― 研究論文 ―
硫化メチルの濃度差における臭気質変化に関する研究
磯崎 文音,光田 恵,棚村 壽三
本研究では低濃度,高濃度で臭気質が変化する物質である硫化メチルを対象とし,臭気質変化の起こる濃 度を求め,その濃度を基点としてどのように臭気質が変化するか,臭気質の特徴を明らかにすることを目的 とした.濃度差により臭気質が変化する現象は嗅覚受容レベルで起こるため,個人の嗅覚閾値が寄与するこ とが推測される.本研究では被検者 10 名に対し,三点比較式臭袋法を用いて個人の嗅覚閾値を測定し,臭 気強度,快不快度の傾向を明らかにした.また,25 名に対し,官能試験を行い,臭気質が変化する濃度お よび臭気質の特徴について明らかにした.得られた結果を以下に示す. 1)硫化メチルの個人の嗅覚閾値に 100 倍の差がみられた. 2)臭気強度は,におい物質濃度よりも,臭気指数との相関が高く,臭気質の検討には,感覚量である臭気 濃度および臭気指数を用いる必要があることを示した. 3)嗅覚閾値から 80 倍の濃度で臭気質の変化を感じ,100 倍の濃度で明確にうっとうしさ,鋭さが上昇する ことが明らかとなった.1. 緒言
嗅覚メカニズムの研究は,ノーベル生理学・医学賞を 受賞したアクセル博士とバック博士の嗅覚受容体の発見1) で,大きく進歩を遂げ,より一層嗅覚メカニズムの研究 が盛んに行われるようになった.最近では嗅覚メカニズ ムの嗅覚受容体の仕組みからにおいを感じないマスキン グ剤が発見2)されるなど,におい・かおりの分野で最も 注目されている研究の一つである. 臭気質の感じ方についても嗅覚受容体が大きく関与し ており,スカトールなどのように高濃度では糞臭,低濃 度では花のにおいに感じる現象も嗅覚受容体の働きによ るものである.におい物質濃度の差により臭気質の変化 がみられるにおい物質にはヨノン,インドールなどがあ るといわれており,それぞれ低濃度では,スミレの花様 香気,白い花想起の香り,高濃度では,木の香り,糞臭 と言われている3), 4).このようなにおい物質はさまざま な場面で利用されており,上記に挙げたインドールは低 濃度で花の香りの微量成分として用いられている.しか し,臭気質がどの濃度で変化するかなど判明してない点 も多くある. 本研究では,低濃度では野菜のクッキング臭,高濃度 で海苔の佃煮様で刺激の強い臭気を持つと言われる硫化 メチルを用いて,濃度差による臭気質の変化について検 証を行った.硫化メチルは昭和 47 年に施行された「悪 臭防止法」の特定悪臭物質に施行当時から指定されてお り5),悪臭公害の代表的な物質の一つとして,位置づけ られてきた.また,悪臭公害は生活環境の変化に伴い, 産業型から都市生活型に変化しており6),人々が生活す る住居内の臭気に対しても不快に感じる臭気があり,対 策が求められている.住居内のにおいに関する意識調査 において,不快なにおいとして生ごみ臭,トイレ臭,調 理臭,タバコ臭などが挙げられており,その中でも不快 とする人の割合の高い生ごみ臭の代表成分としてメチル メルカプタン,硫化メチルが検出されている7).なかで も野菜くずから高濃度の硫化メチルが検出されており8), 制御方法に関して検討がなされている.また,高齢者人 口の増加により,高齢者施設,在宅介護などが増え,介 護環境の快適性が求められている.病院内のにおいに関 するアンケート調査では,80%以上の看護職員がにおい に対し「気になる」と回答しており9),高齢者施設の臭 気に関する調査との比較では,ともに排泄物臭が気にな る割合が多いこと10)が分かっている.高齢者のおむつ 交換時における排泄物の臭気特性に関する研究では,排 泄物が付着したおむつの臭気をガスクロマトグラフ分析 計で測定した結果,硫化メチルが検出されている11).こ のように悪臭の主成分として扱われることの多い硫化メ チルであるが,その一方で食品衛生法施行規則,別表第 一で指定されている食品添加物の食品香料としても用い られている.硫化メチルは生活環境における悪臭として 除去しなければならない反面,添加することで生活を豊 かにする両極の面を持っている物質である. 本研究では,硫化メチルを用い,ヒトの嗅覚を用いた 官能試験を行い,感覚的に臭気質の変化するにおい物質 1) 2) 磯崎 文音(いそざき あやね)1),光田 恵(みつだ めぐみ)2),棚村 壽三(たなむら としみ)2) 大同大学大学院 〒457-8530 愛知県名古屋市南区滝春町 10-3 大同大学かおりデザイン専攻 〒457-8530 愛知県名古屋市南区滝春町 10-3濃度について明らかにすることを目的として検討を行 う.におい物質の濃度差により生じる臭気質の変化が嗅 覚受容体に関係していることから個人の嗅覚閾値が寄与 していると推測し,個人の嗅覚閾値を特定した上で,臭 気質に関する官能試験を行い,臭気指数と臭気質の関係 を検討するとともに,室内において不快でないレベルに 対応する空間の臭気濃度を求める.また,本研究では目 的から比較的低濃度の臭気質の検討が必要であり,無臭 空気として用いる空気の無臭の精度が求められるため, 無臭空気として用いる空気について特定悪臭物質 22 物 質および酢酸の物質測定および官能試験による質の確認 を行った.
2. 実験材料と方法
2.1 活性炭を用い作成した無臭空気の検討 2.1.1 無臭空気作成方法 無臭空気は 9 方分配管(近江オドエアーサービス (株))に活性炭を入れたものに空気を通し,製造した. におい・かおり環境協会の推奨を受けている試料採取用 袋 30 L(FL-F-030L,近江オドエアーサービス(株))に 無臭空気を充填した.なお,試料採取用袋内への物質吸 着を考慮し,無臭空気で 3 回共洗いを行った. 2.1.2 定量分析方法 アンモニアの定量分析は検知管法で行い,気体採取器 (AP-20,光明理化学工業(株)),検知管は(105SD,光 明理化学工業(株))を用いた.その他の特定悪臭物質お よび酢酸の定量分析は悪臭防止法で定められる公定法に 基づき,ガスクロマトグラフ分析計を用いて行った.用 いた装置および分析条件を表−1,表−2 に示す.定量 分析はすべての物質で 2 回行った. 2.1.3 官能試験方法 2. 1. 1 で作成した無臭空気を充填したにおい袋に鼻あ てを装着し,自己吸引にて評価させた.評価項目は 11 段階臭気強度評価,9 段階快・不快度評価,2 段階容認性, SD 法による臭気質評価である.それぞれの評価項目を 表−3~表−6 に示す.臭気強度は 6 段階臭気強度表示 法を用いたが,より詳細に臭気強度の変化をみるため, 間隔を 0.5 とし,11 段階で回答させた.パネルは T&T オルファクトメータを用いた嗅覚試験に合格し,正常な 嗅覚を有すると判断できる 21~22 歳の女子 5 名とした. 官能試験は評価に対するばらつきの確認も行うため,パ ネル 5 名に各 2 回行った. 2.2 硫化メチルの個人の嗅覚閾値特定に関する試験概 要 2.2.1 試料調整方法 10 L 試料採取用袋(FL-F-010L,近江オドエアーサー ビス(株))に活性炭を通した無臭空気を 10 L 充填し, 表−1 定量分析の装置と分析条件(1)マイクロシリンジ(80300,ハミルトン社)を用い,99 %硫化メチル試薬(1021-31103,ジーエルサイエンス (株))を 0.3 μL 注入した.なお,液体を気化させるため, 40℃に設定した恒温槽で 2 時間置いたものを原臭とし た.原臭は濃度を把握するため,試験使用直前にガス検 知管(パイロテック No. 53,(株)ガステック),熱分解 機器(パイロチューブ No. 840,ガステック),気体採取 表−2 定量分析の装置と分析条件(2) 表−3 11 段階臭気強度評価尺度 表−4 9 段階快・不快度評価尺度 表−5 2 段階容認性評価 表−6 無臭空気に対する SD 法による臭気質 評価の評価尺度
器(GV-100S,(株)ガステック)を用いたパイロテック 測定システムで濃度測定を行った.なお,パイロテック 測定システムを用いた濃度測定は,あらかじめガスクロ マトグラフ分析計との対応を確認しており,測定精度が 十分に確保できていることを確認し,本試験に用いた. 提示試料は求めた原臭濃度をもとに無臭空気を充填した におい袋への注入量を算出し,作成した. 2.2.2 試験手順 2. 2. 1 で作成した原臭を用いて,三点比較式臭袋法を 用い,閾値算出を行った.試料の提示には鼻あてを用い, 自己呼吸で吸引させた.硫化メチルは 0.8 ppm で臭気強 度 4 を示す5)ことが明らかになっており,強いと感じる 臭気から徐々に強度の低下をみることと試験の行いやす さを考慮し,初期の提示試料の濃度は 1 ppm とした. また有臭として選定したものに対し,11 段階臭気強度 評価,9 段階快・不快度評価,2 段階容認性,SD 法に よる臭気質および自由記述の評価を行った.臭気強度は 6 段階臭気強度表示法を用いたが,間隔を 0.5 とし,11 段階で回答させた.SD 法による臭気質評価は硫化メチ ルの臭気質の表現に必要とされる形容詞対 16 項目を選 定した.硫化メチルの臭気質評価に用いた項目と尺度を 表−7 に示す.個人嗅覚閾値は,不正解だった濃度とそ の一段階上の提示濃度の平均値を算術平均にて算出し, 得られた中間の濃度とした.パネルは,データの代表性, 信頼性を確保するため,T&T オルファクトメータを用 いた嗅覚試験に合格し,正常な嗅覚を有すると判断でき る 19~21 歳の健康な男女 10 名とした.また,パネルに はあらかじめ次の注意事項を与え,試験前に試料の安全 性についての説明を行い,同意の上で試験に参加させた. 注意事項は以下の通りである. ・飲食は試験の 15 分前までに済ませる. ・前日は必ず入浴し,洗体する. ・ 当日は香水や衣服の洗剤,柔軟剤などにおいがするも のの着用は控える. ・ 当日は納豆,にんにく,ネギ,ニラ,コーヒーなどに おいが強い食べ物の接種は避ける. 2.3 硫化メチルの臭気質に対する官能試験概要 2.3.1 試料作成方法 2. 2. 1 と同様とする.2. 2 で得られた結果から,5 段 階の濃度を設定し,試料作製を行った.提示試料濃度を 表−8 に示す. 2.3.2 試験手順 2. 3. 1 で作成した試料に対し,2. 2 と同様の評価項目 で臭気質評価を行った.各試料の提示には 5 分間のイン ターバルを設け,上昇法で行い,鼻あてを使用し,吸引 させた.パネルはデータの代表性,信頼性を確保するた め,T&T オルファクトメータを用いた嗅覚試験に合格 した 18~19 歳の健康な男女 25 名とし,注意事項等は 2. 2. 2 と同様である.個人嗅覚閾値は 臭気強度 1 以下 と回答した濃度とその一段階上の提示濃度の平均値を算 術平均にて算出し,得られた中間の濃度とした.
3. 結果および考察
3.1 無臭空気として用いる空気の測定結果 3.1.1 臭気成分分析結果 無臭空気に対する特定悪臭物質 22 物質および酢酸の 定量分析結果を表−9 に示す.2 回の測定結果から,酢 酸以外の物質で検出下限値以下であり,ばらつきが少な いことから,2 回の測定結果で解析をおこなった.酢酸 のみ検出されたが,閾希釈倍数は 1 未満であった.硫化 水素,メチルメルカプタン,トリメチルアミン,ノルマ ル吉草酸,イソ吉草酸は閾値より検出下限値が高かった ため,上記 5 種の物質では,においに影響ないレベルま で除去できているかは,不明確である.活性炭を用いて 製造された無臭空気は上記 5 種を除く他の特定悪臭物質 および酢酸に対し,各物質単体での影響ないと考えられ るレベルまで除去できていることが明らかになった. 表−7 硫化メチルに対する SD 法による臭気 質評価の評価尺度 表−8 臭気質に対する官能試験の提示試料3.1.2 官能試験結果 5 名の 2 回分の評価結果である 10 データの臭気強度, 快・不快度の平均値および被験者全体の中で,そのにお いが「容認できない」と回答した割合を示す非容認率を 算出した結果,臭気強度 0.64 標準偏差 0.57,快・不快 度 0,標準偏差 0,非容認率 0%であった.臭気強度は 検知閾値である臭気強度 1 未満であったため,臭気を検 知できないレベルである.また,快・不快度に対しても 全てのデータでどちらでもないという結果から,設定し た無臭空気が複数のにおい物質が合わさった複合臭とし て臭気質に与える影響は検知レベル以下であることが明 らかになった. 3.2 硫化メチルの個人の嗅覚閾値特定に対する試験概 要 3.2.1 嗅覚閾値の検討 10 名で実施した個人の嗅覚閾値特定に対する試験の 個人閾値および上下 1 データずつカットし,算術平均に て求めた平均閾値を表−10 に示す.永田らの閾値12)で ある 0.003 ppm と比較すると,平均では若干高い値と なった.個人の閾値を比較すると最大で 100 倍の差がみ られたことから,個人閾値が最も低い被験者と最も高い 被験者では濃度差が 100 倍の試料を提示していても,感 じている強さである感覚強度は同等であることが明らか になった.そのため,臭気質の変化を明らかにするには, 感覚強度の個人差を相殺した指標での検討が不可欠であ る. 3.2.2 硫化メチル物質濃度および臭気指数に対する 評価の比較 10 名で実施した個人の嗅覚閾値特定に対する試験の 物質濃度および臭気指数に対する臭気強度の関係を図− 1,図−2 に示す.相関係数はどちらも 0.1%水準で有意 な相関があると認められた.物質濃度の対数に対する臭 気強度と臭気指数に対する臭気強度を比較すると,臭気 指数に対する相関係数の方が強い相関を示した.全体的 な傾向では,臭気強度は物質濃度の対数より臭気指数の 方が相関が強い,個人閾値の差が影響していると考えら れる.そのため,個人の嗅覚閾値を基にした感覚量であ る臭気指数に対する質の変化を検討していく必要があ る. 表−9 特定悪臭物質および酢酸の定量分析結果 表−10 10 名で実施した個人の嗅覚閾値特定 に対する試験の個人閾値
3.3 硫化メチルの臭気指数における臭気質の変化の検 討 3.3.1 臭気質に対する個人差の検討 25 名に実施した試験により得られた各パネルの臭気 指数に対する快・不快度の動向を図−3,図−4 に示す. 快側に注目すると,パネル a,パネル m は,常に快と 評価している.硫化メチルの臭気質は常に快と回答する 者が少数であるが存在することが考えられる.これらの パネルは,自由記述欄に「コーンポタージュ」と記述し ており,硫化メチルの臭気質として「コーンポタージュ」 を想起させることがあり,快側に回答しているものと推 測できる. 3.3.2 快・不快度からの検討 25 名に実施した試験により得られた臭気指数に対す る快・不快度の関係を図−5 に示す.先に述べた通り, 硫化メチルにおいて高濃度でも快側に評価するパネルが 存在する一方,全体では臭気指数が上昇するにつれて, 不快側の評価が増加している.ここでは,全体的な傾向 をみるため,回帰直線から不快と感じられる臭気指数を 算出する.快から不快への変化点を明確に不快を示す-1 とすると,不快度-1 の時には臭気指数 18(臭気濃度 80)になった. 3.3.3 臭気質評価からの検討 SD 法による臭気質評価を基に,臭気濃度ごとの臭気 質について臭気質の特徴および変化を明らかにする.な お,臭気濃度は臭気濃度 1~3 未満,臭気濃度 3~10 未 満…と 3 倍系列ごとに分けたものを群とし,各臭気濃度 群単位で解析を行った. (1)臭気質が変化する濃度の検討 硫化メチルの臭気質は個人差もみられたが,個人差を 含め,SD 法で得られた臭気質評価から臭気質変化に対 し,検討を行う.25 名に実施した臭気質に対する官能 図−1 10 名で実施した個人の嗅覚閾値特定に対する試 験の物質濃度と臭気強度の関係 (注)丸の大きさは回答した人数を示す 図−2 10 名で実施した個人の嗅覚閾値特定に対する試 験の臭気指数と臭気強度の関係 (注)丸の大きさは回答した人数を示す 図−3 各パネルの臭気指数に対する快・不快度の変化 (パネル a∼パネル l) (注)臭気指数が上昇した場合での快側の評価をしているパネルを 黒線で示した . 図−4 各パネルの臭気指数に対する快・不快度の変化 (パネル m∼パネル y) (注)臭気指数が上昇した場合での快側の評価をしているパネルを 黒線で示した .
試験で得られた臭気質評価をもとに,臭気濃度群で解析 を行う. 各臭気濃度に対する平均値プロフィールを図−6 に示 す.形容詞の系統ごとに 4 つに分類し,表示した.「快 適性」として「きれい」「清潔」「清々しい」などを,「刺 激性」として「穏やかな」,「鈍い」などを,「印象」と して「華やかな」「鮮やかな」などを,「状態」として「あっ さり」「甘い」などを分類した.また,左側にプラスと 図−5 25 名に実施した臭気指数に対する快・不快度の関係 (注)丸の大きさは回答した人数を示す 図−6 臭気質に対する官能試験で得られた臭気濃度 3 倍系列ごとの平均値プロフィール
考えられる形容詞,右側にマイナスと考えられる形容詞 とした.形容詞対ごとに各臭気濃度群間の有意差検定を 行った.結果,各形容詞対における臭気濃度群間の評価 に有意な差はみられなかった. 各形容詞対で有意差が見られなかったことから,SD 法における臭気質評価を総合的に解析するため,各臭気 濃度ごとの臭気質の類似性について検討を行った.SD 法による臭気質評価を基に,平均値プロフィールを作成 し,その平均値プロフィールのパターン類似率から,各 条件の臭気質の類似性を検討した.パターン類似率は, 比較する 2 つの試料に対し,評価パターンの類似率を示 した指標であり,機器分析によって得られるスペクトル として数値群パターンを解析する必要上から発展してき たものである.2 つの数値群パターン A(a1,a2,… an)とパターン B(b1,b2,…,bn)とのパターン類 似率を S(A,B)とすると,次式で示される13), 14). ・・・(式 1) パターン類似率はパターンが同一の成分を含まないと き 0 となり,パターンが似ているほど 1 に近い数値をと り,パターンがまったく同じなら 1 となる.大迫らはに おい質に対するパターン類似率と感覚的類似度である 11 段階類似度尺度13)との関係を示している.パターン 類似率 0.9 以上で類似度 4.5~6.5 以上で結構,酷似して いる,パターン類似率 0.8 以上で類似度 3~5.5 以上でや や,酷似していると判断できることから明らかとなって いる14). 既往の研究の類似性の判断を参考に,本研究では各提 示試料間のパターン類似率 0.8 を基準として検討する. SD 法を用いた臭気質評価における平均値プロフィール に基づき「どちらでもない」を 0 とし,-3~+3 まで の 7 段階における両側尺度での各臭気濃度群間のパター ン類似率を図−7 に示す.「臭気濃度 1~3 未満」と「臭 気濃度 3~10 未満」の低濃度間,「臭気濃度 100~300 未 満」と「臭気濃度 300~」の高濃度間では中濃度間と比 較し,隣接群における類似率が高いことが明らかとなっ た.各臭気濃度群間のパターン類似率を「臭気濃度 1~ 3 未満」と「臭気濃度 3~10 未満」等の 3 倍間隔,「臭 気濃度 1~3 未満」と「臭気濃度 10~30 未満」等の 10 倍間隔,「臭気濃度 1~3 未満」と「臭気濃度 30~100 未 満」等の 30 倍間隔,「臭気濃度 1~3 未満」と「臭気濃 度 100~300 未満」等の 100 倍間隔,「臭気濃度 1~3 未満」 と「臭気濃度 300~」の 300 倍間隔と臭気濃度群の間隔 ごとのパターン類似率に着目する.臭気濃度 10 倍間隔 のパターン類似率において,「臭気濃度 10~30 未満」と 「臭気濃度 100~300 未満」では類似率 0.34 であり,他 の 10 倍間隔の類似率と比較し,非常に低い値となった. また 30 倍間隔の「臭気濃度 3~10 未満」と「臭気濃度 100~300 未満」,100 倍間隔の「臭気濃度 1~3 未満」と 「臭気濃度 100~300 未満」とのパターン類似率が低いこ とから,臭気濃度 100 未満と臭気濃度 100 以上で臭気質 評価のパターンが変化している可能性が示唆された. (2)変化する臭気質の詳細についての検討 3. 3. 3(1)の結果より,臭気質は臭気濃度 100 を境 に平均値プロフィールのパターンの変化が見られたこと から,「臭気濃度 100 未満」と「臭気濃度 100」以上」2 群での臭気質について解析を行う. 図−7 臭気濃度ごとのパターン類似率
図−8 に「臭気濃度 100 未満」,「臭気濃度 100 以上」 の平均値プロフィールと各項目における有意差検定の結 果を示す.「印象」「状態」は臭気濃度が変化しても,ほ ぼ同位置にプロットされており,差は見られなかったが, 「快適性」「刺激性」は「印象」「状態」と比較し,「臭気 濃度 100 未満」と「臭気濃度 100 以上」の評価に差がみ られた.「臭気濃度 100 以上」では,「臭気濃度 100 未満」 よりマイナス側に評価されていた.各項目に対し,有意 差検定を行った結果,「清々しい-うっとうしい」「好き-嫌い」「鈍い-鋭い」の評価に対し,5%水準で有意な差 が認められた.このことから臭気濃度 100 以上でうっと うしさ,鋭さが上昇し,嫌いな臭気質になる.自由記述 では,臭気濃度 100 未満では「やさしい」「甘い」など があるのに対し,100 以上では「はっきり」「濃い」な ど刺激のあることを想起させる言葉が多くみられた.
4. 結論
本研究は高濃度と低濃度で臭気質が変化する物質に対 し,臭気質が変化する濃度を明らかにすることを目的に, 個人の嗅覚閾値と官能試験から得られた臭気質評価の結 果から,次のことが明らかになった. 1)臭気強度に対し,におい物質濃度に比べ,個人の閾 値を基にした臭気指数の相関が高く,臭気質の検討には, 個人の嗅覚閾値の差から生じる濃度の個人差を省ける感 覚量である臭気濃度および臭気指数を用いる必要がある ことが明らかになった. 2)臭気質に変化が現れる物質濃度は個人の閾値で 100 倍の差があることが影響し,臭気質に変化が現れる濃度 を明確にすることはできなかった. 3)硫化メチルの臭気質は個人差が顕著にみえる物質で あり,全体では臭気濃度が上昇するにつれ,不快度が高 くなる傾向にあるが,臭気濃度が上昇しても,常に快と 感じる被検者が一定数存在することが確認できた. 4)におい物質濃度を閾値に基づく臭気濃度に変換して 検討すると,硫化メチルでは,臭気濃度 80 で明確に不 快の評価となり,臭気濃度 100 で臭気質評価にも変化が みられることが明らかとなった.したがって,個人の閾 値から 80 倍の濃さになると,臭気質の変化を感じ,100 倍になると明確にうっとうしさ,鋭さが上昇することが 明らかとなった.キーワード
:嗅覚, 閾値, 官能試験, 臭気濃度, 臭気 質,硫化メチル 図−8 臭気質に対する官能試験で得られた「臭気濃度 100 未満」と「臭気濃度 100 以上」の平均値プロフィール参考文献
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concentrations of dimethyl sulfide
Ayane ISOZAKI1), Megumi MITSUDA2), Toshimi TANAMURA2)
1) Daido University Graduate school, 10-3 Takiharutyo, Nagoyashi, Aichi 457-8530, Japan 2) Daido University, 10-3 Takiharutyo, Nagoyashi, Aichi 457-8530, Japan
Abstract The present study examined dimethyl sulfide, a substance with an odor quality that varies at high and low concentrations. The concentration at which the change in odor quality occurred was shown and changes in odor quality and characteristics of odor quality were clarified using this concentration as a base point. The fact that the phenomenon whereby odor quality changes at different concentrations occurs at the odorant receptor level suggests that individual odor thresholds make a contribution. The present study measured individual odor thresholds in ten subjects using the triangle odor bag method to elucidate trends in changes in odor intensity and pleasant/unpleasant evaluation. In addition, sensory evaluations were carried out in 25 subjects to elucidate the concentrations at which changes in odor quality occurred and characteristics of odor quality. The results obtained are shown below. 1) A hundred-fold difference was observed in individual odor thresholds for dimethyl sulfide. 2) Odor intensity showed greater correlation with odor index than odorant concentration, and it was found necessary to use sensory amounts for odor concentration and odor index to examine odor quality. 3) It was found that a change in odor quality was sensed at a concentration eighty times greater than the odor threshold.Vexatiousness and sharpness increased clearly at a concentration a hundred times greater. Key words : olfaction, threshold, sensory test, odor concentration, odor quality, dimethyl sulfide
(受稿 平成 28 年 3 月 18 日) (受理 平成 28 年 11 月 30 日)