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全節巻スイッチトリラクタンスモータの高性能化に 関する研究

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(1)

全節巻スイッチトリラクタンスモータの高性能化に 関する研究

著者 石川 智一

著者別表示 Ishikawa Tomokazu

雑誌名 博士論文本文Full

学位授与番号 13301甲第4820号

学位名 博士(工学)

学位授与年月日 2018‑09‑26

URL http://hdl.handle.net/2297/00053063

Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja

(2)

博 士 論 文

全節巻スイッチトリラクタンスモータの 高性能化に関する研究

2018 年 9 月

石川 智一

(3)

目 次

第 1 章 序論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

1.1 本研究の背景 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1

1.1.1

自動車を取り巻く環境 ・・・・・・・・・・・・・・ 1

1.1.2 自動車駆動用モータの研究動向 ・・・・・・・・・・

4

1.2 SRM

の特徴と位置づけ ・・・・・・・・・・・・・・・ 11

1.3 SRM

の先行研究における取り組み ・・・・・・・・・・ 13

1.4 本研究の目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

13

1.4.1 研究の新規性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

14

1.4.2 研究の狙い ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

15

1.5 本研究の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

17

第 2 章 全節巻 SRM の駆動原理と発生トルク ・・・・ 21

2.1 全節巻SRM

の駆動原理 ・・・・・・・・・・・・・・・ 21

2.2 全節巻SRM

の発生トルク ・・・・・・・・・・・・・・ 23

2.3 全節巻SRM

の検討モデル ・・・・・・・・・・・・・・ 25

2.4 全節巻SRM

の制御 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28

第 3 章 全節巻 SRM の高出力駆動 ・・・・・・・・・・ 32

3.1 全節巻SRM

の自動車駆動用モータへの適用 ・・・・・・ 32

3.2 全節巻SRM

の出力特性検討 ・・・・・・・・・・・・・ 33

3.2.1 シミュレーションによる特性検討 ・・・・・・・・・

33

3.2.2 シミュレーションの実機検証 ・・・・・・・・・・・

34

3.3 高速駆動領域の出力特性と課題 ・・・・・・・・・・・・

48

3.4 高速駆動領域における銅損低減手法の検討 ・・・・・・・

53

(4)

3.4.1 高速駆動領域における駆動電流 ・・・・・・・・・・

53

3.4.2 高速駆動領域における銅損低減手法 ・・・・・・・・

56

3.5 実機検証 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

64

3.5.1 実機評価の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・

64

3.5.2 実測結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

64

3.6 全節巻SRM

の高速駆動領域における出力向上 ・・・・・ 70

3.7 本章のまとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

73

第 4 章 全節巻 SRM における実用効率の向上 ・・・・ 75

4.1 自動車駆動用モータにおけるSRM

の課題 ・・・・・・・ 75

4.2 先行研究におけるSRM

効率向上の取り組み ・・・・・・ 80

4.3 全節巻SRM

の効率分析と問題点 ・・・・・・・・・・・ 83

4.3.1 全節巻SRM

の効率分析 ・・・・・・・・・・・・・ 83

4.3.2 全節巻SRM

の効率における問題点 ・・・・・・・・ 84

4.4 全節巻SRM

の実用駆動領域における効率向上手法 ・・・ 96

4.5 磁束波形制御法のシミュレーション検証 ・・・・・・・・

103

4.5.1 磁束波形制御のための電圧制御法 ・・・・・・・・・

103

4.5.2 鉄心磁束における高調波成分の低減効果検証 ・・・・

105

4.6 実機検証 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

121

4.6.1 実機評価の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・

121

4.6.2 鉄心磁束波形の実測結果 ・・・・・・・・・・・・・

123

4.6.3 磁束波形制御による効率評価結果 ・・・・・・・・・

124

4.7 本章のまとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

135

第 5 章 結論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 137

謝辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 139

(5)

1

第1章 序論

1.1 本研究の背景

1.1.1 自動車を取り巻く環境

近年,世界各地において,海面上昇や洪水,干ばつ等の異常気象が深刻化している.

これらの現象は,地球温暖化により引き起こされていると考えられている.図1-1 は,

1981 年から 2010 年までの平均気温を基準とした時の各年の平均気温との偏差を示し

ている(1-1).図1-1 によると,世界の平均気温は,長期的には,100年あたり約0.73℃

の割合で上昇している.特に1990年半ば以降の世界の年平均気温は,上昇傾向となっ ている.このことから,世界各地において,地球温暖化が進行していることは明白であ る.地球温暖化は,工業化の進展や自動車の普及にともなう温室効果ガスの排出増加が 主要因と考えられている.図1-2に日本の温室効果ガス排出量及び吸収量の推移を示す

(1-2).図 1-2 によると,2015 年度の温室効果ガスの総排出量は,二酸化炭素(Carbon

dioxide:以下CO2)換算で,13億2,500万トンとなっている.うちCO2排出量は,12

億 2,500 万トンであり,温室効果ガス総排出量の約 92.5%を占めている.こういった

状況から,地球温暖化問題の解決には,CO2排出量の抑制が最も効果的であり,先進国 を中心とした世界各国においても取り組みが進んでいる.また,日本においても同様に 進められている.図1-3 は,日本の部門別 CO2排出量の推移を示している(1-2).表 1-1 は,各部門のCO2排出量の推移を示している(1-2).運輸部門のCO2排出量は,約16.7%

を占めており,このうち約9割は自動車からの排出量である.このため,自動車分野に おける CO2排出量の削減は,地球温暖化に対して重要視すべき課題であるといえる.

また,2017 年にドイツ・ボンで開催された国連気候変動枠組条約第 23 回締約国会議

(COP23)において,日本政府は,2030年度末までに温室効果ガスを2013年度比26%

削減することを目標として掲げており(1-3),自動車分野においても目標達成に向けた取 り組みが進められている.

このような中で,CO2排出を抑えた自動車の普及は,とりわけ重要な施策の一つとな っている.日本政府は,「低炭素社会づくり行動計画(平成20年7月閣議決定)」,「エ ネルギー基本計画(平成26年4月閣議決定)」,「日本再興戦略2016(平成28年6月

(6)

2

閣議決定)」等の文書において,環境性能に優れた自動車の普及目標を掲げている(1-4). 環境性能に優れた自動車は,従来の内燃機関と電気モータを組み合わせたハイブリッド 自動車(Hybrid Electric Vehicle:以下HEV)やプラグインハイブリッド自動車(Plug-in

Hybrid Electric Vehicle:以下PHEV),そして,電気モータのみで駆動力を得る電気自動

車(Electric Vehicle:以下EV),水素をエネルギー源とした燃料電池自動車(Fuel Cell

Electric Vehicle:以下FCEV)をはじめとした低燃費かつ低排出ガスとなる自動車が次世

代自動車と定義づけられている.日本政府の次世代自動車の普及目標は,2030 年まで に新車販売の5割から7割を目指すことが明記されている(1-4)

一方,気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change:以

下 IPCC)における第5次評価報告書(1-5)によれば,2100 年における気温上昇は,現状

を上回る追加的な温暖化対策を取らなかった場合,2.6~4.8℃上昇するとされている.

将来的な温度上昇を2℃以下に抑えるには,2050年までに温室効果ガスを40~70%削 減(2010 年比)することが必要とされている.すなわち,低燃費かつ低排出ガスとな る次世代自動車の普及が不可欠といえる.次世代自動車のうち,EV,およびFCEV等 の電気モータのみを駆動源とする車両は,走行中の CO2排出量がゼロである特徴を有 する.加えて,自動車駆動用途としての電気モータのエネルギー変換効率は,概ね90%

超と高く,ガソリンエンジン等の内燃機関と比較してエネルギーコスト低減の観点から も優れている.一方,EVは,これまでのHEVにおいて搭載されていた内燃機関が存 在しないため,車両の要求駆動特性を電気モータのみで担わなければならない.具体的 には,上り坂の発進等で必要となる停止時からの大トルク特性や,高速巡行や走行時の 加速等で必要となる高出力特性をはじめとした,広範囲な駆動特性が電気モータに求め られる.また,EV のエネルギー源として搭載されるバッテリーのエネルギー密度は,

内燃機関のエネルギー密度と比較して小さい.加えて,EV へのバッテリー搭載量は,

体積,重量,およびコストの面から制約を受ける.以上より,バッテリーの搭載制約の ため,EVは,一充電あたりの航続距離が短い課題を有しており,将来的なEVの普及 拡大を踏まえると,エネルギーの効率的な活用による航続距離の拡張が重要となる.

モータの特性向上技術に着目すると,1983年に佐川(現 インターメタリックス株式 会社 最高技術顧問)により,レアアース金属であるネオジウム(Nd)を用いることに より高エネルギー積を持つNd-Fe-B磁石が発明された.以降,小型で高効率な永久磁石

(7)

3

同期モータ(Permanent Magnet Synchronous Motor:以下PMSM)が自動車駆動用途とし て研究開発が進められ,現在のEVにおける駆動用モータとして主流となっている.一 方,自動車駆動用としての電気モータの活用は,広範囲かつ大出力となる駆動特性を要 する.そのため,発熱量も大きく磁石が高温化する.この磁石の高温化に伴い,磁石は 高温減磁を起こすため,電気モータの性能劣化を伴うことが問題となる.

これに対して,磁石メーカでは磁石の熱に対する弱さに対応するため,重希土類レア アース金属の一種であるディスプロシウム(Dy)をNd-Fe-B磁石に添加することによ り,高温減磁特性を改善してきた.これにより,電気モータの自動車駆動用途への適用 が進められた.

図1-4に2010年6月以降におけるレアアース・メタルの軽希土類金属の輸入価格推 移を示す.図1-5に2010年6月以降におけるレアアース・メタルの重希土類金属の輸 入価格推移を示す.なお,図1-4,および図1-5は,価格帯に差があることから,縦軸 の値が異なっている.2010 年の尖閣諸島問題に端を発した中国によるレアアース金属 の輸出規制の影響を受け,2011年におけるレアアース・メタルの輸入価格は,2010年 時点の約8倍にまで高騰した.これは,レアアースの供給源が2011年時点では,中国 一国に集中していたことが主な要因である.このレアアース輸入価格の高騰を受け,供 給源の分散化や磁石の耐熱性能向上のためのDy使用量の削減,ないしは不使用となる レアアース磁石の開発が進められてきた.その結果,2017 年時点ではレアアース・メ タルの輸入価格は,2010年と同等水準にまで低下してきた.表 1-2に日本国内におけ る次世代自動車(乗用車)の販売台数の推移を示す.表1-3に日本国内における乗用車 の新車販売台数の推移を示す.HEVは,1997年にトヨタ自動車株式会社からプリウス が発売されて以来,その販売台数は年々増加傾向にある.表 1-2 に示すように,HEV の販売台数は,2016年には100万台を超える.また,EVは,2009年に三菱自動車工 業株式会社からアイ・ミーブの量産製造が開始されて以降,販売台数はHEV同様に増 加傾向となっている.EVは,2016年には1万5000台を上回る販売台数となっている.

HEV,EVをはじめとした車両の電動化傾向は,将来的にも進むと考えられており,表 1-4に示すように,日本国内における2030年目標としての次世代車両の構成比率は,

HEV,EV,PHEVが大半を占めることからも明らかである.なお,表1-4におけるハ

イブリッド自動車HV(Hybrid Vehicle)は,本論文におけるHEVと同義である.

(8)

4

1.1.2 自動車駆動用モータの研究動向

現在量産されているHEVやEVの駆動用モータは,高性能なレアアース磁石を用い たPMSMが主流となっている.駆動用モータは,今後の次世代車両における電動化車 両販売台数の増加を鑑みて,レアアース材料の調達リスクや価格の不安定要素といった 資源課題を有しており,レアアース磁石を用いない駆動用モータについての研究開発が 進められている(1-12)-(1-15).磁石を用いない駆動用モータとして検討されている代表的な 事例として,同期リラクタンスモータ(Synchronous Reluctance Motor:以下SynRM),

巻線界磁式同期モータ(Wound Field Synchronous Motor:以下WFSM),誘導電動機

(Induction Motor:以下IM),スイッチトリラクタンスモータ(Switched Reluctance

Motor:以下SRM)が挙げられる.SRMについては,巻線方式の違いにより,集中巻

SRMと全節巻 SRM とに分類され,最大トルクが異なる特徴を有する報告もなされて

い る(1-17). 図 1-6 に , 各 研 究 事 例 に お い て 検 討 さ れ て い る 駆 動 用 モ ー タ(1-12)

(1-13)(1-15)(1-16)(1-19)(1-20)について,体格 [L] に対する最大トルク [Nm] を示す.なお,最

大トルクを体格で除した値をトルク密度 [Nm/L]と定義して,それぞれの値を図中に示 す.トルク密度を比較すると,PMSMが75.6[Nm/L]であるのに対して,レアアース磁 石を用いないSynRM,WFSM,IM,全節巻SRM,集中巻SRMはそれぞれ,38.7[Nm/L], 41.3[Nm/L], 56.8[Nm/L], 54.0 [Nm/L], 43.5 [Nm/L]と低い値である.図1-7に最大ト ルク時と最高回転時における出力値の比較を示す.表1-5に最大トルク時の出力値と最 高回転時の出力値を示す.また,最大トルク時の出力値に対する最高回転時の出力値の 変化率を併記する.トルク密度でPMSMを上まわる性能を有するIMは,最大トルク 時の出力に対して最高回転速度時の出力が大きく低下している.一方,全節巻 SRM,

集中巻SRM,WFSMについては,最高回転速度時においても出力低下が認められない.

自動車駆動用モータは,広範囲な出力特性が求められるため,高速駆動時において出力 低下が起こらないことに加えて,トルク密度が高いことが重要となる.以上より,レア アース磁石を用いないモータのうち,SRM は,トルク密度,および広範囲な出力特性 の確保といった観点で優位である.

(9)

5

Fig.1-1 Trend of global average temperature deviation (1891 - 2017) (1-1)

Fig.1-2 Changes in greenhouse gas emissions and absorption in Japan (1-2)

(10)

6

Fig.1-3 Changes in carbon dioxide emissions by sector in Japan (1-2)

Table.1-1 Changes in carbon dioxide emissions by sector (1-2)

(11)

7

Fig.1-4 Rare metal import price transition (Light rare earth) (1-6)

Fig.1-5 Rare metal import price transition (Heavy rare earth) (1-6)

(12)

8

Table.1-2 Domestic sales volume changes of next-generation automobiles (passenger cars) (1-9)

Table.1-3 New car sales in Japan (passenger cars) (1-10)

(13)

9

Table.1-4 New car sales results and goals for next-generation automobiles (1-11)

Fig.1-6 Torque densities comparison of traction motors without magnets

(14)

10

Fig.1-7 Output comparison at each driving point

Table.1-5 Output comparison at each driving point

PMSM IM Full-pitch

SRM

Short -pitch

SRM WFSM

Power at Max. torque [kW]

54.2 70.7 31.0 31.0 79.6

Power at Max. rev.

[kW]

42.5 18.8 31.4 31.4 62.8

Output ratio -21.5% -73.3% 1.3% 1.3% -21.1%

(15)

11

1.2 SRM の特徴と位置づけ

第1章第1節で述べたようにSRMは,磁石を用いないモータとして注目されている.

図1-8にSRMの構成を示す.SRMの基本構成は,磁気回路である鉄心と,巻線であ る銅コイルとで構成される.表1-6にSRMの特徴と長所を示す.SRM は,レアアー ス金属を用いておらず,低コストなモータである.また,回転子が鉄のみで構成される ため,遠心力に対して堅牢であり高速回転が可能である.回転子に高温環境下において 減磁による性能低下を伴う磁石を用いていないため,高温下での運転が可能である.モ ータの発熱源が,主として固定子であるため,冷却が容易である.以上から,SRM は 構造面に起因する長所を多く有しているため,自動車駆動用の可変速モータとして注目 されている.一方で,表1-7にSRMを含む各種モータの代表的な特性比較を示す.SRM はPMSMに比べて最大効率,および軽負荷時の効率が低い等,性能面での課題も多く 有する.

Fig.1-8 Components of the SRM

(16)

12

Table.1-6 Characteristics of the SRM(1-7)

特徴 長所

1. 主として固定子が発熱,回転子の発熱は小 2. 回転子構造が堅牢

3. 高温下での運転が可能 4. 巻線が簡単

5. 回転子構造が簡単 6. 材料の入手が容易 7. 組み立てが簡単 8. 突極性あり 9. 磁束調整が容易

冷却容易

高エネルギー密度 コンパクト化

大量生産に適す 安価

極低速でセンサレス化が容易 高速運転が容易

Table.1-7 Characteristics comparison of various motors(1-8)

PMSM SRM

Max. efficiency

[%] 95-97 Less than 90

Efficiency (10% load)

[%] 90-92 78-86

Max. speed [rpm]

4,000 -10,000

Less than 15,000 Cost / power

[$/kW] 10-15 6-10

Controller cost 2.5 4.5

Robustness Good Good

Reliability Good Good

(17)

13

1.3 SRM の先行研究における取り組み

第1 章第1 節第2 項で述べたように,自動車駆動用モータは高いトルク密度と広範 囲な駆動特性が求められる.SRMは磁石を用いないモータの中では,高いトルク密度,

および広範囲な出力特性の確保が可能といった観点で優位である.そのため,SRM を 自動車駆動用途へ適用する検討を進めている研究事例も存在する(1-22) (1-23).一方で,前 節で述べたようにSRMのモータ効率は,PMSMに比べて低い特徴を有する(1-8).この SRM において,モータ効率向上の取り組みは,モータ設計改善から制御方式の改善に 至るまで,さまざまな研究がなされている(1-24)-(1-27).また,SRMのうち全節巻方式によ る巻線構造を有する全節巻 SRM は,トルク密度が高いモータとして研究されている

(1-18).自動車駆動用途としての研究事例において,集中巻 SRMと全節巻 SRMの特性

(出力特性,効率)が比較されている(1-28) (1-29).Husainらの研究事例(1-28)では,磁気回 路が同一の幾何形状を有する条件において,集中巻と全節巻の巻線方式の違いによる特 性比較を報告しており,全節巻SRMは,高トルクかつ低回転速度となる要求特性を有 する用途に適していると結論付けている.Gallegos-Lopezらの研究事例(1-29)では,全節

巻SRM,集中巻 SRM ともに同一出力を発生することが可能であることが示されてい

る.しかしながら,高速駆動領域においては,出力を得るための必要電流が増大するこ とが報告されており,全節巻SRMは,高速駆動領域における損失が増加することが示 されている.また,Husainらの研究事例(1-28)では,全節巻SRMと集中巻SRMの効率 が比較されている.ここで,最高効率点は 90%超である.最高効率時の駆動点は,相 対的に高速,大出力領域に存在する.一方で,低トルク低回転速度となる軽負荷領域に おけるモータ効率は,相対的に低い.すなわち,全節巻SRMを自動車駆動用に適用す るための効果的な研究事例はなされていない.

1.4 本研究の目的

本研究では,EV等の次世代車両の動力源として重要となるモータを対象とする.モ ータは,将来的な次世代車両の増加に伴いレアアース金属の供給不足が懸念される.そ こで,レアアース金属を用いない全節巻SRMについて,小型・高性能化が可能な技術 の確立を目的とする.

(18)

14

1.4.1 研究の新規性

トルク密度と高速駆動時の出力特性を両立可能な全節巻SRMにおいて,

① 高速駆動域において,銅損増大の問題が報告(1-29)されているが,その対応方法につ いての研究はなされていない.

② 駆動用モータとして全節巻SRMを適用する検討はなされている.Husainらの先行

研究(1-28)では,モータ駆動領域における効率評価がなされている.しかしながら,

集中巻SRMと全節巻SRMを比較した時の課題抽出にとどまっている.EV等に代 表される次世代自動車において,航続距離の拡張を可能にする,常用駆動域である 低トルク,低回転速度である軽負荷領域における効率向上に関する研究はなされて いない.

上述のことから,自動車駆動用途として全節巻SRMの適用を検討するにあたり,広 範囲な駆動特性の実現,および常用駆動域における効率向上の検討が十分になされてこ なかった.そのため,全節巻SRMは,自動車駆動用途において広く普及するには至ら なかったものである.本研究は,上記課題に鑑み,全節巻SRMについて,制御法によ り高速域,低速域に適応させることを目的とする.高速域では,基本制御手法である電

気角で240 deg.の通電幅,および駆動電流の切替えが同時のタイミングである制御手法

について,通電幅に自由度を持たせることにより高速駆動域における銅損を抑制する制 御手法を提案する.低速域では,矩形波電流による制御手法が構築されている.この矩 形波状の電流波形に起因して,モータ内部の磁束には高調波成分が含まれる.これによ り鉄損が増加する.一方,モータ内部の磁束はモータ巻線への印加電圧が直接の制御因 子となる.ここで,全節巻SRMにおいて,モータ巻線へ高調波成分を抑制した電圧を 印加する制御方式を提案する.これにより,モータ内部の磁束の高調波を抑制すること ができる.結果として,全節巻SRMにおける鉄損低減が可能となる.高効率化が重要 となる軽負荷領域ではトルクが小さく必要電流が小さい.そのため,発生損失はモータ 巻線に電流が流れることに起因する銅損に比べ,モータ内部の磁束変化に起因する鉄損 が相対的に大きい.すなわち鉄損低減により,常用駆動領域においてモータ効率の向上 が可能となる.以上2つの提案により,全節巻SRMを自動車駆動用途へ適用する上で の課題を解決することができ,自動車駆動用途への適用検討を進めることが可能となる.

(19)

15

1.4.2 研究の狙い

本研究では,EVを対象とした駆動用モータへの全節巻SRMの適用を想定しており,

モータ使用全領域において現状PMSMと同等の出力性能を確保することを目標として いる.Gallegos-Lopezらの研究事例(1-29)において,全節巻SRMは高速駆動領域におい て銅損が増加することが知られている.このため,モータ出力に対する銅損が高速側で 増加し,高速駆動域においてモータ効率が低下する.一方,集中巻SRMは,最大トル ク時に銅損が最大となり,高速駆動領域になるにつれ,出力に対する銅損が高速側で低 下する.図1-9に量産EVにおけるモータの回転速度に対するトルク,および出力の特 性を示す.EV駆動用のモータ特性は,モータ停止時から一定のトルク出力を発生する.

この時,回転速度の増加にともない出力も増加する.また,モータの最大出力点に到達 すると,回転速度の増加にともないトルクは低下する.最大出力点に到達した後のモー タ出力は一定値を取る.ここで,出力はトルクと回転速度の積で表される.一方,自動 車駆動用モータには駆動回路としてのインバータ装置が必要となる.このインバータは,

モータに必要となる電流量に応じて設計される.一般的には,モータの最大電流量は,

最大トルクを発生する最大出力点における必要電流容量により規定される.Husainら の研究事例(1-28)では,最大電流量を規定して集中巻 SRMと全節巻 SRM の性能を比較 している.この最大電流量の制約により,全節巻SRMは高速駆動領域で一定出力を確 保することができないことが示されている.

本研究では,現状量産されている自動車駆動用のモータ仕様を対象とし,高速時に銅 損を増加させずに一定出力を確保することができる全節巻SRMを実現するための構造 と通電パターンを明らかにする.また,自動車駆動用として全節巻SRMを適用する上 で重要となる軽負荷時のモータ駆動効率の向上手法を提案する.軽負荷時損失の支配要 因となる鉄損について,磁束の高調波成分の低減に着目した制御手法を提案し,その効 果について明らかにする.これらにより,全節巻SRMの自動車駆動用途への普及を目 指し,高性能化を図ることを目標とする.

(20)

16

Fig.1-9 Motor characteristics for EV

(21)

17

1.5 本研究の概要

本論文は,自動車駆動用モータにおいて,磁石を用いないスイッチトリラクタンスモ ータの高性能化に関する研究について全5章で構成される.以下に本論文の構成を示す.

第1章「序論」において,研究背景として自動車駆動用モータに求められる特性と現 状を踏まえ,スイッチトリラクタンスモータの必要性,研究目的と狙い,および本論文 の概要について述べる.

第2章「全節巻スイッチトリラクタンスモータの駆動原理と発生トルク」では,全節 巻スイッチトリラクタンスモータの構造,駆動原理について説明する.

第3章「全節巻スイッチトリラクタンスモータの高出力駆動」では,自動車駆動用モ ータとして求められる高出力化に関して,特に高速駆動領域における出力特性について,

全節巻特有の磁束干渉を考慮した制御方式により向上させる手法について,解析,およ び試作機による評価結果を示し,その効果について述べる.

第4章「全節巻スイッチトリラクタンスモータにおける実用効率の向上」では,自動 車駆動用モータとして求められる高効率化に関して,自動車のエネルギー指標である燃 費,電費について,JC08モード等の実用に即したモータの動作点における駆動効率を,

主に制御方式の改善により向上させる手法について,解析,試作機による評価結果を示 し,その効果について述べる.

第5 章「結論」では,第1章から第 4 章までを総括し,本研究において得られた全 節巻スイッチトリラクタンスモータの高性能化に関する成果のまとめについて述べる.

(22)

18

参考文献

1-1:気象庁ホームページ http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_wld.html

(参照日:2018年5月19日)

1-2:日本国温室効果ガスインベントリ報告書 2017年 地球環境研究センター

1-3:INDCs as communicated by Parties http://www4.unfccc.int/submissions/indc (参照日:2018年5月19日)

1-4:次世代自動車ガイドブック2016-2017,環境省,経済産業省,国土交通省

1-5:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書(AR5)等について

http://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/ (参照日:2018年5月19日)

1-6:各種レアアースの輸入価格推移 ネオマグ株式会社ホームページ

https://www.neomag.jp/mag_navi/statistics/rare_earth_newprice2.html (参照日:2018年6月25日)

1-7:海老原 大樹 他編著,モータ技術実用ハンドブック,日刊工業新聞社,p92 (2001) 1-8:堀 洋一,寺谷 達夫,正木 良三,自動車用モータ技術,日刊工業新聞社,p126 (2003)

1-9:一般社団法人 日本自動車工業会データベース

http://www.jama.or.jp/eco/earth/earth_03_g01.html

(参照日:2018年6月25日)

1-10:一般社団法人日本自動車工業会データベース

http://www.jama.or.jp/industry/four_wheeled/four_wheeled_2t1.html

(参照日:2018年6月25日)

1-11:EV・PHVロードマップ検討会 報告書,経済産業省,p4,(2016)

1-12 : T.Nagaoka, M.Takemoto, S.Ogasawara. Rotor Design of a 150kW 6,000rpm/25,000rpm High speed Induction Motor for Testing Equipment of EV/HEV traction motors. 2015 18th International Conference on Electrical Machines and Systems (ICEMS) pp.163-168 2015.

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(25)

21

第 2 章 全節巻 SRM の駆動原理と発生トルク

2.1 全節巻 SRM の駆動原理

全節巻SRMの動作原理について,図2-1に示す最も単純な構成であるステータ6突 極/ロータ4突極のSRMモデルを用いて説明する.

全節巻SRMは,図2-1に示すように,複数スロットにまたがる3相巻線を,電気角

で120 deg. ずつ位相をずらして配置することにより構成される.全節巻SRMは,図

2-2に示す非対称Hブリッジ回路と呼ばれるSRM専用の駆動回路を用いることにより 各相の巻線に電力を供給する.

図2-2に示す駆動回路を用いて,全節巻SRMを駆動するための回路動作について説 明する.A相,B相,C相の3相巻線のうち,A相について説明する.A相巻線に電力 を供給するときには,A相巻線に接続された上下の素子(Sw1,Sw2)をONする.これに より,電源電圧が A 相巻線の両端に供給されるため,A 相巻線に電力が供給される.

また,A相巻線への電力供給が不要なときには,Sw1,Sw2のどちらかをOFFすること により,ON状態にある素子とダイオードD1,ないしはD2を介してA相巻線の内部 で磁気エネルギーが還流する.この場合,巻線両端は同電位となるため,電源からの電 力供給はない.さらに,A相巻線に接続された上下の素子(Sw1,Sw2)を双方 OFFする と,A相巻線に接続されたダイオードD1,D2 を介して電流が流れるため,巻線両端に は電力供給時と逆極性の電圧が印加される.これによりA相の巻線電流が減少する.B 相,C相についても,同様の回路動作により各相の巻線への電力供給を制御する.以上 の回路動作を組み合わせることによって,全節巻SRMに電力を供給し,ステータ磁極 の励磁,消磁を実現する.

(26)

22

Fig.2-1 Full pitch winding SRM

Fig.2-2 Full pitch winding SRM drive circuit

(27)

23

2.2 全節巻 SRM の発生トルク

全節巻SRMの発生トルクについて説明する.全節巻SRMは,ロータの磁極位置に 対応したステータ磁極を磁化することにより,ロータ,ステータ間のインダクタンスが 最大となる方向にトルクが発生する.ここで,巻線電流をi,自己インダクタンスをL, 相互インダクタンスをM,ロータ回転位置をθ として,SRMにおける発生トルクは,

式(2-1)により表される(2-1)

d

i dL d

i dL d

i dL

T a2 a b2 b c2 c

2 1 2

1 2

1  

   d

i dM d i

i dM d i

i dM

iab abb c bcc a ca

 (2-1)

図2-3に全節巻SRMのインダクタンス特性を示す.図2-3に示すように,全節巻SRM では,A相,B相,C相の各巻線における自己インダクタンスLはロータ位置によらず,

ほぼ一定と見なすことができる.このため,自己インダクタンス L の位置変化分が十 分に小さいとして無視すると,発生トルクは式(2-2)で表すことができる.

d

i dM d i

i dM d i

i dM i

Ta b abb c bcc a ca (2-2)

ここで,ia,ib,icは,3相の巻線電流,θ は,ロータの回転位置,Mab ,Mbc ,Mcaは,相 間の相互インダクタンスを表す.式(2-2)より,全節巻SRMは,相間の相互インダクタ ンスMab ,Mbc ,Mcaがロータ回転位置θ の変化量dθ に対して正の傾きを持つ区間にお いて,対応する2つの相の巻線へ励磁電流を供給することによりトルクを発生すること ができる.図2-4に全節巻SRMにおける連続トルクを得るための理想的な駆動電流パ ターンを示す.ロータの回転位置毎に相間の相互インダクタンスが正の傾きを持つ区間 に対して,励磁電流を供給する巻線を順次切り替えることにより連続的にトルクを発生 する.以上より,全節巻SRMにおける各相の理想的な励磁電流は,図2-4に示すよう に電気角240 deg.の励磁幅と電気角120 deg.の非励磁幅を有する.

(28)

24

Fig.2-3 Inductance waveform of full pitch winding SRM

Fig.2-4 Operation of full pitch winding SRM

(29)

25

2.3 全節巻 SRM の検討モデル

本研究における全節巻SRMの検討は,60 kWクラスの自動車駆動用モータを想定し ている.検討に用いる全節巻SRMは,現在量産されている EV/HEV車両の駆動用モ ータを対象として設計する.設計する全節巻SRMは,今回対象とするIPMSMに対し て,ステータ巻線に平角巻線を階段状に折り曲げて整列した全節巻線を適用することに よりコイルエンド高さの低減を図り,その低減分をコア積厚の増加に当てて最大トルク を同等としている.コア積厚の増加量は,平角巻線を適用した時のコイルエンド高さを 含むモータ全体の体格(φ264 mm × L108 mm)と最大トルク(207 Nm)を満たすよう磁 気回路の最適化を実施し,対象機の積厚50 mmに対して20 mm増加の70 mmとした.

ここで,磁気回路の設計および全節巻SRMの特性検討には,株式会社JSOLの電磁界 解析ソフト JMAG-Designerを用いた.

表2-1に今回検討した全節巻SRMの仕様を示す.図2-5に検討用に設計した全節巻 SRMの磁気回路外観と巻線配置を示す.図2-6に検討モデルの構造外観を示す.

(30)

26

Table. 2-1 Specifications of full pitch winding SRM.

Item Target motor Review motor

Motor type IPMSM

(Full pitch) Full pitch SRM Pole structure 8pole / 48slot 16pole / 24slot

Core volume [mm] φ264×t50 φ264×t70

Motor volume [mm] φ264×L108 φ264×L108

Max. torque [Nm] 207 207

Max. speed [rpm] 14000 14000

Max. power [kW] 60 60

Inverter voltage [V] 650 650

Resistance [Ω]

(@80℃) 0.101 0.084

Number of turns

[turns] 22 20

Core sheet [mm] 0.30 0.35

(31)

27

Fig.2-5 Designed full pitch winding SRM

Fig.2-6 Review model of full pitch winding SRM

(32)

28

2.4 全節巻 SRM の制御

第2章第1節で述べた全節巻SRMの駆動原理に基づいた制御手法について説明する.

全節巻SRM の連続トルクを発生させるため,図 2-4に示すような電流が必要となる.

この電流を図2-2の駆動回路により生成するため,SRMの駆動法として一般的なヒス テリシス制御法により全節巻SRMの駆動を行う.図2-7にヒステリシス制御法の概念 図を示す.ヒステリシス制御法は,電流指令値の上下に電流制御に用いるための一定の 幅を設定する.これをヒステリシス幅とする.SRM は,指令電流波形を維持するため にヒステリシス幅により駆動回路のスイッチ素子のON,OFFを制御する.全節巻SRM は,図2-4に示すような矩形波状の波形を電流指令値として図2-2に示す駆動回路によ り電流を供給する.ここで,A相の巻線への電流の供給に着目する.矩形波状の電流指 令値に対して,図2-2の駆動回路において巻線の両端のスイッチ素子Sw1,Sw2を同時 にONする.これにより,A相巻線には正の電圧が印加されるため,巻線に電流が供給 される.これにより電流が増加する.次に電流値がヒステリシス幅の上限値に到達する と,駆動回路の上段スイッチ素子Sw1をOFFする.この動作により巻線への印加電圧 はゼロとなる.この時,巻線電流は下段スイッチ素子Sw2 とダイオードを通じて巻線 内を還流しながら自然減少する.次にヒステリシス幅の下限値に到達すると駆動回路の 上段スイッチ素子Sw1をONする.これにより再び巻線の両端に正の電圧が印加され ることにより電流は増加する.この動作を繰り返すことにより矩形波状の指令電流に応 じたSRMへの電流を生成する.また,電流指令がゼロとなると,駆動回路の上下段の スイッチ素子Sw1,Sw2 の両方をOFFする.この時,A相巻線に接続されたダイオー ドを介して電流が流れる.この時,巻線両端には電流供給時と逆極性の電圧が印加され る.これにより巻線電流が減少し,やがて巻線電流がゼロに到達する.

図2-8に最大トルク207 Nm,回転速度1000 rpmの時の駆動電流波形のシミュレー ション結果を示す.電流制御振幅の指令値は179.6 Aに設定している.ヒステリシス幅 は,電流制御指令値に対して上下それぞれ10 %とした.ヒステリシス幅の上限電流値

は197.6 Aである.ヒステリシス幅の下限値は161.6 Aである.ここで,全節巻SRM

における印加電圧に対する電流波形は電圧方程式(2-1)により決まる.全節巻SRMの各相 巻線における電圧方程式は式(2-3)から式(2-5)で表される.

(33)

29

 

 

 

 

 

aa a a ab b ac c a a b ab c ac

a

i M i M

i L dt M di dt M di dt L di i R

V

(2-3)

 

 

 

 

 

bb b b ba a bc c b b a ba c bc

b

i M i M

i L dt M di dt M di dt L di i R

V

(2-4)

 

 

 

 

 

c c c c cb b ca a c c b cb a ca

c

i M i M

i L dt M di dt M di dt L di i R

V

(2-5)

ここで,Vは巻線へ印加される電圧,Rは巻線の抵抗値,i は巻線の電流値,Lは巻 線の自己インダクタンス,Mは巻線の相互インダクタンス, は全節巻SRMの回転子 位置,はモータの回転速度をそれぞれ示す.全節巻SRMにおける巻線への印加電圧 に対する電流の応答は,巻線のインダクタンス L により一定の変化量を持つ.したが って,全節巻SRMの電流指令値に対して実際に供給される電流は,一定の時定数を持 つ電流の変化を有する.これに対応するため,巻線への通電開始タイミングは発生トル クに対して必要電流が最小となるように電流位相を調整した.ここでは,電流位相は図 2-4の駆動電流理想値に対して,電気角で 45 deg.早めている.これにより,図2-4に 示す理想電流波形に対して,A相電流に着目すると電気角240 deg.で電流指令値に到達 し,電気角480 deg.において電流をゼロに低減することができる.以上のように,全節 巻SRMは,駆動電流についてヒステリシス制御により駆動する.

(34)

30

Fig.2-7 Schematic diagram of hysteresis control for SRM

Fig.2-8 Current waveform (@207 Nm, 1000 rpm)

(35)

31

参考文献

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(36)

32

第 3 章 全節巻 SRM の高出力駆動

3.1 全節巻 SRM の自動車駆動用モータへの適用

全節巻SRMは,レアアースフリーモータにおいて高いトルク密度と高速駆動領域ま で 良 好 な 出 力 特 性 を 得 る こ と が で き る モ ー タ で あ る こ と を 第 1 章 で 述 べ た .

Gallegos-Lopezらの研究事例(3-1)では,自動車駆動用モータとしての全節巻SRMと集中

巻SRMの特性比較をしている.モータの比較検討は,最大出力が30 kWクラスのモ ータを対象としている.Gallegos-Lopezらの研究事例(3-1)では,全節巻SRMは低速駆動 時において集中巻 SRM よりも銅損が小さくできることが述べられている.すなわち,

発生トルクに対して必要な電流量が少ない.一方,高速駆動領域においては全節巻SRM の銅損は集中巻SRMの銅損よりも大きい.すなわち発生トルクに対して必要な電流量 が多い.集中巻SRMでは,最大トルク時の電流量に対して基底回転数を超える領域の 電流量は相対的に小さくなる.なお,モータ特性は停止時から最大トルクを発生する.

その後,回転数の増加にともない最大出力点に到達する.最大出力点以降は,一定出力 を発生する.ここで,出力はトルクと回転速度の積で表される.したがって,回転速度 の増加にともない発生トルクは減少する.基底回転数とは,一定トルク領域から一定出 力領域に切り替わる点における回転速度のことを言う.集中巻SRMの駆動電流は,基 底回転数において最大値となる.したがって,集中巻SRMにおける駆動回路の電流容 量は,基底回転数の電流量で設計される.一方,Gallegos-Lopezらの研究事例(3-1)におい て全節巻SRMの銅損は,基底回転数を超える領域で最大値を取る.すなわち高速駆動 領域では発生出力に対する銅損が相対的に大きくなる.そのため,全節巻SRMにおけ る駆動回路の電流容量は,基底回転数での電流値による設計が難しい.駆動回路の電流 容量はモータの発生出力に対して少ないほど望ましい.したがって,全節巻SRMにお いてモータ駆動電流は,基底回転数における最大トルク発生時に最大値を取ることがモ ータ出力に対する効率の観点で望ましい.

(37)

33

3.2 全節巻 SRM の出力特性検討

3.2.1 シミュレーションによる特性検討

本節では,第2章第3節で述べた全節巻SRMの検討モデルを用いて,その出力特性 についてシミュレーションを用いて検討する.ここで,検討モデルは,量産されている ハイブリッド車両用モータを想定している(3-2).最大出力は60 kWである.

図3-1にシミュレーションを実施する全節巻SRMの構成を示す.ここで,ロータ位 置について説明する.ロータ位置は電気角として述べる.電気角は,ロータが機械 的に一周期する間にロータ磁極の数だけの周期性を有する.したがって,電気角360 deg.は機械角で22.5 deg.と等価である.図3-1(a)に示すように,A相とB相の巻線に はさまれたステータ磁極とロータの凸部が対向したロータ位置 を0 deg.と定義する.

次にロータが反時計まわりに回転し,図3-1(b)に示すようにB相とC相の巻線にはさ まれたステータ磁極とロータの凸部が対向したロータ位置 を120 deg.と定義する.そ の後,順に図3-1(c)に示すようにC相とA相の巻線にはさまれたステータ磁極とロー タの凸部が対向したロータ位置 を240 deg.と定義する.再びA相とB相の巻線には さまれたステータ磁極とロータの凸部が対向したロータ位置 を360 deg.と定義する.

図3-2に図3-1のロータ位置に基づくインダクタンス特性を示す.L は自己インダク タンスである.M は相互インダクタンスである.第2章第2節で述べたように,全節 巻SRMにおける自己インダクタンスはロータ位置 によらず,ほぼ一定値となる.全 節巻SRMにおける相互インダクタンスは,ロータ位置に対して変化を有する.図3-3 に図3-2のインダクタンス特性に基づく理想的な電流パターンを示す.第2章第2節で 述べた全節巻SRMのトルク式より,全節巻SRMの電流は,相互インダクタンスMの 傾きが正の区間において,対応する2つの相の巻線に通電する.電流パターンの切替は

120 deg.毎に行う.図3-3に示す全節巻SRMにおける理想電流パターンは,ロータ位

置が0 deg.から120 deg.の区間はB相とC相の巻線に通電する.次に120 deg.から 240 deg.の区間はC相とA相の巻線に通電する.その後,240 deg.から360 deg.の区 間はA相とB相の巻線に通電する.以降120 deg.毎に同様の電流切替を行う.120 deg.

毎に切り替える電流は,2つの相の電流のうち1つの相のみである.このため,各相の 電流は240 deg.の通電幅を有する.

(38)

34

図 3-4 に量産ハイブリッド車用モータの回転数とトルク特性(3-3)を示す.シミュレー ションは,株式会社JSOLの電磁界解析ソフトJMAG-Designerを用いる.また,全節 巻SRMの制御法は,第2章第4節で述べたヒステリシス制御法を用いる.図3-5に全 節巻SRMの二次元 FEMモデルを示す.全節巻SRMのFEMモデルは,モータ幾何 形状の対称性を考慮して1/8 モデルとした.FEM モデルの要素数は 21,773 である.

FEMの節点数は12,822である.図3-6に全節巻SRMのFEM検討に用いる電気回路 モデルを示す.図3-6に示す電気回路モデルは,図2-2のSRMの駆動回路である非対 称Hブリッジ回路を模擬している.第 2章第 4節で述べたヒステリシス制御を FEM により検討するため,図3-6に示す回路モデルにおいて,各相の巻線の上下端に2種類 のスイッチを接続する.Sw1からSw6までのスイッチにより,全節巻SRMの巻線へ の励磁角を制御する.一方,IA-Hys, IB-Hys, IC-Hysは,励磁角の範囲内において,

各相の巻線電流値によりヒステリシス制御を行うためのスイッチである.以上の駆動回 路モデルを用いてFEMにより全節巻SRMのトルク特性のシミュレーションを行う.

図3-7に最大トルク207 Nmを目標値とした時の回転速度1000 rpmにおけるシミュレ ーション結果を示す.平均トルクの計算値は207.1 Nm,相電流実効値は148.2 Arms となった.なお,各巻線への通電開始タイミングである相電流は,励磁開始角を理想励

磁角から5 deg.刻みで変更する.続けて,発生する平均トルクが必要トルクとなるよう

に電流振幅指令値を変更する.これにより,発生する平均トルクに対して必要電流が最 小となるような励磁角位相,および電流振幅の指令値を選定する.ここで励磁開始角は,

理想値に対して電気角で45 deg.としている.通電幅は240 deg.である.

3.2.2 シミュレーションの実機検証

図3-8に試作機の外観を示す.図3-9に試作機の外観側面を示す.製作した全節巻 SRMは,平角銅線を成形した巻線で構成することによりコイルエンド高さを低減して いる.試作機の仕様は,表2-1に示すように第2章第3節で設計した検討用モデルであ る.図3-10に実機評価システム構成をブロック図で示す.図3-11に評価システムの全 体構成を示す.試作機の駆動特性評価装置には,シンフォニアテクノロジー社製の高速 ダイナモ評価装置を用いた.負荷装置の仕様は,最大出力250 kW,最高回転速度20,000

(39)

35

rpm,最大トルク400 Nmである.また,試作機とダイナモとの間にトルクメータを設

置し,全節巻SRMの発生トルクを測定する.トルクの計測は,HBM社製の非接触式 トルクメータT10Fを用いた.全節巻SRMへの電力供給は,駆動回路である非対称H ブリッジ回路を介してダイナモ評価装置のバッテリシミュレータから直流650 Vを電 圧源として行う.全節巻SRMの3相の巻線両端から合計6本の配線により駆動回路と 接続する.駆動回路への制御信号は,コントローラ内部のFPGA(Field Programmable Gate Array:以下FPGA)により生成する.全節巻SRMには,回転軸と同軸上にSRM の回転子位置を検出するセンサを取り付ける.回転子位置検出センサは,多摩川精機社 製の可変リラクタンス(Variable Reluctance:以下VR)式レゾルバ4X-VRXを用い た.SRMの回転子位置に応じて,駆動回路へのスイッチング動作を指令する.全節巻 SRMの特性検証はヒステリシス制御により駆動を行う.図3-12に駆動回路システムの 全体構成を示す.駆動回路は,本試作の検証用に構築したMywayプラス株式会社製の SRM用インバータ装置である.駆動回路構成は,非対称Hブリッジ回路である.表 3-1に実機評価に用いる駆動回路の仕様を示す.入力電圧は最大750 Vである.駆動回 路上でスイッチングを行う半導体素子は,絶縁ゲートバイポーラトランジスタ

(Insulated Gate Bipolar Transistor:以下IGBT)を用いる.本検証では,富士電機 社製の2MB1400U4H120を4並列により構成したIGBTを用いる.IGBTのスイッ チング周波数は最大20 kHzである.駆動回路の定格出力は170 kWであり,定格電流 は234 Armsである.最大電流振幅は,600 Apeakである.図3-10の評価システムに より,全節巻SRMの駆動電流,発生トルクを測定する.全節巻SRMの駆動は,試作 機の回転子と同軸上に取り付けたレゾルバによりSRMの回転子位置を検出し,この回 転子位置に応じて駆動回路から全節巻SRMの各相巻線に電流を供給する.その時の発 生トルクをトルクメータにより測定する.全節巻SRMの各相の電流は,Tektronix, Inc.

製の電流プローブTCPA300を用いて測定する.波形の計測には,横河電機株式会社製 のオシロスコープDLM4000を使用した.オシロスコープ上に測定電流とレゾルバから の回転子位置信号を同時に取り込み,全節巻SRMの回転子位置に対する電流波形を評 価した.

図3-13に発生トルク207 Nm,回転速度1000 rpmの時の電流の実測波形を示す.

ここで全節巻SRM実測における励磁開始角は,解析と同様に理想値に対して電気角で

(40)

36

45 deg.としている.通電幅は240 deg.である.トルクメータによる実測トルクは,

206.4 Nmであった.また,この時の電流実効値は155.7 Armsであった.図3-14に発

生トルク207 Nm,回転速度1000 rpmの時の電流の解析波形と実測波形の比較を示す.

同駆動条件における全節巻SRMの各相巻線への供給電流は,解析値148.4 Armsに対 して実測値155.7 Armsであった.本駆動条件におけるシミュレーション電流と実測電 流との差は4.7%であった.また,各相の電流波形を比較すると励磁開始,および励磁 終了による電流応答性に加えて励磁電流幅の観点でよく合致していることが確認でき る.したがって,全節巻SRMにおけるヒステリシス制御法の駆動特性検討を十分実施 することが可能であると言える.以降,全節巻SRMの駆動特性は,第3章第2節第1 項にて述べたシミュレーションにより評価を行う.

(41)

37

(a)  = 0 deg. (b)  = 120 deg.

(c) = 240 deg. (d)  = 360 deg.

Fig.3-1 Rotor electrical angle definition on full pitch SRM

(42)

38

Fig.3-2 Inductance waveform of full pitch winding SRM

Fig.3-3 Ideal current of full pitch winding SRM

(43)

39

Fig.3-4 Motor Characteristics in mass production HEV(3-3)

Fig.3-5 2D-FEM model of the full pitch winding SRM (Number of the mesh:21,773, Number of the nodes:12,822)

(44)

40

Fig.3-6 SRM drive circuit model used for FEM

(45)

41

Fig.3-7 Simulation results of full pitch winding SRM (@207 Nm, 1000 rpm)

(46)

42

Fig.3-8 Frontview of prototype full pitch winding SRM

Fig.3-9 Sideview of prototype stator winding

(47)

43

Fig.3-10 Experiment system configuration

Fig.3-11 Evaluation system overview

(48)

44

Fig.3-12 Overall system configuration

(49)

45

Table.3-1 SRM drive circuit specifications

Item Specification Remarks

Input Voltage DC 0 to 750 V Drive circuit element IGBT

Rated capacity 170 kW

Rated output current 234 Arms

Maximum peak current 600 Apeak No breakage Maximum output current 330 Arms/10sec

Switching frequency Max. 20 kHz

Withstand voltage

AC1500 V/min Between main circuit and control unit AC500 V/min Between control unit

and field ground

IGBT 2MB1400U4H-120

/4 parallel FUJI ELECTRIC

Gate driver GU-159 HASETEC

(50)

46

Fig.3-13 Experimental results of full pitch winding SRM (@207 Nm, 1000 rpm)

(51)

47

Fig.3-14 Simulation and measurement current waveform (@207 Nm,1000 rpm)

(52)

48

3.3 高速駆動領域の出力特性と課題

全節巻SRMの特性を把握するために,図3-4に示す量産ハイブリッド車用モータの トルク特性を要求値としてモータ回転速度毎の発生トルクと必要電流値についてシミ ュレーションを実施する.図3-15に量産ハイブリッド車用モータのトルク特性を満た す時のモータ回転速度毎の発生トルク,および必要電流量のシミュレーション結果を示 す.表3-2に回転速度毎の平均トルク,相電流実効値,および相電流の励磁角のシミュ レーション結果を示す.各巻線への通電開始タイミングは,1000 rpmと同様に,発生 するトルクに対して必要電流が最小となるように電流位相を調整している.表3-2に示 すように,必要電流量は基底回転数である2500 rpmにおいて186.2 Armsであった.

全節巻 SRM の解析結果において,最大トルクを発生するために必要な電流は 186.2 Armsである.基底回転数を超える出力領域においては,発生トルクが減少するが,必 要電流量は,最大トルクの発生時の電流量186.2 Armsを上まわる.

図3-16に基底回転数を超える領域の駆動点として,144 Nm, 4000 rpmの時の電流,

およびトルク波形の計算値を示す.平均トルクの計算値は143.8 Nm,相電流実効値は

230.6 Armsとなった.なお,各巻線への通電開始タイミングである相電流の励磁角は,

励磁開始角,および電流振幅指令値を変更し,発生する平均トルクに対して必要電流が 最小となるように電流位相,および電流振幅の指令値を選定した.ここで励磁開始角は 理想値に対して電気角で115 deg.としている.通電幅は240 deg.である.全節巻SRM における各相の駆動電流は,電流が減少する消磁区間においてゼロまで減少していない.

各相の巻線電圧は,式(2-3)から式(2-5)で示した全節巻SRMの電圧方程式により表現さ れる.巻線電圧は,モータ回転速度の増加にともない誘起電圧成分が増加する.このた め,各相巻線の電流変化に供給される電圧成分が相対的に減少する.したがって,制御 巻線への電流変化量が制限される.全節巻SRMにおけるトルク式は,式(2-2)で表され ることを第2章第2節で述べた.全節巻SRMにおけるインダクタンス特性は,図3-2 のように示されることを述べた.全節巻SRMにおける発生トルクは,相互インダクタ ンス M におけるロータ位置の変化が正の区間において,対応する巻線へ電流を通電 することにより正のトルクを発生する.また,相互インダクタンスM におけるロータ 位置の変化が負の区間においては,対応する巻線電流により負のトルクを発生する.

参照

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