理 学 療 法 学 第38巻第8号 597~ 598頁
(
2
0
1
1
年)
大会特別企画
小児セラピストとしてのキャリア形成*
斎 藤 大 地 * *
現在筆者は,在住の北海道旭川市にて小児専門の訪問看護ス
テーションを経営しているが,理学療法士としては平成7年に
北海道立の肢体不自由児施設に就職してスタートした。もちろ
んその時には自分が事業を起こすことなど考えておらず,特徴
的な医療過疎や広域性といった問題を抱えた北海道で,施設勤
務や地域への出張業務を行い,日々自らの未熟さを感じていた。
重度重複化の流れ
就職した当時から話題に上っていたのは障害の重度重複化と
いう流れであった。筆者の勤務していた肢体不自由施設でも,
年を追うごとに重症の方を治療する割合が多くなっていた。障
害者白書による推移を見てみると(図1),程度別障害者数の
推移1)は,昭和62年位からの 2級, 3級の割合に比べ 1級は
ほぼ倍増している。また種類別障害者数の推移1)にしても,
平成になってから肢体不自由は横ばいになっているのに比べ内
部障害は倍増していて,障害の質が変化しているのがわかる。
一方厚生労働省の人口動態調査によると(図2),ほぼ同時期
に新生児死亡率は低下2)し,低出生体重児の出生率が増加3)
している。救命,延命技術は向上したが,その分重篤な後遺症
が増えていると当時から示唆されていた。
医療・福祉グランドデザイン,診療報酬改定
平成18年は,分岐点とでもいうべき大きな動きを感じた年
であった。
4
月には,健康保険での診療報酬改訂があり,障害
児・者リハビリテーション(以下リノサの医療点数は,点数減
および年齢制限による減算改訂となり,自分の従事する療育分
野における,全国規模での人件費削減コ職員定数減を予想し
た。
1
0
月には自立支援法が完全施行され,保護から自立に向
けた支援ということで障害者に費用の原則 1割の負担を求め,
さらに厚生労働省からは医療・福祉グランドデザイン4)が示
された。当時の資料(重点施策実施5ヵ年計画5))には,
1
施
設サービスについては,通所施設の整備に努めるとともに,入
所施設は真に必要なものに限定し,地域資源として有効に活用
する。
J
と書かれている。現場の状況としては,新生児医療の
発展の影響により後遺症が重度重複化した小児が増え,長期療
*
Career Formation as Pediatric Therapist
**株式会社はこぶね
(干078-8342 北海道旭川市東光2条8-1-19)
Daichi Saitou, PT: HakobuneLtd.
キーワ}ド:訪問,小児,起業
4000
3500
3000
2500
~ 20
∞
1500
1000
500
昭和55年 62年 平成3年 8年 13年 18年
?程度目
i
↓種類別障害者数の推移(身体障害児者・在宅)
3500
3000
2500
n
u
n
u
n
u
n
u
n
u
n
u
n
u
n
U
0
5
0
5
n
4
4
1
1
E
︿
け
﹁
昭和 55年 62年 平 成3年 8年 13年 18年
図 1 昭和55年 平成 18年 重度重複化の流れ(障害者白書)
12.00%
10.00%
8.00%
6.00%
4.00%
2.00%
0.00%
昭和55年 60年 平 成2年 7年 13年 18年
図 2 新生児医療の変化(厚生労働省人口動態調査より)
育,リハの必要な方が増えていくのに,その受け皿である施設
はこれ以上減ることはあっても増えることはないということが
明確に打ちだされていた。その後, リハには
EBM
と同時に費
用対効果が叫ばれ,全国規模で医療,福祉施設および事業の民
間委託が進められた。
111
5
9
8
理 学 療 法 学 第 38巻第 8号
表1 障害児者向け各種サービスの比較
収益[J空 継続性 連携'性
療育機関 × 対象年齢迄
O
それ以降×
。
通所施設 × 対象年齢迄
O
それ以降× ム
重症心身障害施設 ×
。
×
一般病院・施設 ム ム ×
民間福祉サービス ム
。
×
在宅リハ ム
。
ム
.x
は低い
. 0
は高い,ムは努力・工夫により変化する
・経営母体となる法人の性質によって,めざす事業が違い,これが収益や運営状
況に影響する
・収益性はすべて低く,コストダウンがはかれる運営形態が必要.
ターニングポイント
公務員時代を振り返って
施設勤務していた頃は,患者数の増加に対して,セラピスト
の資格をもった職員定数が増えることは望めなかったので,結
果的に頻度を下げて対応せざるを得なかった。予約は恒常的に
一杯で,乳幼児の療育開始が遅れたり,重症の方が予約診療に
体調が合わずキャンセルが続くことを専門職として悩み,解決
手段と自分の身の振り方を模索していた。セラピストの成長に
は,治療体系や学術研究といった質的なことは話題に上りやす
いが,療育の弱点、としては労働力の不足,財政的な基盤および
需要と供給が市場化されていない等の,数・量的な部分が未解
決なのではと考えた。たとえ非力であっても,少しずつこの方
向での変化を起こせないかと思った。
表1のように障害児者向けサービスを比較すると,システム
としては,年齢制限のない在宅リハは継続性が高い。療育経験
をもっ理学療法士(==自分)を使った社会実験という意味もこ
めて起業する決心をしそのために様々な準備を開始した。平
成19年には,北海道職員を退職,市内の訪問看護ステーション
に就職し,翌平成20年に株式会社はこぶねを設立して,旭川市
在住の障害児者向けの訪問看護事業を開始した。幾多の困難を
経て,それ以上の幸運や地域の応援に支えられ,今年で創業
4
年目を迎えている。実際の小児の在宅リハは,施設で行ってい
たリハをそのまま利用者宅に導入する単純なものではなく,独
自の工夫を加え新たなるニーズを創出する必要性がある6)。
最 後 に
以前には安定した就職率を誇った理学療法士であるが,新卒
から定年まで約
4
0
年同じ職業に就いていれば,必ず世の中に
は動きがある。筆者はここ十数年で,小児医療の救命率向上に
よる重度重複化と,自立支援法施行前後からの施設収容型(ハ
コモノ)療育の見直しという,大きなふたつの変容を経験し
た。変容はこれまでもあっただろうし今後も必ず起きると思う
ので,変化を予想して,自らも変化し選択することは必須であ
る。キャリア開始の時期には,職業人としての自己形成が優先
だが,その後は時系列に沿った仕事の流れや,外部へ展開する
楽しさがでてくると同時に,入ってくる情報量が増え,現在の
職場や立ち位置は自分にとって適正か,職業人としてなにをな
すべきなのかも考えるようになってくる。自分にとっては起業
であったが,誰もがそれぞれの立ち位置で,地域や社会に向き
あい発信していくこともキャリア形成には重要ではないかと
思う。
文
献
1) http://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper Ih22hakushol zen bunl
index.html(参照 2011-06-28)
2) http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-l.html(参照 2011-06-28)
3) http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/
syussyo06/syussyo2.html#05(参照 2011-06-28)
4
心)ht抗tp:ゾIlwww
ory50/49256FE9001AD94349256F430ω0237588?OpenDoc印umen此t(参
H
照買 2011司06-28)
5)http://www8.cao.go.jp/shougai/ suishin/5sinchoku/t2.html(参照
2011-06-28)
6)粛藤大地:訪問リハビリテーションに必要な視点と技術一発達障害
児への訪問リハビリテーション.地域リハビリテ}ション.2010; 5・
499-502.