22 シンポジウム
嗜女麟43第犠、劉言〕
内視鏡検査の現況と展望早期肺癌発見を目的とした肺癌集検の成績と細胞診の意義
一瞬疾細胞診による発見例の気管支鏡診断に
おける問題点とその解決法について一
東北大学抗酸菌病研究所外科 サイ トウ ヤス キ斎 藤 泰 紀
(受付 平成元年11月22日) はじめに 肺癌集検あるいは日常診療における喀疾細胞診 が普及することにより,扁平上皮癌の早期発見が 可能となり,胸部X線写真が無所見の症例を診断 する機会が多くなっている1)2). このような場合,病変が微細であることが多い ため,どこにその病変があるのか,また,どのよ うな性質の病変であるのかが常に問題となる.こ れらの問題点と解決法についてこれまでの経験か ら得た知見を報告する. 対象および方法 対象は,肺癌集検あるいは自覚症状等による外 来受診における喀:疾細胞診で発見した胸部X線 写真無所見肺癌例である.喀疾細胞診疑陽性およ び陽性で,胸部X線写真無所見の症例に対して は,上気道の癌の可能性も含めて徹底した精査を 行った(表1)3). 結 果 宮城県においては,昭和57年度から肺癌集検が 行われ昭和61年度までに,延べ829,079名が受診 している(表2).受診者全員に間接胸部X線写真 を撮影し,喀疾細胞診は,50歳以上で喫煙指数600 以上の高危険群に対して行った.喀疾細胞診は, 表1 胸部X線写真無所見・喀疾細胞診陽性および 疑陽性例の気管支鏡検査 《検査施行前の注意点》 胸部X線写真の詳細な検討(全肺野の断層撮影,CTな ど) 喀疾細胞診所見の再確認 上気道癌の可能性の検討 合併症のチェック 十分な前投薬 《気管支鏡検査の要点》 喉頭。気管の観察後挿管 気道分泌物の採取(左肺・右肺・その他) 気管支全支の詳細な観察と写真撮影(少なくとも各亜区 域支まで) 気管支全支擦過法および異常所見部位の生検 再確認と病変の範囲の決定 表2 宮城県肺癌集検受診者数の推移 年度(市町村数) 間接写真撮影数 喀疾細胞診判定数(%) 昭和57(15) 64,187 5,580(8,7) 昭和58(28) 120,467 7,591(6.3) 昭和59(37) 175,099 9,542(5.4) 昭和60(46) 223,796 11,333(5.1) 昭和61(52) 245,530 1王β19(4.8) (宮城県肺癌対策協議会 S57∼S61)Yasuki SAITO〔Department of Surgery, The Research Institute for Tuberculosis and Cancer, Tohoku
University〕:Results of screening for early detection of Iung cancer:Diagnostic method of broncho− scopic localization for sputum positive and chest X・ray negative lung cancer
23 主幹 上幹 Bl B2 B3 中間幹 中葉支 B4 B5 下幹 B6 底幹 B7 B8 Bg B10 右 主幹 上幹 上区支 Bl+2 B3 舌支 B 4 B 5 下幹 B6 底幹 B8 Bg B10 左 。 5 10 15 0 5 10 15 図1 胸部X線写真無所見肺癌128病変の局在部位 20 受診者の5.5%,45,865名に対して行い,285名 (0.62%)を要精細とし,115例,10万対251の肺癌 を発見した。喀疾細胞診で発見した115月中92例が X線写真ではチェックされず,喀疾細胞診のみで 発見された. 集検における全発見肺癌例311例のうち,喀疾細 胞診のみでは92例を発見し,そのうち77例を切除 し71例が病理病期0期ないし1期で,極めて良好 な発見成績であった(表3). 集検発見例のみならず外来受診の喀疾細胞診に おいて発見された症例も含めた116例128病変の胸 部X線写真無所見肺癌の局在部位をみると(図 1),左側61病変,右側67病変で,左上葉が51病変 (40%),右下葉32病変(25%)と比較的多くみら れた. 病変の所見は様々であったが,内視鏡的に容易 に発見しうる明らかな隆起あるいは粘膜の著明な 変化を呈した場合は大所見とし,これは胸部X線 写真無所見肺癌の約半数を占めた(表4).粘膜の 僅かな不整や,腫脹,蒼白,発赤を主たる所見と して呈した場合は小所見とし,27%を占めた.さ らに,内視鏡的に所見を認めない場合は,無所見 とし,23%を占めた.無所見の場合,気管支鏡の 可視範囲内にある場合と通常の気管支鏡では観察 しえない可視範囲外の末梢の細い気管支にある場 表3 発見方法別にみた切除例の病理病期 病理病期 X線のみ 喀疾のみ 両 者 合計 (%) 0期 P期 hI期 hIIA期 hIIB期 hV期 s明 83 S40362 86351 733 8 (2.6) P53(49.2) P2 (3.9) S3(13.8) @3 (1.0) @7 (2.3) @2 (0.6) 切除合計 138 77 13 228(73.3) 非手術 58 15 10 83(26.7) 総計 196 92 23 311(100) 合があった. これらをシェーマ(図2)にすると大所見を呈 した症例は,隆起型および表層進展型とし,隆起 型はその形態からさらに細分類した.小所見を呈 した症例は,表面型とし,その形態から細分類し た.無所見型のものは,検査を繰り返して部位が 判明した時点でよく観察すると,何等かの所見を 呈していることがあり,表面型のいずれかに再分 類しうることがしぼしぼあった. 128病変の局在部位を気管支分岐次数でみると (表5),II次の区域気管支に45病変と最も多く1 次25病変,III次に24病変みられた.従来肺門部早 期癌は,区域気管支から中枢側に好発するものと 一241一
24 表4 128病変の気管支鏡所見 1 大 所 見 65病変(51%) ①ポリープ状隆起 ②結節状隆起 ③扁平状隆起 ④粗大な凹凸不整 5 21 30 43 ⑤内腔の狭窄・閉塞 ⑥白苔 ⑦出血・血管の怒張 ⑧異常縦走ひだ 27 16 10 1 II 小 所 見 34病変(27%) ①表面の肥厚・腫脹 22 (分岐部18 非分岐部4) ②わずかな表面不整・粗ぞう 21 ③表面の不透明 15 ④表面の蒼白 11 ⑤光沢の減弱・消失 10 ⑥発赤 ⑦点状発赤 ⑧小結節 ⑨粘膜ひだの融合・断裂・消失 ⑩軽度狭窄 ⑪毛細血管の増生 III無 所 見 29病変(23%) a.可視範囲内 b.可視範囲外 17 12 隆起型 Ia 乳頭状隆起型 Ib 半球状隆起型 Ic 台地状隆起型 II表面型 lla 表面隆起型 Hb 表面腫脹型 IIC 表面平坦型
亘
△
且
一一
病変数 56 34 5 川 陥凹型一
0 21 30 四 表層進展型 V 無所見型 _」L一一_の__」L軸 9 29 図2 胸部X線写真無所見肺癌の肉眼所見分類(案) 考えられていたが,III次の亜区域気管支およびそ の末梢にも36病変と多数みられた. 切除した94病変の腫瘍の広がりをみると,5mm 以下が18病変あり,6∼10mmが27病変,11∼15mmが10病変,16∼20mmが20病変で,半数以上
が15mm以下であった.無所見の20病変のうち17 病変は10mm以下であった.また腫蕩の浸潤の深 さをみると,上皮内癌が16例あり,粘膜内にとど まる浸潤が17例あった.気管支壁内に腫瘍が限局 一242 表5 病変が占拠する気管支の分岐次数と気管支鏡所見 無 所 見 分岐次数 大所見 小所見 計 可視範囲内 可視範囲外 0次 6 6 1次 19 5 1 25 1∼II次 7 7 2 16 II次 25 14 6 45 III次 8 7 8 1 24 IV次 1 5 6 V次以降 6 6 計(病変数) 65 34 17 12 128 表6 胸部X線写真無所見扁平上皮癌例における多 発癌の発生状況 部 位 切 除 非切除 合 計 単発性 左側 39 7 46 単発性 右側 40 12 52 小 計 79 19 98 同時性多発(顕微鏡的) 6 6 同時性多発 2 4 6 同時性+異時性 1 1 異時性 6 1 7 小 計 15(16.0%) 5(20.8%) 20(16,9%) 総 計 94 24 118 した症例は,78例で,それに加えてリンパ節転移 および遠隔転移のない早期扁平上皮癌は77例で あった.25 さらに多発癌の発生頻度をみると(表6),116 例中,同時性に12例あり,異時性が8例発見され ている. 考 察 喀疾細胞診で癌が疑われ,胸部X線写真で無所 見の症例は,診断確定にいたるまでに様々な問題 を有している.気管支鏡で詳細に観察してもなお 無所見の場合は,しぼしぼ部位診断に難渋し10回 以上に検査が及ぶこともあった.このような場合, 上気道癌があることが稀ではなく,検索を十分に 行っておく必要がある.可視範囲内に病変のあっ た症例は,部位診断がついた後にあらためて詳細 に観察すると,粘膜の肥厚,蒼白,微細な凹凸不 整,淡い網状あるいは点状の発赤等を認めること があった. 胸部X線写真無所見で気管支鏡可視範囲外に 病変があり,無所見である症例は,極めて診断に 難渋することが多い.CTあるいは断層写真等に より詳細な検索を行うことにより,平面写真では 検出されなかった微小な陰影を見出し,診断を確 定させられることがある. また,微細な病変とりわけ上皮内に限局してい たと考えられる病変は,擦過・生検により脱落す ることがある.そのため,陽性所見を得ても,1 回では断定せずに,再検により確認することが極 あて重要である. 気管支鏡による部位診断に難渋した場合には, 時として喀疾の中に浮遊する癌細胞が擦過細胞診 のブラシに混入し,その部位にある癌と誤診する ことがあり,注意を要する. さらに,同時性の多発癌が少なからずみられる ので,一ヵ所の癌を診断し得ても第二癌を見落と している可能性が常にありうる. そこで,これらの問題を解決するために,内視 鏡的に微細な所見をより的確に患え解析する一方 表7 X線無所見例における気管支全支擦過法導入 前後の診断成績 導入前(%) 導入後(%) 初回気管支鏡での a変部位同定率 25/39(64,1) 62/66(93,9) 気管支鏡無所見肺癌 ナの初回部位同定率 0/7(0) 24/27(88.9) 治療前多発癌診断率 V58(1.7) 10/66(15.2) 術後第II癌診断率 7/58(12,1) 1/38(2,6) 境界病変 1例 16例 Class III例部位同定率 20/136(14.7) 32/68(47.1) ・で,それのみでは限界があるため,気管支鏡下に 各区域支から亜区域支毎にすべて擦過細胞診を行 う気管支全支擦過法を施行している4). その結果(表7),気管支全支擦過法の導入前後 で,初回検査における病変の部位同定率は64%か ら94%となり,治療前の多発癌の診断率は!.7%か ら15.2%となった.また本方法により,境界病変 の診断においても成績の向上がえられている. 結 語 胸部X線写真無所見肺癌例に対して気管支鏡 検査を行い,内視鏡的にも無所見の症例があるこ と,腫瘍は広がりが小さいこと,多発癌の発生が 少なくないことが明らかとなった.これらの問題 を解決する方法として,気管支全面擦過法は有用 と考えられた. 文 献 1)佐藤博俊,斎藤泰紀,橋本邦久:早期肺癌カラー アトラス.金原出版,東京(1985) 2)仲田 祐,佐藤博俊,斎藤泰紀ほか:肺癌集検マ ニュアル,pp1−225,金原出版,東京(1987) 3)斎藤泰紀,赤荻栄一,永元則義ほか:胸部X線写 三無所見肺癌例の気管支鏡検査.気管支学 6: 151−161, 1984 4)佐藤雅美,斎藤泰紀:胸部X線無所見肺癌例に対 する気管支全支擦過法の検討。気管支学 11: 215−222, 1989 一243一