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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 理 学 ) 杉 尾 む つ 美

     学位論文題名

The stem cell systems for asexual and sexual reproduction     1n an enchytraeid oligochaete , E7zchytraeus japorzensis      (ヤマトヒメミミズの生殖を支えている幹細胞システムに関する研究)

学位論文内容の要旨

    地球上に現存するほとんどの動物は有性生殖によって子孫を作っている。分裂、出芽、断片化によ る無性生殖を行なっている動物も数多く見っけられているが、これらの動物のほとんどは有性生殖も行なっ ており、成育している周りの環境や生活史に対応して生殖方法を切り替えている。本研究で用いるヤマトヒ メミミズ(Enc轟厄旧e s宜p口印馴は、高密度飼育条件下では、無性生殖のみを行なっている。ミミズはあ る程度の大きさになると自切し、各断片の前後に再生芽をっくり、それぞれが頭尾へと分化することによっ て完全な個体へと再生する。ー方、低密度で十分に餌のある条件では、頭部第7・8体節にそれぞれ精巣と卵 巣を再生し、精子と卵を作ることで有性生殖も行なっている。申請者は、ヤマトヒメミミズの生殖がどのよ うなメカニズムによって支えられているのかを明らかにすることを目的に、以下の3つのテーマについて研 究を行った。

I.再生芽形成における中胚葉性幹細胞(ネオブラスト)の役割の解明

    ヤマトヒメミミズの胴体体節のすべての隔壁の腹側にはネオブラストと呼ばれる未分化細胞の形 態的特徴を持った細胞が付着している。また、ネオブラストよりも背側にサイズは小さいがネオブラストの 形態とよく似た細胞(N‑cell)も付着している。第ー章では、これらの細胞に注目しならが、再生芽形成に参加 している細胞にっいて調べた。

    最初にthe thymidine analogである5 ‑bromo‑2 ‑deoxyuridine (BrdU)を用いて、無傷個体と 再生個 体のBrdU+細胞(S期を通過した細胞)の分布を調べた。十分に成長した無傷個体を24時間BrdU 溶液で飼育すると、N‑cellでのBrdUの取り込みが確認されたが、ネオブラストでは48時間飼育してもBrdU の取り込みは観察されなかった。一方、再生個体のネオブラストとN‑cellでは再生1日目(自切後6‑24時 間)にBrdUの取り込みが観察され、N‑cellではネオブラストでの取り込みが見られなくなった再生2日日 以降も 引き続きBrdUの取り込みが確認された。以上のことからネオブラストはインタクトにおいては slow‑cycling又は休止状態であるが、頭部と尾部のどちらかあるいは両方の切断によってDNA合成が誘導さ れるこ とがわか った。 また、N‑cellは ネオブ ラストよ りも活発に分裂をしていることがわかった。

    次に、ネオブラストとN‑cellが再生芽形成に参加しているかどうかを確かめるため、ネオブラスト とN‑cellを含む再生初期にDNA合成を行っている細胞のパルス|チェイス実験を行った。自切後9‑21時間の 12時間ミミズをBrdU溶液中で飼育することで、S期の細胞をBrdUでラベルし、その断片の前後両再生芽を

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切断 除 去す るこ とで 、 再生 開始 をり セットすることを 試みた。その結果、切断直後 は切り口付近にBrdU+細 胞は ほ とん どな かっ た が、 再生 が経 過するに従って、 切り口付近に存在するBrdU+細胞の数が増加した。ま た、BrdU+細 胞 は主 に再 生芽 の中 胚 葉領域に存在してお り、その領域で活発に分裂 していることも明らかと なっ た 。こ れらの結果から 、ネオブラストとN‑cellは再 生芽の中胚葉領域の形成に 参加していることが示唆 され た 。同 様の実験から、 再生芽の外胚葉組織の形成に は傷口付近に存在している 表皮細胞が、内胚葉領域 の形 成 には 腸に存在する未 分化細胞が参加していること が示唆された。今回の結果 から、ネオブラストは中 胚葉性の幹細胞で あり、N‑cellはネオブラスト系列の′I、A細胞(transit amplifying cells)であると考えられ た。

II.生殖巣の再生 における生殖細胞の起源の解 明

    ヤ マ ト ヒメ ミミ ズは 有 性化 を誘 導す ると 無 性個 体が 有性 個体 に 変わ るこ とが 知 られ てい る。 この 生 殖巣 を 再生 する こと がで き る能 カは 予定 生殖巣領域の第7‑8体飾に限られているのか 、又は全ての体飾が有 して い るも のな のかを調べる ために、元の個体の頭部・胴 部・尾部にあたる断片を再 生させ、有性化を誘導 し、 各 断片 の有 性個体の発生 率を求めた。その結果、どの 領域の断片からでも高い割 合で有性個体が生じた ため、生殖巣を再 生する能カは全身に備わって いることがわかった。

    次 に 、 生殖 巣の 再生 過 程に おい て、 生殖 細 胞が どの 細胞 に由 来 して いる のか を 調べ るた め、 生殖 細 胞 の マ ー カ ーと して ヤマ ト ヒメ ミミ ズのpiwi遺 伝子(Ej‑piwbを単 離 し、 その 発現 パ ター ンを 調べ た。 そ の結果、Ej‑piwiは 生殖巣中の生殖細胞で発現 している他、腹側神経索上に 散在している細胞でも発現してい るこ と がわ かっ た。 これ ら の細 胞が 生殖 細胞の起源であ るかを確かめるため、頭部再 生中のEj‑piwi発現細 胞の 挙 動を 調べ た。 その 結 果、 切り 口付 近に存在してい たEj‑piwi陽性細胞は再生1〜2日目に分裂増殖し、

3日 目に 新た に 形成された頭部 再生芽に移動し、5日日には 予定生殖巣領域でクラスタ ーを作ることがわかっ た。 こ れら のこ とか ら、 ヤ マト ヒメ ミミ ズ の生 殖細 胞の 起源 は 腹側神経索上に散在 するEjpiwi陽性細胞で あ り 、 頭 部 の 再 生 に 関 与 し て い る ネ オ ブ ラ ス ト と は 別 の 細 胞 集 団 で あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。

m.生殖 幹細胞とネオブラストの発 生起源の探求

    ネ オ ブ ラ ス ト と 腹 側 神 経 索 上 のEj‑piwi陽 性 細胞 (生 殖幹 細胞 ) の発 生起 源お よび 形 成過 程を 明ら か に す る た め に2つ のvasa関連 遺伝 子(Ej‑vlgl、Ej‑vlg2) を単 離し 、 それ らの 遺伝 子とEjpiwiの発 現解 析 を行 っ た。 成体 にお いて 、 生殖 幹細 胞ではEj‑piwiとともにEj‑vlglとEj‑vlg2が発現しており、ネオ ブラ ス トで はEj‑vlg2の 発 現の みが 検出 さ れた。胚 発生における発現パターン を解析した結果、発生後期に 胚の 後 部腹 側 でEj‑vlglとEj‑vlg2を強 く発 現して いる少数の細胞が、胚発生終 了後のステージにEj‑piwiを 発現 し、生 殖幹細胞になることが示唆さ れた。

    次 に 成 体 ネ オ ブ ラ ス ト の 分 布 場所 で ある 隔壁 腹側 領域 にEj‑vlg2の発 現と ネオ ブラ ス トの 形態 的特 徴 を持 つ 細胞(neoblast‑like cell)が 観察さ れるタイミングを調べたとこ ろ、発生終了後の14‑15体節 期に Ej‑vlg2発現細胞とneoblast‑like cellを始めて観察できたが、それ以前の系譜をたどることはできなかった。

最初に 出現したneoblast‑like cellは成体ネオブラストと比較 すると核と核小体が小さく細胞自体も小さかっ た ため 、 はっ きり した特徴を持たない小型の細 胞が隔壁腹側に定着した後 に、典型的なネオブラストの 形態 的特徴 を獲得することが推測された 。

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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査    准教 授    栃内    新 副 査    教 授    馬 渡 駿 介 副 査    教 授    山 下 正 兼 副 査    教 授    清 水    隆

     学位論文題名

The stem cell systems for asexual and sexual reproduction     in an enchytraeid oligochaete ,E7zchytraeus japoTzensis

(ヤマトヒメミミズの生殖を支えている幹細胞システムに関する研究)

  ヤマトヒメミミズは、高密度飼育条件下では断片化と再生によって無性的に繁殖し、わ ずか2体節から でも再 生が可能という強い再生能カを持っている。また、人為的に切断し ても正常に再生するため、再生現象を研究する上で極めて有用な実験動物である。更に、

飼育条件を変えることで人為的に有性生殖も誘導できるため、頭尾など一般の器官再生と 生殖器官の再生との比較研究のみならず、再生過程と発生過程との比較も容易に行える好 個の実験動物である。申請者の博士論文研究では、上記のヤマトヒメミミズの特徴を十分 に活かし、頭尾再生芽および生殖巣内に出現する体細胞およぴ生殖細胞の由来を明らかに するとと もに、 それらの 細胞が胚 発生過 程でどの ように形成されるのかを調べている。

  ヤマトヒメミミズにはネオブラストと呼ばれる未分化な形態的特徴を持った細胞が胴体 体節の隔壁に付着している。申請者はまずこの細胞に注目し、再生芽形成への関与を調べ る実験を 行った 。細胞の 増殖を調 べた結 果、断片 化後1日以内にネオブラストのDNA合成 が活発に なるこ とが明ら かとなった。また、再生初期の特定の時期にDNA合成をしている ネオブラストを含む細胞をラベルして追跡した結果、分裂したネオブラストが移動して再 生芽の中胚葉領域を形成することが示唆された。同様の追跡実験から、再生芽の外胚葉領 域は付近の表皮細胞に由来し、内胚葉領域は付近の腸組織の細胞から形成されることも明 らかにした。

  次に申請者はネオブラストの遺伝子マーカーを得るため、ヤマトヒメミミズのvasa関連 遺伝子(」り.四野、」:vlg2)を単離し、発現解析を行った。」り.瑚ロはネオブラストでは発 現しておらず、Ej:vlg2はネオブラスト以外の未分化細胞でも発現していたため、残念なこ とにEj‑vをIと毋.I【響2をネオブラストの特異的マーカーとして使うことはできなかった。

しかし、共同研究者によってヤマトヒメミミズの〆所関連遺伝子」り:ガ所が単離され、そ れが生殖細胞のマーカーとなることが明らかとなり、さらに遺伝子の発現パターンにより     ―80―

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生 殖 系 列 の 細 胞(Ejpiwtl Efvlgl+IEj.vlg2+)と ネ オ ブ ラ ス ト(Ej.vlg2+')が 区 別で き る こ と が わ か っ た た め 、 そ れ を 利 用 し て 生 殖 巣 再 生 に 関 わ る 細 胞 を 解 析 し た 。   ヤ マ ト ヒ メ ミ ミ ズ の 無 性 個 体 に 有 性 化 を 誘 導 す る と 、 第7体節 に 精 巣 、第8体節 に 卵 巣 が 再 生 す る 。 ま た 、 生 殖巣 が 形 成 され る 第7‑8体節 を 持 っ てい な い 体 幹部 や 尾 部 の断 片 か ら で も生 殖 細 胞 を持 っ た 生 殖巣 が 再 生 する 。 生 殖 巣に 出 現 す る生 殖 細 胞 の由 来 を 明 らかに す る ため 、 頭 部 を切 断 し 、 再生 し て い る個 体 の 遺 伝子 発 現 パ ター ン を 調 べた 結 果 、 腹側神 経索上に存在する」E'jpiwi+l」り‐心サ/上ワ‐心ヴ細胞が、生殖細胞の起源であることが示唆さ れ た 。ま た 、 こ れら の 細 胞 の挙 動 は 、 再生 時 の ネ オブ ラ ス ト の挙 動 と 大 きく 異 な っ ている こ と も明 ら か と なっ た 。 こ れら の 結 果 から 、 ヤ マ トヒ メ ミ ミ ズの 成 体 体 幹部 で は 、 生殖幹 細胞(腹側神経索上の巧似切十′毋.心#゛/・可‐心ヴ細胞)が可・圃要ゲネオブラストを含む体 性幹細胞とは独立の集団として維持されていることが明らかとなった。

  最後 に 、 生 殖幹 細 胞 と ネオ ブ ラ ス トが 発 生 過 程で ど の よ うに 形 成 さ れる か を 明 らか にす る た めに 、 発 生過程 での毋. 咄F、」 り,カ ゑ彫口 襾の発 現パタ ーンを 解析し た。そ の結果、

生 殖 幹細 胞 は 有 性生 殖 を 行 う多 く の 動 物と 同 様 に 発生 過 程 で 他の 細 胞 か ら区 別 さ れ 、胚発 生 終 了時 ま で に は生 殖 系 列 細胞 と し て 分化 す る こ とが 明 ら か とな っ た 。 また 、 ネ オ ブラス ト は 生殖 幹 細 胞 の形 成 後 、 かな り 経 ってか ら出現 するこ ともわ かった 。今回 の実験 からは、

ヤ マ トヒ メ ミ ミ ズの 生 殖 系 列の 細 胞 は 胚発 生 中 に 体細 胞 系 列 の細 胞 か ら 分離 す る こ とが強 く 示 唆さ れ た が 、無 性 生 殖 と有 性 生 殖 の両 方 を 行 なう ヒ ド ラ やプ ラ ナ リ アと 同 様 に 生殖系 列 の 細胞 と 体 細 胞の 両 方 を 作り 出 す 多 能性 幹 細 胞 が成 体 内 に 存在 し て い る可 能 性 は 否定で き な かっ た 。 し かし 、 無 性 生殖 と 有 性 生殖 の 両 方 を行 な う ヤ マト ヒ メ ミ ミズ で 、 有 性生殖 を 行 なう 多 く の 動物 と 同 様 に生 殖 細 胞 系列 と 体 細 胞系 列 が 発 生初 期 に 分 離さ れ 、 そ の後も 独 立 に行 動 し て いる こ と が 明ら か と な った こ と は 、生 殖 細 胞 の進 化 を 考 える 上 で 有 意義な 発見と言える。

  以 上 、 本 論 文 は 環 形 動 物 貧 毛 類 の 頭 尾 お よ び 生殖 器 官 の 再生 過 程 と 、体 性 幹 細 胞と 生 殖 幹 細 胞 の 発 生 お よ ぴ 再 生 過 程 に お け る 挙 動 を 、 分子 マ ー カ ーを 用 い て 実験 形 態 学 的に 詳 細 に記 述 し た 論文 で あ り 、動 物 の 生 殖細 胞 形 成 のメ カ ニ ズ ムや 生 殖 細 胞の 進 化 過程を 知 る 上 でも 重 要 な 知見 を 提 供 して い る 。 よっ て 申 請 者は 、 北 海 道大 学 博 士 (理 学 ) の学位 を 授 与 され る 資 格 があ る も の と認 め る 。

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参照

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