る .
以 上 の 結 果 か ら ,SePのN末 端 側 のSecを1残 基 含む ドメ イン が酵 素 活性 を有 し,C末 端 側の9残 基局 在し たSecを 含む ド メイ ンがSe運 搬作 用 を担 うと 思わ れ,SePはニ つ の機 能を
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合わせ持つマルチファンクショナルなタンパク質と考えられた
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学位論文審査の要旨 主査 教 授 長澤滋治 副査 教 授 横沢英良 副査 助教授 高橋和彦 副査 助教授 澤田 均
学 位 論 文 題 名
ヒト血漿セレン含有蛋白質SelenoproteinP の 構造と機能に関する研究
必 須 徹 量 元 素 セ レ ン(Se)は , 生 体 内 で はCysのSがSeに 置 き 換 わ っ た ア ミ ノ 酸 selenocysteine (Sec)の 形 で 蛋 白 質 中 に 存 在 し て お り ,Secを 含 む 蛋 白 質 は selenoproteinと総称されている.sec|よ翻訳されうる21番目のアミノ酸であり,終止 コドンの―つuGAでコードされ,ユ二一ク詮翻訳機構によって蛋白質中に取り込まれ冬.
SelenoproteinPは ,血 漿中 の主要なselenoprotejnで あり,その最大の特徴は,他 の 開1enoprotejnが ポり ペ プチド鎖内にSecを1残基しか 含まなぃのに対し,10残基の SeCを 含む 点で ある ‐SeCはN末 端側 に1残基 が,C末端 側に9残基が局在しており,中 央 付近に連続したHis残基を 含む配列の操り返しが認められる.SePの存在が見出され て以来,長い問その機能は不明であった.本諭文の前半部では,SePの精製法を確立し,
後 半 部 で はSePの 生 物 活 性 に 関 す る 解 析 を 行 い , 以 下 の 成 果 を 挙 げ た . ヒ卜血漿(1.51)を出発材料に,5Xp01yethyle他glyC01分画,Heparjn一S印haro艶,
QIsepharo艶,N1−NTAa9ar0艶を行い,精製seP標品1.0悶を得た.これによりsePの 生化学的研究や生物活性の 研究が初めて可能となった.一方,筆者はこの精製過程にお い て ,69KのSePが 血 漿 由 来 のセ リン プ口 テア ―ゼ に より 閲Kおよ び17Kのフ ラグ メ ン 卜(60KF,17KF)に限定分解されることを見いだした .これらのフラグメン卜を精 製 し,N末 端ア ミノ 酸配 列 分析 を行 った 結果 ,閲KFがN末端 側に ,17KFがC末 端側 に 由来することが明らかとな った‐前者をSeP−NF,後者をseP一CFとして以下の実験に用 いた.
GPxは,GSH存在下に過酸化物を還元する酵素で,過酸 化物に対する特異性および局 在 性の 異な るタ イブ の存 在が 知られている.GPxに代表 される簡1eMproteinの多くが 酸 化還 元酵 素で ある こと から ,SePのGPx活性を測定した.活性測定は,GSHの消費を 間接的に検出するカップリ ング法を用いて行った.遇酸化水素を基質とした場合,活性
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は認 めら れなかったが,過酸化リン脂質であるphosphatidylcholine hydroperoxide (PCOOH)を基質とした場合,GSHの消費が認められた‐HPLC法によりPCOOHの還元を解 析し たと ころ,PCOOHの減少に 伴う還元体PCOHの生成が確認され,PC‑OOHの還元が確 認で きた .SePの比活性は83 nmol/min/nmol of proteinで あり,SeP‑NFにSePと同等 の酵素活性が認められた(69 nmol/min/nmol of protein).一方,SeP一CFには活性は認 めら れな かっ た.GPxで はSecが 酵素 活性部位であり,SePの場合もN末端側の孤立し たSecが活性部位と考えら れる.
細胞培養に無血清培地を用いる際ユ亜セレン酸ナ卜リウムの添加が必須であるが,血 清を添加した培地では亜セレン酸ナ卜リウムを加える必要はない.これより血清中にSe を供給する因子の存在が示唆され,SeP,eGPxがその候補として挙げられる.そこで,
ヒト 血清 とsePおよぴeGPxに対 する抗体結合したSepha「0艶4Bを反応し,欠乏血清を 作成 した .5Xの各 欠乏 血清 を含 むRPHト1640培 地でTリン パ球 腫Jurkat細胞を3日間 培養 し, 細胞内の艶1enoproteinであるGPx活性を測定した .その結果,seP欠乏血清 の場合のみ活性の低下が認められた.また,細胞内のSe含量の低下も認められ,seP欠 乏血清で培養することにより,Jurkat細胞がSe欠乏に なることが明らかとなった.次 に,SeP欠乏血清を含む培地に 可変量のse含有物を添加し,それそれのse供給活性を 比較 した ーその結果,SePは最 も低いse濃度で細胞内のCGPx活性を上昇させた‐さら に,SePフラグメン卜のse供給 活性を比較したところ,seP弌Fでのみ有意なcGPx活性 の上昇が認められた.これより,C末端側のsecがSe運 搬作用を担っていると考えられ る‐
以 上の 結果 から ,SePのN末端 側のSecを1残 基含 む ドメ イン が酵素活性を有し,C 末端 側の9残基局在したsecを含むドメインがSe運搬作用を 担うと思われ,sePはニつ の 機 能 を 合 わ せ 持 つ マ ル チ フ ァ ン ク シ ョ ナ ル な タ ン パ ク 質 と 考 え ら れ た . 以上の研究成果から,sePのこれまで明らかでなかった多様な機能が明らかになり,
seにより制御される疾患の治療法の開発に有カな手が かりを与えるものであり,博士
(薬学)の学位に値する業績と評価した‐
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