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学際的な視野と体系的な学問をベースとした「超実践的」映像制作教育の構築

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Academic year: 2021

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1 .はじめに 現在映像制作を取り巻く環境は,大きなパ ラダイムシフトを迎えている。かつてプロ フェッショナルな集団が制作することが主流 であった映像が,今や個人が持つスマート フォン上で撮影から編集までを可能とする。 さらにそれを全世界に向けて発信する手段ま でも人々は同時に手に入れた。インターネッ ト上には膨大な量の映像がアップロードさ れ,テレビでは視聴者映像が多用されるよう になった。映像の制作側,視聴側の構造自体 が,大きく変わった1 ) その流れに沿うように,大学における学生 の映像制作に対する興味関心は年々高まって おり,筆者も10年あまりに渡ってその教育を おこなってきた。数多くの失敗を経験する中 で,一つの問いにたどり着くことになる。そ れは,いわゆる質の高い映像を作ることを目 的とした教育には何が必要なのか,本研究の 根本的な問いはそこにある。自然発生的に質 の高い映像制作者が現れるのを待つのではな く,個人レベルでの多様な制作スタイルを 人々が手に入れることができるようになった 今,映像制作に関する大学レベルの教育が不 可欠であると考える。そして,結果として映 像の質を上げるために,企画,取材や撮影, 機材選択,制作技術やテクニックに加え,制 作に関係する個人の意識形成やチームワー ク,コミュニケーション,モラルに至るまで, 多くの関係要素をどのように教育として取り 込むべきかについての積極的な議論が必要で あると教育現場に身を置く立場として痛感す る。そして議論のベースとしてのポイントは, より多くの学生に対応した教育が必要である という点である。今後誰もが簡単にできる制 作や発信の加速が予想されることに目を向け たとき2 ),一般教養的な位置づけをもつ映像 制作教育の検討は大きな意味を持つのではな いかと考える。将来映像クリエイターなどそ の業界のプロを目指す人を多く育てるために も,広がりつつある裾野の質を今から高めて おく必要がある。 また,2020年 1 月中旬頃から始まった新型 コロナウイルス(COVID-19)感染症の影響 で,テレビやエンターテイメント業界は軒並 み撮影ができない状況が続き,かつて経験を したことがないような苦境にあり,本稿執筆 中にもその状況は刻々と変化している。一方 で,YouTubeをはじめとした動画配信サイト には,日々個人制作の映像コンテンツがアッ

「超実践的」映像制作教育の構築

Construction of “Super Practical” Video Production Education

Based on Interdisciplinary Fields and Systematic Learning

後 藤 昌 人

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プロードされ,自宅で自粛生活を送る人々の 娯楽や情報源になっている。また大学をはじ めとした教育機関においては,オンライン授 業へのシフトが進み,「映像」というキーワー ドに多くの現場教員や関係者が対応を迫られ る事態になった。今後はあらゆる社会の状況 変化に対して,「映像」が人々を繋ぐメディ アとしての役割を果たしていくことが加速度 的に進むのは明確である。そのためには,作 り手としての責任の持ち方も含め,先を見越 した特定の分野に偏らない学際的な視点によ る映像制作教育がこれまで以上に価値を持つ ようになると考えられる。 そこで,本稿では大学での「超実践的」映 像制作教育の構築に向けて,関連事例やその 意義を整理した上で,学生の映像制作プロセ スにおける工夫や体験を元にした成長に主眼 を置き,実践例を通じて考察することを目的 とする。その際に,多岐にわたる学問分野や 視点のどの要素が重要なのかを明らかにす る。具体的には,ゼミでの映像制作活動や, 過去 9 年間に渡っておこなってきたロサンゼ ルスでショートフィルム制作をおこなう海外 研修プログラムの学習成果を事例とする。 2 .関連研究や事例  1990年代前半にそれまでの映像教育の再考 が試みられた。松本は,1993年に発刊した『映 像教育の現在課題に関する試論』の中で映像 教育の理念と意義について触れ,「ビデオや パソコンやインタラクティブなメディアの普 及によって,誰もが情報を自分で処理したり, 表現したり,発信したりするようになって, 送り手と受け手の二元的構造が崩れてゆくこ とである。そのことが情報リテラシーの水準 を高め,映像コミュニケーションの文化的欲 望をふくらませてゆく位相にこそ,新しい映 像教育の基底的な課題が立ちあがってくるは ずである。」と述べ,技術基盤の変化ととも に進む表現や伝達形式の多様化に対応した映 像教育を示唆していた3 ) また同時期に黎明期にあったメディア・リ テラシーの観点から映像制作やその教育につ いて論ずる研究もある。一戸は,授業での地 域の映像制作の実践を報告の中で,映像制作 がメディア・リテラシーの向上に役立つもの と期待できると述べている4 )。南出は,自身 の専門である人類学と映像制作の類似点を挙 げた上で,「映像制作は人類学実践そのもの であり,教育の現場においては,制作のプロ セスを通じて,他者との関係構築やコミュニ ケーションを意識し,可視化を促す。」と述 べている5 )。さらに岡田はメディア・リテラ シーの実践としてのワークショップを通じた 研 究 に お い て, 今 後Screen Educationか ら Display Educationとしての映像教育の展開と 課題に触れた6 )。このように近年は授業で実 践した報告も増えてきたが,日本の大学にお ける映像制作教育は時代の流れに取り残され ているのが現状であろう。 かつて松本は日本の映像教育がわずかな芸 術系の大学が中心になっている点についても 論じた上で,多くの大学における映像教育の 根本的な改革を求めていた3 )。それから30年 弱が経過したが,2018年に筆者がおこなった 調査では,日本全国に約760校の大学がある 中で,映画,アニメーションの勉強ができる とされている大学は39校あることが分かっ た。また,大学院は10校,専門学校やスクー ルは35校であった。39校の大学を対象に,大 学名から映像系だとわかる大学が 2 校(日本 映画大学,デジタルハリウッド大学),学部, 学科,コース名等が映像と関係している大学 は,22校,学部学科,コース名に等に「情報, メディア,デザイン」を含む大学は,それぞ れ「情報→ 8 校」,「メディア→11校」,「デザ

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イン→10校」であった。この調査からも,日 本の大学において映像分野の教育をおこなっ ていると一目でわかる大学は非常に少なく, 情報やメディア,デザインなどの分野と関連 して映像に関する教育を行なっている大学が 多くを占めるのが現状である。 一方で専門学校では技術面を主とした職能 教育的な側面が強い映像制作教育を展開して いる。また映像制作体験や教育を,学校とい う括りではない形式でインターネットを中心 として受講生を募っているケースも増えてき た7)8)9)。特にYouTube用の映像制作に関す る講座は非常に人気があり,現在の需要をま さに反映している。これらは有料講座が多く, 生涯学習的な要素も含めて多くの受講者を集 めている。講座内容は,監督,カメラ,音声, 照明などの技能面の習得を中心としたものが 多くみられる。 3 .ゼミにおける映像制作の実践 大学における映像制作教育の社会に対する 貢献の仕方は様々であるが,映像やメディア による地域貢献も大学が果たすべき重要な役 割である10)。これまで筆者のゼミにおいて企 業や行政と協業し,数多くのプロジェクトを 実施してきたが,本研究では実際の制作過程 とヒアリングやアンケートによる事例調査を 元に,映像制作教育の結果や効果について考 察を試みる。本章と第 4 章では,映像の再生 回数などの数値的側面から測ることが難しい 学生の意識の変化やその効果について,ゼミ のグループケース,ゼミの個人ケース,海外 研修における映像制作を事例にあげ,考察お よび検証をおこなう。 3 - 1 グループ制作型の事例 本事例は,筆者のゼミがグループで取り組 んできた地域をPRするための映像制作(PR テーマは各地域によって異なる)の実践であ る。三重県菰野町における地域PRの映像コ ンテストへの応募をきっかけに学生が自主的 に菰野町の関係者とコミュニケーションを取 るようになり,学生自らある職人の映像制作 を提案し,その熱意が伝わり,撮影許可,ま た制作した作品を会社の出店するイベントな どでのPR映像として活用が決まったケース である。 (きっかけ) ・ 2016年,2017年の 2 年間に渡り,ゼミの学 生が,映像コンテストに参加し, 2 年連続 で最高賞を獲得 ・2018年も応募を決意(対象事例学年) (出品作品の企画・準備・撮影・編集) ・ テーマに沿ってオリジナリティを加味した 作品の企画に精力する ・ 撮影を通じて町の関係者とコミュニケー ションを頻繁に取るようになる ・徐々に菰野町自体に関心を持つ学生が増加 ・ 撮影で知り合った組子職人の作品と活動に 強く興味を持つ ・コンテストにおいて優秀賞を獲得する (コンテスト終了以降) ・複数の学生が自ら菰野町のイベントに参加 ・ 組子職人や役場関係者と電話やメールで撮 影やイベント情報などのやり取りを継続 ・ 授業の合間で,撮影機材の使い方習得や撮 影練習を重ね,不明な点を教員に聞き,徹 底した準備をおこなう ・ 県外であるにも関わらず,何度も打ち合わ せや撮影に学生だけで通う ・ コンテスト終了後約 1 年かけて 3 本の映像 を完成 ・ 活動の経緯と考察を学会研究会で発表11) 3 - 2 個人制作型の事例 前章でも述べたとおり,個人での映像制作

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環境の充実に伴い,学生個人が映像を制作し てSNSなどを通じて配信する例が近年増え てきた。本ケースは,インフルエンサーに興 味があったゼミの学生が,ゼミ活動の一環と して始めた個人での映像制作を経て,結果的 にTikTok12)で37万 人 を 超 え る フ ォ ロ ワ ー (2020年 5 月時点)を獲得したものである。 以下本人へのヒアリングを元にその経緯を整 理した。対象学生は,前節で取り上げた菰野 町の映像コンテストに2017年にグループで制 作に参加している。 (きっかけ) ・ あるTikTokを使った行政系のイベントに スタッフとして参加し,TikTokの撮影を演 者として経験したこと (始めた頃) ・自身が得意なことを中心にアップロード ・ 当初は「いいね」の反応を特に意識しな かった ・ アップロードした映像がそれまでにない ジャンルであったためか,レコメンドに載 ることで一気に反応が増える (フォロワーが約10万人に達するまで) ・ ユーザー層や時間,流行りの音楽やファッ ション,トレンドを意識して 1 日 3 本を アップロード(朝:通勤通学の隙間時間で 楽しめるもの,昼∼夕方:帰宅した小学生 ∼高校生が楽しめるもの,夜:寝る前に大 人の人でも楽しめるもの,時差を考えて海 外の人が好きそうなもの) ・別の人のYouTubeチャンネルに出る機会 ・ TikTokの会社を通じて,紅白歌合戦の歌手 の背景映像に登場 ・大学を卒業,映像制作会社に入社 (フォロワー約23万人前後の頃) ・ 社会人のTikTokerとして歌,ダンス,ファッ ションを幅広く意識するようになる ・ 自身の生活の一部(例:街中でのファン対 応など)をアップロードする人が出現 ・ それまで正確な口パクを売りの一つにして いたが,要望に合わせディズニーの歌など を歌った動画をアップロードするようにな る ・まとめサイトに載る(掲載者は不明) ・宣伝案件のオファーがくるようになる (フォロワー 30万人超えてから) ・毎日 1 本の動画はアップロードしている ・ TikTokの活動は会社も公認だが,仕事との 両立が課題 3 - 3 考察 グループによる活動のケースにおいて,指 導教員の立場で最も大切にしていたことは, 学生が対象の町(菰野町)を好きになること であった。そして一連の制作を通じて最も学 生が変化したと捉えたことは,各自の「責任 感」である。グループでの制作では各自が役 割を分担して進めることが多く,制作に関わ ると大概の学生は,各自の「作業」に集中し ようとする。例えば,撮影に必要な宿泊施設 への連絡,事務的な書類の提出,カメラ担当 は綺麗な映像の撮影,音声担当はクリアーな 音の収録などである。しかし,課題やトラブ ルにぶつかるにつれ,その何倍もの時間や労 力が,制作に直結する「対人(ひと)」との 準備やコミュニケーション,説得や交渉対応 などに必要であると自覚した時,相手側の立 場に立った視点が生まれ始める。これが町や 関係者についてさらに知りたいという欲求へ と繋がり,都度生まれる小さな目的が,地域 をより良くPRすることの意識へと繋がった。 そして,制作を通じて関わった多くの関係者 からの励ましや期待を背景に,責任感が徐々 に醸成されたと考えられる。これは一仮説に 過ぎないが,この責任感とある種のバランス を取っていたのが,「よそもの視点」ではな

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かろうか。つまり,今回全く日常的に関わり のない町のPRであったため,「外」からの視 点が取材対象への偏った先入観を排除し,俯 瞰する視点が生まれたことで,責任感を持ち ながらも純粋に楽しんだり,知ろうとしたり, 丁寧にコミュニケーションをとるようになっ た。「よそもの」であるが故に構築可能な人々 との関係性が,学生に良いバランスをもたら したのではと考察をする。また,結果として 映像コンテストの制作に取り組んだ11名のう ち 4 名が,組子職人の新たな映像制作をした いという自発的な意欲に繋がった。これは想 定外の展開であったが,学生自らが最後まで 能動的に制作に取り組み,先方からも映像自 体に対しても良い評価をいただけた。当事者 としての責任感と,俯瞰する視点を持って制 作に取り組めたことのバランスが,良い映像 制作の成果に大きく関係する要因となった。 また 3 - 2 で整理した個人制作型の事例も, 違う年の菰野町における映像コンテストを経 験した後の事例である。このケースの特徴は, TikTokのフォロワーの増加とともに,フォロ ワーが求めていそうな内容を分析し,それに 対応して撮影や編集の工夫を加え,それを継 続したことにある。つまり,本人は単に動画 配信ツールとして漠然と捉えるのではなく, そのツールごとに持つ特徴を知り,いわゆる 「いいね」や,フォロワー数,閲覧数の実数 の意味を探る工夫をした13)。このようにその 時に与えられた数値から新たな戦略を考える 力を養うことも,ボーダーレスな閲覧のされ 方をするメディアにおいては,映像制作にお ける重要な教育的要素になることを示唆して いる。また,たとえ個人の活動とは言え,37 万人を超える膨大な数のフォロワーの「目」 は,時として厳しい面を発信者へ突きつける。 社会の目を感情的にではなく,科学的にとら え対応をする力も併せて今後の映像制作教育 に組み込む必要がある。その重要性は,本人 へのヒアリングでも明らかになった。また, 大学の映像制作系の授業やゼミなどで学び実 践したことが,現在の仕事や制作面で役に立 つことが多いと言う。例えば,どのような撮 影が効果的か,またそれに必要な準備や,取 材のアポ取りなどは大学時代に勉強し,経験 しておいてよかったと話す。制作現場では常 に先を考えた行動が求められるため,新しい ことでも現場での対応や吸収が早く,かつ抵 抗なくこなせていると分析していた。本事例 は,学生から職業人へのシームレスな移行に もその教育の有効性を見出すことができた事 例であると同時に,今後の映像制作教育には, セルフブランディングやセルフプロデュース などと連携させた体系的な学習がより一層求 められることが明確になった事例でもある。 4 .海外研修プログラムにおける映像制作 体験 本研修プログラムは,金城学院大学,国際 情報学部の 1 年次の学生を主な対象とした必 修授業であるKIT(Kinjo International Training) での一環として,合計 6 カ国 7 カ所(2020年 2 月時点)で, 8 年間に渡り継続してきたも のである。現地の学校や関係者とのコラボ レーション,メディアや観光,ビジネス,文 化,歴史等に関連した実践的な学習を行うこ とを目的としている。それぞれの学生の興味 関心が高い内容について,現地の学生や関係 者との交流を通じ,より実践的に現場や各国 のリアルな文化に触れ,国際感覚を備えた情 報発信能力を養うプログラムである。以下本 事例の対象であるロサンゼルスにおける研修 プログラムの詳細を整理し,アンケート結果 に基づいた考察をする。

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4 - 1 研修プログラムの詳細

本プログラムは, 9 年間(改組前の学部で 実施した 1 回を含む)に渡り実施してきた。

2 名の教員が毎年引率をおこなうが,本稿の 筆者はこの全ての引率をおこなってきた。 New York Film Academy(以下NYFA)で映画 制作に関する授業を受け,ショートフィルム の撮影,編集,最終上映を全10日間(休日を 含む)で実施する(表 1 )。 NYFAの教育の特徴は,映画制作の第一線 で活躍してきた,あるいはしている経験豊富 な講師陣による徹底した理論およびハンズオ ン形式の授業と,ユニバーサルスタジオハリ ウッドのバックロットでの実践撮影(ロサン ゼルス校のみ)である14)。また,職業人とし て活躍するための要素が授業やカリキュラム に反映され,世界的に社会人の入学も非常に 多いカレッジである15)。さらに定期的にハリ ウッドを中心に活躍する著名なプロデュー サー,監督,俳優などをゲストスピーカーと して招聘している16) 学生は研修で渡米する前から授業を通じて 準備を進める。 1 年生の前期は同一カリキュ ラムでの英語教育,後期はコースごとに事前 授業が設定されており,ロサンゼルスコース はNYFAで撮影するショートフィルムの脚本 を準備し,その脚本をベースに現地での授業 を展開する。以上のプロセスの詳細と現地で の授業について下記に整理する。 (日本での事前授業と準備) ・コースに参加する全学生が脚本を書く ・ 全員の脚本を読み合い,学生同士で 4 本の 脚本をセレクションで選ぶ ・選ばれた脚本を書いた学生が監督を努める ・ その他の学生はアクター,カメラ監督,助 監督,音声,照明兼記録の役割に別れ,学 生同士で 4 つのチームを形成する ・ グループ内で脚本を撮影環境や制約を加味 しブラッシュアップをおこなう ・ 同時並行で機材についての学習,撮影練習, 小道具や衣装の作成や準備をおこなう (現地での授業:表 1 参照) ・ Directing 1 / 2 は主に映画制作全般のルー ルや制作に関する知識,方法論などを学ぶ ・ Screenwritingは脚本の基礎を学び,各脚本 に対してアドバイスを受ける ・ Hands on Camera 1 / 2 / 3 は,カメラの操作,  レンズの扱い方,撮影を想定したカメラテ ストなどを実践形式で学ぶ 表 1  NYFA での授業スケジュール 注 実際の研修は,観光や移動も含み全行程16日間 である。全行程 2 名の専任教員で引率をする。

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・ Audio-Visual Languageは音声機材の基礎知 識と音声の収録方法について実践練習を交 えて学ぶ ・ Editingは編集の基本やAVIDの編集ソフト Media Composerでの編集方法を学ぶ ・ Production Workshopは二日間に渡り,ユニ バーサルスタジオハリウッドのバックロッ トで撮影をおこなう 4 - 2 アンケート結果  2017年から2020年の 4 年間に渡り,研修に 参加した全ての学生(計115人)に対し,毎 年同一のアンケート調査を帰国後 1 ヶ月以内 におこなってきた。表 2 は,年ごとの項目別 5 段階評価の平均値を表にまとめたものであ る。質問項目は,①∼⑥の「現地での研修に 関する質問」と⑦∼⑫の「帰国後の変化に関 する質問」に分かれている。以上の項目以外 にも,研修に対する各自の思いを自由記述形 式にて回答を得た。 4 - 3 考察 まず,表 2 の全体の結果を見ると,①∼⑥ における 4 年間全ての項目に関して 4 以上の 高評価をつけていることから,現地での研修 の満足度が高いことがうかがえる。特に NYFAでの研修に直結する④は各年平均4.8 以上であることから,比較的ハードな授業ス ケジュールにも関わらず,その内容に満足感 を得ている。②や③のように対人的な要素が 関係する結果も高評価であることから,撮影 チームとしてもしっかりと機能していたこと がうかがえる。堀らは,意思決定の話し合い では 5 人∼ 8 人が最適なサイズとしている17) 実際,毎年 6 人∼ 8 人がチームになって研修 をおこなっているが,この 1 チームあたりの 人数は,研修の規模や全体的なコースごとの 人数配分から逆算して決まってきた人数であ る。ディレクター,主演アクター,助演アク ター,カメラ監督,音声,記録,各種アシス タントの合計 7 人を標準として考えた場合, 過度に負担の大小がなく撮影を進めることが できる人数としてチームが効率よく機能する ことも明らかになってきた。結果的に最適な サイズで制作をおこなえていると言える。そ して,エイミー・C・エドモンドソンが述べ るチームワークという考え方や,その実践に よって主に生み出される「チーミング」とい 表 2  研修後におこなったアンケート結果( 4 年分)

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う概念を借りるならば,本事例におけるチー ムは,効果的なチーミングの 4 つの柱である, 「素直に意見を言う」,「協働する」,「試みる」, 「省察する」18),全てをバランスよく満たす 要件をNYFAの授業を含めた本研修全体のデ ザイン自体が有していると考えられる。 一方で⑦∼⑫の帰国後の意識に関する結果 からは,何か行動を起こそうとは思っている が,資格やサークル,留学など,映像制作と 直接的な関係が薄いものにつれて多少意欲が 下がる学生が増える傾向にある。しかし,授 業に対する意欲は高いことから,現地で得た 知識や経験がその後の勉強への意欲を引き上 げていることは示唆されている。⑪の評価が 全般的にやや低い傾向にあるが,数値的な結 果には現れない意識の高い学生の例をあげて おく。それは,帰国後に映像制作に関するサー クルを立ち上げたいという相談が,研修を始 めてからそれぞれ違う学年で合計 3 回あった ことである。いずれも教員が授業等で誘導す ることは一切しておらず,全て研修中または 後に学生の自発的な申し出によるものであ る。また,自由記述から明らかになったこと であるが,非常に充実した研修であったとし ながらも自身の力不足や統率力のなさを実感 したと冷静に自己分析し,率直に受け入れよ うとするコメントが各年一定の割合でみられ た。それらの回答をした学生を調べると監督 経験者に多いことがわかったため,監督を務 めた学生の結果のみを抽出した(表 3 )。 すると,研修における④と⑥の項目の評価 が他の学生よりも低い傾向にあることが分 かった。帰国後の変化を聞く項目も全体の平 均を下回るものが見られるため,コメントな どから総合的に判断すると,監督としての本 格的な作品を完成させた充実感を背景に持ち ながらも,失敗体験で学ぶ責任,自身の作品 や制作に対する細かな反省点により,他の人 よりも自身を厳しく分析する傾向が作られる と考える。しかし,それは決してマイナスの 結果ではなく,むしろ映像制作における厳し い面を自覚した結果と言える。 次に本研修では,各コースの人数を絞った 上で, 2 回目の参加を希望することを可能と している。高額な研修費用も 1 年目同様にか かる中で,参加を希望する学生の傾向を探る ために,表 2 の結果から 2 回目の参加を希望 した学生を抽出したところ,意外な結果が明 らかになった(表 4 )。つまり再度研修を希 望する学生の傾向として, 1 回目の研修で満 足度が高い学生が希望しているとこれまで考 えてきたが,④や⑥の結果が全体の平均値よ りも低いことから,その逆であることが分 かった。また,監督経験者の値が低い傾向に あった⑦∼⑫の値が高い傾向にあることから も,何らかの要因で満足度が満たされていな い学生が,帰国後の学習や行動に高い意識を 持ち続け, 2 回目の参加希望に繋がっている と推察できる。その要因を自由記述から探っ たところ,現地での授業で理解しきれなかっ たところをもう一度復習をしてみたい,さら 表 3  監督を務めた学生の結果

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に理解した上でもうワンランク上の映像を制 作してみたいという肯定感の強い欲求による ものであることが見えてきた。 このように本事例では,日常的な生活や学 習では得にくい強い動機付けが,海外で映像 制作を実践する特殊な経験を通じて醸成さ れ,その後の学生の行動に大きな影響を持つ ことを明確にした事例となった。 5 .大学で映像制作を教育として実践する 意義と可能性 前章まで,映像制作の現状と具体的な事例 での成果について見てきたが,それを受けて 本章では大学で幅広い視点で映像制作教育を おこなう意義について述べる。 一つ目は,誰もが映像制作が可能になった 今,映像を専門とするしないに関わらず,多 くの学生が映像で表現する機会が益々増える と予想されることである19)。実際に映像を主 な専門としない学生が,授業での課題,ゼミ でのプロジェクト,就職活動用の自己PR動 画などについて,撮影や編集の仕方などの質 問に来る数が年々増加している。大抵のHow to的な内容はインターネットで検索すれば, 山ほど解説文や動画が出てくる現状ではある が,専門性がないが故に適切な検索結果にた どり着きにくいという課題を残している。こ の現状も踏まえて教える側にはこれまで以上 に体系的に物事を見た上で判断する力と経験 値や知識に裏打ちされた的確な導きを与える ことが求められる。 二つ目は,映像制作にはこれまで以上の総 合的な思考や能力が求められる時代になった ことである。映像制作には,撮影や編集の技 術に加え,豊かな感情表現だけでなく,時代 の潮流を捉えた日常的な情報収集能力や綿密 な企画調査,明確なストーリー展開などの理 論的な思考,チームワークやリーダーシップ, 関係者とのコミュニケーションなど,幅広い 知識と技術に基づいた決断力と実行力が必要 となる。これまでの映像制作は,完全に分業 化されたものであったが,個人で制作や発信 がおこなえる現在の状況では,一人でより多 くの役割をこなすことが求められる。そして これらを質,量ともに高次元で両立しなけれ ば評価されない。まさにYouTuberがその典 型である。事実YouTubeには毎分約500時間 もの動画や映像がアップロードされ,その 99%はほぼ観られることがないのが現状であ るとするならば20)21),簡単に結果が出る甘い 世界ではないことは自明である。つまり,そ の 1 %に入る映像を作りたいと思うクリエイ ターと, 1 %の映像を観て楽しんで映像に興 味関心を示す人が大半であるならば,いかに その観られる 1 %の映像を作ることができる 人を育てるか,さらには 1 %をどのように 2 %以上に増やすのかが鍵になる。それが多 表 4   2 回目の研修参加希望者の結果 ※ 2019年に第 1 回目の研修に参加した 3 名は,諸事 情により2020年度の参加は見送った

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くの映像制作者の一つのゴールであるとすれ ば,制作の技能面だけではなく他分野に渡る 総合的な力が求められる時代になったという ことである。 三つ目は,映像を取り巻く流れに映像制作 教育が追いついていないことである。これは 大学教育のみならず,学生の出口である企業 の映像制作現場においても,教育の必要性を 強く感じながらも機能しづらいことが過去の 研究からわかってきた22)。日本は映像制作面 で現場経験主義的な側面が強く,日々の業務 をこなしながら業界人としての知識や作法な どを学び取りながら成長していくパターンが 主であった。特に映画業界で昔から組織され てきた「組」などに代表される徒弟制的教育 は,教える側の経験値的な知見を含め,非常 に深い教育を可能とする一方,教育の対象が 限定的になる課題もある。つまり大学での映 像制作教育を,職業人として映像制作の現場 に出る前の教育の側面として考えた場合,い かに専門知識をベースに体系的に映像につい て学ぶ教育を構築するかが,今後の日本の映 像コンテンツの業界の未来を左右すると言っ ても過言ではない。 6 .おわりに 本稿では,大学における映像制作の事例か ら,その教育を学際的な視点で捉える必要性 と,より多くの学生に必要になると思われる 映像制作教育の可能性について考察をした。 とかく映像制作と言えば実践が優先されがち な世界であるが,知識習得と実践は両輪であ るべきである。大学での教育ともなれば尚更 科学的かつ体系的な教育が求められる。英語 を学ぶ際によく文法は必要ないとか,文法を 学んでも話せるようにはならないなどといっ た議論は昔から繰り返されてきた。しかし, 結局は文法を知っているか知らないかで,難 易度の高い読み書きになるとかなりの差が出 る。映像制作にも,英文法に似た「理論や決 まりごと」が存在する。つまりルールを知っ てルールを破るのか,ルールを知らずにルー ルを破るのかは,結果として表現の深さとし ての映像の質に大きく影響する23) さらに,学生の映像メディアに対する接し 方や見方が,ソーシャルメディアでの展開を 軸に大きく変わってきた。個人レベルの映像 制作が「社会の目」との関わりの中でおこな われ,自己を中心とした映像制作がますます 加速している。かつての「受動–能動」の対 のうちの「能動」の極に代わり「共有・自分」 という極を中心に若い世代のメディア経験が 展開しているとする調査結果もある24)。ゆえ に個人が主体の映像制作や閲覧,そしてそれ に対するリアクションも多様になる中で,映 像自体が個人の知識,技量,判断力,モラル に依存する傾向が益々強くなる。そのような 潮流にある時代において,学際的な視野と体 系的な学問をベースとした「超実践的」映像 制作教育の構築が急務でではないだろうか。 そして,今後も予想されているデジタルディ スラプションの荒波に25),日本のコンテンツ 業界が対応していくためにも,映像制作教育 の構築を継続的に続けていくことが課題とな る。 参考文献・URL 1 )堀江秀史他,『デザイン化される映像 21.5世 紀のライフスタイルをどう変えるか?』,フィ ルムアート社,pp.67-68,2014 2 )目白大学社会学部メディア表現学科編,『メ ディアと表現 情報社会を生きるためのリテラ シー』学文社,第 3 部・第 7 章,2014 3 )松本俊夫,『映像教育の現在課題に関する試論』 日本映像学会,映像学48巻,pp. 4 -15,1993 4 )一戸信哉,『地域を題材とする映像制作の授 業実践報告:大学での取り組み』,日本デジタ

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ル教科書学会,発表予稿集 Vol. 8 , 2019 5 )南出和余,『映像制作による対話的コミュニ ケーション ― 映像・人類学・教育』,京都大学 大学院人間・環境学研究科 文化人類学分野,コ ンタクト・ゾーン=Contact zone,第 9 巻,2017 号,pp.386-397,2017 6 )岡田翔,『ワークショップ型映像制作へ,新 たな映像表現および映像教育への考察 ― 長野 県信濃美術館における平成29 年度文化庁 地域 の核となる美術館・歴史博物館支援事業での取 り組みから ― 』,桜美林論考.人文研究,第 9 巻, pp.23-38,2017 7 )映画人を育てる「超実践的」ワークショップ, https://www.cineast.jp/workshop/director/ eigataikenlab.html 8 )最初の一本を作る! 大人の映画学校,https:// eigaschool.com/ 9 )東京・オンライン開催で人気の動画編集・映 像制作講座,https://www.street-academy.com/tokyo/ video 10)大杉卓三,『大学の地域メディア戦略 映像番 組 制 作 に よ る 大 学 の 地 域 貢 献 』, 中 国 書 店, 2010 11)宮松采加,織田夏鈴,後藤昌人『学生による 地域 PR のための映像制作の実践』,SSICJ10-7, pp.23-24,2019 12)TikTok, https://www.tiktok.com/ja/ 13) 動 画 × 若 者 マ ー ケTikTok大 研 究, 日 経 XTREND,https://xtrend.nikkei.com/atcl/ contents/18/00117/?i_cid=nbpnxr_child 14)後藤昌人・小室達章・中田平,『実践型教育 の有効性を高める教育プログラムのあり方 : NYFAオーストラリア校での映画制作教育を事 例として』,金城学院大学人文・社会科学研究 所紀要,第18号,pp.33-43,2014 15)後藤昌人・小室達章・中田平,『実践型教育 の有効性を高める教育プログラムのあり方 : NYFAオーストラリア校での映画制作教育を事 例として』,金城学院大学人文・社会科学研究 所紀要,第18号,pp.33-43,2014

16)NYFA Guest-Speakers, https://www.nyfa.edu/ nyfa-news/guest-speakers/ 17)堀公俊,加藤彰『ディシジョン・メイキング 賢慮と納得の意思決定術』,日本経済新聞出版 社,第 6 章の 1 ,p.196,2011 18)エイミー・C・エドモンドソン,野津智子訳, 『チームが機能するとはどういうことか―「学 習力」と「実行力」を高める実践アプローチ―』 英治出版,第 1 部・第 2 章,2014 19)黒岩亜純,宮徹,『大学生のための動画制作 入門』,慶應義塾大学出版会,2017 20)2020年グローバル最新版!「YouTubeを巡る 23の 統 計 デ ー タ 」,https://www.infocubic.co.jp/ blog/archives/4967/

21)YouTube’s 2 Billion Videos, 197M Hours Make it

an ‘Immense’ Force, Says Bernstein, https://www.

barrons.com/articles/youtubes- 2 -billion-videos- 197m-hours-make-it-an-immense-force-says-bernstein-1462978280 22)後藤昌人・遠藤潤一,『人材育成のための映 像制作現場の変化と現場に関する調査』,金城 学院大学人文・社会科学研究所紀要,第22号, pp.31-42,2018

23)Paul Dudbridge, “Shooting BETTER Movie The

Student Filmmakers’ Guide”, Michael Wiese

Productions, 2017 24)電通メディアイノベーションラボ『情報メディ ア白書2020,特集Ⅰ:令和「新」時代のメディ アの役割とオーディエンス』,pp22-23,2020 25)マイケルD.スミス&ラルフテラング,小林啓 倫訳,山本一郎解説,『激動の時代のコンテン ツビジネス・サバイバルガイド』白桃書房, 2019

参照

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