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異常膜タンパク質の救世主

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Academic year: 2021

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28 生物工学 第96巻 第1号(2018) 著者紹介 (株)ファンケル 総合研究所ヘルスサイエンス研究センター(主任) E-mail: [email protected] 脂質二重膜によって外界との環境を隔てる細胞にお いて,外界からの刺激応答,水溶性物質の輸送,また細 胞内で不要となった物質の排泄などは,細胞膜に局在す る膜タンパク質が役割を担う.一方,感染や種々のスト レス,あるいは先天的な遺伝子変異によって膜タンパク 質に異常が生じると,異常膜タンパク質は小胞体の品質 管理機構を抜け出せず,細胞膜への局在が不十分となる ために機能低下を来し,場合によっては疾患を引き起こ す1).こうした小胞体に蓄積する異常膜タンパク質に対し て,ある種の低分子化合物が直接結合を介して正常な折 りたたみ(フォールディング)を促進すると,本来の正 しい局在に輸送されることがある.この作用を持った化 合物を薬理学的シャペロン(pharmacological chaperone) と呼んでいる.本稿では薬理学的シャペロンの知見につ いて紹介する.

ABCト ラ ン ス ポ ー タ ー に 属 す るcystic fibrosis transmembrane conductance regulator(CFTR)は,塩 素チャネルとして機能しているが,その機能を消失する と嚢胞性線維症となる.正常なCFTRは,他の膜タンパ ク質や分泌タンパク質と同様,小胞体にてフォールディ ングされ,ゴルジ体を経由して最終目的地の細胞膜に輸 送される.一方,嚢胞性線維症にもっとも多く見られる 遺伝子変異(ǻF508 CFTR:508番目のフェニルアラニ ンが欠損)を持ったCFTRは,転写,翻訳までは正常で あるが,フォールディング効率が低いため小胞体の品質 管理機構を抜け出せずに蓄積し,最終的にユビキチン− プロテアソーム系にて分解を受ける.そのため細胞膜上 での機能を失うのだが,興味深いことに,ǻF508 CFTR を発現した細胞を低温培養(27°C程度)するとフォー ルディング効率が是正され(フォールディングがゆっく り進行するため),細胞膜に分布するǻF508 CFTR量が 増加し,その機能を発揮するようになる2).このように 低温培養にて本来の局在に分布することができる変異体 は,薬理学的シャペロンによっても機能回復が見込まれ る変異体となる.ǻF508 CFTRを標的とした薬理学的 シャペロンは精力的に研究され,米国Vertex社が開発 したOrkambi®(lumacaftor/ ivacaftor)は嚢胞性線維症 患者の経口治療薬としてFDAの承認を受けるまでに 至っている. 外界からの刺激応答に中心的役割を果たすGタンパク 質共役受容体(GPCR)の薬理学的シャペロン研究から は,重要な情報を得られることが多い1).GPCR研究は 長い歴史を持つため,標的GPCRに対して特異的アゴ ニスト,アンタゴニスト,アロステリックモジュレーター などの化合物が複数揃っている.それらの薬理学的シャ ペロンに関する研究からは,アゴニストかアンタゴニス トかの機能的な側面は重要ではなく,小胞体で蓄積する 変異GPCRに化合物が届き,結合することが重要であ ると分かってきた.つまり細胞膜透過性を示すある程度 の脂溶性化合物であり,かつ小胞体に到達できることが 薬理学的シャペロンとして機能するのに必要である.一 方,臨床応用を考えた場合,アンタゴニストの使用は救 済した変異GPCRの機能を阻害する危険性もあるため, 注意が必要となる.そのため,近年はポジティブアロス テリックモジュレーター(アロステリック部位に結合し, 内因性リガンドの作用を増強する化合物)の薬理学的 シャペロン作用に関心が集まっている. 薬理学的シャペロンとしての機能を指標に合成化合物 をスクリーニングし,新規なリガンドを見つけようとす る試みも報告されている3,4).膜タンパク質との結合を 評価する一般的な方法は放射性標識した化合物を用いる ことである.しかし,放射性標識体は高価なうえ,脂溶 性化合物を標識した場合,非特異的な吸着により,結合 活性を正しく評価できない欠点がある.薬理学的シャペ ロンとしての機能を利用した方法は,標識体を用いるこ となく,脂溶性化合物の結合活性を評価できる点で有効 な手段の一つであると思われる. 最後に,正常な膜タンパク質であってもフォールディ ングの成功率はタンパク質によって差があることが知ら れている.たとえば,正常なCFTRでもその75%は小胞 体に維持され分解される5).なぜ低い成功率なのか,そ れらは加齢などの環境変化によりどのような影響を受け るのか,興味は尽きない.今後,膜タンパク質に関する 基礎的研究が進むことにより,薬理学的シャペロンを利 用した治療薬の開発もさらに進展することが期待される. 1) 安田大恭ら:生化学,85, 1007 (2013).

2) Varga, K. et al.: Biochem. J., 410, 555 (2008).

3) Karaki, F. et al.: Bioorg. Med. Chem., 21, 5297 (2013). 4) Ohgane, K. et al.: Chem. Biol., 20, 391 (2013). 5) Varga, K. et al.: J. Biol. Chem., 279, 25710 (2004).

異常膜タンパク質の救世主

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