348 生物工学 第96巻 第6号(2018) 著者紹介 東京大学生物生産工学研究センター(助教) (PDLOXWWRPL#PDLOHFFXWRN\RDFMS グルタミン酸脱水素酵素*'+は,グルタミン酸と 2-オキソグルタル酸・アンモニアの可逆的な反応を触媒す る.70年程前に発見された古くから知られている酵素 であり,一般には細胞内のグルタミン酸代謝,アンモニ ア濃度維持に関わっていると考えられている. 生物工学的にもっとも有名な*'+はグルタミン酸発 酵菌であるCorynebacterium glutamicum由来の*'+ (&J*'+)であろう.グルタミン酸発酵については精 力的に研究されており,巧妙な分泌機構があることがよ く知られている.&J*'+はグルタミン酸生合成の最終 ステップを触媒する酵素であるが,細菌では珍しく NADP(H)を使うことに加え,グルタミン酸を合成する 活性が非常に強いという性質を持ち1) ,このことがグル タミン酸発酵の成立に不可欠である. 多くの細菌由来の*'+は50 kDa程度のサブユニッ トが会合したホモ6量体構造を有する.触媒ドメインと ヌクレオチド結合ドメインからなる比較的シンプルな構 造であり,アロステリック調節は存在しないと言われて いる.一方,哺乳類由来の*'+はヌクレオチド結合ド メインの中に軸へリックスとアンテナへリックスと呼ば れる挿入配列が存在し,これらを介してヌクレオチド (*73,ADP)による活性調節を受ける.その調節は複 雑であり,他にもNADHやロイシン,パルミトイル CoAによるアロステリック調節,さらにはサーチュイ ンタンパク質(SIRT4)によるADPリボシル化によっ て も 調 節 を 受 け る こ と が 知 ら れ て い る2) . 哺 乳 類 の *'+(*'+)は多くの組織で発現しており,膵臓で はATP感受性カリウムイオンチャネルを介したシステ ムによりインスリン分泌の促進を行っている一方,肝臓 ではグルタミン酸の代謝によるアンモニア産生に関わる と考えられている.*'+の脱制御変異により高インス リン・高アンモニア血症が引き起こされることからわ かってきた.一方,ヒトや大型類人猿(ゴリラ,テナガ ザルなど)の高等動物は遺伝子重複により*'+とい うアイソザイムを持つことが知られている3).*'+は *'+と類似した酵素学的性質を持つがアロステリッ クエフェクターに対する感受性が異なり,主に脳で特異 的に発現している.このことから*'+は神経伝達物 質であるグルタミン酸の分解・再生に関わるとされてい る.*'+,*'+共に高等生物の複雑な生命現象の調 節に関わっており,その詳細な分子メカニズムの解明が 期待されている. ところで,前述の通り細菌の*'+はアロステリック 調 節 を 受 け な い と さ れ て き た が 最 近, 高 度 好 熱 菌 Thermus thermophilusの*'+(Tt*'+)がロイシンに よって活性化を受けることが発見された4) .Tt*'+は 他の細菌と同様シンプルなドメイン構造を持つが,互い に相同性を持つ*GK$,*GK%サブユニットからなるヘ テロ6量体構造を持つ.*GK%が触媒の本体として働く 一方,*GK$は活性を持たない調節サブユニットとして 働く.結晶構造解析から*GK$,*GE%サブユニットの 境界面にロイシンが結合することがわかった5) .このロ イシン結合サイトのアミノ酸残基は他の細菌の*'+に は保存されていないものの,不思議なことにヒトなどの *'+では保存されており,部位特異的変異実験からヒ トなどの*'+でも同じロイシン結合サイトが存在する ことが実証された.ロイシンによる*'+活性化の生物 学的意義はThermusにおいてもヒトにおいてもわかっ ておらず,今後の研究が期待される. 近年,さまざまな生物で活性本体以外のドメインを持 つ*'+が発見されつつある.Į-プロテオバクテリアの 一種Caulobacter crescentusは異なるタイプの娘細胞を 生み出す非対称な細胞分裂を行うため,細胞分裂研究の モデル生物の一つとされている.C. crescentus由来の *'+は細胞分裂において中心的な役割を担うFtsZタン パク質と直接相互作用し,その機能調節を担うことが明 らかにされた6).この調節においては,*'+に基質が 供給されて変換活性を示すことが重要であり,*'+が 細胞の栄養状態を感知して,細胞分裂の調節をしている ことが示された. 古くに発見され,固定観念からその機能がグルタミン 酸代謝やアンモニアバランスの維持であると決めつけて しまいがちな*'+であるが,その知られざる重要な細 胞機能はまだまだ多くありそうである. 1) Tomita, T. et al.: FEBS Lett., 591, 1611 (2017). 2) Li, M. et al.: Neurochem. Int., 59, 445 (2011). 3) Burki, F. et al.: Nat. Genet., 36, 1061 (2004). 4) Tomita, T. et al.: Microbiology, 156, 3801 (2010). 5) Tomita, T. et al.: J. Biol. Chem., 286, 37406 (2011). %HDXID\)et al.: EMBO J., 34, 1786 (2015).
あまり知られていないグルタミン酸脱水素酵素の細胞機能の多様性
1
0
0
全文
関連したドキュメント
ときには幾分活性の低下を逞延させ得る点から 酵素活性の落下と菌体成分の細胞外への流出と
BCI は脳から得られる情報を利用して,思考によりコ
しかしながら生細胞内ではDNAがたえず慢然と合成
の多くの場合に腺腫を認め組織学的にはエオヂ ン嗜好性細胞よりなることが多い.叉性機能減
ヒュームがこのような表現をとるのは当然の ことながら、「人間は理性によって感情を支配
このような情念の側面を取り扱わないことには それなりの理由がある。しかし、リードもまた
こらないように今から対策をとっておきた い、マンションを借りているが家主が修繕
イ. 使用済燃料プール内の燃料については、水素爆発の影響を受けている 可能性がある 1,3,4 号機のうち、その総量の過半を占める 4 号機 2 か