• 検索結果がありません。

GIS Theory and Applications of GIS, 2014, Vol. 22, No.2, pp 地理空間情報技術の学習支援ツールの設計と開発太田守重 * Design and Development of an Assistance Tool for Educat

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "GIS Theory and Applications of GIS, 2014, Vol. 22, No.2, pp 地理空間情報技術の学習支援ツールの設計と開発太田守重 * Design and Development of an Assistance Tool for Educat"

Copied!
12
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

GIS−理論と応用

Theory and Applications of GIS, 2014, Vol. 22, No.2, pp.13-23

【ソフトウェア論文】

地理空間情報技術の学習支援ツールの設計と開発

太田守重*

Design and Development of an Assistance Tool

for Education on the Geospatial Information Technology

Morishige Ota

Abstract: An educational assistance tool called “gittok” is developed for students in higher

educa-tion. It is all-in-one software with texts and slides. Students can study fundamental knowledge of Geospatial Information Technology (GIT) based on its Body of Knowledge (BoK) and the Geo-graphic Information Standards such as those provided by ISO/TC 211. Gittok includes an applica-tion schema designer called Modeler. It allows students to acquire and edit geospatial data directly in compliance with the application schema. They can overview and experience spatial analysis, XML data exchange, geo-library, and map design. Teachers can refer to texts and slides included in gittok and may modify the source code to be suitable for their own lectures. Therefore, gittok will be a useful tool for introductory courses on GIT education.

Keywords: 地理空間情報技術 (Geospatial Information Technology, GIT),教育支援ツール

(educational assistance tool),GIT知識体系 (GIT Body of Knowledge),地理情報 標準 (Geographic Information Standards)

1.はじめに 近年,地理情報標準の確立,国土空間データ基盤 の整備,そして関連法規の整備を契機として,オー プンソースソフトの普及,オープンデータ政策の推 進などにより,地理空間データの取得・交換・活 用は以前と比較して格段に容易になった.それに 伴い,地理情報を利用したWebサービスが普及し, ボランティアのレベルでも地理空間データの取得・ 交換が可能となり,国際的な情報共有が実現して いる(Ordnance Survey, 2012).一方で,その背景に ある科学技術の進歩により,地理情報科学/技術 (GIS&T)の知識体系(Body of Knowledge, BoK)の 再編成が求められ,欧米においては,複数の知識領 域からなる知識体系の整備や,高等教育におけるカ リキュラムの再編が行われてきた(UCGIS, 2006). 日本でも,岡部篤行が研究代表者となり「地理情報 科学標準カリキュラム・コンテンツの持続協働型 ウェブライブラリーの開発研究」(2005-2007)が行 われ,その中で地理空間情報技術 (GIT) のBoKが 試作された (Ota, et al., 2008). 一方,GIS&Tは学際的な分野であり測地学,地 理学,地図学,測量・リモートセンシング,そして 情報科学などがその基盤を形成し,都市工学,環境 学,社会学,経済学,土木工学,地形学,地質学, 防災・防犯,ライフライン管理などの応用領域にお いて独自の研究開発が行われている.したがって, その全貌を短時間のうちに学習することは容易では ない. また,例えば (谷,2009),(畑山,1999)など,地 理情報システムの開発やそれを使用した教育が数多 く行われ,それぞれ実績を挙げているが, GIS&Tの BoKと地理情報標準の両者を基礎とするものは極め て少ない.このままでは,今日のGIS&Tの知識と 技術を利用したいとする要請と,それに応えるべき * 正会員 国際航業株式会社 (Kokusai Kogyo Co., Ltd.)

(2)

教育との間にギャップが発生する恐れがある. そこで筆者は,関係する皆様の協力を得なが ら,この分野の社会への応用を重視し GIScienceよ りはGITechnologyをテーマとして,高等教育に役 立てることをめざし,gittok (Geospatial Information Technology Tool Kitの略称,ジートックと発音) と 称するソフトウェアツールおよび,付属する教材の 開発を行ってきた. 結果としてこのツールは,以下の特徴をもつ. 1) 地理情報標準に基づく応用スキーマ,つまり, 一つ以上の応用システムによって要求される データのための概念スキーマ(日本工業標準調査 会,2009)の定義ができるので,標準の内容が理 解しやすい. 2) 定義された応用スキーマを直接使ってデータ取 得できるので,スキーマの意義が理解しやすい. 3) 作成されたデータにメタデータを付してジオラ イブラリーを構成し,検索したデータによるメ ンテナンス,解析,外部へのXMLデータ提供, そして地図のデザインができるので,データの 多目的活用が実感でき,知識領域同士の関連性 が学べる. 4) これらのことを全て一つのソフト内で実行でき るので,複数のソフトを使用する場合に生じる 用語や設計思想の違いなどを考えなくて済む. 5) テキストやスライドが付属しているので,背景 となる知識や技術を学びやすい. この教材で学んだ学生は,当該分野の全体像を概 観したことになるので,関連する研究や仕事に就い たときに,自分のポジションを理解した上で担当分 野の知識を深めると共に,関係者との良好な連携の もとで責任を果たす,という効果が期待できる. 本稿ではまず,GIS&Tの教育の現状を振り返り, GIT BoKに基づく教材のあり方について論じ,これ らを踏まえたgittokのアーキテクチャと開発の概要 を示し,最後に今後の展開について述べる. 2.GIS&T 教育の現状 この章では,GIS&Tの教育の現状を振り返り,今 日のGIT分野を俯瞰することができる,首尾一貫し た内容をもった教材整備の必要性について述べる. さて,国内外で実施されているGIS&T関連の教 育については,網羅的に調べた例として岡部ほか (2008),村山ほか(2009)及びこれらに関連する一連 の研究として佐々木ほか(2008),河端ほか(2008) の報告がある.その内容をみると,日本の地理系の 基礎教育では,既存のGIS (ArcGIS, MANDARAなど) の使用法を教え,空間解析,地図表現などを教える 半期の授業が多いが,GIS&Tカリキュラムの有効性 を高めるためには,授業が開講される大学にGISの 専門知識を持つ教育者が不足しているので,人材や 設備の充実が必要不可欠,としている.一方,米国 では,学科間の連携が多くみられ,地理系と工学・ 情報系学科の連携もしばしばみられる,としている. また,岡部ほか(2008)の研究では地理系45箇所, 建設系74箇所,海外110箇所の大学で行われている GIS教育カリキュラムのデータベース(GISカリキュ ラムデータベース)をWeb上で公開している.これ によると,上記の実態が確認できると同時に,地理 系では既存のデータをGISに取り込んで解析し,主 題図を出力するプロセスを教えることが多いが,建 設系では測量やリモートセンシングなど,データ取 得技術の授業も重視されていることがわかる.この 点は海外も同様である.つまり,GISの基礎教育は 以下の手順で行われることが多い. 1) 特定の課題を設定する. 2) データ取得の方法を教える,または既存のデー タの形式変換の方法を体験する. 3) そのデータをGISに適用して空間解析を行う. 4) 解析結果を主題図として表現する. 5) 以上の過程を通じて地理情報処理の概要を理解 してもらう. この一連の手順は,道具としての地理情報システ ムを使うためのリテラシー教育としては充分である が,以下に示す3つの問題が隠されていると考える. 第1に,自分が体験したGIS以外の方式を学ぶこ とが困難である.例えば,従来「地理情報は図形 (注:英語ではlocationといわれることがある)と 属性(attribute)で記述される」という説明が見られ る.これについてDiBiaseほか(2014)は, Goodchild

(3)

(1992) による「標準的な検索言語にはspatial key が含まれていないので,それを別扱いにせざるを 得ない」という説明を紹介した上で,その後の空 間,時空間検索言語の発達も取り上げている.1992 年の時点では確かにGoodchildの説明の通りだっ た.しかし,1999年にはISO/IECがSQL Multimedia and Application Packages-Part 3: Spatialを 制 定 し, ORACLEやPostgreSQLなどでは,幾何データ型を 扱えるようになった.ISO/TC 211でもオブジェクト 指向モデリングを基礎とする一般地物モデルを採用 し,空間属性(幾何と位相)を他の属性と並列に扱っ ている(ISO, 2005).一方,現在のGISや教科書の 中には,例えば,ベクター方式として,図形に属性 が付属するという方式のみを示す場合がある.した がって,学生には自分が体験したGISのアーキテク チャの解説とともに,その位置付けや関連する研究 の発展に関する情報も与えられるべきであろう. 第2に,既存のデータを使用するにあたって,そ のデータ構造はデータが作られた時点の技術を使っ て作られていることを忘れがちになる,という点が ある.例えば日本政府における本格的な地理空間 データ整備は1974年度に開始された国土数値情報 整備にさかのぼるが,この時点では汎用計算機での 利用を想定し,固定長レコードの順編成ファイルと してデータが整備された (国土地理院,1994).し かし,近年その形式を変換し,地理情報標準やその 他のデファクト形式に準拠するデータの提供が始 まっているので,データの使用法と共に,今日の データ提供の状況も示されるべきであろう. 第3に,今日のGITの利用シーンは多様化してお り,地理空間データのインフラ化が進行し,GISの 単体としての利用もさることながら,個別の機能が アプリケーションの中に組み込まれることが多く なっている.例えば,多くのWebサイトで地図が 表示され,その上で施設検索や経路探索などが行わ れているが,そのようなサイトを地理情報システム と呼ぶユーザはほとんどいない.開発者もそのよう なことは意識せず,プロバイダーが公開している APIやオープンソースのライブラリーなどを使用し て,アプリケーションを開発している.つまり今日, GITはITの中に取り込まれ,その一部になりつつあ る.このような認識のもとで,GITの独自性を,学 生は学ぶべきである. ところで,この章の冒頭で引用した調査は,2008 年以前に行われたものであり,その後の状況を必ず しも反映しているとは言えない.例えば地理情報シ ステム学会は関連する学協会の協力のもとで,GIS 上級技術者資格の認定を始め,5年間の資格有効期 間の中で自らの技術を更新し,向上させる義務を課 しているが,2012年から更新審査が始まっている. また,日本測量調査技術協会は,地理情報標準に 関する資格制度を2013年に発足させ,その枠組み の中で知識とスキルの向上を推進している(山田, 2013).これらは,社会人の能力向上に役立つ試み である. また日本の大学においても,オープンソースソフ トの利用や,ボランティア活動を通じた地理空間 データ共用の試みが増え,情報系の地理空間情報 技術教育を試行する動きもある.国際的にも,国 連が主導している国際地理空間情報管理事業 (UN-GGIM)などで,能力開発に関する検討が行われて いる(Ordnance Survey, 2012).したがって,このよ うな動きを加速化するためにも,今日のGIT分野を 俯瞰できる,首尾一貫した教材整備は欠かせないで あろう. 3.教材の条件 今日,例えば大規模公開オンライン講座 (MOOC) が出現するなど,高等教育の形態が多様化しつつあ る(Daradoumis, 2013).対面型の講義は依然として 重要であるが,個々の学習速度にあわせて,自主的 に学習を進めるやり方が発達する可能性が高い.し たがって,学習支援ツールは,自学自習と講義を併 用することによって,より効果的な知識修得を可能 にするものになるべきである.しかし,上記の条件 を考慮して開発されたツールは少ない. 筆者は,学部生を対象に,2008年度から2010年 度まで半期3回, GIT入門の講義を担当する機会を得 たが (太田,2009),その経験と現状のニーズを考慮 して,教材の目的,制約条件及び内容を検討した.

(4)

3.1.目的 初学者が今日のGIT分野を俯瞰できる,首尾一貫 した内容になることを,教材開発の目的とした.地 理空間情報科学は「空間データを系統的に構築し, 管理し,分析し,総合し,伝達する汎用的・方法論, およびその汎用的方法を適用する方法・方法論を研 究する学問である(岡部,2006)」とされている.こ の定義の中で,「および」以降,つまり「汎用的方法 を適用する方法・方法論を研究する」部分がGITと 考えられる.これを踏まえて,初学者が基礎的な知 識を俯瞰することができれば,自分が興味をもて る知識領域を選択し,その位置付けを理解しつつ, GIScienceを含め,より深い学習や研究をすること が可能になる. 3.2.制約条件 半期15回の講義時間の長さを,教育用ツール実 現の制約条件とした.現状では我々の目的である 「GIT分野の俯瞰」にさける時間は少ない.多くの 大学では既にカリキュラム体系が確立し,それが教 育の伝統と独自性を実現する根拠にもなっているの で,新たな科目を入れることは極めて困難である. そこで半期に限定し,従来のGIS入門教育を,この 教材を使った教育に置き換えることを想定した. 3.3.内容 教材開発を行うために,我々は少なくとも2つの 素材をもっている.1つはBoKであり,もう1つは 地理情報標準である.BoKはこの分野の知識領域 を網羅しているので,学生に提示すべき骨格をデザ インし,最低限獲得すべき知識を選択するのに役 立つ.ここで,BoKの知識領域は,上に示した岡 部 (2006) の定義に基づき,地理空間のモデリング, データ取得,データ管理,空間解析,データ交換, 及び地図による情報表現とし,その内容はGITの BoK (Ota, 2009) からとる.また,知識領域同士は 互いに関連するが,地理情報標準は,個々の領域に 含まれる情報の表現形式及び領域間のインタフェー スを示して,領域間の連携を技術的に保証してい る.つまり,以下の点において,本教材は優れてい るといえる. 1) 一般地物モデルに従って応用スキーマをモデリ ングすることによって,異なる分野のスキーマ であっても共通理解が可能になる. 2) 応用スキーマに従って地理空間データを取得し, それをインスタンスモデルに従って記述するこ とで地理空間データの共通理解が可能になる. 3) メタデータを付加したデータ管理を行うことで データの検索性と再利用性が向上する. 4) データと空間解析ソフトのインタフェースの標 準化によって,データ利用が容易になる. 5) 符号化の規則に従って,XMLのような形式言語 で応用スキーマや地理空間データを交換するこ とによって,情報システム間のデータ交換が自 動化できる. 6) 異なる描画の規則を地理空間データに適用して 地図データを作成することにより,異なる情報 表現を可能とする. 以上をまとめると,教育の目的は初学者がGIT分 野全体を俯瞰できることであり,教育期間は半期 15回とし, GITが含む知識領域とそれらの相互関係 を明示するとともに,各領域の内容をGITと地理情 報標準の観点で概説すること,となる. 4.Gittok のアーキテクチャ Gittokは,上で述べた知識領域を明確にするため に,モデリング,取得,管理,解析,交換及び表現 から構成される.これらの直接的な相互関係として は,モデリングと取得,取得と管理または解析,管 理と解析,管理と交換,そして管理と表現がある. 図1に知識領域とそれらの相互関係を示すが,こ れは,gittokのタイトルページである.ちなみに, gittokでは操作画面のことをページという. GittokはAdobe Airアプリケーションであり,イ ンターネットにつなげて使用する部分もあるが,基 本的には単独で動くので,ネットの負荷や脆弱性へ の対策など,教育以外の負担は軽減される.さらに, 学生は自分でデータを管理し,教師は,学生の演習 結果を収集し,それをもとに成績評価することが できる.以下,gittokがもつそれぞれの知識領域と,

(5)

そこで行われる学習内容について述べる. 5.モデリング (Modeling) モデリングとは,ここでは実世界に生起消滅する 現象を地物(feature)と捉えて抽象化し,地物間の 関係も含めて応用スキーマとして表現することであ る. 地物の定義は,国際標準であるISO 19101(2002) に な ら い“Abstraction of the real world phenomena”, つまり実世界の現象の抽象概念とする.この定義 はX 7100シリーズのJIS規格でも踏襲されている. この定義以外にも, A group of spatial elements which together represent a real-world entity. (MacDonnel & Kemp, 1995) 等がある.ここでentityは実体と訳さ れるが,実体は対象物の本質を示す概念のことであ る.したがって,これは「実世界に存在するものの 本質を示す概念を表現する空間要素の集り」と訳す ことができる.この定義は空間要素,言い換えれば 幾何図形をfeatureとする定義であり,これではそ の他の属性は無視されるかの印象を受けてしまう. これに対して「図形とその他の属性をあわせて地理 空間情報という」という意見もあろうが,図形とそ れ以外の属性を特に分別する技術的な理由が希薄に なっていることは,すでに述べた.ちなみに地物は 静的な属性のみならず,必要に応じて値を求める操 作をもつこともある.操作はメソッドや振る舞いと もいわれるが,地物がもつ属性等を引数として任意 の情報を得る関数である.空間解析は,地物や地物 間の関係がもつ操作と位置づけられる.したがって, ここでは,上で述べたISO 19101の定義を使用する. 次に応用スキーマは,スキーマ言語を使って応 用分野のために作られるモデルの形式表現であり, gittokでは地理情報標準が採用している方式に習い, 情報分野で活用されているUML (Unified Modeling Language)をスキーマ言語として使用する.ただ し,UMLは地理情報専用の言語ではないので,地 理情報標準では,地物とその関連をどのように表現 するかを規定する一般地物モデル (General Feature model, GFM) と呼ばれるメタモデルをUMLで記述 し,それによって地理空間データ特有のスキーマ表 現を可能としている (ISO, 2005).GFMでは,実世 界の現象を示す概念は,属性と操作をもつ地物型及 び地物型同士の関係で記述し,関係には継承関係と 関連があるということを定義している. ただし,gittokでは,理解のしやすさ及び学習時 間の制約を考慮して,地理情報標準のGFMを単純 化して再定義している(図2). 図2は以下のような規則を示している.つまり, 応用スキーマ(ApplicationSchema) は親子関係をもち うる地物型 (FeatureType) と,地物同士の関係を示 す関連型 (AssociationType) からなる.地物型は属性 (AttributeType) をもつことがあり,属性の中には, 例えば地図上に表示される幾何属性のように,地物 の代理 (proxy) として働くものがある.地物型は操 作 (OperationType) をもつことがあり,属性を操作 の引数 (arguments) として使用し,戻り値の保存場 所は,OperationTypeが指定する.操作の引数と属性 の対応付けは引数と属性の対 (ArgAttPair) で行う. 図 1 Gittok のタイトルページ

(6)

と こ ろ で gittok のGFMで は, 地 物 属 性 は 空 間 (spatial),場所(place),主題 (thematic),そして時間 (temporal) 等に分類される.この中で空間属性につ いては,2次元までの幾何属性,つまり,点,曲線 及び曲面としている.ここで,点,曲線及び曲面と いう用語は標準に従う意味で用いているが,gittokで は曲線についてはC0級の曲線,つまり各頂点におけ る一次微係数が前後で不連続な折れ線に限定してい る.また曲面はユークリッド平面上の多角形である. 各幾何要素は他の要素との間で境界,双対境界の関 係をもつが,点の境界と曲面の双対境界はない. また,「場所」は地理情報標準ISO 19112 (ISO, 2003) ではlocation として“identifiable geographic place”と定 義しているが,地物は住所や郵便番号のみならず, 画像,音声,ホームページなどが置かれている仮想 空間上の場所 (URL)をもつことがあるので,ここで はISO 19155 (ISO, 2012) で使われているplaceの定義 “identifiable part of any space”を採用し,任意の空間中

の場所を示すplace属性として定義している. ところでgittokでは,主題属性は単純なデータ型, つまり文字列 (CharacterString),整数(Integer),実 数(Real),ブール値(Bool)で表される属性である. ただし,対象物の説明など,長い文章や段落のため にMemoというデータ型を独自に定義している.な お,本稿の執筆時点では時間属性は入っていない が,今後実装の予定である. 以上をまとめると,この知識領域は,実世界に生 起消滅する現象を地物 (feature) として抽象化し,地 物間の関係も含めて応用スキーマとして表現する方 法を含む.Gittokでは,GFMに準拠する応用スキー マが作成できるツール (Modeller) を用意し,GFMに 準拠するスキーマ作りの方法を学ぶことができる. これによって,地理空間データの仕様作成が体験 でき,仕様自体の交換が可能になることを学ぶこと ができる.具体的な学習達成目標は,学生が,与え られた課題に対して,独自の仕様を提案し,それに 応じた応用スキーマの作成ができること,とする. 6.データ取得(Acquisition) 地理情報を数値データとして入力する方法は, 数値測量,既存の地図の数値化,既存のデータの 変換に分けられるといわれているが(中村・清水, 2000),それ以外にも環境調査やリアルタイムのセ ンシングなど,多様な方法が使われるので,本来は それぞれの方法に関する解説が行われるべきであ る.ただし,データ取得の手順は一般に以下の通り と考えられる. 1) 準備:要求仕様の確認と取得手段の選択,機材 の準備,基礎資料の入手等 2) 計測/調査(属性別のデータ収集):幾何(測位, 測量,画面デジタイズ,投影変換等),画像(撮影, センシング,スキャンニング,幾何補正),環境 (大気,水質,土壌汚染など),動画(撮影,編集), 音声(採録,編集),文書(資料調査,原稿作成) 等のデータ取得,既存データの形式変換など 3) 編集:地物インスタンスと属性の関連付けによ るデータセットの作成 4) 出力:データセットの,外部形式への符号化 ここで符号化とは,GIS固有の形式をとるデータ を外部形式に変換することであり,復号化はその逆 の処理を指す. Gittokは,上で示した多様な取得手法を網羅する ものではないが,データ取得の学習では,自ら体験 することが重要なので,モデリング段階で作成した 応用スキーマに従って,現場で取得した調査結果, 画像,動画,そして音声などを,地物の主題属性や 図 2 Gittok の一般地物モデル

(7)

場所属性とすると共に,計測基図を画面デジタイズ して,測地座標系や平面直角座標系に従う座標をも つ幾何属性を取得する.Gittokでは,生のデータに 含まれる座標は画面座標であるが,準備段階で,地 上平面座標系への換算を可能にするために画面標定 を行う.さらに経緯度との相互換算を可能にするた めに座標参照系のパラメータ設定を行い,これらを 地理空間データセット(Kitという)が参照する. したがって,応用スキーマに準拠する地理空間 データの収集と編集,および,その中で行われる座 標変換の理解が,学生にとっての学習達成目標にな る. 7.管理(Management) 管理とは,Kitを保存し,検索し,更新や解析等を 可能にすることである.Gittokの目的はITの修得で はなく,時間的な制約もあるので,データベース管 理システム (DBMS) は使用せず,ファイルシステム のみで管理を行う.その代わりManagerと称するペー ジにおいて,Kitにキーワードや地理的範囲を含む簡 単なメタデータを関連させ,それによる検索を可能 とし,地理空間データのための電子図書館,つまり ジオライブラリー (NRC, 1999) について学ぶことが できる(図4.背景は地理院地図.Kitそれぞれの地 理的範囲が表示されている).類似のサービスとし てクリアリングハウスやジオカタログがあり,空間 データ基盤とも呼ばれているが,gittokではメタデー タの検索に続いて,データの更新,空間解析,交換, そして地図表現などが直接実行できる.これは類似 の仕組みにはあまりない機能である.ただし,ライ ブラリー自体はスタンドアロンなので,他者のライ ブラリーを見ることはできない.Gittokで使用する メタデータの項目は,以下の通りである. 1)メタデータの表題 (Title) 2)概覧 (Overview) 3)キーワード (Keywords) 4)責任者 (Responsible Party) 5)メタデータの発行日(Publication Date) 6)地理的範囲 (Geographic Extent) これらの項目の中で地理的範囲については,地理 院地図またはオープンストリートマップを背景にし て,データの地理的な分布と範囲を確認すると共に メタデータを特定するために使われる.ISO 19115 や,そのプロファイルであるJMP (Japan Metadata Profile) と比較すると,gittokのメタデータは項目数 が少ないが,学習者はジオライブラリーの本来の意 義を理解し,データの検索と活用がしやすくなるこ 図 3 幾何属性編集用のページ 図 4 ジオライブラリーのページ

(8)

とが理解できる. したがって,ここでの学習達成目標は,メタデー タ,および,ジオライブラリーや空間データ基盤の 意義を理解すること,となる. 8.空間解析(Spatial Analysis) 空間解析とは,対象物の地理的な位置を重要な変 数として体系的に利用し,その本質を発見,記述, および予測することである.この知識領域は地理情 報科学の中核であり,様々な知識や方法が提示され ているが,gittokでは初歩的な計算幾何学を応用し た解析ツールをいくつか用意するに留めている.た だし,ツールの組み込み法を示すので,教師がツー ルを追加することは可能である.むしろGIT教育と いう観点からは,ツールの組み込み法を学ぶという 切り口もありうる.なお,本稿の執筆時点で実装さ れている解析ツールは以下の通りである. 1) 線の延長距離 2) 領域の面積 3) 点・折れ線・多角形相互の最短ユークリッド距離 4) 折れ線を中心とする簡易的なバッファリング 5) 中心位置決定(点群/線/多角形の重心,折れ線 上の中心,多角形の最大内接円中心) 6) 分布する点群の凸包 7) 点位置決定(多角形に対する点の内外判定) ここでの学習達成目標は,応用スキーマの中で定 義した操作を実際に実行することを通じて,地理情 報科学の知識をつかって,社会に役立つ情報提供が 行われることを理解することである. 9.データ交換(Exchange) 交換とは,異なる情報システム間で地理空間デー タを受け渡すことであるが,gittokでは,内部形式 のデータを,決められた規則で XML文書に符号化 して提供すると共に,それを復号化することとして いる.データ交換用のExchangerページでは,現在, 応用スキーマ,Kit,メタデータ,座標参照系パラ メータ,地図用の記号辞書・注記辞書及び描画ス キーマの符号化・復号化を行うことができる. ところで交換にあたり,既存のデータ形式との 互換性は考慮していない.Gittokのデータ構造は, UMLとGFMによって規定されるので,gittokで利用 するデータを,レガシーな形式に変換すると情報の 欠落が発生するし,既存のデータを取り込んでも, そのまま使用することはできない可能性があるから である.例えば, Kitには地物同士の関連や継承の構 造が含まれるが,既存の形式をとるデータにはその ような情報はほとんど含まれない. しかし,既存の データを,地物の属性として取り込む可能性はあり 得るので,その点は今後検討する予定である. ここでの学習到達目標は,データ交換には標準的 な規則を送り手と受け手が共有する必要があり,そ の例としてXMLがあることを理解することである. 10.表現(Representation) 表現とは,ここでは描画のための規則である描画 スキーマをKitに適用して,地図表現を可能にする ことである.Gittokでは,地図記号や注記の設計ツー ルを用意して記号辞書と注記辞書を作成し,これら と応用スキーマの地物属性を対応づけて描画スキー マを作成し,それを使って,地図表現を行う. ところで,描画スキーマは,他の多くのスキーマ と同様に型のレベルの規則である(Tao, 2010).例え ば,gittokの場合,とりあえず全ての注記は幾何図 形の中心に配置される.しかし,注記同士が重なり, 読みやすい配置になっていない場合があるので,そ のときは,注記の転位が要求される.これに応える 図 5 空間解析用のページ(点群の凸包)

(9)

ためには2つの方法が考えられる.第1は,元々の 地理空間データに表示位置を付加する方式,第2は, 新たに表示用の地図データを作成する方式である. 前者は一つのファイルで済むという利点があるが, 多目的活用がしづらくなる.そこで,gittokではデー タの再利用性を重視して第2の方法をとり,地理空 間データと地図データを明確に分離し,注記の表示 位置のような,インスタンスレベルの表示パラメー タを含む地図データを作成することとした.地図デ ザインの手順は概ね以下の通りである. 1) 記号辞書,注記辞書の作成 2) 描画スキーマの作成 3) Kitの指定 4) 凡例とスケールを含む初期画面の表示 5) タイトル,サブタイトルの作成と配置 6) 手動による,注記等の再配置 7) 地図データの外部出力 図6は,図3に示した幾何属性などを使用して簡 易的なバッファリングを行い,道路縁から10mの範 囲にかかる建物の分布図を示している. ここでの学習達成目標は,データ取得や空間解析 を通じて得られた地理空間データを,地図編集とい う手段で,利用者にとって意味のある情報に変換す る方法を,理解することである. 11.知識領域間の関連性 Gittokはall-in-oneのソフトなのでGITが含む知識 領域同士の関連性が理解しやすい.例えば,モデリ ングとデータ取得の間は応用スキーマがつなぐ.モ デリングとは応用スキーマを設計することであり, データ取得はそのスキーマに従ってKitを作成する ことである.データ取得と管理の間はKitがつなぐ. 取得したデータを元にメタデータを作成し,両者を ジオライブラリーに保存しておくことによってKit の検索ができ,その更新,解析,交換,そして地図 表現が可能になる.解析の結果は地物の属性として Kitに追加され,管理される.Kitを始めとする様々 なデータは内部形式をとるが,XML文書として符号 化され,受け手によって復号化される.さらに,Kit に描画スキーマを適用すれば,地図の表現ができる. 以上の事柄を学生が理解することによって,自分 が行っていることが,知識体系のどこに位置づけら れ,どのような領域の影響を受け,また与えるのか を考えながら学習ができるようになるであろう. 12.今後の展開 現在,GIT BoKを踏まえ,国際的な規則である地 理情報標準の思想を導入したall-in-oneの教育支援 ソフトは極めて少ないが,一方で,GITは,広く社 会に浸透しつつある.このような情況下で,初学者 が,この分野の全体像を俯瞰した上で,個々の興味 と要求に応える,より深い学習や実務を行えるよう にすることは,意義のあることと考えられる. 現在,gittokはフリーなオープンソースソフト (GPLライセンス) としてWeb上に公開しているが (https://github.com/stinfodesign/gittok), こ れ と は 別 にAir アプリケーションや関連する情報も公開して いる(http://stinfodesign.net/gittok/).今後,寄せられ たご意見に基づいた改良を加えると共に,テキスト 等の英訳を行っているので,更に広い範囲で意見を 求める予定である.さらに,現在,情報工学系の学 部生を対象として実験的な講義を行う機会を得てい るので,受講者の反応を見ながら改良してゆく予定 図 6 地図表示の例

(10)

である.特に教育効果の確認については,教育の以 前と以後にアンケートを授業内で実施するなどし て,効果の確認をすべきであるし,それぞれの授業 ごとに行う演習結果を評価する仕組みを組み込むこ とも検討してゆきたい. 謝辞 この研究開発は,科研基盤A「地理情報科学標準 カリキュラムに基づく地理空間的思考の教育方法・ 教材開発研究」プロジェクト(代表:浅見泰司,東京 大学)に設けられたGIT班(班長:久保田光一 ,中 央大学)の中で,筆者が実施してきたものです.そ の間,浅見代表やGIT班の皆様(久保田光一,有川 正俊,藤田秀之,古橋大地,黒川史子,尾崎隼一の 各氏)をはじめ,森田喬先生や国土地理院など多く の皆様からご助言頂きました.これらの皆様,編集 委員会,そして2名の査読者の方々に感謝致します. 参考文献 太田守重(2009)地理空間情報技術の知識体系と実 験的教育の実践.地理情報システム学会第18回研 究発表大会論文集 岡部篤行(2006)地理情報科学の教育と地理学. 「E-journal GEO」1(1),67-74 岡部篤行(2008)『地理情報科学標準カリキュラム・ コンテンツの持続恊働型ウェブライブラリーの開発 研究(基盤研究(A)17200052研究成果報告書)』 河端瑞貴,タパ ラジュッシュ バハドール(2008)米 国大学のGIS教育プログラム.「GIS-理論と応用」16 (2),27-33 国土地理院(1994)『数値地図ユーザーズガイド(改 訂版)』,日本地図センター 佐々木緑,小口高,貞広幸雄,岡部篤行 (2008)日 本におけるGIS教育の調査:地理学関係学科・専攻 の事例.「GIS-理論と応用」16(2),43-48 谷謙二(2009)時系列地形図閲覧ソフト『今昔マッ プ2』(首都圏編・中京圏編・京阪神圏編)の開発. 「GIS-理論と応用」17(2),135-144 中村英夫,清水英範(2000)14.6 地理情報の入力・ 編集と幾何補正.『測量学』,技報堂出版,511-518 日本工業標準調査会(2009)『JIS X 7109 地理情報− 応用スキーマのための規則』,日本規格協会,3. 畑山満則,松野文俊,角本繁,亀田弘行(1999)時 空間地理情報システムDiMSISの開発.「GIS-理論と 応用」7(2),25-33. 村山祐司(2009)『地理情報科学の教授法の確立(基 盤研究(A)17202023研究成果報告書)』,289-297 山田啓二(2013)地理情報標準認定資格制度の創設. 「先端測量技術」105,29-32.

Daradoumis, T., Bassi, R., Xhafa, F., Caballe, S. (2013) A review in massive e-learning (MOOC) design, delivery and assessment. Eighth International Conference on P2P, Parallel, Grid, Cloud and Internet Computing, 208-213 DiBiase, D., et.al. (2014) Chapter 1 Section 15 Loca-tions and Attributes. Nature of Geographic Information, https://www.e-education.psu.edu/

natureofgeoinfo/c1_p15.html

Goodchild, M. (1992) Geographical information science. International Journal of Geographic Information Systems

6 (1), 31-45.

ISO (2002) ISO 19101:2002 Geographic information -- Reference model. Geneva: ISO

ISO (2003) ISO 19112:2003 Geographic information -- Spatial referencing by geographic identifiers.Geneva: ISO ISO (2005) ISO 19109:2005 Geographic information -- Rules for application schema. Geneva: ISO

ISO (2012) ISO 19155:2012 Geographic information -- Place Identifier (PI) architecture. Geneva: ISO

McDonnell, R., Kemp, K. (1995) International GIS Dic-tionary, New York:John Wiley & Sons, Inc., 37

NRC (National Research Council) (1999) Distribu-ted Geolibraries – Spatial Information Resources, Wash-ington D.C.: National Academy Press, 1

Ordnance Survey of GB (2012) Future Trends in geo-spatial information management, Committee of Experts on Global Geospatial Information Management, https:// ggim.un.org/docs/meetings/2ndHighLevelForum/ UN-GGIM%20Future%20Trends%20Paper%20-%20 Version%202.0.pdf

(11)

A.(2008) The Research Initiative on a Curriculum for Geographic Information Technology in Japan. ASGIS 2008, 5-12

Tao Tao, Zhao Zai-xu, Li Xiu-mei (2010) Review on International Standards and Specifications of Map Symbol. International Conference on Web Information Systems and Mining, 143-145

UCGIS (2006) Geographic Information Science and Technology, Body of Knowledge, UCGIS

(2014年5月12日原稿受理,2014年8月27日採用決定, 2014年9月30日デジタルライブラリ掲載)

(12)

参照

関連したドキュメント

この見方とは異なり,飯田隆は,「絵とその絵

ヒュームがこのような表現をとるのは当然の ことながら、「人間は理性によって感情を支配

このような情念の側面を取り扱わないことには それなりの理由がある。しかし、リードもまた

最愛の隣人・中国と、相互理解を深める友愛のこころ

その目的は,洛中各所にある寺社,武家,公家などの土地所有権を調査したうえ

 英語の関学の伝統を継承するのが「子どもと英 語」です。初等教育における英語教育に対応でき

﹁地方議会における請願権﹂と題するこの分野では非常に数の少ない貴重な論文を執筆された吉田善明教授の御教示

□ ゼミに関することですが、ゼ ミシンポの説明ではプレゼ ンの練習を主にするとのこ とで、教授もプレゼンの練習