肺癌による血性心嚢液貯留を放射線治療にて制御し得た1例
山梨医科大学放射線科 遠山敬司 大西洋
山口元司 槇俊也
内山暁 はじめに 悪性心嚢液貯留のよる心タンポナーデは, 短期間のうちに生命を脅かす危険性のある病 態である。我々は,肺癌による血性心嚢液貯 留を,心嚢ドレナージと放射線外照射により 制御し得たと思われる症例を経験したので報 告する。 症例M.O.39歳 女性
主訴:頸部リンパ節腫脹,曖声,両上肢のし びれ感。 現病歴:平成2年10月末より頸部リンパ節腫 脹に気付いた。11月より37℃台の発熱が持続。 11月末には嗅声が出現した。12月末に某病院 で頸部リンパ節生検を施行。CTでは頸部∼ 縦隔∼肺門リンパ節の腫脹と,右肺S6に結節 影を認めていた。12月28日より化学療法として,CDDP100mg, ADM50mg, CPA200mg
× 5days,prednisolone40mg×5daysを投与され, これによりリンパ節の縮小が見られた。 平成3年1月8H,精査加療目的にて当科に入院 となる。 経過 生検組織標本は,腺癌で肺由来ではないか との回答であった。CTにて右肺S6に結節影 が認められた(図1)ことと,臨床像より,肺癌 TiN3Mxとして化学療法と放射線治療との併用を開始した。CDDP150mg, VDS4.5mg
(day 1,9)投与し,頸部リンパ節領域∼縦隔, 肺門リンパ節を含む照射野を設定した(図2)。 胸部への外照射計10Gyの時点で心タンポナー デの症状が出現した(図3)。 心嚢ドレナージを留置した。心嚢液は血性で ClassVであった。放射線外照射によるコント ロールを図り,照射野を全心嚢腔へ広げた(図 4)。著効を示し,拡大照射15.8Gy(縦隔31. 8Gy)時には,心嚢ドレナージを抜去した。 拡大照射23Gy(縦隔39Gy)にて胸部への外 照射を終了した(図5)。 この後,郷里の函館の病院へ移り,化学療法 を繰り返したが,約半年後(心嚢液貯留から 8ヶ月後,全経過1年)に死亡した。この間, 心嚢液の再貯留は認めなっかった。 また放射線治療に起因する副作用の発現は無 かった。一90一
図1 右肺S6に2cmの結節影と肺門・縦隔 リンパ節の腫脹を認める。 図2 頸部・鎖骨窩・肺門・縦隔リンパ節 の照射野。 図3 心陰影の著明な拡大を認める。 図4 照射野を全心嚢腔に広げた。 一91一
考察 悪性心嚢液貯留に対する治療として,ドレ ナージ留置,心嚢切開術,あるいは抗生剤や 抗癌剤等の注入によるSclerosing Therapy が多くの場合行われており,放射線治療が第 一選択されることは少ない。しかし,放射線 治療にも多くのメリットがある。 非血性あるいは淡血性の心嚢液の場合,細 胞診でClass5が検出される頻度は少なく, またドレナージ留置のみでコントロールでき ることが多いようである。しかしコントロー ル不良の場合,次の治療に進まなければなら ない。 肺癌による胸水貯留を来たした場合,生命 予後は平均16カ月は)であり,血性心嚢液貯留 の場合,さらに短いことが予想される。QO Lを高める意味でも,なるべく侵襲性が少な くかっ奏功率の高い治療法を選択したいもの である。 抗生剤あるいは抗癌剤の心嚢内投与は,比 較的良好な奏功率が得られている(2)。しかし, 数回の心嚢内投与を必要とする事が多い。程 度は様々ではあるが,心嚢炎が惹起される。 このため,発熱,胸痛等の炎症反応の発現と ともに心膜癒着が問題となってくる。 癌性胸水,心嚢液の貯留にたいし,近年 IL−2の局所投与が行われ,良好な成績が 得られているとの報告がある(3)。しかも, 癒着が起こることはなく(4),炎症反応も軽微 のようである。数回にわたる投与が必要では あるが,注目される治療法である。 放射線外照射の治療成績は,Chamらの報告 (5’