広域における航空機モニタリングを活用した
放射性物質の分布状況調査に係る解析業務
報告書
平成 25 年 5 月
文部科学省の平成 24 年度放射能測定調査委託事業による委 託業務として、日本原子力研究開発機構が実施した平成 24 年度「広域における航空機モニタリングを活用した放射性 物質の分布状況調査に係る解析業務」の成果を取りまとめ たものである
i [目次] はじめに ...1 1. 航空機モニタリングの経緯 ...2 2. 航空機モニタリングシステム ...3 3. データ取得方法 ...5 4. 4.1 データ取得方法 ...5 4.2 フライト方法 ...7 4.3 テストフライト ...7 4.4 結果の妥当性確認のための地上測定 ... 10 4.5 解析方法... 10 4.5.1 線量換算係数 (CD) ... 11 4.5.2 空気減弱係数(AF) ... 11 4.5.3 線量率-放射能換算係数 ... 13 4.5.4 バックグラウンドの減算方法 ... 13 4.5.5 海抜高度による宇宙線の影響 ... 14 4.5.6 Rn 子孫核種の影響 ... 15 4.5.7 減衰補正 ... 16 4.5.8 検出下限値及び信頼性... 17 4.5.9 全線量率の検出下限 ... 17 4.5.10 放射性 Cs の沈着量の検出下限 ... 18 4.5.11 全線量率換算の不確かさ... 18 4.6 マッピング方法 ... 19 4.6.1 マッピング方法のフロー... 19 4.6.2 補間方法 ... 20 結果 ... 21 5. 結果の妥当性の検証 ... 26 6. 変化傾向 ... 28 7. 7.1 全体の傾向... 28 7.2 顕著な稽古変化のあった場所の確認 ... 29 新たな解析手法の開発 ... 34 8. 8.1 ジオイドデータ組み込み ... 34 8.2 様々な地上測定データのデータベース化 ... 34 8.3 DEM データ抽出ツールの作成 ... 35 8.3.1 DEM データ抽出の考え方 ... 35 8.3.2 DEM データ抽出ツールの処理概要 ... 36 まとめ ... 38 9. 参考文献 ... 39
1 はじめに 1. 2011 年 3 月 11 日の東北地方太平洋沖地震に起因して、福島第 1 原子力発電所の事故 (以下、原 子力発電所事故) が発生した。事故により、周辺環境に放射性物質が拡散し、その影響を評価す ることが急務となった。 短時間で、広域のモニタリングを実施する方法として、航空機モニタリング (Aerial Radiation Monitoring: ARM) が挙げられる。スリーマイル島の事故やチェルノブイル原子力発電所事故を受 けて、欧米では技術開発が進められており、特に米国では核実験場等を測定した多くの実績を有 し、多数の航空機モニタリングの機器を所有しており、緊急時における運用方法が整備されてい る1, 2)。 航空機モニタリングは、1979 年に起きたスリーマイル原子力発電所事故に利用されて以来、我 が国でも日本原子力研究所を中心に開発が進められた。森内らは 1980 年から 5 年間にわたって航 空機γ線サーベイシステム (Aerial radiorogical survey and assessment system; ARSAS) の開発を行
い、基本的な航空機サーベイの方法を確立した3,4)。また、Saito and Moriuchi はガス状の放射性物
質を航空機モニタリングで測定する際の換算係数をシミュレーション計算から求め、係数として 与えている5)。その後、航空機モニタリングの技術は原子力安全技術センター (以下、NUSTEC) に 引き継がれ、原子力防災における放射線分布を早期に計測するツールとして整備されてきた6)。 福島原発事故時には、事故直後から米国エネルギー省 (DOE) と文部科学省 (以下、文科省) に より、航空機モニタリングを実施してきた7 - 9)。しかしながら、我が国においては指針等10)で原 子力防災としての航空機モニタリングが位置づけられてはいたが、今回のような広範囲の測定に 対応できるような、航空機モニタリングのデータ取得方法やデータ解析方法については、事故時 点においてルーチンベースで整備されていたとは言い難く、今回、モニタリングと並行してモニ タリング方法を構築するとともに、得られた結果を考察しつつ、結果に影響を与えるパラメータ について考察してきた。特に、バックグラウンドとなる天然の放射線との識別方法や地上の線量 に換算するパラメータの設定には、試行錯誤を重ねてきた11)。本モニタリングは、我が国初の、 大規模な原子力災害における日本全域の航空機モニタリングを行った結果であり、すでに文科省 の HP 等で公開されている汚染マップは様々なメディアや研究に活用されている12) 。 一方、事故から 1 年以上経過した現在では、放射性物質の移行状況の解明が必要となっており、 継続的な航空機モニタリングが望まれている。そこで、本委託事業では、事故より 1.5 年以上経 過した時点における、福島第 1 原子力発電所から 80 km 圏外の航空機モニタリングを実施する。 ここでは、解析結果を中心に示す。
2 航空機モニタリングの経緯 2. 航空機モニタリングは、平成 23 年 3 月 25 日に文科省によりプレス発表された「文科省航空機 モニタリング行動計画13)」に則り、平成 23 年 4 月 5 日から米国エネルギー省 (DOE) と NUSTEC によって「第 1 次モニタリング」として発電所から 80 km 圏内を実施した。また、平成 23 年 5 月 17 日から「第 2 次モニタリング」として NUSTEC により発電所 80-100 km 圏内が実施された。 その後、平成 23 年 5 年 30 日に開始された「第 3 次モニタリング」からは、文科省が主体として 実施することになり、日本原子力研究開発機構 (以下、原子力機構) が加わって、発電所から 80 km 圏内を実施した。さらに、100 km 圏外にも放射性物質が拡散していることが予想されたため、平 成 23 年 6 月 21 日から福島周辺県の宮城県、栃木県、茨城県を実施した後、平成 23 年 8 月 2 日か ら、文科省委託事業として、原子力機構が主体となり「広域環境モニタリングのための航空機を 用いた放射性物質拡散状況調査」として、東日本全域の航空機モニタリングを実施した。その後、 発電所周辺を、平成 23 年 10 月 22 日から「第 4 次モニタリング」として 80 km 圏内を、平成 24 年 2 月 6 日からは、「警戒区域及び計画的避難区域における航空機モニタリング」として実施した。 また、本委託事業を拡大する形で、平成 24 年 1 月 30 日からは、西日本等における航空機モニタ リングを実施した。航空機モニタリングの一連のスケジュールと実績について Fig. 2-1 に示す。 Fig. 2-1 航空機モニタリングの経緯とスケジュール
3 航空機モニタリングシステム
3.
航空機モニタリングのシステム (Aerial radiation monitoring system: ARMS) は、通常大型の NaI 検出器が用いられる。今回使用した、MEXT システムのブロック図を Fig. 3-1 に示し、外観を Fig. 3-2 に示す。MEXT システムは、事故当時に DOE が持ち込んだシステムと同タイプであり、RSI 社 (Canada) 製の機内に装着するタイプである。検出器のサイズは、2”x 4”x 16”の NaI 3 本を 組み込んだ検出委のユニットを 2 台使用している(合計: 12.6 L)。γ線のスペクトルは 1024 ch を有 し、測定を開始すると 1 秒ごとにスペクトルデータ及び GPS による位置データがシステムに保存 される。データ収集を行う RS501 に接続しているパソコン上には、現在の機体の位置及び計数率 が表示される。また、外付けのバッテリーで駆動し、満タンの充電で 5 時間稼働が可能である。 機器は 2 セットあるため、それぞれ、MEXT1, MEXT2 と表記する。
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Fig. 3-1 Block diagram of MEXT system
5 データ取得方法 4. 4.1 データ取得方法 データの取得は別事業になるため、ここでは、概要を示す。 ○ 測定対象地域:福島第 1 原子力発電所から 80 km 圏外の地域のうち、昨年 6 月から 11 月まで に実施した航空機モニタリングの結果において、空間線量率及び放射性セシウムの沈着量が 比較的高い地域及びその周辺の地域。 ○ 測定実施日:平成 24 年 10 月 31 日∼12 月 28 日(のべ 87 フライト) ○ 航空機:民間ヘリコプター(Bell 430, Bell 412: 2 台) ○ 測定機関:(公財)原子力安全技術センター ○ 解析機関:(独)日本原子力研究開発機構 ○ 対象項目:福島第 1 原子力発電所から 80 km 圏外における地表面から 1 m 高さの空間線量率、 地表面への放射性セシウムの沈着量 ○ 測線;対象エリアを 4 つに分け、測線の間隔を 3 km とした。Fig. 4-1 に測線とエリア分けに ついて示す。
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7 4.2 フライト方法 データを取得するためのフライト方法について以下に示す。 ○ 測定対象 :134 Cs, 137Cs の放出するγ線 ○ フライト航程 :3 km メッシュ ○ フライト方法 :サブモニタにメッシュ線を表示 ○ 高度 :対地高度 500 ft∼1,500 ft (150 m – 450 m) ○ 速度 :70∼120 ノット(= 130∼220 km/h) ○ モニタリング条件 :雨天の場合は基本的には中止 ○ 人員 :機器操作員 2 名 *目安として、6000 ft (= 1800 m)以上の測定は実施しなくてよい。 4.3 テストフライト ○ 線量の換算に使用するパラメータ (線量換算係数、実効的な減弱係数) について、エリアご とにテストラインを設け、テストフライトをすることにより、算出した。パラメータ取得 方法のイメージについて Fig. 4-2 に示す。 ○ Fig. 4-3∼Fig. 4-6 に選定した選定したテストラインの位置を示す。 ○ 線量率換算係数については、テストラインの終点で対地高度 300 m においてホバリングす ることにより取得した。
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Fig. 4-3 テストライン場所(エリア 1; 岩手県奥州市)
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Fig. 4-5 テストライン場所(エリア 3; 群馬県太田市、みどり市)
10 4.4 結果の妥当性確認のための地上測定 航空機モニタリングによる結果の妥当性を検証するために、地上にて NaI サーベイメータによ る線量率測定を実施した。実施数は各県を 4 ブロックに分け、5 ポイントずつの合計 20 ポイント 測定した。また、In-situ Ge 検出器を用いて、1 ブロックにつき 5 カ所、放射性セシウムの沈着量 を測定した。測定の方法は、文献 14)に従った。 4.5 解析方法 解析手法のフローについて、Fig. 4-7 に示す。解析は、一般的にわかりやすいように、 ① 表 1 m 地点における全線量率 (mSv/h: 地上でのサーベイメータと比較可能) 、 ② 放射性 Cs の地表沈着量 (Bq/m2 ; 原子力発電所の影響の確認) 、 ③ 137 Cs の地表沈着量 (Bq/m2) ④ 134 Cs の地表沈着量 (Bq/m2) を計算することとした。本方法の特徴は、スペクトル情報によって、天然の放射性核種を弁別す ることにある。詳細を以下に示す。 SI 法: Spectrum Index 法 (4.3.4.2 章参照) IDW: Inverse Distance Weighted 逆距離荷重法 (4.4.1 章参照) Fig. 4-7 Analysis flow of ARMS in west japan
11 4.5.1 線量換算係数 (CD) 4.2.3 章に示したように、テストラインの地上における測定点の平均値とその上空 300 m (1,000 ft) をフライト or ホバリングした計数率の平均値の比を取って、線量換算係数を算出した。線量 換算係数は、検出器とヘリコプター機底の遮蔽状況に依存する。今回取得したデータを Table 4-1 に示す。CD の採用値については、以下のデータを勘案し、選定した。 ・昨年度の同機体・同検出器によるデータと比較し、値が近い ・ホバリングの高度が大きく変化しない ・地上で測定した線量率の勾配が小さい ・ARMS の計数率の変動が小さい 4.5.2 空気減弱係数(AF) 高度補正を行うために、高度を変化させたフライトを行い、実効的な空気減弱係数を求めた。 Fig. 4-8 に 3.6 章で述べた計算コードを使用して、核種ごとの空気減弱係数を計算した結果を示す。 高度補正には、以下の計算式を用いて、高度補正係数 HF を算出した。 HF = exp�AF × (𝐻𝑠𝑠− 𝐻𝑎)� (1) HF: 高度補正係数 Hsd: 基準高度 (1000 ft = 300 m) Ha: フライト高度 (GPS 高度‐DEM)
対地高度を求めるための数値標高モデル (DEM: Digital Elevation Model) には、10 m メッシュ15)
を利用した。DEM については、300 m 上空で測定した場合、真下の半径 400 m の平均値が測定さ れていることから、400 m の平均値を示す DEM を使用することが望ましいと考えられるが、今回 は、汎用的な DEM を用いて評価した。今回取得したデータを Table 4-1 に示す。AF の採用値につ いては、以下のデータを勘案し、選定した。
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Table 4-1 テストフライトの結果
Area Test Helicopter System Date AF (μ) (NaI survey)Ground data Stdev(2σ) AMS data(cps) Stdev(2σ) Alt (m) Stdev(2σ) CD
(cps[μR/h]-1) 採用 Line -0.00223 0.117 0.026 1879 256 1134 61 129 Hovering - 0.121 0.027 2027 344 1135 88 136 Line -0.00228 0.117 0.026 1802 343 1094 70 118 Hovering - 0.121 0.027 1959 190 1131 40 150 ○ Line -0.00227 0.392 0.101 4407 320 1201 39 143 ○ Hovering - 0.385 0.141 4676 1119 1169 107 145 Line -0.00242 0.392 0.101 4323 419 1160 32 127 Hovering - 0.385 0.141 4521 670 1139 57 128 Line -0.00248 0.392 0.101 4043 672 1182 49 121 Hovering - 0.385 0.141 4485 378 1139 18 129 Line -0.00220 0.081 0.021 1548 148 1164 59 156 Hovering - 0.073 0.022 1536 122 1211 55 130 Line -0.00178 0.081 0.021 1500 107 1130 38 168 Hovering - 0.073 0.022 1525 120 1129 55 157 Line -0.00204 0.081 0.117 1362 108 1156 39 115 Hovering - 0.073 0.121 1350 101 1159 33 127 ○ Line -0.00224 0.165 0.026 2660 251 948 53 99 Hovering - 0.178 0.064 2951 483 947 89 104 Line -0.00224 0.165 0.026 2030 149 1244 42 103 ○ Hovering - 0.178 0.064 2564 486 1060 119 99 2012/12/14 2012/12/23 2012/10/31 2012/11/4 2012/11/14 2012/11/28 2012/12/10 2012/12/20 2012/11/20 2012/12/14 Bell 412 MEXT_2 Bell 430 MEXT_1 1 2 3 4
13 4.5.3 線量率-放射能換算係数 線量率から放射能への換算は、文献14) に記載のあるb = 1 の場合の換算係数を適用し (134 Cs: 4.44x10-3 (mGy/h)/(kBq/m2 ), 137Cs: 1.73x10-3 (mGy/h)/(kBq/m2)) 、あらかじめ求めておいた134Cs/137Cs 比を用いて、地 上 1 m 地点における線量率から地表における134 Cs、137Cs の放射性物質濃度に換算した。134Cs/137Cs 比は、 2011 年 8 月 13 日に福島県で 50 ポイント以上の In-situ Ge による測定データを取得し、2011 年 8 月 13 日 時点での134 Cs/137Cs = 0.917 を基本とした。その基準日から、航空機モニタリングのデータ取得日に減衰 補正し、核種比を算出した。 4.5.4 バックグラウンドの減算方法 スペクトルの領域ごとの指標を設定できるシステムとヘリコプターについては、放射性 Cs のない地域 をあらかじめフライトし、設定した指標を用いてバックグラウンドを減算した。まず、放射性 Cs のない 地域でフライトしたスペクトルに対し、 (a) から (e) の領域でカウントを識別する。 本方法は、米国 エネルギー省が開発した方法を参考にしている1,2)。 (a) 全計数率 (b) 450 keV から 2800 keV (c) 900 keV から 2800 keV (d) 1400 keV から 2800 keV (e) 2800 keV 以上の計数 (宇宙線)
Fig. 4-8 に識別したスペクトル領域のイメージを示す。これらの計数を、BG index = (a)/(d)、Cs index = (b)/(c) とし、設定する。また、(e) にあらかじめ高高度でフライトしたデータから、CR index = (a)/(e) を 求めておく。設定したインデックスを以下のような手順で、解析を行う。 ① フライトデータを (a) から (e) の領域に分けて計算する。 ② (e) に CR index をかけて宇宙線のバックグラウンドとする。 ③ 高高度もしくは海上をフライトしたデータから②を差し引き機体のバックグラウンドとす る。 ④ ①から②と③を差し引いた計数を Cnetとし、 テストラインデータで算出した CD、AF を用 いて地表 1 m における全線量 D を算出 D =𝐶𝑛𝑛𝑛×𝐹 𝐶𝐶 (2) ⑤ (d) に BG index をかけて全計数から引き算し、有意な計数を放射性 Cs の計数とする。 ⑥ 有意になったスペクトルに対し、(b)/(c)をもとめ、Cs-index と比較し有意にならない場合は 放射性 Cs が検出されていないとする。 ⑦ 換算した放射能を測定日に合わせて減衰計算する。 ⑧ 減衰計算した値を CF から線量率に換算する。 ⑨ 換算した線量率に天然放射線分を足し、全線量率とする。
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(a) All count rate (b) Count rate from 450 keV to 2800 keV
(c) Count rate from 900 keV to 2800 keV (d) Count rate from 1400 keV to 2800 keV Fig. 4-8 Spectrum area for BG index and Cs index
4.5.5 海抜高度による宇宙線の影響 フライトは、対地高度 1000 ft (= 300 m) を保ち実施するが、山間部など海抜高度が高くなる場所をフラ イトする場合がある。海抜高度が高くなると宇宙線の影響が大きくなる。Fig. 4-9 に海抜高度と 2800 keV 以上の計数率の関係を示す。このように、1000 ft ごとに宇宙線起源の計数は 1.2 倍ほどになる。現在まで の測定結果からすると、時期や場所で大きな変化がないため、あらかじめ機器ごとに、海上や 5000 ft 以 上で取得したスペクトルから[全計数率]と[>2800 keV の計数率]の比 (以下、CR-index、ICR) を設定 しておき、測定スペクトルから[>2800 keV の計数率]をもとめ CR-index を掛けることにより、全体の 宇宙線計数を差し引くこととした。
15 4.5.6 Rn 子孫核種の影響 これまでの海上での測定結果から、フライトの時期や高度によって機体周辺の空気中の Rn 子孫核種が 計数されることが分かっている。Rn 子孫核種が厄介であるのは、濃度が一定しないことにある。Fig. 4-10 に海上で高度を変化させてフライトした計数率から宇宙線の影響を除いた例を示す。本モニタリングに おいては、毎日のモニタリングの前にフライト場所の近くで、1000 ft から 8000 ft まで上昇し(高度情報 フライト)、Rn 子孫核種の影響を評価した。評価方法は、高度情報フライトで取得したデータを 4.5.4 章 及び 4.5.5 章で示したバックグラウンドおよび宇宙線を差し引き、その残さを Rn 子孫核種の影響とした。 その結果、下記の 3 日について、Rn 子孫核種による有意な計数率の上昇を観測した。 今回、58 日間フライトを実施し、影響があったのは 3 日間であった。また、計数率も最大 200 cps 程度 (地上の線量率に換算すると、約 0.02 mSv/h) であったことから、今回のような 0.1 mSv/h 以上を対象とし た航空機モニタリングでは無視できると考えていいかもしれない。いずれにしろ、今後ともデータを蓄 積することが必要であると考える。
16 4.5.7 減衰補正 福島原発の放射性核種が放出されてから時間が経過し、半減期の短い核種はほぼ減衰しており、平成 23 年 8 月 13 日以降では、134Cs と137Cs が評価核種である。ここでは、線量率から放射能への137Cs 換算 係数、134 Cs/137Cs 濃度比及び測定時点の線量率を評価時点の線量率に補正する暫定的な算出方法について 記述する。4.3.3 章でも記載した通り、線量率から放射能への換算は、文献11)に記載のあるb = 1 の場合の 換算係数 CF を適用し (134 Cs: 4.44x10-3 (mGy/h)/(kBq/m2) , 137Cs: 1.73x10-3 (mGy/h)/(kBq/m2) ) 、あらかじ め求めておいた134 Cs/137Cs 比を用いて、地上 1m 地点における線量率から地表における134Cs、137Cs の放 射性物質濃度に換算した。文献11) に記載のあるbと CF の関係について Fig. 4-11 に示す。134 Cs/137Cs 比は、 2011 年 8 月に福島県で 50 ポイント以上の In-situ Ge による測定データを取得し、2011 年 8 月 13 日時点 での134 Cs/137Cs=0.917 (B0) を基本とした。その基準日から、航空機モニタリングのデータ取得日に減衰計 算して換算した。評価時における137 Cs 及び134Cs の濃度 CCs137、CCs134は、航空機サーベイデータから求 まる全線量率から天然核種によるバックグラウンドの線量率を引いた線量率 ECs137+134 (μSv/h) 及び評価 時における134 Cs/137Cs 比 B を用い、下記の式(4), (5)から算出する。 𝐶𝐶𝑠137= 𝐴 ∙ 𝐸𝐶𝑠137+134 (4) 𝐶𝐶𝑠134= 𝐵 ∙ 𝐶𝐶𝑠137 (5) ここで、評価時の線量率からの Cs-137 濃度換算係数 A は、式 (6) で表される。
A =
exp (−𝜆𝐶𝐶137∙𝑡) 𝐶𝐹𝐶𝐶137∙exp(−𝜆𝐶𝐶137∙𝑡)+𝐵0∙𝐶𝐹𝐶𝐶134∙exp (−𝜆𝐶𝐶134∙𝑡)(6) ここで、t: 基準日 (2011/8/13) からの経過時間、λCs137及びλCs134: 崩壊定数 (0.693/半減期)としている。 134 Cs/137Cs と A の関係について Fig. 4-12 に示す。 線量率の換算方法は、以下のような手順を設定した。 ① 換算した放射能を測定日に合わせて減衰補正する。 ② 減衰補正した値に CF を乗じて線量率に換算する。 ③ 換算した線量率にバックグラウンド線量率を足し、全線量率とする。
Fig. 4-1 CF in b (g/cm2)8) Fig. 4-12 134Cs/137Cs and A β(g/cm2)
17 4.5.8 検出下限値及び信頼性
検出下限 (limit of detection) と信頼性について評価を行った。まず、式 (7) 及び式 (8) に ARMS にお ける全線量への換算方法及び放射性 Cs の沈着量の換算式について示す。本式をもとに、検出下限値及び 信頼性について検討を行った。 𝐷 = �𝐶𝑎𝑎𝑎− 𝐵𝐵𝑠𝑠𝑎𝑠− 𝐵𝐵𝑐𝑐𝑠� × 𝐶𝐷 × 𝑒𝑒𝑒 �−𝐴𝐴 × (𝐻𝑠𝑡𝑠− 𝐻𝑚)� (7) 𝑅𝑅134= �𝐶𝑎𝑎𝑎− 𝐵𝐵nat− 𝐵𝐵𝑐𝑐𝑠− 𝐵𝐵𝑠𝑠𝑎𝑠� × 𝐶𝐷 × 𝑒𝑒𝑒 �−𝐴𝐴 × (𝐻𝑠𝑡𝑠− 𝐻𝑚)� × 𝐶𝐴 × 𝑅 134 134+137× 𝐷𝐶134 (8) ここで、 D: 全線量率 (mSv/h) Call: 全計数率 (cps) BGself: 機体の汚染 (cps) CD: 線量率換算係数 (cps/mSv/h) AF: 空気減弱係数 (m-1) Hstd: 基準高度 (m) Hm: 測定高度 (m) Rd134: 放射性 Cs の沈着量 (Bq/m2) (*137Cs の場合は 134 を 137 に読み替える)
BGnat: 天然起源の計数率 (cps) CBG×IBG (CBG: 1400-2800 keV の計数率; IBG: BG index)
BGcos: 宇宙線起源の計数率 (cps) Ccos×Icos (Ccos: >2800 keV の計数率; Icos: CR index)
CF: 線量率-放射能換算係数 ((mGy/h)/(Bq/m2 )) 11) R: 放射性 Cs に対する134Cs (137Cs) の割合 DC: 減衰補正係数 (=exp(-lt)) (*t: 経過時間) 4.5.9 全線量率の検出下限 全線量率は BGselfと BGcosに依存する。これまでの測定結果を見ると概ね 200-500 cps の範囲に入ること が分かっている。ここでは、検出下限値を評価するため、500 cps として評価する。BGcosは Ccosにあらか じめ求めた Icosをかけて算出するため、計数誤差が伝播し 30 % 程度の不確かさが生じる。そこで単純な 標準偏差ではなく、500±150 cps として検出下限を計算する。また、BGselfは海上の測定データから宇宙 線成分を減算し、算出する。後述する初期のモニタリングに使用した機体以外では、MEXT のシステム を搭載したヘリコプターにおいては、概ね 400±60 cps 程度であった。ここから、誤差の伝播を考慮し、
BGself+BGcos=900±162 cps となる。よって、検出下限は、162 cps となり、MEXT 機器の標準的な CD (17000
cps/mSv/h) から計算すると、0.0095 mSv/h となる。これは、機体の汚染のない MEXT 検出器による、地上 1 m 地点における線量率の検出下限といえる。Table 4-2 に本手法の検出下限値について示す。
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Table 4-2 Limit of detection of ARMS System Limit of detection
Dose rate at 1m above the ground (mSv/h) Radioactivity of deposition radiocesium (kBq/m2) * MEXT 0.0095 16 * Total BG count: 3,000 cps 4.5.10 放射性 Cs の沈着量の検出下限 放射性 Cs の沈着量は、γ線スペクトルのデータから、バックグラウンド (Rn 子孫核種、宇宙線、機体 の汚染) を差し引き求めている。放射性 Cs の沈着量の検出下限を求める上で、実際の測定データから、 差し引くバックグラウンドを考慮し、各々の計数誤差 (= 放射性 Cs の計数率の検出下限) の 3σを計算 した。バックグラウンドの合計と放射性 Cs の計数率の検出下限を Fig. 4-13 に示す。当たり前ではあるが、 バックグラウンド計数率が上昇すると、検出下限も上昇する。この計数率の検出下限を、MEXT 機器の 標準的な CD (17000 cps/mSv/h) 及び AF (0.0065 m-1 ) で線量率に換算し、2012 年 5 月 30 日に減衰補正した。 結果を Fig. 4-14 に示す。このように、ばらつきはあるものの、放射性 Cs の沈着量の検出下限は、最大で 15 kBq/m2程度であることが分かる。 4.5.11 全線量率換算の不確かさ 地上 1 m 高さにおける線量率を算出する不確かさを論ずる上で、CD と AF は重要なファクタとなる。 昨年度の結果では、パラメータの選択による不確かさが、おおよそ±30%存在していたが、今回は、パラ メータを複数取得し、信頼性を高めたことから、不確かさは小さくなっていると考えられる。
Fig. 4-13 Detection limit of radiocesium count rate Fig. 4-14 Detection limit of radiocesium deposition (kBq/m2)
19 4.6 マッピング方法 4.6.1 マッピング方法のフロー 航空機モニタリングの測定器が測定する範囲は、対地高度によって変化するが、対地高度 150∼300 m の場合は、航空機下部の地表面を直径約 300∼600 m の円内の測定値を平均化したものである。また、前 述のように地域によって測線間隔は異なるが、測定器による直接測定ができない範囲をどうしても生じ てしまう。精度を良くするためには、単純に測線間隔を短くすればよいのだが、測定期間が大幅に増加 し、公表までのスケジュールが遅れてしまう問題もある。 そこで、航空機モニタリングで得られた地点のサンプリングデータから内挿し、未測定の範囲を補間 した。つまり、“点”から空間線量率や放射性セシウム沈着量の“面”の分布を求めた。Table 4-8 に、航 空機モニタリングを実施した地域の測定地点数を示す。また、“面”を生成するためには、あらかじめマ スクデータが必要となるため、陸域データは国土交通省国土地理院の「基盤地図情報」を使用した。次 に、湖沼についての空間線量率や放射性セシウム沈着量は測定できないことから、国土交通省国土政策 局の「国土数値情報」を用いて、さらに、航空法に基づく福島第一原子力発電所近傍の飛行禁止区域や 飛行が困難である標高 2,000 m 以上の山岳地域を陸域データから取り除いた。Fig. 4-15 にそれらマッピ ングの手順を示す。
20 4.6.2 補間方法
線量率や放射性物質のマッピングについては、IAEA から標準的な方法が示されている16)。今回、補間
方法には、IDW(Inverse Distance Weighted:逆距離加重法),クリギング(Kriging),スプライン(Spline)、 Natural Neighbor 等の多くの方法が存在する。本事業では、2011 年 4 月 6 日∼29 日にかけて実施された第 1 次航空機モニタリングの解析を担当した米国エネルギー省(DOE)が用いた IDW を踏襲し、それ以後 の解析を行った。IDW は、補間する地点の近傍にある複数の地点の測定値を平均し、推定する方法であ る。補間する条件として「測定地点からの距離が遠くなるにつれて、影響が小さくなること」が前提に なる。そのため、各地点の測定値が局所的影響をもち、推定する(平均)値は、対象となる測定値の最 高値より大きくならず、最低値より小さくならない。また、IDW には複雑なパラメータ設定が不要であ る。必要となるのは、距離に応じて影響度を制御する乗数と内挿処理の対象となる地点数の 2 つである。 本事業では、乗数 2.3、対象となる地点 180 を採用した。ちなみに、第 3 次航空機モニタリングの空間線 量率の RMS 誤差 (Root Mean Square: 二乗平均平方根) は 0.208 であった。Fig. 4-16 にパラメータ設定の 異なる場合の空間線量率マップを示す。一般的に、乗数が大きいほど、近傍データの影響力が大きくな り、推定値の詳細度が高くなる。Fig. 4-16 の a)と b) を比べると、両者とも概ねの分布傾向は一緒であ るが、福島第一原子力発電所から北西に延びる高線量地域をみると a)の方が詳細にマッピングされてい ることがわかる。 a)乗数 2.3 対象地点数 180 b)乗数 2 対象地点数 12 *第3次航空機モニタリングの測定結果を使用 Fig. 4-16 Parameter of IDW method
21 結果 5. 福島第一原子力発電所から 80 km圏外の航空機モニタリングの測定結果を基に、福島第一原子力発電 所から 80 km圏外における地表面から 1m高さの空間線量率の分布状況を示した「空間線量率マップ」を Fig. 5-1 に示す。また、福島第一原子力発電所から 80km圏外における土壌表層中の放射性セシウムの沈 着状況を示した「土壌濃度マップ」Fig. 5-2∼5-4 に示す。のとおりである。マップの作成にあたっては、 福島第一原子力発電所から 80km圏外の航空機モニタリングを実施した最終日である平成 24 年 12 月 28 日現在の値に減衰補正した。 また、マップの接続性を確認するために、第 6 次モニタリングで実施した 80km圏内の結果と合わせて内挿補間した。なお、一部の地域(福島県西部、群馬県、山形県東部等)で 積雪が確認された。これらの地域については、積雪の影響から空間線量率が低く測定されている傾向が 予想される。そこで、積雪箇所*を区別するため、積雪箇所 を実線で囲われた白色の領域で表示した。 *積雪箇所の特定にあたっては、(独)宇宙航空研究開発機構が公開を行なっている地球環境モニター(JASMES)上の、アメリカ航 空宇宙局の地球観測衛星 Terra 及び Aqua の観測結果を活用した。なお、本データは、500m メッシュの解像度であり、深さが約 5 ㎝以上ある均一な積雪域であれば表示できるが、それ以下の積雪深さでは地表面の被覆状況により積雪の有無を正確に判定す ることが困難な場合があるため、別紙 5∼8 のマップにおいて実線で囲われた白色の領域以外にも積雪している可能性を有する。
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26 結果の妥当性の検証 6. マップの妥当性を確かめるために以下の 3 点のデータとの比較を実施した。 ① Fig. 6-1: 本事業で行った地上測定データ (NaI サーベイメータ, 測線の下で測定: n=127) ② Fig. 6-2: 本事業で行った In-situ Ge データ(n=28) ③ Fig. 6-3: 別事業で実施した地上測定データ (NaI サーベイメータ: n=291) その結果、いずれのデータともよく一致した。In-situ の結果については、In-situ の実施点 28 点 に対し、航空機モニタリングの検出下限値である 10 kBq/m2を超えた点が 19 点しかなかった。放 射性セシウムの沈着量は、低いことからばらつきが大きいが、傾向として航空機モニタリングの 結果とほぼ比例した。 また、80 km 圏内で実施された第 6 次モニタリングの結果と結合したところ、マップの傾向は よく一致した(Fig. 5-1∼5-4)。 Fig.6-1 地上線量率測定との比較(本事業における実施分)
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Fig. 6-2 地上 In-situ Ge 測定との比較(本事業における実施分)
28 変化傾向 7. 7.1 全体の傾向 空間線量率の変化傾向を確認するため、2012 年に実施した測定結果(空間線量率)(平成 24 年 6 月 28 日時点)と今回の測定結果(空間線量率)(平成 24 年 12 月 28 日時点)を比較したところ、 Fig. 7-1 に示すように、測定地域における空間線量率の変化状況に違いはあるものの、前回の結果 と今回の結果の期間(6 ヶ月)において空間線量率が約 13%減少している傾向にあることが確認 された。この期間における放射性セシウムの物理的減衰に伴う空間線量率の減少は約 6%である ことから、空間線量率の減少傾向は、放射性セシウムの物理的減衰に伴う空間線量率の減少より も大きいことが確認された。 この要因としては、前回と今回との間の期間における降雨等の自然環境の影響が考えられるが、 各モニタリングにおける空間線量率の換算係数の差や飛行軌跡、飛行高度の違いの影響も考えら れることから、空間線量率の減少傾向の詳細を確認していくため、今後も継続的に航空機モニタ リングを実施していくことが必要である。 Fig. 7-1 2012 年 6 月の結果との比画像
29 Fig. 7-2 2012 年 6 月の結果との散布図(散布図は Area 4 のみの比較:他の地域は 2011 年に積雪の影響があるため) 7.2 顕著な稽古変化のあった場所の確認 比画像を作成し、各測定点について変化の大きい場所について、確認した(Fig. 7-3, 7-4)。 ・線量上昇箇所 ① 栃木県と群馬県の県境周辺 栃木県の平野部から群馬県の県境に向けて、前回の値よりも 1.3-2.0 倍になるエリア(線量範囲: 0.1 - 0.5 μSv/h)がみられた。しかしながら本地点は、Fig.7-5 で見るように、セシウムの沈着量が 有意(10 kBq/m2 )な場所ではないため、検出下限値ぎりぎりの数値で比較された結果と考えられる。 ・線量下降箇所 ② 茨城県と福島県の県境付近 茨城県と福島県の県境に 0.5 - 0.7 倍になるエリア(線量範囲: 0.1-0.2 μSv/h)がみられた。本地 点は、袋田地方の山地であることから、地形効果の影響によることも否定できない。なお、本地 点では山地であることから大規模な除染は行われていない。地上の測定は山地であることから困 難であると考えられる。念のため、降雪や降雨の影響がなかったか測定担当者に確認することを 推奨する。 ③ つくばみらい市周辺 つくばみらい市周辺に 0.5 - 0.7 倍になるエリア(線量範囲: 0.1-0.5 μSv/h)がみられた。本地点 は、市街地であり、大規模な除染の効果が反映されていると考えられる。 ④ 鹿島地区周辺 鹿島地区周辺に 1.3 - 2.0 倍になるエリア(線量範囲: 0.1-0.2 μSv/h)がみられた。これは、2011
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年よりも 2012 年の測定範囲の方が千葉側に広がっていることに起因するものと考えられる(千葉
31 Fig.7-3 顕著な変化のあった地点について(赤ライン:2012 年軌跡、青ライン:2011 年軌跡) ② ① ① ②
32 Fig.7-4 顕著な変化のあった地点について(赤ライン:2012 年軌跡、青ライン:2011 年軌跡) ④ ③ ③ ④
33 Fig.7-5 顕著な変化のあった地点の放射性セシウムの沈着量 ② ② ④ ③
34 新たな解析手法の開発 8. 8.1 ジオイドデータ組み込み 現在、航空機モニタリングにて使用している GPS 高度は、楕円体からの高さを表しているが、 より実際の地表からの高さを正確に表すために、測定ポイントにおけるジオイド高を算出する方 法を検討した。 ジオイド高の算出は、国土地理院ジオイド測量ホームページの「日本のジオイド 2000」にて一 般公開されているジオイドモデルファイル及びジオイド高内挿計算プログラムを使用して算出す る。実際の計算は、Excel ファイル内のマクロ機能を利用して、Excel VBA の標準モジュール内に 緯度、経度の読込み及びジオイド高内挿計算プログラム及びジオイドモデルファイルの起動を指 示するコードを記述し、Excel ファイル上からこのプログラムの実行することにより行うシステム を開発した。 8.2 様々な地上測定データのデータベース化 航空機モニタリングの妥当性確認には、現在、文科省が地上で測定したデータと比較している。 放射線の測定データは事故以来様々な組織や様々な測定器で得られており、それらのデータと航 空機モニタリングの結果を簡単に比較できるツールを整備した。整備したデータを以下に示す。 これらのデータは、規制庁の HP より入手した18) 。 (1) 地上測定データ ○空間線量率 ・福島県及び近隣県の 2,200 箇所で測定された空間線量率の測定結果 ・福島県及び近隣県の走行サーベイによる空間線量率の測定結果 ・第2次走行サーベイによる連続的な空間線量率の測定結果 ・第3次走行サーベイによる連続的な空間線量率の測定結果 ・第4次走行サーベイによる連続的な空間線量率の測定結果 (以上、原子力機構による測定) ○放射性物質の濃度 ・土壌表層における放射性物質の放射能濃度の測定結果 ・河川水中の放射生物質の放射能濃度の測定結果 ・河底土中の放射生物質の放射能濃度の測定結果 ・河川水中の浮遊砂の放射生物質の放射能濃度の測定結果 ・井戸水の放射性物質の放射能濃度の測定結果 (以上、原子力機構による測定) ○土壌深度分布 ・ジオスライサー、大口径土壌サンプラーを用いた土壌中の放射生物質の深度分布の測定結果 ・スクレーパープレートを用いた土壌中の放射性物質の深度分布の測定結果 ・狭域内土壌中の放射生物質の放射能濃度の測定結果 ・鉄パイプを用いた土壌中の放射生物質の深度分布の測定結果 (以上、原子力機構による測定)
35 比較の参考例として、測定結果を県別に市町村単位で集計し、それぞれの市町村の測定結果の 平均値と航空機モニタリングによる測定結果のへ平均値の相関分析及び回帰分析結果を、Fig. 8-1 に示す。本データは、地上サーベイ(4 次)と航空機モニタリング(5 次)のデータを例に挙げている。 なお、両データとも、2012 年 6 月 28 日現在の数値に減衰補正している。本結果は、例であり、 深く結果の考察は控えるが、このように、資料村単位、測定日単位で比較が可能にある。本シス テムにより、航空機モニタリングの妥当性がより深く検証できると考えている。 Fig.8-1 顕著な変化のあった地点の放射性セシウムの沈着量 8.3 DEM データ抽出ツールの作成 現在、航空機モニタリングにおける、対地高度の算出方法は、GPS により記録された海抜高度 から、国土地理院が作成している 90 m メッシュの DEM データを差し引いて算出している。航空 機モニタリングの実際の測定範囲は、ヘリコプターの位置から真下に伸ばした直線と角度 45°の 線の延長線上に入る円内になる(例えば、対地高度 300m であれば、直下を中心とした半径 300 m の円内)。よって、正確な高度補正を行う場合には、測定範囲内の DEM データの平均値が算出で きることが望ましい(高度差のある地形の場所では、直下の DEM データが必ずしも測定範囲の 平均値になるとは限らない)。そこで、DEM データを抽出できるツールの開発を行った。 8.3.1 DEM データ抽出の考え方 DEM データ抽出ツールは、航空機モニタリングによる測定点の緯度経度を基準に、測定点の高 度を半径とした 360°の円錐を範囲として、国土地理院が提供する基盤地図情報の数値標高モデ ルである、10m メッシュのデータ(以下、10mDEM データと呼ぶ)から、対象となる範囲の最大値、 最小値、平均値の高さ情報を抽出し、ファイルに出力するツールである。10 m DEM データの抽 出は、各メッシュの中心が上記の抽出範囲に入っているメッシュを対象として抽出を行う。Fig. 8-2
36 に平面における 10 m DEM データの抽出対象イメージを示す。一方、急進な起伏により、抽出対 象範囲から外れる部分、および航空機の検出位置から見えない部分からの放射線については、航 空機モニタリングの係数にほとんど影響を与えないことから、これらの面積を抽出対象から除去 する必要がある。図 2 として急進な起伏により抽出対象外となる際のモデル図を示す。 標高が高い部分の判定は、対象となるメッシュにおいて、緯度経度を X,Y 軸とし、DEM の高さ 情報を Z 軸とした四角柱を想定し、その四角柱の中心を通り、航空機の測定点から 45°で地表面 に下した線分と四角柱の交点を判定することにより実現する。 また、標高が高い部分に隠れて測定点から見えない部分の判定は、測定点から判定対象となる メッシュの四角柱の上面にある中心点を通る地表面までの線分を引き、その線分上に他のメッシ ュの四角柱があるかどうかで判定を行う。さらに、海や湖沼等の水域についても、放射線は遮蔽 されることから、これらの面積も抽出対象から除去する必要があるが、水域の判定にいては、国 土政策局が提供している国土数値情報の湖沼(面)データに設定されている湖沼を対象に、水域部分 のデータを海抜面と同じ値(-9999.00)に加工した 10mDEM データを用意することで対応する。そ のため、ツール実行時は、加工済みの 10mDEM データの使用を前提としている。 なお、河川については、国土政策局が提供している国土数値情報にはラインおよびポイントの データしか存在しないため、河川部分の情報抽出が難しいことから、水域の対象範囲外としてい る。 8.3.2 DEM データ抽出ツールの処理概要 DEM データ抽出ツールについて、実行時の処理の概要を以下に記載する。 (1)ツールの実行 ツール実行時は、以下の情報を引数として処理を実行する。 ・加工済み 10mDEM データの保存場所 ・測定ファイルの保存場所 ・測定ファイルにおける高度の単位(メートルかフィートか) ・ツール実行時の高さの上限 ・抽出結果の出力場所とファイル名 (2)測定ファイルの読み込み 測定ポイントの緯度経度、GPS 高度、ジオイド高が含まれるファイルを読み込む。ジオイド高は 別途納入する「ジオイド高算出解析ツール」を用いて付加したもの。 (3)10mDEM データの読み込み 測定ポイントの緯度経度から判断して、対象となる 10mDEM データを読みこむ。 (4)10mDEM データのメッシュ情報の算出 10mDEM データの緯度経度情報から、10m メッシュの4辺および中心点の緯度経度情報を算出す る。 (5)UTM 座標への変換 距離をメートルで取得するため、緯度経度座標系から UTM 座標系に変換する。 (6)抽出範囲内の高さ情報の最大値、最小値、平均値の算出 抽出対象の判定を行い、対象となった 10m メッシュの高さ情報を用いて、最大値、最小値、平均
37 値を算出する。
(7)抽出結果の出力
測定ファイルの情報に抽出結果を追加した CSV 形式のファイルを出力する。
38 まとめ 9. 事故より 1.5 年以上経過した時点における、線量率の変化傾向を確認するため、福島第 1 原子 力発電所から 80 km 圏外の航空機モニタリングを実施した。モニタリングの結果は、地上で測定 した測定結果とよく一致し、妥当な結果であると評価できる。また、2012 年に実施した測定結果 (空間線量率)(平成 24 年 6 月 28 日時点)と今回の測定結果(空間線量率)(平成 24 年 12 月 28 日時点)を比較したところ、前回の結果と今回の結果の期間(6 ヶ月)において空間線量率が約 13%減少している傾向にあることが確認された。この期間における放射性セシウムの物理的減衰 に伴う空間線量率の減少は約 6%であることから、空間線量率の減少傾向は、放射性セシウムの 物理的減衰に伴う空間線量率の減少よりも大きいことが確認された。今後とも、航空機モニタリ ングの迅速に広域が測定できる利点を生かし、変化傾向を調査していく必要がある。 また、航空機モニタリングの課題について示す。 ・空気中の Rn 子孫核種の影響を評価すること。 ・線量率換算の不確かさ要因を小さくすること(パラメータ取得のデータ蓄積、高精度化)。 ・山裾等、横からの放射線の影響を評価すること。 ・積雪時における補正方法を検討すること。
39 参考文献
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4) 森内茂, 長岡鋭, 坂本隆一, 堤正博, 斉藤公明, 天野光, 松永武, 柳瀬信之, 笠井篤, 緊急時に おける航空機サーベイ法確立とシステム実用化に関する検討, JAERI-M 89-017, 1989
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13) 原子力規制庁, 航空機モニタリング行動計画,
http://radioactivity.nsr.go.jp/ja/contents/6000/5274/view.html
14) 文部科学省, ゲルマニウム半導体検出器を用いた in-situ 測定法, 放射能測定法シリーズ 33
15) 国土地理院ホームページ, http://www.gsi.go.jp/kibanchizu/kibanchizu60004.html
16) IAEA, Guidelines for radioelement mapping using gamma ray spectrometry data, IAEA2-TECDOC-1363, 2003
17) 国土地理院 HP, http://vldb.gsi.go.jp/sokuchi/geoid/