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87 国際財政学会第七四回年次大会に参加して山田直夫一 はじめに本稿では 二〇一八年八月二一日から二三日にかけてフィンランドのタンペレで開催された国際財政学会の第七四回年次大会について報告を行う 国際財政学会(International Institute of Public Finance: II

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国際財政学会第七四回年次大会に参加して

 

 

 

一、はじめに

  本稿では、二〇一八年八月二一日から二三日に かけてフィンランドのタンペレで開催された国際 財 政 学 会 の 第 七 四 回 年 次 大 会 に つ い て 報 告 を 行 う。 国 際 財 政 学 会( International Institute of Public Finance: IIPF ) は 一 九 三 七 年 に パ リ に お いて設立された財政学・公共経済学に関する国際 学 会 で あ る。 国 際 財 政 学 会 の ホ ー ム ペ ー ジ に よ る と、現在五〇を超える国々に約七五〇名の会員を 有 し て い る。 年 次 大 会( Annual Congress ) は 毎 年八月に開催され、講演(プレナリー)や個別研 究 報 告 が 行 わ れ る ほ か に、 デ ィ ナ ー な ど の ソ ー シャル・プログラムも用意されている。今大会の 会場は、タンペレ大学(写真 1)で国際財政学会 の資料によると参加者は、四二九名であった。   本稿の構成は以下のとおりである。続く二節で は、年次大会の概要を説明する。そして、三節で は筆者が興味深く感じた個別研究報告の内容を紹 介する。後述するように個別研究報告の内容は多 岐にわたっているが、筆者の関心は企業課税を含

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む広い意味での証券税制にあるので、紹介する内 容がそうした税制に関する研究に偏ってしまうこ とを予めお断りしておきたい。最後の四節では、 来年の八月二一日から二三日にかけてスコットラ ンドのグラスゴーで開催される第七五回年次大会 について簡単に触れたい。

二、第七四回年次大会の概要

  年次大会のプログラムの概要は図表1のとおり である。前述のように今大会は八月二一日から二 三日の三日間に渡って開催された。以下ではプレ ナ リ ー( 講 演 )、 個 別 研 究 報 告、 ソ ー シ ャ ル・ プ ログラムに分けて説明していく。 ⑴   プレナリー( Plenary )   図表1からもわかるとおり、今大会では二一日 写真1 会場のタンペレ大学 筆者撮影

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図表1 プログラムの概要

〔出所〕 国際財政学会資料より作成

August 21

Tuesday WednesdayAugust 22 August 23Thursday

8:00 8:00-17:30

Registration / Info Desk Registration / Info Desk8:00-16:00 Registration / Info Desk8:00-16:30

9:00 Opening Ceremony

Plenary III Working Group Sessions E

(1.5 hours) 9:30 Plenary I 10:00 10:30 Working Group Sessions C (2 hours) 11:00 Working Group Sessions A (2 hours)

Working Group Sessions F (1.5 hours) 11:30 12:00 12:30 Lunch Lunch 13:00 Lunch 13:30 Working Group Sessions D (2 hours)

Working Group Sessions G (2 hours) 14:00 Working Group Sessions B (2 hours) 14:30 15:00 15:30 16:00 Excursion Plenary IV 16:30 Plenary II 17:00 Closing Ceremony 17:30 General Assembly of Members 18:00 18:30 19:00 Welcome Reception

(Tampere Old City Hall) (Restaurant Paja at Solo Conference Dinner Sokos Hotel Torni) 19:30

20:00 20:30

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に二つ、二二日に一つ、二三日に一つ、合計四つ のプレナリーが設けられた。図表2はプレナリー の講演者とその論題を示したものである。プレナ リ ー で は 共 通 の テ ー マ が 設 け ら れ る。 今 大 会 の テ ー マ は、 The Impact of Public Policies on La -bor Markets and Income Distribution で、 公 共 政 策 が 労 働 市 場 や 所 得 分 配 に 与 え る 影 響 に つ い て、著名な経済学者による興味深い講演が行われ た。また、各プレナリーとも最後に質疑応答の時 間が設けられており、講演者と出席者の間で活発 な議論が交わされた(写真2) 。 ⑵   個別研究報告 (

Working Group Sessions

)   図 表 1 に Working Group Sessions と い う 記 載 があるが、これは個別研究報告が行われることを 示している。ここからわかるとおり、個別研究報 告は大会期間中すべての日に行われた。写真3は 図表2 プレナリーの講演者と論題 講演者 論題 Plenary Ⅰ Uta Schönberg

(Professor, University College Lon-don, UK)

The Impact of Immigration on Re-gions and Workers

Plenary Ⅱ Henrik Kleven

(Professor, Princeton University, US)

Taxation and the Extensive Margin Reconsidered

Plenary Ⅲ Petra Todd

(Alfred L. Cass Term Professor of Economics, University of Pennsylva-nia, US)

Incorporating Personality Traits into Economic Models of Labor Sup-ply, Education, and Occupational Choice

Plenary Ⅳ Gordon B. Dahl

(Professor, University of California, San Diego, US)

Intergenerational Spillovers in Dis-ability Insurance

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その様子である。図表3では一例として、二一日 の 午 前 一 一 時 か ら 午 後 一 時 に か け て 行 わ れ た Working Group Sessions A に お け る 各 セ ッ シ ョ ンのタイトルを列挙し、あわせて個別研究報告の 本数も掲載している。各セッションにはタイトル が付けられており、そのタイトルに関連する数本 の個別研究報告が行われるのである。よって図表 3 は、 Working Group Sessions A で は 一 五 会 場 で合計五九本の個別研究報告が行われたことを示 している。   図 表 4 は、 図 表 3 に あ る Tax Competition Ⅰ と い う タ イ ト ル の セ ッ シ ョ ン で 個 別 研 究 報 告 を 行った研究者とその論題を示している。すべての セ ッ シ ョ ン の タ イ ト ル お よ び 個 別 研 究 報 告 の 論 題、 さ ら に 報 告 論 文 は 年 次 大 会 の ホ ー ム ペ ー ジ か ら見ることができる。ホームページをもとに筆者 が調べた限りでは、企画セッションも含めてセッ 写真2 プレナリーの様子 筆者撮影

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図表3 セッションの一例(Working Group Sessions A)

セッションのタイトル 個別研究報告の本数

A01 Firm Taxation 4

A02 Income and Wealth Inequality 4

A03 Taxation of Multinationals 4

A04 Climate Policy 4

A05 Voting, Policy and Electoral Rules 4 A06 Labor Supply and Tax-Benefit Policy 4

A07 Tax Competition Ⅰ 4

A08 Tax Avoidance and Evasion Ⅰ 3

A09 Immigration 4

A10 Income and Profit Shifting 4

A11 Altruism and Social Norms 4

A12 Health 4

A13 Theoretical Political Economics 4 A14 Fiscal Policy and Fiscal Outcomes 4

A15 Evaluation of Policy Reforms 4

〔出所〕 国際財政学会資料より作成

写真3 個別研究報告の様子

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ションの総数は一〇一、個別研究報告の本数は三 六三であった。前回のセッションの総数は九四、 個別研究報告の本数は三四四であったので昨年よ り増加している。だが筆者の個人的な印象として は、参加者は昨年より若干少ないように感じた。 しかし、税制、公債、社会保障、地方財政、財政 政策など、財政学・公共経済学の中心的な分野に ついて数多くの報告がなされ、活発かつ建設的な 議論が行われた。またセッションの内容について は、 最適課税に関するセッションが五つ ( Optimal Taxation Ⅰ, , Ⅲ , Optimal Tax Policy, Optimal Income Taxation )、 国 際 課 税 に 関 す る セ ッ シ ョ ン が 四 つ( International Taxation Ⅰ, , Ⅲ , In -ternational Tax Evasion )あり、最適課税、国際 課税に関する研究報告が多かった。   筆者は、 Tax Competition Ⅰ , International Tax -ation Ⅰ , Property Taxation, Corporate Taxation 図表4 個別研究報告の一例

セッションのタイトル:A07 Tax Competition Ⅰ

報告者 個別研究報告の論題

Gaetan Nicodeme Antonella Caiumi Ina Majewski

European Commission, Belgium

What Happened to CIT collection? Solving the Rates-Revenues Puzzle

Daiki Kishishita Satoshi Kasamatsu

The University of Tokyo, Japan

When Populism Meets Globalization: Analy-sis of Tax Competition

Celine Azemar1

Rodolphe Desbordes2

1University of Glasgow, United Kingdom 2SKEMA

The Race for FDI: Corporate Tax Rates and Competitor’s Attractiveness

Seppo Kari1

Jussi Laitila2

Olli Ropponen1

1VATT Institute for Economic Research, Finland 2Ministry of Finance, Finland

Investment Incentives and Tax Competition under Allowance for Growth and Invest-ment (AGI)

(注) 下線は当日の報告者を示している。 〔出所〕 国際財政学会資料より作成

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んだ。

三、個別研究報告の紹介

  ここでは筆者が聞いた個別研究報告の中から、 International Taxation Ⅰ と い う セ ッ シ ョ ン と Tax Competition I と い う セ ッ シ ョ ン で 行 わ れ た ACEに関連する研究を紹介する ⅲ 。   多くの国で導入されている法人税とACEの違 いを簡単に説明すると以下のようになる。通常の 法人税は負債利子を課税ベースから控除するが、 株式の機会費用は控除しないので、企業の資金調 達行動に対して非中立的であるといわれている。 つまり税制上、負債を優遇していることになる。 それに対して

Institute for Fiscal Studies

( 1991 ) において提案されたACEは、税制上の自己資本 である株主基金にみなし利子率を乗じたものを株 といった企業の国際的な行動に対する税制に関す る セ ッ シ ョ ン や 資 産 に 対 す る 課 税 に 関 す る セ ッ ションを中心に個別研究報告を聞いた。次の三節 では筆者が聞いた個別研究報告の中から、イタリ ア な ど で 導 入 さ れ て い る A C E( Allowance for Corporate Equity ) と い う 企 業 に 対 す る 税 制 に 関 連する研究について紹介する。 ⑶   ソ ー シ ャ ル ・ プ ロ グ ラ ム ( Social Program )   年次大会の中心はもちろんプレナリーや個別研 究 報 告 で あ る が、 大 会 期 間 中 は 様 々 な ソ ー シ ャ ル・プログラムが用意されており、参加者が親交 を深める貴重な機会となっている。二一日の夜に は ウ ェ ル カ ム・ レ セ プ シ ョ ン、 二 三 日 の 夜 に は ディナーが開催された。また、二二日の夕方から はエクスカーションになっており、参加者はピュ ハ 湖( Lake Pyhäjärvi ) を 遊 覧 す る な ど し て 楽 し

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式 の 機 会 費 用 と し て 課 税 ベ ー ス か ら 控 除 す る の で、資金調達行動に対して中立的である。また、 通常の法人税は理論的には企業の投資決定に歪み を与えるといわれているのに対して、ACEは企 業の投資決定に対して中立的であるといわれてい る。ACEは単なる提案にとどまらず、ヨーロッ パ を 中 心 に い く つ か の 国 で 実 際 に 導 入 さ れ て い る。また、IMFが発表した声明(二〇一四年対 日四条協議終了にあたってのIMF代表団声明) では、わが国においてACE導入について検討す ることが提案されている。 ⑴   ヨーロッパ諸国のACE   ベ ル ギ ー の ル ー ヴ ァ ン・ カ ト リ ッ ク 大 学( Uni -versité Catholique de Louvain ) の Jan Kock 氏 と Marcel Gérard 氏は、 The Allowance for Cor -porate Equity in Europe: Latvia, Italy and Portugal 、 と い う タ イ ト ル で、 A C E が 企 業 の レ バ レ ッ ジ に 与 え る 影 響 に つ い て 個 別 研 究 報 告 を 行った ⅳ 。分析対象国はイタリア、ラトビア、ポル トガルの三か国である。   ACEはイタリア、ラトビア、ポルトガル以外 の国でも導入されたことがあり、国によっても制 度の内容が異なる。そこで報告では、最初に分析 対象国以外のACEの概要について若干の説明が 行 わ れ た。 A C E は 大 き く hard ACE と soft ACE に 分 け る こ と が で き る。 hard ACE と は Institute for Fiscal Studies の 提 案 に 忠 実 に 税 制 上の自己資本の一定割合を法人税の課税ベースか ら控除するタイプのACEである。それに対して soft ACE と は、 自 己 資 本 の 一 定 割 合 で は な く 新 規株式の一定割合を計算に用いたり、株式の機会 費用に対して軽減税率を適用したりするタイプの A C E を 指 す。 説 明 で は、 hard ACE の 導 入 国 ⅴ と

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してクロアチア、ベルギー、リヒテンシュタイン が あ る こ と、 soft ACE の 導 入 国 と し て、 オ ー ス トリア、ブラジル、トルコ、キプロスなどがある ことが指摘された。また、最初にACEを導入し たのはクロアチア(導入年は一九九四年)である こと、ベルギーのACEについてはレバレッジを 減少させる効果があるとする実証研究がいくつか 蓄積されていること、リヒテンシュタインでは二 〇一一年にACEが導入されたが実証研究は行わ れ て い な い こ と、 な ど も 指 摘 さ れ た。 さ ら に 近 年、 欧 州 委 員 会 か ら A G I( Allowance for Growth and Investment ) と い う soft ACE に 分 類される仕組みを含んだ税制が新たに提案されて いることが紹介された ⅵ 。   次いで報告では、分析対象国(ラトビア、イタ リア、ポルトガル)のACEの概要について説明 が行われた。説明によると、ラトビアでは二〇〇 八年末に導入が決まり、二〇〇九年一月一日から 施行された(実際に控除されるのは二〇一〇年課 税 年 度 か ら )。 そ の 仕 組 み は、 前 期 の 留 保 所 得 ( た だ し 二 〇 〇 八 年 一 二 月 三 一 日 以 後 に 蓄 積 さ れ たもの)にみなし利子率を乗じた額を法人税の課 税 ベ ー ス か ら 控 除 す る と い う も の な の で、 soft ACE に 分 類 さ れ る。 な お、 ラ ト ビ ア の A C E は 二〇一四年に廃止されている。また、イタリアで は二回ほどACEが導入されている。一度目は、 一九九七年から二〇〇三年にかけて実施され、そ の概要は新規株式にみなし利子率を乗じた額に軽 減税率が課されるというものである。二度目は二 〇一一年に導入され、現在も続いている。こちら は新規株式にみなし利子率を乗じた額を法人税の 課 税 ベ ー ス か ら 控 除 す る。 し た が っ て ど ち ら も soft ACE に分類される。ポルトガルについては、 二〇一〇年にベンチャーキャピタルなどの特定の

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中小企業を対象にACEが導入されたが、二〇一 三年以後その制限が緩和されより多くの中小企業 が対象となり、さらに二〇一七年からは中小企業 に限定されていない。   続 い て 実 証 分 析 の 内 容 に つ い て 報 告 が 行 わ れ た。 分析手法は difference-in-differences と呼ばれ るものである。この分析では、トリートメントグ ル ー プ と 呼 ば れ る 分 析 対 象 国 と コ ン ト ロ ー ル グ ループと呼ばれる比較対象国を設定する必要があ る。分析対象国はもちろんラトビア、イタリア、 ポルトガルである。そしてコントロールグループ として、ラトビアに対してはエストニアとリトア ニア、イタリアに対してはフランス、ポルトガル に対してはスペインを設定している。分析対象期 間はラトビアが二〇〇九年から二〇一四年、イタ リアが二〇一一年から二〇一五年、ポルトガルが 二〇一〇年から二〇一四年である。実証分析に用 いられているデータはビューロ・ヴァン・ダイク 社のAMADEUSというヨーロッパの企業の財 務データに関するデータベースである。分析は、 book leverage と financial leverage という二種類 のレバレッジを定義して被説明変数に用いたり、 説明変数に限界実効税率を考慮した変数を用いた り、企業の規模別に分析を行ったりと多岐に渡っ ているが、主な結果は以下のとおりである。①全 企業を対象とした分析では、ラトビアについては ACE導入が想定とは逆にレバレッジを引き上げ る効果がみられたが、イタリアとポルトガルにつ いては一%から二%程度レバレッジを引き下げる 効果がみられた。②イタリアについて企業の規模 別に分析を行うと、大企業の方が中小企業よりも レバレッジの引き下げ効果が大きい。   コントロールグループの設定が適切であるか、 ACE以外の政策の影響が適切にコントロールさ

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れ て い る か と い っ た 点 な ど に 若 干 の 疑 問 が 残 る が、ラトビアやポルトガルに関する実証研究は筆 者の知る限り行われておらず、先駆的な研究とい うことができる。また、報告論文では既存のAC Eに関する先行研究が丁寧に紹介されており、筆 者にとって興味深く、大変参考になる報告であっ た。 ⑵   AGIとACEの比較   フィンランドの VATT Institute for Economic Research の Seppo Kari 氏 、 Olli Ropponen 氏 、 フ ィ ン ラ ン ド 財 務 省 の Jussi Laitila 氏 は、 Invest -ment Incentives and Tax Competition under Allowance for Growth and Investment ( AGI )、 というタイトルで、AGIの効果に関する理論研 究について個別研究報告を行った ⅶ 。より具体的に は、AGIが企業の投資インセンティブや国家間 の租税競争に与える影響について理論的に明らか に し、 さ ら に Institute for Fiscal Studies に よ っ て提案されたACEとの比較を行っている。   AGIとは欧州委員会 ( European Commission (二〇一六) )から提案された税制である。EUで は、法人税制が加盟国ごとに異なることが要因と なって企業の投資などに弊害を起こしていること が大きな問題となっていた。そこで欧州委員会は 二〇一一年にEU加盟国の法人課税ルールの共通 化を目指して CCCTB ( Common Consolidated Corporate Tax Base ) と い う 制 度 を 提 案 し た。 しかし、イギリスやアイスランドの反発などもあ り、この提案は事実上たなざらしにされていた。 それが最近になって再検討され、新たに提案され たCCCTBの中にAGIが含まれているのであ る。 A G I は 税 制 上 の 自 己 資 本( AGI equity base )の増加分にみなし利子率を乗じた額を課税

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ベースから控除するものである。 European Com -mission ( 二 〇 一 六 ) お よ び E Y 税 理 士 法 人( 二 〇一七)によれば、税制上の自己資本の増加分と は、最初の一〇年間については、当該課税年度の 期末時点の税制上の自己資本と適用初年度の期首 時点の税制上の自己資本の差額である。そして一 〇年目以後は、基準年度が一年ずつ前に動いてい く。また、みなし利子率は、当該課税年度の前年 の 一 二 月 に 欧 州 中 央 銀 行 が 公 表 す る 一 〇 年 物 の ユーロ圏の政府ベンチマーク債の利率にリスクプ レミアムの二%ポイントを加算した率である。な お、みなし利子率の下限値は二%である。   こ の 研 究 で は、 A G I と A C E を dynamic investment model に 組 み 込 ん で 緻 密 な 分 析 を 行っている。分析の主な結果は以下のとおりであ る。 ①   AGIは企業の投資を促進する効果を持つ。 ②   CCCTBは低税率国への投資を促進する効 果を持つが、AGIはその効果を弱める方向に 作用する。 ③   AGIを含むCCCTBは租税競争を抑制す る効果を持つ。 ④   AGIは投資の促進、租税競争の抑制、企業 行動に対する中立性の観点からはACEに劣る が、一方でACEには税収不足という課題があ る。 A G I が soft ACE に 分 類 さ れ る こ と か ら、 分 析 結果の大半は妥当なものと思われる。筆者として は、実際にEUでAGIを含むCCCTBが実施 されれば世界的に大きな影響をもたらすと考えら れるので、学術的な研究の動向はもちろんのこと 実際の導入に向けた動きについても注視していく 必要があると感じた。

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四、第七五回年次大会について

  次回の第七五回年次大会は、二〇一九年八月二 一日から二三日にかけてスコットランドのグラス ゴ ー で 開 催 さ れ る。 会 場 は グ ラ ス ゴ ー 大 学 ア ダ ム・ ス ミ ス ビ ジ ネ ス ス ク ー ル( University of

Glasgow, Adam Smith Business School

)で、 テー マ は Taxation and Mobility で あ る。 現 時 点 で、 プ レ ナ リ ー の 講 演 者 と し て、 ハ ー バ ー ド 大 学 ( Harvard University ) の Stefanie Stantcheva 氏、 Nathaniel Hendren 氏、 マ ン チ ェ ス タ ー 大 学 ( University of Manchester ) およびIFS ( Insti -tute For Fiscal Studies )の Rachel Griffith 氏 ら の名前が挙がっている。   国際財政学会の年次大会では財政学・公共経済 学に関する非常に幅広い分野について個別研究報 告が行われているので、資本市場に関わりのある 個別研究報告も少なくない。次回も資本市場に関 連する分野についての最新の研究成果が報告され るものと思われる。 注 ⅰ   http://www.iipf.net/index.htm ⅱ   https://www.conftool.pro/iipf2018/sessions.php ⅲ   当日の報告だけでなく、 報告論文にも基づいて紹介する。 ⅳ   当日の報告者は Marcel Gérard 氏であった。 ⅴ   既 に A C E を 廃 止 し た 国 も あ る の で、 こ こ で の「 導 入 国」とは導入したことがある国という意味である。 ⅵ   AGIの詳細については、三節⑵で説明する。 ⅶ   当日の報告者は Olli Ropponen 氏であった。 参考文献 European Commission ( 2016 ) “Proposal for a COUNCIL DIRECTIVE on a Common Corporate Tax Base, ” COM ( 2016 ) 685 final, Strasbourg, 25.10.2016 Institute for Fiscal Studies ( 1991 ) Equity for Companies: A

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Corporation Tax for the 1990s, A Report of the IFS

Capital Taxes Group Chaired by Malcolm Gammie.

EY税理士法人(二〇一七) 「国際租税制度に係る多国籍企業 対 応・ 影 響 等 調 査 平 成 二 八 年 度 内 外 一 体 の 経 済 成 長 戦 略 構 築 に 係 る 国 際 経 済 調 査 事 業 対 内 直 接 投 資 促 進 体 制 整 備 等 調 査 調査報告書」 (やまだ   ただお・当研究所主任研究員)

参照

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