高齢者の口腔機能と栄養との関係についてプレ調査報告書
島根県歯科医師会地域福祉部 齋藤寿章1 高齢者の低栄養予防対策事業の目的
奥歯を守り、噛む機能の保持増進を図ることが、生活習慣病の予防・治療を支える適切な食 生活の確保に直結し、生活の質の向上へとつながる。また、在宅医療においては、医療的ケア として褥瘡管理、経管栄養管理を行うことが多いことから、在宅医療が必要になる前の生活が 比較的自立しているころからの高齢者の低栄養予防が重要であると考えられる。そこで、歯科 保健の切り口から高齢者の低栄養を予防することを目的に、口腔機能が低栄養に及ぼす影響に ついての各種調査や研修等を行うこととした。2 高齢者の口腔機能と栄養との関係についてのプレ調査について
次年度以降に口腔機能と栄養との関係についての調査を行う前に、今年度は自立した高齢者 に低栄養リスクの方がどの程度おられるのかを把握するための栄養調査を行った。3 調査の方法
低栄養と関連があるうつ状態や認知症の状態も評価項目に取り入れている MNA®(MiniNutritional Assessment)の Short Form である MNA®-SF を用いた。
3.1 調査先
歯科医療機関での栄養調査の経験は乏しく、うつ状態や認知症の状態の評価もしなければな らないことから、島根県歯科医師会全会員での調査ではなく、今年度のプレ調査ではMNA®に ついての知識がある地域福祉部委員の8診療所で行うこととした。3.2 調査対象
診療所に来院する高齢者(65 歳以上)で、調査の趣旨(自立した高齢者の低栄養の把握)に 同意できるもの200 名程度とした。3.3 評価と事後措置
MNA®-SF に記入し、「栄養状態良好」、「低栄養のおそれあり」、「低栄養」の評価をして被調 査者に伝える。栄養指導までは事後措置としなかったが、口腔機能の低下によって、総エネル ギー摂取量低下、蛋白質・ミネラル・ビタミンの摂取量低下と炭水化物増といった栄養バラン スの崩れに繫がることを知っていただき、不足分を調理の工夫等で摂取するよう説明した。3.4 調査期間
平成24 年 12 月 10 日から平成 24 年 12 月 22 日まで。3.5 調査用紙と記載方法
Nestle Nutrition Institute の MNA®-SF(Mini Nutritional Assessment-Short Form)簡易
Mini Nutritional Assessment-Short Form
MNA
®BMI F1 F2 BMI F1 F2 www.mna-elderly.com MNA
Ref. Vellas B, Villars H, Abellan G, et al. Overview of the MNA® - Its History and Challenges. J Nutr Health Aging 2006;10:456-465.
Rubenstein LZ, Harker JO, Salva A, Guigoz Y, Vellas B. Screening for Undernutrition in Geriatric Practice: Developing the Short-Form Mini
: kg cm A 3 0 = 1 = 2 = B 3 0 = 3 kg 1 = 2 = 1 3 kg 3 = C 0 = 1 = 2 = D 3 0 = 2 = E 0 = 1 = 2 = F1 BMI (kg/m2) (kg)÷ (m)2 0 = BMI 19 1 = BMI 19 21 2 = BMI 21 23 3 = BMI 23 F2 (cm) : CC 0 = 31cm 3 = 31cm ( : 14 ) 12-14 : 8-11 : (At risk) 0-7 :
3.5.1 調査用紙
3.5.2 記載方法
雨海照祥 監修:高齢者の栄養スクリーニングツール MNA ガイドブック.医歯薬出版株式会社. Aの質問 ●対象者および介護者へは以下のように質問 します。 「過去3ヶ月間の食事が普段に比べ減少しま したか?」 ●もしそうであれば、以下の3点を確認しま す。 1.食欲はどうだったか? 2.噛むことはできるか? 3.飲み込みはスムーズか、ムセなどな いか? ●食事の量が減少していれば、非常に減少し たか、わずかな減少かを確認し、スコアを記 載します。 Bの質問 ●過去3ヶ月間で体重の変化を対象者または 介護者にたずねます。または医療記録を確認 します。 ●たずねる場合には、「減量していないのに、 体重が減少しましたか?」、「どのくらい体重 が減少しましたか?」などと質問し、わかる 場合には 3kg 以上の減少かまたはそれ以下か を確認します。 *体重減少の項目は重要であり除外されると MN の感度が低くなるので、対象者が肥満の場 合であっても体重減少についてたずねること は重要です。 Cの質問 ●活動性について対象者または介護者にたず ねる。または記録を調べます。「ベッドまたは 車椅子を常時使用しているか、離れることは できるか?」 ●さらには「自力で歩いて外出できるか?」 をたずねます。 Dの質問 ●対象者の精神的ストレスや急性の疾患の有 無について確認します。「最近、身内の方にご 不幸があったりしましたか?」、「最近、病気 をしましたか?」、「引っ越しなどをしました か?」などとたずね、確認します。 認知症の重症度はどう判断すればよいのか 柄澤式老人知能の臨床的判断基準(☞次頁) からすると、項目 E の設問内にある「強度の 認知症」は、柄澤式の「高度(+3)」ならびに 「最高度(+4)」、「中程度の認知症」は「中等 度(+2)」相当と思われる。 Eの質問 ●医療記録や施設スタッフ、介護者から対象 者の神経・精神的問題(認知症など)につい て確認します。 ●対象者が応答することができない場合(認 知症など)、または対象者が混乱している場合、 対象者の個人的介護者または専門介護者に次 の質問に答えてもらうか、対象者の答えが正 確かどうか調べてもらいます。 ●確認のための質問項目は、食事量、体重減 少、活動性、精神的ストレス、急性疾患の有 無、施設入所の有無、食事の回数、たんぱく 質摂取状況、果物や野菜の摂取状況、水分の 摂取状況、栄養状態の自己評価、自分の健康 状態について、などです。 うつ状態かどうかの判断に迷ったら 次の質問(表)のうち、5つ以上あてはま れば、うつまたはうつ状態と考えられる。こ の場合、質問項目 E は 0 点とする。 うつが疑われたときに行う質問(GDS-15) 1.人生にあまり満足していませんか? 2.毎日の活動や周囲に対する興味が減りま したか? 3.人生は空しいと感じていますか? 4.毎日が退屈ですか? 5.機嫌がよくないことが多いですか? 6.なにか悪いことが起こるのではと心配で すか? 7.幸せだと感じることはほとんどありませ んか? 8.無力であると感じますか? 9.外出したり、新しいことをするよりも、家 にいたいですか? 10.物忘れが多くなったと思いますか? 11.生きていることはそれほど素晴らしいと 感じないですか? 12.生きていてもしかたないと感じますか? 13.活気がないですか? 14.絶望的だと思うことがありますか? 15.たいていの人は、あなたより幸せだと思い ますか? ※GDS-15 では Yes で答える質問と No で答え る質問が混在し、採点が煩雑と思われたため、 出典筆者が修正した。 F1 の質問 ●対象者の体重、身長を MNA®用紙に記載し、 BMI を算出します。 ●BMI は身長に体する適切な体重を示す指標 として用いられます。 算出方法は、体重(kg)を身長(m)の二乗で 割って求めます。 F2 の質問 ●F1 の BMI が算出できない場合、ふくらはぎ の周囲長(cm)を測定しスコアリングします。3.5.3 記載方法(認知症の重症度の評価とうつ状態の評価)
柄澤式老人知能の臨床的判断基準 判定(評価レベル) 日常生活能力 日常会話・意思疎通 具体的例示 (−) 社会的、家庭的に自立 普通 活発な知的活動持続 0 正 常 (±) 同上 同上 通常の社会生活と家庭内活動可能 1 軽度 (+1) ・ 通常の家庭内での行動は ほぼ自立 ・ 日常生活上、助言や介助 は必要ないか、あっても軽 度 ・ほぼ普通 ・ 社会的なできごとへの興味や関心が乏 しい ・ 話題が乏しく、かぎられている ・ 同じことをくり返し話す。たずねる ・ いままでできた作業(事務・家事・買い 物など)にミスまたは能力低下が目立つ 2 中等度 (+2) ・ 知能低下のため、日常生 活が一人ではちょっとおぼ つかない ・ 助言や介助が必要 ・簡単な日常会話はどうや ら可能 ・ 慣れない状況で場所を間違えたり道に 迷う ・ 同じものを何回も買い込む ・ 金銭管理や適正な服薬に他人の援助 が必要 3 高度 (+3) ・ 日常生活がひとりではとて もむり ・ 日常生活の多くに助言や 介助が必要、あるいは失敗 行為が多く目が離せない ・ 簡単な日常会話すらお ぼつかない ・ 意思疎通が乏しく困難 ・ 慣れた状況でも場所を間違え道に迷う ・ さっき食事したこと、さっき言ったことす ら忘れる 4 異 常 衰 退 最高度 (+4) 同上 同上 ・ 自分の名前や出生地すら忘れる ・ 身近な家族と他人の区別がつかない うつ状態 ● うつ状態と低栄養 うつ状態は、高齢者の食欲低下、意欲低下、活動性の減退の原因となり、低栄養の一因とな る。 60 歳以上の高齢者の約 15%はうつ病と診断されるともいわれており、その罹患率はきわめて 高い。持続する身体的な痛みや、「困ったときに相談できる人がいない」、「病気で寝ているとき に世話をしてくれる人がいない」といった社会的支援に対する不安が、うつ病発症のリスクを 上昇させているとする研究者もいる。 高齢者では、入院などの環境の変化がきっかけとなり、うつ病を発症する場合がある。入院 してきた高齢者が食事を摂取しない場合、まず一度はうつ病の可能性がないか疑ってみる必要 がある。 ●うつ病の診断 高齢者のうつ病の診断は、認知症と似た症状を呈することもあり、「仮性認知症」ともよばれ ている。この場合には、発症になんらかの精神的・心理的ストレスが関与していることが多く、 実際の記憶障害は軽度であるのに、「物忘れがひどい」といった不定愁訴を呈することもある。 高齢者のうつ病の診断は、専門医でも難しい場合がある。その診断には、Geriatric Depression Scale(GDS-15)という評価スケールが広く用いられている(感度 71.8%、特異度 78.2%)。154 結果
4.1 集計とデータの修正
集計数は、男性97 名、女性 167 名、合計 270 名であった。データの欠落および対象年齢外の ものを除いて調査対象者とした。その結果、調査対象数は、男性94 名、女性 162 名、合計 256 名であった。MNA®-SF の質問 E のうつ状態の判定で、GDS-15 の得点が反映されていないもの があったが、GDS-15 が 5 点以上の場合の質問 E は 0 点に修正した。4.2 年齢・性別
4.2.1 年齢(全体)
正規性の検定Shapiro-Wilk の検定 p 値<0.0001 で正規性なし 中央値:754.2.2 年齢(男性)
正規性の検定Shapiro-Wilk の検定 p 値 0.0389 で正規性なし 中央値:754.2.3 年齢(女性)
正規性の検定 Shapiro-Wilk の検定 p 値 0.0009 で正規性なし 中央値:75 Wilcoxon の順位和検定(Mann-Whitney の検定)による男女の年齢の比較 p 値 0.5581 で男性と女性では年齢に有意差はなかった。 平均 標準偏差 平均の標準誤差 平均の上側95%信頼限界 平均の下側95%信頼限界 N 75.371094 6.4606641 0.4037915 76.166285 74.575903 256 平均 標準偏差 平均の標準誤差 平均の上側95%信頼限界 平均の下側95%信頼限界 N 75.691489 6.5270761 0.6732165 77.028364 74.354615 94 56 55 84 41 13 6 1 0.00 0.10 0.20 0.30 0.40 割合 65 70 75 80 85 90 95 100 19 20 32 16 4 2 1 0.00 0.10 0.20 0.30 0.40 割合 65 70 75 80 85 90 95 100 37 35 52 25 9 4 0.00 0.10 0.20 0.30 0.40 割合 65 70 75 80 85 90 95 100 平均 標準偏差 平均の標準誤差 平均の上側95%信頼限界 平均の下側95%信頼限界 N 75.185185 6.4347873 0.5055646 76.183578 74.186792 1624.3 診療所地域別 度数(グラフ内)、平均年齢、男女比
調査先 平均年齢 SD 男/女 安来市安来町 74.12 6.15 0.38/0.62 松江市古志原町 74.48 6.27 0.48/0.52 松江市鹿島町 74.93 5.17 0.27/0.73 出雲市大津町 74.27 6.68 0.35/0.65 出雲市大社町 75.15 6.25 0.40/0.60 邑智郡美郷町 78.63 7.46 0.47/0.53 浜田市朝日町 76.52 5.63 0.26/0.74 益田市幸町 75.01 6.76 0.35/0.65 調査先の診療所地域による度数は益田市68 を除き 20∼30 であった。4.4 体重・身長・BMI
4.4.1 体重(全体)
正規性の検定Shapiro-Wilk の検定 p 値 0.0324 で正規性なし 中央値:534.4.2 体重(男性)
正規性の検定Shapiro-Wilk の検定 p 値 0.1179 で正規分布 中央値:58.25 平均 標準偏差 平均の標準誤差 平均の上側95%信頼限界 平均の下側95%信頼限界 N 59.388298 8.8099511 0.9086771 61.19275 57.583845 94 平均 標準偏差 平均の標準誤差 平均の上側95%信頼限界 平均の下側95%信頼限界 N 53.501953 10.187714 0.6367322 54.755876 52.24803 256 0 1 3 4 15 29 19 13 5 2 3 0.10 0.20 0.30 割合 30 40 50 60 70 80 1 2 15 29 45 49 49 29 20 8 5 4 0.05 0.10 0.15 0.20 割合 30 40 50 60 70 80 益田市幸町 浜田市朝日町 邑智郡美郷町 出雲市大社町 出雲市大津町 松江市鹿島町 松江市古志原町 安来市安来町 68, 27% 27, 11% 30, 12% 20, 8% 26, 10% 30, 12% 29, 11% 26, 10%4.4.3 体重(女性)
正規性の検定Shapiro-Wilk の検定 p 値 0.0011 で正規性なし 中央値:49 Wilcoxon の順位和検定(Mann-Whitney の検定)による男女の体重の比較 p 値<0.0001 で男性と女性の体重で有意差あり。4.4.4 身長(全体)
正規性の検定Shapiro-Wilk の検定 p 値 0.0012 で正規性なし 中央値:1534.4.5 身長(男性)
正規性の検定Shapiro-Wilk の検定 p 値 0.7096 で正規分布 中央値:162 平均 標準偏差 平均の標準誤差 平均の上側95%信頼限界 平均の下側95%信頼限界 N 50.08642 9.3587008 0.735289 51.538474 48.634365 162 1 2 14 26 41 34 20 10 7 3 3 1 0.10 0.20 0.30 割合 30 40 50 60 70 80 0 6 20 57 60 43 34 19 15 1 1 0.10 0.20 割合 130 140 150 160 170 180 平均 標準偏差 平均の標準誤差 平均の上側95%信頼限界 平均の下側95%信頼限界 N 154.30234 8.6634003 0.5414625 155.36865 153.23604 256 0 0 0 3 8 19 28 19 15 1 1 0.10 0.20 0.30 割合 130 140 150 160 170 180 平均 標準偏差 平均の標準誤差 平均の上側95%信頼限界 平均の下側95%信頼限界 N 162.42766 6.8599258 0.7075473 163.83271 161.02261 944.4.6 身長(女性)
正規性の検定Shapiro-Wilk の検定 p 値 0.4502 で正規分布 中央値:150 Wilcoxon の順位和検定(Mann-Whitney の検定)による男女の身長の比較 p 値 0.0000 で男性と女性の身長で有意差あり。4.4.7 BMI(全体)
正規性の検定Shapiro-Wilk の検定 p 値 0.0138 で正規性なし 中央値:22.24.4.8 BMI(男性)
正規性の検定Shapiro-Wilk の検定 p 値 0.0138 で正規性なし 中央値:22.2 0 6 20 54 52 24 6 0.10 0.20 0.30 割合 130 140 150 160 170 180 平均 標準偏差 平均の標準誤差 平均の上側95%信頼限界 平均の下側95%信頼限界 N 149.58765 5.5479364 0.435887 150.44845 148.72686 162 3 4 31 5163 58 21 17 4 3 1 0.10 0.20 割合 15 20 25 30 35 平均 標準偏差 平均の標準誤差 平均の上側95%信頼限界 平均の下側95%信頼限界 N 22.376953 3.2790207 0.2049388 22.780541 21.973365 256 1 0 7 22 30 17 10 7 0.10 0.20 0.30 割合 15 20 25 30 35 平均 標準偏差 平均の標準誤差 平均の上側95%信頼限界 平均の下側95%信頼限界 N 22.458511 2.615274 0.2697449 22.994171 21.922851 944.4.9 BMI(女性)
正規性の検定Shapiro-Wilk の検定 p 値 0.0766 で正規性分布 中央値:22.15
Wilcoxon の順位和検定(Mann-Whitney の検定)による男女の BMI の比較 p 値 0.5080 で男性と女性の BMI では有意差はなかった。
4.5 MNA
®-SF
4.5.1 栄養の判定(全体)
低栄養と At risk 合わせて 33.3%(1/3)を占めた。4.5.2 栄養の判定(男性と女性)
Peason のカイ2乗検定では p 値 0.3263 で男性と女性では栄養の判定に有意差はなかった。 2 4 2429 33 41 11 10 4 3 1 0.10 0.20 0.30 割合 15 20 25 30 35 平均 標準偏差 平均の標準誤差 平均の上側95%信頼限界 平均の下側95%信頼限界 N 22.32963 3.6155958 0.284068 22.890609 21.76865 162 11, 4% 74, 29% 171, 67% 0.20 0.40 0.60 割合 低栄養 At risk 良好低栄養
At risk
良好
合計
水準
11
74
171
256
度数
0.04297
0.28906
0.66797
1.00000
割合
4, 4% 22, 23% 68, 72% 0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 割合 低栄養 At risk 良好 7, 4% 52, 32% 103, 64% 0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 割合 低栄養 At risk 良好4.5.3 栄養の判定(前期高齢者)
後述する栄養の判定(後期高齢者)との比較では有意差はなかった。4.5.4 栄養の判定(前期高齢者の男性と女性)
Peason のカイ2乗検定では p 値 0.4663 で前期高齢者の男性と女性では有意差はなかった。4.5.5 栄養の判定(後期高齢者)
Peason のカイ2乗検定では p 値 0.3256 で前期高齢者と後期高齢者では栄養の判定に有意差 はなかった。4.5.6 栄養の判定(後期高齢者の男性と女性)
0 Peason のカイ2乗検定では p 値 0.1889 で後期高齢者の男性と女性では有意差はなかった。 3, 3% 29, 26% 79, 71% 0.20 0.40 0.60 0.80 割合 低栄養 At risk 良好低栄養
At risk
良好
合計
水準
3
29
79
111
度数
0.02703
0.26126
0.71171
1.00000
割合
8, 6% 45, 31% 92, 63% 0.20 0.40 0.60 0.80 割合 低栄養 At risk 良好低栄養
At risk
良好
合計
水準
8
45
92
145
度数
0.05517
0.31034
0.63448
1.00000
割合
2, 5% 9, 23% 28, 72% 0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 割合 低栄養 At risk 良好 1, 1% 20, 28% 51, 71% 0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 割合 低栄養 At risk 良好 2, 4% 13, 24% 40, 73% 0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 割合 低栄養 At risk 良好 6, 7% 32, 36% 52, 58% 0.00 0.20 0.40 0.60 割合 低栄養 At risk 良好4.6 クロス集計と関連性の分析
栄養の判定結果の低栄養、At risk、良好の 3 群を低栄養・At risk と良好の 2 群*の判定結果
に分類し、診療所の地域と栄養判定との関連、MNA®-SF の各調査項目との関連をみるために SAS 社 JMP8によりクロス表(分割表)を作成し分析(カテゴリカル分析)を試みた。各調査 項目の合計から栄養の判定がされるものなので関連があるのは当然であるが、それぞれの項目 の関連の強さを比較する目的で分析した。関連の強さの指標は、Cramer の連関係数を用いた。 また、各調査項目と栄養のスコア値(順序尺度)との関係も Spearman の順位相関係数で分析 した。 *判定3群をクロス表にすると、度数の少ないセルが多くなるためセル内の度数がより多くなるよう2群に分類した。 2群に分類しても、セルのうち20%の期待度数が 5 未満であったクロス表が 3 つ存在した。この場合、カイ2乗に問題 のある可能性があった。より多くの被調査者の数が求められる。 さらに、調査項目のなかでも抑うつ状態判定のためのスケールである GDS-15 の点数との関 連を調べた。
4.6.1 診療所の地域と栄養判定
検定 カイ 2 乗 p 値(Prob>ChiSq) 尤度比 19.785 0.0061 Pearson 19.692 0.0063 診療所の地域と栄養との判定には有意な 関連があった。 調査を行った診療所の地域と MNA®-SF の各調査項目との関連については、それぞれの地位 域と項目とのクロス表を作成した結果、カイ2乗の検定で有意な関係があった(p 値:0.0002) のはD 精神的ストレス・急性疾患であった。 判定( 2群) 0.00 0.25 0.50 0.75 1.00 出雲市大社町 松江市古志原町 松江市鹿島町 浜田市朝日町 益田市幸町 安来市安来町 邑智郡美郷町 出雲市大津町 地域 At riskと低栄養 良好13
4.6.2 A「過去3ヶ月間で食欲不振、消化器系の問題、そしゃく・嚥下
困難などで食事量が減少しましたか?」
(食事量の減少)と栄養
0=著しい食事量の減少 1=中等度の食事量の減少 2=食事量の減少なし 検定 カイ 2 乗 p 値(Prob>ChiSq) 尤度比 20.589 <.0001 Pearson 20.568 <.0001 警告: セルのうち 20%の期待度数が 5 未満です。カイ 2 乗に 問題がある可能性があります。4.6.3 B「過去3ヶ月間で体重の減少がありましたか?」
(体重の減少)
と栄養
0=3kg 以上の減少 1=わからない 2=1∼3kg の減少 3=体重減少なし 検定 カイ 2 乗 p 値(Prob>ChiSq) 尤度比 37.256 <.0001 Pearson 36.378 <.0001 警告: セルのうち 20%の期待度数が 5 未満です。カイ 2 乗に 問題がある可能性があります。A
0
1
2
4
1.56
4.71
100.00
0
0.00
0.00
0.00
10
3.91
11.76
76.92
3
1.17
1.75
23.08
71
27.73
83.53
29.71
168
65.63
98.25
70.29
4
1.56
13
5.08
239
93.36
85
33.20
171
66.80
256
判定(2群)
度数
全体%
列%
行%
At risk
と
低栄養
良好
B
0
1
2
3
4
1.56
4.71
100.00
0
0.00
0.00
0.00
5
1.95
5.88
100.00
0
0.00
0.00
0.00
18
7.03
21.18
66.67
9
3.52
5.26
33.33
58
22.66
68.24
26.36
162
63.28
94.74
73.64
4
1.56
5
1.95
27
10.55
220
85.94
85
33.20
171
66.80
256
判定(2群)
度数
全体%
列%
行%
At risk
と
低栄養
良好
4.6.4 C「自力で歩けますか?」(自力歩行)と栄養
0=寝たきりまたは車椅子を常時使用 1=ベッドや車椅子を離れられるが、歩いて外出は できない 2=自由に外出できる 検定 カイ 2 乗 p 値(Prob>ChiSq) 尤度比 2.974 0.0846 Pearson 3.201 0.0736 Fisher の正確検定 p 値 対立仮説 左片側検定 0.9884 C=1 の場合の確率(判定(2 群)=良好)は、C=2 の場合よりも大きい 右片側検定 0.1082 C=2 の場合の確率(判定(2 群)=良好)は、C=1 の場合よりも大きい 両側検定 0.1082 「判定(2 群)=良好」である確率は、「C」の水準間で異なる4.6.5 D「過去3ヶ月間で精神的ストレスや急性疾患を経験しました
か?」
(精神的ストレス・急性疾患)と栄養
0=はい 2=いいえ 検定 カイ 2 乗 p 値(Prob>ChiSq) 尤度比 56.308 <.0001 Pearson 57.889 <.0001 Fisher の正確検定 p 値 対立仮説C
1
2
3
1.17
3.53
75.00
1
0.39
0.58
25.00
82
32.03
96.47
32.54
170
66.41
99.42
67.46
4
1.56
252
98.44
85
33.20
171
66.80
256
判定(2群)
度数
全体%
列%
行%
At risk
と
低栄養
良好
D
0
2
33
12.89
38.82
86.84
5
1.95
2.92
13.16
52
20.31
61.18
23.85
166
64.84
97.08
76.15
38
14.84
218
85.16
85
33.20
171
66.80
256
判定(2群)
度数
全体%
列%
行%
At risk
と
低栄養
良好
4.6.6 E「神経・精神的問題の有無」(精神的問題)と栄養
0=強度認知症またはうつ状態 1=中等度の認知症 2=精神的問題なし 検定 カイ 2 乗 p 値(Prob>ChiSq) 尤度比 62.912 <.0001 Pearson 64.804 <.0001 警告: セルのうち 20%の期待度数が 5 未満です。カイ 2 乗に 問題がある可能性があります。4.6.7 E「BMI(kg/m
2):体重(kg) 身長(m)
2」
(
BMI)と栄養
0=BMI が 19 未満 1=BMI が 19 以上、21 未満 2=BMI が 21 以上、23 未満 3=BMI が 23 以上 検定 カイ 2 乗 p 値(Prob>ChiSq) 尤度比 110.511 <.0001 Pearson 98.945 <.0001E
0
1
2
38
14.84
44.71
84.44
7
2.73
4.09
15.56
1
0.39
1.18
33.33
2
0.78
1.17
66.67
46
17.97
54.12
22.12
162
63.28
94.74
77.88
45
17.58
3
1.17
208
81.25
85
33.20
171
66.80
256
判定(2群)
度数
全体%
列%
行%
At risk
と
低栄養
良好
F
0
1
2
3
38
14.84
44.71
100.00
0
0.00
0.00
0.00
14
5.47
16.47
26.92
38
14.84
22.22
73.08
21
8.20
24.71
33.33
42
16.41
24.56
66.67
12
4.69
14.12
11.65
91
35.55
53.22
88.35
38
14.84
52
20.31
63
24.61
103
40.23
85
33.20
171
66.80
256
判定(2群)
度数
全体%
列%
行%
At risk
と
低栄養
良好
4.6.8 MNA
®-SF 各項目と栄養(
2 群)との関係のカイ2乗値、p 値と
Cramer の連関係数
項目 カイ2乗値 p 値 Cramer の連関係数* A:食事量の減少 20.568 <0.0001 0.283 B:体重の減少 36.378 <0.0001 0.377 C:自力歩行 3.201 0.0736 0.112 D:精神的ストレス・急性疾患 57.889 <0.0001 0.476 E:精神的問題 64.804 <0.0001 0.503 F:BMI 98.945 <0.0001 0.622 *Cramer の連関係数(クラメールの V): min(a,b):行数,列数のどちらか小さい方の数、T:ケース数 MNA®-SF の各調査項目と栄養の判定2群から関係の連関係数の大きさは、BMI、精神的問題、 精神的ストレスと急性疾患、体重の減少、食事量の減少、自力歩行の順であった。自力歩行に ついてはカイ2乗検定とFisher の正確検定ともに有意な関係はなかった。4.6.9 MNA
®-SF 各項目と栄養(スコア値)との関係
A B B C C C D D D D E E E E E F F F F F F 変数 スコア スコア A スコア A B スコア A B C スコア A B C D スコア A B C D E vs. 変数 0.3165 0.4061 0.4518 0.1521 0.0909 0.0477 0.5015 0.1521 0.1892 0.0360 0.5413 0.1572 0.2019 0.1026 0.2263 0.6891 0.0325 0.0526 0.1290 0.0540 0.0497 Spearmanの順位相関係数(ρ) <.0001* <.0001* <.0001* 0.0149* 0.1471 0.4476 <.0001* 0.0148* 0.0024* 0.5665 <.0001* 0.0118* 0.0012* 0.1013 0.0003* <.0001* 0.6046 0.4017 0.0391* 0.3898 0.4283 p値(Prob>|ρ|) -.8-.6-.4-.2 0 .2 .4 .6 .8 ノンパラメトリック: Spearmanの順位相関係数(ρ)前項と同様の結果であった。すなわち相関係数の大きさは BMI、精神的問題、精神的ストレス と急性疾患、体重の減少、食事量の減少、自力歩行の順であった。なお、各項目間との相関を みると、p 値:<0.01 では、A-B、B-D、B-E、E-D の順、p 値:<0.05 では、A-D、A-E、C-F の順であった。
4.7 栄養の判定(2群)と GDS-15(スコア値)
栄養の判定との関連に最も高かったBMI に次いで高かった精神的問題について、栄養の判定 2群(低栄養・At risk と良好)と GDS-15 のスコアについて検討した。精神的問題についての 質問項目はMNA®の特徴の一つでもある。4.7.1 栄養の判定と GDS-15(全体)
全体で有意な関連があった。4.7.2 栄養の判定と GDS-15(男性)
男性で有意な関連があった。 判定( 2群) 0.00 0.25 0.50 0.75 1.00 0 1 2 3 4 5 6 7891 0 GDS At riskと低栄養 良好 256N 自由度12 (-1)*38.379351対数尤度 R20.2359乗(U) 尤度比 Pearson 検定 76.759 74.958 カイ2乗 <.0001* <.0001* p値(Prob>ChiSq) 判定( 2群) 0.00 0.25 0.50 0.75 1.00 0 1 2 3 4 5 6 7891 0 GDS At riskと低栄養 良好 94 N 10 自由度 26.819133 (-1)*対数尤度 0.4838 R2乗(U) 尤度比 Pearson 検定 53.638 51.876 カイ2乗 <.0001* <.0001* p値(Prob>ChiSq)4.7.3 栄養の判定と GDS-15(女性)
女性で有意な関連があった。4.7.4 栄養の判定と GDS-15(前期高齢者・全体)
前期高齢者の全体で有意な関連があった。4.7.5 栄養の判定と GDS-15(前期高齢者・男性)
前期高齢者男性で有意な関連があった 判定( 2群) 0.00 0.25 0.50 0.75 1.00 0 1 2 3 4 5 6 8 1 0 GDS At riskと低栄養 良好 39 N 8 自由度 15.280484 (-1)*対数尤度 0.6586 R2乗(U) 尤度比 Pearson 検定 30.561 27.085 カイ2乗 0.0002* 0.0007* p値(Prob>ChiSq) 判定( 2群) 0.00 0.25 0.50 0.75 1.00 0 1 2 3 4 5 6 7891 1 GDS At riskと低栄養 良好 162 N 12 自由度 18.187837 (-1)*対数尤度 0.1712 R2乗(U) 尤度比 Pearson 検定 36.376 34.214 カイ2乗 0.0003* 0.0006* p値(Prob>ChiSq) 判定( 2群) 0.00 0.25 0.50 0.75 1.00 0 1 2 3 4 5 6 8 1 0 GDS At riskと低栄養 良好 111 N 8 自由度 21.839172 (-1)*対数尤度 0.3276 R2乗(U) 尤度比 Pearson 検定 43.678 41.199 カイ2乗 <.0001* <.0001* p値(Prob>ChiSq)前期高齢者女性で有意な関連があった。