論 文
韓国の多文化家庭の子どもに対する学校と家庭との学習連携に関する研究
多文化教育政策の展開と安山市の取組みを中心として
早稲田大学 呉 世 蓮
Study on t
h
e
C
o
o
p
e
r
a
t
i
o
n
between t
h
e
S
c
h
o
o
l
and Home r
e
g
a
r
d
-i
n
g
E
d
u
c
a
t
i
o
n
f
o
r
C
h
i
l
d
r
e
n
o
f
M
u
l
t
i
c
u
l
t
u
r
a
l
F
a
m
i
l
i
e
s
i
n
K
o
r
e
a
:
M
u
l
t
i
c
u
l
t
u
r
a
l
E
d
u
c
a
t
i
o
n
P
o
l
i
c
i
e
s
a
n
d
E
f
f
o
r
t
s
i
n
An
s
a
n
C
i
t
y
Waseda University O H Saeyeon
This paper examines the level of cooperation between the school and home regarding education for children of multicultural families in Korea. In order to determine the effectiveness of such cooperation and any pertinent issues, this paper first investigates the background and circumstances of multicultural edu -cation policies in Korea and then analyzes the multicultural education program at the Won-Il Elementary School in Ans組 City(Gyeonggi Province).
In this paper, we observe the following: First, as a result of globalization and the consequent increase in foreign workers and immigrants through marriage, Korea has enacted laws regarding multicultural -ism, such as the Act on the Treatment of Foreigners in Korea and Support for Multicultural Families Act. Based on this situation, various multicultural policies are being implemented by each ministry of the cen -tral government in cooperation with local governments. Second, the Korean Ministry of Education, Sci -ence and Technology considers multicultural education policies important for supporting the education of children from multicultural families.The Minis仕ydesignates and manages each local school enrolling children from multicultural families as a research school of multicultural education.Third, multicultural education activity conducted in a special class in Won-Il Elementary School in Ansan, Gyeonggi-do is e去
amined from the following viewpoints: (1) establishing and maintaining the social adjustment and identity of minority students, (2) promoting education through mutual human understanding, and (3) promoting the development of mutual cultural understanding. 1 .はじめに ることにより、多文化家庭の子どもに対する学校 と家庭との学習連携の課題と展望について考察す ることである。 韓国社会は、 1980年代後半から結婚移住者や雇 用許可制の導入により、海外からの移住労働者が 増加し、急速に多文化社会化しつつある。韓国で は2007年 5月に外国人基本法に当たる「在韓外国 人処遇基本法」と2008年 3月に「多文化家族支援 本稿の目的は、韓国において多文化政策が出さ れた背景と多文化教育政策の内容を踏まえて、多 文化教育研究学校が指定されるに至った背景と経 緯を明らかにし、京畿道安山市の多文化教育研究 学校「ウォンイル小学校
J
に焦点を当てて分析すが政府と自治体の仕事として明確に位置づけられ た。韓国社会では「在韓外国人処遇基本法」と「多 文化家族支援法」に基づき、多文化をめぐる様々 な政策が、中央政府の各省によって施行されてい る。 2007年に教育人的資源部1lは、「多文化家庭子 女教育支援計画jを国家的議題として発表した。 これは、市・道別の特性に合わせた特殊事業を公 募形式で選定・支援するものであり、また研究・開 発のための中央多文化教育センターと、地域多文 化教育センターの指定・運営に関して本格的な支 援・調整を行うものである2)。 韓国における多文化教育政策は、多文化家庭、 彼らの子どもたちの韓国社会への適応と韓国語・ 母語教育の問題を焦眉の課題として位置づけてい る。本稿で用いる「多文化家庭の子どもあるいは 子女」という言葉は次の場合を指すことにする。 すなわち、①国際結婚の家庭において韓国人の父 と外国人の母の聞に生まれた子ども、あるいは韓 国人の母と外国人の父の間で生まれた子ども、② 外国人労働者の家庭において外国人労働者が韓国 で結婚して生まれた子ども、あるいは本国で結婚 して形成された家族が国内に移住した家庭の子ど も、③セトミン(脱北者)家庭において北朝鮮で生 まれて韓国に入国した子ども、あるいは韓国で生 まれた子ども、である3)。 このような多文化教育政策が出された背景に は、外国人労働者や結婚移住者の増加にともなう 多文化家庭とその子ども数の増加がある。 2011年 には外国系住民が126万 5,006人であり、多文化家 庭の子どもも15万1,154人に至った4)。また、年齢 段階別にみると、多文化家庭の子どもを100%と すれば、未就学児童の満6歳未満は 61.9% (93,537 人)、小学生の満7歳以上 12歳以下は 24.9%(37,590 人)で、小学生以下が、 86.8%を占めている5)。多 文化家庭の子どもの多くは小学生以下であるが、 中高生の生徒の割合も増加しつつあるO グローパル化が進むなかでの人の移動と教育問 題の要点は、移民・外国人の子どもへの教育保障を 指すべき方向がなければならないということであ るへマイノリティに属する人々の教育について、 国際的に文化、言語、人権、教育の権利などの観 点からその教育保障の方向性が明らかにされなけ ればならない7)。 韓国の多文化教育における先行研究をみると、 結婚移住者の子どもや外国人労働者の子どもによ る教育問題、とくに人種的、民族的な背景が異な る子どもにおける学校教育の問題や多様な教育政 策の領域を広めるきっかけになった研究(金ジョン ウォン他、 2005;呉ソンベ、 2006;ジョヨンダル、 2006 ;朴ソンヒョク他、 2008;など)がある。これ らは、学校教育を中心とした多文化教育研究であ る。他方で地域に照明をあて、平生教育8)としての 多文化教育研究も行われている(金命貞、 2011)。 これまでの多文化教育研究は学校教育かまたは社 会教育の視点からの研究であると指摘することが できる。本稿では、学校と家庭との学習連携に視 点をあて韓国の多文化教育政策とその背景につい て分析するとともに、具体的事例として京畿道安 山市を取り上げ、その取り組みについて検証する。 京畿道安山市ウォンイル小学校を事例に挙げた 理由は、地域の特性上、外国人労働者が多く居住 しており、 2006年度から韓国における最初の外国 人労働者の子どもたちのための特別学級を設置す る研究学校が設けられ、現在まで多文化教育に関 わるプログラムや多文化家庭の母親の協力による プログラムなどを実施しているからである。また、 同年度から、教育科学技術部や各市道教育庁及び 教育現場で多文化教育の重要性が認識され、多文 化家庭支援や多文化教育に関する政策・支援など が強化され始めたからでもある。京畿道安山市で は既述の理由により、多文化家庭の生徒の中でも 特に外国人労働者の子どもが多いが、近年結婚移 住者の子どもも増加しつつあるため、本稿では外 国人労働者の子どもと結婚移住者の子どもとを主 な対象として考察することにする。
2
.
韓国における多文化政策 2007年 5月に制定された「在韓外国人処遇基本 法」は、外国人政策の樹立と施行を政府と自治体 の仕事として明確に位置づけた。また地方行政を 統括する行政自治部は、自治体の外国人施策の根 拠規定の整備を進めるために標準条例案を提示 し、これに基づいて各自治体では、外国人施策に関 する条例制定が活発に進められるようになった。 2008年 1月、 16の広域自治体(日本の都道府県に あたる)にある 14,232の基礎自治体(日本の市町村 にあたる)のうち、 102の基礎自治体で外国人支援 条例が制定された9)。既述のように、 2008年の「多 文化家族支援法」の制定及び2009年の「多文化基 本法」の発議を経て、韓国では「在韓外国人処遇 基本法j と「多文化家族支援法」に基づき、多文 化をめぐる様々な政策が、中央政府の各省によっ て施行されているが、以下ではそうした政策が称 されるようになった背景について明らかにする。 (1)韓国における多文化政策の背景 韓国は 1970年半ばまで、ドイツや中東などに労 働力を送り出す側であったが、 80年代後半以降、 経済が急激な成長を遂げ、受け入れ国へと転換し た。 1988年のオリンピック前後から外国人労働者 が国内に流入するようになる。韓国経済は、 90年 代終盤の経済危機により一時期的な減速をみせた ものの、その後回復基調となり、労働市場は拡大し てきた。 1980年代後半から 1992年までの政府の在 外同胞10)の親戚訪問政策は、中国やロシアからの 韓国系労働者が多数を占め、その他は東南アジア と南部アジアやアフリカ出身の人々が対象であっ た11)。労働力不足で苦しむ囲内中小企業の労働市 場の条件を考慮した事実上のあいまいな政策が、 外国人労働者の増加の原因であるといわれる12)。 韓国統計庁の「将来人口特別推計J
13)によれば、 韓国における 65歳以上の高齢者の割合は 2050年に は37.3%に達し、日本の 36.5%を上回って世界ーに なるとみられている。また、韓国労働研究院(
K
L
I) 論 文 によると、 2015年には 63万人、 2020年には 152万 人の労働力が不足するという14)。 韓国における外国人労働者の受け入れは、専門 的・技術的分野に限定されており、非熟練労働力 の受け入れ政策に関しては、 2000年の初めまで産 業研修生制度に頼り、本格的な非熟練労働力の受 け入れ枠組みを持たなかった15)。しかし、現在は 「雇用許可制度J
(2004年 8月)を導入し、非熟練 労働者に対しでも合法的な制度の下での受け入れ を開始した。この制度は、①専門技術者就業制度、 ②雇用許可制度、③産業研修制度・研修就業制度 (2006年 12月まで)、④内航船員就業制度の 4つの 制度に分類されている16)。 ところで、韓国の外国人労働者受け入れ政策は、 一定の受け入れは行うが、外国人労働者が韓国 内に定着するのを妨げるという方針が貫かれてき た。韓国における外国人労働者は、韓国人が嫌が る重労働や危険な仕事や汚い仕事をしながら安い 賃金で働くが、まともなハングル教育を受けてい ないため、生活上のコミュニケーションがうまくい かず、人間関係にもトラブルが生じやすくなるこ となどが指掃されている17)。こうした状況は、外 国人の教育権保障という視点、からすれば、大きな 問題であり、人権の基礎としての識字カを身につ けさせること、すなわち韓国語教育が不可欠であ る。さらに注目すべき点は、外国人労働者の定住 化と結婚移住者における子どもが顕著に増えてい る点である。これらの子どもたちの学校における 就学状況は家庭環境により様々であるが、全体的 に韓国の文化や歴史、社会生活などに疎く、社会 科などの科目を苦手とし、文章の意味を理解でき ないために数学の問題を解くことができないなど の傾向がみられるという18)。 それまで韓国における外国人政策は労働者の受 け入れ政策が中心で、「雇用許可制度」の施行によ り合法的な受け入れ政策が図られたものの、外国 人対策は外国人の出入国と管理に重点が置かれて おり、問題を残している。また、近年は国際結婚に よる多文化家庭が急増し、これにより新たな外国 人政策の必要性が生じるようになっている。そこ検討し、外国人労働者と結婚移住者の子どもの教 育がどのように行われているかについて明らかに するO
(
2
)
韓国における多文化教育政策 外国につながる児童・生徒及び多文化家族が生 活する上で、不自由なくともに生きるための学習 活動における多文化教育の重要性が叫ばれ、教育 の領域でも国家レベルの多文化教育政策が打ち出 されてきた。 2007年の「多文化家庭子女教育支援 計画」はそうした施策の一つであるが、多文化教 育事業に関する遂行体系の具体的な内容は、中央 省庁から中央多文化教育センターへの教育と教材 開発に関する直接支援及び市・道教育庁を通した 公募事業の遂行という二元的な構造をもっている。 教育科学技術部の内部機関別の多文化家庭子女 への支援内容をみると、主要なものは多文化教育 に関する研究開発と市・道における多文化教育セ ンターの設立支援に関するものである。教育庁は 生徒にメントリング19)、多文化理解及び国際理解 教育等の多様なプログラムを開発し、教師には研 修及び奨学資料の発刊・普及を行い、親には研修 及びハングル教室を開催している。 さらに、 2008年度には、多文化教育政策の長期 的施策として「多文化家庭生徒教育支援計画 (2009 年 ~2012 年 )J が出された。この政策は、これまで の短期計画を樹立・推進したものとは異な仏教 育科学技術部の総合的・体系的な基本計画に基づ き、市・道教育庁は各地域の現状に即して細かく実 行計画を立て、急増する多文化家庭生徒の教育需 要を考慮し、中央と地方がともに連携して対策を 講じるものである。また、 2007年度までの政策の 対象は、「結婚移住者家庭jのみに限定されていた が、この支援計画には、「多文化家庭」の名の下に、 結婚移住者家庭及び外国人労働者家庭も対象に含 まれるようになった却)。ソル・ドンフン (2005) に よると、多文化社会になりつつある韓国社会にお いては、多文化家庭の経済的な状況は最低水準に たちは、直接・間接的に広まっている実態として の差別により困難な生活を送るという21)。このよ うな状況をふまえて、「多文化家庭生徒教育支援計 画 (2009 年 ~2012 年 )J は、次の 2 つの目的を掲げ ている。すなわち、第一に、多文化家庭生徒の特 性に合わせた教育支援を行い、言語・文化的な格 差の解消、多文化家庭の児童や中途入国子女泣)た ちの早期適応をはかるとともに、多文化家庭生徒 のもつ多様な言語・文化的な背景が発展できるよ うに支援することである。第二に、異文化に対す る理解の向上及び社会的認識の改善強化である。 これは、一般家庭生徒の多文化理解教育の活性化、 学校における管理職や一般教師の多文化認識の改 善のために教員研修を強化することに向けられて し、るO 以上のような多文化教育政策には、学校をセン ターとしつつ、多文化家庭の親が多文化リテラシ ー教育の講師として教育現場に携わることができ ると見込まれている。すなわち、多文化家庭の子 どもに対する学校と家庭との学習連携の構想であ る。そこで以下では、韓国の多文化教育政策におけ る多文化家庭の子どもの拠点校として指定され、 多文化教育支援を行っている京畿道安山市ウォン イル小学校の取り組みについて検討していきたい。 3.京畿道安山市における研究学校の取り組み 行政安全部の r2012年地方自治団体外国人住民 現況』によると、京畿道人口の 1,193万 7,000人のう ち、外国人住民数が 42万人を上回ったというお)。 居住滞在類型別にみると、外国人労働者 20万 9,784 人、国際結婚移住者(国際結婚移住者及び婚姻帰 化者) 6万 1,280人、外国人住民子女 4万 2,365人、 外国国籍同胞 4万 1,959人のJII巨になっている。国籍 別にみると、朝鮮族を含めた中国出身が 25万 1,981 人で最も多く、ベトナム 3万 9,002人、フィリピン 1 万 8,222人、アメリカ 1万 6,684人)暇である。性別で は、男性 22万 9,668人 (54%)、女性 19万 5,278人(
4
6
%
)
で、外国人労働者は男性が69%
、国際結婚 移住者の場合、女性が86%
を占めている。 さらに、京畿道の中でも、最大の外国人居住地 は安山市で、およそ6
万5
8
3
人である。国別では、 中国(朝鮮族を含む)、ベトナム、ウズベキスタン、 フィリピン、インドネシア、ロシア(韓国系を含 む)、スリランカ、タイ、モンゴル、ノfングラデシ ユ川買で、ある24)。 外国人労働者の家庭に関する多文化政策は、結 婚移住者の家庭を対象にした政策内容と大きく変 わらない。ほとんどの政策が、多文化家庭という 範障の中に結婚移住者と外国人労働者を含めてい るからである。以下、多文化家庭、特に外国人労 働者の子どもが中心となる多文化教育研究学校の 背景と京畿道安山市のウォンイル小学校の事例に ついてみていきたい。 (1)多文化教育研究学校の指定の背景と経緯 外国人労働者の子どもがいる家庭の特徴は、お 金を稼ぐために移住し、短期滞在で母国の国籍を 維持した外国人である。そのため、教育、保健、医 療、福祉などの支援では、他の結婚移住者の子ども の家庭と同様には処遇されていない。しかし学 校では、外国人労働者の子どもも結婚移住者の子 どもも教育において差別があってはならず、彼ら の待遇は平等で、なければならない。2
0
0
6
年度教育 人的資源部による実態調査の結果では、韓国にお ける外国人登録者(不法滞在含む)のうち、就学年 齢である満7
歳以上1
8
歳以下は1
万7
,2
8
7
人である と推定されるお)。この中に、外国人学校の在学生7
,8
0
0
人を除くと、韓国内の学校に入学可能な人数 論 文 は約9
,5
0
0
人であるが、韓国内の学校に在学してい る者は1
,5
7
4
人に過ぎないのである(表1
の2
0
0
5
年 度参照)。この1
,5
7
4
人のうち、9
8
8
人(
6
2
.
3
%
)
が ソウルと京畿道地域の学校に就学しているお)。表 1からは、外国人労働者や彼らの子どもの滞在資格 を見分けることは出来ないものの、在籍生徒数は 年々増えつつあることがわかる。2
0
0
3
年の小・中等教育法の改正以降、不法滞在 の外国人労働者の子どもも学校教育を受けること ができるようになった。同法によれば、外国人労 働者の子どもは、①身体的自由、表現の自由、情 報アクセスの権利、②養育を受ける権利、家族の 再結合の権利(親が合法滞在者の場合)、有害環境 から保護される権利、③差別されない権利、④差 別や処罰から保護される権利、⑤国籍取得の権利、 余暇及び丈化生活に参加する権利、⑥教育を受け る権利、労働や搾取から保護される権利をもって いる。満7
歳から1
2
歳の外国人不法滞在者の子ど もは、区役所で出入国事実証明書のみ発給され、近 くの小学校に提出さえすれば入学でき、修了後に は正式な卒業証明書をもらうことができる。それ にも関わらず、特に発展途上国の不法滞在の外国 人労働者の場合には、居住地の不安定、経済的な 厳しさ、身分露見のおそれ等の理由のために子ど もを正規の学校に通わせない傾向がある幻)。 外国人労働者の子どもを対象に実施した調査に よると、正規学校に通わない理由として、「お金を 稼ぐため(35%)J
、「韓国語が出来ないため(
2
0
%)J
、「不法滞在の子どもだから(
1
5
%
)
J
などの結 果が出ている鎚)。外国人労働者の長期間滞在の事 例が増え、彼らの生活に対する保護と管理が必要 表1韓国内の学校に在籍している外国人労働者家庭の子ども 区 分 小学校在学者 中学校在学者 品校在学者 計2005
年度995
352
227
1
,574
2006
年度1
.
1
1
5
215
6
1
1
,3
9
1
2007
年度755
3
9
1
63
1
,209
2008
年度9
8
1
314
1
0
7
1
,402
2009
年度834
307
1
2
9
1
,270
2010
年度1
,099
446
203
1
.
7
4
8
* 出 典 教 育 科 学 技 術 部(
2
0
1
0
)
I多文化家庭子女の現況Jもの就学も厳しいのが現実である刻。 以上のような多文化家庭の子どもたちの教育を 保障するために、 2006年度から多文化教育研究学 校が指定・運営されることになった。多文化教育 研究学校は、 2006年から 2008年まで「教育科学技 術部指定政策研究学校」として運営されたが、 2009 年度から「教育科学技術部要請研究学校」に変更さ れた制。これとともに、研究領域の名称も「多文化 教育」から「多文化理解教育」に変更された。「多 文化理解教育」に変更された理由は、多文化家庭 の子どものみならず、一般家庭の子どもなどを対 象に、ともに参加することの意義をより強調する ためである31)。多文化教育研究学校の目標は、多 角的な学校教育力の向上と多文化理解教育の強化 である。研究学校は、教育科学技術部と市道行政 機関によって指定されており32)、2006年度から現 在までおよそ 69校指定されている33)。 京畿道における研究学校は9校あり、そのうち 2 校は教育科学技術と市道行政機関から同時に支援 を受けている(ウォンイル小学校、フンドク中学 校)。また、地域教育庁を中心に韓国文化の体験と 理解プログラムが実施され、子どもと親がともに 参加・研修を行い、生徒指導用の資料開発及び普 及が進められている。次に、これらの多文化教育 研究学校の政策に基づき、 2006年度から外国人労 働者の子どもたちの特別学級及び外国人労働者の 子どもの言語適応のために多文化教育研究学校と して指定された京畿道ウォンイル小学校について 検討するO
(
2
)
京畿道ウォンイル小学校の特別学級について34) 2006年度から教育科学技術部、各市道教育庁及 び教育現場で多文化教育の重要性が認識され、多 文化家庭支援や多文化教育に関する政策・支援な どが強化された。京畿道教育庁では、外国人労働 者の子どものための「特別学級」を設けて運営す る方針が出され、外国人労働者の密集している安 山市のウォンイル小学校に 2006年から韓国におけ 級である。全校生徒は 491名であり、そのうち特別 学級の生徒数は38名である。特別学級では、 6歳 から15歳の外国人労働者の子どもが学年を分けず に授業を受けているO 京畿道ウォンイル小学校の特別学級で行われて いる多文化教育に関するプログラム活動を次の3 点から考察したい。第一は、マイノリティにおけ る社会適応とアイデンティテイの確立・維持につ いて、第二は、相互の人間理解への教育について、 第三は、相互の文化理解の教育についてである。 第一の点に関して特別学級では、多文化家庭の子 どもの文化・言語適応に必要な教育を主な内容と して運営されている。この特別学級の教育課程は 大きく入門期、文化・言語適応(初級1)、文化・ 言語適応(初級ll)の課程に分かれており、基礎的 な韓国語伸長のための言語適応プログラムを通し て学校生活への適応力を育てることが最優先課題 とされている。カリキユラムは、大きく生活適応、 教育課程(道徳、社会)、文化・言語適応教育課程 (国語・英語)、教科適応教育課程(数学、科学)に 編成され、美術・体育教科、実科及び特別活動な どは一般の協力学級で一般生徒とともに授業を受 けるように配慮されている。彼らは正規教科の授 業以外にも、韓国文化の理解を助けるための多様 な特別プログラムを履修し、学習能力が一定のレ ベルに達した生徒の場合は一般学級に移り、小学 校の正規教育課程を終えた後は、卒業証明書とと もに中等学校にも進学できるようになっている。 また、韓国の楽器の体験教室では、韓国の楽器の みならず、モンゴルやインドの楽器を描く時間を 設け、母国の伝統楽器について勉強する(ウォンイ ル小学校、 2007)。母国の伝統音楽に関する話や説 明などを聞くことによって、母国へのアイデンティ ティの確立が目指されている。さらに、多文化家 庭の子どもと同じ国籍で、韓国文化について詳し い多文化家庭の母親、いわゆる結婚移住女性たち がボランテイアとして協力し、学校生活における 適応能力を増進することが目指されている。二つ日は、相互の人間理解への教育である。学 校における全体的な行事である「科学の日の行事」 や「体育大会」及び「音楽祭」などの開催を通し て、多文化家庭の子どもと一般家庭の子どもの間 の文化的な相互理解がはかられる教育である。例 をあげると、 2006年 4月に行われた「科学の日の行 事」では、特別学級の生徒と一般学級の生徒がと もに「科学想像描写大会」への参加や水ロケット 発射の観察を行い、観察後には感想文を書き、発 表を行っている。また、 2006年 5月に行われた「体 育大会」では、多文化家庭の子どもと親が韓国の学 校文化を経験しつつ、韓国文化と多文化家庭の子 どもの学校適応状態の理解を目的に、「体育大会」 が行われる聞に多文化家庭の親と特別学級の担任 及び協力学級の担任との相談活動が聞かれた。多 文化家庭の子どもや親、そして一般家庭の子ども や親がともに学校の行事に参加しともに接する ことによって相互に人間理解への教育が行われる ことが意図されている。 最後の三つ目は、多様な文化交流により、人間 関係における相互の文化理解への能力を増進させ る試みである。 2006年から毎年、外国人講師とと もに行う文化教室の授業 (CCAP) では、特別学 級と協力学級が一緒になり、日本、インド、タイ、 中国、ウズベキスタン、ロシア、モンゴル、タン ザニアなどからきた講師と授業を進める。この外 国人講師は地元の
NPO
団体の協力により、講師と しての研修をうけ、安山市の学校に派遣されるの である。この講師たちの多くは結婚移住女性によ って占められており、放課後の教室プログラムに も携わっている35)。また、毎年 6月に「裏庭キャン プ」が行われるが、これは、多文化家庭の子ども と一般家庭の子どもの人間関係をより肯定的に構 築し、相互文化の体験を通して相互理解への認識 を高めることを目的としている。多文化家庭の子 どもと一般家庭の子どもとが、野外活動を通して 共同体の意識と協同心を育み、相互の文化理解を 深めることが意図されている。 京畿道ウォンイル小学校の特別学級で行われて いる多文化教育に関するプログラム活動は、マイ 論 文 ノリティにおける社会適応とアイデンテイティの 確立・維持、相互の人間理解への教育、相互の文 化理解への能力の推進であると考えられる。 4.おわりに 本稿では、第一に、韓国の多文化政策の背景と、 教育科学技術部による多文化教育政策について明 らかにし第二に、多文化教育政策から生み出さ れた多文化家庭の子どもを中心とした多文化教育 研究学校と家庭との連携の背景と経緯を踏まえつ つ、京畿道安山市のウォンイル小学校の試みと多 文化教育のプログラムを分析してきた。 本稿で明らかになったのは次の通りである。第 一に、韓国ではグローバリゼーションにより、外国 人労働者や結婚移住者などの増加から、「在韓外国 人処遇基本法」ゃ「多文化家族支援法」などが出 され、これに基づき、多文化をめぐる様々な政策 が、中央政府の各省と地方自治体の連携によって 施行されていることを明らかにした。第二に、韓 国の教育科学技術部の下で行われる多文化教育政 策は、多文化家庭の子どもが在籍している各地域 の学校が多文化教育研究学校として指定・運営さ れることにより、多文化家庭の子どもの教育保障 を実現する方法として重視されていることを明ら かにした。第三に、京畿道安山市ウォンイル小学 校の特別学級を中心に行われている多文化教育活 動を、マイノリティにおける社会適応とアイデン テイテイの確立・維持、相互の人間理解への教育、 相互の文化理解への能力の推進という 3点から検 討した。 とりわけ、京畿道安山市ウォンイル小学校にお ける多文化教育の実践は、既述のように韓国政府 の多丈化政策と教育科学技術部による多文化教育 政策に基づいて進められており、以下のような特 徴をもっていることがわかった。第一に、マイノ リティにおける社会適応とアイデンテイテイの確 立に関して、多文化家庭の親たちがボランティア として参加し、学校と連携して進められているこ と、第二に、相互の文化理解に関して、多文化家こ と 、 第 三 に 、 相 互 の 文 化 理 解 の 能 力 を 育 成 す る こ と に 関 し て 、 多 文 化 家 庭 の 結 婚 移 住 者 が 講 師 と し て 参 加 し 、 文 化 教 室 な ど の プ ロ グ ラ ム を 担 当 し ていることである。 以 上 の よ う に 、 京 畿 道 安 山 市 ウ ォ ン イ ル 小 学 校 の 取 り 組 み は 、 多 文 化 家 庭 の 子 ど も に 対 す る 学 校 と 家 庭 と の 学 習 連 携 が 緊 密 に 図 ら れ て お り 、 注 目 に値しようO た だ し 、 こ う し た 実 践 が 全 国 的 に 行 わ れ て い る わ け で は な く 、 以 下 の よ う な 課 題 も 残 されている。すなわち、全国に指定・運営されてい る 多 文 化 教 育 研 究 学 校 は 、 そ の 特 性 上 、 定 め ら れ た 期 間 (1~2 年)の聞に多文化教育を集中的に実 施 し か ね な い と い う こ と で あ る 。 京 畿 道 安 山 市 ウ ォ ン イ ル 小 学 校 の 場 合 は 、 他 の 研 究 学 校 の よ う に 短 期 間 で は な く 、 長 期 間 に わ た り 特 別 学 級 研 究 学 校 を 運 営 し 、 多 文 化 教 育 に 関 す る 教 育 の プ ロ グ ラ ム や 行 事 な ど を 学 校 全 体 の み な ら ず 、 一 般 家 庭 と 多 文 化 家 庭 が と も に 協 力 し て 行 っ て い る 。 こ う し た 取 り 組 み が 、 韓 国 全 土 に 広 ま っ て い く こ と が 期 待 さ れ る 。 ま た 、 韓 国 語 教 育 に お け る 分 離 学 級 や 統 合 授 業 に 関 し て は 、 韓 国 語 の レ ベ ル ア ッ プ に 焦 点 化 さ れ て お り 、 母 語 教 育 の 推 進 に 課 題 が 残 さ れ ている。 最 後 に 当 論 文 の 研 究 上 の 課 題 と し て 、 韓 国 に お け る 多 文 化 教 育 政 策 が 学 校 や 社 会 の 現 場 に 対 し て ど の よ う に 受 け 止 め ら れ て い る の か の 分 析 、 さ ら に 多 文 化 教 育 政 策 に お け る 中 央 政 府 と 地 方 自 治 体 の 政 策 理 解 や 蹴 離 な ど の 分 析 が 必 要 で あ る 。 今 後 の課題としたい。 注 1)教育人的資源部は 2008年 2月政府組織法の改正に より、科学技術部の一部と統合し、教育科学技術部 に名称変更。なお、 2013年には、教育科学技術部は 教育部に名称変更。日本の文部科学省にあたる。 2)多文化教育センターを管轄している省庁は教育科 学技術部(現、教育部)であり、多文化家族支援セ ンターを管轄している省庁は女性家族部(日本の厚 生労働省にあたる)である。 豆一」豆今吾詩句干, 2010吐, :<11 1ら2主, p.149. 4 )韓国の行政安全部 r2011年地方自治団体の外国系 住民現況』の調査結果による。 5) 同上。 6) 岩崎正吾『移民政策の転換と移民の子どもへのロ シア語・母語教育 モスクワ市の取組みを中心とし てー』日本社会教育学会紀要、 2011年、 No.47、p.2o 7)朝倉征夫『多文化教育 一元的文化、価値から多 様な文化、価値の教育へ
J
成文堂、 1995年、 p.3o 8) 日本における生涯教育(=生涯学習)とみなしてよ しミ。 9 )ソン・ウォンソク「外国人施策をめぐる地方自治体 の広域連帯と協働J
r
シリーズ多言語・多文化協働実 践研究j第3号、東京外国語大学多言語・多文化教育 研究センタ一、 2008年、 p.12o 10)i
在外同胞の出入国及び法的地位に関する法律」の 第2条によれば、在外同胞とは次のいずれかに該当す るものである。l.大韓民国の国民であって外国の永 住権を取得した者又は永住する目的で外国に居住し ている者(在外国民)、 2 大韓民国の国籍を保有して いた者又はその直系卑属であって外国国籍を取得し た者のうち大統領令が定める者(外国国籍同胞)で ある。 11)李ホヒョン「韓国における多文化教育の必要性」渡 度一郎・川村千鶴子編著『多文化教育を拓く』明石 書応、 2002年、 p.255。 12)同上、 p.255o 13) h仕p:llkosis.krI gen_etl!start.jsp?orgld= 101&tblId =DL1B01B18&conn_path=K1 (2012年11月 28日閲 覧) 14)せ手管『号す7
1
唱司牛すをす (2005- 2020)J吐 号王立号恒子組, 2005 15)淀川京子「韓国における外国人労働者受け入れ制 度と実態J
r
アジアにおける外国人労働者受け入れ制 度と実態.1 (労働政策研究報告書 No81)、独立行政法 人労働政策研究・研修機構、 2007年、 p.23o 16)同上、 p.23o 17)李ホヒョン、前掲、 p.256o 18)せ号 oj匁 忍 君i
恒子省電士号守三七日 ~~空子 喧'1:十号室t
7}号スト吋旦l
宣{A
す号{)司1
.
2
t
.Jl1.λト苛 λ¥!J9.1 牛 舎 匁 宅 子Jr斗吾主干アトミ号ストlヰ-
"
1
苛エ立ス虫垂 公司叫立件奇想 91 牛舎匁~子~, 2007吐. 19)i
メントリング」とは相談や助言を行うことで、資 格の有無に関わらず担当する者をメンターという。20) ol'i'l弓『を号斗号室干豆今 Ãj~司忍 7~ 斗 7j 斗官芸 号斗,豆斗ヰ21 斗吾詩アト7j ス}1.-1 立今スl 宅1~311 (2006 -2009)会 fffjJZ豆」せ号豆今fi1137司王司112豆, 2010ぜ, p.161 21) 笠号喜 r 5l1号宅l~二号スト吾オ1121 llRコヨ」包謹吾宣{, 2004 日, p.230. 22)結婚移住者における再婚家庭。 23) h仕p://www.mopas.go.kr/gpms/ns/ mogaha/ user / userlayout/bulletin/userBtView.action?userBtBean. bbsSeq= 1 039777 &user BtBean.ctxCd= 1258&user Bt Bean.ctxType=21010005 (2012年11月23日閲覧)02012 年現在の全国における外国人住民の数は140万 9577 人である。 24) 2011年8月6日 に 行 っ た フ ィ ー ル ド ワ ー ク に 基 づ き、安山市移住民センター「国境のない村」の金スン イル事務局長のインタビューや提供して頂いた資料 を参照した。 25) 立今<U~守スト笹ヰ ft:十吾詩アト7j スト1.-1 立今ス11'1 c11'^ヰ』 2006せ, p.7 26)向上、 p.lOo 27) 豆今'i'l:3~スト笹子 ft:十号室}7トフ~21 スト吋立今~司三E λト~ 2006¥1, p.12 28)笠号喜「主1号<?l