看護師の人材育成への探求
看護師と看護学生のメンタルヘルスを中心に
岩
永
喜 久 子
は じ め に 2005年現在, 病院に勤務している看護職のうち 97% が看護師 (准看護師) である. 今日,医療の質への社会的 ニーズは高く, 看護においても専門 野の高度な実践力 が求められている. 一方, 看護師が働く職場環境は, 在院日数の短縮化や 看護師配置の 7対 1制に伴う繁雑さなどさまざまな変化 のなかにあって, バーンアウトや新人看護職の早期離職 などの問題も内包されている. そこで, これまで行った調査を簡単に紹介しながら, 看護学生から卒業後の新人看護師として, さらに実践力 をもった看護師へとキャリア開発していくために, その 基盤ともなるメンタルヘルスについて概観する. 新人看護師が就労する場と看護師のバーンアウト 2005年度の新卒者の看護師国家試験合格者は 44,137 名であったが, 新人看護師 (准看護師) の離職率は 9.3% であり,4,100名の新卒者が早期に離職していた. 離職の 要因にバーンアウトがあげられる. バーンアウトは, 対人サービス従業者の心身の消耗や フラストレーションを 称するものであり, 精神的疲 弊」, 非人格化」, 個人的達成感の低下」の構成概念があ る (Maslach). わが国における看護師の バーン ア ウ ト に つ い て は 1980年代から報告され, 近年では 2007年に米国, カナ ダ, ドイツなど 6か国の調査が行われた. 日本が最も バーンアウト率が高く, 中でも, 30歳未満の看護師は 62. 4%であり, 病院勤務の看護師の 3 の 2がこの 30歳未 満の看護師で構成されていた. 新人看護師は組織風土が ストレッサーとなってバーンアウトを引きおこし離職に 至っていた. また, 新人以外の病院に勤務する看護職の 離職率は, 12.3% (2005年度) であり, 看護師のバーンア ウトは, 自尊感情の低下と看護職に対する絶望感から離 職願望へとつながっていた. メンタルヘルスに関する調査 目的と方法:A 施設と B施設に勤務する看護職と, C 大 学看護学生のメンタルヘルスの状況を明らかにする目的 で, それぞれ独自に自記式質問紙調査を行った. 内容は, バーンアウトスケール, 心身の 自 覚 症 状 (THI ; the Todai Health Index), General Health Questionnaire (GHQ-12),職務満足度,実習ストレス尺度などである.同 意が得られた対象であり, B施設と C 大学の調査では倫 理審査を受けた. 結 果:看護師については, ① A 施設 415名のバーンア ウト率は 26.4%であり, 抑鬱 (r=0.723) と神経症傾向 (r=0.662) に相関がみられ, ② B施設看護職 340名の バーンアウト率は 53.1%であり, 職務満足度に負の相関 (r=−4.85) が認められた. C 大学看護学生 215名の精 神 康度不良割合は 34.1%であり, 実習ストレス (r= 0.3761), 消極的対処行動 (r=0.415), 仲間意識 (r= −0.347) などが関連要因であった. 173 Kitakanto Med J 2009;59:173∼174 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学医学部保 学科基礎看護学講座 平成21年3月18日 受付 論文別刷請求先 〒371-8514 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学医学部保 学科基礎看護学講座 岩永喜久子察:調査には限界はあるものの, B施設はバーンア ウト状態にある看護師が多く先の報告と類似していた. 実習にストレスを感じている学生や看護師を, メンタル ヘルスを良好に維持しながら次代の医療を担う高度実践 力をもつ看護職へと, どのように育てていくかが課題で ある. 求められる高度な実践力をもつ看護師 −わが国と国外の看護教育を背景とした実情− わが国における看護教育は大学や, 大学院などで行わ れ, その数も増加している. 高度で質の高い看護を提供 できる看護師として看護系大学大学院修士課程修了の専 門看護師と, 日本看護協会認定機関の教育修了者である 認定看護師の制度があるが, その数はまだ少ない現状で ある. 看護歴 5年以上と専門 野の実務経験, 学び続け るための高いモチベーションの維持が求められる. 一 方, 米 国 に お い て は 高 度 実 践 看 護 師 と し て NP (nurse practitioner) が, 専門 野の外来をもち処方や検 査の指示を出す権限を有し, やりがいをもって活躍して いる. 米国ではすでに 40年前から制度化され, 韓国にお いても NP教育が一本化され, 現在, 1万人以上が活動し ている. また, 一定期間の教育を受けた保 診療員はコ ミュニティの急性期疾患の治療から慢性疾患の管理, 疾 病予防などを行っている. わが国においても医師不足と 看護の役割拡大を背景に高度実践看護師の話題が浮上 し, 制度化はされていないもののすでにその育成教育が 大学院によって始められている. お わ り に 看護師が高度看護師へと成長するためには時間を要す る. 相互のかかわりの中でこころの豊かさを育てると共 に, 個人レベルのみならず組織として, また社会全体で 育てていくサポート体制の構築が必要である. 彼らは医 療の場だけでなく社会的にも有用な人材である. バーン アウトや離職をひきおこさず, やりがいをもって高度実 践看護師へとキャリア開発していける環境作りが大切で ある. 文 献 1. http://www.nurse.or.jp/, 日本看護協会 2. 古屋肇子,谷 冬彦.看護師のバーンアウト生起から離職 願望に至るプロセスモデルの検討. 日本看護科学会誌 2008; 28: 55-61. 3. 伊豆上智子. 病院ケアに関する看護師レポートの 6カ国 比較. 看護研究 2007; 40: 5-16. 4. 岩永喜久子,門司和彦.大学病院看護師のバーンアウトと 東大式自記 康調査 (THI) 成績. 長崎大学医学部保 学 科紀要 2002; 15: 39-45. 5. 岩永喜久子, 後藤有紀, 宮崎晴佳 他. 学部教育における 看護学生のメンタルヘルスと 関 連 要 因. 保 学 研 究 2007; 20: 39-47. 6. 岩永喜久子. 離島中核病院看護職のバーンアウトと関連 要因. 日本看護学会論文集看護管理 2006; 37: 61-63. 7. 大下敏子, 李 笑雨, 草間朋子. 韓国における保 診療員 とナースプラクティショナーの活動. 看護管理 2009 ; 19 : 33-39. 看護師の人材育成への探求 174