Nagoya City University Academic Repository
学 位 の 種 類 博士 (医学) 報 告 番 号 甲第1729号 学 位 記 番 号 第1226号 氏 名 岩﨑 弘靖 授 与 年 月 日 令和 2 年 3 月 25 日 学位論文の題名
A novel urinary microRNA biomarker panel for detecting gastric cancer
(尿中マイクロ RNA のパネル化による新規胃癌診断バイオマーカー) J Gastroenterol. 2019; 54: 1061-1069
論文審査担当者 主査: 瀧口 修司
論 文 内 容 の 要 旨 <背景> 胃癌は全世界において、癌関連死亡原因の第 3 位である。早期胃癌は内視鏡的切除等の低 侵襲治療により治癒が期待できるため、マススクリーニングによる検出が胃癌関連死を減 少させるために非常に重要である。上部消化管内視鏡検査(GIE)による病理検査が、胃癌 診断のゴールドスタンダードであるが、侵襲が高く高価であることから、多くの健常者を 対象としたマススクリーニングには適しておらず、低侵襲で信頼性のある胃癌診断バイオ マーカーの開発が望まれる。そこで今回、尿中マイクロ RNA(miRNA)を用いた、胃癌 診断バイオマーカーの開発・検討を行った。 <方法> 372 例の尿検体のうち、年齢、性別をマッチさせた 306 例(健常群 153 例、胃癌群 153 例) を3 つのコホート(①ディスカバリーコホート(マイクロアレイ分析、健常 4 例、胃癌 4 例)、②トレーニングコホート(定量PCR、健常 95 例、胃癌 95 例)、③バリデーションコ ホート(定量PCR、健常 54 例、胃癌 54 例))に分け、尿中 miRNA の発現解析を行った。
また更なる検証のため、(i)早期胃癌検出能の解析(健常 149 例、Stage I 胃癌 95 例)、(ii)
体によるモデルの有効性(健常32 例、胃癌 32 例)、(iv)組織検体での miRNA 測定(正
常組織20 例、胃癌組織 20 例)、(v)胃癌細胞株での miRNA 発現測定(MKN45、MKN74)、
(vi)データベースを用いた miRNA のターゲットの予測(gene ontology 解析)を行った。 <結果>
マイクロアレイを用いた網羅的解析により、健常群と胃癌群を比較し、発現量の異なる22
個の尿中miRNA を同定した。次に、トレーニングコホートにおいて行った qPCR 解析で
は、多変量解析の結果、ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)陽性に加え[オッズ比(OR)
5.82, 95%信頼区間(CI) 2.71-12.5, P<0.001]、miR-6807-5p と miR-6856-5p が有意な独 立した胃癌診断バイオマーカーであった(miR-6807-5p: OR 1.58, 95%CI 1.06-2.34,
P=0.024; miR-6856-5p: OR 1.21, 95%CI 1.01-1.46, P=0.042)。これら 2 種類の尿中 miRNA とH. pylori感染状態にて作成した診断パネルは、胃癌診断において受信者動作特性(ROC)
曲線の曲線下面積(AUC)=0.736(95%CI 0.663-0.810)という良好な結果であった。続 いて、独立したバリデーションコホートにおいても、尿中 miR-6807-5p と miR-6856-5p
は胃癌群で有意に高発現を示し(共に P<0.001)、バイオマーカーパネルは AUC=0.885
(95%CI 0.823-0.948)と非常に良好な結果であった。続いて Stage I 胃癌(n=95)と健常 者(n=149)を用いた解析でも、miR-6807-5p と miR-6856-5p は共に Stage I 胃癌の尿中
にて有為に高値であり(ともにP <0.001)、診断パネルは AUC=0.748 (95%CI 0.683-812) で、早期症例の検出も良好であった。また胃癌の治癒的切除を受けた 14 例の尿中にて、 miR-6807-5p と miR-6856-5p は治療後には全例でほぼ検出感度以下に低下を認めた (P<0.001)。また血清検体を用いた解析でも、両方の miRNA とも胃癌症例にて高値であ り、診断パネルによるAUC=0.798(95%CI 0.679-0.917)で、非常に良好であった。さら に、miR-6807-5p は正常組織と比較し、胃癌組織において有意に高発現しており(P =0.025)、 miR-6856-5p も同様の傾向を示した(P =0.181)。細胞株を用いた実験では、MKN45、 MKN74 において、細胞内、培養液中ならびに培養液中のエクソソームすべてから miR-6807-5p、miR-6856-5p ともに検出された。データベースを利用し、この 2 つの miRNA のターゲット候補についてgene ontology 解析を行うと、対象の遺伝子は同様の機能傾向を 有していた。miR-6807-5p と miR-6856-5p の機能は現在のところ不明であるが、これらは 治癒切除後の症例の尿中からはほぼ消失し、胃癌症例の血清中や胃癌組織において高発現 であることから、胃癌組織に由来する可能性があると考えられた。 <結論> 尿中miRNA を用いた胃癌診断バイオマーカーは無侵襲で画期的であり、良好な胃癌診断能 を示した。
論文審査の結果の要旨 【背景】胃癌は全世界において、癌関連死亡原因の第 3 位である。早期胃癌は内視鏡的切除等の低侵 襲治療により治癒が期待できるため、マススクリーニングによる検出が胃癌関連死を減少させるため に非常に重要である。上部消化管内視鏡検査(GIE)による病理検査が、胃癌診断のゴールドスタン ダードであるが、侵襲が高く高価であることから、多くの健常者を対象としたマススクリーニングに は適していない。 【目的】無侵襲で信頼性のある胃癌診断バイオマーカーの樹立を目的に研究を行った。 【方法・結果】年齢、性別をマッチさせた 306 例(健常 153 例、胃癌 153 例)を用いて、マイクロア レイでの網羅的解析と定量 PCR を行った。網羅的解析にて検出された miR-6807-5p と miR-6856-5p が、トレーニングコホート(健常 95 例、胃癌 95 例)での定量 PCR の結果を用いた多変量解析でも
H.pylori 感染状態とともに独立したバイオマーカーと判明した。胃癌診断の ROC 曲線の AUC=0.736 と良好な結果であった。バリデーションコホート(健常 54 例、胃癌 54 例)でも、胃癌群の尿中にお いて両 miRNA は発現が亢進しており、この尿中の両 miRNA とHelicobacter pylori(H.pylori)感染 状態で構成したバイオマーカーは胃癌診断の ROC 曲線の AUC が 0.885 と非常に良好な結果を示した。 また、Stage I 胃癌に限定しても、尿中の両 miRNA は健常群より発現が高く、ROC 曲線の AUC=0.748 と良好であった。さらに、胃癌の治癒的切除を受けた 14 例の尿中にて、miR-6807-5p と miR-6856-5p は治療後には全例でほぼ検出感度以下に低下を認めた(P<0.001)。また血清検体を用いた解析で も、両 miRNA とも胃癌群にて高値であり、診断バイオマーカーの AUC=0.798 で、診断能力は優れてい ると判断された。組織検体を用いた検討でも、miR-6807-5p は正常組織より胃癌組織において有意に 発現が高く、miR-6856-5p も同様の傾向を示した。胃癌細胞株(MKN45、MKN74)を用いた実験では、 培養液中、エクソソーム 、細胞内すべてから両 miRNA は検出可能であった。 【考察】以上の結果から、miR-6807-5p は miR-6856-5p は胃癌組織にて過剰発現し、血中に分泌さ れ、尿中に排出されると考えられた。 【結語】尿中 miR-6807-5p、miR-6856-5p とH.pylori感染状態からなるバイオマーカーは、無侵襲に 胃癌を診断可能であることが示唆された。 【審査内容】主査の瀧口教授からは、①胃癌の分化度による両 miRNA の発現の解析について、②正常 組織での両 miRNA の発現について、③尿検体か血清検体のどちらがバイオマーカーとしての有用性が 高いかについて、④今後のスクリーニングツールとしての具体的な発展について、など計 6 項目の質 問があった。第一副査の高橋教授からは、①両 miRNA の他臓器癌での発現の変化について、②両 miRNA の分化度やステージ、病変の大きさとの関連について、③両 miRNA の機能について、など計 8 項目にわたり質問がなされた。第二副査の大原教授からは、①健常群の胃癌除外の方法について、② 尿検体が血清検体よりスクリーニングツールに適していると考える理由について、③健常群にて両尿 中 miRNA が高値を示した症例について、など計 6 項目にわたり質問がなされた。これらの質問に対 し、一部返答に窮することもあったが、おおむね満足すべき回答が得られ、学位論文の主旨を十分理 解していると判断した。本研究は、尿中 miR-6807-5p と miR-6856-5p が胃癌症例において発現が亢進 していることを見出し、両 miRNA と H.pylori 感染状態からなるバイオマーカーが、早期を含めた胃 癌の診断を可能にすることを明らかにした。よって、これらの新しい知見を報告している本論文の筆 頭著者は博士(医学)の学位を授与するに相応しいと判断した。 論文審査担当者 主査 瀧口修司教授 副査 高橋 智教授、大原弘隆教授